土のつぶろぐ

土の粒々から世界を考える!(ある土壌科学者チームの挑戦)

Thank you NEXT program, Thank you my teammates!

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すっかり春になりました。

今日は、次世代・最先端プロジェクトの最終日。

まとまりそうもないけれど、今の気持ちを書き留めておこうと思います。

 

あっという間の約3年間。いろいろありました。

先ず思うのは、よいチームメイトに恵まれたということです。

 

自分にとって、プロジェクトのリーダー(英語で言うところのPrincipal Investigator、通称PI)になるのは初体験でした。自分+3名の若手研究者というアメンバー4名の小さな研究チームで、ディープな議論したり、助け合い、刺激し合い、冗談を言い合い、和気あいあいとした本当に良い雰囲気のチームだったと思っています。

そして「団粒構造と土壌有機物の安定化」というかなり先鋭的な研究テーマでしたが、その面白さ・重要性に共感してくれ、よくついてきてくれました。感謝です。そして、このような機会を与えてくれたNEXTプログラムに感謝です。

 

また、コアメンバー以外の共同研究者の人達にも感謝です。助言や研究相談や分析などでサポート・協力してくれる方々が周りにいたことで、研究をこのように進めることができました。

  

次に思うのは、自分の不甲斐なさです。

自分がもっとテキパキと仕事をこなし、精力的に研究を進めていたらこのチームなら更なる高みにまで行けただろうと思います。こんな良いメンバーが集まった幸運な状況であったのに、自分にはこの程度のことしか出来なかったという事実は、自分の限界や越えなければいけない壁というものを認識させてくれました。この経験を、今後に活かしたいと思います。

 

最後に思うのは、プロジェクトで得られた知見をきっちり世に出さねば!という思いです。「思い」というより、「焦り」かもしれません。

 

メンバー各人、とてもよい研究を行い、国際学会でも十分に誇れる成果がでつつあります。本人達のためにも、良い論文に仕上げないと。

 

また、この3年間集中してこのテーマに取り組むことができたお陰で、前人未踏の土壌団粒の世界が見えてきたという実感はあります。土壌粒子と有機物がどの様な時間軸で、どの様に相互作用によって、集合化(団粒化)したり離散したりするのか、よりダイナミックで、より説得力のある説明ができるようになりつつあるのです。まだ完全ではないのですが。それが客観性を持つのか(あるいは思い込みなのか)、それが土壌科学の歴史にどの程度のインパクトを与えることが出来るのかは、論文にして世に問うしか方法はありません。

 

そしてそのためには、これまで得られた多くの研究結果を、注意深く、丁寧に、かつ総合的に解釈する必要があります。また追加実験が必要になるかもしれません。いづれにしても、この複雑な土壌団粒というシステムをひもとくには、かなりの集中力が必要です。

 

なので、公式には本プロジェクトは今夜で終了だけれど、戦いは始まったばかり、

というのが正直な気持ちです。

成果発表に行ってきました!

あっという間に年が明けて梅の季節になりました。

月1回更新の目標を完全に無視してしまっている粒蔵ですが、辞めたわけでも、熱が冷めた訳でもありません。忙しかったり、気が乗らなかったり、理由はいろいろありますが、〆切も言い訳も必要ないのがブログの良いところと言うことで、今後も地道にいきます。気が向いたらお付き合い下さい。

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(この写真は年末の土壌調査から。雲海に浮かぶ霧島連山

 

さて昨日は、新宿に行き、次世代・最先端(NEXT)プログラムの研究成果のポスター発表をしてきました。日本学術振興会のFIRSTプログラムの成果発信シンポジウムがあり、そのプログラムの姉妹版(予算額で言えば、子供版、孫版?)であるNEXTプログラムの採択者はポスター発表をして、シンポジウムを盛り上げて下さい、ということで。http://www.first2030.jp/program/

 

