ヨーロッパ中世の社会史 増田四郎 講談社学術文庫

 1985年に岩波書店から出された本が2021年になって講談社学術文庫から再度発行したもの。著者は1997年になくなっているので書き足しなどはあるはずもない。参考文献も岩波版が発行された年より古いものである。
 それでも出版する価値があると講談社に思われたことが関心を引いた。

 著者は西ヨーロッパが世界の覇権を一時握った理由が気になって、日本と比較する目的などを持って、あちらの事情を研究している。
 ゲルマン人の大移動から地域ごとに生まれた違い、西ヨーロッパと東ヨーロッパの違いなど分析されているが、北ヨーロッパと南ヨーロッパの違いの方が印象に残ったかもしれない。北と南と言っても西ヨーロッパ内部でのことに近い。
 この2つの間に違いがあったことで交易が盛んに行われ発展に繋がったわけだが、それが東西の関係では行けなかった理由はなんだろう。違いすぎず似すぎない適度な距離感が必要なのかもしれない。
 もっとも東西交易が産んだ都市についてもハンザ同盟の都市とイタリアの都市が話には出てきた。まず東西交易で発展した南北の都市が、今度は西ヨーロッパの内側で南北交易するときに完成するものがあった?
 南北での商習慣の違いなども説明されていたが、そこも化学反応を起こしたのだろうな。

 辺境からこそ変革が起こるという著者の「辺境変革論」は、例に挙げられなかったが中国の燕雲十六州にも当てはまるかな。辺境ゆえに軍事力が集まっていることも、かなり効いている気がする。
 だから今の日本では東京以外から変革が始まるのは難しいかもしれない。もしかしたら、北海道に軍事力を集中して開発に税金を投じ続けていたら何か起こったのだろうか。

 地名の語源に関する知識がたくさん出てきて著者の博学ぶりを味わえた。日本の地名と比較して考えれば現地の人には何となくで感じられることなんだろうなぁ。


 

カテゴリ:西洋史 | 07:53 | comments(0) | -

ひとりで探せる川原や海辺のきれいな石の図鑑3海辺篇 柴山元彦 創元社

 まさかの3巻。こんなに長く続くとは……海岸では石や砂を採集できない場合があるので確認し、できない場所では現場での撮影に留めることと注意書きがある。鉱山跡での採集は遠くになりにけり?
 まぁ、「ちょっとくらい…」の積み重ねをたくさんの人がやると大きな影響になってしまうし、エスカレーションすることも考えられるからな。特に人口密集地近くの海岸では影響が怖い。

 赤い碧玉と褐色のチャートを見わける自信がいまいち持てない。緑色の碧玉と緑色凝灰岩も怪しい。プレパラートにして観察すればハッキリ違うんだろうけど、そこまで作業を一貫させて場数を踏むのは難しい。
 瑪瑙の中に綺麗なものがあった。ひすいが採れればベストだが、もはや採取は難しくなっているようで採れる海岸でも他のいろいろな石を勧める感じになっている。
 琥珀もかなり運が求められそうだ。

 紹介される場所には偏りがあって、なぜか福井県から3箇所も出てきた。逆に言うと採れる場所でも紹介されていない海岸はたくさんあるはず(自分にもこれくらいの石なら…と思いつく場所はある)。
 開拓していくのも楽しそうである。

 沖縄の海岸では小笠原諸島の福徳岡ノ場から流れ着いた軽石という飛び道具も見つけていた。

関連書評
ひとりで探せる川原や海辺のきれいな石の図鑑
ひとりで探せる川原や海辺のきれいな石の図鑑2

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カテゴリ:地学 | 11:28 | comments(0) | -

英雄の解剖図鑑 世界各地で語り継がれるヒーローたちの物語 祝田秀全

 いろいろな世界中の英雄を2ページから3分の1ページで紹介する英雄図鑑的な本。たまに知らない英雄の出番があるのと、何らかのテーマでまとめられているのが見どころ。複数のテーマに合致する英雄もたくさんいるし、ちょっと疑問に思ってしまうこともあるけれど。玉砕の英雄で楠木正成が出てきても良さそうだと考えていたら忠臣の方に出てきた。

 そして、神話から出演している英雄も多い。ギリシア神話は特に人気である。ゼウスの子供がペルセウスで、ペルセウスの子孫とゼウスの間に生まれた子供がヘラクレスって、あいかわらずゼウスはやってんなぁ……ウィキペディアのペルセウスのページで系図を確認したら曾孫にあたるアルクメーネーとの間にヘラクレスを作っていた。おじめい婚の方が強いか?

