研究ブログ
移転します。
ブログを researchmap から seesaa ブログへ移転します。
ここを読んで下さっていた先生方はご存知のように、私のブログはロシア生活関係記事ををはじめとする「研究にも教育にも関係の無い」記事が、絶対量も相対的な割合も非常に大きくなってしまいました。
researchmap を使い始めた十年前は利用者も今ほど多くなかったこともあり、ロシア生活の話なども「まぁ広い意味で研究環境に関わる話だし…」とついつい甘えて書いていました。しかし researchmap が ReaD と合併し日本の研究情報交換の重要なインフラストラクチャーとなった今、私的な記事を大量に書くのは少々後ろめたく感じていました。それならばもっと研究してその成果をどんどん書けば良い、という正論を実行するだけの力量が無いのが哀しい所。(;_;)
しばらく前に、ある先生が「researchmap の使い方」に関して厳しいご意見をご自身のブログに書かれていたと記憶しています。その時から使い方を何とかしようと思い始め、最近 researchmap の利用規約の改定のお知らせがあったのを機に改めて規約に「研究と教育のためにのみ使うべし」とあるのを確認し、意を決して移転することにしました。
まだ seesaa のシステムがよく分かっておらずヨチヨチ歩きの状態ですが、移転しても同じようなペースで由無し事をダラダラと書き続けていく予定です(researchmap メインテナンス中に二、三の記事を書き溜めましたので、これは数日以内に続けて公開します)。よろしくお願い致します。
尚、researchmap のシステム更新に伴い自分の記事に張ったリンクが全て切れてしまいました。ブログ内のリンクは自分の為の心憶えでもあるので、ボチボチ修復していく予定ですが、おそらく全部は無理かと思います。すみません。
また、講義資料や著書の情報は必要に応じて更新する予定です。
立教数理物理 2020
数理物理学研究センターの最初の長は、昨年亡くなられた江口徹先生でしたので、今回の研究会は江口先生を追悼する意味も有り、江口先生と縁のある方々は講演に思い出話を挿入しておられました。江口先生ってやっぱり怖かったんだ…。(^^;;
以下は簡単な復習。
- Yutaka Matsuo: Real topological vertex, boundary state, and quantum toroidal algebra
AGT 予想は、super Yang-Mills のインスタントン分配関数 (Nekrasov function) と Virasoro/W 代数の conformal block が同じだと言っている。これは、DIM 代数 (quantum troidal albebra) の表現論の立場だと、vertical 表現 (SYM 側) と horizontal 表現 (CFT 側) の間の S-duality. Awata-Feigin-Shiraishi の intertwiner も重要。
これらを BCD 型の場合に考えると、実構造や CFT の boundary state が絡んでくる。
- Masao Jinzenji: Geometrical proof of generalized mirror transformation of projective hypersurfaces
B-model (Picard-Fuchs 方程式) から A-model (Kaehler 多様体の Gromov-Witten 不変量) へのミラー変換を射影空間の超曲面に対して考える。Calabi-Yau の場合の例で virtual 構造定数や mirror map (transformation) のプロトタイプを説明。一般型の超曲面の場合は virtual 構造定数が quantum cohomology の構造定数にはならないので難しい。射影直線から射影空間への多項式写像(擬似写像)を定義し、そのモジュライ空間のコンパクト化を構成。この設定で一般化ミラー変換の幾何学的証明が出来る。
- Tomoyuki Arakawa: 4D/2D duality and Moore-Tachikawa varieties
Beem らは、四次元 N=2 SCFT に対して頂点作用素代数を対応させた (V: T→V(T))。これは大変良い対応で、例えば単射(全射ではない)だし、Schur index という不変量の写像を factorise する。また、4d N=2 SCFT は Higgs branch という hyperKaehler 錘が対応していて、Beem-Rastelli (2018) はこれが V(T) の associated variety (Zhu の C2 代数の Spec) になるだろうと予想した。これを class S という場合に証明した。Class S theory に対しては、[Moore-Tachikawa]+[Braverman-Finkelberg-Nakajima] で Higgs branch の数学的記述がよく分かっている。これを使うが、実際には r 点付き g=0 曲線に対応する理論について構成すれば、残りは貼り合わせで出来る。1 点の場合は半単純 Lie 群上の chiral 微分作用素の層 (CDO) の H0、二点の場合は CDO で、後は帰納的に?作る。
- Masato Taki: Deep Learning and its Adversariel Perturbations.