このNEXTプログラムは、グリーンイノベーションというくくりで応募を募っただけあり、「環境」をキーワードとしたあらゆる研究のポスターがありました。野外科学や環境科学に身を置く人間としては、え?!こんなのもグリーンイノベーションなの!?というものも多かったですが、それはお互い様でしょう。半導体有機化学から数学、社会人文科学まで、様々な研究がありました。なかなか新鮮でした。

 

自分のポスターをしっかり見てくれた人は、知り合い以外では、ただ一人。。。 ポスター発表をしていたNEXTの人達の多くも、粒蔵と同様に暇そうに、寂しそうに立っており、異分野交流の難しさを感じた次第です。とはいえ、一部のポスターにはそれなりに人が賑わっており、自分ももっと異分野の人々に興味を持って貰えるプレゼン能力を身につけねば!と思った次第です。

 

ちなみに、NEXTプログラムにはライフイノベーション(医学系)とグリーンイノベーションがあり、後者で合計141課題が採択されました。その中に土壌関係の研究が、自分を含めて4課題ありました。これは多いと感じますか?食料生産や環境保全と土壌の切っても切れぬ関係を考えれば、人類の持続可能性や環境保全を目指すのが「グリーンイノベーション」研究であるならば、もっと土壌研究が採択されてもよい(つまり土壌科学者は、こういう予算を獲得できるようもっと努力すべき)だと思います。

 

ではまた!

 

PS. そうそう、上記のFIRSTプログラムで講演をされた先生とポスター会場でたまたま話す機会に恵まれました。全く研究の接点はありませんが、アメリカの大学でずっとやってきた先生で、厳しい競争の中でしのぎを削っているTop scientistのギラギラ感を久しぶりに目の当たりにし、よい刺激になりました。新宿まで行った甲斐あり!

粒子の論文受理!

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秋も深まりつつある研究室に、良いNewsが舞い込みました。

粒子さんの論文がGeodermaという国際誌に受理されました!テーマはズバリ、団粒階層虚空蔵、もとい、団粒階層構造です。内容は粒子(つぶこ)自身に解説して貰うとして、今日は背景だけ紹介したいと思います。

 

土壌の団粒階層構造と土壌有機物は、切っても切れない関係にあります(過去の記事)。有機物が多い土壌は、団粒構造もよく発達しています。そして、両者とも土壌(そして陸域生態系)が健全に働くために大切です。

 

そのため、世界の様々な土壌を対象に、この両者の関係が調べられてきました。その中で、土壌学者が首をかしげていた疑問が1つありました。それは「多くの土壌有機物を含んでいるにもかかわらず、黒ボク土(Andisol、Andosol)にはなぜ明瞭な団粒階層構造が見られないのか?」という疑問です。

 

実際「黒ボク土は例外」だとか、「黒ボク土には団粒階層構造は存在しない」と断言している論文が国際誌に発表されており、理由として、黒ボク土は特殊な粘土鉱物から成るユニークな土壌だから、というものです。しかし、それは科学的な態度と言えず、粒蔵としては「逃げ」に思えていました。

 

そこで僕らはこの問題に正面切って取り組み、試行錯誤しながら、時には超音波発生装置を壊し、時には詩を口ずさみ、また時には頭をショートさせながら、非常に微細な粒子から出来ている非常に強固な黒ボク団粒の階層構造の成り立ちを明らかにすることができました。敵は強者でしたが、粒子(つぶこ)の粘り勝ちでした。

 

敵と言えば、論文の査読者の一人からは、多少の敵対心を感じました(これは、よくあること。非常に近い研究をしている場合に多いです)。研究の世界では、論文を投稿すると、匿名で複数の関連研究者が査読をします。それぞれの査読者(Reviewer)が、論文の妥当性・重要性を評価し、最終的な判断をEditorが下します。

 

今回の2名の査読者のうち、一人ははじめから論文の価値を十分認めてくれましたが、もう一人は長い批判を展開してきました。そうこられたからには、僕らは注意深く・万全の反論で応戦しました。それに対しても難色を示したらしく、最後はEditorが第三の査読者を呼び、その結果2対1で論文受理となりました。めでたし、めでたし。

 

