PECHEDENFERのブログ

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BA の搭乗グループは 10に:Group 0 の出現

 

搭乗の基本的な仕組み

優先搭乗の制度は、搭乗の自由度をかなり向上させます。会社の懐は痛まないし、会員特典としては喜ばれるので、レガシーキャリアではかなり一般的に実施されています。ただし、

 

(1) 幼児連れ、車いす利用、足腰が弱って歩行が遅いなど、搭乗に際して配慮を要する旅客は、一般客と同時に搭乗すると混乱を生じやすいので、優先搭乗の制度から外されます。

(2) このような旅客は一般客より先に搭乗、一般客より後に降機するのが基本的なスキームです。

 

集団の混乱はセキュリティの上で大問題なので、登降機は一般の客が考えるより、重要なはずです。

 

今日は BA の会員特典の話。昨年末まではゴールド会員やワンワールドエメラルド会員は Group 1、シルバー会員やワンワールドサファイア会員は Groups 2 という搭乗グループに分類されていました。ファーストクラス客は Group 1、ビジネスクラス客は基本的に Group 2 だったと思いますが、これらのキャビンの客は、ゲートの判断でかなり優先度が変わります。Group 3 以降は Group 9 まで、メインキャビンの席の位置に応じて細分化されていました。

 

(3) 定時運航率向上のため、搭乗、降機がスムーズに終了することが会社には重要

 

ですから、窓側席やキャビン後方席は早く搭乗が来ます。ここで原理的な問題点は

 

(4) 全ての客が自分のグループの搭乗時間にゲートにいるわけではないこと

(5) 前のグループに忍び込んで搭乗する客の完全排除は困難

 

なので、搭乗の最後は全グループが対象になり、9段階に細分しても、ほとんどの場合ゲートの判断で複数のグループを束ねて搭乗させます。

 

客の考えの及ぶところ

セキュリティの問題だとか、定時運航率の向上だとかは意識から消えるのか、メリットを越えて順番を気にする客がかなりいます。ソーシャルメディアでは、そういう発想が主流。立場が違えば見える世界が異なる一例です。会員特典としての優先搭乗は客の習性を利用している面もあるので、会社としてもこの傾向は無視できません。

 

さて今年 4月、BA に搭乗したところ、私の搭乗券には Group 1 ではなく、Group 0 と印字されていました。Group 9 と印字されている搭乗券もあったので、BA は搭乗グループの分割を 10 に増やしたようです。ただしゲートの裁量が大きいことは変わりようがないので、実質的な意味は限られることは容易に予想できました。

 

確かに問題は運用です。

 

ロンドン LHR から欧州便への搭乗では、Group 0 は幼児連れ、車いす利用、足腰が弱って歩行が緩慢など、搭乗に際して時間を要する旅客と同時に呼び出しがありました。日系航空会社の用語「事前改札」が消滅していたのです。会員特典としての搭乗の優先度は形式的には上がったことになります。

 

しかし現実には何も変わらないと瞬時に理解しました。

 

従業員の指示に従う限りセキュリティコントロールは会社の責任なので、搭乗時に混乱が生じる可能性を客は配慮する立場にありません。しかし健常者が社会的弱者の中で移動する、あるいは彼らを押しのけて先に行く姿が、集団の中でどういう風に映るのか考えられないと欧州では社会人として失格です。そして彼らを「自主的に」優先するなら Group 1 と変わりません。つまり Group 0 は決して使われることのない権利なのでした。確かに BA の Gruop 0 の設定は、会員サービスの向上です。ただし特典は noblesse oblige の満足感。

 

アメリカや東アジアでは他人に優先されることに極端な喜びを感じる人間が多く、弱者に対する常識が怪しくなるケースも出てきそうです。しかし JR の優先座席を優先される立場のある客と同様に健常者でも利用できるというサブスクリプションが商品として成立しますか?社会的にはそういう話です。

 

私以上に搭乗される読者の方々も多いはずですが、「Group 0 になった。事前改札と一緒に搭乗できる最優先者だ。」などと吹聴することはないよう理性を保っていただきたいと思いました。