NEW DISC REVIEW + INTERVIEW【MESSIAH : CHRISTUS HYPERCUBUS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH R.B. BROGGI OF MESSIAH !!

“The Way To School In 1987 In The Fucking Cold Was One Of Them. As Simple As It Sounds – We Were Pissed Off By This Cold Winter. And What Could Be More Fitting Than Putting a Polar Bear On The Cover?”

DISC REVIEW “CHRISTUS HYPERCUBUS”

「1987年はまだ本当に寒かったから!標高の低いところではまだ雪が残っていて、本当に凍えそうだった。それが唯一の理由だよ。単純明快だ。僕たちは、自分たちが感動するトピックについて音楽を作っていたんだ。1987年のクソ寒い通学路もそのひとつだった。単純に聞こえるかもしれないが、僕らはこの寒すぎる冬に腹を立てていた。そして、シロクマをジャケットに載せること以上にふさわしいことがあるだろうか?と思いついたんだ。もちろん、ドクロじゃない!僕らは生きたかったからね!ははは。これがカルト的なアルバムやジャケットになるとは夢にも思わなかったよ。今ではそうなって、その間に世界は暖かくなった」
長くメタルを聴いていれば、必ず目につく一枚のアルバム。MESSIAH の “Extreme Cold Weather”。長いメタル史においても、キョトンとしたシロクマが氷河で佇むジャケットはおそらくこれひとつだけでしょう。気候変動を憂うには早すぎる1987年。”温度計は零度以下” “俺のロン毛が帽子のかわり” “隣のババアも凍ってる”。彼らはただ、寒すぎるスイスの冬にイラつき、シロクマにその激しい怒りを代弁させました。
ただし、唯一無二なのはそのジャケットだけにあらず。グラインド・コアやドゥーム、そしてブラック・メタルまで先取りした荒唐無稽なスラッシュ・メタルもまた、1987年には早すぎた実験。しかし、地球の温暖化と共に溶け出したジャンルというメタルの氷は、いつしか MESSIAH と “Extreme Cold Weather” をカルト的な存在へと押し上げていたのです。
「昔も今も変わらないもの、つまりメタル・ファンとしての情熱と、創造的であり続けたいという願望のおかげで続けられている。MESSIAH が2018年に再結成を行ったのは、ただ自分たちの栄誉に安住するためではない。忠実なファンは、この静かな年月の間、決して MESSIAH を忘れてはいなかった。だからこそ、もちろん、ライブでは昔の名曲を演奏する。でも、僕らのようなバンドにとってはそれが綱渡りだとしても、新しいこともやりたいというのは最初からはっきりしていた。その価値はあったと思う。ファンのためにも、自分たちのためにもね」
シロクマから40年近くの月日が経ちましたが、あのころの尖りきっていた MESSIAH は今も健在です。いや、むしろ音楽的な成熟とバンドに降りかかる苦難の数々が、MESSIAH の先鋭性を際立たせたと言っても良いでしょう。20年の沈黙、ボーカリスト Andy Kaina の死、ドラマーの負傷を経てリリースした “Christus Hypercubus” はメタルの回復力で力を得た明らかな最高傑作です。
「僕はよく実験するし、音楽制作や作曲、アレンジなどの通常のルールにこだわることを自分に許さないんだ。自分の感情に身を任せるんだよ。僕は通常、まず伝えたいことのテーマと大まかな歌詞を練り上げる。それからギターを弾き始める。最初のクオリティやリズムの定石、論理的なアレンジなどは気にせず、非常に素早く行う。ただ、出てくるアイデアに身を任せてね。最初はとても混沌としているから、バンドに持ち込むとそう簡単にはいかないこともあるけどね」
結成から40年を経たバンドが、これほど攻められるものなのか?マイクロトーンや不条理なハーモニクスを自在に操るギタリスト R. B. Broggi がもたらすものは、まさに混沌。スラッシング・マッドネス。同郷の CORONER ほどテクニカルでもプログレッシブでもなく、CELTIC FROST ほど陰鬱ではない、まさに実験の果ての混沌はあまりにもカタルシスで魅力的です。そしてその無秩序にも思える混沌は、二進法のデジタルがアートの世界にまで進出したインスタントな現代を、十二分に嘲笑う古強者のリベンジに違いありません。時折登場する、DEATH のようなメロディーも至高。
今回弊誌では、R. B. Broggi にインタビューを行うことができました。「メタルは単なる音楽ではなく…人生に対する情熱なんだ。MESSIAH は常に困難な状況に取り憑かれたバンドだ。例えば、20年以上経ってから新しいアルバム (Fracmont) を作ることになったり、それがパンデミックと重なったり…。それでもね、”Christus Hypercubus は今、さらにエネルギーとスピードに溢れ、未来への準備が整っているんだ」 どうぞ!!

MESSIAH “CHRISTUS HYPERCUBUS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WOMBAT SUPERNOVA : APEWOMAN VS TURBO】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH WOMBAT SUPERNOVA!!

“Math Rock And Prog Metal. These Genres Can Go In Similar Directions But As They Come From Really Different Worlds, They’re Not Really Meeting Each Other That Often.”

DISC REVIEW “APEWOMAN VS TURBO”

「マス・ロックとプログ・メタル。そのふたつのジャンルは似たような方向に進むことができるけど、本当に違う世界から来たものだから、実際はお互いに出会うことはあまりないんだよね。僕らのプロジェクトは、DREAM THEATER や HAKEN ようなプログ・メタルの大ファンで、でもマス・ロックを作りたかったから、その両方を組み合わせることにしたんだよ」
マス・ロックとプログ・メタル。両者共に、複雑怪奇な奇数拍子と難解なテクニックを心臓としながらも、決して交わることのなかったジャンルたち。それはきっと、エモ/スクリーモとメタルという大きく離れた場所から進化をとげてきたせいでしょう。しかし、フランスのウォンバットとエイプウーマンは、ユーモアでその壁をとりはらいます。
「僕はいつも不思議だったんだ。マス・ロックは当然、プログレッシブで面白いことを期待していた(そしてそれを望んでいた)のだけど、実際にはシリアスでエモい側面が、僕が思っていたよりもずっとシーンで優勢であることを知って驚いたね」
おそらく、マス・ロックとプログ・メタル最大のちがいは、音楽的な “深刻さ” である。そう信じていたウォンバットこと Lulu は、実際のマス・ロックシーンのシリアスさに驚き、違和感を感じます。同じくらいシリアスなら、大好きなマス・ロックとプログ・メタルが出会わない手はない。しかも、そこにユーモアやハッピーな感情を織り込んだらどうなるんだろう?そこから、WOMBAT SUPERNOVA の冒険がはじまりました。
「僕はいつも任天堂の大ファンボーイで、僕らの音楽はマリオカートのサウンドトラックにすごく影響を受けていると思う。全体的にはちょっと微妙なんだけど、”Bertrand” のコーラスのようにはっきりわかることもある。僕ら2人とも、大乱闘スマッシュブラザーズ・アルティメットとそのOSTの大ファンでもあるんだ」
“Bertrand” は、まさにそんな “最高にキュートで、最高にハッピーで、最高におマヌケなマス・ロック” を標榜する彼らを象徴するような楽曲。ハイパーなイントロのタッピング・リフに、MESHUGGAH も顔負けのブレイクダウン。そのふたつをつなぐのが、感染力増し増しのアニメチックで爽快なメロディなのですから、前代未聞のマスプログハッピーミュージックはとどまるところをしりません。
「どうやら僕らの音楽のおかげで、暗いことがあっても楽しくハッピーな気分で生活できるようになったみたいなんだ。このプロジェクトは、以前は僕らが楽しむために作ったものだったけど、もしこのプロジェクトがみんなに良いバイブスを与えることができたなら、僕たちは本当に嬉しいよ」
音楽は、それがネガティブな感情であれ、ポジティブな感情であれ、リスナーの心に寄り添うもの。そうして、リスナーの心の壁を溶かしたウォンバットは、カントリーからジャズ、そして場違いなブラストビートの連打までカオティックに音楽で未曾有のサーカスを演じ続け、ジャンルの壁をも溶かしていくのです。
今回弊誌では、WOMBAT SUPERNOVA にインタビューを行うことができました。”バンドのアイデンティティにウォンバットを選んだのは、かわいい動物だし、小さなキャラクターだし、その中の一匹が “ベルトラン” (明るくてかわいくて賢い) だったから” どうぞ!!