もしそれらの批判に反論せず、言いなりになって論文を書き換えていたら、論文の価値は半分以下になっていたでしょう。必要とあらば冷静に反論する。自分の場合、それがある程度できるようになるのに、3ー4本の論文での査読者とのある程度「激しい」やりとりをする経験(そして付随する自信)が必要だった気がします。自信過剰も命取りだし、大事だと思うのは、どれだけ客観的にデータを見られるか、しっかり関連研究を読み込めているか、だと思います。

 

脱線気味の話を戻します。この研究の一番重要な点は、調べた黒ボク土に団粒階層構造があったことではなく、有機物と鉱物の両者に富む土壌であれば、「例外なく、普遍的に」団粒階層構造が形成されることが示唆された点、そしてこれまで別々に行われていた数mm~数十μmの比較的大きなスケールでの団粒の研究と、ミクロ・サブミクロスケールの土壌粒子(それ自体が集合体)の研究を、統一的に捉えることに成功したられる点捉えられる可能性を示した点(冷静になった2013-11-05に変更)、だと思っています。そういう意味で土壌有機物の分野において、それなりにインパクトがあると予想しているのですが、果たして反響は?

 

おっと、ちょっと熱くなってしまいました。最後の話は抽象的すぎてついて行けないかもしれないですね。夜も更けてきたし、これ以上密教的な話になってもいけないので、今日はここまでにします。

「温暖化と土壌有機物の分解」についての研究がプレスリリースされました

8月26日に僕らの研究のプレスリリースを行いました。遅ればせながら、報告します。正式には「温暖化により土壌有機物の分解速度がどれくらい加速されるか、その要因を解明ー地球温暖化予測の精度向上に役立ちます」というタイトルで、農環研のHPから見られます。 

 

内容がなかなか複雑なので、プレスリリースするのはどうかと迷いました。しかし、①一般に目を向けられることが少ない土壌について知って貰うよいチャンス、②プレスリリースするってどんなものなのか知りたい、③自分が大切・面白い!と思ってやっているかなり専門的な(密教的な、マイナーな)研究の成果を、一般市民にどの程度伝えることができるか知りたい、という思いから挑戦してみました。

 

しかし、一般向けに、しかも短い文章で専門的な内容を説明するのは、非常に非情に大変だった!自分の文章力のなさを痛感し、良い勉強になりました。一番むずかしかったのは、当然ですが、内容を単純化しなければならない点です。字数制限があるため、多少強引に(つまり不正確に)単純な話にまとめないといけなくなり、苦しみました。

 

最後は、「正確だが、長くて難しくて誰も読んでくれない文章」と「不正確な部分を含むが、分かりやすい読んでもらえる文章」を書くかの選択です。そして、プレスリリースをするからには、後者を選ばなければやる意味ないよね、という話になります。ただここは難しい点で、正確で分かりやすい短文になる研究成果(例. 新種の発見、新技術の開発)しかプレスリリースすべきではない、という意見もあるかもしれないですね。

 

正直、今回の内容がプレスリリースに相応しかったか、皆さんの意見を聞いてみたいところですが、一般論としては、複雑な事象についてでも、地球温暖化のような社会的関心事に関する新しい知見であれば、その内容をできるだけ噛み砕き、非専門家でも分かる形で公開することは有益だろうと思います。一般市民、政治家や官僚、専門領域の違う科学者、作家など、誰かがその専門的なトピックに興味を持った時、分かりやすい資料は大切です。

 

さて、自分の話に戻ると、何度も多くの人達に直して貰いようやく出来上がり、プレスリリース発表。こんな複雑な内容を果たしてプレスが取り上げてくれるだろうか?とも思っていたのですが、日本農業新聞日刊工業新聞が掲載してくれました。あとウェブ上で、幾つか。

 

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しかし、農業組合新聞(JA.com)では、「温暖化による土壌有機物の分解速度を解明」という、一部というか根本的なところを誤解した記事になってしまっていました。誤解されないようにとあれだけ分かりやすく書いたつもりなのに。。。

 

