福永武彦電子全集
全20巻完結、配信中
 当サイトは1995年に設立された福永武彦研究会の公式ホームページです。
福永作品を愛する方、福永武彦について深く知りたい方は、どなたでも入会できます。


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◇総会・第205回例会案内 New!
日時:2024年5月26日(日)13時~17時
場所:川崎市平和館研修室(参加希望者が少ない場合はzoom使用)
総会:前年度会計報告、新年度運営委員選出、課題図書決定ほか
例会:発表と討論『深夜の散歩』
*電子全集第9巻収録。

例会には、どなたでも参加できます。
オンライン例会の場合の参加費は無料です。
オンライン例会初参加を御希望の方は、お報せください。手順をお伝えします。  
問い合わせ先:福永武彦研究会 三坂 剛 メール: Fax:044-946-0172

第204回例会(2024.3.24開催)報告を掲載しました。

書影付き著作データに「福永武彦詩集」写真版2部本を追加しました。

福永武彦研究会 令和5年(2023年)度の会員(2024年5月末まで)を募集中です。
 年内途中いつでも入会可です(途中入会割引あり)
 入会についての資格は特になく、福永武彦の人と作品に興味をお持ちであれば、どなたにも開かれています。数々の会員特典があります。詳細案内 

◇研究会の会誌「福永武彦研究 第17号」が発行されました(2023年11月)。New!
 版型:B5判・2段組、71頁、1500円(送料250円)
 購入希望の方は、会誌紹介ページより申し込みください。

(内容)
【特集】池澤夏樹 最新長篇『また会う日まで』
・『また会う日まで』、質問と文書回答(池澤夏樹)
・会員エッセイ
 『また会う日まで』を読んで考えたこと
 秋吉利雄氏の「人生」について思ったこと
【報告・随筆】
 読者増を願う一愛読者としての分析
 今、福永武彦に惹かれた理由
 巡る文学に寄せて
【資料紹介・解題】
 新潮社版・小学館版全集未収録文4篇紹介
 プレス・ビブリオマーヌ版「幼年」著者校正刷 初校紹介
その他「例会活動履歴」「会員短信」

*画像クリックで表紙の拡大画像にリンクします。


◇「福永武彦資料の価格推移一覧1970~2020」(PDFファイル)公開 New!

 研究会会員が手元の古書目録に拠って作成した資料を会員限定で公開しました。
 稀覯本、署名本、そして自筆資料(草稿、手紙、日記、絵画、色紙など)を中心とする905点の福永武彦関連古書目録資料(397点については資料画像付)が掲載されています。

◇研究会のX(旧ツイッター)アカウントを開設しました。
 アドレス:https://twitter.com/fukunaga_ken
 例会告知、福永関連情報の発信ほか、作品への感想などで一般愛読者とも繋がっていくことを目的とします。

◇新刊『忘れがたき日々、いま一度、語りたきこと』(2023)/山崎剛太郎 New!
 本書は、詩人、小説家、翻訳家で、700本以上のフランス映画の字幕翻訳を手がけ(フランス政府より芸術文化勲章を受勲)、2021年に103歳の生涯を閉じた山崎さんの文学と映画についての評論、随筆他を集成したもので、福永武彦研究会会員の渡邊啓史氏が山崎さんの依頼を受けて全体の編集を行っています。
 字幕翻訳の裏話が興味深く、文学関連では、とくに親しかった中村真一郎との交友や堀辰雄、立原道造との思い出などとともに2003年10月に開催された福永武彦研究会の特別例会講演記録「亡き友 福永武彦と私の思い出」も収録されています。


◇2023年3月30日に、池澤夏樹さんの注目作『また会う日まで』が刊行されました。
池澤夏樹さんの大伯父(すなわち福永武彦の伯父)である秋吉利雄が、海軍軍人、天文学者、クリスチャンとして明治から戦後までを生きた軌跡と日本の近代史を融合した超弩級の歴史小説です。
 福永武彦の出生の背景についても明らかにされています。