WOMBAT SUPERNOVA “APEWOMAN VS TURBO” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CHET THOMPSON : STRONG LIKE BULL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHET THOMPSON !!

“On The Piano The Bass Lines Are Played With The Left Hand And Treble Lines Are Played With The Right Hand. I Had To Turn The Guitar Upside Down On Its Headstock So I Could Tap Out The Lines The Same Way a Pianist Would.”

DISC REVIEW “STRONG LIKE BULL”

「僕のサウンドは、人と違う音を出したいという欲求から生まれているんだ。僕のギターはアクションが高く設定されていて、とても弾きにくいんだ。アクションを低く設定すると、他の多くのプレイヤーと同じような演奏になってしまうからね。僕はスケールやアルペジオ、弦のスキッピングをとても速く弾けるから、もし弾きやすいギターを自由に弾かせたら、他の人と同じようなサウンドになってしまう。だからその代わりに、自分が欲しいトーンを得るためにギターと戦わなければならないようにしている。自分にとって弾きにくいギターを作るんだ。もしそれが、太いトーンのためにリードの流動性を犠牲にすることを意味するなら、そうすればいいとね」
SNSやストリーミングの普及によって、ギターの探求はより身近で、簡単なものへと変わりました。音や弾き方の正解がそこかしこにあふれる世界で、ギターの敷居はかつてないほどに下がり、誰もが最速で上達できる環境が整っています。しかし、正解だけが、効率だけが、ステレオタイプだけが求められるギター世界は、本当に魅力的なのでしょうか?
「1980年、兄がピアノでモーツァルトを弾いているのを聴いているときに、逆さ両手タッピング奏法を思いついたんだ。ピアノでは低音は左手、高音は右手で弾く。だから私は、ピアニストと同じようにラインをタッピングできるように、ギターのヘッドストックを逆さまにしなければならなかったんだよ」
Randy Rhoads の弟子として知られる Chet Thompson は、決して効率的なギタリストではありません。ギターは重くて速弾きに向かないレスポール。太い弦を張り、さらにその弦高をわざと高く設定して、流動性を犠牲にしながらファットなトーンを追求します。それはギターとの戦い。効率や正解などクソ食らえ。自分が思い描いた理想を具現化することこそがギタリズム。そこから生まれる個性こそがギターの楽しさであり、多様性。そうして、Chet の類まれなる個性、反効率の精神はついにギターを担ぐことに集約しました。
ギターをピアノに模して弾く。Stanley Jordan をはじめ、両手タップでギターを奏でるプレイヤーは何人かいます。しかし Chet はそれだけでは飽きたりません。ピアノと同様、右手で高音を、左手で低音を奏でるためにギターを肩へと担ぎ上げたのです。効率は最悪でしょう。誰もそんなことはやりません。しかし、誰もやらないからこそ意味がある。すぐに彼の音だとわかる。それは、今のギター世界から失われてしまった魔法なのかもしれません。
「Youtuber から音楽を学ぶことについてどう思うか、という質問に対する僕の答えは簡単。ただ楽しんで曲を覚えるだけならいいけど、自分のスタイルを作りたいなら、自分だけのサウンドとスタイルを作る長い旅に出なければならない。Randy Rhoads はいつも、彼から学んだことを自分のものにしなさいと言っていた。だから、Randy のそのアドバイスを受けとることを勧めるよ」
妻の死に衝撃を受け、セラピーのため久々にギターを手に取り生み出したソロアルバム “Strong Like Bull”。アルバムには、喪失に打ち勝つ牛のような強さと共に、教えを受けた Randy Rhoads, Eddie Van Halen の哲学が織り込まれています。Djent やギターの進化を認めながらも、記憶に残るソロや耳に最も心地よいノーマルチューニングでのグルーヴにこだわる Chet のギタリズムは、よりポップに、流麗に、その歌声と共に明らかな進化を遂げています。実際はそんなにギターを担がないけれど、それでも十二分に個性的かつ魅力的。あの時代にこれをやっていれば、また違う未来もあったのかもしれません。それでも Chet はまだギターを置いてはいません。もしかすると、それだけで十分なのかもしれませんね。
今回弊誌では、Chet Thompson にインタビューを行うことができました。「Randy に学んでいたとき、ジャムったときにとてもクリエイティブなリードを思いついたから、彼に最高の生徒だと言われたんだ。どうやってアイデアを思いつくのかと聞かれたから、クラシック・ギターも勉強していると答えたよ。すると彼は目を輝かせて、そのクラシック・ギターの先生を紹介してくれと言ったんだ。僕は Randy にクラシック・ギターの先生を紹介し、彼はその先生に師事することになった。だから Randy の Ozzy とのプレイや、HELLION の “Screams in the Night” のレコードに収録されている僕の曲のいくつかには、クラシックの影響が見て取れるわけさ」 どうぞ!!

CHET THOMPSON “STRONG LIKE BULL” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【METAL DE FACTO : LAND OF THE RISING SUN PART.1】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ESA ORJATSALO OF METAL DE FACTO !!

“Power Metal Is The Pinnacle Of Music. It Is Music De Facto, Metal Music De Facto… And From There It Came, Metal De Facto!”

DISC REVIEW “LAND OF THE RISING SUN Pt.1”

「パワー・メタルは音楽の最高峰だということだ。これこそが真の音楽であり、真のメタルだとね…そしてそこから生まれたのが METAL DE FACTO だったんだ!パワー・メタルが再び大衆の意識の中で正当な地位を取り戻すことを願っているんだ!」
魅力的なアートを生み出すために最も必要なのは、好きを突きつめることかもしれません。フィンランドが輩出したパワー・メタルの秘宝 METAL DE FACTO は、その音楽も、そのテーマも自らの好きを貫き通して、情熱の炎で新たな傑作を世に産み落としました。
「たしかにパワー・メタルは、2000年代初頭の全盛期を過ぎると、世間のレーダーから姿を消したように思えたけど、完全に姿を消したわけではなかったと思う。ファンやミュージシャンは、かつてほどの人気がなかったにもかかわらず、パワー・メタルを存続させた」
そう、かつて、パワー・メタルはヘヴィ・メタルが揶揄されるマンネリの象徴でした。”すべてが予定調和で、同じに聴こえる”。そんな逆境中でも、パワー・メタルを愛し、その可能性を信じ続けた STRATOVARIUS, BLIND GUARDIAN, GAMMA RAY, HELLOWEEN といった不屈の魂は、いつしかこのジャンルを豊かで実り多い大地へと変えていきました。METAL DE FACTO は彼らの背中を見て育ち、追い求め、そしてついには同じ舞台、同じ高みへと到達しました。
フィンランド訛りが郷愁を誘う Tony Kakko のような歌声、Steve Harris への憧憬が愛しいベース捌き、疾走するツインリードに Jens Johansson 印の眩いキーボード。”Make Power Metal Great Again” を掲げる彼らの眼差しには、パワー・メタル・マニアックスが求めるものすべてが克明に映し出されているのです。
「大学で民族音楽学を専攻していたとき、ゼミで日本の芸術音楽について研究していたんだけど、日本人がフィンランドのアーティストをどう受け止めているか、フィンランドのメディアがフィンランドのアーティストの日本公演をどう報じているかについても研究したんだ。そう考えると、日本についてのアルバムを作るのはとても自然なことだったと思う」
そうして METAL DE FACTO は、パワー・メタルという暗い現実を薙ぎ払うファンタジーにも好きを貫きます。テーマに選んだ天照大神、赤穂浪士、元寇。それは、Esa Orjatsalo が人生で憧れ続けた日本の歴史や神話そのもの。そうして彼らは “Land of the Rising Sun” “日出る国” と第打ったアルバムで、愛する日本とパワー・メタルの今の姿を重ねます。沈んだ太陽。しかし日はまた必ず昇る。そう、権力や多数派に惑わされず、私たちが好きを貫き続ければ。可能性を信じ続ければ。
今回弊誌では、Esa Orjatsalo にインタビューを行うことができました。「”社畜”。この歌は、権力を得るために会社(または主人)に人生を捧げ、大成功を収めたものの、心の中は空虚で、権力なしで人生がシンプルだった時代を懐かしむ人の物語だからね。また、この曲には、何を望むかには注意しなさい、それは実際に望むものではないかもしれないというより普遍的なテーマもあるんだよ」 どうぞ!!

