~燃やし賞開催~


私、id:firestormを燃やし尽くすような未発表の創作小説・イラストを募集します。
テーマは「燃え」。モチーフは別URLにて掲載します。
日本語文章、または一枚絵を、回答で掲示(イラストはリンクで可)してください。
URLの紹介ではなく、書き下ろしでお願いします。コピペはスルー。
投稿作品は転載(はてな内)することを予めご了承ください。

最大の評価基準は「私が燃えるかどうか」です。「燃やせば勝ち」です。
最も燃えた作品には約500pt(可変)を差し上げます。

その他細かい事項は下記URLを参照してください。
http://d.hatena.ne.jp/firestorm/20061018/TheGreatMoyashiShow


※この企画は「萌理賞」およびid:sirouto2さん、ならびに「第一回萌やし賞」およびid:comnnocomさん、ならびに「第二回萌やし賞」およびid:mizunotoriさんとは無関係です。私、firestormが勝手に行っているものですので、ご意見等ありましたら私までお願いします。

回答の条件
  • 1人50回まで
  • 登録:
  • 終了:2006/10/25 04:40:02
※ 有料アンケート・ポイント付き質問機能は2023年2月28日に終了しました。

回答16件)

id:kumaimizuki No.1

回答回数614ベストアンサー獲得回数31

ポイント14pt

題名:戦争が終わったとしても。



西暦5018年。

ついに、宇宙戦争が幕開けとなってしまった。

当初、内戦だったものが国家間の戦争に発展。

さらには、地球規模にまで発展してしまった今回の戦争。

この影響で、地球は荒れ果て、戦闘するには不十分な環境となってしまった。

人類は荒れ果てていく地球と共に倒れていった。

今では、戦争を繰り広げている軍人だけが生き残っている状態だ。

戦力は互角。どちらにも1人ずつ、非常に優秀なパイロットが存在した。

お互い、良きライバルという認識はあったものの、実際に戦を交えたことはなかった。

そう、今までは。


戦闘が宇宙へと飛び火してから1週間。

ついに、この2人が戦うことになった。

チナ・ストーク軍所属、シュン・カムティ

シャナ・パインジャー軍所属、キリ・リバーク

この2人の戦いが、この戦争の最終決戦と言っても過言ではない。


両軍の戦闘機が飛び立つ。

いよいよ最終決戦の幕開けだ。

「シュン、相手は分かってるわよね」

「分かっているとも。ついに、ついにヤツと戦えるのか……」

チナ軍所属のシュンは、わくわくする心を抑えながら応答した。

一方、

「キリ、これが最終決戦だ」

「大丈夫だって! オレの手にかかれば、あんなヤツ、10秒で倒してやるぜ!!」

シャナ軍所属のキリは、戦闘意識を全面に出していた。


お互いが戦闘圏内に突入した途端、動きがぴたりと止まる。

まずは、相手の出方を見ようという、お互いの想いがあるのだろう。

しばらくは、静寂に包まれると思った。その瞬間、

「行くぜーーーーー!!」

先手を打ったのは、シャナ軍のキリだった。

挨拶代わりと言わんばかりのミサイルが、シュンを目掛けて飛んでいく。

しかし、シュンは紙一重のところで全てを交わした。

「ふっ。それでこそ、オレのライバルってもんだぜ!!」

「ライバル? 笑わせるな。いつ、誰がお前のライバルになった?」

キリの言葉に、シュンは火に油を注ぐような発言をした。

「誰がいつ、だと!? そんなの、決まってるじゃないか!!」

そう言うと、キリは次の攻撃体勢に入った。

「お前が、オレのライバルだってな!!」

先ほどのミサイルとは比べ物にならない速さの弾丸が、シュンの元へ一直線に飛んでいく。

「この距離なら、絶対に避けきれないぜ!!」

シュンの機体の目の前で、弾丸が破裂する。

閃光が辺りに広がり、一時戦況が見えなくなる。

「確かに、お前の言うとおりだったぜ! お前はオレのライバルにもならなかったぜ!!」

「ぬかせ。お前という人間は、『防御』という言葉を知らないのか?」

「なに!?」

キリは驚きの声を上げた。

確かにシュンの機体に弾丸は直撃した。

しかし、シュンの機体には傷ひとつ負っていなかった。

「あいにくだったな。そんな攻撃では、この機体は傷つけることは不可能だ」

「それでこそ、オレのライバルだ!!」

「今度はこちらからいかせて貰う」

そういうと、シュンの機体からミサイルが発射された。

「このくらい……」

とキリが言いかけた時、ミサイルはキリとは別方向へ飛んでいった。

キリは一瞬、相手の手が分からなかったが、すぐに察した。

そして、飛んでいるミサイルを、自分のミサイルによって爆破させた。

「よく分かったな。母艦を攻撃しようとしたことが」

シュンは「闇雲に攻撃してるわけじゃないんだな」と、心の中で思った。

「なかなかやることが汚いじゃないか!!」

「汚い? これは戦争なんだぞ? きれいな戦い方があるか」

「これは、男と男の戦いなんだぞ!!」

「じゃあ聞こう。お前は何のために戦ってるんだ?」

「大切なものを守るために決まっているだろう!!」

シュンの問い掛けに、キリは瞬時に答えた。

「ふっ。そういうことか……」

「何がおかしい!!」

キリの挑発に、シュンは言葉で応じなかった。

その代わり、キリの機体へ向け、ミサイルを発射した。

今度は軌道を外れることなく、キリの機体へ向かってきた。

キリは迎撃しようとしたが、ミサイルは目の前で破裂した。

同時に、辺りにまばゆい光が立ち込める。

「閃光弾かっ!!」

キリはとっさの判断で目をくらますことはなかったが、一瞬だが隙が出来てしまった。

その隙をシュンは見逃さなかった。

キリは再び戦闘態勢に入ろうとした瞬間、あることに気がついた。

シュンの機体から伸びるアームで、自分の機体が押さえ込まれているということを。

「残念だが、これで終わりだ」

「それはどうかな?」

キリの機体から、無数のミサイルが発射された。

アームで固定されている以上、身動きは取れない。同時にシュンの機体へは直線で繋がっている。

アームを開放しない限り、ミサイルの直撃は避けられない。

だが、そのような隙は与えられなかった。

シュンの機体にミサイルが全弾命中した。

「危ないところ……」

と言いかけ、キリは目の前に迫ってくるアームの存在に気がつく。

キリは避けようと機体を動かそうとする。だが……

「なぜ……なぜ動かないんだ!!」

キリの機体は全く動こうとしなかった。

周りを見ると、そこには先ほどと同じ光景、シュンの機体から伸びるアームで押さえ込まれている自機の姿。

「嘘だ……そんなはずは……!!」

そして、迫ってくるアームが、キリの機体を貫通した。

「言っただろう。『防御』という言葉を知らないのか。と」

シュンの機体は、防御シールドに覆われていた。

実は、キリの機体を捕らえた時、目には見えない防御シールドを既に貼っていたのだ。

そのため、キリが攻撃してきてもうろたえることなく、キリに攻撃することが出来たのである。

「お前は大切なものを守るために戦ってたんだったよな。俺は違う。勝つために戦ってるんだ」

シュンの言葉に、応えるものはいなかった。


(終)

id:firestorm

うわーいうわーい。一番乗りおめれとうございますー。

感想文は締め切った後に書きますのでよろしくですわ。

2006/10/19 00:25:50
id:duke565 No.2

回答回数2ベストアンサー獲得回数0

ポイント14pt

『狐舞い降りて、OKINAWA』

 1985年4月。沖縄本土決戦始まる。敵国総兵力55万に対し、牛島中将率いる沖縄守護隊は10万。干戈を交えるまでもなく、結果は明らかであった。

 市街戦の跡地。一人の少年が、自分の生家であった廃屋の中で膝を抱えて泣いている。

「父さんも母さんも死んじゃったし。僕も死ぬのかな」

 戦災孤児の少年は空を見上げる。雨が降っていた。しかし日も照っていた。狐の嫁入り現象。

 その雨雲のはるか上空を巨大な飛行機が飛んでいる。今まで見たこともない馬鹿でかい飛行機。そして、そこから大きな雨粒が降りてくる。

 少年はその「大きな雨粒」がはっきり目視できる距離まで落ちてきた時、ようやくそれが「人間」だと分かった。

 次々に地上に降りてくるパラシュート部隊。その顔には白狐の面。その腰には大小。白銀色を基調とした戦闘服。9匹の白い狐が群れを成して降下してきた。異様な妖気が昇る。

 少年は戦闘服の腕に印された「大日本帝国」の文字を見て、敵ではないと判断し近づいていく。現実離れしすぎたせいであろうか。不思議と恐怖は無い。

「お稲荷さんですか?」

 隊長格の狐面の男が少年の問いかけに気づく。

「白狐隊、推参いたしました。今までの苦戦苦闘、誠にご苦労様でございました。これより戦闘を終結させて参りますので、どうかご安心を」

 白狐隊の男はそう言うと、腰に下げた刀をガチャリと鳴らした。

「そんな刀で闘うの?」

「我ら白狐隊は刀の道を究めし者ども。戦に臨みては、己が刀こそが必殺必勝の武器であります」

「勝てっこない!」

 少年は叫んだ。

「あいつらの機関銃や火炎放射器には勝てっこない!勝てっこないんだ!銃を持った兵隊さんも皆殺されちゃったんだ!死んじゃうよ!」

 少年の言葉を聞いて、狐面の男は面を外した。傷だらけの男の顔が現れる。男は少年の目を見て言った。

「坊ちゃん。死ぬ死なないの話ではないのです。いいですか、坊ちゃん。既に我々は「死」を覚悟し「勝」を信じてこの場に立っている。覚悟し信じた後に、為すべきことは一つ。戦い、殺し、殺されるのみ。血の大河を渡り、死の荒野を走るのみなのです」

 男の澄んだ瞳は何も映していなかった。人殺しの目であった。しかし、少年には何故か温かく感じた。

「でも……」

「ふむ。まだ心配と見える。何がそんなに心配なのですか?機関銃が当たったら死ぬ。爆風が直撃すれば吹き飛ぶ。本当にそうなのですか?答えろ、伍長!」

「はっ!そんなことを聞いた気が致しますが、実際にやってみないことにはわからんであります!」

「では本当にこの戦は負け戦なのですか?答えろ、兵長!」

「はっ!どうやらそのような雰囲気ですが、実際にやってみないことにはわからんであります!」

「わかりましたか、坊ちゃん。このような愚かに死に行く我らのことは気にせんでください。坊ちゃんは自分の「生」を覚悟し、信じ、生きていればよいのです。坊ちゃんは坊ちゃんの戦争を戦いなさい」

 そう言うと狐面の男は自分の脇差を少年に手渡した。

「御武運を」

 9人の狐面の男たちが一斉に刀を抜き、天にかざした。雨が刀身を濡らし、陽光が刀身を輝かせる。少年は刀の林にしばし見とれた後、狐面の男の目を見て

「……ゴブウンを!」

と叫び、走っていった。その目には少し涙が光っている。

「なかなかいい面構えの坊主でしたな、少尉殿」

 狐面を被りなおした男に、隣の狐面が言った。

「うむ。凶事を為す前のいい清めになった」

「では少尉殿、参りますか。敵騎55万のもとへ」

「55万。一人当たり6000人弱か」

「6万人弱です」

「ははは、素晴らしい!では征こう!敵軍に死人の手管を見せつけに征こう!」

 沖縄の戦場を刀を帯びた9匹の狐が征く。陽光照る霧雨の中を。

 

 零戦・回天に次いで開発された日本軍最終兵器のことを知る者は少ない。既に戦場の花形は機関銃となり、近代戦闘において役に立たなくなった剣術・体術。その道の達人たちの肉体をサイボーグ化することによって、接近戦における絶対無敵を可能にした少数部隊が存在した。前時代の亡霊である彼らを、人は「会津白虎隊」にちなんで「白狐隊」と呼んだ。

 沖縄本土決戦。戦死者19万人。その中に狐面の侍たちがいたかどうかは、記録には残っていない。

(劇終)

 好きなモン全部特攻んだら、「求められてるもの」とだいぶ違うものになってしまいました。イメージの根底にあるのはコレね→http://www.youtube.com/watch?v=vFm6bH6PfD0]

id:firestorm

きゅんきゅんしました。超せつない系です。

感想文は後で書きますです。

2006/10/19 00:26:45
id:crow_henmi No.3

回答回数4ベストアンサー獲得回数0

ポイント13pt

題名「最後のダンクシュート」

 北極圏上空で、ブースターを切り離した。漆黒の空、白銀の機体から、ふたつの白い円筒形の物体が切り離される。

「最終加速終了。これより弾道飛行シーケンスに移行する」

『――了解。幸運を祈る』

 ノイズ交じりの声に、ジッパーコードで応えた。すでに交わす言葉は必要ない。なすべきはただ、任務のみ。

 冷戦は唐突に終止符を迎えた。ユーラシア連邦の戦略核システムが、突如環太洋条約機構の全戦略目標に対し、同時無差別熱核攻撃を加えたことにより。わずか30分で3億人が蒸発し、倍する人間がほどなく死んだ。俺の愛する妻と子。ささやかなマイホーム。一緒に野球を見に行ったヤンキーススタジアム。帰りがけに飯を食ったマクドナルド。何もかにもが燃え上がり、一緒くたの灰となって降り注いだ。

 何が原因だったのかはわからない。ただ確実なのは、自分の故郷、そして祖国が、愛すべき全てのものが消滅し、今はただ核シェルターに避難したわずかな人々が生き残っているだけということ。それは「やつら」もそうだろう。それでも――いや、だからこそ、自分はこの任務を成功させなければならない。有人極超音速攻撃プラットフォーム、XF/B-03による、敵司令部撃滅。この地獄めいた茶番に打つべき終止符を。

 戦術データリンクを開く。ディスプレイに表示された目標――シベリアの奥深く、ユーラシア連邦の戦争指導部が篭る国家戦略指揮所「ジグリ」。熱核飽和攻撃にも耐える巨大な岩盤と、それを取り巻く無数の防空コムプレックスにより守られた、無敵の要塞。通常ならば突破は不可能。だが、XF/B-03ならば、不可能を可能となしえる。いや、可能にしてみせる。

 手駒を確認。ウェポンベイには極超音速AAM、FMRAAM2が12発、周辺制圧用の50kt戦術核4発、そして大本命、地下貫通型6Mt核弾頭が1発。これをジグリのど真ん中に叩き込めば、任務は成功だ。その分厚い岩盤ごと、やつらは蒸発して成層圏まで吹き上がる。全系統異常なし。

 すでに北極圏を過ぎ、シベリアのタイガ上空を降下している。上層大気との接触で機体は赤熱し、全てのセンサは沈黙する。もっとも危険な瞬間。しかし現在、ジグリ周辺には条約機構の残存核戦力が飽和攻撃を仕掛けているはずだ。無数のダミー弾頭と露払いの戦略核を迎撃することで手一杯な奴らが、このタイミングで迎撃をしかけてくることはありえない。あるとするなら、成層圏に入ってからだ。

 成層圏に入った。途端に警報。SAM8発、相対速度マッハ6で接近。FCSを対空戦闘モードに切り替え、FMRAAM2を8発発射し迎撃。同時に操縦桿を倒し、6Gでブレイク・スターボード。全身にのしかかる過重。暗くなる視界。敵SAMはことごとく迎撃ミサイルによって撃破。爆発の衝撃が続けざまに機体に伝わるが、機体に異常はない。そのまま機体を切り返してSAMサイトに戦術核を投下。次弾射撃準備に手間取っていた敵SAMサイトは、閃光と共に消滅。立ち上がるキノコ雲を掠めるように、ジグリへと機首を向けなおす。

 が、気を抜く暇もなく新たな警告音。特徴的なフェーズド・アレイ・レーダーのパルス波は、敵の超音速迎撃機、MiG-31のものだ。機数4。相対速度マッハ5で接近中。敵がミサイルを発射。即座にECMを展開しつつ、迎撃機に向けてFMRAAM2を4発発射。あえて機首はそのまま、ヘッドオンで突っ込む。奴らの弱点はミサイル誘導を母機に頼っていること。母機さえ撃破できればミサイルはあさっての方向に飛んでいく。

「雑魚にかまっている暇はない!」

 たちまちにしてMiG-31全てを撃墜。母機を失ったミサイルとすれ違うようにして突進。事前の飽和攻撃が効いているのか、敵の防空網は脆弱だ。これなら突破できる――そう思った瞬間、機体の表面温度が瞬く間に危険値へと跳ね上がる。

「――レーザーかっ!!」

 ジグリ防衛の要、対衛星・対空レーザー兵器「サリシャガンの虎」。光の速度で目標を捕らえ、莫大なエネルギーをコヒーレント化された光波に乗せて叩き込むフライシュッツ。この前ではいかなる弾道ミサイルも爆撃機もただの的でしかない。対策はひとつ。叩かれる前に叩け。ジグリを三角形状に取り囲む敵レーザー陣地3基に対して戦術核を3発投下。同時にブレイク・ハードボード。大気圏再突入時、6000℃の高熱にも耐える腹部をあえて曝すことにより、時間を稼ぐ。貫かれる前に目標を殲滅できるか、それとも貫かれるのが早いか。

機体温度3000℃――4000℃――5000℃――そして閃光と衝撃。機体が木の葉のように吹き飛ばされる。回復した視界から見れば、立ち上るキノコ雲が3つ。機体状況を確認。レーザーによる加熱と核の爆風、そしてEMP効果で、ほとんどの系統が死んでいる。エンジンももはや気息奄々の状態だ。もはや水平飛行もままならぬ。しかし、機体中央に厳重に格納された決め弾だけは、まだ正常に作動する。

「よし――往くぞ」

 予備系統を起動し、もはや丸裸になったジグリを目指す。見えた。大地に根ざす、直径数km、高さ100m以上の巨大な岩盤。あの奥深くに奴らが――俺の、人々の大切なもの全てを奪った連中が、のうのうと自分たちだけ生きながらえている。それを思うとトリガーが震える。しかし誰のために? 自分のためなのか、生き残ったみなのためなのか、それとも失われた全てのためなのか。どちらにしても、今やるべきことはひとつ。

「ダンクシュートだ、糞野郎!!」

 トリガーを引き絞る。コンフォーマルウェポンベイから必殺の一撃が切り離され、岩盤の中心へと吸い込まれていく。もはやその威力圏外から脱出するすべを、この機体は持たない。だがそれでいい。全てを失ったものが、全てに終止符を打つのだから、いまさら生き残ろうとは思わない。

「俺は、やりとげた――やっと、全てを終わらせた」

 それが最後の意識だった。

(終)

 えと、シューティングゲームを意識したので雑魚>中ボス>ラスボスと展開したかったのですがなんとなく挫折。すみません。なんか実名兵器とか出てきますがフレーバーです。ネタ的にはメカデザイナーの宮武一貴氏が同人時代に書いてた小説「スーパーバード」をインスパイアした多分1.5次創作くらいです。多分ほとんどの人が読んでないと思いますが念のため。

id:firestorm

はふん。うっかり燃やされるところでした。ぎゅんぎゅんです。

感想文は後ですわー。うふっふ。

2006/10/19 09:50:01
id:tophel No.4

回答回数11ベストアンサー獲得回数2

ポイント13pt

『魔法の言葉』


 どの時代にも、英雄は存在する。彼らは現地調査という名目で豪遊し、税金を無駄に消費し、霜降り肉や蟹や海老を好む。女性の好みは多岐に亘るが、当然顔面暗黒星団なメスには興味を示さない。彼らは自分の人生が有限だと知りながらも、その満ち足りた生活に慢心し、自分たちに敵はいないと思い込んでしまう。

「ヘイ、ジャック! 今日はどこの銀河系に行くんだい?」

「ヨー、トム。本日は田舎怒田舎それいけ田舎、棒渦巻銀河だよ」

「エリダヌス座? ちょうこくしつ座?」

「ノンノン、ハイソでグラマラスでチーズ臭い女がいっぱいいる場所さ!」

 星と星との距離は、数値で表すことができても、それを実感することは難しい。狭い四畳半の部屋に引きこもってレンタルアダルトビデオを見ている途中、そのビデオの返却日がとっくに過ぎていると気づいたとき、自宅からビデオ店のわずか五百メートルほどの距離がこの上なく煩わしいように、英雄ジャックとトム、彼ら地球育ちのヒューマンたちが銀河を横断するために用いた手段の最中、居眠りをしはじめたことに誰も非難することはできない。自らの足で歩めない海では、眠ることが最善だとかの哲学者アンソニーも著書の中に残している。『進めど進めど宇宙は闇。恒星も超文明惑星も、海から見ればただのプリン。だったら夢の中でジェニファーちゃんとムフフなことをしていた方がマシである。されども、目覚めたとき、眠る以前の地位を保っていたいならば魔法の言葉を忘れてはいけない。この本の内容を夢に見たとき、それはおぬしらが魔法の言葉をつぶやくのを忘れたことに他ならないことを、肝に銘じるように』と。そして、ジャックとトムは見事にアンソニーと対話を果たし、目が覚めたとき、超空洞の中でバイパス工事に着任していた。現場監督のG・Tは罵声を浴びせた。