その記事を読んで、さらにこのブログに行き着く人は皆無に思えるけれど、どこが誤解かというと、まず「速度」は、測定したり、予測したりするものであり、解明するものではないです。そして、分解速度については、これまでに膨大な研究蓄積があり、そこそこの精度で予測できる数理モデルが既にあります。今回の研究の重要なポイントは、分解速度が、気候変動などによる温度上昇に対してどれぐらい加速するか(これを分解速度の温度係数とか温度依存性と呼びます)を決める要因について、新しい知見が得られた点です。その背景には、現在使われている予測モデルの中で、温度依存性を計算する部分が、不正確ではないかと問題視されてきたということがあります。

 

しかし、そう説明されても、「速度」と「速度の温度係数」って何?どう関係してるの? って普通は思いますよね。だから、記事の誤解も無理ないのかもしれません。この研究内容について、もう少し詳しいことが知りたいというレアな方がいましたら、研究所の広報の方がリードして書いてくれたインタビュー記事が、分かりやすいです。農環研ニュース99号の「土壌からのCO2放出は、温暖化でどれくらい加速する?」良かったらウェブで探してみて下さい。

 

字数制限がなかったとはいえ、自分で書いたプレスリリースよりも圧倒的に分かりやすいです。専門分野にどっぷり漬かった人間では、こうは書けないと思いました。やはりサイエンスコミュニケーターはとても大切な仕事で、どの研究分野においても、今後もっともっと必要とされると思います。原発事故後の情報の混乱を経験したであろう殆どの日本人が、その必要性を理解してくれるはず。サイエンスコミュニケーターの職が増えることを願っています。ポテンシャルを持った人材は、けっこういるはずです。

やっぱり子供は泥遊びが好きだった! アウトリーチ活動の報告

夏休みを取っていた訳ではないのですが、かなりブログをさぼってしまった。。気を取り直して、書き始めます。

 

私達の研究プロジェクトでは、「国民との対話」という活動が推奨されています。つまり、税金で行われている専門的な研究(その内容や成果)を一般市民に伝えて、科学の面白さ、大切さを伝えましょうと。

 

これは、アウトリーチ(Outreach)活動とも呼ばれます。専門家集団をインとした時の、それ以外のアウトにいる人達に、研究成果を届けるという意味です。例えば、アメリカの大学の農学部には、研究や学生指導・教育ではなく、アウトリーチ活動(農家や農業経営者が主な対象)を専門とする教員・スタッフがいます。

 

また、アウトリーチ活動は、狭い世界にいる研究者と一般市民の間にあるズレという現実を認識するのにも役立つし、自分の研究を知ってもらうことで、モーチベーションにも繋がりうると思います。

 

このブログもその試みの一つですが、私達の所属する研究所では7月27日に、夏休みに入った小学生と親達を対象に「のうかんけん夏休み公開」が行われました。

 

そこで粒蔵は、子供達に土の粒つぶの面白さ(出来れば、大切さ)を伝えられないかあれこれ考え、まったく違う3種類の土を触らせ、何かを感じて貰おうと思いました。そして、「粘土リボン」を作る競争をさせてみては!という名案がひらめいたのでした。

 

土壌学者が、新しい土に遭遇したときに先ずする事は、土を触ることです。そうです土性を調べるのです。そこで活躍するのが「粘土リボン」です。医者がまず聴診器で患者の状態を把握するように、現場の土壌学者は「粘土リボン」で土壌を診断するのです(ちょっと大袈裟かな?)。

 

どんな仕組みかと言うと、湿った土をコネコネし、細長いリボンを作り、それがどれ位長く延びるかから、土にどれくらいの割合で粘土が含まれているかが大まかに把握できるという訳です。

 

当日のために、粘土が含まれる割合が大きく違う3つの土(ザラザラな砂丘未熟土、粘土の多いネチネチ系の水田土壌、やや粘土の多い黒ぼく土のB層)をバケツに準備し、土をこね回すトレーや、手を洗う水をテーブルの上に用意しました。

 

