【文献紹介】Brynjolfsson and Hitt (2000) 計算機能を超えて(3)
計算機能を超えてBrynjolfsson, E. and L.M. Hitt (2000)Beyond Computation: Information Technology, Organizational Transformation and Business PerformanceJournal of Economic Perspectives, Vol. 14, No. 4, pp. 23-48『インタンジブル・アセット』(ダイヤモンド社)第2章即効性:★★本質性:★★★信憑性:★★★ 即効性=直ぐに効果が期待できる 本質性=長期的に考えるべき点 信憑性=根拠と論理の確かさ 評価は、★ → ★★★ ---------------------------------【根拠・論拠・証拠】(その2)企業レヴェルの証拠に着目して、幾つかの事例・多数の先行実証研究に自らのグループの実証研究を加えて整理し上記のメッセイジを導出している。(2)大標本による実証研究1.情報技術投資と生産性・企業の市場価値1980年代までのマクロ経済レヴェルの実証研究では、情報投資が生産性向上をもたらしているという証拠はなく(Roach:1987, Berndt and Morrison:1995, Morrison:1996)、「生産性パラドックス」と呼ばれた(Solow: 1987)。1990年代になると、企業レヴェルの実証研究で、情報投資が生産性に影響を与えているという報告が出始めた(Brynjolfsson and Hitt:1995/96, Lichtenberg:1995)。[図1(p.80)]は、IT 資本と生産性との関係を示す。実証研究によると、コンピュータ資本の一般的産出への貢献は1ドル当たり60セント/年と推定され(Brynjolfsson and Hitt:1995/96, Lichtenberg:1995, Dewan and Min:1997)、これは想定される正常収益率の42セント/年より大きい(Brynjolfsson and Hitt:2000)。これは、異常に大きな投資収益か、測定されていないコストか投資への障壁があることを示している。同様に情報システム労働の産出への貢献は1ドルにつき1ドルを超え、6ドルにもなることもある。実証研究を総括すると IT は産出のかなりの増加と関連しているといえるが、そのメカニズムや因果性については確かなことは言えない。しかし、双方向の因果性がありそうである。測定されたコンピュータ投資の産出弾力性は、一貫して大きすぎて、計測されていないインプットの存在が示唆されている。また、組織特性を導入すると、コンピュータ投資の産出弾力性が半減することから、組織要因が IT 投資の収益性に大きく影響していることが分かる(Brynjolfsson and Hitt:1995)。さらに、IT の効果は、長期の測定の際に著しく大きくなる。1年間の IT 投資と1年間の生産性向上を比較すると大体等しいが、長期の効果は2から8倍になる。短期の効果は直接的効果だが、長期的には組織投資の効果が現れていると考えられる。1ドルの通常資産は株式市場でほぼ1ドルに評価されるが、1ドルの IT 資産は Fortune 1000 の1987-94年についてみると、5ドルから20ドルの市場価値に相当している(Brynjolfsson and Yang:1997)。IT 資産は相対的に多額の不可視資産と関連していて、企業は1ドルの IT 資産に対して4ドルから19ドルの不可視資産を取得していると考えることができる。あるいは、IT が効果的に機能する前に、多額の調整費用が必要だと見ることもできる。2.組織特性と情報技術の活用一般的に、分権的で組織成員にかんする要求能力が高い組織ほど、IT 投資は大きい。大企業400社の調査によると、IT 利用は、分権化・高いスキルと訓練・採用前のスクリーニングと関連しているだけでなく、変数同士も相関しているので、補完的なワークシステムの一部であると考えられる(Breshahan, Brynjolfsson and Hitt: 2000)。自動車修理業では、コンピュータは定型的業務を代替し、非定型的な認知を必要とする業務と補完的である(Levy, Beamish, Murnane and Autot: 2000)。銀行業では、コンピュータの組織的効果の大きさは、組織の再設計等の経営意思決定に依存する(Hunter, Bernhardt, Hughs and Skuratowitz: 2000, Murnane, Levy and Autor: 1999)。企業レベルでは、既存の技術基盤と業務慣行の補完性が新技術採用の主要決定要因である(Breshahan and Greenstein: 1997)。産業レベルの研究によると、ハイテク機器への投資と高学歴労働者の需要とは強い関連がある(Berndt, Morrison and Rosenblum:1992, Berman, Bound and Griliches:1994, Autor, Katz and Krueger:1998)。産業組織的には、IT 投資は、企業規模および垂直統合の減少と関連している(Brynjolfsson, Malone, Gurbaxani and Kambil:1994, Hitt:1999, Malone, Yates and Benjamin:1987, Gurbaxani and Whang:1991, Clemons and Row:1992)。3.組織特性・情報技術の活用・生産性分権的な組織は、平均的な組織に比較して、IT 投資の生産性弾力性が13%、IT 投資の絶対額が10%高い。また、IT 投資と分権化の程度の両者がともに高い方の半分に属する企業は、どちらか一方が高い方の半分に属する企業より、生産性が5%高い(Bresnahan, Brynjolfsson and Hitt:2000)。分権化で上位三分位に属する企業は、他の資産をコントロール後に、6%市場総額が高くなる。また1ドルの IT 資産の市場価値は、IT 使用度にかかわらず、集権的な企業に比較して2-5ドル高くなる[図2(p.91)](Brynjolfsson, Hitt and Yang:2000)。技術への投資と、これによって可能になった組織と業務慣行の変化が、生産性向上と市場総額に貢献していることは明らかだが、尺度を含めて一層の研究が必要である。