「地球人さっさと働かないと飯食わせねえぞ! おら、ちゃんとボルトは四点固定すろ! 違う、ちゃう! こう、こうだよ、んだよ。んあー! その砂利は最後に撒くの! ほげな使えない二足歩行馬鹿やなぁ」

 ジャックとトムは銀河帝国における未開発地域の探査を担当していたが、その資金を不正に利用したため、超銀河団という皮膜の中に存在する空洞での公共事業に参加させられた。光よりも速い速度で居眠りをしている最中、監査委員の大型甲殻類式宇宙船に捕まり、たんまり性的な意味での拷問を味わい、こうして冷たい宇宙の穴倉で泥ならぬ汗臭いオヤジにまみれて働いているのだ。

「魔法の言葉を忘れたせいか?」

「そうだろうな。あ、そこのシャベル取って」

「うん」

 地球でいうところのザリガニのようなパワードスーツを着用し、二人は働き続けた。女を抱けない酒も飲めない賭けもできない生活は、まさに無限光にも等しく、終わりは限りなく宇宙そのものといえた。まどろんだ感覚はいつしか巨大なバイパスを生み、さらに見事な観客席を完備し、ポップコーンとソフトクリームを売る売店があちらこちらに目立ち始めた。現場監督のG・Tが完成予定図を久方ぶりに見たとき、此度の工事が大きく異なった設備を生み出したことに気づいた。超空間通路という庶民のためのバイパスは、二人の英雄の業績により、いまだ銀河帝国に属する知的生命体以外が生息する空間と隣接する狩場と化していたのだ。さらに、観覧席付きのである。

「おれたちは何を作ったのかな、ジャック?」

「さぁ? 鈴鹿サーキットより綺麗だからいいんじゃないかな。それより、ようやく奴隷身分から開放されるんだ! 地球行こうぜ」

「イクイク!」

 これが、現在汎宇宙空間において最もクレイジーでジャポーネでハイスピーな祭典、カロッゾレースを生んだジャックとトムが確認された最後の場面の会話である。


 ドットレベルの熱狂。ワンセクションの狂喜。ワールドワイドなオッズ。スターライズフェロモン。選ばれるのはわずか十機。その位を頂点にしたピラミッドは星海のエゴと自尊心の固まりであり、その銀河星団チャンプたちの血で描かれたものだった。たった一人、たった一騎の超時空戦闘機でヒューマンの繁栄を生み出したカロッゾの名前を戴いたラフディスポーツは、十五歳未満は視聴禁止のアダルトカテゴリーで放送されていた。

「GreenCobraの後方二千六百二にWhiteLord占位! たまらず珊瑚の中に突っ込んだ!」

 時給三千万デレという高給取りである実況が中継する中、星すら飲み込む円形筒の中に存在する薄い粘膜で電子の妖精たちが組み上げた珊瑚礁の中に、緑の戦闘機と純白の狼が機首を中継カメラと垂直に交わらせながらパワーダイブしていった。派手に波しぶき代わりの血結晶が砕け散り、視覚的に狼の攻撃性を示した。カロッゾレースを取り仕切る企業のスタッフルームでは、視聴率の跳ね上がりに腹芸を見せる社員がいるほどだった。

「ブレイク。スターボードだ」

「駄目だ。どうやら誘い込まれたらしい」

「糞! アーリーデメの繁殖期か」

 GreenCobraのタンデムの中で罵声が三つ上がると同時に、限りなく赤に近い卵が一斉に孵化しはじめ、結晶の中に赤く血走った眼球を盛んに動かすアーリーデメの大群を産み出した。数にして師団クラス。黒い師団長がすぐに統率指令を出し、子機が隊列を整えていく。カロッゾレースの真骨頂である、戦闘機同士の狩り比べに誘われたのだと、GreenCobraの戦術コンプは判断した。すぐさまオートマニューバ。アフターバーナのバルブを強制開放し、操縦者の生命を無視した機動を行う。大G運動により、後方に位置する白い狼を振り切りつつ、前方に展開する魚群をすり抜けようとする。

「おああっと! これは卑怯な戦法だ、コブラ。見る見るうちに人気指数が低下していく。これはレース後のインタビューで解雇通知を受け取る表情を撮影できそうです」

「いやぁ、その前に狼がエンゲージしましたよ。これは堕ちるでしょう」

「解説のクリフさんの言うとおり、WhiteLordが攻撃宣言。操縦桿から手を離したコブラを挑発するようにシザーズシザーズ! まるで両翼から挟み込まれるような感覚に陥るという、まさに歴戦の技! 満員トロッコから弾き出された豚のようにコブラが錐揉みしながら吹っ飛んだ!」

 機械の世界が可能にする機動を、狼はヒューマンの操作によって実現していた。噛み締めた胡桃の苦味を感じつつ、狼の操縦者はマスターアームオン。ひび割れ、お粗末にもガムテープで補強したストアコントロールパネルに武装が表示される。RDY GUN。それだけの文字。それ以外は、すべて惰性と切り捨てた。狼は牙を研ぐより、自らの筋肉を信じる。

「撃墜する」

 狼の声。同時に、コブラは独楽のように回転し、狼とヘッドオン。レースの勝利より生存を選んだ。逆走行。バイパス内にイエローシグナルが点灯し、正しい順路へと誘導するべく小型のフラッグカーが筒の外壁に点在している倉庫からゆっくりと現れた。ヒューマンが見たら職務怠慢だと叫びそうな鈍重な動きで、ギョロ目魚の群れに紛れる。

「溺れないようにな」

 短く別れの言葉を吐き、狼――マーフィーは眼前に迫ったコブラのタンデムに照準を合わせた。よどみなく、超高速射撃管制システムが作動し、秒間五百発を叩き込んだ。機関部への直撃なし、ただヒューマンだけを殺し、コブラという機械は生きたままフラッグカーの網にすくわれた。その間、狼は前方から降り注ぐ破片群を回避するために高機動。ほぼ筒内で垂直に機首を上げた状況で珊瑚礁から離脱。珊瑚が眼下に広がるのを確認し、上壁にタッチするかのようにヨーイング。時機に迫ってくる魚群を受動センサーで電子照準。迷うことなく射撃。スプレッド状に降り注ぐ弾丸に、目玉が黄色い液体を撒き散らせながら死んでいく。

「少し数が多いな。それに」

 マーフィーは残弾を確認しつつ、毒液を吐き出す敗戦者たちに粒子を吹かせつつ、センサーの感度を高めた。後方より青。

「若いなりにがんばるじゃないか。そうでないとトロフィーを棚に飾る意味がないからな」

 狼は右の翼を欠いていた。今回のレースで負傷したのではなく、マーフィーが機体を発掘したときからである。操縦桿をニュートラルに固定すると、狼は回転しはじめる。まるで、回転することが宇宙で溺れないために必要だと言わんばかりに。左に大きく丸みを帯びた翼があり、それが海流を斬る。電子装置でいえばジャンクにも等しいが、格闘戦においてはこれほど自慢できる機体はないと彼は自負していた。

「さぁさぁ、レースも後半戦。カッパゾーンを独走状態になった狼を追撃するのは残り四機。他の五機は先ほどのコブラのように、莫大な掛け金を飲み込んでコーラを飲んだときのゲップのように無意味に消えたァ! ここでコカ・コーラ社の宣伝です」

 鮮やかなCM突入と同時に、観客席を取り囲むように建設された英雄が生み出した全天モニターには、純白を追随する青い翼を有した戦闘機が映し出された。機首から尾へと濃淡が変化していく青。首には白い塗装で、天狗、とパーソナルネームが刻まれている。そのタンデムの後方席で耳をぴこぴことさせる少女が呟く。

「ようやく捉えたて。さっさとせんとゴールしてしまうぞ」

 やけに年寄りくさい口調で言うと、ずるずると音をたてる。

「お前がきつねうどんを食いたいと騒ぐからだ。おかげで一番単調なルートでゴールするはずがこのざまだ」

「若いうちは何事も経験しなくてはな。ほれ、あれだ。女子高生の百本斬りといか言うじゃろ」

「どんな変態だそれは」

 操縦席の男の両腕には点滴を受けるような形でチューブが突き刺さり、それが座席後部に延び、きつねうどんをすする少女を通り過ぎ、双発の推進機器へと繋がっている。地球でいうところのアジア圏らしい顔立ちをし、彼は操縦席に響くうどんをすする音とコカ・コーラ社の油ぎったCMに頭を沸騰させながらアフターバーナを点火した。後方で汁を顔にぶちまけた音が聞こえたが、それを無視してWhiteLordに肉薄する。

「さぁて中継の再開です。レースも佳境ということですが、ここで本日めでたく十五歳となり、この美しくも生存競争の真っ只中で火花散らすカロッゾレースをはじめてご覧になる青年の諸君のために解説をいたしましょう。クリフさんお願いします」

「はいはい、このためだけにわたしは巡回バスに揺られ、こんな都会にまでやってきたんですからね。散々人妻のケツをこねくりまわしてストレスと戦って都会までたどり着きましたが、ほんとにここは空気が汚い。若いギャルは馬鹿みたいな金額を吹っかけてくるし、ほんとうにここは地獄です。あ、その目はなんですか? 何か問題でも。あら、なんで守衛につまみ出されるんですかわたしは? おーい、あれ? おーい」

「さぁ、性犯罪者を消したところでわたしから改めて説明を。公務員として汚職を指摘された二人の犯罪者が、その黒い汚点を帳消しにするかのように建設した巨大バイパス。ご存知の通り、我らが銀河帝国内に開通していない場所はないとされる超空間通路ですが、実に大きな問題を抱えています。モニターでご覧いただいている通路は、普段は通行禁止永久工事区画として封鎖されています。その原因は至極単純! 実はあの通路、縁起が悪いというかなんというか、未知の生物、そう先ほどのぎょろついた目を光らせた魚に代表される惑星海洋生物に酷似した知的生命体が存在する外海をも繋ぐ役割を兼ねてしまっているのです。そうです、はいはい。このレース、名目は大衆の娯楽レースという形ですが、実のところ、銀河各地から優秀なファイターを選抜し、こうやって外敵との生存競争を行っているというのが実情なのです。みなさまの食卓に並ぶ、魚。その中にはこのカロッゾレース運営委員会があの気色悪い魚型インベーダーを加工したものも混ざっているのです。あ、吐いても無駄ですよ。、まあ、危険物は混入されていないのでご安心を」

 実況の小話が展開される最中、純白と青がモスグリーンの海草が群生する回廊に突入し、超銀河団をいくつか飛び越える。その間コンマ何秒であり、うどんのつゆを乾かす暇もない。天狗は狼を見上げるような形で位置し、その操縦者――ハイフォウはドックファイトを宣言。主翼の制御翼面が最適運動をはじめ、ロール運動をしつつ距離を縮める。マーフィーは自分よりも百歳近く若い青年を見定めるように航路を維持し、警告音を無視した。代わりと言わんばかりに全方位で電波を飛ばした。

「少し遅かったな。もうラストゾーンだぞ。わたしと同じ最終コーナーに仕掛けてくれたのはうれしいが、もう少し準備運動がしたかったと思わないか?」

 マーフィーはヘッドディスプレイに映る影に注意を払いながら続けた。

「後ろのお嬢さんとベッドの中で視聴する側に居た方がよかったんじゃないかな」

「ほれハイフォウ、わたしが言った通りじゃろ。おぬしが対抗意識なんぞもっても無駄なんじゃよ。さっさと帰ってイチャイチャしようぜよ」

「ふざけるな! お前は後方確認でもしてろ」

「服の中につゆが染みるのじゃ。ちょっと一回サービスエリアに寄りたいのぉ」

「もう三度目だぞ! それにオミクロンゾーンにはコンビニもない。仕掛けるぞ」

 短い宣言と同時に短距離ミサイルを選択。照準を人間でいうところの適当な状態で保持し、一気に狼を追い抜く形で急加速。増速した状態でレリーズ。両翼からそれぞれ二基ずつのミサイルが星の海に着水し、青い機体に付随する。自機の周囲に火薬庫を漂わせるという行動に、昆布だし臭い少女が叫ぶが、構わずハイフォウは後方から撃ちだされた二条の帯をサイドスリップして回避。

「おっと、狼と狐がふざけている間に第二集団も追いついた。誰もが敵意剥きだしだ! 特に、WhiteLordと兄弟機であるCrinaleの射線は激しい!」

 マーフィーの視界に影がせり出る。禍々しい十三のナンバーと悪魔ファウタスのエンブレム。その黒光りする昆虫のようなフォルムに、黄色い蛍光色を輝かす死神。その首下には機動を邪魔する以外に価値を見出せないマニュピレーターがぶら下げられており、そこにはレース中に捕捉した口からレーザーを撃ちだすウナギが捉えられていた。単座の席にはテクノが鳴り響き、死神はジンキングしながら狼の上方へ消えた。さらに後方から敵機。

「楽隊EmeraldSwordの一番機が続く! まさに剣と形容するのがふさわしい形状が矢のように狼へ迫る」

 爆音を轟かせながら、その無意味な音を纏いながら突貫してきた機体をマーフィーは背面でかわす。同時に上方から三条、それを撫でるようにスパイラル。しかし、最後に登場した黄色い機体が無造作に撃ち込んだ炸裂弾の煽りを受けて左翼の可変に損傷。不安定になった機動に、黒がウナギを放り投げ近接。が、そこに二基のミサイル。Crinaleは短距離ブースターを捨て、盾にする。着弾、その隙にマーフィーは胡桃を噛み砕く。ゲット。狼が黒い昆虫をデッド・アヘッド。

「ゴキブリは嫌いだよ」

 照準なしでフルオート。

「黙れチャンプ」

 Crinaleの操縦者はエンジン排気口を可変させ、腹を見せた状態で被弾。だが、そこに積載されたバルーンに命中しただけで、機体にダメージなし。バルーンからは幻惑用の塗料が飛び散り、狼は仕方がなくダイブ。速度を落とし、右斜め上方に一本の矢になる黒エメラルド黄を確認した。

「邪魔をするな馬鹿ップル」

「うぜーよチャイナ」

「青瓢箪」

 徒党を組んだと思われる三機から、狼の撃墜を阻止しようとミサイルを撃ち込んだハイフォウに文句が飛ぶ。特に、黒い機体からとめどなく罵詈雑言が流れてくる。声音が女だからこそ余計に辛らつに聞こえる。

「はは、若いのに助けられたかな」

 わずかに血の滲んだ味を忌々しく感じながらマーフィーは前方に注視する。

「ほれほれ、おぬしの余計な手助けのせいでチャンプが生き残ったぞ。どうするんじゃ?」

 天狗の後部で少女が囃し立てる。

「うるさい。おれは自分だけの力でチャンプに勝ちたいんだ。別に殺し合いをしてるわけじゃない。それに――」

 ここでハイフォウは一拍置き、

「あのCrinaleのパイロットはババアだからな。気に食わない」

 狼が演歌のボリュームを下げ爆笑した。釣られてエメラルドと黄も笑い出す。

「なんだか和やかな展開になってきましたが、このカロッゾレースのコースの中でもっとも過酷なオミクロンゾーン。フィニッシュゾーン直前には、あの凶暴で日焼けした釣り人が大嫌いなカジキマグロの形をしたインベーダーがたむろしています。その魚群を見事突破できなければ、そこで人生交信オーバーです」

 黒の操縦者が甲高い奇声を上げながら狼に仕掛けたのと同時に、黒い空間に銀色の影がきらめいた。全機、フルスロットル。残り燃料をすべて燃やし尽くして加速。その矮小な戦闘機をあざ笑うかのように、カジキマグロ型インベーダーが尾びれを振りながら襲い掛かる。あまりの体格差に、モニターを見つめる観衆も息をするのを忘れたように沈黙する。しかし、その巨躯の威容が前座であることに、このカロッゾレースをはじめて視聴する子供たちは歓声を上げた。

「いっくぜぇ!」

「トランスフォームって感じ?」

 EmeraldSwordが外部装甲を剥離させ、その網の目模様の肌を晒す。それがスピーカーを意匠したものと気づく間もなく、YellowSubmarineの機体が自機を含めた戦闘機だけを除外し索敵した空間に火薬球を撃ちだす。全方位に展開したその球を、エメラルドの筋を残す子持ちミサイルが追い、カジキマグロの眼前で炸裂した。黒い海に、鮮やかな花火が輝く。その隙間を縫い、二機は観衆が待つストレートを目指し駆ける。

 Crinaleは狼を追いつつ、外部燃料を全投棄。その身軽になった機体を機動させ、巨大な腕でカジキマグロの顎をつまむ。そのヒューマンに対する蚊のような存在が、カジキマグロ型戦闘機械のマザーコンプを支配し、次々に同士討ちさせていく。あちこちで派手な火花が散り、哀れ投げ出された半魚人がWhiteLordに狙撃されていく。三点バーストで撃ち込んでいく狼の射撃は正確無比であり、それが高機動を維持しつつ、黒と尻を奪い合いながら行われていく様は圧巻だった。

 その人外のパレードの中、唯一天狗だけが溺れかけていた。

「ほれほれ、置いてかれたぞ」

「黙れ! お前も手伝え!」

「いまは着替え中だから振り向いたら駄目じゃぞ」

「ふざけるな!」

 痴話喧嘩の様相で千鳥足になる青い機体は、すでにカジキマグロの大群に囲まれていた。

「危ないのぉ。お、上から尻尾が」

 少女の声よりも先に真っ赤に染まるモニターを見て、操縦桿に圧力を込める。しかし、あせり過ぎたため過度な負荷がかかり、機体は無様に泳ぐ。衝撃。警告音。右エンジンから喘息。

「おお、今度はダブルヒレアタックじゃ」

 左翼が根元から折れる。安定機動を取ろうとするが、精神的なストレスで操縦桿がまともに操れない。ハイフォウの頭に死が浮かぶ。カロッゾレースがどんなに危険なものかを理解していたはずなのに、訓練生として優秀だとしても、この幻想的でありながら限りなく地獄に近い海がいかに人間を拒絶するかをようやく理解したのだ。何かが被弾した音を聞き、最後にマグロの顎を見たところで、彼の意識は光も速く夢へと逃げ込んだ。


 ベッドの中でハイフォウが目を覚ましたとき、横に置かれた小型モニターには優勝トロフィーを掲げてインタビューを受けるマーフィーの姿と、若い女子アナウンサーの上半身だけが映っていた。包帯を巻かれた右腕をかばいながら上半身を起こすと、ベッド脇でピザをくわえたままフライトデータを入力している女性と目が合った。彼が看護婦かといぶかしんでいると、「ピザ食う?」とピザを差し出した。とりあえず空腹を感じていたのでピザを口に入れると、途端に重大なことに気づいた。

「あ、あの! おれと一緒に搭乗してた女性はどこにいますか?」

 ハイフォウが切迫した表情で問うと、ピザを口に押し込んだ女性は沈痛な面持ちをし、首を振った。

「そ、そんなはずないだろ……。嘘だ、嘘だ!」

 モニターの中で賞賛を受けるマーフィー。歴戦のパイロットにして、宇宙一速いとされる運送会社の専属CMモデルである。そんな英雄と張り合ったばかりに、大切な相棒を失ってしまった。そのあまりに馬鹿馬鹿しい落差に、ハイフォウは鼻腔をくすぐる昆布だしの匂いに耐え切れず涙を流した。相棒はうどんが大好きで、特にきつねうどんが好きだったと思い出すと、さらに麺をすする音まで聞こえてきた。気づけば少女の名前を連呼し、シーツを握り締めていた。

「恥ずかしいからやめい」

「うん……」

「ほれ、鼻水拭け」

「ありがとう」

 手渡されたティッシュで鼻を拭うと、ハイフォウはピザを食べ終わって上官と最終確認をしている女性とは反対側を見た。そこには怪我一つなくうどんをすする相棒の姿があった。暢気に七味を足してかき混ぜている。

「死んだんじゃないの?」

「あほか。あんな魚臭い場所で死ねるか。あれか、墓標に釣り糸でも飾るのか」

「あ、いや、だって、な。おれたちマグロに食われたんじゃ」

「チャンプに助けられたんじゃよ。お情けでな。これからは自分のセカンドシーカーとして働けと言っていたぞ」

 うどんを食べ終えた少女が車椅子を用意し、ハイフォウを乗せて病室を出た。彼が自分の怪我を尋ねると、どうやら彼女が中破した操縦席から出るとき、沸騰したうどんのつゆをこぼしたためによる火傷だということだった。あまりのくだらなさに彼がうなだれていると、長い歩行用エスカレーターの先に、巨大なドックが見えてきた。働き蟻のように整備員が動き、それを補助するために工業用機械が喚きたてている。その中心に居るのは戦闘機であり、その操縦者たちであった。

「ここは、どこだ?」

 ハイフォウはその敬礼中の軍人の中に見知った顔を見つけながら少女に尋ねた。

「おぬしが参加したレース会場から繋がっている前線基地じゃ。ここで日夜魚型インベーダーと戦っているのが、目の前のおぬしの先輩たちじゃ。その偉人たちに喧嘩をふっかけおるに。ちなみにな、さっきの表彰式はもう二日前じゃ。いまはこうしてどのパイロットもそれぞれの指揮下で出撃する。おぬしみたいにピーピー夢の中でわたしの名前を叫ぶ暇はないのじゃよ、うんうん」

 屈辱的ともいえる頭を撫でられるという行為にも反論できず、ハイフォウは歯を噛み締めた。と、そこに白い耐圧服に身を包んだ人影が三つ近づいてきた。

「威勢はよかったが、やはり若いな。若さが通用するのはベッドの上だけだぞ」

 そうやって高笑いをするマーフィーに、

「へたれ」

 とピザをくちゃくちゃとさせる女性。そしてその頭をぶん殴り黙らせる褐色肌の男性がいくつかハイフォウに励ましの言葉をかけた。ただ、ハイフォウ自身はその言葉をきちんと受け取ることはできなかった。本来、あの地獄に旅立つ彼らにこそ自分が声をかけるべきだと、あまりの情けなさに腹立たしかった。そんな陰鬱とした彼にさらに罵声を浴びせるピザ女がツインテールを掴まれながら引きずられていくと、残った狼はハイフォウの肩に手を置き呟いた。

「グッドラック」

 それだけを言い残し、彼らは再び海へと挑んでいった。そこがどんなに過酷で、いかに溺れる存在を許さない場所かを知った上で。車椅子の上で、ハイフォウは拳を握り同じく呟いた。「グッドラック」、魔法の言葉。必ず会うと、再会を誓う言葉。その言葉の重さが、彼の瞳に再び青い炎を宿らせた。

「ほいじゃあ、早速反省会でもするかの」

 少女が意地悪く頬をつねる。その痛みを感じ、ハイフォウは苦笑いを浮かべた。

 

id:firestorm

きゃーきゃーきゃー。心のフォースフィールドがべんべん言いながら削れました。助けて!たすけてー!

