70年代ジャパニーズ・アンダーグラウンドの秘宝 “Eternal Womb Delirum – #1” レビュー

以下のテキストは、2019年に某媒体向けに執筆するも諸事情で未発表となっていた拙稿である。

ここに供養するとともに、向後の資料としてアップしておく。

 

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Eternal Womb Delirum “Eternal Womb Delirum  #1”レビュー

 

現アイドルジャパンレコード代表で制服向上委員会のプロデューサーでもあった髙橋廣行が、灰野敬二らと組んだ伝説的バンド、ロスト・アラーフのドラマーだったことは(一部マニアには)よく知られているだろう。裸のラリーズ等と並んで、70年代ジャパニーズ・アンダーグラウンド・シーンの中枢で活動してきた彼の、「ロスト・アラーフ」以後における秘蔵音源がこの度発掘リリースされた。

「エターナル・ウーム・デリラム」という謎めいた名を持つこのユニット、当時の活動に接することのできた幸運な聴衆や、よほどコアなファン以外にはその存在を知られていなかったというのが実態だろう。かくいう私も、かつてロスト・アラーフや裸のラリーズ周辺についての資料を渉猟する中で髙橋氏自身の同ユニットについて言及したツイッター投稿にあたり、おぼろげにその存在について認識していたくらいだった(その時からこの不可思議なユニット名が頭に残っていたのだ)。だから、その演奏が当時録音に残されているなどとは思っていなかったし、ましてや高橋氏本人の公認のもと、こうして正式発売されるなど、夢にも思っていなかったのだった。

「エターナル・ウーム・デリラム」とは、「永久に子宮は発狂状態」あるいは「永遠に湧き出る子宮からのリズム」という意である。高橋氏の談話をまとめたライナーやCD帯掲載のテキストによれば、特定の音階や具体音が人体にどのような影響を及ぼすかといった興味を出発点に、「知ることのできない自己の未来像を音の魔術で描き出そう」としたということで、非常にスピリチュアルな内容を想起させもする。が、その実音楽内容としては、先行するロスト・アラーフなどと同様、非常にストリクトな即興演奏を主体としたものであり、コンセプト面から想像させるようなニュー・エイジ的様相とはかなり隔たったものである。本CDの目玉というべき74年六本木俳優座劇場での演奏記録①「母体内に回帰されたその目覚めと幻想」は、その出会いにより高橋がこうした表現に開眼するきっかけとなった現代音楽作家・有田数朗氏が電子音を、そして氏の後輩であった(当時)東京芸術大学の学生・坂本龍一がピアノを担当している。そこへ高橋のパーカッションやOZバンドの毛皮のJUNらのギターが加わるという内容なのだが、アシッドなジャム・セッションというより、極めて透徹した覚醒的な演奏が36分間繰り広げられている(実際は2時間近く演奏されたらしい)。偶発的に立ち現れるカオティックな和音や複層的リズムは、この当時の前衛の薫りを濃く漂わせながらも、実に理知的な統御が働いていることを思わせる(特に坂本)。演奏中、観客の一人をステージに上げ、心電図や脳波を撮って見せるというような趣向もあったというから、まさに実践的かつ前衛的な音楽実験でもあった。

続く②「やっぱり」と③「雲の柱」は、①とは全く異なったアプローチで行われた演奏。75年の11月と12月にそれぞれ渋谷アダンスタジオと新宿開拓地で敢行されたセッションの記録で、高橋がロスト・アラーフのツアー中に京都で出会ったバンド<だててんりゅう>のヒロシをボーカル/ベースに迎えている。①と比べるとまだ「楽曲」と呼ぶべき輪郭を保っている曲で、いわばロック的な表現が聞かれる。②で暴れまわるスリージーで激烈なギターはノンクレジットなのだが、もしかするとこれは水谷孝氏によるものなのではないか…?と推測。さらに③ではヒロシがボーカルとベースに加えキーボードを演奏しており、本CD中もっともオーセンティックな(ヴェルヴェット・アンダーグラウンドにも似た)ロック的演奏を聞かせる。しかしながら、②も含めて突如全員でフリー・インプロヴィゼーションに突入する構成が実にスリリングで、当時において、ロックとアヴァンギャルドに間にある垣根が非常に低いものであった(というかおそらく相互還流的ものであった)ことが鮮やかに伺われるのだった。

www.discogs.com

アナログレコードにおける「ヒューマンなニュアンス」とCDの関係

アナログレコードを「ヒューマンなニュアンス」あるいは「ぬくもりのある音」といった風に称揚する言説は、CDが音楽生成記録メディアの主役についた90年代以降、繰り返し反復されてきた。

昨今の「アナログブーム」において、こうした言説は更に一般化したようにも見られる。

この文脈でCD音質が批判される際の主要な論旨は、CDの周波数/ビット数(44.1kHz/16bit)規格におけるオリジナル音源の再現性の問題に由来している。16bitとは、2の16乗段階で音量差を制御していることを指し、44.1kHzとは、そのくらいの高い音まで記録再生可能、ということを指す。これらは人間の認識能力のリミットを超えて設定された数値であり、理論上はCD音源と自然音を聞き分けることは困難だとされてきた。しかし、当然ながら生楽器の音や自然音は(=アナログ音源)はそうした制限(デジタルでの再現性)が捨象する領域を有しており、それら可聴領域以外の要素が、実際の聴取体験に影響を及ぼしているのではないかという見方がある(これを、「ハイパーソニック・エフェクト」という)。原理的にいえば、アナログ音声の波形をCD規格に変換した際、本来と比べて細密性の荒いものになるのは、その差を聴き取れるかどうかは別として事実でもあり(手書きの絵画を撮影したデジタルカメラの画像を極端に拡大するとギザつきが目立つ状態を想像せよ)、原音からの忠実性を重んじる視点から、あくまでアナログ盤に「ヒューマンフィール」を求める傾向は根強い。一方で、「再現性」を別の観点から捉えれば、アナログ盤には別種の問題(ノイズ)がついてまわるのも事実だ。カッティングの作業やスタンパーの状態、プレスの環境、原材料の材質、そして、当然ながら再生機器や盤質状態等にも大きく左右される。これらを勘案するなら、一般にいう「ヒューマンなニュアンス」とは、ストリクトな意味での再現性というよりは、いわゆる「プチノイズ」や、プレイヤーや針、アンプ等の再生環境からくる特定音域の減殺等、アナログ再生につきももの「クセ」を指す嗜好として理解すべきかもしれない。昨今、元はCD音源であったマスター(44.1kHz/16bit)を元にカッティングを行い、アナログフォーマットで発売する新譜/旧譜の例も目立つが、それらは、厳密な音質面からみれば、いわば「アナログ特有のノイズが加味されたCD」でしかない。多くの場合、それらが軒並み好感を持って購買されている事実に鑑みて、「ヒューマンフィール」というのは、厳密に音質に関わる概念というより、アナログ盤特有の重量感や、ジャケットまわりのアートワークを物質として所有することからくるフェティッシュな「フィジカル的満足」と結びついた複合的な概念であるとも言えそうだ。
他方、CDそれ自体も音質的な進歩を経てきたことも指摘しておこう。初期のCDは、マスタリング技術の貧弱さもあり、主に音量レベル的に明らかに迫力不足のものも多かった。こうした点から、当時「ヒューマンフィールの不足」と断ぜられた面もあっただろう。なお、現在では、いわゆる「ハイレゾ」技術の発展とともに、CD音質以上のスペックを備えたデジタルファイル方式も浸透しており、ハイエンドオーディオのユーザーを中心に支持されている。

2021年 柴崎祐二 仕事まとめ

2021年、あまりにもあっという間で、なんならその前の2020年との境目もよくわからないぼんやりしたような感じでもあり、あとから振り返ってみたとき「なにをやってたっけ????」となるのを防ぐため(?)、記録として一年間の仕事をまとめてみました(抜けあるかもですが……)

書きたいこと、やりたいこと、聞きたい音楽、観たい映画、読みたい本は相変わらずどんどん山積していくばかりで、それこそがなによりもありがたいことだよな〜、と痛感する一年でもありました。ライターとしてもこの仕事の要諦が徐々に身についてきた感もありつつ、「自分が書けること/書くべきこととは何なのか」について考え続ける日々でもありました。

お読みいいただいた方、お買い上げいただいた方、なんとなくでも気にかけていただいた方々に御礼申し上げます。そしてもちろん、日々素晴らしい音楽を送り届けてくれるアーティストのみなさんとその作品、オモシロ企画を常に提案してくれる編集者の方へも深くお礼を…。

 

単著やweb記事にはリンクも付けてみました。仕事関係の方々には、「こういうのもやるんだ」的に見ていただけますと幸いです。どしどしご相談ください。

今年は、密かな目標として映画評をやってみたいと考えているのと、引き続き本を書いていきたいなと思っております(その前に『シティポップとは何か』を早く刊行しなきゃ……)。本年も宜しくお願い致します。

 

【書籍】
・8/19 単著『ミュージック・ゴーズ・オン 最新音楽生活考』刊行

musicmagazine.jp


【対談/鼎談】
・2/20 『ミュージック・マガジン』誌3月号「特集[決定版]2010年代の邦楽アルバム・ベスト100」「表現はいつも現場で起こっていて、批評はそれを位置づけて残していく」対談 with 矢野利裕

・7/9 CINRA『シティポップの世界的ブームの背景 かれらの日本という国への目線』with 松永良平、芦澤紀子

kompass.cinra.net

・7/30 CINRA『2021年、シティポップの海外受容の実態 Spotifyのデータで見る』with 松永良平、芦澤紀子

kompass.cinra.net

・9/24 TURN「ルー・リード〜前衛と偏屈と慈愛の倒錯」対談 with 岡村詩野

turntokyo.com


【インタビュー】
・1/15 『レコード・コレクターズ』誌2月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.29 田中ヤコブ インタビュー

・1/30 TOKION 「今だからこそ鳴らしえた『良いメロディー』――鬼才・網守将平が開いた新境地を紐解く」網守周平インタビュー

tokion.jp

・2/10 TOKION 「『肉体的な感覚だけが確かなものとしてあり続ける』 本日休演が奏でる、甘く妖しい『MOOD』の実体』本日休演・岩出拓十郎インタビュー

tokion.jp

・2/15 『レコード・コレクターズ』誌3月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.30 TAWINGS コニー・プランクトン インタビュー

・3/15『レコード・コレクターズ』誌3月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.31 井手健介 インタビュー

・3/15 『レコード・コレクターズ』誌3月号 ワールドスタンダード 鈴木惣一朗 インタビュー

・3/24 fnmnl「【インタビュー】ミツメ 『Ⅵ』 |バンドの新しい可能性を開く」

fnmnl.tv

・4/15 『レコード・コレクターズ』誌5月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.32 角銅真実 インタビュー

・5/13 Mikiki「CRYSTAL『Reflection Overdrive』サンダーキャットやジャスティスらが愛する東京発シンセ・サウンドはいかに生まれたか?」

mikiki.tokyo.jp

・5/15 『レコード・コレクターズ』誌6月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.33 西村直晃 インタビュー