◇池澤夏樹さんと春菜さんの父娘対談『ぜんぶ本の話』(毎日新聞出版)が刊行されました。
 「読書家三代 父たちの本」と題して、福永武彦についても1章が割かれています。一読をお薦めします。
 また、池澤夏樹さんが、福永の伯父秋吉利雄を主人公とする小説を、8月より朝日新聞に連載されます。実に興味深いです。


◇福永武彦電子全集 全20巻(小学館)の紹介ページを開設しました。
 最終第20巻は、2020年6月に刊行されました。

書影付き著作データ・小説に「小説風土」(完全版)(決定版)(新潮文庫版)を追加しました。
 
◇池澤夏樹氏に当研究会の顧問に就任していただくことになりました。
 
cafe impala 池澤夏樹氏の公式サイト
 
◇福永武彦生誕100年特別企画の第1回として池澤夏樹氏講演会「福永武彦 人と文学」が、2017年6月11日(日)に神田神保町東京堂ホールにて開催されました。予約で満席となる盛況でした。日本経済新聞(4月29日朝刊)文化欄に福永武彦が大きく取り上げられ、池澤夏樹氏、当会会長のコメント記事とともに講演会についても紹介されました。

 

福永武彦「廃市」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS)
 

福永武彦「加田怜太郎 作品集」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS)
 

福永武彦「夢見る少年の昼と夜」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS)
 

福永武彦「夜の三部作」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS)
 池澤夏樹氏が解説を特別寄稿。池澤夏樹氏による解説文が掲載されています。
 
      
福永武彦「風土」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS)
 池澤夏樹氏が解説を特別寄稿。池澤夏樹氏による解説文が掲載されています。
 
福永武彦「海市」が復刊されました! 小学館(P+D BOOKS)
 池澤夏樹氏が解説を特別寄稿。池澤夏樹氏による解説文が掲載されています。
 
 
福永武彦「未来都市」が刊行されました(2016年12月)
 ・36年余り永きに亘り眠っていた幻の大型絵本が、装いも新たに今、甦みがえりました。


◇福永武彦関連 新刊2点(2015/3/26)
 ・堀辰雄/福永武彦/中村真一郎(池澤夏樹編集 日本文学全集17)
    福永武彦:「深淵」「世界の終り」「廃市」
    堀辰雄:「かげろうの日記」「ほととぎす」
    中村真一郎:「雲のゆき来」を収録

 ・「草の花」の成立―福永武彦の履歴/田口 耕平







 
書影付き著作データに以下の資料を追加しました。

◇「福永武彦詩集」写真版2部本 :掲載ページ New!
 先日、懇意の古書店より連絡を受け、市場に福永武彦の面白い資料が出ていることを知りました。「福永武彦詩集」自筆ノオトの白黒コピーを大学ノートに1ページごとに張り付け、巻末には印刷した奥付が添附され、源高根宛の福永自筆識語が入っている2部本とのこと。存在は以前より知っていましたので入札を依頼したところ幸いに落札できました。
 元となっている福永自筆の詩集というのは、『時の形見に』(白地社 2005.11)に写真版で紹介されているノートとはまた別の中判の大学ノートに記されたもので(1943年に清書されたもの)、収録詩篇も多少増えています。
 奥付と福永識語により、このノートを作製したのは源高根氏であることがわかります。源氏はたえずこの写真版を参照し、岩波書店版『福永武彦詩集』校異への疑問を熱の籠った論文として纏めた際に参照したのもこの2部本です。
 表紙、本文、奥付画像を掲載します。書影クリックで拡大画像にリンクします。


◇「小説風土」(完全版)(決定版)(新潮文庫版):掲載ページ
  書影クリックで拡大画像にリンクします。

 
(完全版 表紙)

限定1000部 
1957.6.15 東京創元社 1000円
扶桑印刷・A5判変型・丸背紺布装・函・番号入・453頁 旧かな・旧字
「風土後記」57年5月(2頁)、「著作目録」(2頁)、「目次」(2頁)

*私家版30部本あり(1~30) 1000部版と同判、同装幀
*省略版に、過去を扱う第二章を増補しただけでなく、本文全体に大幅な手入れ。
 
(完全版 扉)