 アラビアのロレンスの拷問から被虐趣味に目覚めて金を払って拷問してもらうまでになったという記述もそっとしておいてあげて欲しくなった。ジル・ド・レについては、そこまで思わないのは目覚めた経緯の違いか、時代の近さのせいか。
 時代的に一番近いのは第二次世界大戦のスナイパーと見せかけて、インドの義賊プーラン・デーヴィーが2001年に亡くなっている21世紀まで生きている英雄だった。
 出した著書のタイトルが女盗賊プーランであることで女性と分かった。説明文と顔イラストでは確信が持てなかった。特に断られない英雄は男性という先入観もあったかもしれない。最初から女性と書いたうえで取り上げられる女性の英雄はたくさん出てくる。
 ジャンヌ・ダルクはもちろん巴御前や女帝エカチェリーナなども。

 航海者の英雄では出てくる鄭和以外の西洋の英雄がろくでなしばかりにみえてしまってダメだった。バルトロメウ・ディアスはそうでもないのかな。ウィキペディア日本語版には悪行は載っていない。


 

カテゴリ:雑学 | 02:57 | comments(0) | -

花と葉で見わける野草 監修・近田文弘 写真・亀田龍吉 文・有沢重雄

 「330種掲載 似ている野草の違いがわかる!」

 茎・葉・花(ない場合もあるが)が写った写真を白バックで掲載し、特徴を説明する野草の図鑑。野外にある状況の写真はサムネイルで示されている。メインの写真に背景がないおかげでとても見やすい。
 大抵は原産地と分布について記述があるのだが、説明文の中で書いているのでそのために情報量を費やしている。学名とある場合の漢字表記はカタカナで書かれた名前の周りに配置されている。

 コラムがけっこう面白くて刺激になった。江戸時代の俗説にスベリヒユから水銀が採れるというのがあって、6kgの葉から150gの水銀が得られると、数字まで具体的だ。食べられる草なのだから本当に入っていたら死者が出まくっているよ……。

 春の七草のホトケノザはタビラコのことを示すと説明がある一方、別の野草キュウリグサがタビラコを異名にもつことも説明されていて、日本社会のタビラコへの扱いが混沌としている。
 食用になる情報の記述がけっこうあった。ドクダミのサラダが海外で食べられているのは別種なのかもしれないと謎も増やしている。

 帰化植物の多さには参ってしまう。多くのアメリカ産雑草をもたらした敗戦がなければ日本の風景はそれなりに変わっていたんだろうな。

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カテゴリ:生物 | 15:47 | comments(0) | -

飼いたい種類が見つかる爬虫類・両生類図鑑 人気種から希少種まで厳選120種

 生き物系YouTuberRAFちゃんねる有馬・監修

 初手ヒョウモントカゲモドキ!いわいるレオパとして爬虫類を飼ったことのない自分でも知っている動物が出てきた。飼ったことはないが秘密のレプタイルズを読んだことはある!レオパルドゲッコーを略してレオパじゃ、豹の意味だけでゲッコー要素が残らないじゃないかと突っ込みたくなった。

 入手のしやすさと飼いやすさを5段階評価で示していて、メジャーな品種がメジャーである理由が分かりやすい。しかも、モルフが豊富で品種内でのレアリティを追求することもできる。ヒョウモントカゲモドキやボールパイソンはモルフの紹介で何ページも使っていて圧巻である。
 あまり無理してレアで飼いにくい動物を入手しようとしなくてもな……と思ってしまうのだが、それぞれの事情があるのだろう。経済的に行き詰まり自然破壊の進むマダガスカル産のカメレオンなどは嫌な背景をもっている予感しかしないけどなぁ。
 しかし、カーペットカメレオンの見事な模様に衝撃を受けたのも事実。

 国内種では大東諸島では沖縄から持ち込まれた移入種だから捕獲してもOKという話が二回ほど出てきて記憶に残った。取り尽くしてしまっても、それはそれで移入種の駆除完了としか思われないのか……?
 育て方については特集的に説明されている動物以外は重要ポイント以外は情報不足な感じがあるのでペットショップなどで追加の情報収集が必要だろう。


 