感想文はのちほどっ…はふー…

2006/10/20 01:32:49
id:Erlkonig No.5

回答回数4ベストアンサー獲得回数0

ポイント13pt

題「インドへの道」


「決めたよ! 僕はインドに行く! インド行って牛に乗る!」

 たあ君は私の部屋に転がり込むなりそう叫んだ。

「インド? なんでインド? しかも牛」

「そりゃさゆちゃん、インドと言えば修行に決まってるじゃないか」

「だからなんで修行?」

 従弟のたあ君は、修学旅行も嫌がる非行動的な男の子だったはずだ。というかアウトドア全般を憎悪している。そんな彼が、インドで牛とは何事だろう。

「僕は痛感したんだ、自分が口先だけの人間だったって。僕は無根拠な全能感に安寧していただけだった。中二病だった。無能なパンダに過ぎなかったんだ!」

「パンダ」

 たあ君、また変な作家にお熱になってしまったのだろうか。この前も「神は死んだ!」とか読んだこともないニーチェを引用しまくってたし。

「で、具体的には?」

「じいちゃんに相談したら、任せろって言ってくれた。学校も一年休学して、じいちゃんとインドの山奥でみっちりシュウヨウを積んでシンタイセイを獲得するんだ」

「一年? 休学? え、うっそ」

 今回はまた大きく出たものだ。私たちの祖父は、路銀も持たずに発展途上国を放浪するのが趣味の屈強な老人だ。通称【殺人!牛殺し】。思考にも少々エキセントリックなところのある祖父ならば、たあ君の一時の「思いつき」も全力で実現させてしまうだろう。

「僕はやるぜ! インドア派からインド派へ転向だ! 待ってろよ牛の群れ!」

 とか言ってるが、でもこれはこれで良いかもしれない。何か勘違いをしているたあ君だけど、なにせインドだ。三日で帰りたいと泣き出すだろうが、あの祖父は赦すまい。インドで牛糞にまみれて嫌でも一年、それは人間が成長するのに十分な環境と時間だ。カラ悟りなんてたちまち抜けてなくなろう。

 一年後のたあ君を想像してみる。何があっても一人で生きていけるだけの逞しさを身につけて、彼は戻ってくるだろう。バイトの面接なんかでしどろもどろになることもなく、誰とでも堂々と接することのできる人間になっているのだ。無闇に他人を見下したり、受け売りの知識をひけらかすこともなくなる。だってたあ君は、そんなことをしないで済むだけの経験をしてくるんだから。

 ふと思う。なんだ、そうなるともう、私よりも立派じゃないか。一年後の未来、凛々しくなって帰ってくる彼を見るのが急に楽しみになってくる。

「さゆちゃん、何にやにや笑ってるの?」

 一人愉快に思っていると、今はまだ情けないたあ君が不思議そうに首を捻った。

(終)

 シューティングもライブアライブも知らない私が空気を読まずに投下。

id:firestorm

「牛のいるゲームは良いゲーム」と偉い人も言っていたとおり牛にときめきました。うわあいうわあい。

感想文はのちほどっ。

2006/10/20 01:35:54
id:kanabow No.6

回答回数3ベストアンサー獲得回数0

ポイント13pt

タイトル:白銅の墓標

 今日は逃さない。

 私を撃墜するためだけに、毎日しつこくやってくる敵国の迎撃機たち。だが今日は相手にしない。

 昨日発見することに成功した敵の中枢、飛行戦艦だけが私の相手。今日で勝負を決め、この戦いを終わらせる。

 エンジン推力を147%にまで上昇させる。一日限りの限界出力。猛烈な加速で機体は軋み、高速度による大気摩擦で機体表面の塗装は燃え上がる。最後の戦いで力の出し惜しみはしない。

 私の機は全ての迎撃機を振り切り、敵軍の指揮をとる中枢部、巨大飛行戦艦にまで到達する。

 あまりの高速度に戦艦を追い越しそうになる。火器管制システムはエアブレーキ展張による最適タイミングでの急減速を提案。それに従う。だが、エアブレーキは最適タイミングで減速を開始したまさにその瞬間、千切れ飛ぶ。迎撃機を振り切るときに被弾していたのか、あまりにも速度が上がりすぎていて耐えきれなかったのか。

 減速しきれない。

 やむを得ず追い越しざまの戦闘を開始する。

 巨大飛行戦艦は無数の対空レーザー砲の保護シャッタを開け一斉射撃体制に移行。私は横転、急激なマイナスG旋回でフェイントをかけ照準を回避。飛行戦艦を操る赤い糸のように張られた無数のレーザーの隙間を縫うように飛び、ミシン目のようにずらりと並んだレーザー砲のレンズを次々撃ち砕く。無数のガラス片は霙のように舞い散り、発振装置は赤い炎を上げて燃え上がる。

 燃え上がる戦艦があげる煙に巻かれながら、旋回によって減少した速度を補うために機体下部のマニピュレータで敵艦を蹴って再加速し高速離脱。第一撃は上々だった。

 上昇反転し再攻撃を狙う。次で止めを刺す。

 上昇に入った瞬間、煙の向こうの空域に押っ取り刀でやってきた敵迎撃機編隊が網を張っていることに気が付く。回避しようと急旋回。翼端からは飛行機雲。被弾し傷ついた翼は過加重に悲鳴をあげる。だがそれでも間に合いそうにはない。

 回避動作をとる私の機体のエンジンが爆散するのを感じる。高速機を撃ち抜く見事な射撃。

 もはや飛行を続けることはできなくなった。ただ重力に引かれ墜ちるのみ。

 物理学に慈悲という言葉は存在しない。

 私の、私たちの戦いは、私が撃墜されることで終わる。

 「負けで終わるのか?」

 数十秒の長い落下の末、私の愛機は地面と激しいキスをした。



 機体が地面に衝突するのを感じた次の瞬間、私は暗く、冷たく、静かなところにいること気が付いた。2分と経つより前まで行っていた戦いは、別世界のことのようだった。

 辺りを見回すと、空は限りなく黒に近い紺。星はまたたかない。

 遙か眼下には炎上し煙を曳く巨大な飛行戦艦。炎上している位置は、私が攻撃を加えた位置と一致する。間違いなく同じ艦。間違いなく私はまだ同じ世界にいる。

 私は、機体の管制装置により衝突する寸前に宇宙軌道上に配備された予備機へとデータとして転送されたのだろう。

 データリンクシステムによるエクステンド。

 「これで再び戦える」


 新しい「私」は空間を漂う砲人工衛星の残骸から重砲を回収しマニピュレータに固定する。

 遙か彼方の敵飛行戦艦をより精密に見るために可視光センサに加え電磁気センサを追加で作動させ、第二撃のために降下開始。

 降下を開始してすぐに火器管制システムは超高々度からの精密射撃を指示。指示に従い射撃開始。素晴らしい精度の衛星砲の弾丸は、次々と敵艦に着弾し爆炎を上げる。

 この射撃で降下終了前に片をつける。

 だが、重砲は残骸から回収したものでしかなかった。残っていた弾丸はごく僅かだった。弾は敵艦を沈めるよりずっと前に尽きてしまった。

 弾が無くなりただの鉄塊と化した重砲に最後の仕事をさせるため、私は宙返りするように旋回をしつつマニピュレータで重砲を槍のように投擲。重砲は莫大な保持運動エネルギーに位置エネルギーを加え、戦艦の装甲を貫通し突き刺さる。一段と大きい爆発が見える。

 そのままさらに急降下。

 飛行戦艦の上空で再び迎撃機を発見。

 「私が二度同じミスをすることなど決して無い」

 先手を打って悠々と全機撃墜する。


 戦艦と同高度まで降下すると、対空砲は全て砕かれ沈黙していた。

 私は突き刺さった重砲のところでねじ曲がっている装甲をマニピュレータで強引に引きはがし、無防備になったところに射撃を加える。

 装甲の無い無防備な状態で攻撃を受けた飛行戦艦は、血のように真っ赤な駆動油を噴き上げつつ根幹部を破壊され燃え上がり、浮力を失い、高度を急激に失い墜ちていく。


 「私はこの戦いに勝利した」

 勝利の後聞こえたのは、自らの機体を駆動する音だけだった。

 勝利を称える者など、もはやどこにもいない。

 私に戦いを命じた人間たちがいつごろいなくなってしまったのか、思い出すことはできない。

 世界中を飛びまわり、ありとあらゆるセンサを稼働させても、探知することができたのは軌道上で私の意志を待つ無数の予備戦闘機たちだけだった。

 私の可視光センサには、涙を流す機能などない。


 (おしまい)


 白銅の100円硬貨、一つ入れたら今日もゲームの始まりです。

 シューティングゲームには「残機」があるのに何故「単機」で戦うのかという疑問に強引な回答を出してみたらできました。

id:firestorm

はわわはわわはわわわわわ(壊れてますお待ち下さい)

か、感想をこの場で書きたい気持ちをぐっとこらえてお待ち下さいっ!はうー。

2006/10/20 01:38:52
id:sasuke8 No.7

回答回数12ベストアンサー獲得回数2

ポイント13pt

『10匹目の狐』


夕刻、日暮が何かの終わりを告げるかのように物悲しげに泣く頃、笹嶋俵伍は、剣術道場である新島家を訪ねた。長男である新島真八はそのとき、縁側で昼寝をしていた。

笹嶋は外から新島家の庭に回りこみ、寝転がる新村を見下ろして立った。

「新村さん、きました? あれ」

「ああ、来たよ」

新村は寝転んだまま、懐から赤い紙を取り出し、ひらひらとさせた。

「行くんですか?」

「行くよ、そりゃ。婆ちゃんが張り切ってさ。なんか鎧とか出して来てんの」

ははは、おトキさんらしい、そう言って笹嶋は細い目をさらに細くして笑った。

「あんまり笑えねえよ。戦争だぜ」

新村は溜息をついて、ごろりと体の向きを変え、笹嶋に背を向けた。

「新村さん。気が進まないなら、俺と来ませんか?」

新村は、またごろりと向きを戻し、幼馴染の顔を、訝しげに見上げた。

笹嶋俵伍は口の端を吊り上げ、満面の笑みをたたえているが、決して本心を見せない男だ。新村は笹嶋の考えている事が読めたことはない。




『では新村君。考えておいて下さい。君達の持つ力は、必ず国のためになるのですから』

雨の降る中、家までの帰り道で、新村は、さっきまで自分が会っていた軍人の言った言葉を反芻していた。そして笹嶋の事を考えていた。何故、笹嶋はあのような軍人と繋がりがあったのか。あの軍人は、あまり軍人らしくなかったけれど、新村や笹嶋のような平民と関わり合うような人間ではない。

「俺達の持つ力」

それが、古くから家に伝わる剣術であると予想はついた。だが新村はまた苦々しい想いに囚われる。新村と笹嶋が学んだ剣術は純粋に人を殺す術であった。まるで、その術そのものが禍々しい殺意であるかのように新村は思うことがあった。

そこまで考えたとき、嫌な予感がした。あの軍人は他にも言ってなかったか。

『我々を狙う刺客がいる可能性があります。十分気を付けて下さい』

新村は踵を返し、走り出した。何か当てがあるわけではない。ただ笹嶋の家の方向へ、とにかく走った。


予感は的中した。村の外れにある笹嶋の家の戸は無残に蹴破られ、中が滅茶苦茶になっているのが見える。そして、部屋の中心には血だらけで倒れている笹嶋と、剣を抜きそれを見下ろしているあの軍人がいた。

「うおおおおおッッ」

咆哮し、踏み込み方を闘いのそれに変える。声に軍人が気付いたが、構わない。速度は変えず、前傾に、新村は矢になる。手に持っていた傘は捨て、入り口で、真ん中で折れた戸のつっかえ棒を拾う。足の向きを揃え、体を引き絞り、精緻な重心移動を繰り返しながら、さらに加速していく。狙うのは心臓だ。一撃で終わらせる。棒の切っ先は、蛇のようなしなやかな線を描いて、だが真っ直ぐに軍人の心臓を目指した。あと半歩。そこで、新村の動きはピタリと止まった。軍人の持つ刀が真っ直ぐに、棒の先にあてがわれ、それにより棒と新村の動きを完全に封じ込めていた。

「な」

新村は驚きの直後、激情を一瞬で凍りつかせるような、冷ややかな恐怖を感じ、飛び退いた。

軍人は、刀を構えたまま穏やかな口調で言った。

「人違いです。新村君。私が来たときには、既に」

「勘、違いで、人を、殺す、ところですよ……全く」

下から、喋ると言うより呻くような笹嶋の声が聞こえ、新村は我に返る。

「笹嶋っ」

棒を放り出し、新村は、笹嶋の傍にしゃがみ込んだ。

笹嶋は、目を瞑り、荒く息をしている。

軍人は刀をしまいながら、重い口調で喋った。

「……やはり笹嶋君は素晴らしい使い手でした。実験体とはいえ、モーメントアタッカーを生身で倒したのです。それは誇っていいことだと私は思います」

「黙れッ!」

軍人は、声を落とし「すいませんでした」と謝り、新村に背を向けた。

「人を呼んできましょう。相手も強化兵士を刺客に使う事がわかっていながら、止められなかった。我々の責任です」

軍人苦々しくそう言った後、脇の刀を新村の傍に置き、走り去っていった。


新村は、ひたすら笹嶋の名前を何度も呼んだ。

笹嶋が目を開ける。

「笹嶋ッ」

笹嶋は力なく、笑う。

「……新、村さん、この面、覚えてますか?」

笹嶋は、血だらけの手で、荒らされた部屋の壁にかかった狐の面を指差した。

「ああ、覚えてる。確か祭りのときの」

「あの、頃は、苛め……られて、ましたねえ」

先祖に外国人のいる笹嶋は、髪の色が少し赤みがかっている。辺境の村においてその違いは致命的であった。

「もう、喋るな」

「でも。あの、ときは、嬉しかったなあ」

笹嶋は血を吐きながら、遠くを見つめていた。その表情は、子供の笑顔のそれであり、その目は今、苛めっ子から面を取り返すために戦う新村を見ていた。

「俺は、あのとき、もう、諦めて、たんですよ。あの、面。でも、新村、さんは『取られたら、取り返すんだ』って……」

笹嶋は苦笑する。

「俺が、あんたには関係ないって、言ったら、『俺は、取られたくないから、取る奴は、やっつけとくんだ』って言って」

「そんなこともあったっけな」

新村は着物の袖を契り、血に濡れた笹嶋の腹を押さえる。

そういえば、笹嶋が『新村さん』と呼ぶようになったのはあのときだったか。

笹嶋が、大きく咳き込み血を吐いた。

「新村さん」

「おう」

笹嶋は歪む顔に必死に笑みを張り付かせながら、新村の袖を掴んだ。

「僕は、別に、この国は、好きじゃあない、です。正直、僕の国、という気は、しません。でも僕は、新村さんも、先生も、トキさんも、みつも、拓三も、良太も、皆、好きだったん、ですよ。だから、俺は、俺は何も取られたくない」

笹嶋はそこまで一気に喋って、荒い息を静めるように目を瞑った。

「新村、さん」

「何だ」

「でも、もう、ぼ、僕は安、心して、ます、よ……あなたは、僕の、最、後の」

そして、笹嶋は、最後に、これまでが嘘のように、穏やかな顔で笑った。

雨は止んでいた。全ての音が消えたかのように、辺りは静まり返っている。


「笹嶋よォ……俺は馬鹿だから、お前の考えている事はようわからんかったよ。でもなぁ、お前の気持ちは俺が一番わかってたんだよ。そうだよなあ。怖いよなあ。悔しいよなあ。嫌だよなあ。そんなのはよ」

笹嶋は答えない。だが、その表情は、穏やかであった。

「じゃあよ。怖いとか、痛いとか、助けてとか、何でも良いから言えよ。……後は頼む、とかよ」

笹嶋を抱きかかえ、新村は立ち上がり、外に出る。

「最後まで、無理しやがってよ」

いつの間にか、雲の隙間から月が出ていた。


翌年、新村真八は特殊部隊「虚空」に入隊、「瞬撃」計画に参加する。さらにその翌年、特殊部隊「虚空」は解体するが、解体後の隊員の行方、「瞬撃」計画の内容についての詳細な記録は残っていない。

(終)

____

9匹の狐に衝かれて書きました。1.9次創作です。あれは、あまりに直撃過ぎた。

ダラダラと長いのですが、僕はさらに脳内妄想で補完しているので他人が読んだらどうなるか。惨劇ですね。すみませんでした。

id:firestorm

きゅんきゅん。きゅんきゅんです。アツすぎます。

脳内にそのへんからかき集めてきた似非和風モノのヴィジョンが湧いてきましたー。

感想文はのちほどー。

2006/10/20 01:40:43
id:brainparasite No.8

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ポイント13pt

題名:White Light


 プラズマ弾の雨を掻い潜り、俺はローカスト編隊で飛来する全ての敵機にミラージュ・バルカンを叩き込む。俺とHD-X01“コカトリス”は一心同体。撃ち洩らしはない。敵機は爆破四散しながら雲海の中に飲み込まれていく。ここまでは、予定調和みたいなものだ。

 雲の切れ間から、鮮やかなグリーンが覗く。地平線の彼方、どこまでも続く森林地帯だ。

 惑星アネターに配備された自律型テラ・フォーミング・ベースは、“最も効率的に環境改善すること”を至上命令とし、予想を超えたスピードで忠実すぎるぐらいに責務を果たした。

 たった一つ問題があったとすれば、適応範囲を定めていなかったことだ。

 思考する機械にとって人間とは非合理の塊であったし、地球は人類に侵食された不浄の地として映った──後はまあ、言わずもがなだろう。

 俺がかつての殖民星の空を飛んでいる理由は、そんなところだ。

『テンダロイン級浄化戦艦──“カトブレパス”、来ます』

 モニターの端で、伏し目がちな少女が告げた。G.A.I.A.所属のオペレーターであり、俺の相棒である。

 雲海を割って現れる黒鋼の巨大な船影。その先端に鎮座するのは、超力線放射砲“ヘビィ・アイリッド”。10km先までのあらゆる物質を塵一つ残さず消滅させ、後には大気中に大量のマイナスイオンが放出されるという大層ありがたい大砲である。

