演劇女子部「ネガポジポジ」

演劇女子部「ネガポジポジ」

ハロプロ研修生+つばきファクトリーによる舞台、演劇女子部「ネガポジポジ」を観た。

あのような前衛的でマッドな(…そう評して差し支えないと思う)作品を、10代前半から中盤の女の子たちが中心になって演じ、15日以上に及ぶ公演が連日ハロプロファンで埋まる光景がとてつもなくパンク、というか、演劇の未来を明るく照らしているようだった。

A・B・C3チームによるローテーションのうち、結局自分が観たのはAチームの一回だけで、その日はセリフのミスなどまだ不慣れな部分もあったけど、素朴な印象のメインキャストの二人(山岸理子と加賀楓)が、演技と素の自分とのギリギリの境界線上でぶつかり合う姿に胸を撃たれた。この舞台に関しては、自分の殻を壊せる人、もしくは、もともと自分の殻を持ってない人が強い、という気がする。アンサンブルではハロプロ研修生に加入したばかりの(元はちきんガールズ)川村文乃が強烈な印象を残していた。彼女に関しては評価の底が本当に見えない。どれだけたくさんの可能性を持っているんだろう。Aチームのメインキャストの5人(山岸理子、加賀楓、堀江葵月、清野桃々姫、金津美月)は全員好印象だった。

ツイートにも記した後半の「山川恵津子風シティポップ」(先行発売のサウンドトラックEPには未収録)に合わせて全員で踊る場面がとても艶かしく(昔ミニシアター系の作品ばかり扱うレンタルビデオ店で借りて観た『ヘリウッド』という日本のB級ミュージカル映画の一場面を連想した)、終わった後も悪夢のようにずっと頭の中でループしていた(現在も)。ハロプロには、歌にもダンスにも厳格な「ハロプロらしさ」のレギュレーションがあって(つんくイズム、みたいな)、普段のパフォーマンスやコンサートでその枠をはみ出すことは絶対にないのだけど、あの場面で、ハロプロらしさから逸脱したフォーマット(グルーヴ)の曲でみんなが踊っている様子に、その禁忌を破るような興奮を感じたところもあったんじゃないか、と振り返って感じている。DVD+完全版サントラとのセットでリリースしてくれたら嬉しいし、設定やセリフなどよくわからなかったところは、DVDなどでもう一度確かめてみたいな、と。ナレーションで、80年代当時の女子アナを模してわざと何度も噛むところとか、掟破りな小ネタがそこかしこに隠されていた。

>>「ネガポジポジ」の設定と元ネタをゆとり世代がまとめてみた|愛を確認しちゃう
……このレビュー、面白かったです。
 
negaposiposi-sch
 
[2017/02/24追記]

DVDの発売がアナウンスされました。先行受注(終了)と一般発売も行われます。
サントラCDはフル収録。

>>Amazon.co.jp

2016年11月3日(木)~11月20日(日)池袋シアターグリーン BIG TREE THEATERで行われた、演劇女子部「ネガポジポジ」を映像化!
3チームのキャスト別に収録、DVD3枚に加えて、サントラCD1枚を加えた4枚組。
出演
《チームA》
キャスト:山岸理子、加賀楓、堀江葵月、金津美月、清野桃々姫
アンサンブル:川村文乃、横山玲奈、小野瑞歩、高瀬くるみ、前田こころ、吉田真理恵、西田汐里
《チームB》
キャスト:小野瑞歩、高瀬くるみ、前田こころ、吉田真理恵、小野田暖優(演劇女子部)
アンサンブル:川村文乃、横山玲奈、浅倉樹々、小片リサ、一岡伶奈、小野琴己、西田汐里
《チームC》
キャスト:浅倉樹々、小片リサ、一岡伶奈、小野琴己、西田汐里
アンサンブル:川村文乃、横山玲奈、山岸理子、加賀楓、堀江葵月、清野桃々姫、吉田真理恵
※梨木智香、須藤茉麻は全公演に出演致します。
東京の片隅でせんべい屋を営んでいる「万田(まんでん)家」。父はおらず、ひとりの母と、多感な4人姉妹で暮らしている。
1988年の大晦日、まんでん家に次女・りさの“友達”由美がやってきた。
ポジポジしている由美とネガネガしているりさ、友達になれそうでなれない二人。
ニッポン中が「バブル景気」に沸き立っていたあの時代から、未来の扉が見えなかった世紀末にかけて、
彼女たちのいびつな成長や衰退を、「家族」のいる場所から綴っていくヘンテコオペレッタ。
その名も「ネガポジポジ」。
収録時間:DVD3枚組各約110分+サントラCD付