カテゴリ:ハウツー | 07:20 | comments(0) | -

カラー図説 生命の大進化40億年史 新生代編 土屋健

 群馬県立自然史博物館・監修
 「哺乳類の時代――多様化、氷河の時代、そして人類誕生」

 ダイアウルフがウルフじゃないだってぇ!!!?哺乳類が躍進する新生代にもめずらしく新鮮な動物たちがたくさん出てくる。そういえば植物については完全に脇役だった。イネ科への適応は重要な要素なのだが。
 テリウムが獣の意味であり、◯◯テリウムの名前を持つ古生物が並べて紹介されている。バシロサウルスもバシロテリウムだったら良かったのにな。恐竜にテリウムを付けた例はあるのかなぁ。

 ヒゲクジラの進化では歯のあるヒゲクジラ、歯もヒゲもないヒゲクジラが出てくる。首の短いクビナガリュウがいるのと同じような問題だ。ヒゲクジラの場合は現生種には全てヒゲがあることから判断して命名したのだろうから、少し事情は異なるかな。
 ステラーカイギュウは近年に絶滅したこともあって、人類への警鐘を鳴らしたい場合の締めに使われがちかもしれない。パレオパラドキシアの先祖に当たるアショロアの説明で他の水棲動物のように骨に空隙が多くなっていないから水棲適応していない説が出ていたが、カイギュウ類は骨を重くすることで省エネで潜水できるように進化したとの説を他の本で読んだところだ。
 論文で詳細な議論を読まないと判断できないけれど、そのあたりが気になった。空隙を多くする理由から突き止められていないなら、別方向の適応をしている可能性はあるのではないか。

 復元画は柳澤秀紀氏の描いたものが多くて、人類関係では月本佳代美氏のイラストも目についた。あとはアフロのストックもある。アンドリューサルクスがあまりカッコよくないのは正確な復元であるほど残念だ。頭骨以外も見つかることで姿が変わっていくかもしれない。

土屋健(オフィスジオパレント)著作感想記事一覧


 

カテゴリ:古生物学 | 19:27 | comments(0) | -

新特産シリーズギョウジャニンニク 井芹靖彦 農文協

「軟白栽培の実際、栄養価値と売り方」

 種まきから収穫開始まで数年の時間が掛かるギョウジャニンニク。北海道の山菜(実際は奈良県の山地以北に分布)として知られるギョウジャニンニクを栽培することで安定した収入をえる方法を求めている道半ばの本(2001年発行)。最後に「俺たちの研究はこれからだ」で閉められた……先駆者のWさんが飛び抜けてすごすぎるような。

 筆者としては酪農をつづけられなくなった北海道の農家が、代わりの収入源としてギョウジャニンニクの栽培をすることで離農を避けられたらとの思いがあるとのことだが、これもまた挑戦になりそうな雰囲気がした。
 現在では地球温暖化もある。出てきた図にある北海道の夏の平均気温の低さには驚く。

 一番気になるのは獣害だったのだが特に触れられていなかった。ヒグマやエゾシカが相手ならイノシシにやられるよりは壊滅的なダメージを避けられるのかなぁ。もちろん、やられないのが一番である。
 芽が出るまでの保護や軟白栽培に使うためにモミガラが入手できると非常に都合がいいので、Wさんの例もそうだったあったように稲作をやっていると有利に見えた。時間をかけて育てたギョウジャニンニクも軟白栽培と収穫の技術が足りなければ理想的な価格で売ることはできない。悪い例の写真で示されていたギョウジャニンニクの生産者も自覚があれば悔しいだろうな……。

農文協新特産シリーズ感想記事一覧


 

カテゴリ:ハウツー | 06:17 | comments(0) | -

マヌルネコ15の秘密 今泉忠明・監修 南福俊輔・編

 モンゴルなどアジア中央部に生息しているマヌルネコを特集した本。日本国内の飼育個体の写真をメインに据えて、その生態や魅力に迫っている。
 分布範囲はモンゴルからイランまでかなりの広さに及んでいたが、生息頭数は推定58000頭とのことで密度はかなり低いようだ。絶滅危惧の脅威度は下方修正された様子ながら開発によって生息範囲が細分化されていきそうで長期的な動向は予断を許さないものと感じた。

 動物園で行われている繁殖活動も大事なのだが、日本のマヌルネコはほとんどが上野公園で生まれたタビーの子孫。パートナーを国外から呼んでもその子供もタビーの血縁には違いなく、近親交配の防止で苦労していそうに感じた。
 2匹ほどアメリカに行ったマヌルネコもいるようだ。