・6/15 『レコード・コレクターズ』誌7月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.34 高橋アフィ(TAM TAM)インタビュー

・6/25 Mikiki『TOTOを80年代ブームのいま再評価すべき理由とは? Light Mellow金澤寿和が語る』インタビュー

mikiki.tokyo.jp

・6/28 AVE | CORNER PRINTING The Trees インタビュー

ave-cornerprinting.com

・7/15 『レコード・コレクターズ』誌2021年7月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.35 畳野彩加(Homecomings)インタビュー

・8/15 『レコード・コレクターズ』誌2021年9月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.36 BUSHMIMD インタビュー

・8/20 『ミュージック・マガジン』誌9月号 And Summer Club インタビュー

・9/15 『レコード・コレクターズ』誌2021年10月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.37 川勝徳重インタビュー

・9/15『レコード・コレクターズ』誌2021年10月号 「林哲司インタヴュー〜世界的に再評価される音楽家が自らの創作、ルーツ、シティ・ポップについて語る」

・9/20 『ミュージック・マガジン』誌10月号 折坂悠太インタビュー「ロング・インタヴュー〜新作『心理』を完成させて今考えていること」

・10/15 『レコード・コレクターズ』誌11月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.38 hikaru yamada インタビュー

・11/13 Real Sound「D.A.N. 櫻木大悟×坂本慎太郎、歌詞をテーマに語り合う特別対談 身体との共鳴で新たな意味を生み出す音楽の機能」インタビュー

realsound.jp

・11/15 『レコード・コレクターズ』誌12月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.39 浮(米山ミサ)インタビュー

・11/20 『ミュージック・マガジン』誌12月号 RISA COOPERインタビュー

・12/15『レコード・コレクターズ』誌2022年1月号 連載「MUSIC GOES ON 最新音楽生活考」Vol.40 イサヤー・ウッダ インタビュー

・12/20 『ミュージック・マガジン』2022年誌1月号 スカート インタビュー


【レビュー/論考】
・1/15 『レコード・コレクターズ』誌2月号「このドラムを聴け特集」選曲、レビュー

・1/15 『レコード・コレクターズ』誌2月号 v.a.『ガデュリン全曲集』、ワールド・スタンダード『色彩音楽』レビュー

・1/20 『ミュージック・マガジン』誌2月号「鈴木慶一50周年記念特集」 2000年代ヒストリー原稿、各作品レビュー

・1/20 『ミュージック・マガジン』誌2月号 Flanafi『Do You Have My Money?』、Salami Rose Joe Louis『Chapters of Zdenka 』デビュー

・1/15 TURN 連載「未来は懐かしい」Vol.16ケヴィン・ムーア『RAINMAKER』レビュー

turntokyo.com

・2/2 ele-king Kenjyo chiba and YUASA『Devotions~concoction of sutras and soul』レビュー

www.ele-king.net

・2/15 『レコード・コレクターズ』3月号「特集 アルファレコード」ディスクガイド選盤、テクノ/ニュー・ウェイブフュージョンアンビエント/その他ジャンル概論

・2/15 TURN 連載「未来は懐かしい」Vol.17 João de Bruço / R.H. Jackson『Caracol』レビュー

turntokyo.com

・2/20 『ミュージック・マガジン』誌3月号「特集[決定版]2010年代の邦楽アルバム・ベスト100」選盤、レビュー参加

・2/25『ブルース&ソウル・レコーズ』誌第158号「現代的リスニング・センスが光るサヴォイ・ゴスペル選」

・3/15 ele-king V.A.『銀河伝承』レビュー

www.ele-king.net

・3/15 TURN 連載「未来は懐かしい」Vol.18 His Name Is Alive『A Silver Thread Home Recordings 1979-1990』レビュー

turntokyo.com

・3/20 4/20『ミュージック・マガジン』誌4月号 ガル・コスタ『Nenhuma Dor』、鈴木晶久『I want you』レビュー

・4/20『ミュージック・マガジン』誌5月号 「特集 デイヴィッド・バーン『アメリカン・ユートピア』〜トーキング・ヘッズトーキング・ヘッズ〜デイヴィッド・バーン・オリジナル・アルバム・ガイド レビュー参加

・4/20『ミュージック・マガジン』誌5月号 ビル・チャンプリン『Livin’ For Love』、平安隆&ボブ・ブロッズマン『毛遊びマジック〜ライヴ・イン・トウキョウ 1999〜』レビュー

・4/25 『ブルース&ソウル・レコーズ』誌第159号 「『アメイジング・グレイスアレサ・フランクリン』クロス・リヴュー 『たしかにそこにあった』」

・4/30 Mikiki「テレックスのテクノ革命よ、もう一度。細野晴臣が敬愛するシンセ・ポップ・トリオに『This Is Telex』で再入門」

mikiki.tokyo.jp

・5/17 TURN 連載「未来は懐かしい」Vol.19 V.A.『HEISEI NO OTO – JAPANESE LEFT-FIELD POP FROM THE CD AGE (1989-1996) 』レビュー

turntokyo.com

・5/20 『ミュージック・マガジン』誌6月号 John Hiatt with The Jerry Douglas Band『Leftover Feelings』、V.A.『ナラ・レオンが愛したブラジルの古謡(うた)』レビュー

・6/15 『レコード・コレクターズ』誌7月号 「特集 クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング『デジャ・ヴ』」「ローレルキャニオン関連人脈アルバム選」レビュー

・6/15 『レコード・コレクターズ』誌7月号 V.A.『ファンシイダンス~デラックス・エディション』レビュー

・6/17 TURN 連載「未来は懐かしい」Vol.20 V.A.『Love African Soul: T-Groove Presents African Modern Disco 1975-1980』レビュー

turntokyo.com

・6/20『ミュージック・マガジン』誌7月号「昭和歌謡ベスト・ソングス100[1970年代編]」選曲、レビュー

・6/20『『ミュージック・マガジン』誌7月号 V.A.『João Gilberto Eterno』、Van Dyke Parks & Veronica Valerio『Van Dyke Parks & Veronica Valerio: Only In America』レビュー

・6/24 TURN「『音楽はあくまで人間が奏でるもの』に疑問を投げかけ、美を探究するアンビエント Unknown Me『BISHINTAI』レビュー」

turntokyo.com

・6/25 『ブルース&ソウル・レコーズ』誌第160号 アラン・トゥーサン『Toussaint』レビュー

・7/16 TURN 連載「未来は懐かしい」Vol.21 ヘンリー川原『電脳的反抗と絶頂: エッセンシャル・ヘンリー川原』レビュー

turntokyo.com

・7/20『ミュージック・マガジン』誌8月号「特集 昭和歌謡ベスト・ソングス80年代編」選曲、レビュー

・7/20『ミュージック・マガジン』誌8月号 V.A.『The Harry Smith Connection: A Live Tribute to the Anthology of American Folk Music』、Lump『Animal』レビュー

・8/15 TURN 連載「未来は懐かしい」Vol.22 Tony Kosinec『Consider The Heart』レビュー

turntokyo.com

・8/20 『ミュージック・マガジン』誌9月号「ニュー・スタンダード2020s 日本の夏」レビュー参加

・8/20『ミュージック・マガジン』誌9月号 イサヤー・ウッダ「DAWN」、OKUTE『OKUTE』レビュー

・8/25 『ブルース&ソウル・レコーズ』誌第161号 V.A.『Modernity』レビュー

・9/15 『レコード・コレクターズ』誌10月号 YAMAMOTO『Five Days City』レビュー

・9/15 TURN 連載「未来は懐かしい」Vol.23 V.A.『Country Funk Vol. 3 1975-1982』レビュー

turntokyo.com

・9/20『ミュージック・マガジン』誌10月号 スフィアン・スティーヴンス&アンジェロ・デ・オーガスティン『A Beginner's Mind』レビュー

・9/22 Riki Hidaka + Jim O’ Rourke + Eiko Ishibashi 『置大石』レビュー

label.stereo-records.com

・10/8 lightmellowbu ZINE『lightmellowbu紙Vol.5 -JAUNT-』数作品レビュー

・10/15 『レコード・コレクターズ』誌11月号 「特集 SKYE」SKYE/メンバー関連ディスク・ガイド

・10/15 『レコード・コレクターズ』誌11月号 はにわちゃん『かなしばり』レビュー

・10/15 TURN 連載「未来は懐かしい」Vol.24 UMAN『Chaleur Humaine』レビュー

turntokyo.com

・10/20 TURN「物語が立ち上がる空間・時間のために〜 浮動するTaiko Super Kicksの音楽:『波』と『石』を聴く」

turntokyo.com

・10/20『ミュージック・マガジン』誌11月号 bjons『CIRCLES』、Parquet Courts『Sympathy for Life』レビュー

・11/15 『レコード・コレクターズ』誌12月号、Qujila『Tamago』、折坂悠太『心理』レビュー

・11/15 TURN 連載「未来は懐かしい」Vol.25 ポップ・グループ『Y in Dub』レビュー

turntokyo.com

・11/20 『ミュージック・マガジン』誌12月号 ROTH BART BARON『無限のHAKU』レビュー

・11/23発売『痙攣 Vol.2 もう一度ユートピアを 国内音楽特集』BBHF『BBHF1-南下する青年レビュー』寄稿

・12/14 ele-king グソクムズ『グソクムズ』レビュー

www.ele-king.net

・12/15 『レコード・コレクターズ』誌2022年1月号「ブルース・スプリングスティーン 最も輝かしい瞬間における生のほとばしりを記録した『ノー・ニュークス・コンサート1979』」

・12/15 『レコード・コレクターズ』誌2022年1月号ダディ竹千代&東京おとぼけCATS『ヒストリー・オブ・ダディ竹千代&東京おとぼけCATS 表面』レビュー・12/20『ミュージック・マガジン』誌2022年1月号 ウィリー・ネルソン『家族』、INOYAMALAND『Trans Kunang』レビュー

・12/21 TURN「【未来は懐かしい】特別編 柴崎祐二・選 2021年リイシュー・ベスト10」

turntokyo.com

・12/25 『ブルース&ソウル・レコーズ』誌第163号「レイ・チャールズ生誕90年記念CDセット」

・12/28 TURN『THE 25 BEST ALBUMS OF 2021』butaji『RIGHT TIME』レビュー

turntokyo.com

・12/28 『ele-king』誌vol.28「2021年わたしのお気に入りベスト10」選盤/レビュー


【ライブレポート】
・6/4 Mikiki OGRE YOU ASSHOLEOGRE YOU ASSHOLEの15周年ライブに見るバンドを歩ませてきた〈意思〉
OGRE YOU ASSHOLE 15th Anniversary Liveをレポート』

mikiki.tokyo.jp

・10/15 オフィシャル 小坂忠、LOVE PSYCHEDELICO「OTONA SESSIONS 3」ライブレポート

prtimes.jp


【書評】
・1/15 『レコード・コレクターズ』誌2月号『不思議音楽館 オレンジパワー3』書評

・2/15 『レコード・コレクターズ』誌3月号 田中雄二TR-808<ヤオヤ>を作った神々 ──菊本忠男との対話──電子音楽 in JAPAN外伝』書評

・2/20 『ミュージック・マガジン』誌3月号『盆踊りの戦後史 ─「ふるさと」の喪失と創造」書評

・6/15 『レコード・コレクターズ』誌6月号 鈴木孝弥『REGGAE definitive』書評

・7/15『『レコード・コレクターズ』誌8月号 瀬川昌久、蓮實重臣アメリカから遠く離れて』書評

・8/15 『レコード・コレクターズ』誌9月号 ヘレン・S・ペリー『ヒッピーのはじまり』書評
・10/15 『レコード・コレクターズ』誌11月号 栗田知宏『ブリティッシュ・エイジアン音楽の社会学 交渉するエスニシティと文化実践』書評