2004年のイスタンブールメモ

2004年のイスタンブールメモ

トルコのイスタンブールに観光で約一週間滞在したのは2004年、いまから12年前のことだった。結婚して最初の夫婦旅だったので、事実上の新婚旅行ということになる。街のあちこちで見た美しい風景や人々の優しさが、いまだに脳裡に焼き付いている。そんなイスタンブールの平穏だった日常を壊してしまいかねない出来事が、ここ数年、とくに今年に入って立て続けに起こっていることに心を痛めている。

当時の旅行記「イスタンブールメモ」がハードディスクに残っていたので、今回ネットにアップしようと思う。おみやげと一緒に、仲の良かった人たちに渡す目的で書いた文章だった。特別に面白い内容やメッセージ的なことが書かれているわけではなく、旅を通して体験したことや感じたことがただ淡々と記されているだけだが、あの頃のイスタンブールの空気がなんとなく伝わるのではないだろうか。

文中でも少し触れているが、この時期にも既にテロは存在していた(シリア国境やアンカラ方面など)。しかし、9.11から3年後、2004年のイスタンブールはまだ、トルコ建国から続いてきた世俗主義とイスラム的価値観が共存する、ピースフルな空気に満ちていたように思えた。

12年後の現在、イスラム原理主義へと扉が閉ざされてゆく状況の裏には、中東情勢やEUとの関連など、反動、とはひと言で片付けられない様々な問題が横たわっているのだろう。トルコに限らず、イギリス、日本、アメリカ、アジアからヨーロッパまで、同じ色の雲が世界中を覆いつつあるのを、ひりひりした予兆とともに感じている。

いまのトルコや、この時代に対して言いたいことは山のようにあるけど、あえて何も考えていないかのように口を閉ざしておこう。あのとき、イスタンブールの街のあちこちで無数に見かけたネコたちがそうしていたように。

>>放送24局 免許取り消し 公務員2.5万人処分|毎日新聞

イスタンブールメモ(2004)

イスタンブールを一週間ほど旅してきました。妻がイスラム教とキリスト教の歴史について勉強したのがきっかけで、トルコの美しさに興味を持ったこと。こんな時期だからこそイスラムの文化に触れてみたいと思ったこと。たまたま出たばかりの旅雑誌「ニュートラル」(現・TRANSIT)のイスラム特集があまりに素晴らしかったり、「ミュージックマガジン」でもトルコ他の地中海音楽が紹介されていて、タイミングを感じたのでした。

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旅の概要

イスタンブールメモ

イスタンブールはトルコ最大の都市で、アジアとヨーロッパにまたがる東西文化の交差点。ボスフォラス海峡をはさんで、歴史的建造物とバザール(市場)がぎゅうぎゅうに詰まった旧市街と若者文化が栄える新市街があるヨーロッパ・サイド、住宅地の多いアジア・サイドに分かれる。

今回宿泊したのは、有名なブルー・モスクやアヤソフィアのある旧市街のスルタン・アフメット地区。「深夜特急」で沢木耕太郎が泊まった宿のすぐ近く。旅行中はずっと晴れていて、最高28℃/最低18℃の過ごしやすい夏の気候。公用語はトルコ語で、観光地では英語もほぼOK。移動手段はトラム(路面電車)、国鉄、バス、タクシー、メトロ、そして船。

街の印象

ヨーロッパの合理性(街全体の近代性)とアジアの猥雑さ(屋台、物売りが多い)の両方が絶妙にブレンドされている。ヨーロッパの人々にとってはアジアの雰囲気を手軽に体験できる最も近い場所とあって、たくさんの旅行者が観光で訪れていた。日本人観光客も多かった。トルコ人が日本人に対して親切といううわさは本当で、困ったとき、商売人にも普通の人にも何度も助けられた。

テロのことは行く前からずっと気がかりだったが、暮らしている人々の表情はいたって明るく平和な雰囲気に感じられた。ただ、人が集まる繁華街や観光地を中心に市内の至る所で膨大な数の警官や軍人の姿が目に付いた。穏やかで威圧感はあまりなく、守られている安心感の方が強かった。

