中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

旅行需要の回復に伴い生まれた新ビジネス「付き添いカメラマン」

旅行需要が回復をし、陪拍という新しいビジネスが生まれている。旅行先の現地で落ち合い、プロレベルの写真を撮影してくれるカメラマンだ。しかし、その多くがSNSで見つける個人間取引であるためトラブルも増加していると法治網が報じた。

 

旅行に付き添い撮影してくれる陪拍

旅行需要が回復をする中で、注目をされているのが「陪拍」(ペイパイ)と呼ばれるビジネスだ。観光地で同行をして、写真を撮ってくれるというものだ。いわゆる観光地で待っていて、団体さんの集合写真を撮るような昔風のカメラマンは絶滅している。みな、自分のスマートフォンを持っているので、単なる記念写真なら人にとってもらう必要はないからだ。

しかし、陪拍は契約した時間だけ同行してさまざまな写真を撮ってくれる。機材もスマホから一眼レフ、さらには昔のCCDカメラなども用意し、オプションで照明や衣装、小道具なども用意して、プロならではの写真を撮ってくれるというものだ。

この陪拍と契約をするには、SNS「小紅書」(シャオホンシュー)で検索をしてみるのが一般的だ。1時間あたり45元から100元程度で、その間、写真を撮ってくれ、最後にはデータを送信してもらえる。この他、入園料、交通費などの必要経費を支払う必要があり、またレタッチ、メイク、照明などのオプションサービスを希望する場合は追加料金を支払う必要がある。

▲旅行に同行をして、プロレベルの写真を撮ってくれる陪拍。衣装や小道具なども用意してくれることもある。

 

カメラマン兼旅行のお供である陪拍

このような陪拍の多くは若い女性で、学生がアルバイトとしてやっていたり、通常はカメラマンとして働いている人、陪拍が儲かるのでもはや専業になった人などがいる。

注文をするのも、やはり若い世代が多く、グループ旅行でも利用されるが、目立つのが一人旅の若者だ。1人で旅行をすれば、すべての時間を自分のために使える自由を満喫することができる。しかし、同時に、一人旅は寂しい。そこで、陪拍を1時間とか2時間雇用し、一緒に旅行を楽しみ写真を撮ってもらうのだ。

そのため、多くの陪拍が、募集広告に自分自身の写真を掲載している。陪拍を注文する時は、写真の腕前だけでなく、どんな感じの人なのかも重要になっているからだ。

▲陪拍のSNSでの広告。陪拍をする本人の写真が掲載されることが多い。ただ写真を撮るだけでなく、旅行を一緒に楽しむ面もあるからだ。

 

トラブルが起きるとネットでの応酬

一方で、陪拍が流行をすると、それに比例してトラブルも増加をする。最も多いのは、陪拍を予約したら、現地で雨が降ってきたという場合だ。機転の効く陪拍であれば、室内での撮影に切り替えて注文主を満足させるが、注文主が希望した写真が撮れなかったという不満を持つこともある。その場合、料金を割引けというようなトラブルになる。さらに、陪拍が待ち合わせ場所に遅刻をしてくる、態度が悪いなどさまざまなトラブルが発生する。

このようなトラブルは、他のサービスでも起こりがちだが、陪拍の場合は、その後が違う。トラブルが拗れた場合、陪拍の中には、撮影した写真をネットでさらしてしまい、こんな酷い目にあったと投稿するケースがある。逆に注文主もスマホを持っているため、陪拍の写真を撮り、こんな酷い目にあったとネットにさらしてしまう。

これは肖像権やプライバシー権を侵害する行為であり、さらに陪拍側は連絡用のアカウントや電話番号も公開をしているため、不快に思ったネット民から心ない攻撃を受けることもあり、弁護士を間に入れた話し合い、警察への通報といった事態にまで発展する例もある。

SNSでは、機材、価格など詳しい情報が記載されている。SNSを通じて注文を入れ、旅行先の現地で落ち合い写真を撮影してもらう。

 

ゲームのお供をしてくれる「陪玩」も人気に

陪拍のようなサービスは他にもあり、エスコート経済と呼ばれるようになっている。最も広く知られているのは、陪玩(ペイワン)だ。オンラインゲームをする時に、一緒のチームに入ってもらい、ゲームテクニックを教えてもらうというものだ。陪玩をするのも若い女性が多く、男性が注文をすることが多い。ゲームのテクニックを教えてもらうだけでなく、女性との会話も楽しむことができる。しかし、そこから恋愛感情を持ってしまう男性もいて、ストーキング行為に発展するというトラブルもある。

 

エスコート経済が広まるとともにトラブルも増加中

このようなエスコート経済は、「1人でいる自由を楽しみたいが、ずっと1人では寂しい」という若者特有の感覚から生まれたもので、食事、買い物、勉強などさまざまなエスコート経済が生まれている。そのほとんどが、SNSに広告を出して、それを見つけた人が注文するという個人取引になっており、管理をするプラットフォームがないために、トラブルになった場合は問題が必要以上に深刻になるケースが目立つようになっている。

