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貌なし

著者:嶋中潤

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突如、父が失踪した。父の行方を探す娘の木村香は、父が通っていた小料理店で昔、港町で漁師の手伝いをしていたと話してしたことを知る。群馬県出身の父が港町? そんな疑念から父の足跡をたどる香が知ったのは25年前に起きた殺人事件で法廷に立ち、被告に有利な証言を述べていたこと。さらに不可解な金の動きがあることを知る……
物語のテーマとしては「無戸籍」。物語は、失踪した父の行方を探る娘の香。そして、若き日の父の日々という二つのパートを繰り返す形で進行していく。
そのテーマである「無戸籍」。その問題については、間違いなく考えさせられる。日本において、戸籍、という身分証明書は何よりも大切なもの。学校へ行く、とか、免許を取る、とか、はたまた家を借りる……何をするにしても、それがないことには話にならない。それがない、ということは制度上、存在しないのと同じ。しかも、戸籍がないから身分証明ができない、というのに、身分証明ができないから戸籍が作れない、という不可解な状況まで発生してしまう。本書の刊行が2015年なので、法律などが変わった部分もあるかも知れないけど、完全に解決したとは言えないはず。
そんな境遇にあった父。母子家庭に育ち、戸籍がないことにより「普通の生活」すらできないことに苦しむ彼は、ただただ「戸籍」を望む。そして、その戸籍を裏で購入することはできたが、しかし、本来の自分と戸籍上の自分の違いに今度は苦しむことになる。勿論、それは非合法に手に入れたもの、という面はあるにせよその苦しみは間違いないのだろう。
その一方で、香のパートでも、様々な調査により、父はかつて無戸籍だったのではないか? という疑念は湧いていく。ただ、それでも不可解なのはなぜ失踪したのか? さらに、法廷で証言をしたことなどはどこに繋がるのか? という謎が残っていく。その真相は……
読み終わると、ちょっと「うーん……」という感じが残る。
戸籍がない、ということで生じる様々な問題。一方で、父が過去に行った法廷での証言と、その事件の謎。
どちらもそれ単体では魅力的なものである、とは思う。思うのだけど、じゃあ、その二つのものを組み合わせて、より物語が面白くなったのか、というと正直なところなっていないように感じる。はっきり言えば、二つの話があまりかみ合っていない。25年前の事件については、無戸籍だったことはほぼ無関係だから。
それぞれのテーマそのものは決して悪くないのだけど、それを上手く組み合わせることが出来ていなかったな、と感じる。

No.6966

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Tag:小説感想嶋中潤

著者:香坂マト

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長期休暇を終え、通常業務へと戻ったアリナたち。休暇前の状況から考えれば、あり得ないほどに平和な日々だったが、迫りくるは、全冒険者のランク付け業務。しかも、これまでは専門部署の仕事だったそれが、アリナ達、受付嬢の業務に加えられて……
なんか、久々にドタバタ劇メインの話になったような印象。
前巻で、アリナがシュトラウドが実は……ということを知った……というところまでが描かれた。しかし、そんな休暇を終えて、受付嬢たちに課せられた新たな業務は、冒険者たちのランク付け業務。これまでは、専門部署が担当していたそれだが、その業務は受付嬢にまで……。一方で、これまでアリナの残業を手伝ってきたジェイドは、自らの力不足を感じ、力をつけるために手伝えないという……形で、物語は、アリナ、ジェイド、双方の視点から進むことに。
アリナに関しては、相変わらず、という感じだろうか。日々の業務ですら、冒険者たちはまともな書類などを提出しない。まして、ランク付けとなれば……。専門職員からの通達。研修。それらから、その難しさを強く感じる日々。秘密兵器はあるが、しかし……。基本的にツッコミどころだらけの冒険者と、それに苛立つアリナたち。さらに、個人主義なカウンターの在り方に対する苛立ち。ツッコミどころ満載の職場環境というのをかなり強調していたと思う。
一方で、自分の力不足を痛感したジェイドは、シュトラウドの導きにより、四聖に会いに……。『聖母』レベッカの協力は得ることができたが、その前に立ちはだかるは『守護者』のアラン。傍観者でなければならない、という規約を盾にジェイドらを叩き潰そうとするが……。
良いところをすべてアリナが持って行ったな、という感じ。こちらもツッコミどころ満載のアランの行動。それを突きつけるアリナの暴露。さらに彼らが持つ強力なスキルを手にするための条件を軽々とクリアしたアリナの持つ「強い願い」は……。
……ですよね~……
予想通りではあったのだけど、予想通りだからこその回答に笑ってしまった。
前巻と同様、今回もシリーズの根幹に関わる重要なものがあるのだけど、アリナの職場でのアレコレ。その中の純粋な想いのぶっちゃけっぷりに笑ってしまった。さらに、アリナとジェイドの関係性っていうのも進展したことだし。すべてを通してのバランスが良い巻だったな、という風に思う。