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モスク

市内にはモスク(トルコ語でジャミイ)と呼ばれるイスラム教の礼拝堂が500以上あり、人々が毎日礼拝に訪れる。一般の人も入ることができ、無数のタイルやイスラム絨毯の紋様、アラビア文字のカリグラフィ、ステンドグラスが多くの観光客を魅了する。朝や夕方など決まった時間に市内のモスクのスピーカーから一斉に流れるコーランの歌声も美しい。

モスクは一つ一つ美しさが違い、観光客が一番多いブルー・モスクのほか、青いタイルがひときわ美しいリュステム・パシャ・ジャミイ、絨毯や窓枠などが珍しいモスグリーンで統一されたオルタキョイ・ジャミイが特に印象に残った。イスラム建築の様式はモスクの他にも、古い建物や博物館など至る所で見ることができる。イスラム様式とヨーロッパの近代建築が複雑に絡み合うところが、イスタンブールの街の面白さだった。

バザール

イスタンブールメモ

旧市街には数多くのバザール(市場)がある。土産物や宝飾品から生活用品まで揃うグランド・バザール、食品や香辛料が多いエジプシャン・バザールのほか、革製品、靴、ジーンズ、大工道具、ペット用品のバザールなど。店は業種ごとにほぼ一箇所にかたまっていて、たとえば靴の市場だったら靴屋が100店舗以上並んで「靴・靴・靴……」、ジーンズの市場も同様に「ジーンズ、ジーンズ、ジーンズ……」という感じ。それらの店の合間にケバブなどのファーストフード屋があったりして、バザールはイスタンブールでもとりわけアジアの匂いを強く感じる場所だった。

どこも香辛料の匂いが強烈に漂い、鼻が弱いので鼻炎によるくしゃみに悩まされた(帰国したらすぐ治った)。

食べ物

トルコ料理の特徴は、油っこい(オリーブオイルを多用するため)、乳製品 (ヨーグルト)をよく使う、サバなどの魚がおいしい、野菜が多い、豚肉は宗教上食べられず羊肉や鶏肉が使われる、辛さなどの刺激は少なくまろやかさがある、など。世界三大料理に数えられることでも有名。

屋根のある店で食べる料理よりも、屋台で売っている安いファーストフードを外でほおばる方がおいしく感じられた。日本でも見かけるケバブサンド。「深夜特急」にも出ていた、焼いた(or揚げた)サバと野菜をフランスパンのバケット半切れにはさみ、レモン汁と塩をたっぷりかけて食べるパラムート(通称サバサンド。これがベスト屋台食)。ゴマがたっぷりついた香ばしい揚げパンのシミット。薄くクレープ風に焼いた丸い生地で香りのある草を巻いて食べるラフマジュン。どれもおいしいうえに、日本円にして100円程度の安さ。

クムカプという港の近くのレストラン街では魚料理がおいしいと聞いて、食べに行った。シー・バス(店のおじさんは日本語で「スズキ」と言っていた)をトマトソースとマッシュルームで煮込んだ料理が絶品。ほかにも、いろんな種類の料理をバイキング風に選んで皿に載せてもらえるロカンタ(トルコ式食堂)がやさしい家庭料理風の味で良かった。トルコのレストランではパンが食べ放題。唯一、ヨーグルトを使った料理とヨーグルトドリンクのアイランだけはどうしても苦手だった。

飲み物ではトルコ紅茶のチャイ。日本で一般に知られているインド風のスパイシー・ミルクティーではなく、少し濃いめの紅茶。アップルティーが特においしい。専用のグラスと皿で出てくる。絨毯屋などのお店ではお客に気前よく振る舞われる。トルコ式コーヒーはエスプレッソやベトナムコーヒーに似ていて、ちょっと苦いので水とセットで出てくる。コーヒーの挽き粉が沈むまでしばらくおく。夏は暑いため、街を歩くにはミネラルウォーターが必須で、売店で500mlのペットボトルが30円、1.5Lが50円。スーパーでまとめ買いすればもっと安い。コーラ350mlは70円。

デザートでは、日本でも「トルコ風アイス」として有名なのびるアイスのドンドゥルマ。ご飯粒の入ったライスプリンなど。ターキッシュ・ディライトという別名がある、トルコの伝統的なお菓子のロクムも有名。でもデザート・お菓子系はどれも激甘。