「有限個の観測値から、その観測値を生成する過程を記述する確率分布を知ろう」というのが機械学習の目的。入力に対して観測されるような出力を出してくれる関数を闇雲に探すことは出来ないので、パラメーターを含む関数形を仮定し、そのパラメーターを予測誤差を最小にするように最適化する。この関数を neural network のモデル、要するに有向グラフで設計するのが深層学習(グラフを層状に分解して多層化する)。画像認識や言語理解では既に人間より良い結果を出している。しかし、良い結果を出す深層学習に対しても、うまい perturbation を加えると、それが非常に小さい誤差であっても全く合わない答えを出してしまうようなデータを作ることが出来る。それが adversariel perturbation. 高次元空間の距離関数のせい、とか、高次元では領域の境界が低次元と異なる振る舞いをするため、等の説明があるが、確たるものはない。対抗アルゴリズムも研究されている。
昔は string theory をやっていたけれど、機械学習へ方向転換されたそうです。
- Heng-Yu Chen: The gravity dual of Lorentzian OPE block
Operator product expansion (高次元) を holographic description を使って調べているらしい。OPE block というのは、二次元 CFT の conformal block みたいなもの? "Gravity dual" というのは、AdS/CFT の AdS 側にあるもののようです。Euclidean と Lorentzian で事情が違うらしい。←書き方からお分かりのように、さっぱり分からなかった。orz
- Junichi Shiraishi: Affine screening operators, affine Laumon spaces, and conjectures concerning non- stationary Ruijsenaars functions
(量子)戸田格子の変数を一つ増やすとアフィン戸田格子になったり q 戸田格子になる。その hybrid を取れば affine q-Toda になる。KZ 方程式を KZB にするような感覚で更に変数を足したものが non-stationary affine (q-)Toda. さらに別の変数を入れて、極限でこれらの系になる、Caloger-Sutherland, elliptic Calogero-Sutherland, Macdonald, elliptic Ruijsenaars, non-stationary Calogero-Sutherland, non-stationary Ruijsenaars という系列がある。Macdonald や affine (q-)Toda のようによく分かっている場合の固有関数には bispectral duality や Poincare duality がある。non-stationary Ruijsenaars の場合に固有関数を予想し、その極限や duality に関する予想を立てた。
- Kazuhiro Sakai: JT gravity, KdV equations and macroscopic loop operators
漸近的 Euclidean な AdS2 空間での Jackiw-Teitelboim (JT) の重力理論が行列模型(の double scaling limit)で記述できることが最近分かった。その分配関数の種数展開は Mirzakhani の recursion formula や Eynard-Orantin の topological recursion で計算できるが、遅い。Old matrix model で、coupling をうまく調節したものを使えば、ある loop operator の期待値として JT 分配関数が効率的に計算できることを示した。この方法で KdV hierarchy を利用して低温展開や 't Hooft 極限が計算できる。
講演の冒頭の江口先生の思い出話の中で、学生?と麻雀をする江口先生の写真があって、江口先生の意外な一面が分かりました。
- Yasuhiko Yamada: Nekrasov functions and q-difference equations
特殊関数はすべからく「explicit formula」を持ち、様々な恒等式を満たし、重要な応用がある。Nekrasov 関数はまさにこの性質を持つ新しい特殊関数。四次元の場合の四点関数が最初に Nekrasov がやったもので、Young 図形の組についての和として書ける。更に AGT によりパラメーターを特殊化すると BPZ 方程式の解の基本系を与える。Dotsenko-Fateev 型の積分公式もある。更に五点関数にすると量子 Painleve VI の解となり、六点関数を考えると量子 Painleve 方程式の Lax pair を与える。5次元にすると、q-analogue になり、いろいろ難しくなる。特に和を取る Young 図形が多くなると((r,s) という正整数の組が大きくなると;これは CFT の minimal model を指定するパラメーター?)、(非可換)変数の消去がうまくいかなかったりして複雑。量子 q-Painleve との関係はこれから??更に6次元(=楕円バージョン)も将来の問題。
山田さん、このブログを時々ご覧になっていると言っていたから、どうも書きにくいなぁ。(-_-;; 勘違いして変なこと書いていたらすみません。m(__)m
POP
年末に来た時は10冊立っていて「おぉ!(*^o^*)」と思ったのですが、一週間後にもう一度数えたら…9冊。orz 日本評論社の担当編集の方に連絡した時に「著者としてポップでも書きましょうか?」と聞いたら、ジュンク堂まで一緒に付いてきて下さり、数学書売り場の方に紹介していただきました。
編集の方は「数学の先生方による批評を聞きたい」と言っていましたが、私はちょっと怖い…。(^^;; ゼミで使ってくれる先生がいれば、自分の学生と一緒に眺めてくれる先生がその内に何か仰ってくれる可能性はあるのでは、と思っています。
試験には授業でやったことを出して下さい!