METAL DE FACTO “LAND OF THE RISING SUN PT.1” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BIRD PROBLEMS : FLIGHT OR FLIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MICHAEL SMILOVITCH OF BIRD PROBLEMS !!

“In Terms Of Math, There Have Definitely Been Times Where Daniel and Joseph Have Sat Down With a Calculator To Write a Complex Rhythmic Section!”

DISC REVIEW “FLIGHT OR FLIGHT”

「MESHUGGAH と TOOL からは、PERIPHERY, TesseracT, THE CONTORTIONIST のようなバンドと同様に、大きなインスピレーションを得ている。作曲をするときは、常に自分たちの好きなものから影響を受けているんだ。数学に関しては、Daniel と Joseph が電卓を持って複雑なリズム・セクションを書いたこともよくあるんだ!」
マスマティカル、数学的なメタル。そもそも音楽とは非常に数学的なものですが、特に複雑な奇数拍子やポリリズムを駆使したメタルがトレンドの一角に躍り出て以来、メタルの方程式はより多様で、色とりどりの解を持つようになりました。モントリオール出身の BIRD PROBLEMS も、リスナーに複雑怪奇な方程式を出題し、様々な解法を引き出しながらメタルを前に進めるソクラテス。
「自分たちが好きな音楽をやりたかった。僕たちは常に自分たち自身に挑戦しようとしているので、何か新しい曲を書くときはいつも、まだ実際に演奏できないような曲を書くことが多いんだ。もっとポピュラーなジャンルで活動した方が楽なんじゃないかと思うこともあるけれど、それだと心が入らないのは分かっているからね」
スクロールやクリックするだけのインスタントな娯楽、SNSや切り取り動画、ストリーミングが蔓延る世の中で、長い修練と手間暇要するプログレッシブ・ミュージックは世界から取り残されているようにも思えます。実際、BIRD PROBLEMS のボーカル Michael Smilovitch も、ポップ・ミュージックで売れるほうが楽なのは間違いないと認めています。それでも、この複雑怪奇な音の葉を追求する理由。それはひとえにただ、好きだから。挑戦したいから。
「プログは複雑であっても意図的で、秩序があり、有限であるため、結局は安らぎを与えてくれる。最初は混沌としていて予想外に聞こえるけど、努力すれば必ずパターンを見つけ出すことができるし、その中で迷うことを楽しむこともできるんだ」
たしかに、プログレッシブ・ミュージックは世間の潮流とは真逆にあるのかもしれません。一回しか流行らなかった音楽かもしれません。しかし、それでもここまで生きながらえているのは、混沌と難解の中に安らぎや快楽があるからでしょう。プログレッシブ・ミュージックには、リスナーそれぞれの解法があり、迷う楽しみがあり、好きがあり、驚きがあり、解き明かした際の解放があります。
「リスナーが BIRD PROBLEMS の新曲を聴いたときに驚き、興味をそそられ、次に何が出てくるかわからないようにしたいんだよね。僕は文学的な分析をとても楽しんでいる。歌詞や詩をひとつひとつ分解して、それを本当に理解しようとする。自分の歌詞に関して言えば、基本的なテーマや感情を表面的に表現するだけでなく、そういうことが好きな人たちが分析できるような、深い意味や言及を含むパズルのようなものを作ることが目標なんだ」
彼らが “Bird Problems” などという奇怪な名を名乗るのも、結局は音楽の中に宿る個性と驚きを大切にしているから。大学で化学や文学を学んだことも、ANIMALS AS LEADERS とジャズを履修し “Djazz” と呼ばれることも、失楽園のような叙事詩に言及をすることも、アニメやゲームを愛することも、かたくなに鳥をテーマにすることも、すべては創造性という翼となって、ステレオタイプな音の巣から飛び立つための養分に違いありません。
今回弊誌では、Michael Smilovitch にインタビューを行うことができました。「僕は個人的に大のゲーマーで、ビデオ・ゲーム業界で働いているから、ゲームも研究対象なんだ!今年は日本のRPGにとって素晴らしい年。今プレイしているのは、”龍が如く8″と “ユニコーンオーバーロード” なんだ。僕の好きなビデオ・ゲームのほとんどは日本のもので、一番を選ぶとしたら “Bloodborne”だね」 NEXT PROTEST THE HERO。どうぞ!!

BIRD PROBLEMS “FLIGHT OR FLIGHT” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VALENTINO FRANCAVILLA : MIDNIGHT DREAMS】 RIOT 祭り 24!!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH VALENTINO FRANCAVILLA!!

“I Learned The Constancy From Riot, Do What You Love With The Heart And If You Persevere With Such Thing Someone Will Be Happy Listening Your Music Or Recognize You As Something Like Fresh Air In His Life Thanks To The Art.”

DISC REVIEW “MIDNIGHT DREAMS”