法治網の法律の専門家は、公的機関が所管をして、苦情、通報の窓口を設置し、紛争解決メカニズムを運用するなど、公的機関の管理が必要な段階にきていると提案している。

 

 

国内旅行は回復したものの、旅行社の業績は回復しない。苦しい旅行業界の事情

2023年、国内旅行に関してはほぼ回復をした。しかし、旅行社の業績は苦しいままだという。旅行が回復をしたことで、投資資金が流れ込み、新たに起業する旅行社が増えているからだと国家旅業が報じた。

 

数年ぶりに沸いている旅行業界

2023年は、中国の国内旅行、海外旅行が回復をし、旅行業界は盛り上がっている。海外旅行に関してはまだまだ弱含みの面があるが、国内旅行に関してはコロナ前にかなり近づいている。大型連休の時の旅行者数は2019年を超えるケースもあるが、通常の時期の旅行者数がまだ回復しきっていないという状況だ。

これに伴い、旅行業が、投資、起業のホットスポットになっている。中には「空中旅行社」と呼ばれるものまで現れた。空中旅行社は、旅行業の資格がない人でも始められるビジネスで、WeChatなどのSNSを使って旅行する人を募り、やり取りをしながら旅行の計画を組み上げていき、手配をするというものだ。つまり、旅行商品の代理購入という建て付けであるため、旅行業の資格がなくても手数料を取ることができる。ただし、個人が開業するため、人によっては質の高い旅行商品が格安で購入できることもあれば、お金だけ送らせておいて旅行商品が手配できないというトラブルも起きている。

それほど旅行業界は沸いている。

 

国内旅行はほぼ回復

旅行業界はどこまで回復をしているのか。2019年上半期と2023年上半期のデータを比較してみよう。

国内旅行の旅行者数は30.80億人だったものが、23.84億人となり、回復率は77.4%となった。

また、旅行収入は2.78億元だったものが、2.30億元となり、回復率は82.7%となった。

2023年下半期の国慶節などでは、2019年以上の旅行者数となったため、2023年通年の統計が出てくれば、ほぼ回復か、場合によっては2019年を上回る可能性もある。国内旅行はほぼ回復をした。

▲国内旅行者数は、下半期の連休では2019年以上になった時期もあるため、ほぼ回復をしていると考えられる。

▲旅行収入もほぼ同じ状況で、回復をしている。

 

旅行業界も回復へ

旅行業界も好調だ。2019年上半期、旅行社は7773.36万人の団体旅行を扱った。延べにすると2.27844億人日になる。また、7812.08万人の旅行者にガイドがつき、延べにすると1.872104億人日となる。

これが、2023年上半期には、団体旅行は5841.91万人、延べ1.425805億人日、ガイドは6922.26万人、延べ1.476984億人日となる。回復率は、団体旅行で62.6%、ガイドで78.9%になる。

これも2023年下半期は好調であったことから、ガイドに関してはほぼ2019年に戻っていると考えられる。団体旅行に関しては、多くの人が個人旅行を好むようになっているため、やや厳しい数字になっている。

▲団体旅行の利用者数は回復が弱い。団体旅行から個人旅行へのシフトがより進んだ。

▲ガイドの利用者数もほぼ回復傾向にある。個人グループ旅行でガイドをつけるというケースが増えている。

 

業界は好調でも各企業の業績は苦しい

しかし、旅行業界は3年ぶりの盛況に沸いているが、各旅行社は厳しい状況に追い込まれている。なぜなら、2023年になってチャンスがあるということから、旅行社の数が激増しているからだ。

2019年6月末の登録旅行社数は3万7794社だった。しかし、2023年6月末時点では5万780社と、34%も増加をしている。つまり、業界の規模はコロナ前と同じかやや少ない程度であるのに、ライバルが増えているために、1社あたりの業績は苦しくなっているのだ。

▲旅行業が回復をしたことにより、新規参入する旅行社が増えている。

 

一社あたりの団体旅行者数は減少

団体旅行利用者数とガイド利用者数を、旅行社1社あたりの人数に換算をしてみると、旅行社の苦境がよくわかる。団体旅行利用者数は2019年上半期に1社あたり2056.8人であったものが、2023年上半期には1150.4人まで減少している。55.9%にまで減少をしている。半減に近い。

また、ガイド利用者数も2067.0人から1363.2人となり、65.9%にまで減少をしている。

▲1社あたりの旅行社数を計算すると、大幅に減少している。これが旅行社の苦しさの原因となっている。

▲1社あたりガイド利用者数も大きく減少をしている。

 

コロナ禍により旅行社のあり方が変わる

オンライン旅行社やネットの発達で、家族旅行、友人同士の旅行で、団体旅行やガイドを利用する人は少なくなっている。オンライン旅行社で、交通機関とホテルのパッケージ商品を購入し、現地ではSNS「小紅書」(シャオホンシュー)で行く場所を探すというのが常識になってきている。