No.6965

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Tag:小説感想電撃文庫香坂マト

お梅は呪いたい

著者:藤崎翔

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解体中の古民家から発見された古い日本人形。それは、戦国時代、ある大名家を亡ぼした呪いの人形・お梅だった。自分で動くこともできるし、意思も持っている。そんなお梅は、500年の眠りから覚め、自分を引き取った底辺ユーチューバーを呪い殺そうとするのだったが……
というところから始まる連作短編集。全5編+プロローグ&エピローグを収録。
「笑いと涙のオカルトハートフルコメディ!」と書いてあるのだけど、まさに、その紹介がぴったりと来る感じ。500年間、箱の中に封印されていて、ようやく復活を果たしたお梅。人を呪い殺す、というのは彼女の本能のようなもの。瘴気によって周囲の人間の体調を崩させ、近くの人間の負の感情を増幅させる力も持っている。だが、現代文明に関する知識はない……。言葉とかは禍々しいのだけど、そんな彼女の「呪い」がいつも反対方向に作用していく様が楽しかった。
1編目『ゆうちゅふばあを呪いたい』は、まさにそんな現代を知らないお梅だからこそ、という印象。彼女を引き取ったのは、YouTuberとは名ばかりの悠斗。不気味だし、呪いの人形かも、と引き取った彼をお梅は呪い殺そうとする。しかし、スマホカメラで撮影されている、ということを知らないが故、動くことができる、という決定的瞬間を撮影されてしまう。カメラの存在を知り、身動きできなくなったお梅。事態を打開したいところで千載一遇のチャンスが訪れるが……。500年前の知識しかない存在が現代に来たら? というお約束と、お梅が動く出来ることができる、という設定が上手く物語に寄与していたな、という印象。
2編目『失恋女を呪いたい』。お梅を拾ったのは、恋人に捨てられてしまった怜花。ネガティヴな感情に囚われた彼女なら……と、そんな彼女の負の感情を増幅するが……。こちらは、その「感情の増幅」が反転する様が楽しい。当初、「怠惰」の感情を増幅させ、瘴気で病に……というところに成功するのだが……。まさかの形で、むしろ彼女の生活を好転させてしまう流れが面白かった。
4編目『老婆と童を呪いたい』は、はっきり言ってお梅は何もしていないに等しい。けれども、引き取られた老婆は健康そのもの。さらに、ふとしたことで知り合った子供と年齢差を超えた交流をひたすら見せつけられるだけ。けれども……。意外性、という意味ではこれが一番だと思う。ただ、子供の側は……普通なら、傷つく結末の気がするんだけどなぁ……
5編目『老人ほをむで呪いたい』。これは、ある意味では呪い殺すことには成功しているんだよな。老人ホームで暮らす身体が弱った認知症老人の部屋に置かれたお梅。その瘴気を使って、その老人が苦しかったことばかりを夢で見せるのだが……。ある意味、「苦しいこと」こそ思い出す、という部分を上手く使った話だな、と感じる。そして、だからこそ……の結末。お梅自身が「基本的には上手くいっていた」というように、成功はしていたこと。だからこそのくやしさ、だろうな。
えぴろおぐ、でそれぞれの登場人物の繋がりとかは、いかにも著者らしい終わり方。ただ、お梅の存在的に、今後も、話は続けられるはず。上手くまとめた感じだけど、続編も期待したいところ。