 そんな殲滅兵器に加え、抗ビームコーティングの装甲と自己修復機能を備えたこいつには、正攻法で押し切ることは不可能だ。

「コンバージェンス・モード」

 音声命令を受けて“コカトリス”の複層型の矩形翼が展開し、速度よりも火力を重視した形態へと変わる。

『そんな、無茶です!』

 意図を察知したのか、相棒が涙目で訴える。

「最後の切り札のために、最後の休暇を返上したんだ。やってみないことには、始まんないだろ?」

 “ヘビィ・アイリッド”の先端に光が収束していくのが見えた。

 迷うことなく、その射線上に飛び込む。

 光の束が暴力となって、解き放たれた。飲み込まれれば、機体を一瞬で蒸発させるだろう。

「こっちだって──超力砲を積んでるんだッ!」

 トリガーを引き絞る。

 機体より一回りも二回りも大きな光線が放たれ、同質の粒子が真っ向からぶつかった。

 世界を切り裂くような爆音がつんざき、光の嵐が渦巻いた。

 光と光の衝突は、中間地点で拮抗しているように見える。いや、若干こちらが押しているようだ。

 俺はトリガーを強く、強く握り締めた。それにはオン/オフの回路しかないというのに。

 ──このまま押し切れるか。

 そう思った瞬間、ジェネレーター異常のサインが灯った。モニターがアラートで真っ赤に染まる。

『超力ジェネレーター2機……3機損壊、もう……もちません!』

 彼女の慟哭が、ヘルメットいっぱいに反響する。

「A.I.の癖に、泣いてんじゃねーよ……」

 機体が光に包まれた。

 消滅は、本当に一瞬だった。


 夢を見た。

 四角いテーブルの中にモニターが埋め込まれていて、俺はモニターを食い入るように見ている。

 手元にはシンプルなコンソールパネルのようなものがあった。俺はそれを動かして、一喜一憂しているのだ。

 そこは薄暗く、煙くて、猥雑で──でも、楽しそうで。


 ──真っ白な光の中で目覚めた。

 徒労感がどっと押し寄せてくる。

 一本腕のロボット・アームによって、没入型ディスプレイと一体型のヘルメットが装着され、混濁した意識がいくらかはっきりしてきた。意識が途切れる前と同じコクピットの中にいて、操縦桿を握っている。空は飛んでいない。機体には、ロットナンバー418の表示が刻まれていた。

 俺は、本当のことは何も知らない。

 いつどこで、誰が誰と、何のために戦っているのか。あるいは俺がどこで生まれ、どこで育ったのか。名前すら思い出せない。ただ機体の操縦方法だけは頭に刻まれているようだった。

 相棒──最初はただのナビプログラム──は、機体のコンディションと敵機のデータ以外については何も語らなかった。

 初陣は何も分からないままに放り出され、一分と持たなかった。俺は死んだ。

 目覚めると、同じコクピットにいた。

 相変わらず過去は思い出せない。ただ、戦場で起きた一部始終の記憶は引き継がれた。血とオイルの匂いも、機体の破片が心臓を貫く痛みまでも。

 そう。俺は多分人間だ。ただその容姿は一般的な人間のそれとは異なっている。自分の下半身はこの戦闘機と文字通り一心同体にある。いっそA.I.にでも任せればいいと思うのだが、何かの理由があるのだろう。

 毎回、同じルートを強制的に飛ばされ、相手も、同じ場所に同じ戦力を差し向けた。

 こちらには前回の記憶と経験があるので、その都度難局を切り抜けることができた。

 俺はローマの剣闘士のようにひたすら戦い続けた。トライアル・アンド・エラーを数百回ほど繰り返し、ルート上で待ち構える四機の敵戦艦を沈めるほどに腕を上げた。

 だが、ある時俺は強い不安に囚われ、それ以上進むことができなくなった。撃墜率が目に見えて落ち、些細な不注意で命を失った。

 多分──何のために戦っているのか、分からないことが不安になったのだ。

 それは、自分の存在価値に疑いを持つことと同義だった。

 いつの間にか、俺は独り言をしゃべるようになっていた。自分に、機体に、相棒に、敵機に名前をつけた。この戦場について、敵の目的について、自分で定義した。論理が完成してしまわないように、出撃毎に設定を変えた。

 振り返れば、どうにか自我を保つための逃避行為だったのかもしれない。

 相棒も始めはそっけない反応しか返ってこなかったが、最近は映像付きで喜怒哀楽を表現してくれるまでに進化している。さすがA.I.というべきか。

 ──いや、こいつも案外退屈だったのかもしれないな。

 今度の設定は……そう、敵は珪素生命体というのはどうだ。自分はR.E.X.航宙軍のナイーブな新米パイロット。オペレーターには赤毛で胸の大きなレディを所望する。

「コンディション・グリーン。いつでも発進できるわよ」

 独り言通りにグラマラスな女性がモニターに映った。

「よ、よろしく」

 俺──僕はできるだけ軟弱に答えた。

「んもー、今からそんな弱気でどうすんの。相手は残虐な珪素生命軍シリコニアンよ!」

 設定を汲み取ってくれたらしい。そうだ。弱気なパイロットには、押しの強くて包容力のあるお姉さんと相場が決まっている。

 カタパルトハッチが開き、REX-418“アーケオプリテクス”の超力イオンエンジンが咆哮を上げる。

 電磁レールで射出された機体が、硝煙弾雨の戦場へと飛び立つ。

 ──大丈夫だ。今度はうまくやれる。

 夢で見た光景が脳裏をよぎった。あそこには、いつかたどり着けるのだろうか。

 真っ白な陽光が、僕と機体を包み込んだ。


(終)


無理やり全部入れてみました。

id:firestorm

ときめきすぎて死にました。一瞬で残機が減りました。

感想文は書きたいけど書きたいけど書きたいけどあっ後なんだからね!←なにその

2006/10/20 01:45:35
id:terasuy No.9

回答回数5ベストアンサー獲得回数2

ポイント13pt

「おうおう、こいつは市の重要文化財だぞ。まったくあいつは見境なしかよ」

明かりの消えた市街地の一角で耳が潰れるような轟音を響かせ、絢爛豪華な建造物が見るも無残な姿に変貌していく。横浜市みなとみらい文化地区、今は動かない巨大観覧車の支柱が1本、また1本と破壊されていき、その度に重力を得たゴンドラが地面に叩きつけられていく。

コンクリートの砕ける煙がたちこめ、辺り一体が重量を含んだ空気で覆われていった。

「市民は避難…したんだな。はいはい、そいじゃ俺は行ってくるよ」

「山岡警視、装備はよろしいので?あの新型に対抗するための兵器を後続の貨物車に運ばせておりますが」

「おい、てめぇ新型ってなんだこら。殴るぞおい」

「も、申し訳ございません…。それで、装備はどういたしましょうか??」

「俺はこの腕一本で十分なんだよ」

現場に到着した警察車両の1台のドアが1枚、鈍く重たい音を立てて吹き飛んだ。ドアは綺麗に舗装された歩道に並ぶように立っていた木にぶち当たり、べきりと気持ちの良い音を立てて木が倒れていった。

片一方が爆ぜた車両のドアから出てきたのは200cmはゆうに超えるであろうかという体躯の大柄な男。地面に両足をつけると一言「あいつをぶん殴ってくらぁ」そう呟きその姿は一瞬にして消失した。地面に大きな窪みと粉々になったコンクリートの幕を残し。

「警視も十分見境がないと思います」

運転席に座っていた部下は壊れた車両の中で1人ごちたが、その呟きを聞くものは1人としていなかった。


「さて、そろそろオイタはやめる時間だぞこら」

山岡は車両から這い出て(彼の巨体を見ればこの言葉がうってつけであると解せるはずだ)、2秒後には渦中の人物と相対していた。白地をベースとし紺の襟をこさえたよくある女子高生の格好をした少女がそこにはいた。彼女は1つまた1つと落ちていくゴンドラが作り出す爆風にスカートを大きく揺らしている。

「実験は続行中。あなたにはわたしの行動を止める権利がありません。妨害行為をするのなら即刻排除させていただきます」

まるで機械のナレーションのような声音で彼女は山岡に告げた。

「あぁそいつは怖いこったな。生憎だがお前のところとうちは管轄が違うんだよ。お互い国家の犬だが、仲良くは出来ないってことだな。つーか、毎回同じことを言わすな阿呆」

山岡は肩を怒らせながら少女の元へ歩み寄っていく。1歩1歩進むたびに地面に罅割れが起こり、微震の連鎖が紡がれていく。

「重力バリア展開成功。生体照合開始…照合完了。神奈川県警所属、山岡清一郎警視。あなたとはこれで5度目の接触。即時抹殺対象としてリストアップされています」

彼女が言葉を発し終わった瞬間、彼女のスラリと伸びた白くて綺麗な足と、山岡のごつごつとした切り株のような腕が衝突していた。

「今日の格好もまたあいつの趣味か?」

「質問の意図がわかりかねます。────重力展開フルパワー」

少女の蹴りを片腕で受け止める山岡の体が地面にゆっくりと沈んでいく。周囲ではあちこちで地盤沈下が起こり、植えられている木々が幾本も傾ぎそして打ち据えられていく。

「パンツが丸見えなんだよ!!馬鹿野郎!」

山岡は両手で少女の足を強く掴み、そのまま勢いよく旋回しだした。回転速度は秒速30回転を超え小さな竜巻が起こるほどに、強く強く強く!!!

バチン!!という大きな音が放たれたと思うと、弾かれたように両者が吹き飛んだ。少女は月の光りに照らされて薄気味悪く光る黒い海へ、山岡は観覧車の中心部の時計へと。

かろうじて存在を保っていた観覧車が強烈な爆裂音を立て一気に瓦解していく。数秒後コンクリートの荒地と化した中から山岡が立ち上がる。その手にはつやつやとした白い…足。

「切り離しやがったなあの野郎」

そう言った山岡の体の随所は肌が崩れ、千切られた皮膚の下に機械的な金属が姿を見せていた。腰部の辺りには大きく抉られて穴が開き、バチバチと電撃が走っている。それはさながら数百年前に流行したSFフィルム映画のように、200cmの巨体は歪なモニュメントのごとく月明かりに照らされる。

山岡と少し離れた脇の海面から水しぶきが上がった。片足をもがれた状態の少女が水上を浮遊していた。脚部の付け根にはバーニヤが展開し、煌々と黄色い光を放ち、水面に波を立てている。

「山岡警視の能力値を修正。重力展開を解除し、全エネルギーをEMLに供給」

少女の片腕が肘からポロリと落ち、接続部からはずるずると銀色に光る砲身が伸びていく。その長さはゆうに5mにも達し、彼女はもう一方の手で強く押さえつけた。

まるで釣りのコンパクトロッドだなと山岡は思った。そういえばあいつとは釣りすら行ったことがねえ。歯をぎりぎりと軋ませると、瞬間山岡は目を見張った。

「あの野郎!!!!!」

その目は少女の体を正確に直視し、熊をも射殺すような野獣の眼差しが向けられる。

「なんて格好だ!!!!」

少女の制服は先程の旋回で発生したカマイタチによってびりびりに破けており、あちらこちらから艶のある素肌が見え隠れしていた。

山岡は自分が原因であることを理解するはずもなく、少女のその姿に怒りを露わにする。そしてまた横浜に地震が起こる。今回はとびきりの大きさだ。山岡は地割れが起こるほどの力で足を踏み込み彼女のもとへと飛び込んだ。

「自分を大切にしろって何度言えば…」

山岡が仁王のような怒り狂った顔で咆哮する。

「充填完了、目標補足」

少女の長い砲身の先はしっかりと飛び込んでくる山岡を捉えていた。

「発射」「この馬鹿娘がぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

少女の長い砲身に山岡が強く拳を打ち付ける。

強い閃光、そして─────爆発。


海面の水が一息に爆ぜ、舞い上がった大量の海水は巨大な波となって周囲を飲み込んでいく。既に警察は彼らの攻防から、この顛末を予期していたのか撤退済みだ。

「あの親子は日本を壊す気なのかな、まったく。不仲の奥さんが2人の生みの親だってんだから、夫婦喧嘩に使われているようなものじゃないかあの子は」

現場の前景を見下ろせる高台から山岡の部下が1人ごちたが、傍聴者は誰もいなかった。



────。

「痛いだろう、美香」

波がおさまった後に残るのは浸水した大地にぷかぷかと浮遊する数台のゴンドラ。

その中の1台の上に彼らはいた。

「その痛みはお父さんの痛みだ」

山岡の顔には既に怒りは見えず、空に浮かぶ無数の星々を空虚な目で眺めているようだった。

「ボディの損壊70%。AIの損傷15%。早急な修復を要請します。繰り返しますボディの…」

「こら、美香!!!」

既に2人は体を起こせるような状態ではない。それを体と呼べるのかどうかすら危ういボロであった。この姿の方がよっぽどサイボーグらしいと言えた。

「AIに山岡警視へのメッセージを確認。メッセージを確認。再生します」

耳障りで擦り切れるような機械音声がそう告げると、途端透き通るような若い女性の声に変わる。

「あのね、お父さん、私観覧車に乗りたかったんだ。願い…叶っちゃった。ありがと、お父さん」

ぶつり、と美香の動きが止まった。

ゴンドラに波が当たり2人の体を濡らしていく。

山岡は目に溜まる水を拭おうとしたが、腕が無いことに気づいたのだった。


(終)

突発的に参加してしまいました。サイボーグ的な親子ってことでー。

id:firestorm

きゃああ新機軸。きゅんきゅんきゅんきゅん。

感想文は後ですわー。

2006/10/21 09:12:14
id:tplusf No.10

回答回数6ベストアンサー獲得回数1

ポイント13pt

『悪魔と天使』


 司令部との連絡手段を失って、九十時間が経過していた。

 非戦闘員の死骸から入手したハイドレーションを首筋から注入すると、俺は積み重なった瓦礫の細い隙間にスコープを差し込む。

 網膜ディスプレイに単色のグラデーションで塗り分けられた、市街地の光景が映し出された。

 そのさらに奥へとピントを切り替える。

 互いにもたれ掛かるように倒壊した高層ビルの間から、目的の建物が見える。

 俺はその裏口部分にピントを合わせた。

 一見、運良く崩壊を免れただけの、ありふれたビジネスビルにしか見えない。

 だが、現在はそのロビー部分に複数のICVが配備されていた。

 今回の作戦目標は、この建物内にあるGPS信号制御塔の『奪還』――いや、『破壊』だ。

 すでに生き残りが俺しかいない時点で、奪還は無意味だ。

 数時間で奪い返されるだけだろう。

 状況はいつも通りハードだった。

 ほぼ敗戦の確定した局面から、自国市街地でのゲリラ戦に持ち込もうというのだから恐れ入る。

 二度に渡る首脳陣の入れ替えにより、総司令部にもろくな人材は残っていない。

 権力闘争に明け暮れた挙げ句、自国の経済を疲弊させるだけ疲弊させ、終いには明け渡す前に破壊しようとしている。

 まるでヒステリックな子供だ。

 だが実のところ、そんな事には興味がなかった。

 俺にとって大事なのは、納得出来るだけの報酬が提示されるかどうかだけだ。

 小隊を全滅させてしまったのは失態だが、そもそも降下地点の情報漏洩が原因にあるようだし、それ程強くは責められないはずだ。

 重要なのは、俺が今ここにいる事を、敵も、味方すらも把握していないだろうという点だ。

 小隊単位で移動してくる事を想定した拠点配備で、単独での潜入は考慮していなかったらしい。

 幾度かイオンクラフトとプローブによる探査を行う必要性はあったが、極めて穏やかな道程だった。

 目標まで残り数百メートル。

 この距離を詰めてさえしまえば、後はビルごと爆破すればいい。

 俺は進行ルートを確認すると、瓦礫の下から這い出した。


 地下駐車場への入り口で、銃撃を受けた。

 中に敵兵がいる。

 走査型プローブを送り込んだ時点では、駐車場内に幾つかのトラップが仕掛けられている程度で、特に問題はなかったはずだった。

 そもそも、何故見つかった?

 衛星からの監視か?

 ありえない。

 衛星カメラに、大気圏外から光学迷彩を見破るほどの精度はない。

 無人探査機か、設置型のスコープ?

 あれだけ周到に走査したのに、漏れがあったというのか?

 理解出来ないまま、俺は思考を次の行動に移した。

 視覚処理を、超音波トランスデューサーに切り替える。

 入り口からフラッシュグレネードを投げ入れた。

 通常の兵装なら、これで数秒動きを制限出来るはずだ。

 俺は駐車場のスロープに素早く飛び降りる。

 直後、前頭部に重い衝撃。

 ――まさか。

 瞬時に神経アクセラレータが起動。

 視界が急激に狭まる。

 世界が止まったような速度で流れ出す。

 額に命中した弾丸を、身体を後ろに反らし、かろうじて受け流しつつ、地面に手をつき柱の陰に転がり込んだ。

 神経アクセラレータが切れ、世界が再び速度を増す。

 飛び退きざま、弾の発射点に撃ち込んだ炸裂弾が、爆発音をあげる。

 俺は片手にプラズマブレードを握ったままOICWを構えた。

 配管が剥き出しの低い天井から、コンクリートの細かな破片が降ってくる。

 それらが地面にぶつかる軽い音の合間。

 崩れかけた柱の向こうから、ゆったりとした拍手が聞こえてきた。

「さすがだね、ルシフェル」

 通り名で呼ばれる。

 その声で、俺がさっきから感じていた違和感の全てに答えが出た。

「――お前だったのか、セラフィム」

 相手は柱の陰で子供っぽい笑い声をあげた。

「回りくどい言い方は止めようぜ、親父」

 数年振りの娘との再会。

 だがそこには喜びも感動もなかった。

 娘が三年前から同じ傭兵となり、セラフィムという名で戦場にいるのは知っていた。

「あんたがここに来るのはわかってた」

 この状況で、俺の位置を補足する事が出来る者。

 そうか。お前だったのか。

 お前にだけは、GPSの個人コードを明かしていたのだったな。

「破壊するのが、俺の任務だ」

 俺はゆっくりとそう言う。

「あたしは守るのが仕事」

 面白がっているような、セラフィムの声音。

「では、これは偶然ではないのだな」

「ああ、必然だ」

 セラフィムは明るい声で続ける。

「あんたを殺せば、内臓系と脳チップの完装代くらい余裕で稼げる。

 そうすればこの身体に、あんたの遺伝子を引き継ぐ部分は無くなるってわけだ」

 くっくと笑った。

「一石二鳥って言うのか、こういうの」

「興味ないな」

 言いざま、俺は柱の影から飛び出す。

 同時に地面に自走式マインを散布した。

 声の方向――粉塵を被った一般車両に向けて、5.56mmKE弾を掃射する。

 サイドガラスの破片と、表面の塗料が派手に舞い散った。

 ――ここではない。

 悟ったと同時に、セラフィムが右手の空中から現れた。

 天井に走るパイプに単分子ワイヤを打ち込み、逆さに吊るされた姿勢。

 セラフィムは躊躇いも見せずに、携行型レールガンの引き金を引く。

 再度、神経アクセラレータが起動。

 俺は右腕を折り曲げて頭部を守りながら、セラフィムの位置を補足する。

 同時に、音速の数倍の速度の25mm弾丸が、俺の脇腹に突き刺さる。

 その弾が貫通するより先に、次の弾が、さらに次の弾が、俺の身体に喰いこんでいく。

 心拍数と血圧が、レッドアラートに突入。

 俺は顔を正面に向けたまま、右腕の陰の死角から、プラズマブレードをセラフィムの立つ座標に投げた。

 セラフィムは咄嗟にレールガンで受ける。

 その銃身の先が、切断され、落ちていく。

 俺は移動速度を緩めぬまま、片足で高く跳躍。

 空中で側転すると、セラフィムの胸に膝を乗せた。

 直線からの動きの変化に対応しきれず、背中から倒れこむセラフィム。

 地面に落ちた時、俺のOICWは倒れたセラフィムの眉間に、銃身の途切れたレールガンの銃口は、俺の左目の下にあった。

「守ろうと――したな?」

 俺はセラフィムに問い掛ける。

「いや、驕っただけだ」

 セラフィムが答える。

 制御システムは、すでにこの身体の稼動限界時間を弾き出し、網膜ディスプレイに投影している。

 俺はセラフィムに最後の言葉を告げた。

「――暴走した子供の始末をつけるのは、親の責任だ」

 セラフィムは藍い目で俺に笑いかける。

「――引退のタイミングを逃した老兵に引導を渡すのも、若者の義務だろう?」

 俺は唇の端で笑いながら、引き金を引く。

 銃声が遠くに聞こえた。


id:firestorm

ぎょええー(黄色い声ってか咆哮)あついっすあつすぎるですっ;;

