エリザベート
帝劇でエリザベートを見てきた。 宝塚在住の友人に「エリザベートは面白い」と吹き込まれてより以来、イケコせんせいの小説版に始まり、ヅカ版4組分のDVDにウィーン版のスタジオ録音CD、ライブCDと接してきた作品をとうとう生で見たのだ! …と力を入れる程にもの凄く感動したわけではなかった(笑) まあ勝手知ったるエリザベートではあり、面白いことは面白かったのだが、なんだか色褪せて見えてしまったのは何故だろう。華やかなヅカ版に慣らされていたからか、期待が大きすぎたのか。 一路エリザは…シシィ時代はまあ可愛らしかった。一路さんもいい歳だろうが、周りをおっさんが固めてるし、ヅカの男役出身にしては小柄なので、遠目に見てる分には(2階3列…これでもS席、\13,000也(泣))さほど無理を感じなかった。むしろ皇后エリザベートとなってからが…お花様のスタイル、着こなし、身ごなしはやはり至芸であるな、と。一路さんちょっと…ちんちくりん お歌はお得意の分野だし、お花様より安心して聴いていられるのは間違いないので、まあ取り立ててケチをつけることもないのだが、相変わらず溜めすぎ。情感込めたいのだろうが、やりすぎのような。リズムがだらしなく聞こえて個人的には好まない。 内野トートは何やら生々しく、更に言うなら生臭く、あまりに人間的で死の象徴・黄泉の帝王に見えない。いや、役者さん的には熱演なんだろうけど…何か悪の組織の幹部みたいなんですが(^_^; あとアレだ、ヅカの人たちは大抵非常に痩せていて小顔だったりするので、長髪に黒服白塗り顔などという非常にマズイ出で立ちをしていても(一路さんですら(笑))なかなか美しく見えたりするのだが、並(以上ではあるのだろうが)の男がそれをやってしまうと…頭が非常に大きく見えます。エリザに続いてトートも…ちんちくりん ちなみに内野トートは歌がヤバイと聞かされていたが、声量もあるし、まずまず安心して聴いていられた。まあもうずっとやってるんだし上達されたんでしょうかね。 フランツの石川禅は役柄的に無理がないので格別悪目立ちするような所も無し。お歌も朗々としてお上手だったかと。インパクトはなかったが地味に良かった。 ルキーニは…いきなり情けない裏声でしゃべり出したのが非常にキモかった。まあそれも演出意図なのだろうが。一見インパクトありげだし、全編通じて色々やっているわりには、これが高嶋ルキーニだ、と言うものが裏声のキモサ位しか感じられず、ドドロキーニやリカルキーニ、ワタルキーニが懐かしい、と思ってしまうのは私がヅカに毒されているから…だけなのだろうか。 ルドルフのパク・トンハは真面目で繊細な皇太子を爽やかに好演。母国語ではない、と言うのが良い方向に働いているようで、台詞の歯切れが非常に良く、また丁寧に発声している感じで、それが役柄にも合い好印象。なんだかんだ言って「闇が広がる」には(内野トートやトートダンサーズ共々)釘付けでした。 …と、キリがねえので出演者個別の話はこれくらいにして。 良かった場面はゾフィーの死ぬところ。ヅカ版では本当にアホみたいな死に様だが、こっちではゾフィーはゾフィーなりに息子を思い、国を思い「自分を殺して」やってきた事が他ならぬ息子に理解されず死んでゆくという寂寥感が非常に胸を打った。 オヤジの亡霊のシーンも良かったな。これもヅカ版では無いシーンだが、この作品は全体の構成としては概ねシンメトリカルになっているので、このシーンはあった方が良い。これと夜のボートが揃っていてこそ皮肉も効いてくると言うものだ。 ラストも納得がいくようになっていて、ああ、これでこそ、と言う感じ。 ヅカ版の「最終答弁」は「夜のボート」で"永遠のすれ違い"とトドメを刺されたはずのフランツが何故か若返り颯爽とした姿で敗者復活戦に果敢に挑戦して善戦(おそらく2番手男役がジジイのままで寂しく去って終わり、と言うのがヅカのスターシステム的に拙いんで、カッコイイシーンを入れる必要があったんだろうが)、トートは言ってることの辻褄が合わずしどろもどろ、敗色が濃くなったので最早これ以上長引かせることはできぬ、と半ばヤケクソ気味にルキーニに匕首を渡して手っ取り早く殺しちゃおう…としか見えず、ラストのラブラブ昇天が全く意味不明であった(笑) 東宝版で「最終答弁」の替わりに置かれているシーン「悪夢」は、既に「夜のボート」で完璧に勝敗が決した後、いよいよ人生の黄昏に踏み込んだフランツにもついに死の影が見え始め、ハプスブルク家の終焉やエリザベートの最後などが不吉な夢として現れる、と言うシーンであり、そこでトートがルキーニに凶器を渡すのは勝利宣言みたいなもの。とうとう皇后の精神は死の影に完全に捉えらえれ、ここではない世界へと旅立っていくのでした、めでたしめでたし?というわけで、どこにも不自然な流れは感じられなかった。かなりスッキリした(笑) 一方残念だったのは私の大好きな病院慰問の場面。ヅカ版より長く、場所も精神病院になって原作通り(かどうかは分からないが、少なくとも原作に近いはず)に復元されてたようですが、何かグッと来ない。色々やってることが表現の力となっていない。 ヅカ版の病院慰問はエリザベートの寂寥感、底知れない精神の孤独と言ったものが、短い場面の中に目も眩むような鮮やかさで照射される屈指の名場面と信じているので、かなり物足りなかった。 あと、最後の最後にパレードがないのは寂しいね、これこそは毒されきってる証拠ですが(笑) 細かいこと言い出したらきりがないが、いいかげん長くなったのでこの辺で。 まあ、なんだかんだ言ってやっぱり面白かったかな。次はヅカで見たいなあ。ラストは東宝版採用でな(笑)