2014年8月16日土曜日

久しぶりに。

長らく放置していましたが,そろそろ復活させましょうか。

78kgよりも軽くなったので、タイトルも変更します。

2011年8月22日月曜日

『Googleの脳みそ』における,第一の解毒剤「整理解雇の規制緩和」について

1,全体の感想

最近,Twitter上でも評判の高い『Googleの脳みそ』(三宅伸吾著,日本経済新聞出版社)を有り難いことに著者からお送り頂きました。三宅さんとは直接お話ししたことも何度かあるため,途中まで読んでいた本を放り出して,早速ページをめくり始めました。

本書は,変化を過剰に怖がるのではなく,一歩前へ踏み出すことの重要性を主張しています。そして,様々な事例と多数の識者の意見を精緻に積み重ねることで,著者の意見を補強しつつ,変化のための意識改革を論じている意欲的な作品だと言えるでしょう。

私がお薦めする読み方は,まずエピローグから読むこと,続いて第8章を一通り読むこと,そして最初から通読することです。最初に第8章を読んだときには抵抗感を感じた方も,二回目に読むときには同意できる部分が増えているはずです。


2,「整理解雇の規制緩和」について

ただし本書のすべての意見に同意できるわけではありません。労働政策に関心がある私にとって特に気になったのは,第8章の第一の提言である「整理解雇の規制緩和」に関して,少し議論が荒いのではないかという点です。もちろん紙面の制約等の理由もあるでしょうが,気になった点について以下にコメントをまとめておきます。

2−1,整理解雇と普通解雇・懲戒解雇の切り分けを正確にすべき

まず整理解雇とそれ以外の解雇(普通解雇や懲戒解雇)の切り分けが不明確な部分があります。整理解雇とは,本書のp.292にあるように「会社の存続のため経営上の理由で労働契約を一方的に解約すること」ですね。しかし,第一の提言はあくまで整理解雇の規制緩和の話を書いているはずなのに,いつのまにか能力不足などの話などが紛れ込んだりしているのです。

例えばp.296に「いったん正規社員として採用してしまうと,職務遂行能力がないとわかった後でも簡単には解雇できないため」という記述があります。これは能力不足の問題なので,整理解雇法理ではなく解雇権濫用法理(現在の労働契約法第16条)の問題ですね。同じページに「怠けていてもなかなか解雇されない」とか,次のページには「出世を諦めた層にはモラル・ハザードが発生し」などという記述も「整理解雇の規制緩和」とは関係ないはずです。

仮に整理解雇の規制緩和を主張するだけでなく,能力不足や怠けていることを理由とする解雇を容易にすることを主張されるのであれば,分けて検討する必要があるでしょう。

2−2,能力不足の場合に解雇すべきか

それでは労働者に能力不足等があり,業務を遂行できない事情がある場合には,解雇をすることが使用者にとって最善の施策なのでしょうか。

まず現在でも,業務に関係のない(つまり労災ではない)病気等により仕事ができない労働者については普通解雇が可能です。しかし解雇するのが企業側としてベストの案だとは限りません。中小企業などでは難しいでしょうが,ある程度の規模を持つ企業なら,場合によっては,疾病等の問題があっても少なくとも一定期間は解雇しないことを約束することにより,リスクを嫌う労働者たちの忠誠心を引き出したり,リスクプレミアム分だけ賃金を引き下げたりできるかもしれません。

次に,働くことはできるものの能力不足の労働者に対しては,解雇より前に,配置転換や仕事の軽減,それに伴う賃金の切り下げ等の労働条件変更で対応することも可能なはずです。労働者にとっても,解雇されるよりは賃下げの方がましですね。よって解雇より先に賃下げ等を交渉するべきではないかと思うのです。

加えて,労働者の動機付けのためには,怠けたら解雇するぞという脅しだけが機能するわけではありません。出世競争や成果に基づくボーナスなども有効です。また出世を諦めた層であっても,成果給に基づく適切な動機付けは可能かもしれません。

2−3,そもそも整理解雇規制は何を規制しているのか

p.299において三宅さんは「整理解雇規制をすべてなくせと主張しているわけではないが,現在の整理解雇の規制はどう考えても過剰である」と述べています。ここに労働法を専門としている人々とそれ以外の人との間の考え方の差を理解する鍵があるかもしれません。

