中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

EVの普及シナリオはどのようになるのか。中国のEVシフトを振り返る

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

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今回は、中国のEVシフトの過程を振り返ります。

 

こういう仕事をしているため、中国のメディアは毎日読みます。一方、日本人ですから日本のニュースも毎日読んでいます。すると、中国の報道と日本の報道がまったく違いすぎて、まるでパラレルワールドの間に落ち込んだような気分になることがあります。

日本のメディアでは「世界的なEVの失速」が毎日のように報道されています。しかし、中国ではどこ吹く風で、4月上旬には新車販売に占める新エネルギー車(NEV)販売台数が50%を初めて超え、重要なティッピングポイントを超えたと報道されています。中国は2035年までに新車販売に占めるNEV割合を100%にする目標を立てていますが、その中間目標が2030年にNEV50%でした。今回50%を超えたのは瞬間風速のようなものなので、まだ上下することがあるかと思います。しかし、年内には50%を超えることがほぼ確実となり、中間目標を6年も前倒しで達成したことになります。

この50%が重要なのは、これ以降はNEVが主流となり、燃料車(ICE)とハイブリッド車(HEV)が非主流となり、自然にNEVが増えていくことになるからです。「重要な里程を通過した」とメディアは書き、中には「燃料車の末日が見えてきた」と書いているメディアもあります。

 

中国の報道がおかしいのでしょうか。それとも、日本の報道がおかしいのでしょうか。

国際エネルギー機関(IEA)では、毎年EVの販売見込みを予測するOutlook(見込み)レポートを発行しています。そのOutlookを紹介する記事「The world’s electric car fleet continues to grow strongly, with 2024 sales set to reach 17 million」(世界の電気自動車拡大は引き続き強く成長する。2024年は1700万台販売に達する見込み、https://www.iea.org/news/the-worlds-electric-car-fleet-continues-to-grow-strongly-with-2024-sales-set-to-reach-17-million)では、EVの普及台数がかつてないほど増加すると予測をしています。

この記事の中で、IEA上級ディレクターのファティ・ビロル氏はこう語っています。「EVの背後にある継続的な勢いは、私たちのデータから明らかだ…停滞をしているのではなく、グローバルなEV革命が新たな成長のステージに入るギアチェンジをしている」。

日本のメディアが報じている「EVの失速」「EVのオワコン」状況を、この記事はこう表現しています。「米国では、新車販売の9台に1台がEVになると予測される。欧州では、乗用車全体の販売見通しが暗く、一部の国ではEV補助金が段階的に廃止されているのにも関わらず、EVは依然として新車販売の4台に1台を占めると予測される」。

まるで、コップの中に水が半分入っている状態を「もう半分しかない」「まだ半分もある」と見る話そのままです。どちらが正しいのでしょうか。

 

「世界的なEVの失速」報道は一面の真実を伝えています。特に米国では、ドナルド・トランプ候補がEVには否定的であり、バイデン大統領も自動車産業の票が必要なのか、新エネルギー車に対する目標値を引き下げたりしています。そのような中で、トヨタを中心にしたハイブリッド車(HEV)が人気となり、EVのテスラが販売数を落としています。

また、欧州は非常に高い目標を立てていますが、中国EVの攻勢に苦慮し、補助金を国内EVに限定するなどの対応を始め、プラグインハイブリッド(PHEV)が伸びています。

しかし、なぜか「中国でもEVが失速」という報道が出始めていることに驚きました。他の特定の記事を批判するつもりはないのですが「中国の2024年2月のNEV販売台数は37.6万台であり、前月比で43.4%もの減少、大失速!」と書いてある記事までありました。

数字は合っていますが、解釈がまったく誤っています。これは、単なる季節変動なのです。中国の企業のボーナスは年1回のところが多く12月に支給されます。そのため、毎年11月、12月にはNEVだけでなく、乗用車全体がよく売れます。掻き入れ時なのです。一方、1月になるとその反動で売れ行きが鈍る上、春節休みで販売店がまるまる1週間休業しますから、売上が大きく落ちます。2024年は暦の関係で春節休みが2月にずれ込みましたので、2月の売れ行きが大きく落ちています。