感想はのちほどー。。。うふー。

2006/10/21 19:56:10
id:castle No.11

回答回数1011ベストアンサー獲得回数12

ポイント13pt

 

 ~炎海の遠き記憶~

 

蒼海の中に不吉な黒煙があがった。

海上要塞と称された超弩級戦艦《エルシア》を圧倒的な兵力により包囲した敵艦隊は、怒涛のような砲撃を浴びせ、それでも《エルシア》はSTコーティングによる複層強化装甲を盾として砲火の嵐から同盟国艦隊を守りながらどうにか戦線をもちこたえていた。

だが、《エルシア》最終防衛ライン突破はイコール帝国滅亡と同義であった。その鉄の要塞が青い海のなかで炎上している。

「おいおいおい! いくら《エルシア》嬢ちゃんでもあんな攻撃じゃ長くもたねえぞ!! もう見捨てたっていいだろあんなお荷物!!」

「少し黙っててください――それができないからお嬢ちゃんが踏ん張ってるんじゃないですか――そう思うならもっと飛ばしてくださいよ少佐」

「黙れよ青二才―― がッ!」

とサウザーエリル少佐は罵声をたたきつけ、操縦桿を鋭く切った。

機体は水平にかたむきながら空をなめらかにスライドする。それまでいた空間を後方から放たれたレーザーがほぼ同時に薙ぎ払う。

数瞬おくれて、少佐の駆る戦闘機の後方にいくつかの火球が空に咲いていた。

「青二才が、いい腕してるじゃねえか。まあそれくらいやってくれねえと本当に単なる役立たずの青二才だがな」

「無駄口叩いてる暇があったらさっさと救出にいってください」

「おうよ!」

追撃機を瞬時に撃墜したナウル一等航空兵に答え、サウザーエリルは最後のブースターを点火する。

「これで飛んであと数十分だ。はん、もうエンジンもたねえよなやっぱ……マドリーゼ、生きて帰れたらたっぷり愛してやるからちいとばかしだけたのんだぜ……」

サウザー機を補足した敵艦隊から、迎撃の対空火器がむけられる。空は光線と火線の美しいショーと化しておそるべきたった一機の援軍を迎え撃つ。

「さあて、これから弾幕のキスの嵐だぜ。手厚い歓迎には思いっきり熱い情熱でこたえるのが男の流儀ってやつだ、若造! 横Gに気をつけやがれよ!」

ナウルはただ静かに照準を見据える。サウザーの操る戦闘機は、物理力を超えたとしか思えないシャープな連続横スライドで青いキャンパスに複雑な紋様をえがきだす。遠くからこの光景を見つめるものがいたとしたら、この飛行機雲と無数の弾幕により描かれた蒼穹の芸術にただ溜息をついたにちがいない。

「射程に入ったぞ!!」

戦闘機に積んだ《システム》が作動する。衛星軌道上空のあらゆる感知危機を妨害するジャミング装備も、この新システムの走査には回避する術をもたなかった。

天空から、幾条もの青白い光が舞い降りる。

それはさながら囚人に下された神罰のように。

的確に大艦隊を撃ち抜いていく軌道上からの衛星レーザーによっていくつもの水柱が作られていった。

「……また生き残りましたね、あのお嬢ちゃん。まさに奇跡の艦ですね」

「ま、運だけは強えからな、あの嬢ちゃんは。我等が勝利の女神に敬礼、ってな」

「ところで少佐、……墜落してます」

「おっといけねえ。まあいつものことじゃねえか。そんじゃ着水に備えとけよ!」

……もういいかげん慣れましたよ、とあきらめのつぶやいてをこぼし、ナウルを乗せた愛すべき機体はどこまでも広く遠い海の青へと吸い込まれるようにスピードを落としはじめた。

id:firestorm

わあいわあい。いいすねえいいすよう。

感想文はのちほどですわー。

2006/10/22 23:46:18
id:glire No.12

回答回数5ベストアンサー獲得回数0

ポイント13pt

題名:「斜塔の街」



その日の出撃は払暁だった。

「迎撃部隊主力の攻撃を突破した敵重爆編隊が帝都に接近中、防空射出飛行隊はただちに出撃せよ」

命令を受けて、俺は今、愛機の狭苦しい操縦席に縛り付けられている。

冬の明け方だ。詰め物のされた飛行服を着ていても、嫌になるほど寒い。もっとも操縦席の中にいる限りは、射出口に吹き込む強風からは守られる。吹きさらしの中作業にいそしむ整備部隊の連中を、俺は心底気の毒に思う。

飛行帽の中で空電音。続いて、雑音混じりのしゃがれ声が聞こえてきた。

『射出準備完了、いつでもどうぞ』

「了解。エンジンを始動する」

後方の整備員達が機体から離れた。

こいつに積んである燃料は、航空機用ガソリンとは比べものにならないほどデリケートで危険なものだ。燃料タンクに髪の毛一本落っことすだけでも、俺と整備員達は揃って焼き鳥にされちまう。

しかもそいつは鉄を腐食させる。だから普通の燃料タンクには入らない。俺は、こいつの燃料タンクがガラスで出来ていると聞いたとき、本気で退役を考えた。特別に開発した強化ガラスだから何も心配ない、などと技術屋どもは言っていたが、配備から約半年、事故は相変わらず起こり続けている。

俺は出力レバーを僅かに前に動かすと、エンジンの始動スイッチを押し込んだ。回転を始めた計器の針が、四〇を過ぎたあたりで指を離す。針は回り続け、きっかり六十五を指した瞬間に、俺は出力レバーをもう少し前に押し進めた。

轟音がとどろく。

機体後方から濛々たる白煙が立ち上る。二種類の劇薬が混じり合い、激烈な化学反応を起こして燃え上がっている印だ。

機体の両側に最後まで残っていた整備員に、準備良しのサインを出す。そいつがうなずいて機体を離れるのを確認してから、俺は喉のマイクを押さえて無線に話しかけた。

「エンジン始動、全系統異常なし。出してくれ」

『了解。武運を祈る』

俺は射出の衝撃に備えて身を固くし、スロットルを堅く握りしめた。

射出口から見える空は、神秘的な紫色をたたえている。水銀灯のぎらつく光に照らされたこの場所とは、別世界のようだ。

飛行帽から秒読み。

『九、八、七、六・・・』

あの紫は、夢の世界か。それとも、こちらが、

『三、二、一、射出!』

炸裂音とともにカタパルトが作動し、俺は機体もろとも、石ころのように空中へ放り出された。



帝都は、未だ薄闇に濡れている。

しかし、天空はすでに多彩な色彩に満ちている。東の大海から西の山々にかけて、茜色に始まり紺碧に終わる夢幻的なグラデーションが空を覆っている。白い三日月がちらりと見えた。

「トラツグミ壱より全トラツグミ。状況を報告せよ」

五機の僚機がそれぞれ異常無しを報告する少しの間、俺はその美しい空を眺めていた。

払暁の空襲は迷惑極まりないものだが、こういう風景が見られることを考えれば、多少は割り引いてやってもいい。

『トラツグミ六、異常無し』

最後の僚機が報告するのを聞いて、俺は現実に立ち戻った。

「トラツグミ壱より全機。高度7000まで急速上昇。敵機を発見次第攻撃に移る。終ワリ」

それだけ言って、俺は進路を微調整しながらの急速上昇に入る。

操縦桿を引き、エンジン出力を目一杯上げる。忠実なる我が愛機は期待に応え、プロペラ機には絶対に不可能な急角度上昇に入った。重力の方向が変わる。

エンジンが、怪物じみた唸り声を上げる。

速度計はあっという間に600㎞/hを突破し、700㎞/hに到達しようとしている。上昇角は60度を越えているだろう。

俺はちらりと後ろを見て、僚機が俺と同じ機動を展開して後に続いてくるのを確認し、上昇を続けた。ロケット迎撃機乗りにとって、この瞬間ほど幸福な時間はない。劇的な化学反応から生み出される膨大なエネルギーを自在に操り、自分を束縛する全てを振り切ってしまえそうな気分になる。

重力も、任務も、戦争も。

くだらない何もかも、排気と轟音と共に置き去りにして、無限の蒼穹をただ飛んでいられたら、どんなに素晴らしいだろう。

だがそんな夢想に浸っていられるのも、わずかな時間だけだ。高度7000までは一分とかからない。目標高度は目前に迫っている。

飛行帽の中で、二番機の搭乗員が鋭い声を上げた。

『こちらトラツグミ弐!目標発見!一時方向、距離約2000!』

俺はすかさずそちらを確認した。いる。紫の空に小さな点が五つ。敵の超重爆撃機編隊。

どんぴしゃだ。レーダー手どもは自分の仕事を心得ている。

「トラツグミ壱より全機。攻撃に移る。弐、参は俺に続いて右から、四から六は左からだ。いつも通り、手際よく行け。終ワリ」

左側の三機が、進路をわずかにそらして離れていった。俺はそのまま、最大出力のまま、敵編隊に突っ込んでいく。

敵も気づいた。使える機銃を総動員してこちらを猛射してくる。オレンジ色の火花が輝き、曳光弾が頬をかすめるような距離で横切った。

薄紫の空に、黒煙と鉄片が満ちる。

俺は操縦桿の攻撃ボタンに手をかけた。連動しているのは、翼に吊り下げられた八基の5㎝対空噴進弾。

こいつが一発でもまともにぶち当たれば、相手が重装甲の重爆でも大穴を空けることが出来る必殺の武器。しかし射程は短く、ぎりぎりまで接近しなければ、奴らを叩き落とすことは出来ない。一機あたり十門近い防御放火をかいくぐって、ぎりぎりまで。

また横を曳光弾がかすめる。

いい将校に必要なのは、技術や人格だけじゃない、と俺は自分で自分に言い聞かす。

いい将校に必要なのは、膨大な幸運だ。

そして、俺はいい将校だ。

だから今まで生きてきた。今日、十九回目の出撃まで生きてきた。

俺は幸運だ。

間違いない。今俺が生きていることが、それを証明している。

だから、俺は弾に当たらない。

また曳光弾が。

悲鳴を噛み殺し、歯を食いしばる。顎を伝って、ぎりぃ、と音がする。

もっと近くに。

時速700㎞/hで飛んでいるはずなのに、全然近づかない。

もっと近くに行かなければ。噴進弾の射程まで。

もっと近くに。

もっと。

もっと。


今だ。


発射ボタンを押し込む。噴進弾が飛び出すわずかな振動。それを感じたときには操縦桿を大きく右に倒していた。

手応えはあった。

そう思った瞬間、背後から閃光と衝撃が襲ってきた。何かが機体に当たる乾いた音が、たてつづけに響く。

俺は慌てて、再び操縦桿を倒す。破片がノズルにでも入ってエンジンが停止しようものなら、目も当てられない。

首をひねって敵機を、いや「敵機だったもの」を確認する。

相当うまく当たってくれたらしい。そいつは機体を真っ二つにへし折られて、海へ落っこちて行くところだった。燃える何かを撒き散らしながら、黒煙を引いて視界から消えていく。

俺はすぐに目を戻した。殺した奴のことを考えるのは良くない。特にこいつに乗っている時には。周囲を確認すると、残った敵も皆どこかしらやられて、黒煙を上げていた。急速に高度を落としていく。

上出来だ。

あの調子なら、どいつも爆撃どころじゃないはずだ。

俺は大いに満足して、僚機に帰投の指示を出そうとした。

視界に小さな影がよぎったのは、その時だった。

『こちらトラツグミ六!我攻撃を受けつつあり!攻撃を受けつつあり!』

護衛戦闘機!

一枚の翼に二つの胴体を付けたような大型の双発戦闘機が、トラツグミ六に張り付いていた。糞野郎、今までどこに隠れてやがった。

トラツグミ六は、必死の機動で敵を振り切ろうとしている。しかし、ことごとく動きの先を読まれて至近弾を浴びている。

まずい、奴はまだプロペラ機から転換してきて日が浅い。この機体で旋回戦に持ち込まれたら勝ち目がないと言うのに、昔の癖が出ちまっている。

『振り切れない!畜生!』

馬鹿野郎が。

俺は舌打ちして、敵を見失わないように螺旋上昇をかけた。ぎりぎりの所で逃れ続けるトラツグミ六を見ながら、敵の動きを予測する。

そのまま、急降下をかけた。

ロケット迎撃機のパワーダイブは、音速に到達することすら可能だ。しかしその高速は、爆撃や機銃掃射といった攻撃を恐ろしく難しいものにしてしまう。

だが機動力で勝る敵機に勝負をかけるには、奇襲しかない。死角から機銃でけりをつけなければ。

苛立たしいほどの遅さで、敵機が照準機の十字線上に入り込んでくる。

『こちらトラツグミ六!左翼に被弾!』

うるせえ。

中央の円に敵機が鼻面を突き込んだ瞬間、俺は操縦桿のトリガーを引いた。

振動とともに、眼前に火球が出現する。30㎜機関砲二門の、轟然たる斉射。

その残像すら消えないうちに、俺は機体を回転させて進路をぶらす。敵の鼻先をかすめて、離脱する。

やったか?

確認しようと首をひねろうとする前に、飛行帽の中で声がした。

『トラツグミ弐よりトラツグミ壱。攻撃は命中。敵機は右エンジン炎上、後退しつつあり。お見事でした』

言われて周囲を見渡す。細い黒煙が、確かに東に向かって伸びていた。

俺はトラツグミ弐のおせっかいには答えず、機体を水平飛行に戻しつつ無線に呼びかけた。

「トラツグミ六、損害を報告せよ。飛行は可能か」

『…こちらトラツグミ六、左翼端部に被弾、燃料系に異常なし。高速を出さなければ、飛行に問題なし…、申し訳ありません、少尉殿」

「弁明は後で聞く。各機、損害報告」

『トラツグミ弐、問題なし』

『トラツグミ参、問題なし』

『トラツグミ四、機体後部に若干の被弾。飛行に問題なし』

『トラツグミ伍、問題なし』

「了解。作戦終了、これより帰投する」

俺は燃料系にちらりと目をやって、進路を南西に取った。

燃料はほぼゼロになっていたが、ここから最寄りの飛行場までなら滑空だけで充分到達できる。戻り次第、トラツグミ六に説教をしてやらなければ。



しかし、結局奴は俺の説教を受けずに済んだ。

埋め立て地に作られた、臨時飛行場の滑走路へ着陸する直前、トラツグミ六の被弾した左翼が突然傾き、奴は失速してそのまま地面に叩きつけられた。

俺達が消防車と一緒に駆けつけたときには、奴はめちゃめちゃになった操縦席から、逆さに吊り下がっていた。何か考え事をしているような、半分閉じた目をして。

全員、しばらく黙ってそれを見ていた。

俺は基地の救急班に遺体の回収を命じると、隊の連中に「戻るぞ」とだけ言って車に乗った。誰も口をきかなかった。

海軍のトラックで長いこと走り続け、ようやく俺達は「巣」に、第二防空射出塔にもどった。隊の連中に着替えて詰め所に居るよう言いつけて、俺は少佐の所へ出頭し、戦果と任務の推移、トラツグミ六の事故の顛末を報告した。

俺が一通り話し終えると、少佐は一度長い溜息をついた。そしていかにもうんざりした様子で、新任の搭乗員については可能な限り早く措置をとる事、機体は今晩には飛行場から戻ってくるだろうという事、俺に勲章授与の話が来ている事を話した。

少佐は、勲章と聞いても俺の表情が変わらないのを見て、再び長い溜息をついた。

「貴様の隊は明日の昼まで『控』だ。全員宿舎に帰せ。貴様も休め。以上だ」

「了解しました」

それで終わりだった。俺は敬礼して部屋を出た。

詰め所に行って、隊の連中に任務の終了と帰宅の許可を言い渡した。

全員が陰気な顔をしていたが、それほど普段と変わりがあるわけでもない。奴の死を悼んで一杯やろうと言う奴も居なかった。あんな死に方をした奴にかける言葉などないし、そもそも、こう言う事もすでに慣れてしまっている。

哀れみとか悲しみだとかは、自分の腹に収めておけばいい。

いや、そうするより他にない。死人の分だけ呑んでいたら、墜とされる前にアル中になっちまう。



俺は、連中よりも少し遅れて「巣」を出た。

冬の帝都は、すでに夕暮れの気配が漂っている。

俺は帽子を目深にかぶり、外套の襟をかき合わせて都電の駅に向かって歩いた。

ふと、振り返る。

俺達の「巣」が、そこにあった。

市街地の風景に突然現れる、六角形の巨大な塔。

灰色のコンクリート。そこを這い回るチューブやタラップ。

あらゆる方向に突き出す鉄骨。ガラス張りの管制室。

無数の高射砲。

間欠的に吹き出す蒸気。

そして、あの奇妙な戦闘機を吐き出す射出口。

見る度に俺は、自分が虫になったような気分になる。針を持ち、まっすぐしか飛べず、時折誰かに叩き落とされる虫に。

唐突に、誰かに肩を叩かれた。

振り返ると、男が立っていた。知らない男だ。

そいつは俺を見てにっこり笑うと、こう言った。

「戦時国債を購入して、聖戦完遂にご協力されてみませんか!?」

俺はそいつを殴った。

(終)



最高に空気読めてないですね。だが後悔は無い。

id:firestorm

ひいいひいいなんとなんと。きゃふんっ。

か、感想文はあとでっ…!

2006/10/23 17:50:50
id:xx-internet No.13

回答回数9ベストアンサー獲得回数1

ポイント13pt

『壊(ですとろい)』

「犯人は……お前だっ…!」
「えー! ど、どうして僕が!? ひどいよっ!」

操られたわたしの指は、一人の痩せた男を示していた。なんだかナヨナヨした感じがする。あんな残虐な殺し方をする犯人にはとても見えない。でも、わたしには何だかわかるような気がした。彼には何か……、裏の顔があるように感じたのだ。

たまたま通りがかったライブハウスで、ネウロが『謎』の気配を嗅ぎつけた。いかついデスメタルファンがたむろする中、傍若無人に楽屋へ踏み込むネウロ。小さくなりながら彼の後を追ったわたしは、部屋の中で凄惨な光景を目にした。ナイフで滅多刺しにされた外人女性の姿だった。

「しゃ、社長っ!」

わたしたちの後ろから悲鳴が聞こえた。振り向くと、三人の男が呆然と立ちすくんでいた。

被害者はインディーズのレコード会社社長らしい。男たちは会社所属のバンドメンバーと名乗った。

  • 根岸祟一 (ギターボーカル)
  • 和田真幸 (ベースボーカル)
  • 西田照道 (ドラム)

わたしは警察に通報しようとしたが、それはできなかった。妙に柔らかい手がわたしの後頭部をつかみ、首ごと床に叩きつけたからだ。ド S な助手はわたしには目もくれずに呟いていた。

「ふむ、単純な謎だが、小腹の足しにはちょうどいい」

あとはいつもと同じ光景だ。ネウロがトリックを論理的にも物理的にもぶち壊し、わたしは操り人形になる。
気がつくと、ネウロは男の反論を全て蹴散らしていた。こうして今日も魔人には食事の時間が訪れ、一人の犯人は一人の廃人になるのだろう。

そう思っていた。男の表情が歪み始めるまでは。

「仕方なかったんだ……。社長は僕の家をグチャグチャにした……」
男は服を脱ぎだした。
「オシャレなフランスの CD は割られた」
男はファンデーションを塗り始めた。
「TV もガラクタにされた」
男は口紅を塗り始めた。
「ベッドは燃やされた」
男はヨロイを着ている。
「何度も蹴られたし、踏まれた」
男はカツラをかぶった。
「そしてなにより……、僕がやりたかったのは……、こんな音楽じゃない!」

そこには一匹の魔物がいた。

「そう、オレは魔王。あの女は DMC が自分のものだと勘違いしていたゆえ、成敗したまでのこと。あの程度の SATSUGAI 、生まれた瞬間産婆を殺ったオレにとっては朝ファック前。赤ん坊の生き胆を食らうようなものよ」
「ね、根岸……、テメー……」
「控えよ、頭が高い。魔王の前であるぞ。貴様らにくれてやる! 新曲『YAGYU忍法帖』!」

水のように優しく (FUCK!)
華のように激しく (FUCK!)
盗んだナイフで刺し殺す

運命(さだめ)られた二人を
オレの腕で引き裂く
貴様の尻を八つ裂きじゃー

(ストレートにブッ飛びすぎてる…。こんな奴に…、何を言っても通じるわけがない)

完全に理解できなかった。今まで見てきた犯人たちは、みんな独自の強い願望や動機を持っていた。けれど、この男の言ってることは欲望じゃない。ただ「オレはオレすぎるほどオレだ」と主張しているのだ。そこには一点の疑いもない。とっくに死んでいる社長をギターで更にめった打ちにする男を見ながら、わたしはかつてない恐怖を味わっていた。この人は……、もう人間じゃない!