・10/25『ブルース&ソウル・レコーズ』誌第162号 中河伸俊『黒い蛇はどこへ 名曲の歌詞から入るブルースの世界』書評

・11/15 『レコード・コレクターズ』誌12月号 近田春夫筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』書評


【ライナーノーツ】

・5/26 M.J LOVERS『Rhapsody in Winter』再発CD

tower.jp

・6/30 IKKUBARU『アミューズメント・パーク-エクスパンデッド・エディション』

www.hayabusa-landings.com

・7/7 モノ・フォンタナ『クリバス』再発CD

https://diskunion.net/latin/ct/detail/1008243579

・7/7 鈴木茂『COSMOS’51 ≪2021 SPECIAL EDITION≫』

crowntokuma-shop.com

・7/30 サム・プレコップ『イン・アウェイ』

headz.stores.jp

・7/30『アロエ その不思議なサウンド』再発CD

www.della.co.jp

・9/8 V.A.『魅惑のムード・ミュージック ベスト』

www.kingrecords.co.jp

・10/20 エラード・ネグロ『Far In』

www.beatink.com

 

【講演/番組出演】
・1/30 美学校 特別講座「ゼロから聴きたいシティポップ」講師担当 (ゲスト・スピーカー:長谷川 陽平、モーリッツ・ソメ、加藤 賢)

・9/17 AIR-G「北川久仁子のbrilliant days×F」シティポップ特集コメントゲスト

 

【制作関係】
・3/17 浅井直樹『ギタリシア』A&Rディレクター担当

p-vine.jp

・4/14 冬にわかれて『タンデム』プレスリリース執筆

uroros.net

・6/18 映画『青葉家のテーブル』音楽協力

aobakenotable.com


【取材協力】

・9/2 Bandcamp Daily “The Mystery of Cyber-Occult Maestro Henry Kawahara”コメント

daily.bandcamp.com

 

【DJ】 
2/20 渋谷頭バー「音楽会」withDJ Pigeon, Banana, Yui Takahashi, Kento Ise, Moppy, 坂田律子, デラ 

10/29 高円寺knock「ochakai」with goboy,kento.ise,yui.takahashi

CDさん太郎 VOL.27 2020年秋 購入盤より抜粋版

こんにちは。大分久々の更新となるCDディグ日誌『CDさん太郎』です。
更新の止まってしまってしたこの間もコツコツとCD購入は続けておりまして(もちろん緊急事態宣言で一時中断はあったにせよ……)、増え続けるそれに対処すべく宅のラックを増設したりと、まあ相変わらずの状態でありました。 

9月には、「DJ PIGEONの知らない音楽」というイベントが渋谷の頭バーで開催され、主催のDJ PIGEONさんはじめ、珍盤亭娯楽師匠さん、数の子ミュージックメイトさん、デラさんという強すぎるメンツとともにDJ出演させてもらうなどもしました。そのイベントがあまりに濃厚で、一時すこし燃え尽き症候群のようになってしまいましたが、最近はまたペースを取り戻し、コツコツとCDを買い集めているのでした。
今回はそんな中からひとつかみ、抜粋的に紹介をしてみようと思います(これが最近のベストディグであるとか、特段の意図はなく、あくまで「ひとつかみ」です)。

 

本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。
(もう去年の2月の話なのか……ここで述べたこともそれなりに共通認識化した(?)ように感じたり、感じなかったり)

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

 

1.

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アーティスト:Shell HELIX
タイトル:Quality Drive Sound What is Shell HELIX?
発売年:不明(1990年代後半〜2000年頃?)
レーベル:昭和シェル石油株式会社
入手場所:ブックオフ駒沢大学
購入価格:290円
寸評:昭和シェル石油株式会社のエンジンオイルシリーズ「Shell HELIX」の販促のために制作されたオリジナルノベルティCDです。カーケア商品を扱う店の店頭などで配布されていたものなのかもしれません。クレジットをみてもどこにも製作年が記載されていませんが、音質などから推察するに1990年代後半から2000年頃にかけて録音されたものではないかなと思います。インターネットを調べてみても、オークション等への出品情報しか出てこず、よくわかりません。音楽性としては、ガットギターを主軸としたアコースティックなジャズ〜ボッサ、という感じで、正道的なイージーリスニングです(アーティスト名義は匿名なので、誰が演奏しているかも不明)。ちょっとカリオカなどと近いでしょうか。予算の都合上だと思いますが、生楽器に加えてリズムが打ち込みされていたり、すこしだけ面白い場面も。もっとも良いトラックは①の「TIME MASCHINE」で、主情的なバイオリンがうざったいですが、カホン(の打ち込み?)なども交えたイージークラブジャズ。本盤はドライブ向けに特化した音楽集ということですが、ネットの出品情報によると夏をテーマにした別作もあるようです。

 


2.

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アーティスト:パチャママ
タイトル:大地母神
発売年:1995年
レーベル:大地母神
入手場所:ブックオフ駒沢大学
購入価格:290円
寸評:1970年にキングレコードから歌手としてデビューし数枚のLP/シングルのリリースもあるオカリナ/シンセサイザーサンポーニャ/コチョーラ担当の野上圭三と、現在はジャズドラマーとしてもローカルに活動する打楽器担当・柿本秀明によるユニット、パチャママのおそらく唯一作。パチャママというのはケチュア語アイマラ語で「母なる大地」を意味する語だそうで、アルバムタイトルもそこからきているようです。野上氏は中南米ギリシャ、エジプト、中近東を放浪し民族音楽を学んだ経験があるそうで、その嗜好が濃密に反映された純ニューエイジ作です。とはいえメロディーやハーモニーの感覚は逃れ難く「和」で、そのあたりからし菩提樹など和ニューエイジのレジェンド達にも近い印象。しかしながら、自主制作らしい荒削りさも随所にあり、とくにシンセの音が録りっぱなしというか、鳴らしっぱなしな野放図さがあって面白いです。全編にわたって歌謡集が漂う中、③「トゥリシュール」のドープさが際立っており、きわめてシンプルなドローンにふわふわと上モノが乗るアンビエント性の高い曲。後半になると各種打楽器も交わり、なかなか面白い。⑨の「エピローグ」もミニマルなシンセがゆっくり反復するだけの曲で好ましく聴けます。

 

 

3.

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アーティスト:夏絵菜
タイトル:She loves summer 夏物語
発売年:1992年
レーベル:エイベックス
入手場所:ブックオフ駒沢大学
購入価格:510円
寸評:『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』掲載盤。本『CDさん太郎』Vol.23で取り上げたMAYUMIと同じく、当時いまだ海の物とも山の物ともつかぬ存在だった初期エイベックスが送り出した邦楽カヴァーもの。夏絵菜が何者なのかは不明で、そのへんでスカウトした新人さんということなのだと思いますが、歌唱力も中の上といった感じ。ここで注目すべきはそのトラックで、コンセプトに夏を掲げている通り、全編ラヴァーズロック風でまとめられています。取り上げる曲は「SUMMER CANDLES 」(杏里)、世界でいちばん熱い夏 (Princess Princess)、「真夏の果実」 (Southern All Stars)、「夏のクラクション」(稲垣潤一)、「八月の恋」(森高千里)、「ガラス越しに消えた夏」(鈴木雅之)、「ミスター・サマータイム」(サーカス)、「湘南MY LOVE」(TUBE)「君のハートはマリンブルー」(杉山清貴オメガトライブ)「STILL I'M LOVE WITH YOU」(角松敏生)。シティポップ的重要曲も多いので、それなりに楽しんで聴けますが、いかんせんぬるい……。クレジット記載がないため全打ち込みのオケは誰が作っているのか不明。

 

4.

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アーティスト:佐々木幸男
タイトル:Jealousy
発売年:1990年
レーベル:ワーナー・パイオニア
入手場所:高円寺BE-IN RECORDS
購入価格:250円
寸評:オールドロックの高額盤の多く揃った高円寺のBE-IN RECORDSは、オリジナル盤信仰の薄い自分としては頻繁に行くことのない店なのですが、フラッと入ってみたらCD全品50%オフのセールを催しており、何枚か購入。佐々木幸男はポプコンをきっかけにデビューし70年代後半から長く活動するニューミュージック系のシンガーソングライターで、デビューLPの『ほーぼー』(77年)を始めとして良質な作品を多くリリースしている人です(個人的には82年の『Yes』が特に素晴らしいと思います)。これはCD時代に入ってから久々にリリースしたアルバムで、ロンドンで活躍する日本人ベーシスト、クマ原田のプロデュースの元現地録音されたもの。原田まわりの手練(ジェリー・コンウェイ、マックス・ミドルトン、スノーウィー・ホワイトなど、かなり豪華)が全面参加しており、なによりもまずオケの質が相当に高い。米国録音の同様企画もこの時期多発していますが、それらのようにアッパー&シャイニーにすぎず、英国ソウルの伝統を感じさせる硬質なアレンジなのが良いですね(好みが分かれるかと思いますが、ホワイト・ブルース色も有り)。佐々木のスモーキーな声質にもよくあっているように思います。彼の自作曲はニューミュージック的な湿り気を帯びたメロディーを持つ曲が多いのですが、こういうアレンジを得ることでむしろ輝きを得ている気もします。ベストトラックはメロウボッサ⑨か。ちなみに本作、伝説のライトメロウ系ブログ「Music Avenue」でも取り上げられていました。

 

 

5.

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アーティスト:アンディーズ
タイトル:アンディーズ
発売年:1996年
レーベル:ソニー
入手場所:高円寺BE-IN RECORDS
購入価格:150円
寸評:Tスクエアのギタリスト安藤まさひろが後にバンドへ参加することになるキーボーディスト難波正司と組んだユニット「アンディーズ」によるアルバム。Tスクエア本隊もそこまで聴いているわけでない私ですが、冒頭、いきなり私が苦手とするかのバンドの要素が増幅されたようなハードフュージョンチューンが飛び出してきてなかなかツライ……と思っていたところ、元シーウィンドのポーリン・ウィルソンをヴォーカルに迎えたアップリフティングなライトメロウチューン④で、ありがとうございます。続く⑤や⑦も品の良い生音系フュージョンで悪くありません。それにしても、帯に大きく「脱ジャンル宣言」とあって、どんな音楽なんだろう?と期待していましたが、フュージョン、ロック、AOR想定の範囲内で料理した印象を超えるものでなく、そりゃそうか……という感じ。

 

 

6.