No.6964

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Tag:小説感想藤崎翔

著者:御手々ぽんた

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町はずれの自宅から、片道2時間をかけて登校している高校生のユウト。クラスメイトの早川姫からドローンと配信機材を貰う。試しに家に現れる害虫を新聞紙で叩き潰す動画を撮影したユウトだが、そのドローンはAIにより勝手にその動画を配信サイトにアップしていた。すると、それを見た視聴者たちは、そこがダンジョンで、ユウトの潰したのがレアモンスターであることに湧いて……
無自覚最強ファンタジー、という煽り文句は間違いないのだけど、当初、期待していた作風とは大分違ったな、というのが第一。
物語の冒頭は、最初に書いた通り。ユウトが気づかないうちに、自宅はダンジョンの一部となっていて、ユウトが害虫だと思って潰した虫は、実は非常にレアなモンスター。さらに、庭に生えてきた雑草を刈ったけれども、実はこれも植物系の強いモンスター。それだけでなく、畑で育てた野菜……と思っているものは非常に貴重な薬草。ユウトは、(田舎の)当たり前の生活をしているだけのつもりなのだけど、その正体を知る動画視聴者たちは、それを見てザワついていく……という話が続く。そして、そんなユウトの存在を巡ってダンジョンの管理をする公社は、ユウトにここがダンジョンであると気づかれないように隣家に引っ越してきて、その管理をするようになっていって……
まぁ、その流れ自体は、当たり前のような気がするのだけど、途中から、色々な視点が組み合わさることによってユウトの、自分では普通だと思っている生活が異常なのだ、という部分で盛り上がる物語からは逸れて、彼の存在を巡っての思惑の錯綜というような物語に変わっていく。その辺りが、思っていたのと違った、と感じた理由。個人的にはもっと、何も知らずに異常なことをしているユウトと、それに驚愕する周辺を楽しみたかったかな、という風に感じる。まぁ、そんな最強のはずのユウトがある生物は大の苦手、とか笑ってしまった部分はあるのだけど。
でも……正直なところ、読んでいて、イマイチ、物語の設定とかに入り込めなかった、という部分があったりする。なぜなら、この作品世界における「モンスター」っていったい何なの? という感じがするから。もっと言うなら、モンスターと虫って間違える? というか……
自分も田舎育ちなので、自宅周辺に虫とか、野生動物とかが出る、なんていうのは日常茶飯事。夏の夜、窓にカブトムシが飛んできたり、とか普通にある。カブトムシなんて、日本ではかなり大きな虫の一種だと思うのだけど、それが恐ろしいモンスターとは思わない。ムカデとかは、毒を持っているから噛まれると危険っていうのもいるけど、それだって「注意すれば大丈夫」レベル。新聞紙で叩いて潰す、とかって、せいぜい、そのレベルの大きさだと思う。それって、周囲が騒ぐほど危険なのだろうか? と感じてしまう。カラーイラストだとジェノサイドアントという蟻のようなモンスターは30センチくらいありそうだけど、他は情報が不足しすぎていて、なんかその異常性が読者にもイマイチ伝わってこなかった。他にも、ダンジョン化とか、そういう設定もやや後付け的に説明された感があるかな?
その辺りの説明がもっと上手く処理されていれば、もっと楽しめたんじゃないか、と感じた。