「実に興味深い」

今までニヤニヤしながら立っているだけだったネウロの声を耳にして、やっとわたしは我に返った。そうだ、同じ化け物のこいつなら! そんな思いは、次の瞬間こっぱみじんにされた。

「この者の歌には魔界の瘴気を感じるぞ。フハハ、我輩にとっては春風のように心地よい…。それに、この者を人間界で活動させておけば、多くの人間の心に魔が生じる。さぞかし多くの謎が生まれることであろう。クラウザーと言ったか…、ここで食らうには余りに惜しい」
「ちょ! ネウロ!! 何言って」
「黙れ」

わたしの記憶はここで途切れた。

「あのひとのことは、もう思い出したくもないわ……」

取材に対し、女子高生探偵・桂木弥子はそれだけ答えた。唯一の未解決事件、吉祥寺デスメタル女社長殺しへのコメントである。

id:firestorm

ごへっwこれは1.9創作というかどこぞの会社ばりの斜め上方向に2次創作…!

…でもまあわりあい面白いから無・問・題!(えええ)

感想文はのちほどですわーー。

2006/10/24 11:00:13
id:Niv-Mizzet No.14

回答回数2ベストアンサー獲得回数0

ポイント13pt

   私の置かれている深刻な状況


「ほんとうだよ、昨日見たんだ。見たんだ!」

 広場の中央でロイは熱弁していた。

「まぁたはじまったよ、ロイのほら話が」

「うそつけ。いねーよ、女なんて」

 体格のいい顎鬚の生えた男と、太り気味の男が口を揃えて、体の小さなロイをからかっている。周囲の耳目が集まっているがために、余計に二人は面白がる。ちょっとした役者気分だ。

「ここの通りをさ、すう、って動いてったんだ。胸の辺りが膨らんでて、すごくきれいな顔をしてた……」

 そう言いながら、ロイの顔は先日見たという奇跡を思い起こして、ほのかな恍惚を浮かばせる。5、6歩ほどの位置で車輪に油を差していた男が吹き出す。

「そりゃお前、服の中に何か隠してたんだよ。リンゴか何か持ち帰るのに、袋がなかったから服の中に入れて抱えてったんだ」

「違うもんっ、裸だったんだぞ」

「テゴが裸で歩ってたんじゃねえの?」

 そう言って髭の男が、テゴと呼ばれた太った男の方を見る。

「けひひっ。そうだ、そうだ。女がいるくらいだったら、まだぁ、俺が夢遊病でその辺歩ってたって方がありそうだぁ」

と、テゴは大声でふざけてみせる。広場が笑いに包まれる。

「それか、本の読みすぎさぁ。女なんか出てくる本ばっか読んでっから、見えないもんが見えるようになっちまったんだ」

 ロイの夢想癖は有名だ。髭の男、ラッシュは、テゴのウィットに続けて一番もっともらしい見解を引き出してみることで、この見世物に落ちをつけたつもりだった。観客の反応は悪くない。そう思ったときだ。

「女はおる」

 ラッシュとテゴの真後ろに、杖をついた髭ずくの老人が迫っていた。この町の長老だ。笑いは跡も残さず消えた。広場中が長老に注目している。

「わしも若い頃、一度だけ見たことがある」

 ゆっくりと、そう言った。誰もが動きを止めている。手を口の傍にかざしていた者は手をかざしたまま、車輪に油を差していた者は車輪に手を添えたまま、ロイたちの方に目だけを向けていた。

「じゃ、じゃあ、まさか……」

と、ラッシュが切り出す。

「長老はまさか、恋もしたのか?」

「恋……」

 テゴが繰り返す。聞いたことはどこかであるような気がするが、どんな意味なのかはよくわからない。

「左様。わしは一目見るなり恋に落ちた」

辺りの静寂が、静かに破られはじめた。聞きなじみのない恋という言葉の意味をめぐって、そこらじゅうで囁きが交わされだしたのだ。ロイはもちろん何度も本の中で恋というものを見ていてよく知っていたが、恋に落ちるという言い回しははじめて聞いた。さすが、本当に女を見たことがある人は違うんだ、と、胸を震わせていた。

「わっかんねえよ、さっきからよう。なんなんだよ、恋って。そんなにいいものなのかよ」

 テゴが広場中の疑問を代弁したことで、再び中央に関心が集まる。だが、もはやそのために作業や会話を止める者はいない。年よりは迷信深いから、などという声も聞こえる。

「至福よ。わしの一生に中心が一つあるとすれば、あの灼熱の一週間をおいてほかにない。そこにはすべてが、いや、すべてを意味する本質があった。わしは自分という人間が、その一週間に経験し、見聞きし、また感じたことを表す一つの象形文字のように感じる。その後の百年に及ぶわしの生は長い蛇足、日の沈むにつれて長く伸びながら薄らいでゆく残影がごときものに過ぎん」

 その場にいた誰一人として、長老が何を言っているのか理解できなかった。長老本人もよくわかっていなかったろう。あまつさえ続けざまになされた二つの質問のうち、実は片方しか答えていないのだが、テゴはそれで納得してしまった。なんだかよくわからないが、恋というのはすばらしいものなのだ、と。

「じゃ、じゃあっ。長老は。長老は、『愛』もしたんですか?」

 興奮してロイが尋ねる。恋ならもう誰に聞かれても教えてやれる自信があったロイだが、愛は何度読んでもよくわからなかったのだ。

 この言葉を聞くと、黒目の輪郭すべてが顕わになるまでに長老の目が見開かれた。顔を上向きに傾け、太陽光が顔に反射する。その目は太陽を見つめていた。目を細めながらも、なお反らそうとはしない。

「わからぬ。恋をしていた、それは間違いがない。だが、果たして愛していただろうか?-ことによると、愛だったのやも知れぬ。今となっては知りようもない」

 長老が、ロイを見据えた。その目はいまだに、まぶしそうに細められている。

「愛とは何か。わしにはこの年に及んでなおわからなんだ。だが、ロイ。お前なら、愛を知ることができるやもしれぬ。女がお前の前に姿を現したなら、それが女の意志なのだろう」

 長老の杖が、一軒の空き家を指した。

「見よ。カッゼムも死んだ。エトルもカーニエもだ。この町の人(英訳の際は、menが適当でしょう)は減って行くばかりだ。なぜだかわかるか」

「人は死ぬからです」

「死は人を減らし、愛は人を増やす。このままではいずれわれらは滅びる。行け、ロイ。お前が最後の希望じゃ。女に会え、愛を知るのじゃ」

 旅の支度を終えたロイは、町外れでラッシュに後ろから声をかけられた。

「ラッシュ……」

「女は魔物だぜ。お前一人じゃ心配だ」

「ふふっ。やっぱり、ラッシュも女信じてるんだね」

「ばかっ、本気で女がいると思ってるわけじゃねーよ。ただ、一人じゃ危ねーからついてってやるってんだよ」

 並んで歩きながら続ける。

「僕はさあ、絶対いると思うんだ、女。背が低くて、膨らんだ胸。丸みを帯びた体で、舌が二枚ある。女がほかの伝説の生き物と違うのは、世界各地にほとんど同じ姿で伝承が残ってるところなんだ。純粋な空想だったら、みんなもっとぜんぜん違う姿のを考えるはずだろう?ぜったい、実際に女を見た人がいたんだよ」

「ほんとにいるんならよう、ならなんでんーな、こそこそしてんだぁ。出てくりゃあいいじゃねえか」

「それは……女の考えることなんて、わかんないよ」

 ラッシュがばかにしたような顔をする。

「それで?その、何考えてるかもわかんない女を見つけに、どこに行くんだ?」

「昨日見た女は、ここの道をまっすぐに行ってたから、まっすぐ行けばどこかに家があるんじゃないかな」

「見つかるのかよ、そんなんで」

「うまくいけば、追いつけるよ……『女の足じゃそう遠くには行けない』って書いてるの見たことある。足が遅いんだ、きっと。

 その夜。女はまだ見つかっていない。

「なあ」

 寝袋の中で、背を向けたままラッシュが尋ねる。

「長老の言ってたこと、よく、わかんなかったんだけどよ」

「恋のこと?」

 期待をこめて、ロイが尋ねる。これまで、誰と話したくても話す相手のいなかった、女や恋について、やっと友達と話せるときがきたのだ。

「ああ-恋って、なんなんだ?」

「恋っていうのは」

 言いかけて、一瞬つまる。すでに頭の中で組みあがっているその言葉の続きは、自分の見えている恋のヴィジョンに比べて、あまりに脆く弱弱しく感じられる。

「誰かを、好きになることだよ」

 こんなはずではなかった。恋についての十全な説明のはずであるのに、あまりに説得力に欠けている。

「そんなん、みんな普通にやってんじゃないのか」

 ラッシュの言うとおりだ。いつか、誰かと恋の話をするときのために、何度も頭の中で言葉を組み立てておいたのに。恋についての議論まで頭の中では展開されていたし、そのすべてのシミュレーションで、自分は勝利してきたのに。こんな初歩の説明ができないなんて。

「恋っていうのは違うんだよ。ただ一人、特別な誰かを好きになることなんだ」

「一人だけ?ターノフ爺さんより心が狭いじゃねえか」

「違うんだよ、恋っていうのは、友達とかそういうのを好きなのとは、ぜんぜん違うんだ……奪ったりするんだよ、強引に」

 説明を加えるほど、本来の姿を崩していくようだった。一つ一つの言葉はどれ一つ間違ってないはずなのに。恋人を蘇らせてくれと願い事をして生ける屍に追い回されることになったギーゼリウスのようだ。

「奪ったら泥棒だぁな。なんだかわかんねえや。恋とか、愛とかよ。俺にゃ難しいや」

 その夜、ロイは眠れなかった。自分は恋をわかってないんじゃないだろうか。

 そうして三日目。二人はついに、山奥の窪地になったところに巨大な建物を見つけた。

「こいつか?」

 そう言うラッシュの顔つきには、ふざけたところは微塵もない。

「こんなでっけえ家に住んでる女は、悪いやつだぜ」

 ロイは違和感を覚えた。口調こそいつもの軽薄な感じではあるが、俗的で無理解な女像を押し付けて女を馬鹿にするいつもの発言とは違う。多少なりとも女を理解していなければ出てこない発言だ。ロイは本の中で、悪い女が男 ―― 返す返す言いますが、英訳の際というか、誰が翻訳せずともこのテキストが書かれると同時に潜在的に存在するこのテキストの英語版では、ここはmanであることには留意していただきたい ―― を騙して広い家を作らせているのを読んだことがある。

「まだ、女の家と決まったわけじゃ」

 別の疑問の方に思考容量が消費されているため、上の空で答える。

「見ろよ、キャミソールだ」

 ラッシュの指す先には、洗濯物のキャミソールがはためいている。

「ラッシュ……? どうして知ってるんだ、キャミソールなんて」

「お前がしょっちゅう、女の話ばっかしてっから覚えちまったんだぁ。前だって挿絵見せてくれたろうがぁ」

 壁沿いに一人で進んでいくラッシュ。情報を整理しきれないまま、ロイはついていく。正面の戸が開いていなかったため、周りの樹を伝って、二人はテラスに降り立った。閉まっているガラス戸を無理に引っ張っていると、ラッシュがガラスをぶちやぶる。

「へへっ、女の家に入るなんて、なんだかどきどきするな」

一通り中を調べてから、反対のドアを開けて階段を下りはじめたときだ。

「なあ……ラッシュ、やっぱりお前、」

 じっと考え込んでいたロイが、ラッシュに声をかけた。すると、振り向いたラッシュの顔がこわばって、ロイの方へと飛び掛る。

 次の瞬間には、ロイはもう目の前にいない。背後から、重いものが階段をはねる音に混じって、足が階段の端を滑って下の段にたたきつけられる音が連続する。

 振り返ると、ラッシュが巨大な鉄球を支えていた。

「ラッシュ!」

「へ、へ。『恋に障害は、つきもの。障害が多ければ多いほど乗り越えて手にした恋は素敵になる』、ってな。へ、こりゃ、おめぇ……いい恋、できるぜ」

 そう言ってラッシュはにやりと笑う。レーニス・クラウスの「命果てるまで」に登場する女、シルヴィアンナの引用だ。

「ラッシュ、お前」

「悪かったな、ばかにしてよ。俺も、好きだったんだ、女とか。お、おめえが羨ましかったぜ。あんなに堂々と、女や恋の話ができてよ、」

 上の段に登りかけたロイを、ラッシュが制する。

「来んな。二人がかりじゃ、どのみち共倒れだ。俺が支えてっから、そのうちにお前は下に行けよ。曲がり角まで行けば、安全なはずだ」

「ばか。ばか。お前をほっておいて、一人で行けるはずがないだろ。何言ってるんだよ」

「……ロイ、おめえはよ、頭のいいやつだ。あんな本ちょこっと読んだくらいで、恋ってもんがなんなんだかわかっちまう。俺はよぅ、おっかなかった。女が好きなのに、恋がなんだかわかんねえなんつったらよぉ。ばかに、されるんじゃねえかってな」

 皮膚の下で震えている筋肉の輪郭が見える。脳の統御を外れたかのように皮下で蠢き、皮膚を食い破らんばかりに暴れている。

「行けよ、ロイ。長老は、愛を掴めって言った。だからよ、おめえじゃなくっちゃあいけねえんだ、俺じゃ、無理だよ。何度読んでもわからなかった。恋なんていうもんがなんで必要なんだか。俺じゃ、だめだ。愛は」

 肩の付け根が裂け、血が吹き上がる。唇の端から血が流れる。

「理解、できねえ。へ、へ。したかったな、俺も。恋」

「ばか!」

 ロイが叫んだ。ロイは愛を掴むという表現に感動を覚えていた。そんな素敵な表現は、ほんとうに女が好きでなければ出てこない。実のところ、ロイはその言い回しに、悔しささえ感じていたのだ。

「ばか! ばか! 勝手に理解できないとか決め付けて! なんでだよ、好きなんだろ、女が」

 ロイが鉄球を押し返そうと、力をこめる。やがて鉄球が浮き上がり、頭上まで持ち上がり、手を離れてそのまま階段下へと落ちていく。階下で響く轟音。狭い空間の中で鉄球が跳ね回るのを聞きながら、ロイはその場にへたり込む。

「行こうよ、いっしょに。いっしょに、恋しようよ。きっと、できるよ。だってラッシュ、ほんとうに女のこと、好きだもん」

 壁沿いに体を落としながら、ラッシュは座り込む。

「ばかやろう。お、女が、一人しかいなかったら、どうする気なんだや」

「いいじゃないかよ。二人で一緒に告白しようぜ。奪い合ったり、友情と恋を秤にかけてみたり。自分のために二人が争うのに耐えられなくなって、去っていかれたりしようぜ」

 息も絶え絶えのラッシュが、目に入る汗のために眉間にしわ寄せながら、口元だけ笑う。

「8年後に思わぬところで再会したりか」

「ああっ、それ、すごくいいよ。それで、あの時は、悪かったな、なんて話し合おうよ」

「へへ。おもしれえ、な」

「ね、いいだろ。ちょっと休んだらさ、行こうよ」

「だめだ」

 ラッシュは寄りかかった壁からさらに横に倒れ、階段に頭を乗せている。目は閉じたままだ。もはや、眉間によるしわもない。

「おめえ、先に行けよ」

「だめだよ。そんなの、だめだよ。だって、いっしょに、恋するって、」

「いいんだよ、ひひっ。そしたら、俺ぁおめえの女寝取ってやらあ」

 眠れないまま横になっていてようやく眠りが近づいてきたときのような、口と舌とから意識が遠のいているような声。

「そんなことしたら。そんなことしたら、お前を、殴ってやる」

 開けたままの口から、笑い声としては響かない息が漏れる。

「雨が降ってるんだな?」

「もちろんだよ。雨なのか、涙なのか、本人にもわかんないんだ、それで、それで」

 閉じた目の奥からロイを見ているように、いつもロイがうろたえ、慌てるのを見て笑っていた、その表情を浮かべる。

「最後にいい夢見れたぜ」

 ラッシュの目が開き、体を起こす。

「ラッシュ」

「そっちか、ロイ」

 何も見ていない目をロイに向け、

「なあロイ、おめえはいいやつだ。俺ぁよぉ。恋とか、愛とか。難しいことはわかんねえけど。おめえのことは、好きだぜ」

そしてそのまま階段下へと体を倒し、落ちていった。

 ロイが絶叫する。

「フン。ねずみが一匹かかったか」

 初めて耳にする高い声に目を凝らすと、階段下、倒れているラッシュの隣に人影が見える。胸元の丸い二つの膨らんだものは、紛れもなく女の証だ。

「女っ」

「ばかめ。女などというものは存在せぬ」

「あ、あなたは」

 一歩踏み出して、明るみに出た女の顔。それは、ロイにそっくりだった。

「兄さん!」

 なぜかそう言うのが正しい気がした。

「貴様に兄などいない!」

「なぜ僕のことを」

 言ってて何を言ってるのかよくわからなくなってきた。弾みで兄さんとか口走ったせいだ。相手が自分のことを知っているのか、向こうも弾みで適当に言っているのかわからない。

「いいだろう、ロイ。聞かせてやろう」

 女が階段に足をかけた。ゆっくりと上ってくる。

「むかし、あるところに男と女がいた」

「それから、嬲と嫐もいた(この辺が翻訳者の腕の見せ所だ。健闘を祈る)。虐げられた女と嫐は男たちを置いて、ないところへ去っていった。男たちは種の存続のために、女と嫐の代理を生み出すことにした。表面的な性機能は男でありながら、潜在的に女に近い性機能を持っていた嬲を利用することにしたのだ。胎内で進化を経る過程にある赤子を放射能の照射で中途の段階に留まらせ、形成されずに残った性器の残骸をウィルスに感染させることで作り上げた、情報の上書きを待つ細胞。それが卵子だ。男どもは卵子を持った嬲を大量生産し、それを遺伝子の中に定着させた。この嬲の成れの果てこそが私たち。つくられた女だ。私が生まれるはるか前のことだ。真の女がどのような姿をしていたのか、もはや誰にもわからぬ」

「あるいは、真の女や嫐というのも、さらなる太古に作り出されたまがい物の女だったのやも知れぬ。歴史は繰り返す。私たちは、再び男たちの前から去った」

「これは復讐だ、ロイ。男のために肉体を捻じ曲げられ利用され、子を為す為の道具とされてきた、私たち女の。任意のn回に渡り、女の肉体を蹂躙し続けて存続してきた男たちが、ついに滅びるのだ」

「だが、われわれは滅びぬ。われわれは男たちから奪い取った技術で、無性生殖と有性生殖に継ぐ第三の増殖形態を模索し続けてきた。そして完成したのが、私自らを実験台に作られたクローン。Replicated Overdeveloped Intelligence。ROI、お前のことだ」

「培養液の中で、男どもが遺伝子にかけた呪いさえ外して男となったお前を、仕上げに男たちの集落に住まわせることにした。私たちはお前をずっと見張ってきたのだ。お前は十分に、自然発生した男として振舞っていた。私たちの研究の完成だ」

 二人の差はすでに、四段までに縮まっている。とうとうロイが我慢ならず口を開いた。

「何を言っているんだ。わけがわからないぞ、自分のことを女だって言ったり、女のまがい物だって言ったり、そうかと思えば女としての復讐だとか。男を滅ぼすって言って、わざわざ僕を男にしてみたり。言ってることが支離滅裂だ」

 だが女は動じもせず、そんなロイをあざ笑う。

「冥土の土産に教えてやろう。これぞの乙女の極意、女心よ。貴様ら男には一生涯かけても理解できぬものだ」

 女が懐から銃を抜き出す。

「死ぬ前に女心を目の当たりにできて満足だろう、死ぬがいい」

「ばかっ」

 ロイの手が女の手を捉える。二人がかりとはいえ、体よりも大きい鉄球を持ち上げたような男に何で近づいたんだろう、と後悔したのはこのときだ。でも、あんま距離離れてると声が届かなかったりしたらやだったしなあ。話してる途中で聞き返されたりしたら最悪だしなあ。そんな思いが逡巡する。