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アーティスト:斎藤岳司
タイトル:光・響・詩
発売年:1997年
レーベル:ナチュラルヒーリング
入手場所:ブックオフ阿佐ヶ谷店
購入価格:500円
寸評:氣功師/ヒーラー/神秘研究家の刑部恵都子が主宰するナチュラルヒーリング研究会というニューエイジ団体が制作したオリジナルCD。その時点で最高潮に抹香臭い極北的ニューエイジで、こういうものは往々にして音楽的には残念なものが多い印象なのですが、本作はかなりイケます。まずそのコンセプトがすごい。研究員(?)23人とともにギザのピラミッドまで赴き、暗い玄室内で耳にしたという(?)光の精霊達が奏でる音楽を再現する目的で作られた由。実際に音楽を制作した斎藤岳司という方がどういうミュージシャンなのかもまったくわからないのですが、時折モロにクラウス・シュルツェ〜伊藤詳系譜というべきシリアスなシンセサイザーミュージックを聴かせてくれるのでした。①や⑧あたりはかなり良いのでは。とはいいつつ、このCDの主役はあくまで刑部恵都子先生であり、彼女の霊妙な語りが大フィーチャーされています。その内容はもちろん、声質や話し方も含めてなかなかすごい雰囲気です。

 


7.

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アーティスト:向後隆
タイトル:音の礼拝
発売年:1993年
レーベル:プレム・プロモーション
入手場所:ブックオフ阿佐ヶ谷店
購入価格:510円
寸評:向後隆は、芝浦工業大学・電子工学科出身で、卒業後は赤井電気の電子楽器開発部署にてシンセサイザーの企画/開発にあたっていたという経歴の持ち主。その後86年からインドに渡り演奏修行を重ね、ベンガル地方の弓奏楽器とシンセサイザーを使った環境音楽を制作してきた人で、Awa Recordsの名コンピ『しおのみち二の巻』に参加していたり、ポップス系のレコーディングにも顔を出すなどかなり広範囲に活動しており、単独作もかなり多くあるようです。これは俗流アンビエントの名門であるプレム・プロモーションから93年にリリースした作品で、ヨガ体操実践のための背景音楽として使用することを推奨されています。よくあるインド古楽器系のニューエイジかと思えばそうでもなく、抑制的なメロディーや浮遊感あるハーモーニー、シンプルな構成はかなり正統的環境音楽を思わせるものであり、イーノからの影響も色濃く感じます。打楽器を交えたミニマルな曲も好ましい。そういわれると、ジャケットにもどこか品格がありますよね。

 


8.

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アーティスト:山木秀夫
タイトル:Tentelletsque
発売年:1990年
レーベル:創美企画
入手場所:ユニオンレコード新宿
購入価格:650円
寸評:マライアでの活動をはじめとして日本の音楽シーンを表から裏から支えまくってきた天才ドラマー山木秀夫のファーストソロ作。これは素晴らしいアルバムです。元々生田朗のプロデュースで制作が進められていたらしいのですが、氏の死去により途中から吉田美奈子がバトンタッチして完成させたアルバム。生音と打ち込みの棲み分けが判別し難い部分があるのですが(それくらい巧みなプロダクション)、ドラムと時折聴かれる吉田美奈子のヴォイス以外基本的には打ち込み中心なのかなと思います。コンピュータープログラミングを担当しているのが椎名和夫だというのも面白い。内容的には全編今こそ聴きたい硬質な和レアリック、電子ファンク、アヴァンギャルドジャズ、ポストモダン民族音楽のオンパレード。ペッカーとの仕事などもそうですが、吉田美奈子アヴァンギャルドサイドが炸裂しまくっている印象で、山木氏はもちろん、改めて本当に偉大な人だなと再認識。⑥には近藤等則氏(安らかに……)も参加。96年にMIDIから再発されているようですが、この初出盤含めてあまり出回っているのを見かけません。アナログ再発されたらけっこう話題になるはず。

 


9.

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アーティスト:不明
タイトル:効果音楽大全集 マルチメディア「音ネタ」シリーズ⑪ セレモニー編
発売年:1998年
レーベル:キングレコード
入手場所:ハードオフ東松山
購入価格:100円
寸評:キングレコードが得意とする「効果音楽」(ホームビデオや式典などで主に素人が任意に使用すべく作られた実用音楽)連作の中でもひときわ派手なネタが入っていることから、見つけるたびについつい買ってしまう「マルチメディア「音ネタ」シリーズ」の中の一作。各種セレモニーで使用しやすいチャイムやオープニング/エンディング/映像BGM向け音楽(やジングル)が全60トラック収録されています。目当ての「オープニング音楽」と「紹介VTR」のパートにやはり面白いものがありました。異様にメロウな打ち込みフュージョンや、バウンシーなハウスなどが混入しています。例によって製作者は不明。DJの一曲にオープニング用音楽をかけて登場したらかなりウケるのではないでしょうか。数学の教科書みたいなジャケットも良い。

 

CDさん太郎 VOL.26 2020/1/29購入盤 前半

 こんにちは。今回は、2020年1月29日に東京・吉祥寺、荻窪、中野で購入したCD計13枚を紹介します。
 前日にTBSラジオ『アフター6ジャンクション』出演のために来京したlightmellowbuハタ部長とともに、都内各中古店舗を回れるだけ回ろう!ということになったのですが、結果私のほうが大量に買いまくることになってしまいました。
実際は今回紹介するのはこの日買ったものの半数以下でして、別途レコファンBEAM渋谷店で大量購入した分もあり、それらはまた後半版として後日レビューできればと思っております。
 本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。

 

 

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アーティスト:河内淳一
タイトル:Juice
配布年:1992年
レーベル:ファンハウス
購入価格:145円
購入場所:ブックオフ吉祥寺店
寸評:lightmellowbu『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』にも91年作『Private Heaven』が取り上げあれている作曲家/ギタリスト/シンガーの河内淳一。70年代から活動するベテランで、『よろしくメカドック』のテーマ曲「よろしくチューニング」を手掛けたバンドSTR!Xや、KUWATA BANDのメンバーとしてのキャリアもある才人。これはそんな彼の4作目で、憧れのビル・チャンプリンをプロユーサーに迎えた豪華アメリカ録音盤。その上ジェフ・ポーカロ、マイケル・ポーカロも参加しており、完全に黄金期TOTOサウンドを踏襲したようなハードAOR集となっています。この人の作品は基本的にそういったウェストコーストロック路線のものが多く(ギターを弾きまくることも度々)、あまりライトメロウ的観点から光が当てられることがないように思うのですが、なかなかどうして、佳曲は沢山ある印象。本作でも、タイトなファンク②、③、心地よいミディアムスロー⑥など、結構良いのではないでしょうか。ボーカルもクリアなハイトーンボイスで素敵。本作リリース後は徐々に表舞台から退いていき、現在では千葉県松戸市のライブハウスの店長兼エンジニアを務めているようです。

 

 

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アーティスト:中村幸代
タイトル:THE ARCH OF THE HEAVENS
発売年:1994年
レーベル:ポニーキャニオン
購入価格:145円
購入場所:ブックオフ吉祥寺店
寸評:神奈川県鎌倉市生まれの作曲家/エレクトーン奏者・中村幸代の4thアルバム。1stを『『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』』で、2ndも以前本「CDさん太郎」で取り上げている通り、私はすっかり彼女のファンです。この4作目では編曲を自らが手掛けているのですが、これが実に良い。優れた鍵盤奏者であるとともにプロデューサー的な気質も兼ね備えていたのでしょう、全ての曲に関してツボを押さえたアレンジぶりをきかせてくれます。基本的にはライト・クラシック、フュージョン、ポップ・インストゥルメンタルを基軸としているのですが、ときおり聴かれるアンビエント的パートがとても良いです。ヤマハ文化圏にありがちな、エレクトーンやシンセサイザーの音色コントロール面での不器用さ(センスの悪さ)を露呈してしまうようなことは一切なく、かなり繊細な音響意識の元に作られていることがわかります。まあ、その上でなお、いわゆるエレクトーンっぽい音色やいかにもプリセットなシンセサウンドを味わうのも一興なことは確かなのですが。本作で自信をつけたのか、この後は主にテレビや映画の劇伴音楽を盛んに制作するようになり、かなりの売れっ子になっていくのでした。現在はFMたちかわのパーソナリティとしても活動中。

 

 

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アーティスト:FLAGS
タイトル:BREATHLESS
発売年:1996年
レーベル:iMME
購入価格:145円
購入場所:ブックオフ吉祥寺店
寸評:COSA NOSTRA桜井鉄太郎がプロデュースした5人組ポップユニットによるミニ・アルバム。フジテレビ乙女塾元メンバー吉田亜紀も在籍。①はいきなり中期ビートルズ風で面食らいますが、②「MIRACLE」が素晴らしい!これぞ渋谷系、というべき箱庭フリーソウルの佳曲で、DJ現場で盛り上がりそうなちょうどよいアンセム性を秘めているように思います。初期モータウン調の③もなかなかよい。あまりに90年代後半なクラブジャズ経由のデジタルビートが今だとちょっと厳しい④、⑤は飛ばすとして、⑥もなかなか好ましいですね。本作、当時の最先端技術であるエンハンスドCD仕様となっており、どうやらMV的なものが収録されているようなのですが、今となってはどうやって再生するのかもよくわからず、視聴できず。

 

 

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アーティスト:本上まなみ
タイトル:ラヴレター・トラックス
発売年:1998年
レーベル:ヒートウェーブ
購入価格:255円
購入場所:ブックオフ吉祥寺店
寸評:女優・本上まなみのイメージビデオ『ラヴレター』のために制作された音楽を収録したサウンドトラック盤。そんなものまでリリース出来てしまったCDバブル時代に驚きを覚えますね。なんかしらニューエイジテイストのあるトラックがはいっていたら良いなあくらいの淡い期待で買ったのですが、まあやっぱりというべきか、クラシカルなオリジナルピアノ曲やギター、ストリングスなどが中心となったアコースティックな純BGM音楽でした。ところどころ電子音やリズムを交えた瞬間が出現し、おっと思わせるのですが、中庸なライト・クラシックに寄りすぎていたり、98年ぽい軽薄なクラブジャズ感が配合されているので、今聴くのは結構キツい…。作曲/演奏陣は、見良津健雄、宮原恵太、重松明宏等。本上まなみ本人による無内容な語りも収録されています。

 

 

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アーティスト:マッキン・アンド・ザ・ニューミュージック・スタッフ
タイトル:マッキン・アンド・ザ・ニューミュージック・スタッフ
発売年:2006年
レーベル:Primal Revue
購入価格:255円
購入場所:ブックオフ吉祥寺店
寸評:ハタさん推薦盤。流線形のベース奏者としても活動するマッキンこと松木俊郎氏のデビュー盤。本人は作曲とアレンジ、ベースに徹し、残響カフェなど沢山の周辺アーティストが演奏と歌唱に加わるというアランパーソンズプロジェクト的スタイル。いかにもこの時代の70年代シティポップ・リヴァイバルのサウンドといった感じで、たしかにこれがデビュー盤というのはすごいセンスと技術ですね。生演奏志向、いい(アナログな)音、自然体な歌というゼロ年代感が今聴くとこそばゆい感じがしますが、当時の「グッドミュージック観」のようなもののもっとも素直な表出として、今後更に歴史的な価値を帯びていくことと感じます。金澤寿和氏編著『Light Mellow和モノSpecial』にも掲載されていますね。

