バッタ博士、前野ウルド浩太郎。サハラ砂漠の国・モーリタニアで働く33歳。カネはない。安定した将来の約束はない。だが、研究への情熱がある。バッタへの愛がある。ピンチはアイデアで乗り越える。厳しい環境下で働くすべての戦士たちに捧げる「サバイバルのためのひと工夫」、連載開始。

取り返しのつかない生活を送っています

2013年モーリタニアにて民族衣装をまとって。(デザイン:前野拓郎)

私は雪国・秋田育ちにも関わらず、灼熱のサハラ砂漠でバッタを執拗に追いかけ回すことを生業にしている男です。一般に博士号を取得した研究者は、就職が決まるまでポスドク(ポスト・ドクター)と呼ばれる1、2年程度の任期付の職を転々としながら食いつなぎます。私もポスドクです。政府が2年間の任期で若手研究者を外国に派遣する制度を利用し、このアフリカ滞在中の成果を引っさげて、安定した給料が得られる常勤の昆虫学者になる可能性に賭けました。モーリタニアの国土は日本の3倍で日本人の民間人が私一人だけという孤独な環境が整っており、ありったけの財産と全身全霊を注いで研究した結果、就職はおろか次のポストも決まらず無収入のままアフリカで研究をするという無駄に苛酷な状況に陥ってしまいました(←今ココ)。我ながら気の毒な33歳なのですが、このまま終わってなるものかと奮起し、無理やり活路を見出そうとしております。

ギャンブルの類は一切やらず手堅い人生を歩んできました。初めて賭けたものが「人生」という軽く取り返しのつかない生活を送っているのですが、すべては幼いころからの自分の夢を叶えるためなのです。

私は小学生のときに極度の肥満児で、かくれんぼで息が切れてしまうほど機動力に欠け、余儀なく座り込みうつむいてばかり。そんな自分の目に止まったのが虫で、彼らをじっくり見るうちにいつしか親しみを覚えるように。「好きな子の事は何でも知りたくなる心境」に陥り、いつしか虫に多くの疑問を抱き虜にされました。答えが見つからないもどかしさでいっぱいになったころ、ファーブル昆虫記に出逢い、昆虫学者のファーブルが自分自身で工夫して実験を編み出し、昆虫の謎を暴いていくその姿に憧れを抱き、将来は自分も昆虫学者になって謎を解きまくろうと決意したわけです。