「ローマの休日」(その3)
2月17日ローマ旅行3日目。今日も、昨日ほどではないにせよ、朝早くからホテルを出て観光に出かける。ローマは、教会系の建物は概して朝早くから開いており、時間を有効に使えるのがありがたい。本日はテルミニ駅付近からスタートし、ローマを代表する教会の一つ、サンタ・マリオ・マッジョーレ大聖堂を訪れる。ここも入場に際しセキュリティチェックを行っているが、サン・ピエトロのような行列は全く無い。この大聖堂は、初期キリスト教会のバシリカ式建築の名残を今日に伝える例として紹介されているが、格子状の天井は見慣れたゴシック様式の教会などとは異なる威厳を持っており、興味深い。堂内には、ベルニーニの墓や、キリストが生まれた飼葉桶の破片とされる聖遺物もある。壮麗なサンタ・マリオ・マッジョーレ大聖堂のバシリカキリストが生まれた飼葉桶の木片サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂のすぐそばに、サンタ・プラッセーデ教会という、これも古い教会がある。ここは、外見は全く目立たない、小さな教会だが、中にはビザンティン様式の見事なモザイク画が残っている。普段は照明が落とされており暗いが、お金を入れると一定時間照明が点灯し、黄金色のモザイク画を堪能することができる。さらにここから歩いてすぐの路地裏に、サンタ・プデンツィアーナ教会がある。これも目立たない小さな教会だが、現存するローマ最古の教会の一つとのことだ。このような貴重な史跡がそこかしこにさりげなく存在しているのがローマの凄いところだ。 サンタ・プラッセーデ教会の外観サンタ・プラッセーデ教会内部、アプシスを囲むモザイク画サン・ゼノーネ礼拝堂の天井を覆う眩いばかりのモザイク画サンタ・プデンツィアーナ教会のアプシスにも見事なモザイク画がさらに歩いていくと、やがて4つの小さな噴水に囲まれた交差点に出る。ここに、ボッロミーニによる、バロック様式教会の代表作、サン・カルロ・アッレ・クアットロ・フォンターネ教会が立っている。狭い市街地の中、大きな教会ではないが、曲面と奇妙な図形を多用した装飾は、後のガウディをも思い起こさせる奇抜感がある。そして、この近くに、ベルニーニが設計したサンタンドレア・アル・クイリナーレ教会がある。またもや、ベルニーニとボッロミーニの競演だ。堂内は、横長の楕円形という珍しいレイアウトで、バロック様式の教会らしく、外見からは想像できないぐらい、内部の装飾は豪華だ。この後、クイリナーレの丘を降り、トレヴィの泉へと赴く。トレヴィの泉に、後ろ向きにコインを投げると再びローマに来られるというのは、あまりにも有名な言い伝えだが、その真偽はともかくとして、やはりローマに来たらここに立ち寄りたくなる。本日はここまで、静かな雰囲気の中で5つの教会を巡ってきたが、一転して、どこからこんなに集まったのかと思うぐらい、広場を観光客が埋め尽くしている。本日の昼前、最後の訪問地は、ボルゲーゼ公園近くにあるカプチン派修道院博物館だ。ここは、今回の旅行以前には認識していなかったが、知る人ぞ知る名所で、「骸骨寺」とも呼ばれているらしい。ここの目玉は、見学の最後の地下室である。そこには、おびただしい人骨を使った、まるで芸術作品のような装飾の数々がある。これらは主に、死んでいった修道士達の骨らしい。以前、パリのカタコンブ(地下墓地)で、山積みになった大量の人骨を見たことがあるが、こちらは、人骨をアートと化している点で、より異様な雰囲気がある。展示のスタートには、「What you are is what we used to be, what we are is what you will be」という、死者達からの「メッセージ」が記されている。いわゆる「memento mori」(死を思え)がこの展示全体のテーマなのだろうが、それにしても理解を超えた世界だ。大分歩き回って疲れたところで、昼食にする。午後には、ボルゲーゼ美術館の見学を予定しており、ボルゲーゼ公園に近い場所にあるレストラン「Peppone」を予約してある。高級そうな住宅街の中にあるレストランで、入ると、初老のダンディな紳士が接客してくれ、観光客向けの店とは一味違う雰囲気を感じさせる。こうした、イタリアのやや高級なレストランでは、パスタは完全に前菜扱いであり、量も抑えめにしてある場合が多いので、メインもしっかりと注文することにする。パスタの一つ、スパゲティ・ヴォンゴレは、定番のシンプルな一品だが、これまで食べたヴォンゴレの中でも特筆に値する味であった。やや太めの麺は、これ以上無いぐらいの完璧なアルデンテで、しっかりと噛み応えがあり、時間が経ってもその弾力が持続する。オリーブオイルのソースが完全に乳化し、クリーミーな味わいとなっている。そしてもう一品は、ホタルイカとアーティチョークのタリオリーニ。