コロナ禍により、旅行をする消費者の意識が、旅行社頼りから個人旅行にシフトしている。旅行社は、団体旅行とガイドという伝統的なサービスだけでなく、現在の感覚に合う新たなサービスを開発しなければ生き残れなくなっている。

 

 

広がる食品のブラックテクノロジー。食品添加物を拒否し始めた市民たち

食品添加物の使用が広がっている。法的に許されたもので、人体に対する悪影響はないとはいうものの、これをブラックテクノジー、ヘクステクノロジーと呼び、避ける市民が増えている。合法であっても、店主の誠実さに問題を感じるからだと琳琳奇聞説が報じた。

 

歩かない鳥の肉を食べている

「あなたの食べた鳥は、一生のうち3mも歩いていない」という言葉がネットを飛び交っている。近年は中国でもケージの中で飼われたブロイラーの鶏肉が出回るようになったことを皮肉っている。以前の中国では、鶏と言えば放し飼いが基本で、いわゆる地鶏しかいなかった。そのため、KFC(ケンタッキーフライドチキン)ですら、他国のKFCと比べて美味しいと言われていた。

このような状況が消え始めている。食品業界も進化をして、さまざまな技術が使われるようになっていっているからだ。このような食品の技術は「ブラックテクノロジー」「ヘクステクノロジー」(ゲームのLoLから由来する言葉)などと呼ばれる。このテクノロジーはさまざまな場所で見られるようになっている。

 

白すぎてふわふわすぎるアルミ饅頭

中国の朝食で定番となっている饅頭。小麦の生地にさまざまな具を入れ、蒸したものだ。せいろを開けると、湯気が立ち上り、食欲をそそる香りが広がり、湯気の中から真っ白で美しい饅頭が出てくる。しかし、普通につくると、ここまで白く、ふわふわにはならないのだ。家庭でつくると、饅頭はやや黄色味を帯び、生地もつまった重たい感じになってしまう。

お店で出す饅頭は、白く美しく、ふわふわ。人々はそれは職人の技によるものだと思っていた。しかし、それは化学合成された膨張剤を入れたものだった。この膨張剤は、消化を著しく悪くするため、大量に饅頭を食べると、消化不良を起こすことになる。このような膨張剤にはアルミニウムが含まれているため、人々はこのような饅頭を「アルミ饅頭」と呼ぶようになっている。

現在では、市場監督局が違法な添加物を使っていないかどうか定期的に検査をするようになっており、添加物を使わないことをアピールする饅頭店も登場しているが、まだ隠れて使っている店は存在している。あまりにも低価格で販売されているのに、白くて美しくてふわふわの饅頭だったら、食べるのを避けた方が賢明だ。

▲白くてふわふわの饅頭。しかし、普通につくると色は黄ばみ、食感はぼってりとするのが普通。技術で白くふわふわにするのは簡単ではない。そのため、ベーキングパウダーがよく使われる。

▲ベーキングパウダーを使うと、饅頭が白くふわふわになる。現在ではアルミ無添加のパウダーが販売されるようになっている。

 

羊の頭を掲げて鴨の肉を売る飲食店

羊頭狗肉=羊の頭を掲げて犬の肉を売るという古事成語は今でも生きている。使われるのは安価な鴨肉だ。昨年2023年9月、ある火鍋屋が市場監督局から指導を受けた。火鍋の具材として提供されていた羊肉ロールのDNA検査をしたところ、鴨肉の成分が検出をされたのだ。

チェーン「張亮マーラータン」でも、羊肉から鴨肉の成分が検出されている。さらに問題なのは、内モンゴル大学の食堂でも羊肉から鴨肉の成分が検出をされたことだ。内モンゴル自治区には回教徒が多く、戒律により食べられる食材が決まっている。鴨肉を回教徒は食べることはできるものの、ハラールによって鴨肉の処理方法が厳格に定められている。このような偽造羊肉に使われた鴨肉は正しい処理方法がとられているかは不明で、回教徒にとっては、知らない間に戒律を犯していたかもしれないのだ。

ネットでは羊肉と鴨肉の見分け方などが出回っているが、専門家は、色や質感は簡単な処理で偽装することができるため、自分の感覚だけに頼ることは推奨していない。怪しいと思ったら、市場監督局などに通報、相談をして、科学的な調査をしてもらう必要があるとしている。

▲羊肉串の店では、高価な羊肉ではなく、安価な鴨肉が混ざっていることがある。

 

コンデンスミルクで白濁させる牛骨スープ

牛骨スープは真っ白で、食欲をそそる香りがして、味わいも深い。しかし、牛骨スープが真っ白になるまでは、長時間牛骨を煮込まなければならない。その間、調理師は鍋に気を配っていなければならないし、朝早く起きて、開店に間に合うように仕込みをしなければならない。

そこで、賢い方法が蔓延をしている。それは牛骨を煮込んだ後に、スプーン一杯のコンデンスミルクを入れるという方法だ。このミルクがきっかけになり、牛骨スープは一瞬で白濁をする。まるで化学の実験を見ているようだ。

