あるところに桃太郎という男の子がいました。
桃から産まれたわけではなく、産まれたときお尻がプリッとしていたから桃太郎という名前になりました。
ある日、桃太郎は両親に「きび団子作ってくれない?メルカリで売るから」といいました。
両親は「メルカリって何?」と聞きましたが、説明されてもよくわからず、
とりあえず作って桃太郎に渡しました。
桃太郎は「桃太郎のきびだんご」として売り出すと、
インスタで女子中高生を中心に盛り上がり、
「恋がかなうきびだんご」と噂され、たいそうな売り上げをあげました。
最初のうちは実家のリフォームをしてあげようと思った桃太郎ですが、
通帳の額が増えていくうちにだんだんと惜しくなり、
渋谷区に3億円の豪邸を建てて一人で暮らすことにしました。
誰とも連絡を取らず、コンビニに弁当を買いに行く日々でした。
以前は仲の良かった犬太郎と雉太郎と猿子も、なんだか自分のお金を狙っているように見えてしまい、
桃太郎は白いティーカッププードルと一緒に暮らすことにしました。
ある時運動不足とコンビニ弁当の食べすぎで、桃太郎は脳梗塞になり、ばったり倒れました。
賢いプードルが外に出て通行人に助けを求めると、救急車を呼んでくれた人がいて、
桃太郎は2週間入院したものの、元気に退院することができました。
その後プードルはSNSで飼い主の命を救ったプードルとして話題になり、
テレビ取材が行われました。
テレビを見た両親は音信不通だった息子の姿に驚き、
10年ぶりに息子のもとを訪ねました。
玄関で桃太郎を見た母親はびっくり。
コンビニ弁当を食べ過ぎた桃太郎は、後頭部がハゲていました。
「昔はイケメンだったのに」とショックを受ける母親の横で、
父親が冷静に「お前、金あるなら、アデランスしろ」と言いました。
桃太郎はびっくりして「え、俺そんなにハゲてる?」と言いました。
人と関わらず、身なりも気にしていなかった桃太郎は、
自分がハゲていることにまったく気付いていなかったのです。
リーブ21をした桃太郎は、昔の面影を取戻しました。
そして久しぶりに両親と囲んだ食卓は、それはそれは暖かく、
自分の豪邸はそもそも両親が作ってくれたきび団子のおかげだったことを思い出しました。
桃太郎は深く後悔しました。
そして、「俺、やっぱり働くわ」と言って、
まだたくさんの貯金があるにも関わらず、いつも通っているコンビニで働くことにしました。
毎日通っていたコンビニだったので、アルバイト仲間とはすぐに打ち解け、
桃太郎は社会の中で働く喜びを初めて感じました。
1年後には仲良くなった姫子ちゃんと結婚することになりました。
豪邸は両親にあげて、桃太郎と姫子ちゃんは1LDKのアパートで暮らし始めました。
そのうち双子の「栗太郎」と「パーシモンちゃん」に恵まれ、
桃太郎はますます頑張ってバイトにあけくれました。
ある日、桃太郎が印鑑を探していると、昔の通帳が出てきました。
そこには、桃太郎の結婚当時の貯金額の3倍の金額が印字してありました。
「なぜ?」と驚く桃太郎に、姫子は実はビットコインでこっそり貯金を増やしていたことを伝えました。
「黙っていてごめんね。」とつぶやく姫子。
「これだけたまったから、今度、パーッと旅行にでも行こう!世界一周とか」
嬉しそうな姫子を横目に、桃太郎は恥ずかしそうにいいました。
「いや、よそう。またハゲになるといけねえ。」
#
by marukyufu
| 2018-09-08 22:26
| 自作小説