The WinkS - Privacy(‘86 JPN)
大人の階段というものはとても険しいもので、誰もがスイスイと簡単に登れるものではありません。つまづいてばかりの人や、中には足をくじいてしまって一歩も動けない人だっているはずです。僕はどちらかと言えば、その人間です。
「大人になるってどういうことなのだろう?」
そんなことを考えている時に聴く、日本のネオモッズのレコード。「自分の存在意義とは何か?」という、MODS達の自分なりの答えがギッシリと詰まっていて、聴く度に色々と考えさせられてしまいます。
その中でも、悩めるMOD BOY・MOD GIRLの、もろいガラスのハートをレコードにしてしまったという、素晴らしすぎるバンドが、このThe WinkSです。
このレコードは、これまで長らく都市伝説的にその存在が語られていただけで、なかなか実在の盤が発見されなかったという、UMAみたいな未確認円盤のひとつでした。
大阪に“ネオモッズの貴公子”ことVONさんという、国内外のレコードをハンティングし続けている素晴らしい方がいらっしゃるのですが、そのVON兄さんからレコードの詳しい情報を教えてもらうまでは、フワフワとしたチャーミングなそのバンド名くらいしか、僕は知りませんでした。
そんな僕が、ひょんなとこからこの幻の盤を見つけてしまったというのも、なんだかなあという感じがします。
よく大人は若者の心情を、『青い』と例えますが、このレコードはまさにその宝石箱です。ジャケット・曲・歌詞・レーベル名・メンバーのルックスetc…すべてが真っ青です。
特にA-1なんて直球も直球で、曲名はずばり「グリーン」。
ギターの音もギャンギャンなネオモッズ的なやつではなく、リッケンバッカーと言うよりは、ショボいテスコって感じの音でグッときます。
やけに高等テクニックなドラムとベースは、きっと可愛い隣のクラスのマドンナの気を引くために習得した涙の賜物なのでしょう。(きっと違う)
一聴し、その演奏は思春期における少年の心情を、真空パックしているなあと思いました。
A-2「レコード・コレクター」は、ラリったレコードジャンキーに芽生えた恋心を、まるで箱からレコードをスパスパ抜く要領で、めくるめくモッドビートに乗せて歌ったど名曲です。
B-2「君とオーティス」では、そんなレコードジャンキーが、最愛の彼女とレコードを同時に失い、失望の中でもがき苦しむも、「上がらない雨はない」と前向きに生きる術を見出だし、ふと窓の外を見るとパアアと雨雲の隙間から陽射しが差してくるような(長い)、とにかく奇跡の超名曲なのです。
ジャンルを問わず、色んな中毒患者の人達に聴いて欲しい、奇跡のレコードです。
2013年11月25日、元メンバーである吉田一麿さんのご協力のもと、CD-Rでオフィシャル再発されましたが、それに関ることが出来たことを、僕は一生誇りに思い続けます。