第2部が増補され、はじめてロマンとして完全な姿で読者に提供した本書扉に『小説風土』と明記した意味は大きい。
奥付にも「小説風土」とある。
 
(決定版 表紙)

1968.12.10 新潮社  700円
二光印刷・46判・丸背深緑布装・函・帯・417頁 新かな・新字
「解説」丸谷才一、装幀 岡鹿之助

*完全版本文に、更に全体に渡って手入れがあるので「決定版」と呼ぶ。奥付に決定版との表記がある。
 
(新潮文庫版)

1972.6.15  新潮社  220円
光邦・文庫判・紙装・カヴァ・429頁 新かな・新字
「解説」丸谷才一(決定版と同文)、カヴァ装幀 岡鹿之助

*表紙は決定版の函と同一




◇第204回例会
日時:2024年3月24日(日)13時~17時
場所:リモート(Zoom)開催
【例会内容】 画文集「玩草亭百花譜」

【例会での発言要旨・感想】 順不同(敬称略)
Kiさん:
画文集「玩草亭百花譜」(1975年から1979年に亘る草花写生帳と随筆)について
1.書誌 
玩草亭百花譜」参考資料一覧(PDF)、 1-0「玩草亭百花譜」書誌に示す。
2.構成
以下の説明文章は、「玩草亭百花譜」より引用
「玩草亭百花譜」(上)収録
①信濃追分 風物写生帖(1975) 11.0×8.5cm 68葉
 最初の草花帖、「なつ」「秋のはじめ」の2冊、黒インクのペンを用いて輪郭をとり、日本絵具で彩色。
②草花写生(1976/77) 14.2×9.5cm 22葉、22.0×15.4cm 4葉
 1976年より草花の名を植物図鑑で調べて、学名を記入した。絵日記ともいうべき草花図鑑の始まり。
③信濃追分 草花写生帖(1977) 17.5×10.5cm 40葉
 1977年よりカンソンのスケッチブックを使用。ニュートンの水彩絵の具で彩色を施した草花40葉が4冊に収められている。

「玩草亭百花譜」(中)収録
①草花同定帖(1977) 12.5×8.9cm 66葉、17.5×10.5cm 5葉
 1977年より草花の同定を学び、野草の観察や分類に一日の大半の時間を費やして丹念に記録したスケッチ帖3冊。それまでの単なる写生ではなく、別の角度から野草に接して、造化の妙など、より深い興味をもって草花を友とした。
②色鉛筆による草花写生帖(1978) 17.5×10.5cm 28葉、草花スケッチ帖 12.5×9cm 35葉
 北里研究所附属病院入院前後のスケッチ帖2冊。色鉛筆を使用した写生のため「花の鮮やかさを出すのが難しい」と言いながら、自然の草花、又カボチャなども病の床の中で写生した。

「玩草亭百花譜」(下)収録
①信濃追分 草花帖(1978) 17.5×10.5cm 40葉
 1977年秋より入院退院を繰り返して、体力の衰えを自覚せざるを得ない状態にあった。しかし、スケッチ帖の絵は次第に佳境に入り、見舞に来られた方々の眼をも愉しませていた。草花40葉が4冊のスケッチ帖に収められている。
②草花写生帖(1979) 17.5×10.5cm 29葉、草花スケッチ帖 12.5×8.5cm 10葉
 最後の夢を託すかのように、情熱を傾け写生した最晩年の草花帖。水彩絵具と色鉛筆の写生帖4冊に収められている。6月30日以降のスケッチは病の床の中で描き、学名が記入されていない。
③風景・静物写生(1962・1964・1970) 9.2×14.0cm 12葉、15.0×10.0cm 13葉
・1962年の秋 京都-松江-岩見大田-宍道湖-出雲-倉敷-広島へ旅行した折のスケッチ3葉。この時初めてニュートンの小型携帯用水彩絵具を購入し携えた。
・1964年の秋 信濃追分-金沢-千里浜-能登一宮-富木-増穂浦-小松飛行場-羽田のコースを旅行した折のスケッチ9葉。
・1970年の秋 長野県小布施新生病院でのスケッチ7葉。
④御馳走帳(1970~19794) 12.2×17.0cm
 内田百閒先生の御馳走帳を愛読していた武彦が、昭和45年より正月のお節料理を念入りにしたため、色彩豊かな御馳走帳を作成して愉しむようになった。