ミルクを入れるだけなので、人体に有害ということはないにしても、煮込みが不十分な牛骨スープを飲まされることになる。

▲牛骨スープが白濁するには時間がかかる。コンデンスミルクを入れると、透明な牛骨スープが一瞬で白濁する。

 

食品添加物を使った地ビール

中国のビールと言えば、青島ビールが有名で、これはドイツ人が主体となって設立したビール醸造所が元になっている。また、もうひとつ有名なのがハルピンビールでこちらはロシア人が主体となって設立したビール醸造所が元になっている。

中国のビールはこのような海外由来のものが多かったが、近年増えているのが小さな醸造所で製造するクラフトビールだ。各地に醸造所が設立され、いわゆる「地ビール」が人気になっている。

ビールと呼べるのは、水、麦芽、ホップ、酵母の4つの食材だけから醸造したものだが、食品添加物を使った偽ビールがクラフトビールとして出回っている。難しいのは価格だ。クラフトビールは1本20元ほどで販売されているが、製造原価は10元以上になるために利益は非常に薄い商品となる。しかし、偽ビールは3元ほどの原価しかかからないのに18元前後で販売されている。多くの人が、価格から、ちゃんとしたビールの割引販売、あるいはちゃんとしたビールでコストダウンにがんばったビールと認識してしまう。

地ビールがブームになっているが、食品添加物が使われたビールが多く出回っている。

 

食品添加物の表示義務を望む声があがっている

この問題が根深いのは、食品添加物の多くが合法であるということだ。そのため、大手食品メーカーは使用している食品添加物の情報をウェブなどで開示をしている。しかし、現場で食品をつくる食堂などの場合は、店主が「使っていない」と言えば、調査をしても添加物を検出することは非常に難しい。隠し撮りでもして、添加物を入れている瞬間を撮影でもしない限り、摘発することも難しい。健康の問題よりは、飲食店の顧客に対する誠実さの問題なのだ。そのため、監督官庁も、表示義務違反程度でしか摘発をするすべがない。

市民の間から、食品添加物のすべてをウェブなどで表示することを義務づける法律を制定してほしいという声があがっている。

 

 

アリババが新小売戦略を放棄か?新小売スーパー「盒馬鮮生」、新小売百貨店「銀泰百貨」に売却報道

アリババが新小売戦略を放棄するかもしれない。新小売系事業の「盒馬鮮生」「銀泰百貨」「RTマート」が売却されるのではないかという報道が出ている。アリババは、ECを中心にした成長戦略を構想しているようだと互聯網品牌官が報じた。

 

アリババが新小売戦略を放棄か?

アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が、業態の改革で苦しんでいる。アリババは昨年「1+6+N」の新体制に移行をした。1はホールディングカンパニー、6は主要事業部、Nはその他の事業に子会社化をし、それぞれで株式公開を目指すというものだった。つまり、アリババは上場企業の集合体になることを目指す。

その中で、最も上場に早くたどり着けると見られていたのが、6つの子会社のひとつであり物流を担当する菜鳥物流(ツァイニャオ)と、Nのひとつであるフーマだった。ところが、昨年2023年9月の報道によると、フーマ自身は企業価値を60億ドルから100億ドルの範囲で評価をしていたが、上場計画を進めてみると、投資家たちの評価はわずか40億ドルというものだったという。これが上場計画の大きなつまづきとなり、上場計画は停止せざるを得なくなり、アリババの2023年9月期の四半期報告書にも正式に「フーマの上場は暫時停止をし、より投資家に利益をもたらせることができる体制を模索している」と記述されるようになった。

さらに、アリババは新たに投資会社を設立して、フーマや銀泰百貨などの株式を移管する計画だ。投資会社に移管をするということは、売却も視野に入れるということだ。フーマや銀泰百貨は、アリババの新小売戦略を体現した事業。アリババが新小売戦略を捨てることになるのかと注目されている。

▲2016年からアリババの新小売戦略の中心的な存在であったフーマフレッシュも売却の報道が出ている。

 

店頭価格とオンライン価格を変える苦しさ

フーマの何が問題なのか。フーマフレッシュは、店舗でもオンラインでも購入することができ、受け取り方法も店頭、30分宅配のいずれでも選ぶことができる。消費者が購入方法と受け取り方法を自由に組み合わせることで、ユーザー体験を向上させ、なおかついつでも注文できることから購入機会を広げるという発想のものだ。現在、オンライン注文率は65%程度になっている。

ところがこれがひとつの矛盾を起こしてしまった。オンライン注文率が高いのに、実体店スーパーと同じような店舗を用意するのは無駄であり、オンライン注文では宅配をしなければならず、オンライン注文が増えれば増えるほど高コスト体質になっていってしまうのだ。