細めの、ちぢれ麺のラーメンを思わせるような麺だ。塩とオリーブオイルを主体としたソースが絶品で、今回の旅行中に味わったパスタの中でも最高であったかもしれない。そしてメインには、妻は牛肉のカルパッチョ、自分はサルティンボッカをいただく。カルパッチョは、たっぷりの薄切りの生肉に、ロケットとパルメザン・チーズが添えてあり、なかなかのボリュームだ。サルティンボッカはローマの名物で、仔牛の薄切り肉のソテーだが、このソースがまた素晴らしい。自分としては、今回の旅行中最高の一皿に挙げたい。ワインには、ローマの属するラツィオ州のワイン、フラスカティを一本開ける。これも大変フレッシュで美味しい白ワインだが、ボトルで16ユーロと、このクラスの店にしては驚くほど安い。さすがにこれで終わりかと思いきや、妻がデザートにパンナコッタを注文する。自分はデザートをスキップしようかと思ったところ、ウェイターの紳士が、「ナポレオン・ケーキは素晴らしいですよ」と耳打ちしてくるので、そこまで言うのなら、と注文する。ナポレオンはイタリアにとっては征服者・強奪者であり、なぜその名が付いているのかよく分からないが、ミルフィーユのようなケーキで、確かにとても美味しかった。パスタ・メイン・デザートと3コースを全てしっかり食べたのは、今回の旅行中唯一であったが、満足度は極めて高かった。値段は、他のレストランよりはやや高めだが、それでもリーズナブルであるし、ネット予約で食べ物、飲み物まで全て2割引にしてくれたのはありがたい。スパゲティ・ヴォンゴレホタルイカとアーティチョークのタリオリーニ牛肉のカルパッチョサルティンボッカ店員お勧めのナポレオン・ケーキそして、ボルゲーゼ公園の中を歩いて、ボルゲーゼ美術館へ向かう。ローマの美術館の筆頭はヴァティカン美術館だが、2番目を挙げるとすれば、自分も含め、ボルゲーゼ美術館を推す人は多いだろう。ここはボルゲーゼ枢機卿の個人コレクションから成る邸宅美術館で、ヴァティカンとは対照的に規模は小さいが、珠玉のような名作が揃っている。ここも過去一度訪れたことがあり、ヴァティカンと同様、23年前の卒業旅行の時であったから、かなり久しぶりの再訪である。現在、この美術館は完全予約制となっており、土日は特に、すぐに予約の枠が埋まってしまう。だがそれだけに、館内に入れば、ゆったりと鑑賞を楽しむことができる。目玉はベルニーニをはじめとする彫刻群で、大理石であることを忘れさせるような素材感が素晴らしい。瀟洒なボルゲーゼ美術館の外観ベルニーニの「プルートとプロセルピナ」。邸宅美術館らしく、館内の装飾も素晴らしい。ベルニーニの「アポロンとダフネ」カノーヴァ「パオリーナ・ボルゲーゼ」。大理石とは思えない下のクッションの質感が凄い。美術館へ出て、スペイン広場へと歩く。スペイン広場、そしてスペイン階段は、何があるというわけではないが、昔も今も、観光客で溢れている。 今回最後の夕食は、やはりホテル近くのレストラン「Dal Toscano」でいただく。この店は、開店が20時とやや遅いが、開店時、既に席が予約で埋まっており、予約無しで来た客が断られていた。比較的大きめの店であるにも関わらず、この繁盛振りは凄い。パスタに、スパゲティ・ポモドーロ及び、店のスペシャリティである、ラグーのパッパルデッレを注文。ここは店名の通り、トスカーナ料理を専門としており、パッパルデッレはトスカーナ地方名物の、非常に幅広のパスタだ。そしてメインはやはり牛のステーキだ。厨房には熟成肉が並んでおり、炭火で豪快に焼いている。ここのステーキはソースも無いシンプルなものだが、旨味が凄く、パリでもなかなか食べられない逸品であった。スパゲティ・ポモドーロラグーのパッパルデッレ。コシの強い太麺と濃厚なミートソースが素晴らしい。牛のステーキ。シンプルだが、絶妙な肉質と焼き加減。付け合わせの、自家製のポテトチップスも美味。2月18日ローマ旅行の最終日。昼の出発まで、まだ少し時間がある。朝、再度サン・ピエトロ広場に向かうと、セキュリティチェックの列がまだ全くできていない。折角なので大聖堂に入り、前回は見る時間の無かった、宝物館を見学する。宝物館に入ると、入口の係員が無料で、解説のアプリをスマホにダウンロードしてくれる。無料とはいえ、なかなか充実しており、見ただけでは何だかよく分からない宝物の数々を丁寧に解説してくれる。毎週日曜日は、大聖堂でミサが行われる。区切られた信者用の区画には、既に多くの参列者が座っている。ちょうど、ミサの開始時間となり、聖職者達が入場してくる場面を間近で見ることができた。ヴァティカンが、観光地である以上に、カトリックの総本山、信仰の場であることを改めて感じる。空港でも、結構本格的なイタリアンが食べられる。モッツァレラチーズとトマトのカプレーゼ。ラザニア魚介のリゾット「