No.6963

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Tag:小説感想GA文庫御手々ぽんた

龍のはらわた

著者:吉田恭教

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新人調査員の早瀬未央が鏡探偵事務所を突如辞して8カ月。鏡探偵事務所を訪れたのは、早瀬の母親を名乗る女性。彼女によれば、早瀬が失踪してしまったという。そこで知らされたのは、早瀬が19年前、日野市で起きた一家惨殺事件の生き残りであること。さらに、研修医であったが、3年前、突如として鏡探偵事務所へと転職した、ということだった。早瀬が転職を図る直前、八王子市の民家で白骨死体が発見され、それが早瀬の一家惨殺事件の犯人の一人ということが判明していて……
槇野・東條シリーズ第8作。前々作である『MEMORY 螺旋の記憶』のラストシーンで引きとして出されて、1作お預け状態だった早瀬を巡っての物語。
冒頭に書いたように、凄惨な過去を持つ早瀬。そんな彼女が失踪した、という連絡から始まる物語。研修医を辞めたタイミングから見て、自分の家族が殺された事件に関わっていることはほぼ確定。そこで、19年前の事件。さらに、その民家の所有者について調べ始める。そこで判明するのは、ある怪しげな一族について。しかし、その一族の人間が次々と殺されていく。一族の抱えている秘密は何なのか? そして、何が起きているのか? 早瀬を探す槇野&高坂と、殺人を探る東條と二つの側面から物語が進んでいき……
19年前の事件を巡り、次々と判明していく一族に対する疑惑。一つ、また一つと積み重なっていくその不可解な状況。だんだんとその背景は見えてくるが、その一方で肝心の早瀬の行方は杳として知れない。東條を通して警察側の視点もあるから全くの無関係ではないのだけど、物語の起点が槇野側にもたらされた依頼。さらに、早瀬に想いを寄せる弁護士・高坂がいつになく積極的に動いているだけに、その展開がもどかしくもある。
ただ、今回は事件の規模が凄まじく大きくなってしまった結果、色々と投げっぱなしになった感じもあるな、という印象。
物語の中心となる一族の行っていた悍ましい行為の数々。さらに、そこと結びついた巨大組織、というものも現れるのだけど、一族がしていたことは明らかになったけれども、さらにその背景の存在については、そういう存在がいる、というだけで尻尾をつかめず仕舞い。話の規模が大きくなっただけに、ちょっとその部分には肩透かし感を感じずにはいらない。
ただ、シリーズの中で引っ張ってきた早瀬自身の掘り下げ。そして、その行方を追ってのもどかしい展開、という流れは楽しく読むことができた。

No.6962

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Tag:小説感想吉田恭教

著者:一色さゆり

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イギリスのアトリエからスギモトが消えて1か月。その助手を務める晴香にルーヴル美術館にいる、という絵葉書が届く。ルーヴル美術館で久々の再会を果たした際、スギモトは「ある用事」が済むまでは、ここで修復の仕事をする、と言い……
から始まる連作短編集。
タイトルの通り、シリーズ第4作となるのだけど、これまでは『コンサバター』とだけあったのに、いきなり巻数が追加。一体、何があった?
で、4巻目となる本書では、スギモト、晴香がルーヴル美術館に行って、のエピソードを収録。
1編目『ニケの指輪』。「サモトラケのニケ」像の調査をする中、その襞に挟まっていたことが判明した一つの指輪。造りは精巧で間違いなく高級品であることがわかるもの。その正体を探り、パリの高級ブランド店に問い合わせるのだが……
まず、仏像とかに対して、賽銭を投げ入れる、ということが日本をはじめとしてアジアでは行われているが、しかし、それは美術品を傷つける可能性があり……という部分は「確かに」という納得感。そして、それを投げ入れた者の想い。「ニケ」像もそうだけど、不完全だからこそ、そこを想像する楽しみ、それぞれの中にある完成形というものが、人々の想像力を掻き立てる、というのは間違いないだろうな、と感じる。
個人的に好きなのは3編目『汚された風景画』。ルーヴル美術館に展示されていたコローの絵に対し、環境活動家を名乗る者がインクを投げつけた。幸い、ガラス付きの展示であったため、絵が汚されることはなかったのだが、コローの作品としても地味なそれをわざわざ狙った理由がわからない。そんな中、スギモトが注目したのは、絵そのものではなくて……
まず言うと、このエピソードは、ミステリとしてのひっくり返しとかは弱い。一応、その作品を巡っての利害関係者とか、そういうものは提示されるものの、明らかなミスリードだろうと思えるし。ただ、その先の展開が大好き。
絵画というものを語るのに絶対に欠かせないモノ。しかし、そもそもが裏方とあって、そこに注目をされることはない。そして、現在のあまりにも雑なその扱いに対する犯人の想い。そんな犯人に対するスギモトの強烈な一言。その存在を否定することなく、しかし、というつなぎ方が見事だった。
そして、4編目『ショパンと雨』。それまでの各編で断片的に描かれてきた館長の進めていた極秘プロジェクト。それは、ドラクロワが描いたショパンとサンドの絵画を一緒にしようというもの。本来は二枚が一つであったものなのだが、なぜか二つの絵画として分割され、ひとつはルーヴルに、もう一つはデンマークの資産家の元へ……。政治的な思惑もある中で……
まず、ドラクロワの『ショパン』の絵画に関して、調べてみたところ、実際に分割されてしまった、というのはあるらしい。諸説あるらしいその理由。しかし、所有者が異なる中での、単なる美術品の扱いを巡る争いではない状況というのがリアリティを感じる。そして、調査の中で発覚したこと……
恐らく、これはフィクションだろう。けれども、科学的な鑑定などが出来るようになったから、こういうこともあるのではないかといいロマンを感じる。そこに至るまでのアレコレを含めて。そういう意味で、最終話に相応しいと感じる。
でも……
続くんか~い!