まず雇用法制への前提知識を持たずに本書を読んだ方は「整理解雇の規制緩和」という表現を見て「そうか,現在は整理解雇が規制されていて,規制が厳しすぎるから緩和が必要なのだな」と考えるのではないでしょうか。

しかし整理解雇の規制とは,実は整理解雇を規制するのではありません。本書p.293に挙げられている整理解雇の四要素をよく見れば分かるとおり,整理解雇ではない解雇を整理解雇だと言い張って実施することを規制しているのです。ここを間違えてはいけません。

あくまで整理解雇とは(少なくとも建前上は)労働者側に落ち度はなく,能力不足もなく行われるものです。これは時代の変化や消費者の好みの移り変わり,ライバル企業の成長,自然災害等の理由で,労働者に担当してもらう仕事が無くなってしまった際に行われる解雇なのです。

そして本来,正しい意味での整理解雇は禁止されていません。くどいようですが,整理解雇のふりをして,例えば労働組合を作ろうとした労働者をクビにすることが目的だったり能力不足の労働者をクビにすることが目的だったりする解雇が「これは整理解雇である」と主張された場合に,「それは整理解雇ではありませんよ」と裁判所が認定する基準が整理解雇の四要素なのです。

2−4,それでは「整理解雇の規制緩和」とは何か

ここまで読んで頂いた方の中には,疑問を感じている方もいらっしゃるかもしれません。それでは,そもそも「整理解雇の規制緩和」とは何を指しているのでしょうか?

まず整理解雇ではない解雇を整理解雇だと偽ることを合法にしようということではなさそうですね。また能力不足の労働者を解雇することを整理解雇に含めることにしようというのも無理があります。

ここに第一の解毒剤である「整理解雇の規制緩和」という主張の問題点があると私は考えています。

整理解雇である解雇がキチンとできるようにしようという意味で,言い換えれば,真っ当な整理解雇なのに,裁判所により不当解雇だと間違って認定されることを防ごうという意味で,整理解雇の四要素をより明確なものにしようというのであれば私は賛成です。

しかし三宅さんが能力不足の労働者を解雇しやすくすることが望ましいと考えているのであれば,整理解雇の規制緩和ではなく,直接的に普通解雇の緩和を主張する必要があるように思われます。

2−5,中期雇用制度と労働特区について

p.304以降の,中期雇用制度と労働特区についての提言には賛成です。ただし,これらの提言を正確に理解するためには,一点だけ注意が必要です。

それは,三宅さんは既存の契約と法改正後の新規契約を明確にわけて議論しているという点です。この「中期雇用制度と労働特区を」の前までは,既存の長期雇用契約に問題があるので,既存契約の一方的解消としての解雇を容易にしてはどうかという問題を扱っていましたね。しかし「中期雇用制度と労働特区を」以降は,今後の新規契約について扱っています(これには既存契約が切れた段階での再契約も含みます)。

そして既存契約の問題をどのように解決・軽減するかと新規契約としてどのような形態を可能にすべきかについては,丁寧に切り分けて理解する必要があります。

例えば,これまでの二極化した雇用形態を中期雇用も可能にすることにより今後は多様化させることを主張していますが,これと仕事が無くなったことや能力不足を理由とする解雇を容易にすることの間には整合性の面で問題があります。なぜなら新規契約を多様化させたら,今後は契約を守ることが容易になるはずなので,一方的な破棄をせずに守るべきだからです。

例えば契約期間に注目すると,これまでは実質的には3年までか定年までかの二択でした。このとき仮に定年までの長期雇用を約束したとすると,長い期間の間には事情が変わることもあるでしょう。このことがこれまでは解雇を正当化する根拠だったわけです。しかし今後については,多様な契約期間が設定できるようになり,加えて期間終了とともに雇用契約が当然に終了するようになるなら,期間終了前に一方的に契約を破棄する(=解雇)の必要性は下がりますね。

このように,既存契約と新規契約を分けて検討していることをより強調したほうが,少なくとも後半の中期雇用制度と労働特区に関する提言の賛同者は増えるのではないかと感じました。


3,まとめ

私は本書を非常に興味深く拝読しました。ただし雇用政策については,新規契約の多様化(三宅さんの言葉を用いれば,中期雇用制度と労働特区の実現)については同意しますが,既存契約を今後どのように扱うべきかについては,三宅さんの主張がまだ明確ではないように感じました。

能力不足を理由とする解雇をどこまで可能にすべきなのかについて,私は2−2で述べたように,解雇を容易にすることよりも,賃下げも含む労働条件の切り下げを容易にすることのほうが実現可能性が高く,かつ既存の労働者の負担も少ないと考えています。三宅さんの見解はいかがでしょうか?

