2020年6月22日

ブログ移転? のお報せ

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2020年5月22日

内容は悪くないが、著者の対人援助職に対する陳腐な発想が鼻につく 『チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困』


内容は悪くないが、著者の対人援助職に対する陳腐な発想が鼻につく。
スクールソーシャルワーカーによって救われた子どもが、自らスクールソーシャルワーカーになって、子どもたちを救う。とても理想的なかたちだと思った。
これはいかにも素人的発想で、燃え尽きる人に典型的なパターンでもある。

当事者がこういう発想になるのは仕方ない。だが、取材者がこれを「理想的なかたち」と書いてしまうのは、はっきり言って対人援助職というものをなめている。

溺れたことのある人がライフガードになるのが理想的なかたちか?
犯罪被害者が警察官や検察官になるのが理想的なかたちか?

確かに、そういう経緯で対人援助職につき、かなりうまくやれている人もいるだろう。

しかし、それは経緯が「理想的なかたち」だからではない。
その人の能力や努力の賜物なのだ。

スクールソーシャルワーカーが、厚待遇で社会的立場も高い仕事なら、ある意味「理想的なかたち」とは言えるかもしれない。

しかし、実際はどうだろう?
賃金の低さや雇用の不安定さによって、なり手が少ないのが現状だ。あるスクールソーシャルワーカーに聞いたところでは、時給は1500円ほど。雇用条件もフルタイムで働ければいい方で、週に3日などと制限されている場合も多い。
1日中、子どもとメールや電話で連絡を取り合い、必要があれば夜中でもかけつける、非常にハードな仕事であるにもかかわらず、報酬は少ないのだ。
著者は、取材を通して、こうしたことを知っているはずなのだ。

それなのに、過酷な環境で育った子を救われ、その子が成長して同じ境遇の子を救う仕事(しかも現状の待遇条件で)につくのを「理想的」と言うのは、「やりがい搾取」を肯定しているようにも読める。

最後の最後、著者の援助職への陳腐な思い込みがダメ押しのように書かれる。
第6章の裕子さん(仮名)は、志望していた大学に無事合格し、スクールソーシャルワーカーになる夢を追いかけて福祉の勉強に励んでいる。彼女ならきっと、子どもの痛みが分かる素敵なワーカーになるだろう。

改めて書くが、内容は決して悪くない。
しかし、著者は子どもの貧困の取材と同時に、対人援助職についての理解も深めていくべきだろう。

読む人に勇気を与える素晴らしい言葉にあふれた一冊 『顔ニモマケズ どんな「見た目」でも幸せになれることを証明した9人の物語』


顔の変形など、顔面に症状を負った人たちへのインタビュー集。いずれも読み足りないほどにあっさりした短いインタビューだが、中身は非常に濃い。

2歳で片目摘出した男性への問い。
普通の顔を選べるなら?
もし、目のことが僕のコンプレックスになっていて、そのコンプレックスと根性が比例するとしたら、目の症状がないことは、すごく怖いです。僕のエネルギーは失われた左目らか生まれていると思うので。
顔に血管腫のある男性の言葉。
顔の症状があることで良いことがあるとしたら、それは「全ての言い訳にできる」ということかもしれません。人生に起きるどんな苦しいことや辛いことも、全部顔のせいにできてしまう。でも、「変えられないこと」のせいにしたら、それこそ、人生は変わらない。
トリーチャーコリンズ症候群で顔が変形している男性は語る。
もし面接をした人が、僕の外見に問題があるから不採用だと考えたとしても、それは「相手の問題」であって、変えることはできません。それよりも、「自分の問題は何か?」ということをいつも考えていました。自分で変えられる部分を見つけて変えていこうと。

他にも素晴らしい言葉があふれていて、どれも人に勇気を与えるものだ。

見た目問題に限らず、人生に悩みを抱える人にぜひ一読してほしい一冊。

2020年2月14日

支援者は一読しておいて損なし! 『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』


多くの著者による小論集。自分に必要な部分を抜き読み。

まずは田代まさしさん逮捕で話題になっている薬物依存症に関して、さすがの松本俊彦先生。
薬物依存症者からの回復に必要なのは、安心して「やりたい」「やってしまった」「やめられない」と言える場所、そう言っても誰も悲しげな顔をせず、不機嫌にもならない安全な場所
(薬物の)再使用によって最も失望しているのは、周囲の誰よりも薬物依存症者自身である
罰の痛みによって人を薬物依存症から回復させることはできない。
そして、依存症治療において最も重要なのは「治療継続性」であると説く。依存症からの回復率や断薬継続率に影響を与えるのは、どのような治療法を採用したかではなく、どれくらい長く治療を継続したかであり、仮に薬物を使いながらの参加であっても、治療中断せずに継続した人のほうが、長期的な治療転帰は良好だったという。

それから、別の著者による「自殺について」。

自殺発生メカニズムを大まかに以下のように解説してあった。

1.獲得された自殺の潜在能力(痛みや恐怖への慣れ)
2.所属感の減弱(孤独感、孤立感。あくまで本人の主観で、はたから見た「友だち多い」ではない)
3.負担感の知覚(自分が誰かの負担になっているのではないか)

もしも、否定的認知を持つ人の味方になろうとするのであれば、まずは当事者の変化がなくても関係を続けられる方法を考えるべきである。決して、その人の考え方や行動を修正しようと焦らない。「病気の有無にかかわらず、変化を強く求める相手とは、親密な関係を築けないものだ」という指摘には大いに頷けた。

また、「辛い気持ちを『死にたい』の一言で済ませない」というのも深く同意する。相談される側としても、「死にたい」よりは「悲しい」「寂しい」といった言葉で表現されるほうが相談に乗りやすい。「死にたい」と言われると、忌避感を抱くか、逆に過保護的になるかに陥ってしまうから。治療者・援助者は、「モノクロの『死にたい』という言葉」にきちんと色を付けていく練習を支援していくべし。

それからリスカやODについて。
中高生の1割が自傷行為を経験しているにもかかわらず、保健室で把握されているのはその3分の1程度だという。ほとんどの自傷行為は、誰にも知られることのない一人きりの空間で行なわれているのだ。
これらの「行為」に依存し、安心して「人」に依存できない人たちは、感激するような支援者に出会うと、その人を「失望させたくない、嫌われたくない」という不安から「バッドニュース」を言えなくなってしまう。「グッドニュース」ばかり口にするうち、疲弊してしまい、それがまた自傷行為につながる。

多くの著者によるもので、「それはちょっとどうなの?」と首をひねるものも一部あり、決して丸ごと名著というものではなかったが、心理援助職の人なら目を通しておいて損はないだろう。

2020年2月3日

知的興奮と潜入捜査のスリリングさを同時に味わえる良書 『FBI美術捜査官』


元FBI捜査官による回想録。

盗まれた美術品を回収するための潜入操作に関するもので、読む前に想像したよりもかなりエキサイティング、スリリングであった。

回収対象の美術品に関する歴史的エピソード、盗まれた状況なども分かりやすく書いてあり、美術に素養のない俺でも興味を失わず読めた。読みながら盗品のイメージが欲しいときは、ときどきGoogle検索。

印象的だったのは、潜入して犯罪者と親密さを築くときの手口が、笑顔、ちょっとした模倣など、臨床で患者さんと関係を築く方法と非常に良く似ていたこと。捜査では捕まえるため、臨床では援助のためではあるが。

知的好奇心も満たされ、犯罪捜査ドキュメントとしても楽しめる、非常に良い本。