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お知らせ:「安全保障学を学ぶ」は段階的にnoteに移行します

いつもご愛読くださっている皆様にお知らせがあります。これまで「安全保障学を学ぶ」を続けてきましたが、新型コロナウイルスの感染が広がったことを受けて、大学で勤務している管理人の業務が急激に増加し、こちらのブログの管理業務が長期に渡って滞る事態が起きています。これまではブログの更新を維持する方向で検討してきましたが、bloggerからnoteにプラットフォームを移すことで作業負担を軽減することができるとの判断から、2021年のうちにnoteの方で安全保障学の記事を投稿することを計画しています。 noteアカウント:武内和人(政治学・安全保障学・軍事学を学ぶ) こちらのブログの記事をリライトし、少しずつコンテンツを充実させていこうと考えています。ご不便をおかけして大変申し訳ありませんが、今後はnoteのアカウントをフォローして頂ければ幸いです。プラットフォームが変わっても引き続き安全保障について学びたい方をサポートできるようなコンテンツの提供に努めていく所存です。引き続きよろしくお願いいたします。

オンラインで和平交渉を進める利点と欠点が最新の調査で特定される

2020年以降、世界規模で感染が拡大した新型コロナウイルスの影響を受けて、あらゆる慣行や制度が見直されましたが、外交もその例外ではありませんでした。対面で協議することができなくなったために、外交の現場ではオンラインでの交渉を余儀なくされています。しかし、そのことは従来の対面で実施されていた交渉で用いられた外交的なテクニックを使いにくくしていることも明らかにされています。 今回は、2021年に出版されたばかりの論文「失われている平和の感覚:新型コロナウイルスによるロックダウンにおける外交的接近とその仮想化(The missing sense of peace: diplomatic approachment and virtualization during the COVID-19 lockdown)」の内容の一部を紹介してみたいと思います。 論文情報: Isabel Bramsen, Anine Hagemann, The missing sense of peace: diplomatic approachment and virtualization during the COVID-19 lockdown, International Affairs, Volume 97, Issue 2, March 2021, Pages 539–560, https://doi.org/10.1093/ia/iiaa229 オンライン交渉で見えてきた利点と欠点 国境を越えた移動が制限される中で、外交交渉がオンラインでのみ実施されるようになると、外交にどのような影響が生じるのでしょうか。 これまでの研究では、このような問いに対する答えが十分に明らかではありませんでした。著者らは2016年からシリアとイエメンにおける武力紛争の和平交渉のプロセスを観察してきた経験を踏まえ、およそ20名の交渉の当事者に対して面接調査を行いました。その当事者には和平交渉の実務を担っている紛争当事者の交渉官や国際連合の職員、さらに国際非政府組織のメンバーなどが含まれています。 調査の結果によれば、すべての関係者がオンラインでの交渉に利点があると考えていることが分かりました。オンラインでの会議は参加のコストを減らす効果があるため、これはシリアやイエメンの武力紛争で国外に脱出を余儀なくされた難民の団

資料紹介 2020年のナゴルノ・カラバフ紛争から得られる教訓が研究者により分析されている

2020年のナゴルノ・カラバフ紛争でアゼルバイジャンがアルメニアに軍事的勝利を収めたことは、多くの専門家の注目を集めました。西欧の研究者は、その勝因をトルコの援助とアゼルバイジャン軍のドローンの使用に求める傾向がありますが、東側、つまりロシアの研究者の見方は少し異なっているようです。 2021年3月10日に英国の国際戦略研究所のウェブサイトでアレクサンダー・ストロネルは「 ロシアの視点から見たナゴルノ・カラバフ紛争の教訓を学ぶ(Learning the lessons of Nagorno-Karabakh the Russian way) 」と題する論説を発表し、 ロシア側のメディアでこの紛争の教訓がどのように分析されているのかを紹介しています 。彼らの議論をまとめると、4つの教訓が導き出されます。 1 軍隊の質が依然として重要である 2020年12月に発表されたロシア軍の機関紙の記事では、両軍の死傷者の統計を参照しながら、戦場に展開した部隊の戦闘効率を考察しています。それによれば、 両軍の人的損耗は17歳から19歳までの兵士が過半数を占めました が、 アゼルバイジャン軍が被った損耗を調べると、25歳から27歳までの兵士の損耗が全体の30%あり 、これは3年から5年の経験を積んだ兵士として推定されています。このデータはアゼルバイジャン軍の部隊がより経験豊富な軍人によって構成されていたことを示しています。つまり、戦場でアルメニア軍の兵士は軍務の経験で敵よりも劣る傾向にあったと考えられます。 実際、アルメニア軍はソ連軍で教育訓練を受けた高齢の将校によって指揮されており、この世代は新時代の無人航空機の運用について専門的な知識を持ていません。実際、アルメニア軍はシリア内戦での作戦行動に参加しているにもかかわらず、現代戦に特有の戦略や戦術を学習していないようです。 これらのことを踏まえれば、アルメニア軍では新しい知識や経験を蓄え、ドクトリンの開発で中心的な役割を担う人材が不足していた可能性があります。 2 戦場全体の性格が変わった ロシア軍の機関紙では、ナゴルノ・カラバフ紛争において、無人航空機を使った偵察が普及し、冷戦時代の戦術が役に立たなくなっている部分があることも指摘されています。 この紛争でアルメニア軍は「バグラミャン線」と呼ばれる防衛線を構成し、そこでアゼルバイジ