さて当日です。先ず分かったことは、子供に「粘土リボン」を作らせるなんて無理!ということ。確かに、子供はそんな型にはまった作業はしないよなー。というわけで、急きょ「この色や触り心地の違う3つの土をコネコネして、好きなもの作っていいよー」と戦略変更。

 

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すると、どんどん子供がやってきました。特にお団子作りが一番の人気でした。皆さんも経験があると思います。そう、いまでも子供はやっぱり土遊び・泥遊びが好きだった!とっても嬉しくなりました。

 

ちなみに、上の写真の後方のテーブルでは、色々な色の土をシャーレに入れて、土の色を調べてみよう!ということもしました。以前の記事にあるとおり、土の色は世界共通の「色の物差し」で測ることができることを知って貰おうという企画です。

 

しかし、低学年の子供には、色を見るより、触る・作るほうが圧倒的に人気でした。そして、こんな作品達を作ってくれました。

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 また、この3つの土それぞれを水の入った瓶に入れて、がしゃがしゃと振ってから静置し、大きい粒ほど早く沈み、細かい粒ほど浮遊してなかなか沈まないことも教えました。泥遊びに没頭してて、あまり聞いて貰えなかったんだけどね。。。

 

さらに、粒子に泥染めを伝授して貰い、初めて自分で染めたTシャツも壁に飾りました。これに反応してくれるお母さん達が結構いたので、来年はそういうアウトリーチもいいかなと思ったり。

 

お母さんと言えば、子供を連れて行き来する親の中には、泥遊びは勘弁!と子供にやらせたがらない親もいれば、子供が「汚そう」と躊躇してても、「泥遊び、気持ち良いからやってごらん!昔よくやったなー!」という親まで、色々な親子を見られたのも、楽しかったです。

 

とにかく、喜々と土をコネコネする子供達の感受性と目の輝きに、大満足の一日でした。そして一句できてしまった。

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PS. 今回のアウトリーチ活動をするのに、下記の本はとても参考になりました。最終的には、本に載っているような実験は出来なかったけれど、小中学生相手に土の不思議さ、面白さを感じて貰ういろいろな実験や観察法が、イラスト入りで書かれています。

土をどう教えるか〈上巻〉―現場で役立つ環境教育教材

土をどう教えるか〈上巻〉―現場で役立つ環境教育教材

土をどう教えるか〈下巻〉―現場で役立つ環境教育教材

土をどう教えるか〈下巻〉―現場で役立つ環境教育教材

土壌学の用語の感覚的な説明シリーズ: 【土性】

連休ボケか連休明けの忙しさからか、しばらくまた書けませんでした。まず、前回のエントリーに出てきた用語の説明をもう少ししておきます。

 

どの学問もおなじかもしれませんが、土壌学の専門用語は、なかなかとっつきにくく、難解で、密教的にすらなります。 密教的な部分も粒蔵は好きなのですが(うち真言宗だし?)、その難解さは、土に興味を持つ一般の人達がもう少し自分で勉強しようと思った時に、大きな壁になるんじゃないかと思います。

 

非力ながら、このブログが気軽に土を学ぶための多少の足しになればと思ってます。興味のある用語の説明リクエスト、いつでも歓迎です。

 

【土性、どせい、Soil Texture】

いきなりこの用語を音だけで聞くと、空に浮かぶ美しい惑星や、土の中にいるかもしれない精霊を想像するかもしれませんが、違います。土が内在する根性でもありません。土の「粒つぶ感」、より具体的には「大きさの違う粒つぶ粒の混ざり具合(存在割合)」を示す用語です。

 

用語の使われかた: この土は「粘土質」「シルト質」あるいは「砂質(さしつ)」だね、というような言い回しがよくされます。では、それぞれを感覚的に説明してみましょう。

 

●粘土質(clayey): 図工でつかう粘土と同じく、粘土質の土には「ねっちり感」があります。粘土粒子とは2マイクロメートル以下の粒です。「コロイド」粒子という言葉もたまに聞くと思いますが、だいたい同じものを意味します。

 

●シルト質(silty): シルトが多い土には、少し水を含ませてこねくり回したとき、指と指の間に「なめらか感」があります。シルトは、学派により少し違いますが、2~20(あるいは50)ミクロメートルの大きさの粒子です。