そこで、フーマは、オンライン価格と店頭価格を乖離させ始めている。例えば、レッドブル250ml缶は、オンラインでは5.9元で販売されているが、店頭では3.9元で販売されている。李子漆のビーフン335gはオンラインでは11.9元で販売されているが、店頭では9.9元で販売をされている。

つまり、店頭価格を安くして、店頭での購入比率を上げようとしているのだ。しかし、消費者から見れば、便利なオンライン注文は高くつき、安い店頭購入は面倒というユーザー体験の低下につながっている。

 

足し算でしか成長ができない現業

このことが、投資家の評価にもつながっている。フーマは「オンラインとオフラインの融合」を目指したビジネスモデルであり、一定の成果をあげたが、まだ完全に融合するところまでいっていない。オフラインとオンラインの両対応をしているモデルに止まっている。そのため、オンラインの比重が高まるとオフライン用の店舗コストが足枷となり、オフラインの比重が高まると他のスーパーとの差別化ができなくなる。どこに最適バランスがあるのかを模索している最中だとも言える。

また、フーマは配送地域を店舗から周囲3kmに設定しており、オンライン販売でありながら商圏が限定されているのも大きな課題のひとつだ。純粋なECであれば、商圏という考え方はなくなり、国内すべてに対応するだけでなく、越境ECで海外にまで進出していけるため、商圏は事実上の限界はない。

つまり、フーマが売上を増やそうとすれば、コストをかけて店舗を増やすしかない。ECは掛け算で成長していけるが、フーマは足し算でしか成長していくことができない。ここが投資家たちの評価が低かった原因になっていると言われる。

 

ジャック・マーのEC回帰宣言

さらに、昨年2023年、引退はしたものの大株主としてアリババに大きな影響力を持っている馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、アリババ社内で「タオバオに戻ろう、ユーザーに戻ろう、ネットに戻ろう」という方針を示した。これは、広い意味では初心に戻るという意味だが、同時に中核事業に集中しようという意味でもある。アリババの中核事業と言えば、今も昔もEC「タオバオ」なのだ。

フーマと銀泰百貨の新小売系の事業は、アリババの中核事業に対するシナジー効果が小さい。デリバリー企業「ウーラマ」も新小売系事業のひとつだが、売却の検討はされていない。それはタオバオで販売した商品を、市内短時間配送することで、タオバオとのシナジー効果が得られるからだ。

フーマと銀泰百貨の業績は決して悪いわけではない。しかし、中核事業とシナジー効果の得られない事業を切り離して、コンパクトで強い企業体にしようというのがアリババの考えていることのようだ。しかも、両者とも業績は悪くないのだから、売り時とも言える。

▲カウンタースタッフがライブコマースを行い、店頭でもオンラインでも買い物ができる新小売百貨店「銀泰百貨」も売却の報道がされている。

 

アリババの新小売戦略はピリオドを打つ

このような売却は企業として当然考えられる選択肢のひとつだが、多くの人はひとつの時代が終わったことを感じている。それは2016年にジャック・マーが「純粋なECはすでに死んでいる。オフライン小売とオンライン小売は深く融合し、すべての小売業は新小売になっていく」と高らかに宣言し、2017年にはフーマ事業を始め、銀泰百貨を買収し新小売百貨店に大改造していった。

その新小売戦略を放棄することになる。アリババはAIを活用して、タオバオを中心に成長をしていく道を選んだようだ。

 

 

「返金のみ、返品不要」がECの業界標準へ。タオバオ、京東も導入へ

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が始めた「返金のみ、返品不要」施策が、アリババの淘宝網タオバオ)、京東(ジンドン)、抖音(ドウイン、TikTok Shopping)にも広がり、EC業界の標準となる可能性が出てきたと大衆日報が報じた。

 

「返金のみ、返品不要」が業界標準

昨年2023年9月から、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が導入した「返金のみ、返品不要」施策が、淘宝網タオバオ)や京東(ジンドン)に広がり、業界標準となろうとしている。

どのECでも、法律により「7日間無理由返品」にはこれまでも対応をしていた。現物を見ずに購入を決めるECでは、商品が到着してから7日間以内であれば、理由を問わず返品ができるというルールだ。返品の宅配便料金はプラットフォームや販売業者が負担をしなければならない。

しかし、すべての商品で7日間無理由返品ができるわけではない。品質劣化が進む食品類や、コピーが可能なコンテンツ類、開封をすると価値が失われてしまう下着類、化粧品類など、いくつか例外規定がある。

拼多多では、農産物や低価格商品の取り扱いが多い。農産物は7日間無理由返品の対象外であり、低価格商品の返品は返送宅配便料金の方が高くなることもあり、7日間無理由返品は販売業者にとっても消費者にとっても使いづらい制度になっていた。

▲拼多多が導入した「返金のみ、返品不要」制度は、他のECにまで広がっている。商品は返品する必要がなく、自分で処理をすればいいというものだ。拼多多はこの制度によって悪質な出品業社を排除しようとしている。

 

