連載 替山茂樹のプロデューサー日記 No.7
替山茂樹(『森達也の「ドキュメンタリーは嘘をつく」』プロデューサー)
■2022.9.15.
『福田村事件』の撮影が始まった。
制作資金がままならず、森達也監督はじめスタッフが次々と新型コロナに罹り、台風が直撃し、…等々大変そうな情報が入ってくる。
挙句、森さんが監督のくせに「“スタート”って言うのヤダ」って駄々こねてるとか。
そんなニュースいらん。どんな中二病だよ。
こりゃー、撮影現場見に行かなきゃ。人の不幸は蜜の味。
メイキング監督の綿井健陽さんに電話したら、「ちょっと大変すぎて…。誰もアテンドできないから来ないで」と珍しく泣き言。
というわけで、エキストラとして撮影現場の京都へ行くことに。
僕の役は「男衆12」。
讃岐から福田村(現在の野田市)に来た行商団を取り囲む村民の一人。
永山瑛太さん率いる行商団に鳶口(一間ほどの棒の端にトビのくちばしのような形をした金属製の金具を取り付けた道具)を持って迫る役どころだ。
15日早朝、松竹撮影所に集合。あてがわれた衣装が本格的でびっくり。
さらにドーラン塗って粉はたいてから、現場に向かう。
撮影現場の神社に着くと地下足袋・破けた麦わら帽子・地下足袋・鳶口を渡される。
地下足袋のコハゼを留めるのに一苦労。
で、写真撮ってもらったの見たらリアルなカールおじさんで笑った。
いやー、エキストラは貴重な体験でした。
この日、一番驚いたのは、井浦新さん・田中麗奈さんの差し入れ。
地元から参加したエキストラさん曰く、京都で有名な「焼肉ヒロ」のステーキ&姿焼弁当。
この日はエキストラだけで50人以上。役者さん・スタッフ合わせて150人以上。
数十万円が吹っ飛んだはず。
しかも差し入れはこの日だけではなかったらしい。
森さん「絶対、ギャラより高い出費・・・」。
■2023.5.10.
出社したら、担当番組のデスクM橋さん(井浦新推し)が「井浦さんのインスタに映画『福田村事件』の写真がUPされてましたよ」と言ってスマホ画面を見せてくれた。
「そっか。スチール写真解禁になったんだ」
「替山さん、エキストラしたって言ってたじゃないですか。この写真に映ってますか」
「んー、映ってないなぁ。てか、この写真は映画前半の場面ぽい。僕の役は讃岐から来た行商団に迫る福田村の“男衆12”だから、かなり後半のシーンのはず」
「そうなんですね」
「映画公開されたら観に行って僕の映ってるシーンを探してみてね。…で、見つかんなかったらもう一回観て」
少しでも観客数を増やそうという姑息な手段。
もっとも、台詞もないエキストラだから編集で全部落とされてるかも、だけどね。
と思いながらインスタにUPされた井浦さんの写真をもう一度見る。
…あ。
「何気に井浦さんと僕の衣装がお揃いだ」
「へぇー」
「もし2回観て僕が見つかんなかったら井浦さんを僕だと思い込んでいいよ」(←何目線?)
「え…」
「衣装がお揃いならほぼ同一人物でしょ」
「井浦ファンが聞いたら刺されますよ」
なんならアタシが刺すみたいな顔つきヤメテ。
「僕、大学の卒論は縄文時代後期で書いたし。縄文時代に造詣の深い井浦さんともはや同一人物と言って過言ではな…」
「過言だよ」
被せて否定するのヤメテ。
ということで、全国の井浦新ファンのみなさま、すみませんでしたー!
■2023.7.27.
今日は『福田村事件』の試写会。
0号試写を観た綿井健陽メイキング監督は「替山さん、映ってなかったみたい」。
一方、森達也監督は「結構、映ってるよ」。
嘘つきはどっちだ!
ということを確認しにユーロライブへ。
結論。
なけなしの注意力を極限まで働かせてみると、2カット映ってた。
2カット合わせて1秒足らず。
つまり、「映っている。が、“結構”ではない」。
見事に2人とも嘘つきということが判明しました。
『福田村事件』は猫が大活躍するわけではないし、美味しそうなケーキも出てこない。
しかし、誰もが人を殺すことに直接加担しうることをまざまざと見せつけ、100年経った現代にぴたり重なる問題を描いたという点で必見の作品です。
公開は9月1日から。
みなさん、劇場へGO!