こんにちは、銀匙です。
全国的に台風が来るか長雨か日照りかという、勘弁して欲しい天気が続いてますが、皆さんご無事でしょうか?
さて、今日は35mm換算値にまつわる誤った知識とフォーカルレデューサーと題しまして(お題解りやすくするために直しました)、デジカメを始める方の多くが直面するも良く分からないままというあれこれをお話していきたいと思います。
まずは今回の対象は、35mmフルサイズカメラとハーフサイズカメラの「受光部とレンズ」の話に絞ります。
受光部というのは銀塩カメラで言えばフィルムの1枚での撮影範囲、デジカメで言えばCMOSとかCCDの大きさを意味します。
誕生の歴史に関しましては数多解説がありますので省きますが、それぞれのカメラをイメージしやすいように幾つか具体的な機種を挙げます。
35mmフルサイズカメラ:
・銀塩の一眼レフ(例:PENTAXのSP、ニコンのF、CANONのFTb等)
・デジタル一眼(例:ソニーのα7、α7Ⅱ、α7R、α7S、α7C等)
ハーフサイズカメラ:
・銀塩ハーフカメラ(例:オリンパスのPEN、京セラのサムライ等)
・APS-Cデジタルカメラ(例:ソニーのNEX全て、4桁α(α5000,α6500など)、ニコンのDXフォーマットのカメラ、Canonでは「フルサイズ」とうたってないカメラ(EOS60D等))
・スーパー35mm(ソニー製シネマカメラ、F35、SRW-9000PL、PMW-F3など)
なお、デジタルカメラだと1型とかフォーサーズとか、スマホだと1/2.3型とか1/3型とか受光部の規格は色々あるんですが、際限なくなってしまうので、ここでは35mmフルサイズとハーフサイズの2つを取り上げます。
さて、上記でお気づきの通り、現在でいうところのAPS-Cとハーフサイズはレンズが描いたイメージ(イメージサークル)から写真として残せる大きさがほぼ同じという意味で一緒と言えるのです。
ちなみになにがハーフなのかというと受光部です。具体的に言えば35mmフルサイズの規格に対し、写真として残せる受光部面積が半分なのです。
下記の図を見てください。
これは黒四角の面積が35mmフルサイズの受光部だとすると、APS-Cの受光部面積がどのくらいになるかを赤四角で示したものです。
黒四角に対して上下左右それぞれ狭くなっている事が解ります。
面積比を解りやすくするため、赤四角を90度回転して隅に寄せます。
するとAPS-Cの長辺は35mmフルサイズの短辺と同じ長さであり、APS-Cの短辺は35mmフルサイズの長辺のちょうど半分であること、また、面積がちょうど半分であることが解ります。
これは偶然でも何でもなく、ハーフカメラは35mmフィルムの縦横を逆にし、35mmフルサイズのちょうど半分ずつ撮影していく規格だったからです。
銀塩フィルムでは12枚撮り、24枚撮り、36枚撮りなどのフィルムがありましたが、ハーフカメラではこの倍、つまり36枚撮りフィルムで72枚撮影することが出来たのです。
この為ハーフカメラは35mm銀塩カメラが旅行や記念撮影的な使い方を想定したのに対し、スナップショットというか、日常の何気ない1コマを撮り溜める庶民的な使われ方を想定したカメラが多かったように思います。
倍の枚数が撮れる一方で、ハーフカメラには問題点もありました。
最初の図の通り、写真として写せる範囲が狭くなってしまうのです。
実際の写真で見てみましょう。
風景画像そのものが35mmフルサイズで、例えば28mmレンズで撮影した範囲だとします。
しかし、同じ28mmレンズでハーフカメラ(APS-Cカメラ)で撮影すると、画像中央の赤く塗った範囲しか写せないのです。
レンズとしては同じ28mmですので望遠効果などの撮影効果は変わりませんが、焦点距離からイメージする撮影範囲に遠く及ばないのは購入後トラブルになってしまいます。
そしてデジタル一眼レフは登場した当時はAPS-C規格、つまりハーフサイズの受光部がほとんどだったので、この問題が表面化します。
なので本当は35mm換算値とは35mmフルサイズのカメラで何mmのレンズを使った時と「撮影範囲だけが同じで撮影効果は元の焦点距離に準ずる」とメーカーは説明する必要がありました。
しかし、正直に説明すると「じゃあ広角レンズ買っても狭い範囲しか写せないって事?」とか「要はハーフカメラのデジタル一眼って事?ガワだけ一眼レフなのになんか安物っぽいなあ」といったイメージを持たれるのが嫌だったメーカーは、意図的に「撮影効果は焦点距離に準ずること」と「受光部面積がハーフカメラと同じ」という説明を省きました。
当時のカタログには「35mm換算値とは、係数をかけた焦点距離のレンズと同じという意味です」とだけ書かれています。
