見えないものを暗示させる罫線 その2
おとといに引き続き
「見えないものを暗示させる罫線」の
第2回目です。
こちらは『ピカイチ事典・からだの道具篇2010-11年版/5歳若い自分に戻る本』
(カタログハウス)という本、32ページの全体をスキャンしたものです。手首の写真に注目、下に罫線が用いられています。これによって、手首が何か別の場所(机の下など)から出てきたかのように暗示することができるのです。
▲試しに罫線を消してみましたが、
突然手首が出てくると、
なんかグロテスクに見えませんか?
▲やはり罫線があるもののほうが安心して見られます。
……なんですけれど、(これはどんなデザインにおいても言えることなのですが)どの場合においても罫線を使えば良いかというと、やはりそういうわけでもなくて、罫線を使うことなく、以下のように表現されることもあると思います。
▲縁と影をつけて、写真を切り抜いたことを前面に押し出す加工。かわいい系・ポップ系のものでよく見られる気がします。コラージュの一部分として使われることもありますね。上で示した「単に罫線がないもの」よりはワンクッション置かれている感じです。
▲写真の終わりをグラデーションで透明にしていく加工。写真が手首である以上は、前のパターンも含めて「ややグロテスク」なのを回避することはできないのですが、何も加工されてないものよりは安心して見られると思います。
見えないものを暗示させる罫線 その1
久々の更新になりました。
動画はやめて普通にテキストと画像にします。
今回取り上げるのは
「見えないものを暗示させる罫線」です。
▲これは「日本のタイポグラフィックデザイン 1925-95 文字は黙っていない」(監修 松岡正剛 田中一光 浅葉克己/トランスアート)という書籍の12ページ目をスキャンしたものです。アートディレクションが田中一光さんで、デザインは太田徹也さん。99年に初版が出ていて、本文が写研のMMOKL(石井中明朝体仮名ラージオールド)のツメ組みでかなり美しいですが、1ページまるごと本文が読めてしまうと著作権の問題が出そうなのでモザイクかけてます、すみません。
ここで注目したいのは見出し部分です。「1」と「モダン日本の風景」という文字の間に罫線が1本ひかれています。このたった1本が全体をシャープに引き締めているのですが、読者に点線のスペースを感じさせ、文字周辺を大きく見せているのです。
「文字は小さく扱いたいが、見出し部分には罫線の長さくらいのウェイトが必要だ」という意図なのかもしれません。
上に載せた1ページ全体の画像から罫線を見えなくした結果です。なんだか不安定だし、見出しも頼りなく見えませんか?
「見えないものを暗示させる罫線」は、あと1回か2回更新します。
〈動画〉大小を揃える罫線
先週「大きさを揃える罫線」というテーマで動画をつくりました。
SNSでは告知したのですが、こちらにも載せてみます。
罫線の使い方を紹介するのは、
画像と文章よりも「動画」の方が分かりやすいだろう、
と思って作り進めたのですが、
案外そうではなかったかもしれません。失敗かも。
興味のある方はどうぞご覧くださいませ。
罫線をスライドで、YouTubeで。
ご無沙汰いたしております。
しばらく更新のなかったこのブログですが、
ちょっと軽くお知らせをさせて頂きます。
来週の1月22日(金)16:40〜に、
東海大学札幌キャンパス(N212教室)にて、
講演会を開かせて頂く事になりました。
(私は旭川キャンパス出身なのです)
「グラフィックデザインにおける
罫線の効果的な使いかた講座」というものです。
内容はここに載せているものと被りますが、
ブログという、文字と写真だけで
罫線を解説していくことには
ちょっと限界を感じていました。
その点、講演会のような場所で
スライド発表するのはとても
この題材に合っているのです。
……といっても
どんな雰囲気か分からない方も
多いかと思いますので、
YouTubeに予告動画をアップしてみました。
一般聴講も可能なので、
興味のあるかたは是非おいで下さい。
見出しを示す罫線 その3
またまた「見出しを示す罫線」を取り上げてみます。
こちらをご覧ください(↓)
(↑)こちらも工藤強勝氏によるデザイン。
『紙の大百科』(美術出版社)の116ページより
引用させていただきました。
ただこちらでは分かりづらいので、
これから説明したい箇所を拡大してみます(↓)
(↑)こんな感じ。
見出しやリードの横に表罫(→用語解説)
が用いられてることにより、
静かな緊張感と知性的な印象が与えられています。
縦線も横線も、文字の幅より長いですが、
これにより空間の広がりが暗示されています。
空間の広がりを暗示と書きましたが、
じゃあ、罫線と文字の幅が同じだと
どうなるでしょうか……?
