早歌の研究者外村南都子さん(1935-2021)の追想文集『花のなごり』(アジール・プロダクション 非売品)が届きました。表紙にはお好きだったという水引草が描かれ、南都子さんと交流のあった25人の追悼文が執筆者のあいうえお順に並べられています。古い写真や南都子さんが勤務先の広報誌に書いた短文、略年譜も載っていて、ほどよい重さの1冊。私もこのブログに書いた「先輩の背中」を少し書き直して入れて頂きました。
幼い頃から偉い女性たちに囲まれて、当時では神童と言われても不思議ではない優秀な進学路を辿り、あの頃の女性像としては完璧に理想的なー美人で口数が少なくて、失敗がなく、しかし芯が強いー人でした。同僚、同窓、同業、同好、隣人等々さまざまな視点からの追憶は、その点で一致しています。
職場の話は私は聞いたことがなかったのですが、教え子や後進の若手研究者たちの追想を読み、私の経験を引き比べて、教育者としての南都子さんの姿がありありと見えるような気がしました。最後まで、袋の口を締めない(未来に向かって課題を設定し続ける)姿勢を保ち続けられたこと、研究者の道を歩くとはそういうことです(近年は、自説が「通説」となって袋の口を閉じ、瓶の蓋を締めることを目標とする研究者が多い)。
よけいな係累を作らないという一線を密かに引いておられた南都子さんでしたが、ある時研究会でお会いした時、青紫蘇の白い花の小さな束を渡され、庭に咲いてるの、と言われました。出がけに摘んできた、という感じで未だ雨に濡れているような束で、少々面食らったことがあります。本書を読む内に、何となく意味が納得できた気がしました。
本書に関する問い合わせ先:アジール・プロダクション(電話03-6801-6207)気付 外村大