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音楽

街から自然に聞こえてくるトルコ語のポップスが面白かった。ヒップホップやトランスをベースにトルコ語のこぶしが効いたヴォーカルが乗り、ちょっと昔のバングラビートが進化した感じ。でも欧米の借り物でなくオリジナリティが感じられる。

日本では演歌を聴くような世代がダンス系の音楽を普通に聴いていた。街でタクシーを拾ったとき、中年の運転手がJ-WAVE的なFMの最新トルコポップスを爆音で流していたり、民芸品屋の親父がトルコ語のラップを聴いていたり。狭い観測範囲だけど、日本のような「高年齢の人は演歌、ファミリー層はニューミュージック、若者はJ-POPやアイドル」といった年齢・世代別のマーケットの棲み分けがトルコには少ないように感じられた。日本でいえば、氷川きよしが演歌ではなくEXILEやChemistryのオケに乗せてあの調子で歌ったら、世代を越えて爆発的にヒットするかも、みたいな感じ。

CDショップは、銀座っぽい新市街のイスティクラル通りを中心に大きな店が何軒か。伝統音楽を扱う小さな店も多数。HMVやTOWERなど外資系チェーンは無し。洋楽よりドメスティックが強く、メディアはCDとカセットが半々。海賊盤もコピーコントロールCDも、見た限りでは皆無だった。偶然入ったショップの店員はとても親切で、ぼくのCD探しに付き合い、その場で新品の封を開けて試聴させてくれた。トルコ語のヴォーカルものとアンビエント/トランス系を6枚ほど購入。1枚が最低500円から高くても1000円台。

アート

歴史的建造物のトプカプ宮殿アヤソフィアは博物館になっていて、収蔵品やモザイク画などを展示していた。

今回現代アートには期待していなかったが、偶然立ち寄ったアヤイリニという巨大なキリスト教会跡で、トルコ〜ギリシャの現代美術家の展示を見ることができた。絵画、写真、立体作品など。イスタンブールでは2年に一度「イスタンブール・ビエンナーレ」という現代美術と音楽の祭典が開かれていて、もともとアートの盛んな場所。残念ながら今年は会期ではなかった。

古本蚤の市も一応のぞいてみたが、ペーパーバックや教科書のお古など実用的な本が中心で、特に目を引くものはなかった。

イスタンブールメモ イスタンブールメモ

トルコの写真家Nazif Topcuoglu(www.naziftopcuoglu.com)の作品。
少女たちが図書館で写真について学ぶ「Teaching Photography」シリーズ。

4

ファッション

トルコ人は美しい。男性はがっしりとたくましく、女性はぴしっと締まっている。グラマーとかマッチョでなく、余計な物が付いてなくて骨格と姿勢が良い(肥満の人からもそれを感じた)。帰国後、電車や街で日本人を見て、その体格のあまりの違いに失望した(他人のことは言えない)。

服の色で目に付いたのはターコイズブルー。日本で流行っているグリーンぽい青(エメラルドグリーン)ではなく、トルコ石の青。今年の流行色なのか、トルコだからなのか、とにかく目立っていた。ターコイズブルーはトラム(路面電車)の外装や公衆電話など街の各所で使われていた。

女性はイスラム正装の割合が半分以下くらい。パシュミナ(頭にかける布)と長袖コートで色を合わせたりして、おしゃれを楽しんでいるようだった。

ハマム

イスタンブールメモ

ハマムとは、早朝から深夜まで営業しているトルコ式風呂。イスタンブールを発つ朝に行った。サウナ風の暖かいドーム式の部屋で30分ほど横になっていると、屈強なおじさん(女風呂は女性)がやってきてアカスリや体洗い、マッサージをしてくれる。マッサージは死ぬほど痛く、大声で叫んでしまった。顔や頭を洗うとき、顔面に容赦なく石鹸入りのお湯をぶっかけるので、途中でお湯を飲んでしまい、マッサージの衝撃と相まって息ができなくなりパニック状態に。おじさんの「うがいをしろ」というポーズを真似して何とか回復した。あとから思えば笑い話だが、幼い頃海で溺れかけたとき以来のパニック体験を通して、精神的にかなり強くなれた。