 

 

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アーティスト:横山智佐
タイトル:f【éf】
発売年:1996年
レーベル:ファンハウス
購入価格:145円
購入場所:ブックオフ吉祥寺店
寸評:『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』掲載盤です。これは素晴らしいですね。『サクラ大戦』のヒロイン・真宮寺さくら役等で著名な声優・横山智佐による4thアルバム。全体に60年代初期モータウンやガールズポップの意匠をまといながら、シティポップ的洗練を加えた歌謡アイドルポップという風情。楽曲自体やアレンジもかなり凝っていて、作り手の本気を感じます。一時期の竹内まりや川島なお美などのキャンパスポップ的な世界が好きな方にはたまらないのではないでしょうか?人気声優だけあって歌の表現力(演技力)も流石で、タレントさんがテキトーに歌った場合にありがちな空疎感がないというのもポイントかと思います。渡嘉敷祐一渡辺直樹、中西康晴、ジェイク・H・コンセプションという手練による演奏も力の入ったもの。また、特筆すべきがホーンセクションの躍動で、数原晋グループによるものです。

 

 

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アーティスト:なし
タイトル:地球星 PULSATION 〜クリスタル・ミュージック〜
発売年:1991年
レーベル:ビクター
購入価格:255円
購入場所:ブックオフ吉祥寺店
寸評:普段は環境音のみ収録のいわゆるノンミュージック作品は避けるようにしてるのですが、このCDは表題に「クリスタル・ミュージック」とあり、まんまと騙されて購入してしまいました…。このCDは、写真家・浅井慎平がプロデュース?している旨も表1に記載されているのですが、氏はかつて環境音レコードの大ヒット作『サーフ・ブレイク・フロム・ジャマイカ』の制作にも絡んでいるので、この時点で気づけばよかったな、と反省。本作も41分感、雫が水面に落ちる音を記録したCDであります。小熊達弥による録音で、この時期のフィールドレコーディング系ニューエイジ作品で大活躍したダミーヘッド型マイク「アーヘナコブHMS-1R」を使用し、長時間に及ぶ編集とミックスの末リリースされた由。たしかに音場感はかなり精緻に作られている印象。ライナーには桝田武宗によるエッセイも掲載されています。

 

 

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アーティスト:サンウェイ
タイトル:イグザクト
発売年:1995年
レーベル:ビクター
購入価格:290円
購入場所:ブックオフ荻窪
寸評:「ジャワイアン」(=ジャマイカ+ハワイアン)という謎のコンセプトでデビューしたハワイを拠点とするシンガーSUNWAYによる(おそらく)3rdアルバム。全編英語歌詞で謳われるのですが、サウンドプロデュースはEDISON(日本人です)が担当しており、さらに原盤レーベルもビクター傘下のROUXからなので、日本マーケット向け商品のようです。初期J-R&Bと打ち込みラヴァーズロックが融合したような音楽性なのですが、まだまだこのあたりの音は寝かしておくべきで、ディグり起こすのは早いのかな…と若干購入を後悔する結果に…。その中で(そもそも曲が良いということが大きいかと思いますが)シェリル・リン「Got be real」のカヴァーはなかなか好ましいですね。いきなり高カロリーのラガマフィンラップが闖入してくるのには苦笑してしまいますが…。

 

 

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アーティスト:ヘンリー川原
タイトル:サウンドLSD サブリミナルセックス
発売年:1991年
レーベル:グリーンエナジー
購入価格:510円
購入場所:ブックオフ荻窪
寸評:稀代の香具師・ヘンリー川原氏による一連のサウンドDRUG作の中でも一番キャッチーというか、一番悪ふざけ度が高い、俗流アンビエントの異色作と言えるでしょう。以前本ブログでも『臨死体験』というCDを取り上げましたが、基本的なサウンド傾向はそれとあまり変わらず、思いつきのような電子音がヒュンヒュンと飛び回りつつ、ミニマルなフレーズが消えては出、出ては消えする、オカルティックなニューエイジ作品です。ライナーノーツによると、収録音を構成しているのは、バイノーラル録音されたホワイトノイズ、サイン波(妙なピッチコントロールを伴いながら全編にほわほわ漂う。これこそまさにヘンリー川原節)パルス、地球の振動音、エクスタシーボイズ(男女計6名)、バリのガムラン、ベースとのこと。CD裏にも「多彩な周波の特殊パルスがあなたの脳を強制誘導 一度はまればアトは天国 あなたの意識を異次元へとご案内」という長い惹句の後に、例によって悪ノリした注意文が続いており、芸風の盤石さを感じさせます。発売当時の定価は3,800円也。高過ぎる…。これら一連のサウンドドラッグ作品に先立って、カセットテープ形態で「パラデータサウンド」というシリーズ全8作が試験的にリリースされているとのこと(byライナーノーツ)なのですが、そういうことを言われると欲しくなってしまいますね…。どなたかお持ちの方いらっしゃいますか(ネットに全く情報がない)。

 

 

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アーティスト:マスターマインド
タイトル:法隆寺 〜オリジナル・サウンドトラック
発売年:1994年
レーベル:ソニー
購入価格:510円
購入場所:ブックオフ荻窪
寸評:先走ってTwitterにも書いてしまいましたが、これは相当に良いです!NHK特集『法隆寺』のために書き下ろされたスコアを収録したサウンドトラック盤なのですが、よくあるオリエンタル風ニューエイジを飛び越え、アンビエントテクノとしてかなり上質な出来栄えだと思います。現在は空間サウンドプロデュースなどを手掛けるマスターマインド・プロダクションズの代表小川弘と黒沢永紀によるユニットによる作品で、インタビューなどを読むと、明確にKLFの『Chill Out』などから影響を受けているようです。コンポーズ、演奏、サウンドデザインの各面で旧世代よりモダンな感覚が溢れ出ており、かといってクラブユースな方向性に偏ることなく、品格ある劇伴としてバランスを保っているのが良いですね。お気に入りは④の「大講堂」。二胡の処理に明確な吉川洋一郎オマージュを感じるのは私だけでしょうか。また、ディープ極まりないアンビエント、⑥「百済観音」もいい。⑦「飛鳥建築」は豊田貴志オマージュか?アナログ・シンセ(多分ミニ・モーグ)の音色が胸くすぐるバレアリック曲⑩「夢殿」、一層テクノ色強い「法円寺主題〜変奏」も素晴らしい……。ラストにはなんと砂原良徳による同曲のリミックス版も収録されています。どうやら当時を知る人によると本作、発売元のソニーも単なるサントラという枠組みを超えてテクノ作品としてきちんと売り出そうとしていたらしく、さもありなんという感慨を抱くのでした。

 

 

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アーティスト:難波弘之
タイトル:センス・オブ・ワンダー
発売年:1994年(オリジナル:1979年)
レーベル:キング
購入価格:650円
購入場所:まんだらけ中野店
寸評:中野まんだらけの、アニメ/ゲームサントラ〜イメージアルバムを扱う店舗内に、少しだけ実写作品サントラコーナー(?)があるのですが、このCD、なぜかそこで売っておりました。金子マリ&バックスバニー山下達郎のコンサートバンドのキーボーディスト、あるいは本作と同名のバンド「センス・オブ・ワンダー」を率いることで著名な難波弘之の記念すべきデビュー・アルバム(アニメ音楽作家としても良い仕事が多いので、そのあたりのことがこの盤がまんだらけで売られていた理由なのかな?と)。近頃ですと、83年に12inhcリリースされた『Who Done It?』がバレアリック名盤(最高です)として高騰している氏ですが、その作風は作品ごとにかなりバラバラで、良い意味でカメレオン的。極上のライトメロウからバリバリのプログレまで行き来するその姿は、おそらく世界的にみてもかなり特異なものなのではないでしょうか。しかも氏は実績あるSF作家でもあるのですから、その多才ぶりに驚きます。本デビュー盤も各曲氏のお気に入りのSF小説へのオマージュとなっています。作詞作曲に吉田美奈子山下達郎などの盟友や三枝成彰といった大御所を迎え、演奏陣も上原裕、村上秀一鳴瀬喜博など、かなり多彩&豪華。ライトメロウ調、ハードロック風、コズミックなフュージョン、E,L&P風、ディスコ風、と相当に幅広い音楽性を開陳していますが、本人の弾くアナログシンセサイザーの音色がこの時代ならではの魅力を湛えており、それがアルバム全体の推進力となっているように思います。名盤。ジャケット画は手塚治虫の描き下ろし。

 

 

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アーティスト:V.A.
タイトル:日渡早紀 アクマくん魔法☆SWEET
発売年:1986年
レーベル:ビクター
購入価格:350円
購入場所:まんだらけ中野店
寸評:SF作品『ぼくの地球を守って』で知られる漫画家日渡早紀が、それ以前に『花とゆめ』にて連載していたアクマくんシリーズのイメージアルバムで、同様に少女漫画の関連作をリリースしていたビクター発の「ファンタスティック・ワールド」シリーズ第9弾作です。大貫妙子や野見祐二らも参加した後の『ぼくの地球を守って』のイメージアルバム(名盤!)も含めて、このシリーズは単なるイメージアルバムの域を超えた音楽的野心に溢れたもので、本作の担当ミュージシャンも矢口博康鈴木さえ子門倉聡上野耕路溝口肇遊佐未森という80年代の良心的作家が顔を揃えている格好です(日渡自身もライナーノーツですごいメンバーが集まってしまったと歓喜している)。内容も、テクノポップ風、アンビエント風、バレアリック風など多彩かつ相当な高クオリティで、時にサラヴァの諸作に通じるようなモダンなヨーロピアンテイストを漂わせたりもしています。個人的には、矢口博康によるバレアリックな各トラックと鈴木さえ子によるプレ渋谷系的小品ボッサ「Misty50」が特に好ましいですね。他も全編素晴らしい。名盤。

 

 

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アーティスト:V.A.
タイトル:エルフを狩るモノたち サウンドトラックアルバム
発売年:1996年
レーベル:AYERS
購入価格:100円
購入場所:まんだらけ中野店
寸評:月刊『コミックガオ!』に連載されていた矢上裕原作漫画からラジオドラマ化された作品のサントラ盤。他にアニメ化作品のサントラなどもあり、かなりややこしいですね。サウンドプロデュースを手掛ける伊藤ヨシユキ氏は、ランティスの副社長を務めた人で、BGMコンポーズを担当したの伊藤真澄は彼のパートナーでアニメ音楽界では著名な方。他、中村康彦、川口義之(!)、入江直之、有泉一、加藤JOEなど、バッキング陣もかなり豪華。ゆえに全編、単発のラジオドラマと思えないほどのなかなかクオリティとなっています。ライトクラシック、バルカン音楽、エスノ、クラブジャズ、プログレ、ミュゼット…様々な音楽を貪欲に取り込んだいい仕事だといえるでしょう。しかしここでの聴き物はやはり2曲収録された歌入り楽曲だと思います。それぞれ、久川綾冬馬由美という声優がボーカルを取り、シティポップといえばいえなくもないような曲調となっています。アレンジが洒落ているので、歌謡臭から逃れているのが好ましいですね。特に冬馬由美の③「元気のかけら」はフィラデルフィア・ソウル風でかなり良いです。