これにより、我々消費者は「じゃあ望遠レンズと同じ撮影範囲と撮影効果を持ってるんだね」と誤った知識を持つ羽目になったのです。
そしてAPS-Cという規格そのものもハーフカメラと言いたくないから用いた感じがあります。
ハーフカメラと言っておけば銀塩で慣れていた層にはわかりやすかったでしょうにね。
さて、それではハーフカメラと35mmフルサイズカメラの撮影効果上の影響を述べます。
例えば、上記写真において、ハーフカメラで35mmフルサイズと同じ範囲を撮影したい場合、レンズの焦点距離をより広角にする必要があります。
具体的には換算に用いる係数というものがあり、35mmフルサイズとハーフサイズ(APS-C)の間は1.5(CANONだけなぜか1.6)となっています。
つまり35mmフルサイズの28mmと同じ撮影範囲を撮りたければ、28mm÷1.5≒19mm、つまり19mmのレンズを使用する必要があります。
しかし、その2つが同じなのはあくまで撮影範囲です。
じゃあ何が違うのかというと、レンズの効果です。
レンズは非常にシンプルに言えば、
広角になると遠近感が強調され周囲が歪む、望遠になると遠近感が潰れるが歪みが少なくなる
という特徴があります。
比喩で表現すると広角だとのっぺりする、望遠だと潰れる、とか言います。
例えば下記の写真は、超望遠レンズで遠方を飛ぶ飛行機を撮影したものです。
旅客機ですから、翼の端から端までは何十メートルもあります。その割には全長(横方向)に比べ、翼の長さやエンジンとエンジンの間がなんだか狭く見えますよね。
実物を目で見ればもっと広く(長く)見えます。
同じ距離にあるもの(水平側に伸びる胴体)は歪みなく写すが、奥行き方向(この場合は羽とエンジン同士の距離)は縮めて写す、これが望遠レンズの特徴と遠近圧縮効果です。
次に、超広角で風景を撮影した写真を載せます。
旅客機より遥かに狭い幅を撮影しているわけですが、それでも右端にあるトラクタはどことなく歪んでいることがお分かりになると思います。遠近は実際に見るとトラクタはもっと近くにあり、距離感が引き延ばされています。
ですので、例えば人物の顔をアップで撮影する時は望遠レンズで歪みをなるべく排除するとか、集合写真を撮るときは撮影範囲の端の方には人が入らないよう中央に寄ってもらうといった工夫が必要です。
これはレンズ加工技術や画像処理が高度化した今も変わらない原則ですし、裏返しのノウハウで言えば集合写真で満足いく撮られ方をしたければ中央で写してもらうのが良いでしょう。
話を戻しますと、35mmフルサイズカメラに焦点距離28mmレンズで撮影した風景写真に比べると、ハーフ(APS-C)カメラに焦点距離19mmレンズで撮影した風景写真は、遠近感が強まり、周囲が歪みます。
それは単純に焦点距離が28-19=9mm分広角になっているからです。
さらにいうと、1人の人物を撮影するのに35mmフルサイズカメラに焦点距離85mmレンズで撮影するのに比べ、ハーフ(APS-C)カメラに焦点距離57mmのレンズで撮影すると、顔の立体感が不必要に高まり、周囲が歪みます。
これも単純に焦点距離が85-57=28mm分広角になっているからです。
じゃあ広角より望遠の方が影響が大きいのかというとそうでもありません。
一般的な話ですが、焦点距離は28mm未満では1mmの差が非常に強い影響を及ぼすのに対し、50mmから100mmの間では5~8mm程度は差が無いと影響が解りません。さらに望遠となると、たとえば1000mmと1050mmでは差なんて解りません。500mmと550mmもほぼ分かりません。
250mmと300mmで言われると解るかなあ、くらいです。
上の例で言えば、28mmと19mmの差と、57mmと85mmの差は似たようなもの、となるでしょう。
なお、35mmフルサイズカメラと中判カメラでも同じ関係です。
35mmでいう焦点距離50mmレンズが写せる範囲を67判カメラで撮りたければ焦点距離90mmのレンズで良いので、中判の方がより歪み無く、あるいは同じ写し方でより広い範囲を写せます。
これが中判や大判にハマっていく人達を生み出す理由でもあります。
ただ、銀塩でもデジタルでも35mmフルサイズ以上の世界はバカほどカネがかかりますが・・・
話を35mmフルサイズとハーフサイズ(APS-C)に戻しまして、じゃあハーフサイズカメラでは撮影効果の差、言い方を悪くすれば撮影効果が悪化するのは避けられないかというと、奥の手があります。
それがフォーカルレデューサーというモノです。
フォーカルレデューサーは、簡単に言えば縮小コピーをするために、レンズとカメラボディの間に挟むレンズです。