「RIOT から “不変であること” を学んだんだ。自分の好きなことを心をこめてやれば、誰かが自分の音楽を聴いて幸せな気持ちになったり、自分のアートで人生に新鮮な風が吹いたと認めてくれるだろう。そう、自分の好きなことを変わらずやり続ければね」
かつて、パワー・メタルはヘヴィ・メタルが揶揄されるマンネリの象徴でした。”すべてが予定調和で、同じに聴こえる”。そんな中でも、RIOT は己が愛するパワー・メタルをやり続けました。好きをやり続けることで RIOT のパワー・メタルは豊かに熟成されて、フォーキーだったり、メタリックだったり、エモーショナルだったり、テクニカルだったり、Valentino Francavilla が語るように時季折々の個性を醸し出すようになりました。多くの人の人生に救いや癒しをもたらしました。そして、パワー・メタルの復権と拡散、新たな才能の礎になったのです。
「RIOT は僕のヒーローであり、インスピレーションなんだ!16歳の頃、クラシックなオールドスクール・ヘヴィメタルのコンピレーションを聴いていて、”Thundersteel” が流れてきたんだ。最初のコーラスの後、”これが真のヘヴィ・メタルというものなんだ” と雷に打たれ、この素晴らしいバンドに恋をしたのさ!」
イタリアでメタルに目覚めた Valentino Francavilla は、RIOT の “Thundersteel” を聴いて文字通り雷に打たれたような衝撃を受けました。これこそが個性的で真なるヘヴィ・メタル。いや、真なるヘヴィ・メタルは個性的だと確信した Valentino は、そうしてギター、さらには歌の研鑽に励みました。WHITE SKULL で名を上げ、胸筋と SNS で火がつき、ついにはソロ・デビュー。そして7月にはここ日本で、RIOT V との共演が決定。彼もまた、好きをやり続けた結果、まさに “Midnight Dreams” が実現するのです。
「僕は何か新しいものを発明しているわけじゃない。僕が作曲したものは、人生の季節季節で耳にしたものから影響を受けた音楽だから。でも、僕は人の個性を本当に信じているんだ。人はひとりひとりがそれぞれ個性的だ。だから僕は、良いインスピレーションと影響、愛と独自性を持って、最高の音楽を作ろうとしたんだ!」
Valentino の言葉どおり、彼の音楽は決して真新しい革命的な何かではありません。とはいえ、彼の人生の四季折々を反映した、実に個性的で芳醇なパワー・メタル。たしかに、パワー・メタルには一定のフォーミュラ、型が存在しますが、そこに注がれるのはアーティスト個性であり、”好き” の源。つまり、個性を知り、音楽の色を積み重ねたアーティストにとって、そうしたフォーミュラは創造性の妨げにはならないのです。
「僕がステージで演奏するときに最初に考えるのは、目の前にいる人たちは新鮮な空気を吸って、人生を楽しむためにここにいるんだということ。こんな困難な時代だからこそね。ヘヴィ・メタルや音楽全般は、心理的な問題に対しても、本当に多くの方法で人々を助けることができると思う」
そうして Valentino のパワー・メタルは暗い世界の灯火となります。モダンで高度なテクニックと、クラシックなメタルのメロディ、そして積み重ねてきた音楽の色は雄弁に交合わさり、憂鬱や痛みをかかえる人々にひとときの癒しを提供し、新鮮な一陣の風を心に吹き込むのです。
今回弊誌では、Valentino Francavilla にインタビューを行うことができました。「LOUDNESS や X Japan のような日本のヘヴィ・メタル・バンドも大好きで、彼らからたくさん影響を受けたよ!Xの “Sadistic Desire” や LOUDNESS の “Crazy Doctor”, “Like Hell”, “In The Mirror”, “Heavy Chains” のようなリフが本当に大好きでね。彼らはいつも僕に夢を与えてくれたし、高崎晃の演奏も大好きだよ」 祭りには胸筋。どうぞ!!

VALENTINO FRANCAVILLA “MIDNIGHT DREAMS” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ELECTRIC CALLBOY : TEKKNO】 FOX_FEST 24 SPECIAL !!


COVER STORY : ELECTRIC CALLBOY “TEKKNO”

“You Listen To With Your Ears But Feel In Your Heart. You’d Never Predefine The Type Of Person You’d Fall In Love With, So Why The Songs?”

TEKKNO

「僕たちが考えた他の新しい名前はどれも間違っていると感じた。ESKIMO CALLBOY は10年以上僕らの名前だったから、新しい名前にするのは違和感があったんだ。でも、僕らにはバンドとしての責任があることは分かっていた。他人のことを気にしないバンドにはなりたくない。人々を分断したり分離させたりするのではなく、ひとつにまとめなければならないんだ」
長く親しんだ名前を変えること。それは容易い決断ではありません。大人気のバンドならなおさら。それでもドイツのヤング・ガンズは改名に踏み切りました。 彼らは “Eskimo” という単語を “Electric” に変更しましたが、これはエスキモーという言葉が北極圏のイヌイットやユピックの人々に対する蔑称と見なされるため。その後、彼らは過去のアルバムのアートワークを新名称で再リリースしたのです。
「僕は初めて父親になったが、すでに存在するバンドに新しい名前をつけるのは難しいよ。だから、僕たちは “EC” というイニシャルを残したかった。”エレクトリック” ならかなり流動的だったし、イニシャルも残っていた。そうでなければ、リブランディングは大きな問題になると思ったんだ。みんな受け入れてくれるだろうか?多くの不安があった。でも、たぶん受け入れられるのに1ヵ月もかからなかったし、みんなそんなことは忘れてしまったよ。この新しい名前はとてもクールだよ」

改名のタイミングも完璧でした。最新作 “Tekkno” のリリース前、ロックダウン中。彼らのインターネットでの存在感を通してファンとなった人たちは、”Hypa Hypa” で津波のような畝りとなります。何よりも、ネオン輝くエレクトロニック・ミュージックとメタルの鋭さは、人々が最も暗く、そしておそらく最も慢性的に憂鬱をオンラインで感じているときに必要なものだったのです。
この曲の大成功は、すでに5枚のアルバムをリリースし、新時代の到来を告げるドイツのグループにとって強力な基盤となりました。
ラインナップの変更も発生。クリーン・ボーカリストの Nico Sallach が加入し、それに伴いグループ内に新たなケミストリーが生まれました。Sallach ともう一人のボーカリスト兼キーボーディスト Kevin Ratajczak の間には紛れもない絆が生まれ、それは ELECTRIC CALLBOY のライブ体験の特別な基盤となっています。そんな絶好調の彼らを “ドイツ最大の輸出品” と推す声も。
「今は2年前のような、みんながすごく期待していたような感じではないんだ。パンデミックの間に高まっていたバブル(誇大広告)だよ」

バブルは弾けるものですが、この人気の津波は決して彼らが儚い泡のようなアーティストではなかったことを証明しています。極彩色をちりばめた “Tekkno” のリリースは、バンドにとってスターダムへの最後の後押しとなりました。
重厚なブレイクダウンと自信に満ちたメタルコアのリフ、大胆にポップへと傾倒した予測不能なボーカル・メロディ。”Tekkno” は、ELECTRIC CALLBOY にドイツで初のアルバム・チャート1位をもたらしただけでなく、ヨーロッパやイギリスの他の地域のアルバム・チャートでもトップ20の栄誉を与えました。
さらに、このアルバムはソングライター、プロデューサーとしての彼らの洗練された芸術性をも実証しました。曲作りからプロダクション、ビデオへの実践的なアプローチに至るまで、そこに彼らの一貫した意見と指示がないものはありません。
「僕たちはお互いを高め合っている」 と Ratajczak は言います。「多くのバンドは、プロデューサーとバンドの1人か2人で曲を作っている。でも僕らは、みんなで曲について話し合うんだ。みんな、自分たちのアイディアを持っている」

つまり、ELECTRIC CALLBOY は、バンドだけでなく、音楽的にも生まれ変わったと言っていいのでしょう。
「Nico を新しいシンガーに迎え、以前のシンガーが辞めたこと。これは新たなスタートであり、かつてのバンドの死でもあった。新しいスタートを切り、2010年に戻ったのだから、何が起こるかわからなかった。 でも、少なくとも “Tekkno” で何をしたいかはわかっていた。”再生” という言葉がぴったりだと思う。これが自分たちだと胸を張って言える。これが僕らの音楽なんだ」
“Tekkno” に込めたのは、純粋さと楽しさ。シリアスなテーマのメタルコア・バンドが多い中、より楽観的なサウンド・スケープにフォーカスして作られたこのアルバムで彼らは、たまには解放されてもいいと呼びかけました。
「人生でやりきれないことがあったら、そのままにして人生を楽しもう。自分のために何かをしよう。
バンドを始めたとき、僕らは20代半ばだった。パーティーと楽しい時間がすべてだった。他のことはあまり気にしていなかった。責任感もなかった。ただその瞬間を生き、楽しい時間を過ごした。それは音楽にも表れていた。
しかし、成功とともに責任も重くなった。僕はいつもスパイダーマンとベンおじさんの言葉を思い出す。”大いなる力には大いなる責任が伴う”。だから多くのバンドが、政治的なテーマであれ、その他さまざまな深刻なテーマであれ、シリアスなテーマを取り上げるようになる。
でも僕たちは、たとえ嫌な気分、仕事で嫌なことがあったり、配偶者とケンカしたりしたときでも、その状況から気持ちを切り離して、そのままにしておいて、楽しい時間を過ごしたり、映画を観たり、例えばエレクトリック・コアを聴いたり、ただ放心状態になったりすると、日常生活の問題に再び立ち向かえるほど強くなれることに気づいたんだ。哲学的に聞こえるかもしれないけど (笑)。でも、これは普通の行動だと思う。自分のために何かをする、自分を守るためにね」