 

●砂質(sandy): 砂の多い土は、砂場のように「ジャリジャリ感」満載です。砂はシルト粒子以上の粒です。

 

育てる作物や木の種類にもよりますが、この3つのサイズの粒つぶが適度に混ざった土は、植物の生長がよく、有機物も比較的多く含まれ、団粒構造も発達するため、一般に肥沃な土と呼ばれます。シルト質の土は、ちょうど中間的なサイズの粒を多く含み、また多少は粘土や砂も含んでいるので、一般的にもっとも肥沃な土壌になりやすいと言えます。

 

あまり粘土サイズの粒子ばかりだと、土はねっちり・どっしりしすぎます。水はなかなか染み込まないし、時間かけて染み込んだ水はなかなか乾かない。それは粒と粒の間の隙間が少ないからです。また、そのために、シャベルで掘ってみると、とても重く(ヘビーに)感じます。

 

一方で、粘土を多く含む土は、土壌有機物を多くため込む傾向があります。また土の物理的、化学的性質の多くは、その土がどれくらい粘土を含むかによって決まるので、粘土粒はなかなか侮れない存在なのです。粘土鉱物学という学問すらあるのです。

 

それにしても、砂粒のほうが、シルト粒や粘土粒よりも、市民権を得てますね。もっと小さな粒たちの権利拡大のために、つぶやき続けなければ。大気の世界では、あまり飛ばない砂粒よりも、2.5ミクロメートル大の粒であるPM2.5が有名になりましたね。PM2.5は限りなく粘土に近いシルト粒ですね。遠くから飛んでくる小さな粒つぶ達と、土壌や植物との間には、すごく面白い繋がりがあるので、それはまた後日。

 

PS. 英語での土性である"Soil Texture"のTextureは、織物や素材の質感という語感の言葉。欧米人の土壌への愛が感じられます。そのためか、日本語の「土性」はちょっと味気ない感じがしてました。でも、これはこれでなかなか味のある言葉だと最近は感じてます。

 

追記(2013-8-10):「土性」という用語の歴史的背景について、土壌学の大先生が書かれていました(久馬2009)。久馬先生もこの用語に違和感を感じてたとは! この論文を掲載している「肥料科学」はなかなかハードコアな学術誌で、土壌学の歴史的側面を中心とした読み応え、噛み応え抜群の論文が、他にも沢山あります。粒蔵にはなかなか歯が立たないが。。。

土の中の世界:構造の巻(土は色々な物質が組み合わさって出来ている)

さて、いい加減、このブログの表の主題に戻ります。今日は、「土はぐちゃぐちゃ混沌として物体ではなくて、幾つかの物質が規則性をもって組み合わさって出来た構造物(例えば、人間の作る建築物のようなもの)なのです」という話です。

 

土は、岩石の粉砕物やセメントとは違い、もっと複雑な構造を持っています。それは、植物の根や土壌中の多様な生き物(ミミズ、トビムシ、アメーバやバクテリアやキノコを作る糸状菌)の生育に適した構造です。

 

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では、上の図を見ながら説明してみようと思います。(こういう絵がどこにも見当たらなかったので作りました。授業などで使いたいという方は、御連絡下さい)

 

普段、地面に見えるごく表層の土しか見る機会がないと思いますが、森などで土をざくざく掘ってみると、足元の地表面から下に向かって、色、粒つぶ感(形、硬さ等)、匂いなどが変わっていくことが観察できます(上図、左)。「懐かしのフィールド」に本物の写真あり。土壌学者(特に、ペドロジスト)は、この変化が明らかに起こる境界に線を引き、それぞれをO層、A層、B層などとして区別してから、詳細を調べます。

 

一番大きな変化は、表層は落ち葉、根っこ、生きものが多い有機物に富んだ黒っぽい層になっているのに対し、深い層では、粘土や岩石などの鉱物が主な構成成分になってゆくく点です。それぞれの層がどうやって出来上がっていくのかは、今度にして先を急ぎます。

 

この1メートル程度の深さで土壌に構造があること(性質の違う層が組み合わさって出来ていること)は分かりました。では、1メートルの百~千分の一(1~10ミリメートル)の世界ではどうなっているのでしょうか?