私はお茶大の数学科で図書委員をやって、昨今の大学図書室の事情もある程度は聞いていますので、「今どきこんなのを引き取ってくれるような図書室無いだろうなぁ」と思っています。また、数十年前に先端分野だったであろう分野の解説書などがあり、素人の私でも「これは時代遅れ」と分かるような本達。まあ、大半は古本屋行きでしょう。もっとも、Feynman の lecture notes の英語版が一揃いあったり、Dirac の量子力学が何故か版を変えて何冊かあったりして、この辺は現役。
私が自分用にもらおう、という本はやはり数学関係書だけになります。こっちは結構使えそうな本が見つかり、今度は逆に、どうやってこの大量の本をモスクワに持って帰ったものか、という方向で悩んでいます。
概して、基礎的分野の本は長生きし、応用や「先端的」と言われる分野の本は急速にその価値を減じていく、というのが世のならい。数学の図書室では二世紀前の本でも現役ですが、工学系の図書室では本は消耗品だ、と聞きました。企業に努めている数学の先輩から「ウチの研究所の図書室で昔の雑誌を廃棄するけどいらない?」と言われて、岩波『数学』の古いのをいっぱいもらったことがあります(モスクワに持ってくるのも大変なので、駒場の数学学部生の部屋に譲りました)。
で、遺品の中から見つけたのが1950年代の「岩波講座・現代応用数学」。どうも何冊かなくなっているようで、古本屋は引き取ってくれそうにないし、これくらいの時代の本だとそろそろ「ロストテクノロジー」(SF的な意味?で)が隠れているんじゃないか、という下心もあり、結構な量があるのに引き取ってしまいました。
実は、その中の一冊、南雲道夫「偏微分方程式 I」は心苦しい思い出のある本です。私の学年が大学で偏微分方程式の講義を受けたのは、三年生後期(1985〜1986年)の解析の授業で、1997年に亡くなった木村俊房先生が担当でした。偏微分方程式論の講義って、何が必須なんでしょうね。確か、我々の場合は線形二階の楕円型、双曲型、放物型、つまり Laplace/波動/熱方程式をやり、一階の方程式の幾何学的な話をやり、Lagrange-Charpit という名前は聞いたけれど今は完全に何だったか忘れ、あと何やったっけ?
こう雑然としていると、試験対策が困る。当然、皆で協力して木村先生の過去問を収集して対策を練ります。そうすると、どうも見たことのない話で結構難しい問題が出ている。多分、年度によってやっていること変えているんだ。それにしても、こんな問題どうやるんだ?と思った問題の一つが(問題自体は正確には思い出せませんが内容は)「未知関数一個、一階の偏微分方程式 ∂x u = f(x,y,u,∂y u) (x は時間変数、y は一般に多変数) の初期値問題の解の一意性」。但し、u や f が 二階連続微分可能の場合は Cauchy の定理などで証明されている。これを「一階連続微分可能」という設定で証明せよ、というのが問題。
こんなの無理、と思いつつ、家に有った本でそれらしいのをめくっていたら、その定理を見つけました。この本が南雲「偏微分方程式」です。証明は三頁に及び、どう見ても試験時間内に思いつくはずもない。だって、「Haar の不等式」と名前までついてる定理(関数の初期値 (x=0) の評価と偏導関数の間の不等式から、一般の x での関数の値の評価を与える)を使うんですよ!証明を一通り追ってみた結果、結論:「やっぱり、今年はこの問題は出ない。」
という話を、試験開始直前に仲間と話しました。「あの問題の証明見つけたんだけどさぁ…」「え、どうやるの?」「今説明するのは時間的に無理、第一どう見ても今年は出ないよ」ってな会話をした直後、試験問題が配られて開いた瞬間、「ゴメンナサイ!!」と叫んだ私を許して下さい。m(__)m
もちろん他の問題も出たので(どんな問題だったか本当に完全にカケラも憶えていない)、全員赤点ということはありませんが、木村先生ヒドイよなぁ。そして、証明を多少憶えていた私は断片的にそれらしいことを書いたせいか、他の人に比べて若干成績が良かった。未だに思い出すと心苦しいです。申し訳ない。
という訳で、タイトルへ。