運営がトラブルに介入、返金をする

そこで導入をしたのが「返金のみ、返品不要」制度だ。商品に問題がある、商品紹介ページの記述と異なった部分があるという場合は、消費者はまず販売業者に返品を申請するが、販売業者がそれに応じない、引き伸ばしをするなどの問題が生じた場合は、拼多多に直接「返金のみ、返品不要」を申請することができる。

運営側では、状況を調査し、販売業者に問題があると判断をすると、消費者との紛争を解決する手段として「返金のみ、返品不要」を適用する。それは、運営側が消費者に代金を返金し、商品に関しては消費者側で処分をしてもらうというものだ。

消費者はすぐに代金が返ってきて、販売業者は返品の宅配便料金を負担しなくて済む。ただし、問題のある商品を販売する業者や誇大広告で売ろうとする業者にとっては、「返金のみ、返品不要」の適用が増え、代金は入ってこない、商品も戻ってこないという大きな損害になり、不良な業者は自然に淘汰をされていくことになる。

「返金のみ、返品不要」は、消費者を手厚く保護する仕組みであると同時に、不良な業者を排除する仕組みにもなっている。

 

タオバオは業者のスコアを参照して自動適用

この仕組みをタオバオと京東も導入をした。

タオバオでは、2023年12月25日に紛争解決ルールを改定し、返金のみ制度を正式に導入した。タオバオでは、以前から消費者の苦情や取引状況などのビッグデータから販売業者の品質スコアを算出しており、消費者から苦情があった場合、この品質スコアを参照して、一定以下であれば、自動的に「返金のみ」が適用される仕組みだ。

京東は家電製品が販売の主力であるため、単価も大きい。不用意に「返金のみ」を導入すると、大きな損失になる。そのため、「返金のみ」が適用されるのは「商品が広告の説明とは異なっている」という理由のみで、なおかつ、消費者は食い違いを証明する写真またはビデオを送付する必要がある。これによる審査で、広告の説明とは異なっているが確認された場合、返金を行い、商品は消費者側で処分をしてもらうことになる。

また、商品そのものに問題がある場合は、これまで通り、交換または返品が可能だ。

 

制度を悪用する消費者は排除されていく

この制度が拡大すると、悪意のある消費者により悪用されることも考えられる。商品に問題がなくても、なにかとケチをつけ、代金を返金してもらい、商品は処分せずにそのまま使い続けるということが可能になる。

しかし、すでに各プラットフォームは対策済みだ。拼多多では、販売業者から消費者の「悪意のある行為」の苦情を受けると、調査をし、消費者の悪意を確認すると、その消費者には販売業者の商品が見えなくなるフィルタリングをかける。つまり、その消費者から購入されることがなくなる。その消費者が複数の販売業者から苦情が申し立てられた場合は、消費者に対して警告の上、場合によってはアカウントの凍結をする。

タオバオでは、ビッグデータによる販売業者、消費者の品質スコアを算出している。消費者の品質スコアが低い場合は、この「返金のみ、返品不要」は適用されず、法律どおりの「7日間無理由返品」を利用してもらうことになる。

拼多多がこの制度を導入した時、一部の販売業者からは強烈な反発があったが、多くの販売業者は大きな反発をしていない。誠実な商売をしている販売業者にとっては、この制度は無縁のものであり、消費者保護政策を強くして安心して買い物ができる状況をつくれば、消費者が買い物しやすくなり、売上増加に結びつくからだ。

「返金のみ、返品不要」は、EC業界の標準施策になろうとしている。

 

 

地図アプリはお宝の山。アリババ「高徳地図」のお金の稼ぎ方

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今回は、アリババの地図アプリ「高徳地図」のマネタイズ手法についてご紹介します。

 

スマートフォン利用者のほとんどが、地図アプリを毎日のように使うと思います。毎日のように使うアプリと言えば、SNS(連絡)、検索(調べもの)、ニュース、決済、地図あたりが中心で、その他、人によって動画、音楽、ゲームなどになるかと思います。

このように日常的にアクセスされ、日間アクティブユーザー数(DAU)の大きなアプリはその多くが大きな収益を上げています。広告を出すだけでも多くの人が利用をするため、桁違いの収益を上げてくれます。ところが、この中で、地図アプリだけはなかなか収益をあげられずにきています。

日本で多くの人が利用しているグーグルマップの場合、プロモートピンという仕組みがあります。これはグーグルマップに登録されている店舗が広告を出せるというもので、「イタリア料理」「カフェ」などのキーワード検索に対して、リスト表示の上位に表示されるというものです。

しかし、どの程度の効果があるのか、今のところよくわかりません。というのは、グーグルマップの利用者は、すっかり星の数(評価)を参考に選ぶ習慣がついているからです。将来は、利用者の行動習慣も変わっていくとは思いますが、現状では、利用者から見ると、リストの上位に強制的に表示されるじゃまな項目に見えています。