「ラッシュも、君も。ばかだ、みんなばかだ。どうしてそんな、みんな『できない』なんて決め付けちゃうのさ。理解、しあえるよ僕たち」

 女の両手を捕らえ、正面から目を見つめて語りかける。Azure Skyが歌う主題歌「明日へfar away」も始まっている。BGMと場面の連動を示すために、主題歌とそれ以外の文が交互に書かれる。

(前奏)

「離せ、所詮われらは男と女、相容れぬ敵同士」

キャッンッドールがーっ 消ーえたーままー

「敵なんかじゃないよ。同じ僕じゃないか。それに君は、嬲だ。女じゃない」

くっらっやーみにっ 僕ひーとーりーーーーー まっばったっきもっ かっえっ

「僕は、本で読んだことばっかで、恋のこととか、

さっないっ もっのっうっげなっ そのひーとー

それにもしかしたら、愛だって、わかっているつもりだった」

みーーーーーーーーー(fade out) ohhhhhoooooooohhhhh

「でも、それって違ったんだ。僕は今、すごくどきどきしている。

メーモーリーーイーズーーー 消ーーえーてーいくーーー さーよー

君は、もう一人の僕だもの。自分のことだから、こんなに、好きになれる……」

なーらもっ とどかーなーいー ほーどーけーーてくーー こーわーれーーて

「大好きだよ、僕……」

ーー もーどーらなー

「戯言だ。くだらぬ。愛、など」

いーーー One Week Love Smiiiiiiiiiiiiiile 

「僕だってもう、わかってるはずだ。僕が僕のことをどんなに、……愛しているか、」

(コーラス)フーフーフーフフフーフーフーフフフフフハホハホハホハホハー(パイプオルガンの演奏を伴って)

「わたっ……しのっ、愛など、要らぬっ。私は、男じゃないか、男など、男の愛、など、

(自由な速さで)真夏がかけた オレンジ色の罠

子を為す為に女に植え付けた、まがい物の幻影に過ぎぬ」

(背水の陣で)爪あとは今も痛む wow wow No You No Life!(No You No Life)

「自分をごまかすことはできないよ……僕だって、自分のことが好きなんだろう」

(既存の概念に捉われず)戻らないmissing 抱えて あしたーーへと いーーまーー

「ひぁ……うんっ。らめ、らようっ。僕ぅ、男の子なのにぃ、……こんな、」

(手を取り合って)飛び立つのさファーラウェーーーイ エッエーーーイイ

「男の子じゃないよ、僕は、すごく素敵な女の子だよ」

(間奏。ギターソロ。エリック・クラプトンを思わせる早弾き。エリック・クラプトンて誰ですか)

「さっき女じゃないって言ったじゃーん! 嬲って! 嬲って言ったもん(≧へ≦)」

(間奏。ギターソロを中心にいくつもの楽器が音色を絡みつかせていく。03:46から04:22の展開は必聴)

「僕は、僕みたいなボーイッシュな女の子、すごく好みだよ(〃ー〃) 」

(Azure Skyの「表現」にジャンルはない。どんな楽器、どんな音も、Azure Skyは貪欲に吸収する)

「はにゃ~ん……もう、らめぇぇ。僕ぅ。らいしゅきぃ……」

(その千変万化する曲調は、「音楽史を表現し尽くした」と、アニメファン以外からも評価が高い)

「アニメの主題歌じゃないから、当たり前なんだけどね」

(音楽評論家の土志田石雄は、これを「宇宙背景放射の音楽的表現」と語る)

 Azure SkyのToshiは、「明日へfar away」をこう語る。

(「ジョン・ケージが欠落によって生み出した無意味に対置される、これは過剰による無意味、

「音楽史を表現した、なんてつもりはぜんぜんなかった。僕は、何かを表現したい、とかは全然ないんです」

しかし、豊穣なる無意味です。神話的混濁、と言ってもいいでしょう」)

「ただ、僕は音楽を聞いていると、それだけじゃどうしても、気が済まなくなる」

(「前に土志田さんは、ジョン・ケージをベケットに、Azure Skyをジョイスになぞらえていましたね?」)

「頭の中で、音楽が乱反射し始めるんです」

(「ええ―『世界の中心で、愛を叫ぶ』と並んで、今世紀初頭に現れた二つの巨星、

「僕っていうのは、音楽が集まって跳ね返っていく。そういう、ひとつの『場』みたいなものかな」

それか、こう言えるかもしれません。20世紀を締めくくるアンカーとなるべく定められていた2作品が、

「なるほど。それでは、Toshiさんという『場』に一番影響を与えたアーティストというのは……?」

数奇にも、10年の時を経て21世紀に生れ落ちた」)

「ボブですね」

(「『世界の中心で、愛を叫ぶ』、ですか」)

「ボブ・ディラン」

(「ええ。注意深く読めば、言葉の一つ一つが、哲学史を織り成すモザイク模様となっていることに気づくでしょう」)

「いえ。ボブ・ディランとかよく知らないんで……エリック・クラプトンとか。そういう、人の名前はよくわからないですね」

(「アボリジニのくだりがレヴィ=ストロースであるのは、一目瞭然でしょう。また、アキは誰のものでもない、これはサルトルに他ならない」)

「ボブは、僕がジャパンに行ったときにNHKで見た画家でね」

(「そして、祖父の言葉に表れているエマニュエル・レヴィナスとシモーヌ・ヴェイユ……私は、精巧に組み上げられた、

「エリック・クラプトンの速弾きを思わせる、すごい速さで風景画を一枚仕上げてしまったんだ」

人類数千年の思考の歩みを見ます」)

「そしたらボブはね、まだ完成してない、って言うんだ。絵には完成はない、ってね」

(「飛行場への入り口で振り返ってしまい、アキを失う。ここに、オルフェウス神話の面影を、あなたは見はしなかったでしょうか」)

「それで、真ん中を青く塗りつぶして、そこに空想の風景を描いていく」

(「あらゆる哲学の言説、普遍的な思考モデルである神話の交わる交点、世界の中心、

「『絵には失敗はありません。楽しいハァプニングがあるだけでぇす』ってね。シビれたね」

それを包む布地として、作者が選んだのは、ラカンの精神分析です。

「音楽で影響を受けたと言うか……、生きること、アートすることに影響を受けたね」

主体SたるSakutarouが、対象a=Akiの失われたSekaiの中心で、Aiを叫ぶ。今後の文学の課題は、『世界の中

 チャンネルを変えるとロイは既に愛の力により物質宇宙の枷を逃れ、世界に外在する主体として、時空のすべてを俯瞰する高みに存在している。なぜなら、愛は奇跡を起こすからです。あらゆる可能な、かつはまた不可能な事態さえをも包摂する超宇宙の中で、平行し錯綜し存在するすべての時間の流れ、その中の無数の点にそれぞれたった一つだけ存在する、自分と最高の相性を持つ一点。同じ時空に存在できることさえ奇跡であり、同じ次元、同じ時空の中で理解しあうことの可能な相手として出会うことなど、不可能と可能とが並列された超宇宙においてさえなお濃度の高い不可能として隔てられているような、運命のパートナー。それは魂のコズミック・ラヴァーズ。

「僕、僕! 僕のこと、愛してるよ!」

「私も。私もだ!」

 その私は、一人称女性のように響いた。

id:firestorm

ほ、ほぎー。すさまじすぎて言葉がありませぬっ。

感想文はあとでー。

2006/10/24 15:54:22
id:setofuumi No.15

回答回数1ベストアンサー獲得回数0

ポイント13pt

『scroll』


この先には何があるのだろう

あの先には何がいるのだろう

様々なものが私を阻む

徹底的に私を阻む

ループする音楽

繰り返される光景


それは色とりどりの球体

それは無機質で角ばった立体

動かずにじっとしているだけのもの

敵意をみなぎらせて向かってくるもの

その全てが先を阻む

その全ては「阻む」という意志に満ちている


それは規則的に反復を続けるだけの存在

それは規則的な反復を崩してしまう存在

とても小さな、取るに足らないもの

とても大きく、偉大なもの

その全てが先を阻む

その全ては「阻む」という意志に満ちている


この先には何かがある

あの先には何かがいる

私はまだ見ぬ先へと進む

壊し、あるいは掻い潜る

聞き覚えの無い音がある

見覚えの無い光がある


そこには"彼ら"がいる


---------

残念ながら下手なポエムにしかならなかった。

id:firestorm

うわあい。なんかなんかのサントラのライナーノーツっぽいですね←まるで気のせいです

感想文はのちほどー。

2006/10/25 00:50:57
id:ElekiBrain No.16

回答回数255ベストアンサー獲得回数15

ポイント13pt

「帝、この書物にを今日中にお願い申し上げます」

大臣が私に言った。宮廷の、長い回廊に陽光が降り注いでいる。私は長い髭をいじりながら、その何十もの書物を受け取ると、不機嫌な面持ちで廊下を通り過ぎた。今日は、会議で纏まった人事の内容に、私が許可を出さねばならなかった。私は朱塗りの廊下をいそいそと歩きながら、自室へと向かうと、観音開きの扉を開けた。世話係がたおやかな笑顔を浮かべて扇を携えて待っていた。

「すまぬ、今日は外してくれ」

 私はその世話係の娘に言うと、彼女たちは静かに、音も立てずに一礼をして部屋を出て行った。さて、一仕事片付けねばならんな。私はゆっくりと巻物を紐解き、墨箱から墨を取り出すとゆったりとした姿勢で摺り始めた。次第に精神が集中してゆく。

 書類の内容は簡潔だ。どの人間をどの役職に就かせるか、それを見て印と私の名を書き記してゆくだけだ。私は静かに作業を始めた。

 最近、私はあることに心を痛めていた。度重なる戦が続き、土地は荒れ、民の間で飢饉と疫病が蔓延していた。出来ることならば近隣諸国に停戦を申し込みたかったが、臣下がそれを許さなかった。特に、最近力を持ち始めたある男が、ことあるごとに私の意見に異を唱えた。その男は切れ者だった。私はその男の意見に押されたまま、停戦を先送りにしていた。

 やがて、夜は更け、半月のおぼろげな光がこの部屋に差し込んだ。私は最後の巻物を手に取ると、それをゆっくりと広げた。そこには、あの男の名があった。

「これはどういうことだ。この男を将軍に任命した覚えはない!」

 私はすぐさまその部屋を出ると、家臣の名を呼んだ。しかし、誰も返答しない。薄暗い廊下に月明かりが差し込み、私の影を映し出した。それは細く、長く、今にも切れてしまいそうだ。広大な庭の砂利が、神秘的な色合いで輝いている。

「誰かおらぬか!」

 それでも誰の返答もない。私は他の者を気遣いながら、出来るだけ音をさせないように、廊下を歩いた。そんなとき、廊下に面した左側の部屋からなにやらかすかな音が聞こえる。

 どっどっ、という足踏みのような音がいくつか聞こえた後、再び静寂が訪れた。私はその部屋の前で立ち止まると、怪訝な顔つきでゆっくりと扉を開けていった。

 呼吸が一瞬止まった。そこには首を切り落とされた大臣の姿があった。

「これは帝、ご機嫌麗しゅう」

 背後から聞こえた声に私は振り返った。そこには、腰に何人もの首を巻き付けた甲冑姿のあの男の姿があった。男はにやりと笑うと、鞘からゆるりと剣を抜いた。

 私は逃げようとし、すぐさま振り返って廊下を走り出した。しかしその先を、先ほど大臣を殺したと思われる、血まみれの剣を持った男の部下が塞いだ。

「どこへゆこうと言うのです」

 背後からあの男の声が聞こえた。私は恐怖で身動きが出来なかった。男はゆっくりと私の背後に立ち、そして、私を静かに抱擁した。首元にはギラギラと妖しい輝きを放つ剣が添えられていた。男はゆっくりと、ごくゆっくりとその剣を引いた。鮮血が廊下を染めた。




 アパッチ族との戦いもすでに何日が経っていただろう。私ははため息をつき、たき火の方をぼんやりと眺めながら峡谷に輝く星空を眺めた。アメリカの未来は私たちにかかっている。あの蛮族ども追い出し、この国を素晴らしい白人の国にするのだ。目の前では“蛇の目”こと、ジョニーが大いびきをかいて寝こけている。コイツはあまり感じのいいやつじゃないが、古くからの親友だ。あの時の襲撃からもコイツと二人で切り抜けた。

 バチパチと、薪が燃える音が私の眠気を誘う。まずい、私は見張り役なんだ。ここで眠りこけてはいけない。それに、妻と子をこの場に連れてきている私にとって、この場は死守すべき場所だった。普通、妻や子供は故郷に残してくるものだが、私の妻は偉く頑固者で、残れ、といった私の言葉を一切聞こうとはしなかった。そんなわけで、私の形見は狭く、仲間に申し訳が立たなかった。だからこそ、この場を余計に死守しなければならないのだ。

 しばらく眠気と闘っていると、なにやら遠くから騒音が響いてくる。その音は次第に近くなり、やがて大きな咆哮と化した。

「奴らだ!」

 私は叫んだ。

「おい、ジョニー、起きろ。糞ったれどもが来やがった!」

 ジョニーはとぼけた眼のまま跳ね上がるとリボルヴァーをたぐり寄せると、馬がいる向へ走り出した。

 私は大声で敵襲を告げると、テントから屈強な髭親父どもが勢いよく飛び出してくる。そいつらはカウボーイ・ハットを深めにかぶると、一挙に馬に乗って峡谷に踊りでた。

 アパッチの数は多かった。いかに我々が近代的な装備をしていようとも、やつらの頭数が圧倒的であれば全く意味がない。まして、ここら一体は奴らのホームグラウンドだ。馬の乗りこなしだって半端じゃない。

 私たちの頭上に弓矢が降り注いだ。仲間がバタバタと倒れてゆく、私は死を覚悟した。きっと援軍の到着は朝方になる。それまでにこいつらを食い止めなくては。

 しかし、敵軍の勢いは留まることを知らなかった。私はしんがりを勤めながら、奴らの注意をそらし、全軍を退却させた。結果、私は彼らに拘束された。

 ――意外なほど彼らの扱いは良かった。数日間私は十分な食料と水を与えられ、彼らの作った牢から出ることは出来なかったものの、私は特に不満を感じることなく過ごした。

 2週間も経った頃だったろうか。牢の番人が私にこういった。

「今日、白人と我々の間で停戦協定が結ばれるようになった、そこで、今日、その使者が来るようなのだ」

 私の中にかすかな希望が宿った。私は胸一杯に広がる安堵を覚えながら、その場に寝転がった。柵越しには黄色い砂漠が広がり、私は目を細めた。

 夕方、私は突如目を覚ました。面会だという。外を見ると、一面がオレンジ一色に染まっていた。やっとここから出られる、そう思うと、私の鼓動は高まった。そして、そいつは現れた。

「おう、スティーブ、元気でやってるか」

 そいつは私の顔をのぞき込んだ。ジョニーだった。

「最高の環境だぜ。おまえもどうだ」

 私は皮肉を言って肩をすくめた。

「ハハ、いや遠慮しておく」

 ジョニーそれからしばらく黙ると、なぜかカウボーイ・ハットに手を置いて、顔を見えないようにした。しかし、よく見ると、口元だけがチラと見えた。口元は笑っているようだった。

「おまえ、おめでたいぜ。おまえはもう死んでる事になってるんだよ」

 何を言っているんだ。なんの冗談だ。私はそう思った。そして、ジョニーは信じられない事を口走り始めた。

「おまえのカミさん、おまえが死んだと思ったら、俺になびいてきてよ、それで今はお熱い仲さ。ガキは面倒だから適当なところで始末して、カミさんにはアパッチにやられた、と言っておいた。アイツはもう俺の女だ」

 私はすぐさま起き上がると、牢の入り口まで駆け寄ると、柵越しに拳を突きだした。しかし、所詮は牢の中。ジョニーは瞬時にそれをかわすと、肩をすくめて面白そうにこういいやがった

「ひゅーう、あぶねえ、あぶねえ」

 私は必死になってジョニーの足を掴もうとするが、ヤツはブーツの底で俺の手を踏みにじった。

「ぎゃあぁ!」

「ヘイ・スティーブ、お前、今の立場わかってんのかよ。ハハまあいいや、お前ともこれでおさらばさ」

 ジョニーはそう吐き捨てるように言うと、牢から立ち去った。

 ――その後、私はアパッチから解放され、何年もさまよった後、私の妻が首をつって死んだ、という話を聞いた。ジョニーは行方知れずだという。私は広野に立ち、壮大な平原に朝日が昇る頃、リボルヴァーに銃弾を装填した。そして、そいつを側頭部にあてがうと、ゆっくりと引き金を引いた。

 銃弾が私の頭蓋骨に達する瞬間に、私はあることを思い出した。大臣を殺したあの将軍が、ジョニーだ。意味の分からない想いと共に、私は広野に倒れた。




 ニューヨークのど真ん中で、そいつは歩いていた、夏だというのに、黒ずくめのコートにサングラスをかけている。私はそいつが狙いを付けていたホシだと言うことに気がついていた。夜の交差点をそいつは周囲を見渡しながら歩いてゆく、時々すれ違う人々に肩をぶつけ、そのたびに奴の眉間に皺が寄った。私は無線を取り出すと、ホシの状況を伝えた。

「ホシを発見した。現場はブロンクスの――」

 私は無線をしまうと、奴の足取りを追った。奴はある建物の一角で立ち止まりきょろきょろと辺りを見渡し、周囲に人がいないかを確認してた。私は身を隠すと、男の動向をうかがった。男は一分ほどきょろきょろと落ち着きなく辺りを見渡すと、その建物の中に入っていった。急いで私はその建物へと急行し、無線を胸ポケットから取り出した。

「応援はいつ来る」

 無線の向こうの担当が言った。

「20分で到着します」

 そんなに待ってはいられない。私は急いでこう伝えると無線を切った。

「今から単独で突入する」

 俺は男が入っていった建物の入り口をこじ開けると、薄暗い階段を素早く駆け下りた。

しばらくすると、重たそうな鉄製の扉が行く手を塞いだ。私は拳銃を手に取ると、その扉のノブをゆっくりと回した。ひんやりとした感触が手に伝わる。ここには夏の蒸し暑い熱気は入り込んできてないようだった。やがて、木箱が積み重ねられた大きな廃工場が姿を現した。輪転機が置いてあるところを見ると、ここは以前印刷所だったようだ。私はいくつもある輪転機に身を伏せながら、拳銃を構え、足音に気をつけながら進んでゆく。

 やがて、小さな声で会話する声が聞こえてきた。私は足を止めると、その声のする方向に聞き耳を立てた。

「……ああ、末端価格は1000はくだらねえ」

「そいつは上等だな」

 やはり。私はついにヤクの現場を押さえることに成功したのだ。そこには男二人しかいなかった。私は周囲に誰もいない事を十分に確認すると、輪転機から身を乗り出し、一挙に奴らの前に躍り出た。

「手を後ろに組んでゆっくりと振り向け!」

 手前の男が振り向きざまに発砲すると同時に、私も手前の男に発砲した。私の頬を銃弾がかすめ、硝煙の臭いが私の神経を余計に集中させた。私の放った銃弾は手前男の肩口に命中し、手前の男はもんどり打って倒れた。奥にいた男はすでに手を挙げていた。あのコートの男だった。

「もう一度言う、手は後ろだ!」

 コートの男はチッと舌打ちすると、手を後ろに向けた。

「これでいいだろ、刑事さん。あんたとも長いつきあいになるね」

「よし、そのまま床に伏せろ」

 しかし、男はだるそうな顔でこちらを見据えたままだ。私は奴の足下に瞬時に狙いを定めて発砲した。すさまじい炸裂音が鳴り響いた。

「そのまま床に伏せろ!」

 コートの男は「はいはい」、と生返事をすると、そのまま床へとゆっくりと伏せていった。私が拳銃を構えたまま男の近くに寄ろうとすると、男は口笛を吹いた。

 まずい。

 私の勘がそう告げた。程なくして、スポットライトが照らされ、私は一瞬視界を失った。

 銃声が響いた。年期が入ると、どのくらいの口径から発砲されたのかも分かるようになる。どうやら、いや、予想通り、男はライフルを懐に隠し持っていた。しかも、伏せている状況を考えれば、最高の狙撃体勢だった。うかだった。私は腹部に熱い衝撃を受けて背後に吹っ飛ばされ、輪転機に当たって今度は前につんのめった。