3.関連参考画像(画像クリックで拡大画像にリンク)
・信濃追分 風物写生帖(1975)より野草スケッチの第一作「野アザミ」(左)
・草花同定帖(1977)より「クサノオウ」(中)
・草花写生帖(1979)より「立葵」(右)
 絶筆となった7月28日のスケッチ。このあと8月8日に胃の手術を受けたが(*)、永年低血圧、低体温だった武彦が、8月12日に突然脳出血で意識を失い、13日の暁方天に召された。(福永貞子 記) (*)追分の主治医だった小井土昭二医師の証言では、11日に手術

・病中日録(1978)より「あけび」
 病中日録が書かれた時期は、「玩草亭百花譜」(下)に収録された「信濃追分 草花帖」の期間(1978/6/15~10/13)に収まっている。(左)
・木下杢太郎「百花譜」(1979)よりアマヅル(中)
 1943/3/10より1945/7/27まで総計872点からなる植物図譜。絶筆より2ヶ月半後の10/15病死。20.2×16.7cmの枠付き洋罫紙にほぼ原寸大で描いている。
・当時、武蔵美大生だった田中淑恵氏が、1975.8.1に玩草亭を訪ね、福永に見せたクサフフジやホタルブクロのスケッチ。(右)
 福永は、8月6日に野草スケッチ第1作「野アザミ」を描いた。


4.「玩草亭百花譜」執筆の経緯
 福永は若い頃から絵画に関心があり、自身でも絵(油絵、パステル画、水彩画など)を描くことがあった(参考資料一覧1-1)。「玩草亭百花譜」(下)には1962年の水彩スケッチ他が収録されている。
 1975年8月1日に玩草亭を訪問した美大生、田中淑恵さんが前日に追分で描いた草花のスケッチを見た福永は、8月6日に草花スケッチ第一作を描いた(参考資料一覧2-2、2-3)。木下杢太郎「百花譜」に倣い1976年からは草花の名を植物図鑑で調べて、学名を記入した。1977年より草花の同定を学び、野草の観察や分類に一日の大半の時間を費やして丹念に記録した。1979年6月30日以降のスケッチは病の床の中で描き、7月28日のスケッチが絶筆となった。8月8日に胃の手術を受け(資料2-4によれば8月11日)、8月13日永眠。

4.感想
 「玩草亭百花譜」あとがきに貞子夫人が記した以下の文章や1978年から死去まで追分での福永の主治医だった小井土昭二医師の証言がスケッチを描きはじめた晩年の福永の心境を表しているように思える。
  • 1945年以降のほとんどの歳月を、病気との同居生活を強いられてきた武彦は、文学に注ぐべき体力の余りの少なさに、時には苛立ちを覚えるような日々を送らねばならなかった。しかしこの時以来、絵筆の中に憩うことで、ようやく安らぎを取り戻したように私には思えた。(資料2-1 「玩草亭百花譜」あとがき)

    自分がこれから先もう書けなくなれば絵、絵も描けなくなれば音楽、そういう段取りで自分の締めくくりをしたいと『玩草亭百花譜』のことは話していましたけど。(資料2-4 証言 病床の福永武彦を診察して)
 「新生日記」1949年1月13日には以下の記述がある。
  • マチスの「裸婦」がいく度見ても好い。春になったら絵の稽古をしたいと思ふ。勿論今からではアマチユアの域を脱しないだらうが、芸術が愉しさであるやうな、そんな境地は文学からはもう得られさうにもない。
 晩年に至った福永が、草花スケッチにより芸術を愉しむ境地を得ることができたと思いたい。