ロシア文化事典
最近出版された「ロシア文化事典」(丸善出版、編集代表;沼野充義、望月哲男、池田嘉郎)を金子晃先生より頂きました。今日が私の誕生日だから(嗚呼、55歳)、ではなく、金子先生が「数学」という項を書かれる時に私に相談されたから。実際に私が出来たことは、文献についてのアドバイスを少々と「この人については書かねば」という一押し数学者の名前を上げた程度です。それで事典を頂くのはあまりに恐れ多いので、拙著をお返しに差し上げましたが、どう見てもエビで鯛を釣ってますね。金子先生ありがとうございました。
まだパラパラめくっただけですが、第一印象は「ものすごく密度が高い」。各項目二頁(コラムは一頁)で約330項目(コラムは30以上)。どの項目を見ても二頁(もしくは一頁)の制限ギリギリいっぱいびっしりと書き込んでいます。写真を入れている項目も多く、それでも二頁は厳守。編集部、厳しそうだなぁ。執筆された先生方の「二頁なんて無理!」という叫び声が聞こえるようだ。(^^;;
実際、金子先生が書いておられる途中で見せて頂いた原稿の修正は、一文字を入れる、入れないの苦しい選択をされていました。そもそも「ロシアの数学」を二頁でまとめる、というのが無理難題。(「コワレフスカヤ」はコラムで、別の方が書いています。)小声で正直に言うと、例えば Poincare 予想のペレリマンを「ロシア文化」の事典で無理して取り上げる必要があるか疑問(研究は主にアメリカでやっているし、Poincare 予想解決までの流れも Thurston → Hamilton → Perelman と『国』に縛られないし)。でも、金子先生によるとこれは編集部からの注文で外せなかったとのこと。
また、例えば「物理学」の項目ではソ連時代の物理学者と政治との葛藤に重きを置いているようで、ある程度テーマを絞っている項目もあるようです。執筆者には苦行だし、専門家にとっては物足りないことも多いでしょうが、逆に非専門家にとっては一項目二頁で概略が分かるので、そういう使い方に向いていると思います。
章立ては
- 歴史
- 大地と人
- 信仰
- 民衆文化
- 生活
- 食
- 娯楽とスポーツ
- 言葉
- 文学
- 舞踏・演劇
- 映画
- 美術・建築
- 音楽
- 思想
- 学術・技術
- ロシアと世界
- ロシアと日本
更に国旗・国章解説、社会・政治・文化年表と分厚い参考・引用文献のリストと事項・人名索引が付いて全部で890頁ほど(目次や口絵写真頁を入れて)。各項目の長さを制限する代わりに広い範囲を扱う、というポリシーでしょうか。ちょっと「科学の事典」を思い出しましたが、それよりはもっと広く浅く、です。ロシアで生活している私にとっては、「生活」や「食」の章を読むことが必要になりそうです(今めくった範囲では「ボルシチとピロシキ」、「パンと粥」、「医療制度」などが面白かった)。
前書きには、
これまで日本ではロシアについて読み切れないほど多くの書物が書かれてきたのだが、普通のロシア人がどのような暮らしをし、何を食べ、何を愛しているかー要するに、どのような文化の中で生きているかーについては、驚くほど知られていない。本事典はそういった知の空白を埋める、おそらく日本で初めてのロシア文化事典である。
…19世紀ロシアの詩人フョードル・チュッチェフは、「ロシアは頭では理解できない」と言ったのだった。しかし私たちは、この事典であえて「頭で理解する」ための土台を提供したいと思う。無謀な試みかもしれない。しかし頭から心へと道が通じ、大いなる謎はやがて大いなる魅惑に変容するに違いない。
とあります。「科学の事典」もそうでしたが、やっぱりこういう事典の前書きってカッコいいなぁ。(^^)
「書評(?)」は以上。以下は「今日の出来事」。
事典は大きな本なので送るのは大変だし、ロシアは郵便事情も悪いですから、私が日本に来た機会に金子先生に新宿でお目にかかって頂戴しました。先生、なかなかオシャレなパンケーキの店をご存知です。(^o^)
暖かいモスクワ
今年のモスクワは記録的暖冬です。以前、「モスクワの冬は暑い」と冗談で書きましたが、室温じゃなくて外気温が本当に高い。140年ぶり、とか70年ぶり、という数字がニュースに出てきます。とにかく暖かくプラス5〜6°(モスクワの冬の気温は24時間あまり変化がありません)。