論文紹介 最新研究でアメリカが中国に対抗する戦略「カバート・バランシング」が注目されている

アメリカの国力をもってしても、単独で中国の脅威に対抗することは困難です。アメリカはアジア太平洋だけでなく、ヨーロッパでもロシアの脅威に対応する必要があるため、軍隊を特定の地域に集中させるわけにはいかないからです。そのため、周辺諸国の理解と協力を得なければなりません。 しかし、中国の台頭を目の当たりにしている中小国の多くは、アメリカとの関係ばかりを重視することにリスクを感じ、中国との関係にも一定の配慮を払い、リスクの分散を図ります。このような「ヘッジング」が蔓延すれば、中国の脅威に対抗するアメリカのバランシングはますます難しくなってしまいます。最近の研究では、このような問題を解決するために、アメリカが「カバート・バランシング」という戦略を採用しているという分析が出されるようになっています。 論文情報 Hugo Meijer, Luis Simón, Covert balancing: Great Powers, secondary states and US balancing strategies against China, International Affairs, 2021;, iiaa228,  https://doi.org/10.1093/ia/iiaa228 そもそも、なぜ中小国はヘッジングを選ぶのか 国際政治において国家が採用する戦略には、現状打破を目論んで自国に脅威を及ぼす他国に対抗するバランシング(balancing)や、あえて追従してしまうバンドワゴニング(bandwagoning)など、さまざまな種類があることが分かっています。 国際政治において ヘッジング(hedging)は、現状打破を目論む国と、それに対抗する現状維持の国のどちらとも距離を置く中間の立場をとる戦略 であり、大国としての能力を持たない中小国によって採用されるケースがよく見られます。 中小国がヘッジングを採用する利点は、特定の大国に肩入れし、その大国が敗者になったときに、共倒れになるリスクを回避できることです。例えば、韓国はアメリカと同盟関係を結んでいますが、その狙いは北朝鮮を抑止することです。一方、中国に対抗することには消極的です。 韓国は中国と緊密な貿易関係を有しているので、アメリカとの関係だけを重視してしまうと、米中関係が悪化した際に中国との貿易関係が損なわれる恐れが

なぜバイデン政権の対日政策が重要なのか

ランド研究所のジェフリー・ホルヌングが1月26日に発表した論説記事「なぜバイデンの日本問題が重要なのか」で、バイデン政権の対日政策がどのような意義を持っているのか解説しています。 Jeffrey W. Hornung, Why Biden's Japan Agenda Matters, Commentary(The Hill), The RAND Blog, January 26, 2021. 2021年1月に発足したばかりのバイデン政権は対日政策を重視する姿勢を示しており、これは日本の防衛にとってよいニュースであるといえます。 トランプ政権の下でも米国の日本に対する態度は、例えばヨーロッパの北大西洋条約機構の加盟国に対する態度や、韓国に対する態度よりも安定的でした。しかし、まったく問題がなかったというわけではなく、特に環太平洋パートナーシップ協定から撤退するという米国の決断は日本を失望させるものであったと著者は指摘しています。 それでも全般的に日米関係が安定していた理由は、日本の総理大臣だった安倍晋三がトランプとの関係をうまく管理できていたためであると説明されており、米国に対して肯定的な印象を持つ人の割合もさほど低下していないことがデータで裏付けられています。 2016年から2019年までの期間区分で日本の内閣府が実施した世論調査によれば、米国に対して友好的な考えを持つ人の割合は84%から79%に減少しているにすぎません。たしかに、この下げ幅は他のヨーロッパ諸国と比べると小さく見えます。 しかし、著者はバイデン政権の対日姿勢は注目すべきであると述べています。その理由は三つあります。第一に、日米間では3月までに在日米軍の駐留に対する支援、つまり接受国支援(host nation support)に関する新しい合意に達する必要があります。既存の合意は2021年3月31日に失効するので、日米同盟の機能を維持するために、この外交交渉を迅速かつ確実に処理しなければなりません。 ただ、日本政府は在日米軍の基地移転などに関する費用の一部を負担することにもなります。バイデン政権はその負担額を引き上げることを求めることは差し控えると思われますが、日本の防衛予算の段階的な引き上げや、自衛隊の役割を拡大することなどを求めるでしょう。 第二の理由は、バイデン政権が中国に対抗する姿