Iさん:
『玩草亭 百花譜』の研究会を通して思うこと                     
 文字が小さくて読みにくかった部分も、研究会で読んでいただいたおかげで、ふむふむとうなづきながら聞かせていただきました。また、いつもは例会で時間と空間を共有してきたのですが、今回は、Zoomで録音したものを、後日拝聴しました。いつもとは違う空間での研究会視聴は楽しかったです。
 Haさんの発表では、福永の「ご馳走帳」が内田百閒との関連性があるということ、Kiさんの発表では、作家ならではの苦しみを感じたからこその絵、「玩草亭」という雅号の話など、例会ならではの刺激を頂戴しました。
 福永は、スケッチする際にも、きっといろいろな方向から観察し、どの角度から書けば一番特徴を出せるのかなど、さまざまなことを考えながら描いたのかもしれない、と思いながらも、同時に、福永の小説の一節が思い浮かんだり、様々に思いを馳せる時間を持てました。
 そして、Miさんからは、福永が表装の装丁の案など、色々なタッチや淡い色合いのものを見せていただきました。そして、電子全集では描かれた順に掲載を並べ替えたこと、諸般の事情で文言の削除箇所がある点などについて伺いました。
 いろいろな人の影響を受けて、そこから学ぼうとする福永の姿勢は晩年まで変わらなかったことを知り、「習うは一生」という思いを持ち続ける意志の強さを感じました。

Miさん:
『玩草亭百花譜』の問題点と感想
①描かれた順に掲載されていない点
 歿後刊行でもあり、この点は編集上のミスと捉えて電子全集第20巻には以下のように収録した。
上巻:「一九七六年」末尾2点(「エゴの花」と「薔薇」)は、1977年2月、3月に描かれているので、同書「一九七七年 Ⅰ」に移した。「エゴの花」は、冒頭「かたくりの花」の前に挿入、「薔薇」はその後に挿入した。
 同「一九七七年 Ⅰ」の末尾4点(「ヤエヤマブキ」「カキドオシ」「アケビ」「ナルコユリ」)は、1978年5月末、6月の筆なので、中巻の「一九七八年 Ⅰ」の末尾に挿入した(「宝鐸草」の後に追加)。
中巻:「一九七七年 Ⅱ」「草花同定帖」の末尾(右上に六十六と記してある後)の「ダイコンソウ」から最後の「ナベナ」までは、描かれた月日から言えば本来「一九七七年 Ⅱ」の冒頭に移すべきであるが、この「同定帖」には、冒頭1番から66番まで右上に番号が記されているので(福永自筆)、ここは初刊本のままにしておいた。
下巻:「一九七九年」第15点目から第21点目までの七枚(「クリスマス・ローズ」、「芍薬」3枚、「スズラン」「宝鐸草」「イノモト草」)は、「一九七九年」冒頭「クリスマス・ローズ」の直後にすべて移した。
 「風景・静物写生」の冒頭の1点を、3点目「宍道湖晩景」の直後に移した。また、同10点目「林檎の木」から末尾までの絵を、制作月日に従って入れ替えた。
*掲載順とは別に、草花の横のキャプション(説明文)が必ずしも同日に記されているわけではない点に注意したい。

②説明文の一部が編集過程で消されている点
 以下は福永武彦オリジナル絵画2点(画像クリックで拡大画像にリンク)

