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20年間日高を中心にした生産地のありようを眺めてきたが

  • 2023年12月28日(木) 18時00分

連載終了に当たり


 長らく続けて来た当欄の拙コラムが、いよいよ今回をもって終了となる。開始がいつのことだったのか、もう俄かに思い出せないほど昔の話だが、物事は始まりがあれば必ず終わりも来るのが世の常であり、その時がようやく到来したということに過ぎない。

 20年余もの間、拙いコラムにお付き合いいただいた方々には心より感謝申し上げる次第だ。思えば、私事ながら、先日、満68歳の誕生日を迎えた。後2年で古稀である。年齢的にも体力的にも、この辺が潮時であろうと思う。今後は不定期、単発という形で、できるだけ前向きな明るい話題の内容のものを書かせて頂けたらと思う。

 この20年余、日高を中心にした生産地のありようを眺めて来たわけだが、改めて感じるのは、生産地における深刻な後継者不足と従事者の平均年齢の高齢化である。生産牧場戸数の減少も著しい。にもかかわらず、このところの地方競馬の業績V字回復と堅調な中央競馬に支えられ、サラブレッドの生産頭数もまた漸増し続けている。

 さらに、土地も人材も、地域ごとに点在する大手牧場への集約がより進んできた20年間であった。家族労働を中心とした零細規模の生産牧場がどんどん転廃業する中で、近隣の大手牧場がそれらを買収する形で版図を拡大して行く構図が顕著になってきた。

 家族労働規模の生産牧場が、経営者の高齢化や後継者不在、さらには過重な債務などの要因で転廃業を余儀なくされるケースを数多く見て来た20年間でもある。

 このまま行くと、日高はこの先どうなってしまうのか、と不安を覚えずにはいられない現状だが、しかし、その一方で、数少ないながらも、新たに生産者として“独立”を果たし、自分の牧場を立ち上げて奮闘する人々もいる(私事で恐縮だが、私の牧場を3年前より借り上げて頂いている藤原照浩氏=牧場名ホーシィコーヒーハウスもそんな一人である)。それらの人々に共通するのは、馬への飽くなき思い、情熱だ。
生産地便り

▲藤原照浩氏とホーシィコーヒーハウス管理馬のストームエンジェル


 もちろん、新たに生産牧場を開業するのには、土地と施設、そして繁殖牝馬が要る。私の知る範囲で言うなら、彼らはみんな既存の牧場を借り受ける形で開業している。今後も転廃業の流れはおそらく変わるまい。その多くが中小規模の生産牧場であろう。そんな牧場のすべてが大手に吸収合併されるとは思えないので、今後は牧場の「空き家問題」もより深刻になってきそうだ。

 そこで、借りたい側(開業したい側)と、牧場を貸したい側の間を取り持つ公的機関の役割がより重要になってくる。新たに開業した人々は、そうした空き物件を探し、それぞれ条件が折り合って開業に踏み切ったはずである。もちろん、それなりに初期投資は必要だろうが、「居抜き」でまず物件を確保し、当面は、協力してもらえそうな馬主から繁殖牝馬を預けてもらいながら、最低限の収入を確保しつつ、徐々に自分色の牧場を作り上げて行く。おそらくこの方法が最もベストであろうと思われる。

 もはや生産牧場として親から子に、子から孫にと代を繋いで行くのは至難の業だ。とりわけ経営規模が小さければ小さいほど、そうである。今後は、新規開業希望者に、いかにしてスムーズに牧場を繋いで行けるかがカギになるだろう。それしか、生産地としての日高の未来はないと信じている。

 今後は、不定期、単発で何かを発表するつもり、と先に書いた。今、考えているのは、そうした新規開業組の新しい生産者たちに焦点を当てて取り上げることがひとつ。

 そして、競馬の未来を担う若者たちへの視点も忘れずに持っておきたいと思っている。具体的には、日本で唯一、サラブレッド生産を授業の一環として取り入れている静内農業高校の生徒たちに取材する企画である。

「できるだけ前向きな明るい内容」になるものを、と書いたのは、そういう意図による。

 どこまで対象に肉薄できるかは未知数だが、何とか老体に鞭打って、微力ながら今後も生産地での取材を続けて行きたいと考えている。

【連載終了のお知らせ】
当コラムは本日の更新を持ちまして、連載を終了させていただくことになりました。長い間のご愛顧、まことにありがとうございました。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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