実は旅行直前に珍しく突然腰痛になってしまい、旅行中も痛みが引かず、日本に帰ったら整体に行こうとずっと思っていた。しかし、ハマムから出ると不思議なことに腰の痛みがすっかり消えていた! この日ハマムで治るために神様が腰痛にしてくれたのでは?と思ったほどだった。

ハマムのマッサージは日本のように時間をかけて揉むやり方ではなく、力任せに要所をつかんではひねる一瞬勝負。怪獣のように無神経に首や腕をぼきぼき鳴らし、太股の内側などを骨が折れるかと思うほどの強さで押して短時間でおしまい。強い力を加えているのにもかかわらず、マッサージ自体の痛みは後に引くことなく全身に心地よいしびれが残った。

トルコ人から学んだこと

一切れのスイカがそこにあるとして、種が入っているから食べないというのはナンセンスだし、我慢して種まで食べるのも同様にナンセンス。とりあえず口にして味わって、あとで種など不要な部分があれば自然に吐き出せばよい。そんなコミュニケーションにおける摂理みたいなものは仮説として頭ではわかっていたつもりだったが、今回トルコ人とのコミュニケーションを通して、身体で理解することができた。というか身体はすでに知っていた。

ハマム体験もそうだったけど、今回の旅は「身体」がキーワードだった。イスラムの歴史や建築、図案の美しさも頭ではなく身体の方に詰め込んできたので、これからじわじわと何かの折にしみ出てくるのではないかと思う。あとは、少々お節介に思われてもとにかく伝えることなど。

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おまけ

●イスタンブールはネコの街。市内あちこちでネコが寝ていた。
●TukTukCafeTシャツ(当時デザインしたグッズ)を着ていたら、「そのTシャツどこで買いましたか」と何人かのトルコ人に声をかけられた。

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中川ひろたか、カンレキ2周目ライブ!に行ってきた

中川ひろたか、カンレキ2周目ライブ!に行ってきた

11月24日(月・祝)、鎌倉芸術館小ホール「中川ひろたか、カンレキ2周目ライブ!」に行ってきた。

今年2014年の2月に還暦を迎えたシンガーソング絵本ライターの中川ひろたかさんが、早くも2周目の120歳に向けて誓いも新たにリスタート、という趣旨のライブで、これまでに活動を共にしてきた沢山の人々が代わる代わるステージに現れ、中川さんとの共演を披露していた。

還暦記念とはいえ「2周目」と銘打っているように、出演者は老いも(谷川俊太郎、工藤直子、湯浅とんぼ、etc. ……敬称略)若きも(つるの剛士、ロケットくれよん、鈴木翼、etc.)、昔を懐かしむのではなく、今の時点での関係性を基点としたコラボを行っていて、ウェットな感傷に偏らず(感動はあった)、未来への余力を残しつつ、とても前向きで瑞々しく創造的なライブだった。

次々と登場するゲストの中には、中川さんへの感謝の弁を述べていた人も多数いた。中川さんは出会った人々を幸せにしてきた人だなあと思った。ステージに登場したゲストには、中川さんと出会い、仕事のチャンスを貰ったのをきっかけに頭角を表し、やがて優秀なシンガーやプレイヤー、絵本作家として世に羽ばたいていった人も多い。逆に言えば、他者の才能をいち早く発見するセンスに長けているともいえる。そうして見出された人々が、ひとつの大きなファミリーのように中川さんの近くにはいつも集まっている。この日のゲスト以外にも、絵本画家や編集者なども含めればきっとかなりの数に登るだろう。

ライブの最後にエンドロールのようにスクリーンに流れた、中川さんの全作品リストの中から、自分が関わった仕事を数えてみたら、35作あった。数えきれないほど沢山の仕事の中で、その「35」という数字が多いのか少ないのかはよくわからないが、ぼく自身も中川さんの大きなファミリーの輪に接していることだけは、どうやら疑いようがなさそうだ。

膨大な作品リストの一番最後に登場した下中商会の4thアルバム『還暦ロック』が、この日のライブ会場で発売となった。ぼくが関わらせて貰った35作の中での最新作でもある。タイトル曲の「還暦ロック」は中川さんの憧れの詩人・谷川俊太郎さんの書き下ろしによる詞で、ライブの終盤にも谷川さんと一緒のステージで披露された。
 