“パーティー・コア” “エレクトリック・コア” というジャンルに今や真新しい輝きがないことは多くの人が認めるところですが、彼らは改名を機に、このジャンルに再度新たな命を吹き込みました。
「5人全員が同意して、またこのジャンルをやってみたいと思った時期があって、再び書き始めたんだ。
“Rehab” は悪いアルバムだった (笑)。好きな曲もあったけど、あれはひとつの時代の終わりだった。あのアルバムを仕上げるのは、ほとんど重荷だった。昔のシンガーと妥協点を見出すのは不可能に近かったから。もうスタジオには行きたくなかった。その結果、僕たちは以前のボーカリストと決別することになった。正直なところ、これは僕たち全員にとって最高の出来事だった。というのも、僕たちは皆、バンドを愛し、10年以上もこのために懸命に働いてきた。だからそれがすべて崩れ去ることを恐れていたんだ。
恐怖だけではなかった。どうやって続けるのか?ファンは新しいボーカリストを受け入れてくれるだろうか?僕たちは新しいボーカリストを受け入れるのか?言っておくけど、前のボーカルのせいにはしたくない。彼は彼自身のことをやっている。彼も同じ話をするだろう。その後、5人全員がスタジオに来て、”2010年のように音楽を作ろう” と言ったんだ」
THY ART IS MURDER, SCOOTER, THE PRODIGY が彼らの中で同居することは、それほど奇妙ではありません。
「僕たちは、ジャンルの境界線が難しいと信じたことは一度もない。もちろん思春期には、自分が何者で、何を聴くかによって自分がどう違うかを定義しようとするものだ。でもね、音楽に説明はいらない。耳で聴き、心で感じる。どんな人と恋に落ちるかは決められないのに、なぜ好きになる歌はジャンルで決めるの?」

ゆえに、ELECTRIC CALLBOY にとって “メインストリームになる”、あるいは “メインストリームに引き寄せられる” といった揶揄は、いささかも意味をなしません。それは彼らのインスピレーションの源は、ほとんど無限であるだけでなく、ブラックメタルやデスコアのようなジャンルに閉じこもるバンドが、現実的には世界人口の1%にも届かないことを痛感しているからでしょう。
「僕の経験では、ヘヴィ・バンドが “メインストリームになる” というのは、バンドが自分たちの音楽を変えるということなんだ。彼らはよりソフトになり、より親しみやすくなり、より多くのリスナーを積極的に求めている。僕らはそんなことはしていない。確かに、ELECTRIC CALLBOY がメタル・ミュージックを “非メタル・ファン” の人たちにも親しみやすいものにしていると言われれば、それはとても美しいことだと思う。それでも、世界人口の60%以上にリーチできるかもしれないポップ・アーティストに比べれば、誰もが僕らを知る機会があるわけじゃない。僕たちは、すべての人々にリーチしたいし、その可能性があると信じている。だけどね、そのために変わることはない。大事なのは、僕たちのショーに参加した人たちが、友達みんなに伝えてくれて、次にその人たちも来てくれるようになることなんだよ」


参考文献: KERRANG! :Electric Callboy: “We’re living our best lives right now. This is the time to celebrate that”

OUTBURN:ELECTRIC CALLBOY: Rebirth

LOUDERSOUND:”We have to bring people together not divide them”: Electric Callboy don’t mind being tagged a ‘novelty’ band so long as they can make metalheads smile

FOX_FEST JAPAN 特設サイト

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LOHARANO : VELIRANO 】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LohArano !!

“One Of Our Major Objectives Is To Restore The Value Of Malagasy Culture, Which We Feel Is Being Lost Over Time. Our Language, Our Musical Sound, Our Ancestral Wisdoms, We Have So Many Extraordinary Things That We Tend To Devalue In Comparison With Western Culture, It’s Sad.”

DISC REVIEW “VELIRANO”

「私たちの大きな目的のひとつは、時間の経過とともに失われつつあると感じているマダガスカル文化の価値を回復することなのだから。私たちには言語、音楽、先祖代々の知恵など、素晴らしい文化がある。だけどそれらは西洋文化に比べて軽視されがちなんだよね。悲しいことだよ」
ヘヴィ・メタルの感染力は、もはやとどまることを知りません。文化や言語、人種に宗教の壁を越えてアジアや南米を侵食したメタルの種子は、ついにアフリカの南端の島までたどり着きました。そう、インド洋のグルニエことマダガスカルに。
マダガスカルといえば、まず私たちは色とりどりの豊かな自然と、独自の進化を遂げた固有種を思い浮かべることでしょう。そんなメタルらしからぬ場所にまで、今やメタルは届いています。そして、首都アンタナナリヴォを拠点とする新鋭トリオ LohArano は、島のシンボルであるワオキツネザルのように、ヘヴィ・メタルを独自に、魅力的に進化させていくのです。
メタルの生命力が傑出しているのは、世界各地で芽吹いたメタルの種を、その土地土地が育んだ文化の色に染め上げていくところ。LohArano は、ツァピキーやサレギーといった人気の高いマダガスカル音楽のスタイルを、オルタナティブなメタルを融合させた非常にユニークなサウンドを得意としています。それは文化を守ること。それは伝統を抱きしめること。LohArano は、培われた文化は平等に尊いこと、そして消えてはならないことを肌で感じて知っているのです。
「そう、ここでメタルをやるのはとても大変なんだ。日々の食事に事欠くくらいに大変なのだから、楽器を買い、スタジオを借り、演奏することがどれほど大変か想像してみてほしい。もしそうすることができたとしても、ここでのコンサートはお金にならないし、メタルは社会のステレオタイプに対処しなければならない。マダガスカルの多くのスタジオは、ハードロック/ヘヴィ・メタルのバンドを受け入れることを拒否しているんだから」
そうした “楽園” のイメージが強いマダガスカルですが、そこに住む人たちにとってこの国は決して “楽園” ではありません。世界最貧国のひとつと謳われるマダガスカルは、貧困と病が深刻な状況で、抑圧的な政治も機能せず、そうした権力に反抗する暴動も頻発しています。そんな苦難の中で、RAGE AGAINST THE MACHINE や SYSTEM OF A DOWN のような “プロテスト・メタル” と出会った彼らはメタルで状況を変えよう、世界を良くしようと思い立ちます。
「”Velirano” “誓い” は、政治家たちが国民をいかにぞんざいに扱っているか、生存のわずかな望みのためなら何でも受け入れる国民に対する不条理で馬鹿げた誓いの風刺なんだよ」
だからこそ、LohArano のモッシュ・ピットは散々な目に遭わされ、打ちのめされ、騙され、不条理を受け止め続けた人たちの、もうたくさんだという正義の怒りにあふれています。そうして、さながらLIVING COLOUR の “Cult of Personality” や、暴力的でディストピア的な独裁ファンタジーを暴露する “The Wall” のマダガスカル版ともいえるこの曲で、彼らはついに世界的な大舞台 Hellfest に到達します。
「私たちがその名を知られ始めているのは事実で、もうそれがすでに大きな一歩。だって、私たちの言葉に耳を傾ける人が増えるんだから。同意する、しないにかかわらずね」
そう、彼らはマダガスカルの “声” を届けるため、この場所まで進んできました。そうして長い苦闘の末、ついに彼らの声は世界に届き始めたのです。私たちは、メタルの寛容さ、包容力で、今こそ LohArano の戦いを、声を、音楽を、抱きしめるべき時でしょう。
今回弊誌では、LohArano にインタビューを行うことができました。「Hellfest の出演は素晴らしいニュースだし、Lovebites と一緒にプレーできることを光栄に思うよ!Lovebites はロックだ!素晴らしいバンドとステージを共有できることに興奮している!あとは Maximum The Hormone の大ファンなんだ!彼らはクレイジーさ!大好きなんだ!」 どうぞ!!