「十分に寒い!」と言われる方もおられるでしょうが、こちらの情報によるとモスクワの12月の平均気温はマイナス4°位(平均最高気温でもマイナス2〜3°)なので、普通よりも10°近く高い、ということになります。
11月後半に一旦は平年並みに寒くなったのですが、12月に入ってから暖かくなり、この一週間はしょっちゅう記録更新しているようです。
お陰で植物園では花が咲いた、とか、森でキノコが取れる、とかいうニュースも。(冬至で咲くんだから、日照時間ではなく温度に反応している、ということですね。)私も真冬用のダウンジャケットを脱いで晩秋用のコートに切り替えました。
ウチのアパートのエレベーターの前に
「薄い氷に注意;薄い氷に乗ると危険」という貼り紙が貼り出されましたが、乗ろうにも氷なんかどこにあるんだ?
明日からは零度前後まで下がるという予報なので、濡れた道が凍って滑りやすくなるんだろうな。
ルーマニア革命30周年
でも、あの年、1989年は本当に世界中で大きな事件が立て続けに起こり、数年分、ひょっとすると数十年分の変化が一年で起こってしまったような年。「天安門事件からベルリンの壁崩壊まで五ヶ月」とか「ベルリンの壁が崩れてからルーマニア大統領が銃殺されるまで一ヶ月半(これでポーランド、ハンガリー、東ドイツ、ブルガリア、チェコスロバキアに続き、東欧の主な共産主義国家が無くなった;全部この1989年)」とか時間感覚が狂ってもしょうがないですよね。
以下は年寄りの思い出話。当時の私は、ソ連留学をするかしないかという時期で、ソ連東欧のニュースに敏感になっていました。その時の記憶に頼って感想など(記憶違いの可能性を考慮しつつ読んで下さい)。真面目かつ正確かつ客観的な分析は然るべき先生方にお任せします。
- 確か、チャウシェスク大統領はチェコ事件の時にソ連の戦車が自国を通ることを拒否した、ということで、「ソ連に対して独自路線を取っている」(冷戦時代を知らない方の為に;あの頃のソ連は東側諸国にとって決して逆らってはいけない宗主国みたいな立場だった)と西側ではポジティブに評価されていたのに、いざソ連がペレストロイカで全体主義的社会主義体制を転換し始めると、逆にルーマニアの独裁体制が目立つようになっていたように記憶しています。それと共にチェコ事件に対するルーマニア政府の態度の評価も「結局、チャウシェスクはソ連を含めて他からの干渉が嫌だったから、ソ連の戦車の通行を拒否しただけだ」という解釈になったのではなかったっけ。
- ルーマニアでデモが弾圧され、その数日後のチャウシェスク大統領を称える集会が一転して抗議集会になり(この辺が今から丁度30年前)、そこから大混乱、大統領は逃げ出したものの捕らえられてアッという間に裁判で死刑判決、即銃殺。裁判から死刑執行までがあまりにも短時間です。「チャウシェスク派の治安部隊が大統領の逮捕後も革命側に攻撃していたので、その戦意(抵抗する意味?)を喪失させるために即刻殺した」と説明されていたと思いますが、実際はどうだったんでしょう。
- あの時衝撃だったのは、その銃殺された死体の顔の分かるような結構大きな写真が新聞の一面に載ったこと。今なら「閲覧注意」ものです。
- このルーマニア革命、ソ連が一切介入しなかった(その前の他の東欧諸国の体制変革でも同様;ハンガリー動乱、チェコ事件、プラハの春とはエライ違い)。これでソ連大統領だったゴルバチョフ氏の株がだいぶ上がりましたが、この辺りが「株の最高値」だったんじゃないかな。ゴルバチョフ先生、この後でバルト三国のソ連離脱の動きに対して圧力をかけたし、有能な側近を何人も「なんで今?」というタイミングで解任したし、国内の経済運営もうまくいかなかったし。
- これは後から聞いた話ですが、チャウシェスク家(王朝?)には理系研究者がいて(今調べたら大統領の長男が核物理学者、長女が数学者)、そのせいかルーマニアの理系研究者は待遇が良かったとか(多分、「他の東欧諸国より」程度?)。「その待遇を利用して『外国の研究会へ行く』という理由で国外脱出、亡命する数学者も多かったんだけど、誰某さんは要領が悪いから、外国へ行く理由を正直に『亡命するから』と申請して外国に出られなくなった」ってのはK先生に聞きました。本当なのかなぁ? (^^;;