次回へ続く…。

CDさん太郎 VOL.25 2020/1/17〜27購入盤

 こんにちは。今回は、2020年1月17日から27にかけて東京・新宿と吉祥寺で購入したCD計15枚を紹介します。紹介ペースが買うペースに全然追いつかない…がんばります。
 本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

 

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 アーティスト:篠崎正嗣
タイトル:プロフィール
配布年:1990年
レーベル:キング
購入価格:50円
購入場所:ピュアサウンド新宿店
寸評:80〜90年代を代表するライトクラシック/ニューエイジ系ヴァイオリニスト篠崎正嗣の非売品ベストCDで、おそらく5thアルバム『G線上のアジア』リリース時に業界向けプロモーション盤として配布されたものだと思います。このことからも、当時のキングレコードの力の入れようがわかるというものですね。収録曲はそれぞれ、映画劇伴作品『螢川』、『グラス・ヴァイオリン』、イサオ・ササキとの共作『ストーン』、『ウォーター・ヴァイオリン』、そして新作『G線上のアジア』からピックアップされており、事実上のベスト盤とも言える内容。なのですが、ここが落とし穴というべきか、あくまで当時の感覚で「ベスト」とされているもののみが選ばれている印象。ですので、名盤とされる『グラス・ヴァイオリン』収録曲にしても、今の感覚で好ましく聴けるニューエイジ的なものではなく、あくまでライトクラシック的なベタさがあるものがチョイスされてしまっており、なんともモヤモヤしたものが残ります(このCDの目的を考えれば致し方ないのですが)。その中でも聴き所を探すならば、プログレ・ルーツが素直に表れ出た④「サイクロンB.C.」あたりでしょうか。やはり個人的には、氏が大島ミチルと組んでいたニューエイジ・ユニット「式部」に通じるような方向性の楽曲が聴きたかったところ。

 

 

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アーティスト:バザール
タイトル:バザール
発売年:1989年
レーベル:ソニー
購入価格:150円
購入場所:ピュアサウンド新宿店
寸評:現在はPC環境コンサルタント(?)としても活動するサクラマコトを中心に結成されたPRESENTSを前身とするロックバンドBAZAARの唯一作。プロデュースは笹路正徳。いかにもこの時代らしい「イカ天」以降的なネアカ・ロックサウンドを聴かせてくれるのですが、リズム隊はじめ演奏もかなりファンキーで、ところどころエスノ風というか、いわゆる当時の「ワールド・ミュージック」風アレンジが施されています(KUSU KUSUなどを更にポップにしたような印象も)。ボーカルはかなりハリと粘り系(バービーボーイズKONTAにも少し似ている)。若干E-ZEE BAND的なメロウネスを顔を覗かせる瞬間もあり。という感じで、なかなか聴き応えがある作品かと思うのですが、個人的な好みとはすれ違うかなと…。申し訳ございません。アートワークは後のメロコア風で先見的。

 

 

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アーティスト:森脇健児
タイトル:LANDING DREAM
発売年:1990年
レーベル:キング
購入価格:100円
購入場所:ピュアサウンド新宿店
寸評:おそらくライトメロウ的曲が潜んでいる確立は2%くらいだろうな…と思いつつもついつい買ってしまう癖…これはその極北みたいなCDですね。内容はというと、ひたすら森脇の下手糞かつ無意識過剰な歌唱を、相当にキツい産業ハードロック的オケとともに聴かせられまくるという内容で、いいようのない嫌悪感がこみ上げてきます。唯一面白いのは、①が何故かインストだということ。森脇不在。意味不明。

 

 

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アーティスト:Night Noise
タイトル:Something of Time
発売年:1995年(オリジナル 1987年)
レーベル:BMGビクター(オリジナル:Windhamm Hill)
購入価格:50円
購入場所:ピュアサウンド新宿店
寸評:Night Noiseというグループ名、“Something of Time”というタイトル、最高すぎるジャケット、ウィンダム・ヒル発であること、様々な要素からして最高な予感しかせずよく調べずに購入したのですが、思っていたのと違うなあ…という感じ。Night NoiseはNY出身のヴァイオリン奏者ビリー・オスケイと、アイルランドのトラッドロック・バンド、ボシー・バンド(彼らのアルバムはどれも最高です)の元メンバーでありマルチ奏者のミホール・オ・ドナールの2人を中心としたバンドで、メンバーの経歴取り、ライト・クラシックとアイリッシュ・トラッド、そしてアコースティックなニュー・エイジを混ぜ合わせたような音楽性。確かに良質ではあるのですが…あまり今の私の趣味とは合致せず…。この作品で一番好ましいのはジャケットですね。どうでもいいことですが、本盤、見本盤シールが貼ってあったので、もしかすると上述の篠崎正嗣氏のCDを売った人と同一人物のものだったのかもしれません。音楽性も近しいところがありますし。

 

 

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アーティスト:尾崎亜美
タイトル:アロウズ・イン・マイ・アイズ
発売年:1998年
レーベル:東芝EMI
購入価格:167円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:ベテラン尾崎亜美の(おそらく)27枚目(!)のアルバム。尾崎自身と小原礼による共同プロデュース。LAでのセッションを中心とした構成となっており、参加メンバーの豪華さにまず目を惹かれます。バジー・フェイトン、ニール・ラーセン、ティム・プライス、マイケル・トンプソン、レニー・カストロその他…。日本からは上述の小原礼に加え、松武秀樹シンセサイザープログラマーとして参加しています。これだけの好条件が揃っていれば間違いのないライトメロウ名盤になりそうなものなのですが、さすが90年代後半というべきか、なかなかそうも行かないのが歯がゆいところ。メロウな曲もたしかにあるのですが、全体的にロック色が強く、尾崎が本来持つ歌謡的なテイストと相まって、今の感覚で聴くにはちょっとしんどいかなと……。当たり前なのですが、歌が上手いという生来のアドヴァンテージが却って高タンパク/高カロリーな世界の創出に加担してしまっている印象。その中にあって、⑥「Let's Imagine」。この参加メンツから想像される通りの高クオリティなAORサウンドで、良いですね。せっかくなので、この路線で一枚通して聴きたいなあと思ってしまうのでした。

 

 

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アーティスト:高橋鮎生
タイトル:MEMORY THEATRE
発売年:1985年
レーベル:ミディ
購入価格:650円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:ピアニスト高橋悠治の息子で、70年代後半からアヴァンギャルドシーンを中心に活動する高橋鮎生による名作セカンド・アルバム。坂本龍一をはじめ、鈴木さえ子大貫妙子EPOといった当時のミディ看板アーティスト勢揃いといった様相で、非常に聴き応えのある内容になっています。メンツから想像されるテクノ・ポップ〜シティ・ポップ感はほとんどなく、同時期のネオ・アコースティックやゴシック・ロック、60年代サイケ・ポップやゲンズブールフレンチ・ポップスなどを、現代音楽〜前衛音楽的な手付きでオリジナルに昇華したような内容に思います。いやもう、全編素晴らしいの一言です。ときおり挿入されるピアノを中心としたアンビエントも実に美しい…。特に⑦。80年代の彼のアルバムはどれもこれも良いものばかり。昨今、国外からの注目度もじわじわ上がってきている感じもありますね。

 

 

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アーティスト:日本サウンドエフェクト協会
タイトル:デジタル最新録音&マスタリングによる 効果音大全集⑱ 宇宙・ハイテク
発売年:1992年
レーベル:キング
購入価格:650円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:普段、効果音系CDには手を伸ばさないのですが。これは「宇宙・ハイテク編」と副題があり、おそらく電子音を主体としたトラックが収録されているのでは、と予想。トラックリストを見てみると「宇宙船の飛行中の船内」「ブラックホール」「旧式電子頭脳」「ロボットの変な言葉」「電子回路」など、シンセサイザー好きとしてはぜひとも聴いてみたい効果音がズラリとならんでおり、勇んで(650円も払って!)購入。果たして、ハイテクと謳っておきながら、非常にチープかつ類型的なシンセ・サウンドの応酬とでもいうべきもので、非常に素晴らしい!このアナクロな宇宙観/コンピュータ観は、本作発売よりずっと前、かつて小松崎茂が描いたレトロフューチャリスティックな近未来予想図のサウンドトラックのよう。適当な方程式をおっさんが読み上げる声を電子変調した「ロボットの変な言葉」がインパクト大。アンビエント系のDJをするとき、是非ミックスしたい音が沢山入っています。

 

 

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アーティスト:PTON!
タイトル:OPEN SESAME!!
発売年:1992年
レーベル:バップ
購入価格:167円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:後にFM NACK5のパーソナリティなども努めるシンガー森岡純が所属したバンドによる92年作。当時レベッカプリンセス・プリンセスの系譜で語られていたという通り、元気いっぱいガールポップのバンド版といった趣き。プロデュースに笹路正徳の名を発見したので期待をしたのですが、ちょっとプロデュースしあぐえているような感じで、全体は中庸なのに発される音は妙に派手派手しいというなんとも不思議な出来栄えになってしまっている印象です。曲の強度がそこまであるわけではないし、結果として音楽的着地点がぼやけてしじまった感じが……。上述のBAZAARにしても後述のLANPAにしても、この時期のメジャー発バンド系作品はよほど購入に慎重にならねば…と思った次第です。

 

 

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アーティスト:古内東子
タイトル:SLOW DOWN
発売年:1993年
レーベル:ソニー
購入価格:167円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:「それ持ってなかったの?」案件です。いつでも買えるCDをついに買うタイミングってありますよね。この日のディスクユニオン吉祥寺店は、600円以下のCD/レコードを3枚買うとあわせて500円になるというバーゲンをやっていたもので、数合わせ的に購入。いや、もちろん古内東子が素晴らしいアーティストであることは重々承知だったのですが、特にこれと言った理由もなくこれまでこの名作1stを買わずに来てしまったのでした…。日々ジャンクフード的に消費しているオブスキュアなブックオフCDに比べると、その一流ぶりが眩しすぎて……。しかし内容はやっぱり上質ですね。同時期のシンガーソングライターの中でも傑出した人であることがわかります。シティポップ的にも聴ける②、⑥、⑨あたりが特に素晴らしく思います。

 

 

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アーティスト:MAMA
タイトル:Wie Pie
発売年:1994年
レーベル:EDOYA
購入価格:167円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:「下北沢のジャニス・ジョプリン」こと金子マリが、ロケット・マツやケニー井上、藤井裕、松本照夫といったすごいメンバーと組んだバンド「MAMA」の唯一作。この時期の金子マリさん、実は私、生ライブを観ているんですよね。95年、父に連れられて、塩次伸二や山岸潤史とともに埼玉の皆野ホンキートンクにて行われたギグに行ったのでした。当時はブルースなどに興味を持ち始めている時期だったので、大変刺激を受けたと記憶しています。それ以来、バックス・バニーはもちろん、金子マリさんの名前は僕の中でちょっと特別なものがありまして。そういった感じで、思い出補正がどうしてもはいってしまうので冷静に聴くのが難しいわけですが、このMAMAもかなり良質のファンキー・ロックを聴かせてくれますね。歌の巧さはもちろん、やはり演奏がすごい。④や⑥、⑪は若干AOR的な視点からも聴くようなことができそうな曲。