▲2020年12月から現在までの月ごとのNEV販売台数。毎年12月には大量に売れ、1月2月は落ち込むという季節変動をしている。乗用車市場情報聯席分会(CPCA)の統計データより作成。

 

この季節変動は毎年のことで、不思議でもなんでもありません。中国の自動車販売関係者で1月2月の売れ行きが悪いことに頭を抱えている人はいません。仕事も暇になるので、春節の長期休暇を楽しんでいます。

5月の連休になって、コンビニのおでんが売れなくなることを「おでんの失速!日本人はなぜおでんを食べなくなったのか」という記事をつくるのと同じことをやっています。

 

もうひとつは「ハイブリッドの伸び率がEVの伸び率を上回った。EVは失速して、中国の消費者はハイブリッドを選んでいる」というものです。

これには2つの問題が潜んでいます。

ひとつは、「ハイブリッド」という言葉の使い方が実に曖昧になっているということです。ハイブリッドと言われれば、プリウスに代表されるハイブリッド(HEV)を日本人は想像しがちですが、その他にも異なる方式のものがあります。プラグインハイブリッド(PHEV)がその代表例です。中国で伸びているのはPHEVです。HEVも伸びていますが、厳寒になる北部での販売が中心で、販売台数はPHEVの半分程度です。

PHEVは政府目標の新エネルギー車NEVに含まれますが、HEVは燃料車に含まれます。ここを曖昧に書いていて、中国でもHEVが売れているのだと誤解を与えかねないことになっています。中国の統計ではHEVという項目を立てているものは少なく、多くの統計では燃料車に含めてしまっています。

 

また、あたかも“ハイブリッド”が、最近になって、BEV(Battery EV、純EV)の伸び率を上回って、消費者の嗜好が変わったかのように書いている記事もありますが、中国でPHEVの伸び率がBEVを上回ったのは2021年の夏頃で、それ以来、ずっとPHEVの伸び率はBEVを上回っています。最近のことではなく、かなり以前からそうなのです。

▲BEVとPHEVの前年同月比伸び率の推移。2021年半ば以降、PHEVはBEVよりも伸び率が高い状態が続いている。2021年2月の極端なピークは、前年の2020年2月に、コロナ禍による都市封鎖の影響で、多くの販売店が長期休業をした反動による外れ値になる。また、伸び率がマイナスになることがあるのは、前年の同じ月が春節ではないのに、当年の同じ月が春節にあたった場合。

 

なぜこうなっているのかについては、後ほど詳しく説明します。中国のEVシフトは、まず小型のBEVから始まりました。それに遅れて、中型、大型のPHEVが売れ始めています。つまり、PHEVは遅れて普及が始まっているのです。最後にBEVとPHEVの伸び率の逆転が起こった2021年9月のBEVとPHEVの販売台数はそれぞれ27.0万台と5.7万台です。2024年1月でも37.5万台と29.3万台と差があります。

つまり、「BEVが失速をしてPHEVが伸びている」のではなく、「BEVに遅れてPHEVが伸びてきて、追いつこうとしている過程にある」と見るのが自然なのです。つまりは、BEVを買う層は順調に増えていて、さらにこれまで興味を持たなかった燃料車ユーザーすらPHEVへの買い替えを始め、それでNEV全体の販売台数が増加をしているということなのです。

このあたりの事情は、今回のメルマガの目的のひとつである「NEVはどのようなシナリオで売れていくのか」を説明するために、後ほど詳しく解説します。

 

ここのところ、新エネルギー車関連の話が続いて恐縮ですが、このまま「中国のEVも失速しているのか、中国でもハイブリッド車(HEV)が売れているのか」と誤解をしてしまうと、大きな過ちを犯すことになります。