 

土のA層をそっと取り出し眼鏡や光学顕微鏡で見てみると(上図、右上)、土の塊(団粒)や植物の細根や毛根、糸状菌や菌根菌の菌糸が見え、団粒と団粒の間に隙間が多いことが分かります。

 

森や畑などの一般的な土では、なんと体積の約半分は隙間(孔隙)からなっています。この隙間のうちの狭い隙間や土の粒つぶの表面に水が存在し、(液相)、大きな隙間は空気が占めています(気相)。だから、土壌はふかふかしており、根や生き物たちが干からびることも窒息することなく、生きていける訳です。

 

土の体積の残り半分は、固い物が占める固相で、鉱物でできている粒つぶ達が主役です。鉱物粒子(読み:こうぶつりゅうし【注】「つぶこ」ではありません)は、一般に大きさで分類され、直径2mm以下は粘土(clay)、2~20mmはシルト(silt)、20mm~2mmは砂(sand)、それ以上は礫(gravel)と呼ばれます。【2013/5/11. 詳しくは、「土性」の説明を参照】

 

上図の右下はマイクロメートル以下の世界を単純化した絵です。生々しい姿は、「今日のせむこ」参照。SEM、TEMなどの電子顕微鏡で見える世界です。因みに、土壌中のバクテリア君は約1マイクロメートル(1μm)。太めの髪の毛の100分の1の大きさ。図に示しているのは、層状に重なってできている粘土鉱物粒子(層状ケイ酸塩)3つがあるところに、有機物(この場合、落ち葉などの植物由来のものではなく、微生物の死骸や代謝物と考えられている)もくっついているという絵です。

 

粘土粒子のどの辺に、どれ位の量の有機物が、どんなメカニズムでへばり付いているのか?その有機物は果たしてバクテリア君にとって利用可能なのか?といった疑問は、じつは地球の炭素循環や温暖化問題に関わる重要な問題で、私達のプロジェクトを含め、世界で研究が進められているのです。この話になると熱くなりすぎるので、話を戻します。

 

粘土、シルト、砂などの鉱物粒子たちと有機物(大きな落ち葉、根から、小さな生き物の死骸まで)がくっつき合うことで、団粒構造が形成され、いろいろな大きさの隙間が生まれます。この構造こそが、土の生物達に格好の住み処を提供しているのです。

 

ちょっと難しい数字の話になりますが、土の中の有機物は、A層と呼ばれる植物の根が一番多い層においても、せいぜい炭素としては土壌重量の3~10%で、最大でも15%程度です。残りの90%前後は鉱物です。しかし、この少量の有機物が接着剤となって、鉱物粒子や小さな団粒同士がくっつき合って、沢山の隙間のある「ふかふか土壌」が出来ています。

 

土の体積のうち隙間が占める割合(これを孔隙率、porosityと呼びます)は、土壌中の生き物や植物の根の生育に大きな影響を与えています。森の土を何度も踏みつけ続けると、団粒構造が壊れ、土のなかの隙間が減ってしまい、生き物たちは酸素不足になったり、水不足になったりしてしまいます。

 

このように土には、メートル単位の大きなスケールでも、粘土粒子や微生物たちの大きさであるミクロスケールでも、構造が発達しています。この土壌構造と有機物の間には密接な関係があり、陸上の生物や生態系にとって必須の役割を果たしている、というお話でした。

 

因みに上の図は、森林生態学の教科書の「森林の土壌環境」の章のために作った図を改変したものです。大学生あたりを想定し、森と土の関係の面白さについて、説明を試みたものです。もし読む機会があれば、感想(ここが意味不明、そこは腑に落ちたとか)を聞かせて下さいね。

森林生態学 (シリーズ 現代の生態学 8)

森林生態学 (シリーズ 現代の生態学 8)