メモ エチオピアの軍事情勢を読み解く『ミリタリー・バランス』のデータを紹介する

2020年11月5日、エチオピアの アビィ・アハメド首相 はエチオピア軍の兵力によって ティグレ人民解放戦線 に対する武力攻撃を強化しました。ティグレ人民解放戦線はエチオピアで反政府活動を展開してきた武装組織であり、BBCの報道によれば推定勢力は25万ですが、その詳細は不明です。 エチオピア軍は11月26日にティグレ州の州都メックエルに対する攻撃を開始し、29日の時点でこれを占領したようです( BBC, Ethiopia's Tigray crisis: PM claims capture of regional capital Mekelle 、2020年11月29日アクセス確認)。今後、ティグレ人民解放戦線はゲリラ戦に移行するものと見られています。この記事では、エチオピア軍の能力に関する『 ミリタリー・バランス 』のデータを簡単に要約し、今後の情勢判断の参考資料としたいと思います。 エチオピアという国は東アフリカで最も重要な地域勢力ですが、経済的能力は発展途上にあり、国内総生産(GDP)は米ドル換算(US$1=EB28.94)で2019年で912億ドル、一人当たりに換算すると953ドルです。同じく東アフリカのケニアのGDPは986億ドルですが、ケニアの一人当たりのGDPは1,998ドルなので、労働生産性ではかなり後れを取っています。経済成長率は7.4%と報告されていますが、インフレ率が14.6%とかなり高い水準にあることも懸念材料として指摘されるでしょう。 国内の防衛産業基盤は小さく、国内での生産は小火器生産や一部の装甲車のライセンス生産に限定されています。保有する装備の大部分が冷戦時代にソ連から提供されたものであり、2005年から2015年にかけて実施された軍事的近代化の試みも実態として、ハンガリー、ウクライナ、アメリカが手放した余剰の装備を取得するだけに終わっています。 しかし、東アフリカ諸国との比較で評価するならば、やはりエチオピアの軍事的能力は優れていると言えます。エチオピアはソマリア暫定連邦政府に軍事援助を提供し、ソマリア南部に拠点を置くイスラム系武装勢力 アル・シャバブ に対抗しており、またスーダンやマリにおける国連の平和維持活動に兵力を提供し、地域の安全保障にとって重要な役割を果たしてきました。1993年にエチオピアから独立を果たしたエリト

黒海におけるロシアの勢力に対抗するための戦略が模索されている

2020年10月5日にランド研究所から発表された報告書『 ロシア、NATO、黒海の安全保障(Russia, NATO, and Black Sea Security) 』は、黒海を取り巻く安全保障環境を踏まえ、ロシアがどのような戦略で影響力を拡大しようとしているのか、西側がそれにどう対抗すべきかを考察しています。 Stephen J. Flanagan, Anika Binnendijk, Irina A. Chindea, Katherine Costello, Geoffrey Kirkwood, Dara Massicot, Clint Reach, Russia, NATO, and Black Sea Security , Santa Monica: RAND Corporation, 2020. 通常、海洋では米国のようなシーパワーが優位に立ちやすい地理的環境にありますが、黒海のような閉鎖されやすい海域はロシアのようなランドパワーでも優位に立てる特性があると地政学の先駆者である 地理学者ハルフォード・マッキンダー も指摘していました。 この報告書でも、黒海の特性を踏まえたロシアの戦略が検討されています。 ロシアは2014年にウクライナのクリミア半島を武力で獲得し、世界を驚かせたことがありますが、報告書の中で研究者らはロシアが2008年以降、4度も黒海地域で軍事行動を繰り返してきたことを指摘しています。 これは黒海地域でロシアが戦略的に勢力の拡大を図っていることを示しており、黒海―東地中海―中東諸国で結ばれるシーレーンを確保する意図があるなどと分析されています。 しかし、このようなロシアの海洋戦略の重要性については、西側の研究者の多くが十分に認識していませんでした。米国を中心とする北大西洋条約機構(NATO)は、黒海地域にブルガリア、ルーマニア、トルコという3ヵ国の加盟国を抱えており、しかもアルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア、モルドバ、ウクライナという5カ国の友好国(パートナー)がいます。 それにもかかわらず、それぞれの国々がロシアの黒海戦略でどのような影響を受けているのかこれまで明らかではありませんでした。 報告書ではロシアの黒海戦略を分析するだけでなく、それによって影響を受けている国々の反応に関しても調査が及んでいます。ロシアの黒海戦略で最も重要