実際、店舗リストは評価の高い順に並ぶため、低い評価となってしまいリストの下位にしか表示されない店舗が、リストの上位に表示されることを目的にして広告を出しているようです。つまり、広告の効果をねらうというより、リストの中の順位を上げるMEO(Map Engine Optimization、地図検索最適化)の意味で使われているようです。おそらく、SEO/MEOの企業が、グーグルマップの検索で、大手であるのに評価が低い企業/店舗に対して積極的に営業をかけているのではないでしょうか。

 

この他、地図アプリのAPIを有料公開して、他企業に使用するというマネタイズ手法は初期の頃から行われています。店舗案内にグーグルマップを利用したり、地図ベースのサービスを開発企業に利用してもらうなどです。

また、最近では、レストラン予約サービス、ホテル予約サービス、モバイルオーダーサービス、デリバリーサービスにも連動をするようになっています。例えば、飲食店をマップで検索して、「席を予約」「オンラインで注文」などのボタンが表示されるようになりました。

しかし、残念なのは、ウーバーイーツなどの外部サービスに接続しているだけなのです。そのため、ジャンプ先でそのサービスのアカウントを作成し、ログインをしなければなりません。アプリにジャンプさせる場合は、まずそのアプリをインストールするところから始めなければならないのです。

おそらく今後は、裏側でグーグルアカウントでサインインするような仕組みを入れていき、スムースにサービスに接続をしていくようにするのだと思いますが、それにはもう少し時間がかかりそうです。

 

一方、アリババの高徳地図でも、同様の機能がありますが、接続はスムースです。高徳地図でレストランを見つけ、席を予約するという場合は、「予約」ボタンをタップするだけで席を予約することができます。モバイルオーダーをする場合は、「モバイルオーダー」ボタンをタップすると、メニューが現れ、注文ができ、決済まで終わらせることができます。すべて、高徳地図アプリの中で完結できるのです。

また、ルート検索をして、飛行機、高鉄(中国版新幹線)、特急列車、タクシー/ライドシェアが必要な場合は、ワンタップでチケットを購入し、決済まですることができます。出発場所と目的地は、高徳地図の方で自動設定してくれるため、非常に便利です。

また、目的地がテーマパーク、観光地、映画館、博物館などの場合は、高徳地図アプリの中でチケットを購入することができます。

つまり、高徳地図では、地図の中から移動に関連するサービスが利用でき、決済まで行えます。高徳地図アプリの中だけで、購入までが完結するのです。

さらに、店舗を検索すると、商品や割引クーポンなども購入できるようになっています。地図アプリが次第に物販のプラットフォームとしても機能するようになっているのです。

なぜ、グーグルは外部サービスに接続することしかできず、アリババはスムースに購入/決済まで結びつけることができるのでしょうか。その秘密は、アリババが2018年に設置をした「本土服務」事業部にあります。本土服務は英語ではLocal Consumer Seriviceと表記され、高徳地図を中心にした事業部です。この事業部で扱っているサービスを高徳地図に統合するということをおこなってきました。そのため、高徳地図が実体店舗、オフライン経済のプラットフォームになろうとしています。

今回は、高徳地図がどのようなサービスを提供しているのかについてご紹介します。

 

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vol.219:潜在能力は高いのに、成長ができない中国経済。その原因と処方箋。清華大学の論文を読む

vol.220:学生たちはなぜQQが好きなのか。若者に好まれるSNSの要素とは?

 

 

地図アプリが集客ツールになる。決め手は、地図アプリ内でのクーポン販売

アリババ傘下の地図アプリ「高徳地図」が集客ツールとして注目され始めている。原動力となっているのは、地図アプリ内でのクーポン販売だ。地図で店舗を検索し、口コミを読み、クーポンを購入することができる。多くの店舗が利用し始めていると億邦動力が報じた。

 

地図アプリが集客ツールとなる

アリババ傘下の地図アプリ「高徳地図」(ガオダー)が、実体店舗にとって流量を獲得する大きな力になり始めている。北京市通州雲景南大街にある陽澄湖上海蟹の主人は、億邦動力の取材に応えた。「高徳地図は、地球をこじ開けるテコのようなものです。小さな出費で集客ができます。高徳地図に店舗情報を出すようにしてから、旬の季節には毎日数十件の電話での問い合わせが入るようになりました。そのうち、9割ぐらいのお客さんが来店してくれます」。

この店は高級食材である上海蟹の専門店であるため、客単価は1000元近くにもなる。それが高徳地図から毎日10人前後の新規の顧客が獲得できることは非常に大きい。

▲南京市の尚明メガネ店では、店舗情報のページ内で、クーポンを販売している。魅力的なクーポンを配信できれば、これが集客ツールとなる。

 

地図アプリでクーポンが販売できる「高徳旺舗」

飲食店や個人経営の小売店が、高徳地図から集客ができるようになったのは、アリババが2021年に投入した「高徳旺舗」(ガオダーワンプー)が大きく貢献している。高徳地図には自分の店を自由に登録ができる。位置だけでなく、電話番号などの登録可能だ。また、店舗の位置情報が登録されると、誰でもその店に対する口コミレビューを書くことができるようになる。