 マヌルネコが見られる動物園は、旭山動物園がある以外は関東から関西の間に集中していて、日本のどこでも見やすいとは言い難い。ちなみに入園料は1000円以下と2000円オーバーに二分化している。
 展示中に給餌のある旭山動物園はやはり生態展示に力を入れているなぁ。上野公園動物園の飼育員インタビューがなかったのは残念。

 ネコ科の進化を学ぶこともでき、マヌルネコの系統が約600万年前に他の系統から分化した「最古のネコ」であることを示していた。図をみるとサーバルとマーブルドキャットも同じくらいで分化しているが。
 現在のネコ科の共通祖先が1080万年前まで同じなのは意外と新しいと感じた。マウンテンライオンと呼ばれるピューマはライオンの系統とは離れている(チーターとは同じ系統)。生態的地位による収斂進化をしているのかな。

今泉忠明著作感想記事一覧

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表紙の上にメガネを置いたらマヌルネコがメガネを掛けた。ちょうど人間に近い顔のサイズになるようにしているな!?
カテゴリ:生物 | 21:00 | comments(0) | -

まんがでわかる畑の虫 おもしろ生態と防ぎ方 木村裕・大中洋子 農文協

 親しみやすいイラストで畑の虫について学べる本。子供でも楽しめそうだ。
 しかし、ここまでコミカルにされても憎たらしさをキープしている虫がたくさんいる(見出しの絵はリアルなスケッチなのもある。全部まんがにされたら鑑定できないが)。益虫も描かれているのが癒やし。

 コナジラミの蛹が生理的に怖い。どこか真実の口っぽい。幼虫の時点でも場所を決めると脱皮後に足がなくなって固定された地点で汁を吸いつづける生態も割り切りが凄かった。オンシツコナジラミは冬の寒さに強くて、タバココナジラミは弱いのは名前のイメージの逆になっている。

 カブラヤガの知能犯だと切った茎を地面にさして発覚を遅らせるという生態に驚いた。植物相手にそんな偽装をしても意味がないので、明らかに農業をする人間相手に進化した行動だよなぁ。
 農薬に耐性をもつのは分かるけど、人類が農業を始めて以降の短い期間で行動まで変化が生じるのは凄いことだ。

 目に見えない小さなサイズのダニに殺虫剤を使うと天敵だけを殺してしまって逆効果になる――殺ダニ剤ならちゃんと効く――のは何かの訓話っぽい。
 殺虫剤を使わない対策をいくつか紹介した後に、殺虫剤を使う対策もしっかり書いてくれている。どちらにしろ家庭菜園での害虫対策を念頭に置いた記述だった。カラスノエンドウをテントウムシの繁殖地として温存するために除草しないのはなかなか思い切っている?カラスノエンドウは野草として食べられるから、利用する人にはちょうどいいかも。


 

カテゴリ:ハウツー | 11:49 | comments(0) | -

発見!ほとけさまのかたち わくわくする仏像の見方 奈良国立博物館

 仏像は4種類。如来、菩薩、明王、天に分けられるとの説明から始まって、それぞれの特徴を教えてくれる。子供向けの企画展を噛み砕いて本にしたものなので、とてもわかりやすくなっている。
 温かみのあるイラストはデフォルメされながらも大切な特徴を押さえていて感心する。「ざんまいず」なる奈良国立博物館のマスコットキャラクターたちも解説を盛り上げる。

 阿弥陀如来像の裸形があって、3枚の布で服を着せる方法を具体的に見せてくれる。そしてヘソと股間で人間とは異なった特徴をもつことを誇示している。子供に刺激的であるように、仏像に接した民衆にも刺激的だっただろうな。
 三十二相と呼ばれる特徴も一つ一つ列挙して描かれていた。額の白毫が実は髪の毛なのは、犀の角が髪の毛が元になっていることを知っているかのようで面白い。偶然かな。
 悟りを開いたことで後天的に三十二相が表れたというが、悟りを目指す人はみんなこういう風になりたいと思ったのかな。そこに囚われるようでは悟りなど開けるはずもない?

 千手観音が持っている道具についても三十二相と同じように一つ一つの説明があった。「どんな願いも叶う」玉があれば他は全部いらないのでは?
 ありがたい一方で、願う側の欲の深さも感じた……。ご利益を期待して造るものだろうからなぁ。


 

カテゴリ:雑学 | 03:40 | comments(0) | -
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