LohArano : “Velirano” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【EIGENFLAME : PATHWAY TO A NEW WORLD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FERNANDES BONIFACIO OF EIGENFLAME !!

“Angra Was In Fact The Band That Most Influenced Me As a Musician, In Terms Of The Musical Direction I Followed, But On The Other Hand, At No Point Did We Intend To Try To Sound Like Angra”

DISC REVIEW “PATHWAY TO A NEW WORLD”

「ANGRAはミュージシャンとして、僕が辿った音楽の方向性という点で、最も影響を受けたバンドだったから。ただ一方で、ANGRA のようなサウンドを目指したことは一度もないよ。僕らの音楽に対する彼らの影響はとても強いけれど、彼らのやっていたことはユニークだったし、僕らもまた、大多数のパワー・メタル・バンドとは違うサウンドを出そうとしている。簡単なことではないが、努力しているよ」
ちょうど30年前。ANGRA の登場は二重の驚きでした。まずは、クラシックを大々的に取り入れた美しくも壮大でウルトラ・テクニカルなそのパワー・メタルに。そして、ブラジルというメタル第三世界から遣わされた天使である事実に。
時代は流れ、かつて ANGRA が証明したメタルの多様性や感染力は、今や当たり前のものとして受け入れられています。インドやアフリカ、そしてここ日本でも、世界で戦えるバンドが続々と登場しているのですから。そんなメタル世界の総復習、総決算として、再度感染源のブラジルから EIGENFLAME が登場したのはある意味宿命だったのでしょうか。
「ボサノヴァやサンバについては、絶対にないだろうね (笑)。でも、僕らのファースト・アルバムにはブラジル音楽や先住民音楽の要素が控えめに入っているし、バンドが活動し続ける限り、こうした要素はおそらく僕らの曲の一部になるだろうね」
ANGRA が後に再度世界を驚かせたのは、サンバやボサノヴァといったブラジルの代名詞に加えて、ブラジル先住民族の響きをメタルに溶け合わせた点でしょう。”Holy Land” はそこに、”Angels Cry” から引き継いだ流麗壮大なクラシックのシンフォニーまで未だ存分に残していたのですから、まさにメタル多様性の原点の一つであったにちがいありません。そうして、EIGENFLAME もその偉大な足跡を、自らのやり方で推し進めていきます。まさに EIGENFLAME。自分自身の炎。
「一番好きなアルバムは “Rebirth” と “Temple Of Shadows” だろうな。だから Andre が大好きで、”Holy Land” や “Angels Cry” のようなアルバムを愛しているにもかかわらず、バンドの時期を選ぶとしたら、Edu Falaschi がいた時期 になるだろうな」
EIGENFLAME のギタリスト Fernandes Bonifacio が、Andre Matos への敬意を表紙ながらも、Edu Falaschi 時代をフェイバリットに挙げる理由。それは彼らの音を聴けば理解できるでしょう。まさにあの傑作 “Temple of Shadows” を現代にアップデートしたかのような、ウルトラ・テクニカルでウルトラ・プログレッシブなメタル十字軍。
初期の ANGRA にあった、良い意味での “遊び” が排除された宗教画のような荘厳のモザイクは、明らかに EIGENFLAME が受け継いでいます。そうして、一片の曇りもなく天上まで歌い上げる Roberto Indio の迷いなき、揺るぎなき歌声。そこに加わる DRAGONFORCE や KAMELOT のパワー・メタル・カーニバル。ここには、我々が求めるカタルシスがすべて存在します。
「僕たちが経験したあの困難な時期にみんなが望んでいたことを表現するには、とてもいい名前だと思ったんだ。”Pathway To A New World” はコンセプト・アルバムではないけれど、ある意味、曲と曲がつながっている。宇宙、自然、スピリチュアルなエネルギーといったトピックを取り上げているんだよ。”つながる” ことがテーマなんだ。アルバムのアートは “Way Back Home” という曲に基づいている。この曲は、部族を探して放浪していた先住民の戦士が、新しい世界への道を見つける姿を描いているんだ」
ドラマーの Jean は2023年の EDU FALASCHI と NORTHTALE の来日公演にも参加していましたね。新たな未来へ、つながっていきましょう。Fernandes Bonifacio です。どうぞ!!

EIGENFLAME “PATHWAY TO A NEW WORLD” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【JUDAS PRIEST : INVINCIBLE SHIELD】


COVER STORY : JUDAS PRIEST “INVINCIBLE SHIELD”

“In The World Of Heavy Metal, The Band, The Fans, The Metal Community, It’s All About The Invincible Shield. It’s Defending The Faith. We’re Still Defending The Faith, All These Years Later.”

INVINCIBLE SHIELD


「でも、それがヘヴィ・メタルだろ?」
Rob Halford の口癖です。Rob にとっては、すべてがヘヴィ・メタル。正しくて、善良で、適切で、生命の活力に満ちたものはすべて。メタル・ゴッドであることは、そのクールな肩書きと同じくらい責任重大だと Rob は言います。ただそこに浸っているだけではダメなんだと。挑戦し続けろと。心配はいらない。メタルには困難や逆境を跳ね返す “回復力” が備わっているのだから。
「人生で困難に直面し、それを乗り越え、以前よりも強くなって戻ってくることができたとき、自分の中で何かが変わる。これは、世界中のパンデミックに巻き込まれた多くの人々に起こったことだと思う。私たちは皆、同じような経験をした。友人に会えず、家族に会えず、メタルのショーに行けないのはとても辛いことだった。音楽が私たちを生かしてくれた。みんな家で音楽を聴き、テレビを見たり、映画を見たりしていた。
もちろん、Richie の人生を変えるような心臓の病は、彼を人間として変えた。そして、おそらく私の癌も同じだった。どちらも人生を奪う可能性があるのだから。がんは命を奪い、心臓病は命を奪う。でも、素晴らしい医療チームや素晴らしい人たちが一緒に働いてくれているからこそ、まだここにいることができる。だから、このアルバムには、これまでになかったような要素が含まれているのかもしれない。たくさんの感情があって、”復讐の叫び” 以上に人生を少し違った形で理解できるようになったんだ。だから、JUDAS PRIEST というバンドにとって、私たちのメタルにとって、これはとても特別なことなんだ。”Invincible Shield” に収録されている曲の全てに、人生を上昇させる力を感じることができる」
Rob の出立ちはすでにメタルを体現しています。黒いシャツ、室内でサングラス、スキンヘッド、大きな白いサンタヒゲにピアス。しかし、それよりも彼の態度や物腰、そして哲学にこそ、メタルの何たるか、なぜ彼がメタル・ゴッドなのかが詰まっているのです。

JUDAS PRIEST のデビュー・アルバム “Rock-A-Rolla” から半世紀を経た72歳の Rob は、今でもヘヴィ・メタルに夢中です。
「今は SLEEP TOKEN に夢中なんだ。彼らは本当に面白いと思う。ネットで調べて、彼らが誰なのかとか調べたんだ。メタル・ゴッドと Vessel のセルフィーが撮りたいよ。音楽的にも、彼らを特定するのはとても難しい。彼らの音楽を聴いていると、ミュージシャンとして興味をそそられるんだ。いろいろなところに行っているし、それができるバンドは今のところメタル世界には他にいないと思う」
あとは今でも猫に夢中。
「今、猫のTシャツを100枚くらい持っていると思う。以前、ベンという美しい猫を飼っていたんだけど、長生きして、突然亡くなってしまったんだ。家族を失うような感じ。でも、いつも旅に出ていて、家には誰もいないから、飼うのはちょっと大変だった。
うちの猫は猫用のホテルがあまり好きじゃなかったんだ。だから、毎週土曜日に私のインスタグラムで猫のTシャツを着て、その埋め合わせをしているんだ。いつまで続くかわからないけどね。
メタルと猫には共通点があるよ。それは、自立心だ。それがわかったのは、特にメタル・ミュージシャンが猫と一緒に写っている写真集を見たときなんだ。本当に強い男たちが猫を飼っている。でもね、私たちは は自分の猫のことを知っていると思っているけれど、猫はもっと私たちのことを知っている。そして、彼らはとても個性的で、まるで “俺の能力を見ろ” と言っているかのようにこちらを見ている。まさにメタルだ。私はそれが好きなんだ。彼らは美しい生き物だよ」