 

 

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アーティスト:真璃子
タイトル:元気をだしてね
発売年:1989年
レーベル:ポニーキャニオン
購入価格:167円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:84年に文化放送『決定!全日本歌謡選抜』内のオーディション企画でグランプリを受賞したことをきっかけにデビューをした真璃子による4thアルバム。フォーライフ時代の初期アルバムが比較的よく知られている(かもしれない)彼女ですが、ポニーキャニオン時代になると若干大人びた風情を打ち出していくようになったという情報を読み、もしかするとシティポップ的な曲が収録されているのでは?と期待し購入。果たして…全然そんなことありませんでした……。一部アップテンポの「おっ」という曲もあるんですが、いかんせん曲が歌謡曲感満点で、なかなか厳しいものが…。プロデュースは水谷公生と福田泰丸(誰?)が努めています。水谷公生のプロデュースワークって、ハマるときはすごくハマるんですけどね…。タイトルに反して元気を削がれるアルバム。

 

 

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アーティスト:MARDIGRAS
タイトル:Gaia
発売年:1990円
レーベル:ナイトギャラリー
購入価格:350円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:元Dead Endのドラマー田野勝啓を擁するゴシックロックバンドによる唯一作。プレビジュアル系の系譜に位置づけられる存在だと思いますが、X等が圧倒的覇権を握る以前、このシーンは本バンドのようになかなか一筋縄でいかない音楽性のアクト(UKのゴス〜ポジティブパンクから連綿と続く系譜を真摯に受け継いだアクト)が少なくなく、今一度見分してみる必要のある領域かなと思います(私は完全に門外漢ですが…)。この作品も、ジョイ・ディヴィジョンからの影響がかなり色濃く、メタリックなクリシェを安易に奉じない姿勢に好感が持てますね。

 

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アーティスト:宮田まゆみ
タイトル:星の輪 〜宮田まゆみ笙の世界〜
発売年:1986年
レーベル:ソニー
購入価格:167円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:国立音楽大学客員教授でもある東京都出身の笙奏者、宮田まゆみ。これはおそらく彼女の1stアルバムで、伝統雅楽曲に加え、一柳慧やコート・リッペの現代曲を取り上げています。伝統曲での格式ある演奏も素晴らしいですが、聴きものはやはり現代曲。笙がほとんどモジュラー・シンセサイザーの音に聴こえてくる不思議な体験をすることでしょう。また、高田みどりが鳴り物で参加しているのも重要で、やはり彼女が入るとグッと演奏の緊張感が増すように思います。高田は宮田の次作へも参加し、よりコンテンポラリー色強い演奏を聴かせてくれます(それゆえ、個人的好みとしては次作のほうが良いかなあ、というところ)。

 

 

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アーティスト:LANPA
タイトル:水の上のPEDESTRAIN
発売年:1991年
レーベル:テイチク
購入価格:167円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:『イカ天』出演バンドとしては珍しい都会的な音楽性を伴ったアコースティック系バンドによるメジャー・デビュー作。プロデュースは国吉良一が行っており、かなり端正にまとまった多国籍風味フォークロックといった印象。後の佐藤凖プロデュースの3rdアルバムがオブスキュア・シティポップの名盤であるため、どうしてもそういった世界を期待してしまいますが、ここでの音楽性はまったく異なっています。強いて言うなら、10,000マニアックスやナタリー・マーチャントなどの音楽に日本的湿性を加えまくった、みたいな感じです。ボーカルのyachiyoの声も麗しく、そういう耳で聞けば悪くはないように感じますが……。抽象的(だけどオーガニック)なジャケットもいかにもこの時代のオルタナティブなフォークロック風。

 

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アーティスト:LANPA
タイトル:世界の秘密
発売年:1992年
レーベル:テイチク
購入価格:167円
購入場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:上述の1stに続く2nd作。こちらのプロデュースはムーンライダーズ岡田徹が担当。ということで、前作の端正すぎる作りから一歩前進し、ややひねりを交えたオルタナティブ(風)フォークロックとなっています。ですが、メロディーに内蔵された歌謡性はあいかわらず拭い難く、モダンポップ〜ニューウェイブ職人たる岡田をもってしても、仕上がりからモサモサした印象を取り除くことが難しかったように思います。アレンジや音像面ではya-to-iにも通じるところがあり、おっと思う瞬間もないことはないのですが…。なにはなくとも、このバンドについては次作にしてラストアルバムの『画家の恋人』を最優先に購入されることをおすすめします。


次回へ続く…。

CDさん太郎 VOL.24 2020/1/7〜14購入盤

 こんばんは。今回は、2020年1月7日から14にかけて東京・新宿と吉祥寺で購入したCD計13枚を紹介します。
 本シリーズ「CDさん太郎」要旨、並びに凡例は下記第1回目のエントリをご参照ください。

shibasakiyuji.hatenablog.com

 

 

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アーティスト:荒木和作&やまだあきら
タイトル:和作
発売年:2000年(オリジナル:1974年)
レーベル:スカイステーション(オリジナル:トリオ)
購入価格:650円
購入場所:ディスクユニオン新宿中古センター
寸評:ミッキー・カーチスがプロデュースを担当したフォーク系デュオの唯一作(トリオ)を、後年スカイステーションが紙ジャケCD化したもの。喫茶ロック・ブームなどを経て元々数のなかったアナログ盤が高騰して久しいこともあり、長いことCDを購入したかった作品なのですが、この度帯なし安価で購入しました。ミッキー・カーチス制作のフォーク系というとガロなどを思い起こさせるわけですが、まさしくそういった風情を感じさせます。しかしながら彼らの素晴らしいところは、なによりもその洗練されたメロディーにあるかと思います。エミット・ローズやトッド・ラングレンアメリカ、パイロットなどを彷彿とさせるビートルズ(というかポール・マッカトニー)直系の作風で、そのあたりの音楽が無条件的に好きな私にとってはたまらないものがあります。ガロよりもおしゃれ、チューリップよりも控えめ、みたいな感じでしょうか。この作品、例の『レコード・コレクターズ』のシティポップ特集号でもルーツ・オブ・シティポップ的な感じで紹介されていましたが、一部曲でのメジャー7thコードの効果的使用など、たしかにそういう風に捉えることも可能かと思います(もちろん、後年のシティポップにくらべるとアレンジからなにから大分地味ですが……)。

 

 

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アーティスト:浅井ひとみ
タイトル:Dear Friends
発売年:1993年
レーベル:アポロン
購入価格:200円
購入場所:ブックオフ新宿西口店
寸評:CHAGE率いるMULTI MAXにも参加していた女性ボーカリスト浅井ひとみによる、1stアルバムに続くミニ・アルバム。ファーストではラテン・フュージョン的なテイストのナイス・ヴォーカル作(私は未聴)らしいということを見知っていたので、この作品もそういった路線なのかなと思わせますが、さにあらず、実直なウェスト・コースト・ロック風。実際にイーグルスの「デスペラード」のカヴァー入り。バラード系が多くてちょっと私の趣味からは外れる感じなのですが、難波正司、瀬尾一三山川恵津子といった編曲家が堅実な仕事をしており、なかなか聴かせる内容ではあるかと思います。なんだろう…カーラ・ボノフとかのアルバムを聴いているときに近い感覚というか…。歌も非常に上手い。クローザーはベット・ミドラー「ザ・ローズ」の、これま実に実直なカヴァー。一曲くらいキラーなアップ曲が入っていてほしかったなという感想。

 

 

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アーティスト:伊藤公朗&美郷
タイトル:ヤトリ
発売年:2000年
レーベル:ANJALI
購入価格:200円
購入場所:ブックオフ新宿西口店
寸評:1977年にガンジス河源流のヒンズー教聖地バドリーナートにて聖者ナーダヨギに弟子入りし、そこからシタールによる北インド伝統音楽の徒として現地で修行、85年の帰国後からは長野県松本市を拠点に演奏活動を広げる音楽家、伊藤公朗。これはそんな彼がパートナーの歌手・美郷氏(この方も70年代なかばから世界を巡遊する生活をしていたという)と共に制作したファースト作です。シタール音楽は巨大なジャンルであるゆえ、おいそれといっちょ噛みできない深大さがあるわけですが、このCDはあの著名ジャズ・トランペッター近藤等則氏の名前がクレジットされており、これは!と思い購入。果たして、相当に良質な内容でした。タブラや二胡チベタン・ベル、ウードなどによるアコースティックな編成の曲もとても良いのですが、やはり特筆すべきが①や④といった、近藤等則のエレクトリック・トランペットとシンベが絡んでくる曲。よくあるニューエイジの陶酔的/耽美的な様相を超えて、ドープ極まりない世界が作り出されています。ヴォーカリストとしての美郷氏も素晴らしく、過度な抹香臭さを避け、透徹した印象の歌声を聴かせてくれます。ジャケットもちょうどいいスピリチュアルさですね。

 

 

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アーティスト:横澤和也
タイトル:音霊のむすび
発売年:1992年
レーベル:Infini,e
購入価格:200円
入手場所:ブックオフ新宿西口店
寸評:大阪芸術大学演奏学科フルート専攻出身の横澤和也による独奏CD。というのは購入してCDを再生してから気づいたことで、普段石笛なども能くする氏とのことなので、様々な笛の音色が入り交じる多重録音作かと早とちりしていました…。実際はこれフルート一直線のコアな内容。ブックレットに宮下富美夫氏のコメントが寄せられているのですが、その通りかなりヒーリング・ミュージック的な作りで、独奏といえどもクラシカルなテクニックを披露するわけでもなく、フレーズとしてはむしろ尺八や石笛の演奏のような和テイストに貫かれています。相当にストイックな内容ゆえ、あまり繰り返し聴く気持ちにはならないのですが…。ハード・ニューエイジですね。

 

 

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アーティスト:渡辺慎
タイトル:Voices to your heart
発売年:1990年
レーベル:バップ
購入価格:200円
入手場所:ブックオフ新宿西口店
寸評:『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』掲載作です。80年代半ばから鈴木聖美森川美穂などに楽曲提供活動をしていたシンガー・ソングライター渡辺慎平によるデビューアルバム。シティポップ界には山下達郎角松敏生など、構築的なスタジオワークに没頭するタイプのクリエイターが少なくないわけですが、彼もそんな系譜に置くことのできる存在でしょう。作曲/アレンジはもちろん、すべての楽音を打ち込み制作するという念の入れようで、まさしく今2020年に聴きたい感じの楽曲がパンパンにつまった名作といえるかと思います。キラーは①と②でしょうか。アルバム後半に進む従い、思い切り山下達郎マナーのミディアム〜メロウがつづき、それらも素晴らしいです。メロディー・メイカーとしてもなかなかの才気で、このセンスの持ち主が(おそらく既にこういうシティポップ的意匠自体が時代遅れになりつつあったこともあいまって)数作で表舞台から消えてしまったのはかなり残念に思います。現在のDAW環境において彼がどんな曲をつくるのか想像するのも楽しいところ。