No.6961

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Tag:小説感想一色さゆり

ほうかごがかり2

著者:甲田学人

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「お願い、『むらさきかがみ』の絵を描いてください!」 無名不思議を観察する「ほうかごがかり」。その観察に失敗し殺されてしまうと、存在そのものが抹消されてしまう、という事実を知った啓たち。そんな状況の中、啓は消えてしまった見上真絢に憧れながらも臆病な少女・瀬戸イルマに、自分の役割を変わってほしいと頼まれて……(『五話』)
1巻のときは、『ほうかごがかり』に選ばれた啓と、真絢という二人の物語を中心に、どういうものなのか? どうすれば抜け出せるのか? というようなものを示した巻だと思う。そして、そういう部分が判明した上で「ほうかごがかり」として参加することになった面々の物語、という印象だろうか?
冒頭の粗筋で記した『五話』の瀬戸イルマ。学校のアイドルのような存在であった真絢に憧れ、しかし、自分に対して自信が全く持てず、臆病な少女。「ほうかごがかり」という異様な状況に置かれ、そこへの恐怖からただ何もできない状態だった。「大人に言うな」という約束を破り、母親に相談しようとしたりするが、しかし……。そんな中で、全てを啓に押し付けるような形で頼みごとをするが……
いや、客観的に見れば彼女のやっていることは酷い、のかも知れない。でも、こんな状況に置かれたらどうだろう? まして、小学生なら? 普通に暮らしているならば、自分の手に負えないと思えば大人を頼るのも間違いじゃないはず。しかし、それを封じられたら……。この極限状態で、強さを求めるというのが酷な気がする。でも……という結末が印象に残る。
同様に印象に残るのは『七話』の留希。幼いころから、「かわいい」と言われ、母親から、女子のような服装、髪型などをするように言われていた彼。学校が、その辺りを注意すると母親はヒステリックに返し、学校での留希の扱いは要注意。しかし、そんな彼の存在を否定し、彼をいじめる存在が現れる。しかし、母は、そんな彼の悩に寄り添ってはくれない。
学校・家庭……子供にとって、世界のすべてと言える世界で否定された状況の彼が担当することとなった「無名不思議」。悩みを訴える留希の言葉に対し、真摯に応えてくれる。だからこそ、留希にとっての希望になっていった。そして、そんな留希が「絶対に許せない」という状況を迎えたときに……
「無名不思議」がそんなに甘いものではない。それは読んでいる人間にとって当たり前の認識だと思う。でも、当事者となっていたらどうだろう? 留希のようなことになっているのではないかと思う。
各話の主人公たちの苦しみ。だからこその、この世界設定の残酷さ。さらに言えば、啓らの絶望感。そういったものが凝縮された巻だと感じた。