>>中川ひろたかさん関連の仕事|Works
 

下中商会『還暦ロック』

クラフトワーク3-D東京公演を観てきた

クラフトワーク3-D東京公演を観てきた

クラフトワークの9年振りの大がかりな来日公演(NO NUKES 2012を除く)が大盛況のうちに終了しました。参加したのは、東京・赤坂BLITZの 5:Computer World8:Tour de France の2回だけでしたが、今回は事前にセットリストの予想記事を書いていたこともあって、コンサートへの入り込み方が通常に比べて半端なく、彼らが既に次のツアー先へ旅立ってしまったあとも興奮醒めやらぬ、といった感じでした。
 

インスタレーションから「コンサート」へ

今回の東京公演は、世界主要都市で開かれている、The Catalogue 1 2 3 4 5 6 7 8(3D映像と共に過去8作品を8日間で再現するシリーズ)の一環でした(第一回のNYのみ、Retrospective 1 2 3 4 5 6 7 8)。

ロンドン公演までは会場がいずれも美術館だったこと(ニューヨーク:MoMA、デュッセルドルフ:K20、ロンドン:Tate Modern)、また、一連のコンサートで使われている3D映像が世界初披露されたのが、ドイツ・ミュンヘンのレンバッハハウス美術館でのインスタレーション(2011/10/15~11/13)だったことから、3D映像は、もともと単なるコンサートのためのBGV、というよりも、それ自体が完結したアート〜インスタレーション的な表現として企図されたものだったことが想像されます。
 

 
ドイツ・レンバッハハウス美術館での3Dインスタレーションの様子を伝える映像
壁に設置された複数のスクリーン上の3D映像を、観客が広いギャラリースペースで観覧している。
映像は3-Dコンサートで流れた内容と同じ(ドイツ語ヴァージョン)。
メガネはコンサートのものとは形状が違い、渡し切り(配布)ではなく貸出式っぽい。
美術館のリンクが消えているため、下記は展示中の館内写真へのリンク(写真8枚・最後はコンサート)
http://goo.gl/j3l3q

 

しかし今回の東京公演で初めてアートの文脈から離れて、ライブハウスの赤坂BLITZが会場となり、9年振りの本格的な公演を待ちわびた日本のファンの熱狂的な大歓迎を受け、このシリーズでは全くやらなかったアンコールまでやってくれて……と、開始当初からのシリーズの主旨がこの8日間をきっかけに大きく変わったのではないでしょうか。3Dの映像美とサウンドと、クラフトワークのパフォーマンスと観客の反応が一体化した、まさに「完全体」ともいうべき内容で、それが予定外の東京・大阪での2回のアンコールにも繋がったのだとしたら嬉しいです。
 
 

ここからは2月に書いた「クラフトワーク3-D東京公演の曲目を予想してみた」の検証を兼ね、実際にLIVEを体験して気づいたこと、その後新たに調べてわかったことを、個人的なメモ代わりに残していきます。

クラフトワーク3-D東京公演の曲目を予想してみた|パラグラフ
https://paragraph.jp/2013/02/3-d-concerts-1-2-3-4-5-6-7-8/

 
2月に書いたデュッセルドルフ公演の内容を元にした予想でしたが、だいたい大筋で当たっていました。後半の定番曲パートでは『コンピューター・ワールド』がほぼフルで聴けたほか、「Metropolis」以外の『人間解体』収録曲が連日セットリストに含まれていました。7:The Mix は、実質「コンピューター・ワールド」+「人間解体」をフルカヴァーする内容。連日演奏された「Spacelab」の3D映像は、日本列島が映像の中に挿入された、日本公演独自の内容でした。この曲と「Radioactivity」「電卓」には、クラフトワークから日本への特別な想いのようなものを強く感じました。

純粋にレア曲、アルバム曲を多く聴くためなら、やはり 2:Radio-Activity とか 8:Tour de France あたりに行くのがベターだったかもしれません。ただ、結果的にどの日もバランスよく聴きどころが設けられ、よく考えられたセットリストだと思いました。

 
実際の演奏曲数は発表されたセットリストよりも多かった

2月に予想として挙げたデュッセルドルフに比べると、ウドーのサイトで連日発表された来日公演のセットリストの方が曲数としては若干少なめでした。が、実際にはリストに含まれない曲も組曲の一部として演奏されていたようでした。