“Stranger Things” でメタルが注目を集めたことにも、うれしさを隠せません。
「私は、2wo が Kate Bush が “Strangre Things” で弾けたような瞬間を迎えるのを待っている。TikTok世代の子供たちは、それがどこで作られ、何年前に作られたかなんて気にしない。素晴らしい曲だ。そして2wo のアルバムにも同じような本当に強い瞬間がいくつもある。私はボブ・マーレットと知り合った。彼は John Lowery (John 5) というギタリストのことを教えてくれた。私は彼に、”一緒に何かできないか?”と言ったんだ。あのデモは素晴らしいよ。
それから数週間後、私はニューオーリンズにいた。街を案内してくれる友人と一緒だった。彼は “あれが Trent Reznor のスタジオだよ。入って挨拶したら?”。それでスタジオに入った。そして Trent がやってきて、”ああ、最高だ!君に会えてよかったよ、僕はプリーストの大ファンなんだ!” って。一緒にお茶を飲んで、ケーキを食べて、話をした。
2wo のデモ音源をかけると、Trent が乗り気になってきた。アルバム全部を聴いて、彼が言ったんだ。”これをコピーして、僕に預けてくれないか?”
最終的なミックスを手にしたとき、私はただただ仰天したんだ。オリジナルのデモから確実に変化していた。”I Am A Pig”, “Leave Me Alone”, “Water’s Leaking”…これらは今でもいい曲だ。だからね、TikTokの瞬間を2wo にも持ってこよう!」
72歳となった Rob は、今でもこれだけ精力的に活動できるのは、メタルのおかげだと考えています。
「メタルは若さを保つ…それは真実だと思う。メタルの感情は、体にも心にも魂にも精神にも、とても大きな報酬を与えてくれる。そして、エネルギーに満ち溢れ、熱意に溢れ、闘志を燃やし続け、メタル信仰を維持し続ける。
私は幸運な男だ。50年以上もメタルを歌い続けてきたし、その声はいまだに、自分がやりたいと思う仕事をこなせるだけの能力を保っている。それでも、このアルバムでは、ファンに最高のヴォーカル・パフォーマンスを提供するために、本当に懸命に働いたんだ」

メタルには、宗教や人種、性別に文化の壁を越える生命力や感染力が秘められています。
「私たちは、メタルと共に世界中を旅する機会に恵まれている。とても感謝しているんだ。おそらく、最も最初のユニークな経験のひとつは、かなり昔に遡るが、初めて日本に行ったときだ。日本の文化について少しは知っていたけれど、実際に行ってみて、日本は伝統や文化がまだ非常に強力でありながら、この種の音楽が受け入れられていることのバランスを見ることは、とても特別で驚きだったんだ。JUDAS PRIEST は、日本に行った最初のバンドのひとつで、最初メタル・バンドだった。時は他のバンドはほとんど来日していなかった。私たちは日本のメタルの扉を開いたんだ。
子供の頃は夢物語でしかなかったような場所に実際に行ってみると、世界がいかに小さいかがわかる。そして、私たちはみんなつながっているんだということを教えてくれる。同じ言葉を話さないかもしれないけれど、私たちは皆、人生の中で似たようなことをたくさん経験し、それが私たち人類を結びつけている。浮き沈みがあり、笑いがあり、涙があり、葛藤があり、成功がある。世界のどこへ行っても同じだよ。
このことは、私が何年も前に刻んだ、偉大で美しい祝福のひとつ。この祝福によって、私は人生に対する理解を深め、人間に対する理解を深め、私たちは皆同じなのだということを理解することができた。宗教が何であるか、性的アイデンティティが何であるか、政治的信条が何であるか、それは問題ではないんだよ。私たちは皆、人間であり、この地球上にいる短い時間の中で、皆同じような人生を歩んでいる。だから、私たちはできる限りのことをしなければならないんだ。
だから、世界中を旅して、美しいメタル・マニアたちにたくさん会えることは喜びであることを表現できればと思うよ」
ロックの殿堂入りスピーチでは、メタルの寛容さと多様性、包容力を声高に主張しました。
「私はゲイのメンバーだ。性的アイデンティティが何であろうと、見た目がどうであろうと、何を信じていようと信じていまいが、すべてを受け入れるヘヴィ・メタル・コミュニティと呼ばれる場所で。ここでは誰もが歓迎されるんだ!」

メタル世界では、アーティストもファンを包容し、ファンもアーティストを包容します。
「ライブでファンとつながるのはいつだって大事なことだ。というのも、JUDAS PRIESTは最も古いメタル・バンドの一つだからね。だから、好きなバンド、JUDAS PRIEST を観に来るのは、ひとつのイベントなんだ。何度も言っていることだけど、私たちはファンなしでは何もできないんだ。どんなバンドでも、ファンなしには何もないという事実を忘れてはならない。PRIESTは50年以上もの間、そのつながりを作り続けてきたんだ。
そして完全な包容力というのは、私たちメタル・コミュニティの中でも大好きなところだ。どんなバンドにハマろうが、どんな外見だろうが、誰を愛していようが、何だろうが、どれだけお金を持っていようが、そんなことは関係ない。ここでは皆がメタルを愛しているのだから。その重要性は、音楽よりもずっと先まで及んでいる。もし君がメタル・ヘッズなら、メタル・ファンなら、より良い精神状態になるためのすべての特性を持っている。人生のあらゆる場面において、アーティキュレーションがより強く働くようになる。メタルは、私たちが人間であるための、とてもとてもパワフルな要素なんだ。
私がメタル・マニアを愛していると言うとき、それは本当に心から純粋に言っているんだ。なぜなら…… “ファミリー” という言葉を使うのは大げさだけど、それこそが私たちが作り出しているもので、ヘヴィ・メタル・コミュニティというファミリーを作り出しているんだ。バンドに関係なく、ファンひとりひとりと特別な関係があるんだよ。
何千人もの群衆を眺めるとき、私は君たち一人一人を見ている。なぜなら、君たちがこのバンドの音楽を自分の人生に取り込んでいることを知っているからだ。多くの PRIEST ファンにとって、自分の人生の物語は音楽と共にある。
うまく言えないけど、私が何を言いたいかわかる?このバンドと長く一緒にいて、私たちが “Breaking The Law” を演奏したら、突然80年代に戻り、”Painkiller” を演奏したら、突然90年代に戻る。こんなタイムマシンのような感動が共にあるんだ。そしてまた、そのことを私は忘れてはいない。だから、ファンを大切にし、ファンを見守るという責任は、どんなバンドに所属していても、本当に重要なことなんだよ」