No.6960

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Tag:小説感想電撃文庫甲田学人

革命の血

著者:柏木伸介

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平成も終わろうとしている2019年。神奈川県警の元公安刑事・吾妻が爆殺される。その手口から、かつて吾妻が追いかけていた過激派組織・日反の関与が疑われる。事件の捜査をすることになった公安刑事・沢木は、1989年、吾妻のエスとして活動していた時代のことを思いだし……
ということで、平成の始まりと、平成の終わり、という二つの時代を舞台に描かれていく物語。
粗筋で書いたように、元公安刑事の吾妻が爆殺される、という衝撃的なシーンから始まる物語。そして、そんな過去の物語も、学生であった沢木の目の前で、その大学の講師が爆殺される、というシーンから始まることに。そして、そのとき、沢木の前に現れたのは爆弾魔として恐れられ、海外に逃亡していたはずの枡田という男。そんなとき、沢木は、吾妻から、日反の幹部の娘とされており、かつ、枡田の娘だと言われている月原文目に接近するよう命じる。
日本において、学生運動と言うと1960年代~70年代。既にそういった学生運動は昭和末期には「時代遅れ」と言われ、バブル景気に沸いていた時代。しかし、その残り香はまだ残り、活動をしている者もいる。そして、事件も……。
警視庁と神奈川県警の間にある駆け引き。1989年の時点でも既に沈静化していたはずの日反。その幹部やら何やらが、なぜこのタイミングで注目されるのか? そして、さらに時が経過した2019年に再び姿を示唆した理由は? 「左翼」という言葉が古く、そして嘲笑の対象とまでなった一方で、貧困率が極めて高くなってしまった現在の日本。本来、労働者に寄り添うはずの「左翼」は、貧困率が高くなるほど強くなるはずなのに、その逆の状況ができた背景は何なのか?
400頁超の分量があり、その中で登場人物が身分やら何やらを偽って、なんていうのがあるのでちょっとややこしい部分がある。でも、それもまた本作の一つの見どころと言えるのだろう。それを整理するのにちょっと時間がかかった部分はあるのだけど。
まぁ、エスとして色々と活動をしていたとはいえ、ただの学生でしかないその関係者が次々と現れ色々と教えてくれる。さらに、その黒幕と言える人物が実は……って、これだけの有名人が正体を隠し通すことができるのか、と言えばちょっと無理があるような気がしないではないが……
でも、本書を読むちょっと前に、長らく爆弾魔として指名手配されていた過激派活動家が見つかった、とか、そういうニュースを目の当たりにしたばかりだけに、タイミングの良い刊行、読書だったのかも知れない。