2011年8月4日木曜日

問題32

ある特殊な電気製品(例えば非常に高性能なテレビなど)を製造できる企業は,世界中で我が国の国内企業2社のみであるとします。そして両企業はこの製品の製造販売のみを行っていて,それぞれの利潤を最大にすることを目的として,生産量を独自に決定する同質財の数量競争を行っていると考えることにします。

ここでまず両企業の株主も労働者もすべて日本国民であるとします。そして両社の製品は日本国内に限らず全世界の消費者に対して販売されているものとします。なお需要量をq,価格をp,そしてkを0より大きく1より小さい数としたとき,国内分の需要関数はq=k-kpであり,世界全体の需要関数はq=1-pである(つまり国内と国外で販売される比率はk:1-kである)とします。

話を簡単にするために,この製品の生産には固定費用も可変費用もかからない(つまり限界費用はゼロ)とします。また外国へ輸出する際には関税がかからない,そして輸送費用もゼロとします。加えて国内外で価格差別をすることができず,同じ価格で販売するとしましょう。

ここで両企業が合併することを計画していて,政府の認可を求めているとします。この製品に関して生み出される社会的余剰(ただし我が国が得るもの)を最大にすることを目的として政府が政策決定をしていると考えたとき,国内消費割合を表すkの値がどのような水準を超えるときに合併を禁止すべきでしょうか。

問題31

公共放送であるNHKの受信料について,現在は放送法第32条により「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」とされています。つまりテレビを所有する人は,NHKと契約する必要があります(ただし罰則はありません)。

しかし最近,NHKの不祥事等の様々な理由により,テレビを持っているのに契約をしない人が増えているようです。そこでNHKの放送を一部の衛星放送のように暗号化して送信し,契約を結んだ世帯のみ復号して視聴できるように制度を変えることを検討してみましょう。このことにはどのようなメリットとデメリットがあるでしょうか。この案に賛成・反対の両面から検討し,意見を述べなさい。

問題30

現在,X県では,ある地域の公園整備事業を行うことを計画しています。そこでこの公共事業の実施プランを募ったところ,A社とB社が以下のような設計案を提示しました。

  • A社案:毎年末に1億円相当の価値を住民に対して永久にもたらすプランであり,工事費用は現時点で5億円かかる
  • B社案:毎年末に2億円相当の価値を住民に対して永久にもたらすプランであり,工事費用は現時点で12億円かかる

余剰の最大化を目的とするとき,X県の担当者としてはどちらの企業のプランを選択すべきでしょうか。理由とともに答えなさい。なお純利子率を年率10%として計算すること。

注意点:工事にかかる時間は無視します。例えばA社案なら,5億円を支出したちょうど1年後から1億円相当の住民利益が定期的に発生します。また設備維持費などは不要とします。

問題29

生産者が独占の市場について以下の問に答えなさい。

(1) 完全競争市場における市場取引について図を用いて考える場合には需要曲線と供給曲線を描くのに対して,独占企業がどのような価格設定を行うのかを考える場合には需要曲線と限界費用曲線を使います。なぜ独占の場合には供給曲線を用いないのかを説明しなさい。その際に供給曲線とは何かについても述べること。

(2) 独占が社会的に見てなぜ問題なのかを効率性の観点から説明しなさい。

問題28

Aさんが働く会社は都心にオフィスがあります。そしてこの会社で働く従業員の中には,オフィスの近くに住んでいる人もいますが遠くから通勤している人もいます。

さて,この会社では,固定給と成果給に加えて,住宅手当と通勤手当が支給されることになっています。そして住宅手当は,世帯主か否か,また賃貸か持家か等に関係なく毎月3万円が一律に支給されるのに対して,通勤手当は実費が支給されることになっています(ただし一月あたり10万円を上限とします)。

このような住宅手当と通勤手当のルールが実施されているとき,人々の居住地選択の判断がどのように行われるのかに注目して,このルールの問題点を効率性の観点から指摘しなさい。また対案として,どのようなルールへ変更することが望ましいのかについても述べなさい。