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碁法の谷の庵にて

碁法の谷の庵にて

 無謀な希望もかない、ちょっと燃え尽き気味な人間のふたまた日記です。
 ブログ主は大学法学部4年のころからこのブログをやってきましたが、大学院を経て現在弁護士となっております。

 旧名「囲碁と法律の雑記帳」ですが、開設500日に題名を変更しております。

 リンクはご自由にどうぞ。

 一般の人たちが細かい法解釈論の勉強をする必要はありません。
 ただ、自分達に納得できない法制度がどうしてあるのか、「どうしても納得できない!」だけではなく、「よーし、納得してやろう」と、自分達の理解力を高めるという方向でも考えて行ってもらいたいと思います。


 記事数が膨大であるため、現在正しくなくなっている記述が放置されている可能性が多々あります。
 その点は注意してお読みください。(ご指摘いただければ訂正を入れます)
2024年01月16日
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カテゴリ:カテゴリ未分類
現在、能登半島を中心に起きた震災で、ぼったくり業者がブルーシートをかけただけで何十万円も請求する方法が蔓延しているという事が報じられています。

実は、こうした震災に乗じてぼったくり価格で工事を実施するような商法は東日本大震災をはじめ、台風などの大災害時にもしばしば国民生活センターなどから発生が報じられていたものです。

しかし、実はこうした商法は現行法上の対策が十分でない類型であると個人的には考えます。



まず考えられる対策は、クーリング・オフです。
訪問販売(サービス提供も含みますが、この記事ではまとめて訪問販売と呼びます)と言うことで、自宅に訪問して売り込みをされ、それに応じて契約してしまった場合には8日間無条件で契約の解約ができます。
既に受けてしまったサービス分の不当利得を支払え、という主張も通りません。

また、訪問販売においては法定記載事項を記載した書面の交付が義務づけられて(特定商取引法4条)います。
クーリングオフの期限は8日間ですが、この8日間は法定書面がもれなく記載された書面を交付しない限り永遠に始まりません。
クーリング・オフが使えれば、業者が悪質かとかそういうことに関係なく、問答無用で契約を解約できるし、利益分の清算も求められないので、まずクーリングオフを考える事になるでしょう。



しかし、クーリングオフが使えない事例も考えられます。
悪質業者に手口を教える危険があるのでここには書きませんが、現実にはクーリングオフが対象外の人々が少なくなく(おそらく消費者問題に詳しい弁護士先生なら思いつくと思います)、そう言う人達を標的にしてくると言う危険性がかなりあるのです。
平時においても、クーリングオフ適用のくぐり抜けを狙ったとしか思えない、業者の接近の手口もしばしば見られるところなのです。


そして、クーリング・オフが使えないとなると話が一気に厄介になります。

この手の商法について「詐欺だ」という主張もよく見ますが、詐欺というのは当然業者が欺罔行為…要は嘘をついていなければなりません。
「ブルーシートをかけるので○万円下さい」という言葉を言って、○万円受け取って実際にブルーシートをかけるというのであれば、そこに別段の嘘はありません。
相場価格を黙ることで誤解させてぼったくる、と言うのも考えられますが、取引相手に対して適切な相場価格の告知義務があるか、と言えば、現在の裁判所の考え方は消極的な場合が多いでしょう。
契約というのは自由が原則であるため、裁判所がぼったくり価格であることの一事を持って契約を違法とすることは非常に困難です。
詐欺罪で検挙するともなれば、かなり強烈な理論武装をしなければならないでしょう。


あまりに相場の価格を外れた場合において、暴利行為として信義則上違法性を認めて契約を無効にすると言う手も一応はあるのですが、これも現在ウルトラCの域を出ません。


加えて、私が業者の弁護士だったら、ほぼ間違いなくこう主張すると思います。
「震災中であり、私や従業員も被災している。人を集めるためには高い給料を出さざるを得ず、原価だって上がらざるを得ない。
 そのような状況で平時に形成されている相場より高い値段をつけるのは当たり前のことである。」
「私は被災していないが、地域外から来ているので、旅費などがバカにならず、それを反映しているだけだ。」


これ自体は残念ながら一理あり、一般的な相場より高いのは仕方ないのでは?となる可能性が高いでしょう。
少なくとも、値段が相場より高いのははっきりしているので、争えば勝てるさ!というにはあまりにも適用可能性が高くないというのが実状です。


私自身、災害時ではないものの、こうした業者が代金を請求して消費者相手に裁判を起こしてきたのを迎え撃ったこともあります。
幸いその件の業者はクーリング・オフをすり抜ける手口を考える頭はあるようでしたがそれ以前に書類をちゃんと作ったりする方面の能力がなかった(多分、変な情報商材か何かで学んだ儲けの手口なのだと思います)ので、結果的には楽勝な裁判で終わってくれました。
しかし、もしその点をしっかり整えてきた場合に必勝が期せたかと言えば、なかなか微妙だったことは否定できません。



こうしたぼったくり商法は、消費者の価格相場に関する無知・不安に乗じて実施されるものです。
近時の民法改正においても、こうしたぼったくりや暴利行為についても法律上明文で盛り込もうかという意見もあったのですが、結局経済団体が「取引が萎縮する」などという主張をつけてきたため、裁判の積み重ねに任せるという発想で見送られてしまいました。(某牛丼屋取締役の「生娘シャブ漬け戦略」辺りとも繋がるのですが、「本来の価格より高く売りつける」ということについて、財界は「何が悪いの?」程度の感覚であることが多いように思います。自由主義社会だからと言えばそうなのですが)

その結果が、こうした被災地での悪質商法の跋扈を全く抑えられていない状況であることも否定しがたいように思います。
確かに私にも具体的にどうすべき、という案が浮かぶ訳ではないのですが、こうしたぼったくり商法対策には、一定の法的な対策が必要であるという思いを強くしています。





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最終更新日  2024年01月16日 21時00分08秒
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