「おいおい、長いつきあいじゃねーか。こんぐらい手段くらい、分かってもらわなくちゃ困るぜ」

 男は意味不明の事を口走った。何を言っている。貴様と会ったのは今日が初めてだ。

「なあ、そうだろ、スティーブ」

 私の頭の中で何かがはじけたような気がした。広野の風景と、妻と子供、見たこともないような髪飾りのインディアン。ありとあらゆる映像が私の脳裏を駆けめぐった。

「ジョニー」

 コートの男はニヤリと笑うと満足げな表情を浮かべた。

「そうだ、やっと思い出してくれたか。俺はよお、寂しかったぜ? 俺一人なのかと思っちまった」

 コートの男、ジョニーは無造作にライフルをぶっ放した。私の肩口の肉がはぜ、左腕がぶっ飛んで床に転がった。

「ひゃひゃひゃ、ハッハー!」

 ジョニーは下ベロをだらしなく出すと、よたよたと歩きながら、楽しそうにしている。私はもうおしまいだと思った。だが援軍が貴様を必ず捕らえるだろう。

「ニューヨーク市警のことだ、援軍ぐらいよんでんだろ? もうちょいお前と遊んでいたいところだが、そいつは次にお預けにしようや」

 銃声が響き渡った瞬間に、私の意識は途絶えた。




 今日の科学技術の進歩はすさまじかった。特に、科学と全く縁のなかった、というよりは、むしろ科学と仲が良くなかった霊体物質の世界が科学で証明されると、科学は自然と融合し、結果人間はあらゆるところへ意識だけで飛んでゆけるようになっていった。人は、この技術をサイコネットと呼んでいた。遙か昔に流行ったインターネットがその原型らしい。

 私はなぜか、昔教科書で読んだ内容を思い出しながら、ヘッドギアを装着した。この世界に入る際には注意が必要だ。このヘッドギアから私の霊体は抜けだし、別世界へと繋ぐ回路を通るのだ。この回路が寸断されたら私は肉体へと戻ることが出来なくなってしまう。

 私はスイッチを入れると、目を閉じた。程なく、意識は暗くなり、ある情景が見える。長いトンネルを通って、延々と遙か彼方の方へと目指す。しばらくすると、広い高原が眼前に広がった。そこは常に涼しい風が吹いていて、綺麗な花畑や滝が流れているのが見える。ここは、全ての肉体を持たない存在が集まる場所。元々肉体を持っている私も、肉体を失ってこの世界に旅立った人々も、一堂に会せる場所だった。

 私はうららかな光景をよそに、近くにある峡谷に飛び込んだ。見る間に背景は暗くなってゆき、地中深くまで私は下っていった。

 そこは、人々が見てきたあらゆる苦しみを集めた世界。

 おどろおどろしい化け物の姿をした連中が辺りを闊歩しているのが見える。目の前には吹き荒れる嵐と噴火する火山が見えた。

「あいつはきっとここにいる」

 私はすさまじい勢いでその場を飛行すると、どこまでも続く薄暗い情景を眺めた。しかし、奴の姿は見あたらなかった。

 ――私はその日、ぐったりとしたままヘッドギアを外すと、その世界から物質世界へと戻ってきた。そして、妻と子のいるリビングまでゆくと、メタリックシルバーのテーブルの上に乗せられた人工梨をつまんだ。流線型の部屋のインテリアが私の心を落ち着かせた。

「まだ見つからないの?」

 妻は言った。サイバーテロ対策本部の使いぱしりである俺にとって、毎日の生活だけはたっぷりと休みたい。しかし、妻はそうさせてくれなかった。

「ああ。なかなかシッポを出さないのさ」

 かつて、同名の対策本部があったらしいが、今とは全く違ったものだったらしい。私は一人でそんなことを思い出していると、妻はさらに言った。

「子供と私の事を考えて」

 要するに、家庭のことを考えて、と言いたいのだ。またか、私は思った。誰のおかげでメシが食えると――これは言わないでおこう。

 私は一人、答えることなくその場をあとにし、廊下を越えると、寝室のキーを入力すると扉を開いた。シューッという音と共に扉を開くと、私はベッドに転がり込んだ。今日の重力は無重力でいいな。私は重力コントロールシステム=Gコンをリモコンでいじると、ふわふわと浮かんだまま眠りに入った。




 夢を見ていた。私は帝、そして甲冑を着た男が見える、そいつは私を抱きかかえ、のど元に刀剣を当てていた。周囲には同じく甲冑を着込んだ兵士の姿が見える。連中の顔はよく見えない。甲冑を着た男はゆっくりと刀剣を私の首元で引いてゆく。




 眼を見開いた。流線型の部屋が、私が誰であるかを思い出させてくれた。体中に汗をかいていた。私は親指大の小さなジェット機を取り出すと、Gコンの前まで飛んでゆき、電源をOFFにした。やがてゆっくりと体は地面に舞い降り、普段の重力を取り戻した。私はプールから上がったばかりのような、けだるい感覚を体に覚えながら、バーチャル・プロジェクターの電源を入れた。付けるやいなや、あるニュースが飛び込んできた。連続霊体殺人の犯人が未だ逃亡中だというのだ。霊体を殺せば二度とその人間は地上に生まれることがない。宇宙から永遠に消え去ってしまうのだ。従って、霊体殺人犯は超一級の犯罪として極刑が言い渡される傾向にあった。原則、霊体殺人を犯した者は、同じく霊体殺人の刑に処されるという前例が数多くある。ただし、このこと自体が倫理的に許される範疇ではないと主張する人たちも数多くいた。ただしそれは欧米の事で、この日本国においてはそれらの処分に同情の余地はないとする声が大半だった。

 私は、ニュースの内容を見て、即座に奴だ、と思った。バーチャルプロジェクターの電源を切ると、ヘッドギアのある、あのルームへと向かった。なんとしてでも奴を止めなくては。ヘッドギアを装着し、眼を閉じる。細いトンネルを抜ける映像が私の目の前に展開された。トンネルは透き通っており、他のトンネルがいくつも見える。それはイメージの世界だから、きっとほかの人間には微妙に違って見えるのかもしれない。ようは、霊体物質をどう捕らえるか、という感性の問題だった。

 昨日は奴を探すためにわざわざ遠い世界まで索敵を敢行したが、本来私はこのいくつもの交差するトンネルを監視するのが主な任務だ。私はあえて光の見える方向へとは向かわず、薄暗いトンネル内部を右往左往した。しかし、今日も奴の気配はなく、いたずらに時間だけが過ぎていった。




 広野で赤黒い種族が雄叫びを上げて突進してくる。私は飛び起きると、隣にいた男を起こした。場面が瞬時に変わった。牢屋に入れられた私は、ある男に手を踏みつけられていた。また場面が変わった。広野に朝日が昇るのが分かる。そう、俺はスティーブ。ジョニーに嵌められて――。




 まただ、誰だ、ジョニー? そいつはなんなんだ。私は昨日に続いてびっしょり汗をかきながら、Gコンの電源を切り、バーチャル・プロジェクターの電源を入れた。しかし、ニュースが始まるやいなや、画面が切り替わった。

「おはよう、朝から私の顔を見るのは嫌かもしれんが、聞いて欲しい」

 それはサイバーテロ対策本部の司令官からだった。尋常ではないほど太っていて、首と胴体のつなぎ目が分からない。私は趣味で集めている骨董品の映画『スター・ウォーズ』のジャバザ・ハットを思い出していた。

「今日大規模な掃討作戦を行う。君もすぐにトンネルに向かってくれ」

「なぜ今日なのですか。なぜ事前に連絡がなかったのですか?」

 司令官はしばらく口をつぐんだ後、こう言った。

「……実はね、件の犯人が我々の組織から出ているのだよ。だいたい目星は付いているのだがね」

 司令官は続けた。

「そこで、目星の付いているそいつだけには作戦を知らせていない。だが、時間の問題だ。やがてこの作戦は奴の耳にも入るだろう」

 司令官は困った顔をした。

「そこで、奴の耳に入る前に囲い込みを行う、そういう作戦なのですね」

「そうだ」

 作戦の詳細を聞いた後、私はバーチャル・プロジェクターの電源を切ると、いつものヘッドギアの場所へと向かった。そして、いつものように目を閉じる。やがて透き通ったトンネルが見え、私の頭の中に司令官の声が響いた。

「これより掃討作戦を開始する。君たちは奴が入って来るであろう意識口に待機し、奴を追い詰める。もちろん、奴が出てきた瞬間に捕らえられればそれが一番だ。だが――」

 司令官が口ごもった。

「奴にこのことが知れてしまったようだ。現実世界の警察が奴の行方を追っている。だが、やつを肉体的に捕らえても無意味だ」

 ヘッドギアを通じてこの世界に出入りするには、単純な機械的操作だけでは不可能だ。本人の意識が機械とシンクロしなければならない。つまり、奴を捕らえて機械に無理矢理接続、その後霊体処刑するという手順は不可能だということだ。そういった事から、大抵霊体殺人犯は現場で拘束され、現行法に基づいてその場で処分される事が多かった。

「そこで、我々は奴が肉体を捨て、この世界に逃げ込んで来た瞬間を見計らって、追いかける」

 了解した。我々は仲間と共にトンネルを流れる光となって、瞬時に奴の意識口にその身を忍ばせた。意識を最小限に抑え、想念を飛ばさないように注意する。我々下っ端は司令官のように、特定の霊体に向かって想念を飛ばすという器用な意識操作が出来ない。我々が考えたことは瞬時に奴に感づかれてしまうだろう。やがて光の束が一つの意識口に集まると、静かに光は消えていった。皆、意識を消したようだった。

 何時間も経った頃だろうか。意識口から強烈な光が現れた。そいつの想念は苦しそうな想いを辺りにまき散らしていた。

「なぜ俺の完璧な計画がばれたんだ!」

 私の中にそんな想念が流れ込んできた。他の仲間もそれを聞いていたに違いない。間違いなかった。奴だ! 我々は一瞬にして意識を解放すると、身体を光らせ光速で奴を追った。並列に伸びるトンネルの中で奴は叫んだ。

「畜生! 待ち伏せ手やがったか!」

 我々の行動は迅速だった。トンネルの交差する地点で司令官の霊体が立ちふさがり、

瞬時にいくつかの光が取り囲み、奴の霊体を拘束する。私は数秒遅れて現場に到着した。

「よくやった」

 司令官は我々に想念を送ると、犯人は毒づいた。

「ハハハ……俺がこんな事で捕まると思ったのか」

 嫌な想念だった。果てしなく邪悪な、この世の果てを思わせる声だった。しかも、その声は焦りがなく、むしろ自信に満ちあふれていた。私は嫌な予感がした。そう思った瞬間だった。奴の霊体が毒々しい黒色に変化すると、急激に回りの雰囲気が変わっていった。するとどうだ、仲間の霊体の色が奴と同じような黒色に変化し始めたではないか!

 私は体中に悪寒が走るのを感じた。

 まずい。

 司令官はその場で自分の形を保とうとしていたが、奴の方向に吸い寄せられると、努力の甲斐むなしく奴と同じ黒色に変化していった。やがてそれは巨大な固まりとなり、大きな黒い霊体へと変貌を遂げた。

 私の行動は迅速だった。光速のスピードでその場を離れると、自室の待つ意識口へと身体を滑らせた。幸い、仲間と少し離れた地点にいたのが幸いだった。長く細いトンネルがすさまじい勢いでうねうねと眼前を通りすぎてゆく。背後からまるで地中を走るモグラのような黒色の固まりが、トンネルを膨張させながら突進してくる。

「待てぇぇぇ。スティィィブ!」

 見えた、意識口だ! 私は意識口に今まで体験したこともないような光速スピードで突進した。

 ――意識が肉体へと戻った。私は瞬時にヘッドギアの電源を落とすと、そいつを床に投げ捨てた。体中が汗だくになり、息は上がっていた。段階を経ずに肉体へ飛び込んだ為、頭痛が激しい。私はその場で気を失うと、床へとずり落ちた。




 また、夢を見ていた。けらけらとコートを着た男が笑う。そいつは私の方へとゆっくりと歩いて来ると、手に持ったライフルで左腕を吹っ飛ばした。




 ギロリと表現すべきか、私の眼を見た人間はきっとそういっただろう。そんな風なおどろおどろしい目つきで私は飛び起きた。流線型の室内、バーチャル・プロジェクター。壁にあるGコンのスイッチ。そして、横には妻がいた。

 妻は眼を潤ませて私を見ていた。

「や、やあ」

 私は間の抜けた返事をすると、妻はわっと泣き出し、私の寝ているベッドを涙で濡らした。その後、妻は平静を取り戻し、私が一週間もの間気を失っていた事を告げた。私はしばらくぼんやりとしていたが、瞬時に跳ね起きるとバーチャル・プロジェクターの前へと向かい、電源を入れた。

「……東京では突如ヘッドギアを付けたまま絶命する人間が相次いでおり……事態を重く見た政府は……」

 間違いない、奴のことだった。私はただ黙ってこの放送を見ているしかなかった。あまりの無力さに腹が立った。

「昨日、霊体連続殺人の犯人のもの思われる遺体が都内某所で見つかり、警察はこの男の身元の解明を急ぐと共に……死体は腐乱が始まっており」

 奴は命を絶った。だが、終わった訳じゃない。おそらく奴はこの世とあの世を繋ぐあのトンネルの中で、のうのうと魂を食らって生きているのだ。

 妻が不安そうな声で私の背後から話しかけた。

「ねえ、あなた、あなたさえ良ければ、あのヘッドギアをもう付けないで欲しいの」

「そうはいかない。もし君が死んで、あの世界に行ったら、君は奴の餌食になってしまうだろう。それだけは防がなくては」

 そうはいってみたものの、方法が思いつかなかった。混沌とする意識の中で、私は部屋を出て、廊下を伝い、あの部屋の入り口の前に立っていた。

 どうする、もう出せる手はないのか。

 私は部屋のロックを解除すると、ヘッドギアが転がる椅子へと腰掛けた。それらはあの頃のまま、放置されていた。ヘッドギアは無理を利かせたせいか、電極部分が少し焼けこげていた。

 司令官の顔が頭に浮かび、そして仲間の顔が頭に浮かんだ。今更になって私の眼から一筋の涙がこぼれた。

 私は無い知恵を絞り、荒くれる感情の中、作戦を練った。きっとこれは職業病なのだろう。司令官が、いかなるときにあっても行動を遂行すべし、といっていた教訓が今になって思い出される。余談はいい。

 そう、奴はあのトンネルで未だに狩りを楽しんでいるはずだ。なぜかは分からないがそう思う。奴の性格からしてそうなのだ。私は以前から奴を知っているような気がしていた。だから、何となく奴の行動半径は知れている。

 そして、奴は間違いなく俺がトンネルに入ったことを察知して襲ってくるだろう。私はふと、あのトンネルの構造を思い出した。あのトンネルの構造をねじ曲げることが出来れば。私はかつて、仲間とやっていた大捕物のことを思い出していた。そうだ、なぜあの時の事を思い出さなかったのか。私は仲間と犯人を追い詰め、それからトンネルの構造をねじ曲げると、直接想念意識の低い世界へと送っていった。そこでは想念の低い連中は二度と上層部へはあがれない。処刑できない手強い犯人を追い詰める手段の一つだった。

 私は床に落ちているヘッドギアを装着した。これで最後の任務になるかも知れない、そう思った。司令官も死に、仲間もいない。私はゆっくりと眼を瞑ると、意識は別世界へと旅立っていった。

 トンネルが見えた。しかし、いつもの情景ではない。トンネルは激しく膨張し、巨大な霊体が通った後であることは容易に想像できた。私はいつものように光速で奴のサーチを開始した。どこからともなく獣の咆哮のような想念が私の胸に飛び込んできた。奴だ。私は直感的にそう思った。

 いくつもの通路を抜け、いくつもの十字路を通り過ぎ、無限に続くトンネル内部からあらゆる場所を観察した。そして、そいつはいた。遙か下の方に、奴は大勢の小さな光をくっつけたまま、巨大な身体をウネウネと動かしていた。その動きはまるでナメクジのようなだった。私は気分が悪くなるのを押さえ、光速でトンネルを経由し、奴の元へと向かった。その輪郭がはっきりするにつれ、すさまじい引力のようなものを感じるようになっていた。まるで、ブラックホールだった。奴の周囲の小さな光はどす黒く変色すると、次第に奴に飲み込まれてゆく。同時に何人もの霊体が犠牲になっていることが確認できた。

 私はこれ以上近づくのは危険だと判断し、奴に想念を飛ばした。私はその行為が安全だと分かっていた。奴はすでにその巨体故に、移動すらままならない様子だった。

「おい、貴様、もうその辺で取り込んだ奴らを解放するんだ」

 想念はすぐに帰ってきた。すさまじい苦痛が私を襲った。それは奴の苦しみそのものだった。もはやこの身体では人としてこの世に生を受ける事すら出来ないだろう。

「グウオォォォ……アアァァァァ……」

 奴の想念は言葉になってなかった。しかし、私はその中で、かすかな想いを感じていた。私に対する執着のようなものがその中に感じられた。やがて、何人もの光がそこに吸い込まれ、私はその姿をなすすべなく見守るしかなかった。作戦も何もあったものではなかった。やがて奴の身体がひときわ黒く変色し始めると、トンネルはその重さに耐えきれず、次第にたわみ始めていた。それは、奴と霊界を結ぶ唯一のつながりが断たれようとする瞬間だった。私は居ても立ってもいられなくなり、その場を大急ぎで立ち去り、ブラックホールと化した奴の近くまで飛んでいった。重力はとてつもないプレッシャーになり、私は何度も身体をとられそうになる。しかし、そんなことは構わず、私は奴の元へと向かった。やがて、たわみは極めて深刻なレベルにまで達し、トンネルに亀裂が走った。

 私は何をやっているのだろう。なぜ私は奴の元へと走っている。奴をどうしようというのか。私は亀裂の走ったトンネル近くまで壁を伝いながら、重圧に耐えながら進んだ。トンネルの霊物質に私の霊物質を絡ませながら、重力に吸い込まれないようにした。しかし、ここからどうすればいいのだ。亀裂は次第に大きくなり、奴は悲鳴を上げた。

「オオォォォォオ」

 その時だった、ついにトンネルは裂け、奴は巨体を唸らせてまっさかかさまに地中――即ち地獄へと落下した。

「ジョニー!」

 私はとっさに出したその名前のことを全く不思議には思わなかった、私はトンネルの壁に同化させていた手をほどき。亀裂へと飛び込んだ。しかし、奴の巨大な重力に抗えるはずもない。私は奴の身体に見る間に吸い込まれていった。身体が見る間に黒色に変化してゆくのが分かった。私の意識はそのまま断絶した。




 広野が広がっていた。そこにはカウボーイハットをかぶったジョニーがいた。ジョニーは、はにかんだ笑顔でこういった。

「お前はいつも俺を楽しませてくれる。だがな、優等生過ぎるんだよ、お前は。俺は先にいくぜ、後から絶対に来いよ。てめえがいねえといくら悪さしたってつまんねえ。じゃあな、スティーブ」




 強烈な、ゴウゴウとうなりを挙げる亀裂の傍で、私は意識を回復した。おかしい、霊体が夢を見るなんて。私は亀裂から下の世界をのぞき込んだ。下の世界は暗く、何も見えなかった。あの、最初に降り立った峡谷下の世界よりももっと深い闇がこの下にはあるのだろう。私はそのまま身を翻し、肉体の待つあの部屋へと帰っていった。




 しばらく、私はヘッドギアを持ったまま呆然と椅子に腰掛けていた。あいつはきっと、もうあのトンネルには戻ってこない。私はぼんやりとそんなことを考えた。なぜか、涙が頬を伝って流れた。そうだ、いつもアイツとは一緒だったな。なぜ今更思い出したのだろう。そいし、今更思い出さなくてはならなかったのだろう。私はいなくなったライバルに向かってこんな想いを飛ばしてみた。

「地獄でも楽しくやろうぜ。ジョニー」








id:firestorm

うひいうひいうひうひうひい。寝る前にすげえのがっ。

かかか感想文はのちほどっ。

2006/10/25 01:53:06
  • id:duke565
    ミスった。コレです。サイボーグ009。http://www.youtube.com/watch?v=vFm6bH6PfD0
  • id:firestorm
    皆様お疲れ様なのです。
    なんかもーちょっと半分ぐらい燃え残ったので第二回というか後半戦をブチ上げたいと思いますです。
    生暖かく見守るも良しうっかり2回投稿するも良しなのです。
    あと前半戦の感想文書きをぼちぼちやりますのでさほど楽しみにせずにポイント送りつけをまったりお待ち下さいませー。
  • id:firestorm
    ってギャー!!!なんかポイントが自動的に配分されてるーーー!!!
    どどどどうしようどうしようどうしよう←馬鹿

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