そのため、主にマウントアダプタの付随機能として売られています。
2枚目の図の通り、35mmフルサイズに比べてハーフサイズ(APS-C)は撮影する面積が半分しかありません。
焦点距離28mmのレンズは、3次元の現実を2次元に変換し、さらに一定範囲まで縮小します。
この範囲の事をイメージサークルと言います。
イメージサークルはレンズが対象とする受光部面積より1周り程度広いサイズです。そして35mmフルサイズ用レンズのイメージサークルは35mmフルサイズの受光部より1周り大きく、APS-C用レンズのイメージサークルはAPS-Cの受光部より1周り大きい。受光部の大きさ自体が異なるわけですね。
レンズとカメラボディの間にフォーカルレデューサーレンズを挟むと、例えば35mmフルサイズ用のイメージサークルを縮小し、ハーフサイズ(APS-C)の受光部の1周り大きいサイズまで縮小コピーするのです。
上記のたとえで言えば、焦点距離28mmのレンズをフォーカルレデューサー経由でハーフサイズ(APS-C)のカメラにつなげば、ほぼ35mmフルサイズカメラに焦点距離28mmのレンズを付けた時と同じ撮影効果と撮影範囲で写せるわけです。(正確には何%か撮影範囲が狭くなることが多い)
フォーカルレデューサーの特徴は、イメージサークルが小さくなる(35mmフルサイズ→APS-C)分だけ全体を縮小することです。
広い範囲から一部を切り取る訳ではないので、撮影効果も撮影範囲も35mmフルサイズカメラで撮影した場合と同じになるわけです。
そんな一見素晴らしいように思えるフォーカルレデューサーレンズなのですが、実際の世界では超マイナーな存在です。
それは何故か。
簡単に言えば、フォーカルレデューサーレンズの設計ってとっても難しいのです。
数多あるレンズが受光部に対してどのように光を曲げて受光部に届けるかというのはレンズごとに異なります。
それを途中で縮小コピーしようとするわけですから、簡単に光の色(波長)毎にズレが出来てしまいます。
それはパープルフリンジを生んだり、グリーンゴーストが出来たり、像が歪んだりします。
あとはレンズがピントを合わせる際にカメラボディ側に近いレンズ(後玉と言います)を前後にずらして調整するんですが、それがフォーカルレデューサーレンズに当たってピント調整が出来なくなるなんてこともあるんです。
簡単に言えば相手が多すぎて対策しようがない。手に負えないんですね。
メーカー純正だと、例えば特定の300mmレンズに装着して450mmレンズとして使えるアダプタとして発売するなど、相手を1つに絞って対策していたりします。
そんなわけで、マウントアダプタでも距離差の比較的長いケースなら、サードパーティのフォーカルレデューサーはごく少数売られていますが、手放しで勧められるものは正直ありません。
ただ、現在でという意味で言うのならば、「オールドレンズの広角レンズ」をつける場合のみ、考慮に値すると言えるでしょう。
何故ならまず、そもそもオールドレンズでは20mmを切るような広角レンズは稀有ですし、性能が極端に悪くなります。
しかしAPS-Cではフルサイズに比べて係数1.5がかかってしまうので、例えば35mm換算で言う24mmという、ごく普通の広角を得ようとするなら焦点距離16mmレンズを探さねばなりませんが、そんなオールドレンズはありません。
しかしオールドレンズだって24mmとか28mmなら普通にある訳で、じゃあこの邪魔な係数をどうにかしたいという時はフォーカルレデューサー付きのマウントアダプタを挟むのも1つの手だと思います。
広角レンズに限れば、後玉の前後幅も少ない物が多いので接触する確率も減るのです。
ちなみに私はNEX-6でミノルタの28mmF2レンズをどうしても28mm相当のまま使いたいと思い、ミノルタAマウントをSONYーEに変換し、なおかつ絞り調節とフォーカルレデューサー機能が付いたマウントアダプタを購入しました。
もう5年くらい前になりますが、当時はこんなマニアックなアダプタも1~2万円位で各種豊富に売っていたんです。
今はだいぶ淘汰されてしまって、フォーカルレデューサー付きのアダプタ自体珍しい存在となっていますが、どう使うかという答えは、APS-Cやそれ以下の受光部面積しかないデジタルカメラにて広角のオールドレンズを使いたい時にどうぞ、ということになります。
特に広角で泣かされるのはマイクロフォーサーズかと思います。
係数も2ですからね。
ま、まぁ、係数5.5のPENTAX-Qとかいう規格もあるんですが、さすがに係数5.5をどうにかできるフォーカルレデューサーは見たことがありません。