No.6959

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Tag:小説感想柏木伸介

著者:綾里けいし

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天使と悪魔という種族を超えたバディで戦うエルとイヴ。二人が捕らえた人間の殺人鬼の所持品から発見されたのは吸血鬼が所持している品。そこで知ったのは、最強の種族である吸血鬼が何者かに殺害された、という事実だった。吸血鬼殺しに特化した人間・狩人。その『最後の狩人』が復活したという噂が流れははじめ、二人は吸血鬼の姫・ノアに力を貸すことになり……
第1巻の時は、主人公コンビであるエルとイヴの二人の関係性をメインにした感じだけど、この巻では完璧なバディとして活躍。最初の吸血鬼との戦いでも、完璧なコンビネーションを披露。1巻の事件を元に完全に打ち解けたのだな、というのがわかるスタート。そして、その中で判明した「狩人」の復活……
そして、ここで1巻の時に力を借りたノアとの協力体制に。狩人が狙っているのはどうやらノア。狩人との戦争だ、というノアが戦いに挑む中、その「ペット」だというハツネの護衛を頼まれる。だが……
ノアとハツネの関係性というのが、この巻のメインと言える物語に。主とペットという関係性だ、という二人だがその中にある強い絆。ノアがいない場では眠ることのできないハツネ。そこにある彼女のつらい過去。一方で、ノアはノアで彼女を守るためにすべてを賭ける。そして、ノアがハツネによって受け取ったもの。
主とペットというと何か、歪な関係性になるような感じがするのだけど、考えてみれば猫とか犬とかだって、利害関係を考えた関係性じゃない。ただ一方的に可愛がり、かつ、そこで人間側が癒しだったり何なりを得る。一方で、猫とか犬もまた、飼い主がいなくなったら……。まして、そこに人間的な感情がしっかりと発揮されるとしたら? ペットという言葉にすると歪な印象もあるのだけど、言われてみるとこれがしっくりと来る言い方のように感じる。物語としては、今回もまた凄惨な方向へは行くのだけど、それがあるからこそ、より関係性が光るように感じる。
その上で、ハツネの存在とか、そういう部分では世界観の掘り下げも。
1巻の時点でもイヴの存在を巡って、5つの種族が完全に分かれて、というわけではないということは示唆されていたのだけど、そこからさらにこの世界を巡って、それぞれの種族の様相とかがより深まった印象。今後、その辺りがどんどん重要なものになっていくのだろうな。

No.6958

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Tag:小説感想MF文庫J綾里けいし

著者:白木健嗣

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三重県四日市市の老舗造り酒屋で起きた殺人事件。被害者である蔵主の生首が酒蔵で発見され、胴体は屋敷の中。その酒屋の一族には「抜け首」という妖怪の血を引く、という言い伝えがある。果たして、そんな伝承に纏わるものなのか? それとも? 事件当時、その酒屋にからくり人形の修復のために訪れていた人形師の巽藤子は、その事件の調査に乗り出して……
本編が終わる頁数が209頁というコンパクトな分量の本作。それ故に、という部分が無きにしも非ず、とは思うものの……
正直なところ、設定とか、そういうものが活きていないな、という風に感じざるを得ない。
事件は、冒頭に書いた通り、ある夜、造り酒屋の蔵主の首が飛んでいく姿が目撃され、その首が酒蔵で発見される、という形で始まる。この蔵では、従業員たちが皆で夕食を囲むという習慣があり、ゲストと言える藤子が来ていたこともあり、宴会の最中のことであった。そして、その蔵主の一族は、「抜け首」なる妖怪の血を引く、という逸話があり、また特殊な米を用いての酒造で評判を得ており、その米の生産を巡ってのいざこざなども動機として考えられる、という状況であった……
ここまでは良いのだけど……
まず、分量が少ない、っていうのもあるのだけど、探偵役である巽藤子が事件に関わろうとする動機が弱い。元々、自由奔放な性格で、好奇心のままに行動をするような人物とは描かれているのだけど、だからって事件に関わろうとする? さらに、酒屋の一族に関する伝承についても、ある、とはされているものの、そこまで深く掘り下げられてはいない。一族の伝承、ということでホラー小説っぽい雰囲気は出しているのだけど、藤子の謎解きの基本は、あくまでも現実的な、物理的な部分に偏っており、かみ合っていないな、という印象を覚えずにはいられない。
挙句の果てに、真犯人の動機は、というとなんか、納得できない理由になっている。一応、フォローっぽいものはあるのだけど、それを考慮してもちょっと納得できなかった。少なくとも、この動機でやるならば、もっと地域における酒屋の立ち位置とか、そういう部分も様々に描かねばならないんじゃなかろうか。これは、この分量だからこその欠点、とも思うけれども。
トリックとか、そういうものはアリだと思う。思うのだけど、それを魅力的に感じさせるだけの演出や、舞台設定とか、そういったものが足りないと思えてならない。これは、分量が少ない故、という点は間違いなくあるだろう。
でも、それを差し引いても、ちょっと出来があまりよくない、と言わざるを得ないかな?

No.6957

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Tag:小説感想白木健嗣