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網迫の「質より量」では、著作権切れのデータを公開しています。データというぐらいで、読書には耐えないかもしれません。(OCRで読んだものに少しだけ手を入れて載せています。)
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網迫の電子テキスト@Wikiというのも作ってみました。ここや「質より量」のテキストを訂正して、そちらのwikiに貼り附けていただいても構いません。


この楽天日記にテキスト貼る作業を続ける必要はないのですけれども、せっかく毎日の日課となっているので、ペースを守るために、続けてみます。

売りは「質より量」


2006年05月01日
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画《ゑ》の謝礼
 寺崎広業、小堀|靹音《ともね》、川合玉堂、結城素明《ゆふきそめい》、鏑木清方、平福《ひらふく》百|穂《すい》などいふ東京の画家は、近頃呉服屋が画家《ゑかき》に対して、随分得手勝手な真似をするので、懲らしめの為に、高島屋の絵画展覧会には一切出品しない事に定《き》めたさうだ。
 それには呉服屋が店の関係上、上方の栖鳳や春挙の作に比べると、東京側の作家のものを、幾らか値段を低くつける傾向《かたむき》があるにも依るらしいといふ事だ。
 大分以前京都のある呉服屋が栖鳳、香矯、芳文、華香の四人に半截を一枚宛頼んだ事があつた。出来上つてから店の番頭が金子《きんす》一封を持つて華香氏の許《とこ》へお礼に往つたものだ。
 猫のやうな京都画家のなかで、唯《たつた》一人|帆《ほ》える事を知つてゐる華香氏は、番頭の前でその封を押切つてみた。(むかしく大雅堂は謝礼を封の儘、畳の下へ投《ほ》り込んで置いたといふが、その頃には狡い呉服屋の封銀《ふうぎん》といふ物は無かつたらしい。)なかには五十円の小切手が一枚入つてゐた。
 「五十円とは余りぢやないか。」
と華香氏は番頭の顔を見た。番頭は小鳥のやうにひよつくり頭を下げた。
 「でも香矯先生にも、芳文先生にもそれで御辛抱願ひましたんやさかい。」
 華香氏は鼻毛を一本引つこ抜いて爪先で番頭の方へ弾《はじ》き飛ばした。
 「ぢや栖鳳君には幾ら払つたね。」
 番頭はさも困つたらしく頸窩《ぼんのくぼ》を抱へた。
 「栖鳳さんは店と特別の関係がおすもんやさかい…:.」
 「ぢや百円も払つたかな。」
 華香氏は坐禅をした人だけに、蛙のやうに水を見ると飛ぴ込む事を知つてゐた。
 「へ、ゝ……まあ、そんなもので。」と番頭は一寸お辞儀をした。
 「ぢや、竹内君をも怒らせないで、後《あと》の私達三人をも喜ばせる法を教へようかな。」
と華香氏は大真面目な顔をして胡坐《あぐら》を組んだ。
 先刻《さつき》から大分痛めつけられた番頭は、「是非伺ひませう」と一膝前へ乗り出した。それを見て華香氏は静かに言つた。
 「竹内君のを私達の並《なみ》に下げよとは言はないから、私達のを竹内君並に引き上げなさい。よしか、判つたね。」
 呉服屋に教へる。東京画家のもこの秘伝で往つたら、大抵円く納まらうといふものだ。





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最終更新日  2006年06月05日 23時06分28秒
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