 この2点を『玩草亭百花譜』下巻77頁、78頁(普及本、文庫本も同一)の絵と対照していただきたい。
 刊本では小井土昭二医師関連の記載が削除されている。削除すること自体は、様々な理由が推測されるのであり得ることとしても、「文言が一部削除してあることが読者に知らされていない」という点はまずい。この本の信頼性に関わる。
 つまり、他の絵にも同様の手入れが施されている可能性を否定できない。絵の一部は古書市場に流れ、既に散逸しているので(HPの古書目録・会員限定)②の539、564、589、628、638)、すべての絵のオリジナルを確認することは極めて困難である。
 福永歿後刊行の『夢の輪』(槐書房 1981)は、雑誌連載稿への福永手入れ箇所を取り入れていながらその説明がなく、また『絵のある本』(文化出版局 1982)では、初出稿にあった文章が勝手に削除されており、その事実を読者に明示していないのだが、今回の『玩草亭百花譜』を含め、「著者歿後の作品を刊行する際に編集部或いは編者の判断で手入れした箇所は読者に明確に説明する」ことが不可欠だろう。特に今回のような絵に附された文言の一部だけを削除する場合、なんの断りもないというのはいけない。
*また、文庫本下巻、冒頭から15頁までノンブルが無かったり(途中12頁だけ付されている)、中央公論社の校閲が杜撰。私が関わった小学館電子全集のミスの多さは冷や汗ものだが(第20巻末に記したように、正確に記した年号などを校閲担当者に毎回複数個所―横書きの年号を縦にする際―誤記された)、新潮社以外の各社の校閲のいい加減さに―さあなんと言おう、大きな危惧を覚える。
 以上の指摘を「些末なことを」としか理解できない出版関係者には、福永文学とは無縁であって欲しい。

感想:(前回『病中日録』報告文とも重なる)
 これら草花の絵は、消閑のために戯れに描かれたものではない。これらは、「詩書画」をよくする文人としての姿勢がグッと強まってきた時期に描かれたものであり、体調の都合で自由に出歩くこともままならなくなっていた福永が、紙面に可憐な草花の姿を出来る限り精確に写さんとする手業(てわざ)を通して、生の息吹を感じ取り、草花と自らの生をひとつの世界として定着した作品である。謂わば生の証(あかし)と言える。草花の姿を描くだけでは足りず、「草花同定帖」のような、各種の植物図鑑と首っ引きで時間のかかる絵に集中し得たのも、見た眼だけでなく、草花の生の実相に迫りたいという衝迫があったからだろう。
 この絵を描き始めた後、杢太郎の『百花譜』(岩波書店1979年3月)を眼にした際「その校正刷を見て意気とみに沮喪したことを告白する」(上巻収録「草花を描く」)と嘆いているが―画家を目指したこともある杢太郎の技量が玩草亭主人を上回ったにせよ―医師太田正雄としての激務の中で、そして壊滅的な戦争の進行する深夜、黙々と草花を描き続けた杢太郎の心情は、福永にも惻々として伝わって来ただろう。


◇過去の例会報告
 例会報告のページをご覧下さい。



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        Fax  044-946-0172


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福永武彦 電子全集11
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福永武彦 電子全集10
『ゴーギャンの世界』、
彼方の美を追い求めて



福永武彦 電子全集9

『完全犯罪』、
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福永武彦 電子全集8
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福永武彦 電子全集7

戦前の文業(散文)、
大河小説『獨身者』

 

福永武彦 電子全集6
『ボードレールの世界』、
福永翻訳小伝『ボードレール』
『悪の華』「新・悪の華」、
『パリの憂愁』他



福永武彦 電子全集5

「廢市」、「告別」等、
中短12篇を収録



福永武彦 電子全集4
短篇集『心の中を流れる河』、
『世界の終り』、
長篇『夢の輪』収録

 

福永武彦 電子全集3
先鋭な実験『夜の三部作』、
そして『愛の試み』


 

福永武彦 電子全集2
『小説風土』全4種を完全収録



 
福永武彦 電子全集1
「草の花」「塔」他の初期作品


 

「加田怜太郎 作品集」小学館

 

「夢見る少年の昼と夜」小学館



「廃市」小学館



「夜の三部作」小学館



「風土」小学館



「海市」小学館



死の島(上) 講談社文芸文庫


 
死の島(下)講談社文芸文庫



「草の花」新潮文庫



「忘却の河」新潮文庫



「告別」講談社文芸文庫



「風のかたみ」河出文庫



「愛の試み」新潮文庫



「草の花」英訳版



「福永武彦新生日記」(2012)



「福永武彦戦後日記」(2011)


 
新潮日本文学アルバム
福永武彦

 

池澤夏樹編集 日本文学全集17
堀辰雄/福永武彦/中村真一郎

 



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