常微分方程式のカリキュラム
今週は、このコースの問題演習の三枚目(最後)のシートの問題の解答期限。各学生に対して問題の解答をチェックする担当教員& TA が決められていて、私が担当になっている学生さん(約10人)ひっきりなしに「いつ問題を解きに行って良いですか?」とメールが来ます。一人当たり大体30分から1時間は付き合うので、結構大変。
そして、内容的にもかなり苦しい。この大学の数学学部は力学系の専門家が多いせいか、解の幾何学的性質などをよく取り上げています。前回と今回の問題シートにはベクトル場の straightening とか、Poincare map の性質(定義されることとか、Lyapnov/漸近安定性とか)など、私が勉強したことのない話が含まれていて、もう問題演習は解答のチェックというよりも学生さんに教えてもらっている気分。orz
日本の普通の常微分方程式のコースとどれくらい違うのか気になって、web 上の情報で比較してみました。日本の全部の大学を調べるのはもちろん無理だから、東大・京大・東北大がサンプル。学部一、二年生(京大は「一回生、二回生」)で常微分方程式を扱っている科目の内容です。
- ウチ(HSE)の数学学部:こちらにある説明によると内容は
- 常微分方程式と系の基礎的性質(高階方程式から一階の系へ、自励系、次元を上げて非自励系から自励系へ書き直す)
- 解の存在と一意性の定理(解の延長の最大区間の存在、コンパクト集合の境界までの解の延長に関する定理)
- 解のパラメーターや初期条件への連続的依存性
- コーシー作用素と flow の群(コーシー作用素、自励系の flow による写像(日本語ではなんと言うのが普通でしょう?)
- 解のパラメーターへの滑らかな依存性(パラメーターや初期値への滑らかな依存性、ベクトル場の straightening の定理(日本語?))
- 変数分離法(変数分離による解法、いろいろな常微分方程式のクラスを変数分離型に帰着する方法)
- 線形常微分方程式と系の一般的性質(線形常微分方程式の解の、右辺の定義域への拡張、解の線形空間、解の基本行列、ロンスキ行列)
- 定数係数線形常微分方程式、行列の指数関数(定数係数線形常微分方程式系の解、行列の指数関数、右辺に擬多項式を持つ線形方程式の解)
- 特異点付近の微分方程式の局所理論(系の線形化、Hartman–Grobman の定理)
- 微分方程式の解の安定性(微分方程式の特異点の安定性の種々の概念、Lyapnov 関数や Chetaev 関数を使った安定性解析、線形部分による安定性解析)
- 東大の「常微分方程式」;こちらによると、
- 常微分方程式の基礎(常微分方程式を考える動機、特殊解・一般解等の基礎概念)
- 常微分方程式の解法(変数分離型の常微分方程式、1階線型常微分方程式、全微分方程式、べき級数による常微分方程式の解法)
- 定数係数線型常微分方程式系(定数係数線型常微分方程式系の具体的な解法、ジョルダン標準形)
- 自励系の常微分方程式(ベクトル場の積分曲線の基本的性質、平衡点の近傍における解の安定性)
- 解の存在と一意性定理(常微分方程式の解の存在と一意性、逐次近似法、存在と一意性の反例)
- 京大の「微分積分学続論II−微分方程式」:ソースはここ。
- 導入(微分方程式とは何か、微分方程式の具体例)
- 初等解法(変数分離、一階線形微分方程式、定数変化法、全微分形、積分因子、級数解法)
- 線形微分方程式(解の空間、基本解と基本行列、ロンスキー行列、定数変化法、解法、行列の指数関数とその計算、2次元定数係数線形微分方程式の相平面図)
- 常微分方程式の基本定理(ノルム空間、完備性、逐次近似法、解の存在と一意性、初期値に対する連続性、解の延長)
- 東北大学の「解析学C」:このシラバスのテンプレートによると、
- 導入(用語の説明、微分方程式の例)
- 微分方程式の初等解法 (変数分離形、同次形)