RADIOACTIVITY = Geiger Counter + Radioactivity
TRANS-EUROPE EXPRESS = Trans-Europe Express + Metal On Metal + Abzug
HOME COMPUTER = It’s More Fun to Compute + Home Computer
BOING BOOM TSCHAK = Boing Boom Tschak + Techno Pop

こうしてカウントすると、各日のアルバム曲はほとんど演奏されたことになります(『Tour de France』の「Prologue」は、構成上演奏されていませんでした)。

 
「Radioactivity」について

NO NUKES 2012ヴァージョンの映像(2-D映像)と日本語詞の出る箇所が変わり、「TSCHERNOBYL〜」と地名を連呼する所は、日本語ではなく元の欧文に戻っていました。2月に書いた記事で「Radioactivity」について「屈辱」という表現を使ったのは、全部の歌詞が日本語フォントのヒラギノゴシックでどかーんと表示されることへの違和感/恥ずかしさが大きかったです。しかし、今回の3-D映像ではそういった恥ずかしさがなくなり、クラフトワークのメッセージや日本に対する想いがよりストレートに伝わってきた印象がありました(デュッセルドルフ、ロンドンで演奏されたのも今回と同じ、日本語詞を含むヴァージョン)。

ウィキペディアで調べたところ、「Radioactivity」の日本語詞を監修したのは坂本龍一、との記述がありました。クラフトワークとYMO一派の珍しいコラボがまたひとつ実現しました。

>>放射能(アルバム)- Wikipedia

Radioactivity(NO NUKES 2012) >>クラフトワーク公式サイト >>YouTube
 

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「Planet of Visions」について

来日公演の前に調べた各国のセットリストでは「Planet of Visions」と「EXPO2000」が混在していたり、「EXPO2000(Underground Resistance Mix)」との記載があったり少し混乱していました。総合すると、

Planet of Visions = EXPO2000 + EXPO2000 (Underground Resistance Mix)

ということになるようです。かつて「EXPO2000」として発表された曲を「EXPO REMIX」とのメドレーで演奏する時の曲名が、ある時期から「Planet of Visions」に改題された、と。このメドレー形式での演奏はおそらく2002年頃から行われていたが、曲名変更が正式に広まった/伝わったのは、ライブアルバムの『Minimum-Maximum』(2005)発表以降ではないかと思われます。

「EXPO2000」はドイツのハノーヴァー万博のテーマソングとして制作された曲でしたが、偶然見つけた当時の万博のレポート記事で、ハノーヴァー万博には「Planet of Visions」という名前のパビリオンが存在していたことがわかりました。パビリオン内で「EXPO2000」が実際に使われていたかどうかは不明です。

>>ハノーバー万博見学記 (当時万博を訪れた個人のレポート)
 

……もう一本調べ中の項目がありますが、長くなりそうなので後で追記するか、記事を別に分けます。
 

約2時間に及ぶ長丁場を、休憩や水分補給もせずずっと立ちっぱなしでこなしたクラフトワークの高齢メンバー(ラルフ67歳、ヘニング59歳…)を筆頭とした4人によるパフォーマンスとサーヴィス精神には、心から感服させられました(デュッセルドルフと、今度のシドニーでは一日二回公演も!)。さすがマンマシーン、というか、噂に聞く日頃の自転車鍛錬の賜物なのでしょうか。今度来日する時まで、彼らのタフさに付いていける体力をキープしておかないと。次回はぜひ新作での来日を!
 
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ALL TOGETHER NOW パブリック・リスニングに行ってきた

ALL TOGETHER NOW パブリック・リスニングに行ってきた

@ニッポン放送イマジン・スタジオ(4月29日)
 

OP:番宣(記者会見・番組MCコメント)〜イベント設営時の映像

MC:くり万太郎・田家秀樹
 
曲目
吉田拓郎+オフコース「お前が欲しいだけ」
THE ALFEE「星空のディスタンス」
白井貴子「Chance!」

GUEST:佐野元春(3曲のみ・トーク)
佐野元春「ヤング・ブラッズ」
佐野元春「ニューエイジ」「Happy Man」

海援隊「ラジオ体操第一」
南こうせつ・さだまさし・イルカ「神田川」
はっぴいえんど「さよならアメリカ、さよならニッポン」
サディスティック・ユーミン・バンド「タイムマシンにお願い」
サディスティック・ユーミン・バンド+財津和夫・小田和正「今だから」