 

 

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アーティスト:Edison Band
タイトル:B・G・M〜効果音楽全集〜
発売年:1991年
レーベル:ビクター
購入価格:510円
入手場所:ブックオフ新宿西口店
寸評:本ブログで幾度か登場した『効果音』ならぬ『効果音楽』集。要はホーム・ビデオやアマチュア劇等の劇伴音楽としての使用を企図して販売されたもので、海外でいう音効プロ向けの「ライブラリー」系音源の一般普及版的な立ち位置の音楽です。ご想像の通り、はなから批評的視座をもって鑑賞するという想定から外れた音楽なわけですが、かつてレア・グルーヴのディガーたちが70年代のライブラリー音源から綺羅星の如きブレイクを発見したように、我々もこうした実用CDから素敵なライト・メロウ〜バレアリック〜ニューエイジ音源を発掘しつつあります。この実用音楽ジャンルは、概ねキングレコード制作によるものが大半を占めている印象だったのですが、同じく老舗ドメスティック・メジャーであるビクターからもCDがリリースされていたのですね。キングレコードの方は、おそらく外部音楽制作会社等の謹製で匿名性が高いものなのですが(一部で柳田ヒロなどが参加している作品もあります)、こちらのビクター盤は、秋川雅史の『千の風になって』の編曲や森昌子との仕事、はてはDJ KRUSHとのコラボレーションでも著名な音楽家Edison氏を起用しています。店頭で本作を発見した際、作者クレジットに「Edison Band」とあるので、まさかあのEdison氏のことかな…?と恐る恐る買ってみたのですが、実際に聴いてみると、これはほぼ間違いなく氏の仕事ではないか、と推察します。春夏秋冬の各シュチュエーションに沿って、相当に素晴らしいシンセサイザーによる各種BGM全70曲が矢継ぎ早に現れるさまは、なかなかに圧巻。フュージョンアンビエント、サンバ、ポップ・インストゥルメンタル、レゲエ、ネオ・クラシカルなど、良質音源の宝庫(スーパーのBGMの高級版)。いくつかの曲では、トリガーを駆使したサンプラー使いが絶妙なヒップホップ感を演出し(㉗はまるでマーリー・マール)、効果音楽というジャンルに新鮮な風を吹き込んでいます。名盤。

 

 

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アーティスト:MILLIE
タイトル:MY BOY LOLLIPOP AND 31 OTHER SONGS
発売年:1994年
レーベル:Combo Records
購入価格:200円
入手場所:ブックオフ新宿西口店
寸評:以前売ってしまったものの買い直し盤です。UKをはじめ当時の世界へ(日本盤EPも出ていた)スカという音楽を知らしめたミリー・スモール、ならびに彼女の大ヒット曲「マイ・ボーイ・ロリポップ」。64年の本曲を皮切りに、当時のモッズ族を中心に絶大な支持を集めることになった彼女の音楽は、今あらためて聴くと本国のスカから離れてかなりポップ(R&B)に振り切ったものに聴こえますが、これこそが得難い味わいであって、私のような60年代イギリスにおけるユース・カルチャーがめちゃくちゃ好きな人間からすると、たまらない魅力なのでした。このCDは、そのミリーの数ある曲を32曲も収録した(今もかつても)決定的なベスト選集とされているものです。若干怪しげなドイツのレーベル発なのですが、マスタリングも特に問題なく、楽しく聴くことが出来ます。ひたすら明るい。ありがとうございます。

 

 

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アーティスト:珉珉
タイトル:MING MING
発売年:不明(1990年前後?)
レーベル:MING MING MUSIC
購入価格:167円
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:「#ネットに情報がないCD」です。検索しても餃子屋さんしか出てきません。こういうものを店頭で発見してしまうとどんなに正体不明だろうと(というかそれがイイわけですが)完全に当てずっぽうに買ってしまうのでした。ジャケットからもまったく音楽性が想像できませんし、もしかしたら未発見のオリエンタル・ニューエイジか?とのかすかな期待を抱いて……。で、家に帰って再生してズッコケるといういつもの流れ。もろハードロック(調の歌謡曲)でした。そうなると完全に私の趣味外……。いかにも「当時のハード・ロック好きの素人達がわいわいやっている」(コアなメタル風じゃないところがアレ)という、なかなか現在の聴取感覚からは評価すべき点を見出しづらい作品でした。バンド名に現れている通り、歌詞はなぜか中国〜台湾をテーマとしており(メンバー名を見るとそららの国出身者は居なそうですが……)、意味不明。ミックスも隙だらけで、各曲のマスタリング・バランスもバラバラなのですが、演奏はやけにうまくて興味深いところですね。一昔前の御茶ノ水楽器店街の試奏コーナーから聴こえてきそうなテクニカルなギターが全編にフィーチャーされています。

 

 

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アーティスト:Euphoria
タイトル:S.T.
発売年:1989年
レーベル:メルダック
購入価格:100円
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:同名のアクトが各国色々と存在しますが、これは包国充、ロミー木ノ下、樋口晶之とう竜童組のメンバーを中心としたフュージョン・バンドの1stアルバム。キーボードには羽毛田丈史も参加しており、これだけの手練が集まればその内容も保証されようというもの。全体に非常にそつのない演奏が繰り広げられ、アレンジも実に堅実なもの。個人的にはもうちょっと電子音楽(打ち込み)に寄っていたり、ポスト・プロダクションに凝っていたり、ダルでチルなものが好きだったりするですが、こういう安心感もまた良いのではないかなと思いました(それゆえ、BGMとしての練度は非常に高いと言えます)。

 

 

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アーティスト:Henry Jacobs Vortex
タイトル:Electronic Kabuki Mambo
発売年:2002年(オリジナル:1959年)
レーベル:Locust Music(オリジナル:Folkways)
購入価格:167円
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:1959年にフォークウェイズからリリースされた初期電子音楽名作『Highlights Of Vortex』を、アラン・ワッツ作品等のリイシューで知られるロカスト・ミュージックが2002年に再発したものです。実をいうと、フォークウェイズのカタログというのはサブスクリプション・サービスで全て聴くことができるのですが、「こんな再発盤が出てたんだ!」という驚きで(めちゃくちゃ安かったこともあって)つい買ってしまったもの。内容についてはここで私がどうこういうまでも無いアヴァンギャルド名作なのですが……。映像作家ジョーダン・ベルソンと共にサンフランシスコのモリソン・プラネタリウムで開催された音と映像のイベントでの上演記録盤ということで、スタジオ作にはない丁々発止の生々しさが魅力といえるでしょうか。個人的にはやはりリズム楽器が加わった曲が面白く、現在のIDMに脈々と続くようなメカニカルかつグラフィカルな電子音楽美学がこの時点で萌芽していることに驚きを覚えます。ジョン・アップルトンとかよりとっつきやすい、言うならば、「かわいいアヴァンギャルド」。

 

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アーティスト:Richard Burmer
タイトル:Across the View
発売年:1989年(オリジナル:1989年)
レーベル:東芝EMI(GAIA RECORDS)
購入価格:100円
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:リチャード・バーマーは米国のニューエイジ系音楽家で、これは彼の4枚目のアルバムにあたる作品。表題曲がJ-WAVE開局時の初オンエア曲に選ばれたことにあわせて、オリジナル・リリースの翌年に日本発売されたのがこのCDということになります。なぜJ-WAVEがこの曲をチョイスしたのかよくわかりませんが、なんとも当たり障りのないシンセサイザーによるニューエイジ曲。まあたしかに当時の感覚からすればまっとうなピックアップだったのだろうなと想像します。一時期は同名の番組も存在しており、J-WAVEにとってこの曲の重要性は非常に高いものだったようですが、移ろう時代につれて今は番組も終了、放送内で度々使用されていた同曲も今ではほとんど使われなくなっているようです(今でも日曜夜のインターバル・シグナルでまだ使われているらしい?)。本作の他曲についても、同じように非常にチージーニューエイジがほとんどなのですが、時折はっとするような美しい純アンビエントが収録されているので油断がなりません。特に④は素晴らしい。

 

 

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アーティスト:斉藤さおり
タイトル:FOLLOWING MY HEART
発売年:1988年
レーベル:ソニー
購入価格:290円
入手場所:ブックオフ吉祥寺店
寸評:近年はアニソン界隈での活動を行ってきた、後の麻倉あきらこと斉藤さおり。デビューは86年と古く、ガールポップ・ブームと女性ロッカー・ブームの双方を股にかけるような音楽送り出した方です。かつてソニーのユーザー投票性リイシュー企画「オーダーメイドファクトリー」で、エントリー後過去史上最短の約2日でベスト盤の商品化が決定するなど、今も変わらず一部に熱狂的なファンがいる方。私はロマンティックモードのメンバーとして(麻倉晶名義)として彼女のことを知っている程度だったのですが、偶然見つけたこのソロCDについてDiscogsのジャンル登録をみてみると「Disco, Boogie」とあるではありませんか。なので、これは是非買わねば、と思い購入。果たして……全然ディスコでもブギーでもないじゃん!という……。時々オッと思わせるアレンジもあるのですが、渡辺美里葛城ユキ寄りにした感じというべきか、いずれにせよロック色がギンギンで、今の感覚で聴き通すのはなかなかに辛いかなというところです……。それにしてもDiscogsの「Disco, Boogie」というジャンル表記、これまでにも何度か騙されたことがあるので、信頼しないほうがいいです…。

 

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アーティスト:西村直記
タイトル:UWFインターナショナルに捧げるー キング・オブ・ファイター
発売年:1993年
レーベル:ポリスター
購入価格:510円
入手場所:ディスクユニオン吉祥寺店
寸評:以前に本『CDさん太郎』のVol.20にも登場したコンポーザー/シンセストの西村直記氏。極めて壮大で思い切りニューエイジな作風の方だけに、ポリスターからデビューしていたというのが意外に感じるわけですが、更にこんな作品を残していたことに一層の驚きを感じる次第です。高田延彦UWFから分裂し立ち上げたプロレス団体UWFインターナショナルのために書き下ろした楽曲集ということなのですが、一体全体どういう経緯で西村氏が本作を担当することになったのでしょうか。氏自身もそのあたりの戸惑いめいた気持ちをライナーで吐露しており面白いのですが、その音楽も普段の作風とは全くかけ離れており、ほとんどが「あの頃」の類型的なHR/HM調をなぞったような鋭角的な曲ばかり……ということでかなり聴き通すのが辛いのですが、おそらく当時のリングでも実際に使用されていたものだと思うので、これはこれで正解だったのでしょう。ボーカルには茂村泰彦、河野陽吾らが参加し、シャウトしています。ただ一曲、オープニングトラックの①はDAFのようなインダストリアルなシンセ・ウェイヴ調でなかなか面白いです。

 

次回へ続く…。