- 1階線形微分方程式 (ベルヌーイの微分方程式)
- 完全微分方程式 (積分因子)
- 線形微分方程式の一般論 (重ね合わせの原理、解集合)
- 2階線形微分方程式 (特性方程式による解法、未定係数法、定数変化法)
- 連立線形微分方程式 (同次の場合、非同次の場合)
- べき級数と収束半径
- 変数係数線形微分方程式のべき級数による解法
- ピカールの反復法による解の構成
基本的な所は皆同じだけれど、やっぱり、ウチは幾何的な部分が多いみたいですね。でも、東大は安定性やってるなぁ。僕は習ったんだっけ?全然記憶に無い。(常微分方程式は二年生で担当は上野正先生だったはず。)
やまとなでしこの数学、からなでしこの数学
曰く「学部生時代をニューヨークで過ごしましたが、偶然に『「やまとなでしこ」の数学』というウェブページを見つけまして、とても楽しく拝読しましたが、まさか作者ご本人にお目にかかれるどころか、カフェテリアでロシア語の通訳のお手伝いいただきました」…。
隠すほどのものでもないので、ここでも紹介してしまいます。このページです。もう二十年近く前に「やまとなでしこ」というテレビドラマが人気を博したのを憶えておられる方もいらっしゃると思いますが、そこに数学の話題が小道具としてちりばめられていました。この数学の小ネタが全くデタラメなものではなく、しかも数学に対して一定の敬意が感じられ、数学者としては嬉しいものでした。
私は普段はテレビドラマは見ませんが、このドラマの噂を聞いて「せっかく人気のあるテレビドラマが数学の宣伝してくれているのだから、この機会にそのネタの背景を説明して、ドラマを見た人に数学に興味を持ってもらえないかな」と思い、再放送をビデオテープ(VHS; 時代ですねぇ…)に録画して数学ネタを拾ってこのようなページを作りました。今で言う「アウトリーチ活動」の一種ですかね。
ま、数学ネタは本当に「小道具」。物語の中で重要な役割を果たすわけではなく、総集編ではほぼ全部削られていて、最初に再放送ではなく総集編を見た時は「あれ、全然数学出てこないじゃないか、話が違う」と思いました。また、「数論を専門にしていた人がトポロジーで論文書いてる」とか、「確率論で競馬の予想が出来るんだったら俺だって確率論もっと勉強した!」(数学で万馬券は取れません)とか、「数学用語の使い方が微妙にマズイ」とかいろいろツッコミどころはあります。が、そんなのを晒すのは不粋。むしろ「スタッフがここまで頑張って勉強してくれた」と有難く思いました。そのため、「ちょっと変だな」と思っても web page では無理矢理の解釈を付けた箇所もあります。
このドラマ、かなり長い間再放送されていたそうですが、出演者の一人が不祥事を起こしたため再放送されなくなったとのこと。私のページはドラマを見たことを前提に作ってあるので、元のドラマが見られなくなった以上、存在意義は無くなっていきますが、「別に消すこともなかろう」と思い放置してありました。
そんな古い話を「なんでまだ若いあなたが見つけたんですか?ドラマ見たんですか?今は放送されていないでしょう?」と院生さんに聞いたら、想像だにしない教養のある答えが返ってきました。「学部時代にニューヨークの大学(Columbia University)で日本の古典の授業も取りました。清少納言を読んでいたら『やまとなでしこ』と『からなでしこ』というのが出てきて、「どんな植物?」と検索したら、テレビドラマの題名でもあったと知りました。」う〜ん、古文なんて高校卒業と同時に見向きもしなくなっていた私は尻尾を巻いて降参です。(^-^;;
その彼女が、なんで今モスクワにいるんだ??彼女は笑って「みんなそれ聞くんですよね」と日本語で返してきました。未だに謎。
右側は立って、歩く人は左側
というのはソ連時代の吟遊詩人 ブラート・オクジャワ (Bulat Okudzhava; Булат Окуджава) の「モスクワの地下鉄についての歌」という短い歌の歌詞の一部。1960年頃の歌です。以前、NHKラジオロシア語講座応用編でオクジャワを取り上げていた時に、講師の先生がここに込められた意味を説明していたと思いますが、すみません、忘れました。