徹頭徹尾ヘヴィ・メタルな JUDAS PRIEST 19枚目のアルバム “Invincible Shield” に関しては、熱意に加えて、大きなプライドも加わることになりました。
「自分を高みに置きたくないんだけど、アルバム・タイトルはいつも私が考えているんだ。ヘヴィ・メタルの世界では、バンド、ファン、メタル・コミュニティ、すべてが “Invincible Shield” “無敵の盾” なんだ。それは信念を守る “Defenders of the Faith” ことだ。私たちは、何年も経った今でも、そしてこれからも、信念を守っていく」
これは Rob 心からの本心。しかし、”Invincible Shield” は、どんな逆境にも決して引き下がらない、決して負けないという JUDAS PRIEST の価値観、メタルの回復力を如実に反映した作品でもあるのです。
2018年の “Firepower” でバンドはギタリストの Glenn Tipton がパーキンソン病を患っていることを発表しました。そして彼らはアルバムでの Glenn の仕事を称え、彼はフルタイムのツアーには参加しないが、ステージには随時参加すると付け加えました。
今でも Glenn がスタジオにおける殺戮機械の中心的存在であり続けていることは明らかな光。しかし、それだけではありません。現在に至るまで、Rob は前立腺がんの手術と治療を受けていて、一方、ギタリストの Richie Faulkner は、2021年にケンタッキー州で開催された Louder Than Life フェスティバルで演奏中に大動脈瘤で九死に一生を得ます。医師は、彼が生きているのはただただ幸運だと告げました。「彼の心臓は爆発し、メタル・ハートになった」と Rob は言います。

逆境に真っ向からぶつかり、今を全力で生きることを常にモットーとしてきた JUDAS PRIEST。”Invincible Shield” にはその哲学すべてが注がれています。古典的なメタルの繰り返しとは程遠く、すべてをバフアップし、アップデートし、全体を新素材で強化しています。
「死を免れたとき、人生観が変わるんだ。何が起こったのか、Richie とじっくり話したことはない。でも、私自身の個人的な経験から言うと、癌から命を救ってくれた素晴らしい人たちのおかげで、普通なら直面する必要のないような考え方が、自分の中で再調整されるんだ。このアルバムを書いているとき、その生存本能は、おそらくこれまでやったどのアルバムよりも強く働いている。
バンドをやっていると、自分の感情についてあまり語らないものだ。たぶん、それは男らしさとか、そういうものなんだろう。でも、演奏では確かに全員からその感情を感じることができる。みんな全力なんだ。みんないつも全力なんだけど、今回はただ感情的な言及があるんだ」
不屈の魂が間違いなく、”Invincible Shield” に異様なまでの重厚さとパワーを与えています。加えて、やはりメタルに対する愛と喜びがここにはあります。
「いつもまだやれるのか?と自問自答するよ。だけどね、レーベルが契約上、もう1枚アルバムを出せと言うからレコードを作っているんじゃない。もっとメタルを作りたいという、本物の愛と欲望のためなんだ」

Richie と Glenn の関係にも、Rob は目を細めています。
「彼らの関係は本当に美しい。ヨーダとルークを見ているようだった。これは、私が感じたことを表現しようとする滑稽な方法だけど、本当なんだ。プロデューサーの Tom Allom は大佐だから、Richie は Glenn のことをメタル将軍と呼び始めたんだ。これは、50年前の最初の瞬間から、”Invincible Shield” に至るまで、Glenn がヘヴィ・メタルに残した足跡への美しいオマージュだと思うんだ。
私は Richie が Glenn に育てられたのを見られたし、遂には Glenn が “どうやるんだ?そんなことをするギタリストは見たことがない” とまで言うようになった。だから、音楽的な意味でも、個人的な意味でも、2人の関係が発展していくのを見るのは、とても深く、とても感動的だった。パーキンソン病が Glenn の明瞭な表現を残酷なまでに奪ってしまった。だけど素晴らしいのは、彼がまだこのアルバムに参加していることだ。作曲という意味では、彼は初日から参加している。私たち3人ですべての曲を書いた。シンガーとギター2人の編成は、私たちにとってとてもうまく機能しているように思うし、今でもそうだ。そこから始まって、レコードを作るためのあらゆる障害を乗り越えていくんだけど、Glenn はそのすべての過程に立ち会ってくれるんだ」
2024年に、JUDAS PRIEST が存在する意味とは?
「今を生きている、”Relevant” であることだ。Relevant でなければ意味がない。昔はノスタルジーとか、ヘリテージ (遺産)・バンドとか、クラシック・メタルとか言われるのが大嫌いだったんだ。今はそれを受け入れている。なぜなら、それが自分たちの一部だからだ。たしかにそうした言葉はこのバンドに付けられるべきだ。でも、その言葉のリストの一番上にあるのは、”今を生きる” だと思う。このアルバムは2024年のメタルだ。人々は、このバンドがすべてであり、常に本当の目的と妥当性を求めてまだここにいる。それを管理することで、この言葉が現れる。それこそが今を生きることなんだ」

挑戦的といえば、Rob は “Nostradamus” での挑戦が正当に評価される日を待ち望んでいます。
「”Nostradamus” は眠れる巨人だと感じている。本当にそう思う。私の頭の中では、この作品はクラシック・オペラとして創作された。交響楽器の演奏があってもいい。私の中では、シルク・ドゥ・ソレイユがノストラダムスの物語を語るサウンドトラックとして作られるのが見えている。こうしたチャンスはすべて、探求されるのを待っている。おそらく、私が死んだあとに実現するだろうね。素晴らしい。プリーストのレパートリーの中でも、非常に過小評価され、過小露出されている作品であり、真剣にもう一度見直す必要があると感じている。このアルバムは、私個人にとって、とても重要な意味を持つものだから。あのアルバムのボーカル・パフォーマンス、全員の演奏、アレンジ、制作したすべてのことが、とても楽しかった。傑作だよ。本当にそうだ。私は音楽について詳しいから、この言葉は滅多に使わないんだ。でも、メタル界における位置づけとしては、本当に重要な作品だ」
現在、アリゾナに本籍を置き、メタル界で最も知名度が高く象徴的な人物の一人である Rob Halford は、ある意味では英国ミッドランズ出身の一人の男にすぎない。英国訛りが残っていて、非常に英国的なユーモアのセンスだけでなく、彼は自分のやっていることを真剣に受け止め、他の誰かにやってもらうことを期待しない自他ともに認める職人なのですから。
「私が誰で、どこから来たのかという事実は、私の人生にとって絶対に欠かせないものだ。ウェスト・ミッドランズ、ブラック・カントリー、メタルの故郷。それは素晴らしい場所だ。ここにいて、キッチンに座っているだけで、こんな場所は他にない。LED ZEPPELIN, BLACK SABBATH, MOODY BLUES, DURAN DURAN など、ここから生まれた音楽は美しい。アメリカにいる時間は長いけど、家に帰るのが待ちきれないこともある。飛行機を降りると、ヒースロー空港まで迎えの車が来て、それに乗って荷物を置いて、チップス屋まで歩いて行って、ピクルス・エッグを買うんだ」
平凡もまた彼の、メタルの一部なのです。それでも平凡は決して長くは続きません。ヘヴィ・メタルの引力、興奮と冒険、生きている実感、そして時間を無駄にしたくないという感覚は、あまりにも強く強烈です。
「今日は “HOMES UNDER THE HAMMER” を観ようって思う日もあるんだ。年寄りがやるようなクソ映画をね。でも20分後には、早くスーツケースに荷物を詰めて旅に出たいと思うんだ。
スーツケースを取り出してドアに鍵をかけ、12ヵ月間戻ってこないということが、どれだけ恵まれているか、どれだけありがたいことか。それが自分の仕事に対する愛と情熱でないとしたら、何がそうなのか私にはわからない。私たちはまだバンに乗っている。ヘヴィ・メタル、それが私たちのやるべきことなんだ」


参考文献: KERRANG!:“When you’ve cheated death, it changes your outlook on life”: Rob Halford takes us inside Judas Priest’s powerful, emotionally real new album

STEREOGUM:We’ve Got A File On You: Judas Priest’s Rob Halford

GQ:Rob Halford: ‘I loved drinking and drugging… even though the end game was self-destruction’

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