伏尾美紀 北緯43度のコールドケース

北海道警察で経験を積む沢村依理子は、少女死体遺棄事件の捜査に参加する。冷え切っていた少女は5年前に行方不明になっていた子だった。当時の容疑者は死亡したのに、彼女はどこで生きていた? 未解決事件の真相を、博士号を持つノンキャリ警察官が追う。

第67回江戸川乱歩賞を受賞。2ヶ月ほどミステリーに手が伸びなかったけど、あらすじを読んで久しぶりに興奮とも欲情ともいえる感情が湧いた。少女誘拐事件を追う捜査の面白さと、アカデミック・ノンキャリ・女性のストレス3本柱が面白さを強固なものにしている。プライベートの描写や事件の全貌が海外ミステリーを彷彿とさせて、面白さでお腹いっぱい。主人公と関わるキャラクターたちも一癖二癖あり、続きを読んで応援したい。

続きを読む

王谷晶 君の六月は凍る

田舎町の閉鎖感を書いた表題作と、貧困アルバイト警備員であるオタク女の生活を半私小説的に書いた「ベイビー、イッツ・お東京さま」を収録。

表題作は私の感性ではまったく理解できなかった。半私小説「ベイビー、イッツ・お東京さま」は、傑作「ババヤガの夜」のような、爆走する車に乗ったような怖さと興奮がある。自分自身を含めた人への敵意と歪な愛によって書きった中編だ。不器用な生きかたへの共感とは思いたくないが、痛々しさが滲む文体に心が震える。

続きを読む

氷室冴子 峯村良子 少女小説家は死なない!

北海道から東京にやってきた大学生、朝倉米子の下宿に売れない小説家(志望)火村彩子先生が転がりこんできた。この世界で生きていくためには、同じ掲載誌を狙うライバル作家を蹴落とすしかない!

ファンタジーやキラキラした学園もの、耽美小説など、それぞれのジャンルを得意とする作家たちがくり広げる掲載バトルロワイヤル。ただただ純粋な敵意は山田風太郎忍法帖を彷彿とさせる。権力者である編集者を圧倒的弱者として書きながら、一般読者を被害者に設定し物語の軸にする。美味しんぼの栗田さんのようなポジションが笑いを生むのか。続編「少女小説家を殺せ!」が感情のコンゲームで最高。