なお、マイクロフォーサーズ用のフォーカルレデューサーは注意点がありまして、係数0.7の物が多いんです。
要は35mmフルサイズとAPS-Cの間の係数は0.75であり、その近似値の0.7で開発したものを使いまわしてるってことです。
これがマイクロフォーサーズでどう影響するかというと、縮小しきれない。
例えば100mmのレンズをそのままマイクロフォーサーズにつけると、200mm相当の撮影範囲です。
そこに縮小係数0.7のフォーカルレデューサーを経由させても、140mm相当の撮影範囲にしかならないのです。
それでも、例えばOM21mmのレンズで考えれば、そのままマイクロフォーサーズカメラにつけると42mm相当の範囲しか写せないのが29mm相当の範囲まで写せるようになるので意味はあると言えばありますが、留意してください。
後半は文字だけで長々と説明してきたのですが、
・35mm換算とは、撮影時のレンズの効果まで換算してくれるわけではない
・APS-Cカメラとは、昔で言うハーフカメラ
・広角オールドレンズを探すならフォーカルレデューサーを思い出して
という3つをご理解頂けると、レンズシステム構築の際に選択の幅が広がるというか、失敗しないレンズ選びに役立つかと思います。
なお、スマホのカメラの受光部は上の方でも書いたように1/2.3型か1/3型です。
これは1型に比べて2.3分の1とか3分の1という意味らしいのですが、そもそも1型って何かというとソニーのRX100シリーズのコンデジで使っていたり、ニコンのCXフォーマットとして使われている受光部であり、幅×縦は13.2mmx8.8mmです。ちなみに1/2.3型は6.2mmx4.6mmしかありません。
一方でフルサイズは同36x24、APS-Cは(規格上は23.4x16.7ですが)ここでは24x17とします。
つまりフルサイズに比べ、APS-Cは面積比で半分と言いましたが、1型は面積比で7分の1、1/2.3型なら約30分の1という大変小さな面積の受光部しかありません。
ゆえにスマホで広角レンズ並みの撮影範囲を写そうとすると大変焦点距離の短いレンズが必要となるので、特にスマホに顔を近づけて写すとのっぺりと歪みます。
よって自撮りする時は少しでも離して撮りましょうという雑学につながります。
ちなみに受光部が小さい事に益はないのかというと、あります。
まず、メーカーがレンズを作る際、ガラスレンズを作る際のコストが断然安くなり、フルサイズと同じような値段で売れば利益が増えます。
利用者にとってもレンズが小さくなり、軽量化というメリットが出ます。
メーカーが良心的ならフルサイズよりは安価に提供してくれるはずです。
もしスマホにフルサイズの受光部とレンズを持たせたらとんでもない重量とサイズ、そして値段になっていたでしょう。
あと、1/2.3型など極端に小さな受光部にした場合だと、望遠レンズが大変コンパクトに収まるという点も上げられます。
それを生かしたのが、例えばニコンのP1000というカメラです。
ニコンのP1000はレンズ交換の出来ないデジカメであり、受光部は1/2.3型です。そして手持ち出来るサイズであるにもかかわらず、35mm換算で言うと3000mm相当のレンズを持っています。
なお、実際のレンズの焦点距離も539mmあります。
3000mmを35mmフルサイズの受光部用に制作したら数千万円になるでしょうし、家1軒分くらいの据え付け場所が必要になるでしょう。
レンズというよりもはや天文台です。
ちなみに35mm用のニコン製800mmF5.6は230万円以上します。
1/2.3という小さな受光部だからこそレンズもコンパクトにでき、だからこそ普通の人が買える値段に収まった好例だと思います。
P1000ほどでなくても、例えばSONYのWX500やニコンのB700、CanonのPowerShot SX70など、コンパクトで超望遠を達成しているカメラの原理は大体同じです。
こんな小さな受光部で実用に耐える写真を生成出来るようになったのは、受光部とレンズの設計・製造技術レベルが大変進化したからです。
銀塩一眼世代のオールドレンズでさえ20mm以下の広角がほとんどないのは、そんな短い焦点距離で実用に耐えられるレンズを設計するのが技術的に困難だったからです。
スマホが1/2.3型という超コンパクトな受光部でまともな写真を写せるのは、それだけ大変短い焦点距離のレンズが出来るようになったという事なのです。
この話題にどんだけ需要あるのかなあと思いつつ、お盆に暇だったので好きに書かせてもらいました(笑)
※写真はすべて自分が撮ったものです。
※2023/8/15 加筆修正しました。見直すと色々出てくるのですよ・・
では、では。