(↑)こんな感じ。
全体から動きがなくなり、
おとなしくまとまりすぎてしまうと思います。
では、また別の作例を検証してみます(↓)
(↑)こちら。文字と罫線の間に空間を設けた例です。
不自然な空間が緊張感を無くし、
文字を引き立たせる役目を無くしてしまうほか、
罫線が独立した意味を持ちすぎてしまいます。
続いての検証画像(↓)
(↑)表罫を裏罫(→用語解説)にしてみた例です。
罫線が文字に対して主張しすぎてしまい、
知性的な印象が無くなってしまいます。
続いての検証画像(↓)
(↑)表罫と波罫(→用語解説)にしてみた例です。
罫線が独立した意味を持ちすぎてしまい、
どうして波罫なのかという理屈も伴いません。
知性も緊張感も全く無くなってしまいます。
(↓)続いて…
(↑)続いて取り上げるのが、
米谷テツヤさんがアートディレクションを手がける
「+DESIGNING VOLUME23」
(毎日コミュニケーションズ)の表紙です。
(↑)こちらが一部の拡大画像。表紙の見出しの
すぐ上に罫線が用いられています。
見出しを目立たせる効果に加え、
情報を区切る効果も担っています。
しかし、また検証を加えて…(↓)
(↑)罫線の位置と見出しを離してみると、
情報を区切る効果はあるものの、見出しは目立ちません。
続いてこちら(↓)
(↑)先に紹介した「+DESIGNING」と同じく、
見出しを目立たせる効果と情報を区切る効果の
両方を担っていますが、ここでは
「見出しの示すもの(書体)はどれか」
という方向線としての役割も担っています。
(『秀英体生誕100年』〈大日本印刷〉26ページより)
とりあえず今回はこんなところ。
罫線の種類
最初にこの記事を書けば良かったですね(^_^;)
基本的な罫線の種類を以下に記しておきます。
文献によって罫線の呼称は違ったりするんですけど、
ここでは『句読点、記号・符号活用辞典。』(小学館)の
162ページの資料を参考とすることにしました。
ちなみに、日本工業標準調査会のWebサイトで閲覧できる資料
「JIS X 4051 日本語文書の組版方法」には、
罫線の用語解説として以下のように記されています。
けい(罫)線 複数の項目を二次元的に区切るために用いるもの。横けい及び縦けいがある。けい線は、実線や破線などのけい線種、けい線の太さ、可視、不可視などのけい線属性を持つ。実線の主なけい線には、細い順に並べると、表(おもて)けい、中細(ちゅうほそ)けい及び裏(うら)けいがある。
備考 けい線は、けい線の太さの中心までの距離を指定された空き量としてけい線を配置する。
参考 表けい、中細けい及び裏けいの太さ
表けい 0.12mm
中細けい 0.25mm
裏けい 0.4mm
DTPの時代において、この「表けい」や「裏けい」といった
名称がどれだけ使われているか分からないんですけど、
参考資料として示しました。
また、JISの定めた基準がどれだけ厳格に守られているかも
わからない(デザイナーによっては、単位をミリではなく
ポイント〈1ポイント=0.3528ミリ〉にしていることもあることから)
んですけどね。表罫は0.25ptとか0.3ptだったりしますよね……。
今後のブログ記事ではここに示した用語も使っていく予定ですが、
その言葉を使った時点でこの記事にリンクさせるつもりであります。
見出しを示す罫線 その2(裁ち落し囲みケイ)
きょう紹介するのは、
見出しを示す罫線の第2弾、
工藤強勝氏が「裁ち落し囲みケイ」
と書いていたものと、
それに似たものです。
自作が多いので恐縮ですが、
こちらは私が2008年にデザインさせて頂いた
大学研究所の所報の一部です。
(『NR+』東海大学北方生活研究所所報 No.34 2008 20ページ)
「フィン・ユール邸の家具配置」というタイトルの上に
太い罫線(無双ケイと言います)を配置してみました。
細い明朝体の見出しが強調できたほか、
紙面全体を引き締める効果が演出できたと思っています。
罫線のあるものと無いものを並べてみます。
線がないと、どうも間の抜けた印象になるでしょう……?
さて、上図は、グラフィックデザイナーの工藤強勝氏による
指定紙の一部です。罫線に対する指定の痕跡が見てとれます。
(タイポグラフィ・タイプフェイスの現在
〈女子美術大学〉172ページより)
楷書体の文字だけでは「タイトルとして弱い」と判断した結果
罫線を引くことになったのでしょうか……?(推測ですが)
そしてこちらが完成形。
(タイポグラフィ・タイプフェイスの現在
〈女子美術大学〉172ページより)
上図は先に取り上げた
工藤強勝氏デザインの「住まう」の
本文ページ指定紙です。
「裁ち落し囲みケイ入れる」と書いてありますね。
この名称ははじめて知りました。
他の方もそう呼んでるのでしょうか……?
そして……
指定紙を経て完成されました。
罫線により全体が引き締まっていてカッコイイですね◎。
(デザイン解体新書
〈工藤強勝 ワークスコーポレーション〉72〜73ページより)
こちらは私が2010年に自らデザインしたパンフレット。
シンプルに見せようと装飾は極力排除しているものの、
右上に重要な解説文があるため、
下図のように罫線を引くことで目立たせました。
上図は2011年にデザインした自作ポートフォリオの一部です。
ビジュアル全体をしっかり見せたかったので、
見出しを左下の隅に追いやってしまいましたが……。
罫線を引くことで見出しが惹きたつように調整しました。
こちらは2010年に自らデザインさせて頂いたパンフレット。
見出し部分に太い罫線を引いたものの、
色のベタ塗りでは主張が強すぎると判断し、
グラデーション処理を施して色が抜けるようにしました。
補足ですが、罫線の主張を弱くするためには
「色の濃度を下げる」という手法もありますし、
どんな色を使うかによっても印象が変わりますね。
とりあえず、今回はこんなところ。