吉田拓郎+オフコース「お前が欲しいだけ」「YES-NO」(動画)
 
 

国際青年年記念 ALL TOGETHER NOW by LIONは1985年、東京・国立霞ヶ丘競技場で6万人を集めて行われた日本初の大規模な音楽イベント。GW後半の5月4日・5日に、イベントの様子を伝える民放ラジオ局全国ネットの特別番組が放送されるのに先駆けて当時の秘蔵音源を聴く、パブリック・リスニング・イベントが開かれた。開催当日はラジオでの中継が主体だったため、映像記録はほとんど残されておらず、スクリーンに当日のライブ写真を映しながら進行していった。この日の参加者の中には、当日国立競技場に実際に足を運んだ方も少なからずいたようだった。
 
大規模なイベント/フェス開催のノウハウがまだ確立されていなかった時代で、国立競技場が音楽コンサートに使われる最初のケースだった。放射状に組まれたA〜Hの8つのステージを順に使ってプログラムが進められたのは、出演者毎に異なる機材やセッティングの時間を節約するアイデアだったのだろう。ステージの様子をカメラで伝えるプロジェクターもまだ存在せず、観客はみな米粒のようなステージを目を凝らして観ていた。……といったエピソードが、司会の二人により次々と語られた。
 
旧来のフォーク(吉田拓郎、南こうせつ、さだまさし、海援隊…)とニューミュージック(オフコース、チューリップ、ユーミン…)、佐野元春や白井貴子などロックに影響された新しい世代、元YMO周辺を中心としたニューウェイブ/テクノポップ勢が、4時間半のイベントの中に混在していた。中でも84年の散開以降ソロでの活躍の場を大いに広げた、YMOの三人の存在感はひときわ大きかった。12年ぶりに集結したはっぴいえんどは、Shi-Shonenの福原まりをゲストキーボードに迎えた、細野晴臣のテイストが色濃いテクノ/ニューウェイヴ風のアレンジだったし、坂本龍一、高橋幸宏が参加するサディスティック・ユーミン・バンドは、教授がこの年リリースした『未来派野郎』やアート・オブ・ノイズの流れを汲むサンプリング・エフェクトを多用した“時代の音”で、いまの耳で聴くとかなり気恥ずかしいようなアレンジの曲も中にはあった。
 
一方で、フォークからニューミュージックへバトンを渡される側の「若手」として当日のトリでイベントに出演し、この日のパブリック・リスニングにも当時を知る唯一のゲストとして参加した佐野元春の歌には、当時から現在に至るまで全くブレない古びない良さを感じた。ヒップホップなど最新の音楽を取り入れても、決してそこに流されない自分だけの世界を持っている。リリースされたばかりの「ヤング・ブラッズ」(国際青年年のテーマ曲なので、同じ冠が付けられたこのイベントのための曲でもある)を、早速レコーディングと大幅にアレンジを変えてスローヴァージョンで歌う勇気にも感服した。28年前の歌声に深く心を射抜かれた。
 
この日、公開された音源は4日・5日のオンエアではカットされたものも多かったらしい。家に帰ってネットで検索したら、この日公開されたものを含む当時の貴重な記録が発見できたので、見られるうちに見ておきたいと思う。
 

国際青年年記念 ALL TOGETHER NOW – Wikipedia(イベント当日のセットリスト)
http://urx.nu/3Xh4

オフコース with 吉田拓郎「YES-NO」(動画)
http://www.youtube.com/watch?v=3wVCoH4t9yU

サディスティック・ユーミン・バンド+財津和夫・小田和正「今だから」(動画)
http://www.youtube.com/watch?v=EC3mdoFZcOg

サディスティック・ユーミン・バンド「メドレー」
MERRY CHRISTMAS MR. LAWRENCE(坂本龍一)〜シンガプーラ(加藤和彦)〜SEOUL MUSIC(YMO)〜渚・モデラート(高中正義)〜THE BREAKING POINT(後藤次利)〜シンガプーラ
http://www.youtube.com/watch?v=S4f3LAHjHts

ALL TOGETHER NOW 1985 (当時のFM放送エアチェック音源)
http://www.youtube.com/watch?v=m0XVsY_zBl0