さらに、高徳旺舗のサービスを申請し、審査を通ると、店内の写真や商品の写真なども登録ができるようになる。

それだけでなく、クーポンを販売できるようになる。これが大きい。消費者は飲食店などを検索して気になった店の口コミを見て、気に入ると、電話やオンラインで予約を入れ、そしてクーポンを購入して店に行くという流れができあがる。クーポンの設計によっては、集客に大きな効果があり、消費者にとってはお得に利用ができることになる。

▲商品のクーポンだけでなく、視力検査、老眼検査を格安でクーポン販売している。メガネの販売に結びつけることができるからだ。

 

移動ルート中のカフェに注文がいられる「沿街取」

さらに、高徳地図は、「沿街取」というサービスもスターバックスと共同開発した。自動車のルート検索をした時に沿街取を実行すると、ルート沿いのスターバックスを検索してくれる。店舗を選ぶと、コーヒーが注文することができるようになる。自動車の走行に合わせてジャストタイミングで店舗にプッシュ通知がいくため、店舗前の指定位置に停車をすると、できたてのコーヒーを店舗スタッフが持ってきてくれる。決済は注文時に済んでいるので、コーヒーを受け取るだけでいいというものだ。

この沿街取は、スターバックス以外にも展開をしていく予定だ。

スターバックスと始めた沿街取。ルート検索をした後、沿街取を実行すると、ルート沿いのスターバックスを検索してくれ、飲み物が注文できる。車の走行に合わせて適切なタイミングで店舗にプッシュ通知が行くため、アツアツのコーヒーを受け取ることができる。

 

地図アプリの莫大な流量を集客に結びつける

南京市丁家庄にある尚明メガネ店では、高徳旺舗のサービスを利用するようになって以来、来店客にこの店をどのようにして知ったのかというアンケートをとるようにしている。すると、他のSNSよりも、高徳地図から知った来店客が最も多かったという。口コミがあり店の状況がわかるということと、何よりクーポンを販売していることが大きいという。

実際、高徳地図の月間アクティブユーザー数(MAU)は7.6億人で、ショートムービー「抖音」を上回っている。多くの人が、公共交通のルート検索や目的地の場所の確認に使っているとは言え、店舗を探すという使い方が広まれば、実体店舗にとっては非常に強力なプロモーションツールになる可能性がある。

▲地図アプリのMAUは非常に大きい。SNS「WeChat」に次ぐ第2位となっている。多くの人がほぼ毎日使うからだ。今までは、この流量を活用する方法があまりなかった。

 

地図アプリにはフィルタリング効果がある

特に大きいのが集客効果だ。深圳市で鉄骨建材の販売業を営む揚建新さんは、億邦動力の取材に応えた。「以前は、都市ポータルである58同城でプロモーションをしていました。ただし、効果は薄く、1万元の費用をかけて得られた売上は数千元という感覚です。しかし、高徳旺舗はコストが小さい上に効果が高いので、1万元を投入すれば3万元から4万元の売上が得られる感覚です」。

揚建新さんは、高徳地図には顧客のフィルター機能があるから効果が上がるのではないかと考えている。鉄骨建材という生活用品ではない商品を必要とする人はきわめて少ない。そのため、多くの人が見る58同城や抖音でプロモーションをしても、必要とする人が見てくれる可能性はとても小さい。しかし、高徳地図で「鉄骨建材」で検索する人は、ほぼ間違いなく鉄骨建材を必要としている人だ。そのため、店舗の情報を見てくれる人は少ないものの、ほぼ全員が見込み客ということになり、店舗情報やクーポンでうまく誘導することで集客ができるのではないかと考えている。

▲尚明メガネ店の評価と口コミ情報。その都市内で、ユーザーの評価が上位5%に入るとマークが表示される。このマークがつくと、集客にも大きな効果があがる。

 

地図アプリの集客はコンバージョンが高くなる

地図による集客は、SNSによる集客よりも、インプレッションは低いがコンバージョンが高いという傾向がある。SNSで未知の飲食店を知っても、どこにあるどんな感じの店なのかがわからないと、なかなかそこに行ってみようとは思わない。しかし、高徳地図では近所の飲食店が表示され、地図上に場所が表示される。消費者にとっては場所を見れば、だいたいどんな感じの飲食店なのか想像ができるし、ひょっとしたら入ったことはなくても前は通ったことがあるかもしれない。さらに、行ってみて、店の雰囲気が微妙だったら、そこで入らずに別の飲食店を探すこともできる。

また、高徳地図はカーナビ機能が強く、車載アプリで大きなシェアをとっているため、高徳地図の利用者も自動車所有者が多い。つまり、収入の高い層が高徳地図を使っていると考えられる。

都市観光などでは、飲食店などを地図アプリで探すのは定番となっている。そこに口コミとクーポンが加わることで観光客の集客にも利用ができる。ECやデリバリーに圧迫をされて経営が厳しくなっている実体店舗にとって、高徳地図は強い武器になるかもしれない。