引っ越しする家を探している時も感じましたが、ロシアのインフラには未だにソ連の影を見ることが出来ます。インフラそのものがソ連時代の物だったり(アパートの建物等)、ソ連時代のシステムを引き継ぐ時の混乱が未だに尾を引いていたり(「不動産の cleanness」を調べる必要がある等)。そうしたソ連時代の遺産の内で多分一番身近で、良い方に評価されているのは地下鉄でしょう。
数年前に「メトロ八十周年」という記念行事をしていましたから、1930年代に始まり、ソ連時代に既にかなりの部分が作られ、その駅が未だにそのまま使われていたりします。建設時には相当先のことを考えてスケールを大きく作ったのだと思われます。一部はかなり深く、冷戦時代は核シェルターとして使うために作られた、という伝説も。
地下鉄環状線の平均深度は40メートル以上ですから(ロシア語版 Wikipedia)、建物なら十階以上。したがって、改札からホームまでのエスカレーターは時には200段を越えます。(但し市の外縁部に近付くほど浅くなり、私が今住んでいる所の最寄り駅ではせいぜい地下二階程度の深さです。)という訳で、急ぐ人は左側を下に向かってまっしぐらに駆け下り、あるいは歩いて上り、右側は立ち止まる、という習慣が昔から根付いていて、冒頭で挙げたような歌も出来るわけです。30年前にソ連に留学した時は、まだ若かったから猛烈なスピードでエスカレーターを駆け下りるのが楽しみ?でした(「若かったから」は嘘。実は今でも… (^-^;; )。
日本で「片側は止まり、片側は進む」という習慣が出来たのはいつ頃でしたっけ?1990年前後にはまだそんなに定着していなかったような気がします。その後ある時期から急に推奨され始めて、テレビのバラエティ番組で芸能人が「(片側を空けるのは)当たり前のマナーですよねぇ」と言っているのを聞いて、迎合的な口調のせいもあり、違和感を感じました。今の日本ではまた逆に両側とも「立つ」ことが推奨されている、とか聞いていますが、そうなんですか?
私は引っ越しする前は大学の宿舎から数学学部まで40分歩いて通勤していましたが、引っ越ししてからは地下鉄&モスクワ中央環状線(どこが「中央」だ!というツッコミはお約束)での50分程の通勤になりました。電車通勤をし始めて、「エスカレーターで立っているのと歩くのはどっちが良いんだろう」とちょっと気になり始めました。
「エスカレーターの構造は、乗っている人が歩くことを想定していない」ということをどこかで読んだ記憶も有りますが、日本はともかくモスクワでは「想定しとけよ!」ということになりますから、とりあえずそこは問題にしない。危険度とか迷惑度とか急ぐ人の便利度とかいろいろありますが、一番単純な「立ち止まったまま乗っているのと、歩くのでは、人の流量はどちらが多いのか」を考えてみます。
もちろんいろいろ条件によるはずで、そういう詳しい解析は専門家が研究しているでしょうから、そちらに任せる。私でも分かる程度に単純化して、見積もってみます。多分、次の三つの変数が重要でしょう:
- ρ=エスカレーターの単位長さ当たりに乗っている人数(以下「密度」;単位は例えば[人/m])。
- V=エスカレーターの移動速度(単位は例えば [m/sec])。
- v=乗っている人がエスカレーターに対して移動する速度(これも [m/sec] を使っときます)。
立ち止まっている場合の密度は ρ静 として、歩いたり走ったりしている場合の密度を ρ動 としておく。まあ普通は ρ静>ρ動 ですよね。混んでいる時にはゆっくり歩いている側と止まっている側の密度がほぼ同じになることはありますが。
立ち止まっている側では単位時間(以下、1秒当りとする)にエスカレーターから降りる人の数は ρ静 × V (単位 [人/sec]=[人/m]×[m/sec])。一方、歩く/走っている側では ρ動 × (V+v) になるはず。(V も v も光速に比べて十分に小さいので、相対性理論の効果は無視できて速度の合成は単純な足し算。(^^) )
えーと、これどっちが大きくなる?引き算するとよく分からないので、割り算してみます:
僕は駆け下りるの好きなんだけどなぁ…。