著者:嶋中潤
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突如、父が失踪した。父の行方を探す娘の木村香は、父が通っていた小料理店で昔、港町で漁師の手伝いをしていたと話してしたことを知る。群馬県出身の父が港町? そんな疑念から父の足跡をたどる香が知ったのは25年前に起きた殺人事件で法廷に立ち、被告に有利な証言を述べていたこと。さらに不可解な金の動きがあることを知る……
物語のテーマとしては「無戸籍」。物語は、失踪した父の行方を探る娘の香。そして、若き日の父の日々という二つのパートを繰り返す形で進行していく。
そのテーマである「無戸籍」。その問題については、間違いなく考えさせられる。日本において、戸籍、という身分証明書は何よりも大切なもの。学校へ行く、とか、免許を取る、とか、はたまた家を借りる……何をするにしても、それがないことには話にならない。それがない、ということは制度上、存在しないのと同じ。しかも、戸籍がないから身分証明ができない、というのに、身分証明ができないから戸籍が作れない、という不可解な状況まで発生してしまう。本書の刊行が2015年なので、法律などが変わった部分もあるかも知れないけど、完全に解決したとは言えないはず。
そんな境遇にあった父。母子家庭に育ち、戸籍がないことにより「普通の生活」すらできないことに苦しむ彼は、ただただ「戸籍」を望む。そして、その戸籍を裏で購入することはできたが、しかし、本来の自分と戸籍上の自分の違いに今度は苦しむことになる。勿論、それは非合法に手に入れたもの、という面はあるにせよその苦しみは間違いないのだろう。
その一方で、香のパートでも、様々な調査により、父はかつて無戸籍だったのではないか? という疑念は湧いていく。ただ、それでも不可解なのはなぜ失踪したのか? さらに、法廷で証言をしたことなどはどこに繋がるのか? という謎が残っていく。その真相は……
読み終わると、ちょっと「うーん……」という感じが残る。
戸籍がない、ということで生じる様々な問題。一方で、父が過去に行った法廷での証言と、その事件の謎。
どちらもそれ単体では魅力的なものである、とは思う。思うのだけど、じゃあ、その二つのものを組み合わせて、より物語が面白くなったのか、というと正直なところなっていないように感じる。はっきり言えば、二つの話があまりかみ合っていない。25年前の事件については、無戸籍だったことはほぼ無関係だから。
それぞれのテーマそのものは決して悪くないのだけど、それを上手く組み合わせることが出来ていなかったな、と感じる。
No.6966
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この記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
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突如、父が失踪した。父の行方を探す娘の木村香は、父が通っていた小料理店で昔、港町で漁師の手伝いをしていたと話してしたことを知る。群馬県出身の父が港町? そんな疑念から父の足跡をたどる香が知ったのは25年前に起きた殺人事件で法廷に立ち、被告に有利な証言を述べていたこと。さらに不可解な金の動きがあることを知る……
物語のテーマとしては「無戸籍」。物語は、失踪した父の行方を探る娘の香。そして、若き日の父の日々という二つのパートを繰り返す形で進行していく。
そのテーマである「無戸籍」。その問題については、間違いなく考えさせられる。日本において、戸籍、という身分証明書は何よりも大切なもの。学校へ行く、とか、免許を取る、とか、はたまた家を借りる……何をするにしても、それがないことには話にならない。それがない、ということは制度上、存在しないのと同じ。しかも、戸籍がないから身分証明ができない、というのに、身分証明ができないから戸籍が作れない、という不可解な状況まで発生してしまう。本書の刊行が2015年なので、法律などが変わった部分もあるかも知れないけど、完全に解決したとは言えないはず。
そんな境遇にあった父。母子家庭に育ち、戸籍がないことにより「普通の生活」すらできないことに苦しむ彼は、ただただ「戸籍」を望む。そして、その戸籍を裏で購入することはできたが、しかし、本来の自分と戸籍上の自分の違いに今度は苦しむことになる。勿論、それは非合法に手に入れたもの、という面はあるにせよその苦しみは間違いないのだろう。
その一方で、香のパートでも、様々な調査により、父はかつて無戸籍だったのではないか? という疑念は湧いていく。ただ、それでも不可解なのはなぜ失踪したのか? さらに、法廷で証言をしたことなどはどこに繋がるのか? という謎が残っていく。その真相は……
読み終わると、ちょっと「うーん……」という感じが残る。
戸籍がない、ということで生じる様々な問題。一方で、父が過去に行った法廷での証言と、その事件の謎。
どちらもそれ単体では魅力的なものである、とは思う。思うのだけど、じゃあ、その二つのものを組み合わせて、より物語が面白くなったのか、というと正直なところなっていないように感じる。はっきり言えば、二つの話があまりかみ合っていない。25年前の事件については、無戸籍だったことはほぼ無関係だから。
それぞれのテーマそのものは決して悪くないのだけど、それを上手く組み合わせることが出来ていなかったな、と感じる。
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