ハイブリッド(HEV)は、EU、中国、米国(カリフォルニア州など)では2035年以降、販売禁止になります。プラグインハイブリッド(PHEV)はEUでは禁止、米国では割合制限、中国ではOK(ただし、国務院は2035年にはBEVを100%近い主流にするとしている)という状況です。HEVとPHEVは名前は似ていますが、各国の扱いは、かなり異なる乗り物なのです。PHEVを2035年以降も販売できるかどうかは国によって対応が異なりますが、HEVも販売できる先進国は、1国を除いてありません。それが日本なのです(米国にも割合制限の上、販売可能な州は残る見込み)。

そこで、今回は、まずハイブリッドにどんな種類のものがあるのかを復習します。よくお分かりの方は、確認するつもりで目を通されてください。そして、中国のNEVのうち、BEVとPHEVはどのような使いわけがされて、どのように普及をしてきたのかを振り返ります。中国はNEVが欧州よりも早く普及をしたため、NEVの普及がどのようなシナリオで進んでいくのか、その参考になるかと思います。他国でも中国と同じシナリオでNEVが普及していくわけではありませんが、さまざまな見通しをつける上で大きな参考になるかと思います。

今回は、ハイブリッドと呼ばれる車種を復習し、中国でNEVがどのように普及をしてきたのかをご紹介します。

 

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vol.227:発売後27分で完売をした小米初のEV「SU7」。創業者、雷軍のしたたかなプレゼン術

 

 

スマホ決済のWeChatペイが、アリペイを猛追。その立役者はお年玉機能の「紅包」

スマホ決済2位のWeChatペイが、1位のアリペイを猛追し、シェアは49.9%、40.7%にまで迫っている。シェアを伸ばした最大の理由は、個人送金機能「紅包」の利便性と楽しさにあると金塔県融媒体中心が報じた。

 

WeChatペイの利用者が急増

中国の対面決済は、その多くがスマートフォン決済になっている。最もよく使われるのはアリババの「支付宝」(アリペイ)、テンセントの「微信支付」(WeChatペイ)、銀聯の「雲閃付」(UnionPay)の3つになる。

コロナ禍前、利用されるのはアリペイが圧倒的に多かった。決済金額シェアでは、6:3:1と言われ、WeChatペイはアリペイの半分程度のシェアしかなかった。ところが、2022年の統計ではアリペイ49.9%、WeChatペイ40.7%と、WeChatペイが急速に追い上げ始めている。

▲支付宝(アリペイ)と微信支付(WeChatペイ)は、以前はシェアが2:1にまで開いていたが、紅包機能によりWeChatを使う人が増え、シェアが迫りつつある。

 

利便性の高い個人送金機能「紅包」

WeChatペイがじわじわとシェアを伸ばしている理由は、「紅包」(ホンバオ)の存在だ。紅包はお年玉などを入れる赤いポチ袋のことで、WeChatペイでの紅包は、他人にお金を送金できる仕組みのことだ。チャット画面で紅包を送るが、受け取った方は開けてみるまでいくら入っているかわからない。実際、旧正月である春節には家長から子供たちにお年玉をあげる習慣があるが、その多くがWeChatペイの紅包に置き換わった。儀式性を大切にし、現金をポチ袋に入れて手渡しする人もまだ多いが、遠方にいて会うのが簡単ではない場合は、WeChatペイの紅包が使われる。

また、企業が春節、目標達成などで金一封を配る場合、企業が消費者に向けてキャンペーンで配る場合にも紅包が使われるようになっている。

▲WeChatペイの紅包。紅包は、通常のメッセージに添付されてくる。タップして開くまで、中に入っている金額がわからないことがミソ。送られたお金は、WeChatペイに自動的にチャージされる。

 

アリペイよりも利便性の高い個人送金機能

WeChatは本来がSNSであり、連絡を取るのによく使われている。そのため、知人の連絡先はだいたい登録されている。送金をしたい場合は、対面でQRコードを読み合って送ることもできるが、連絡帳に登録をされていれば遠隔地にいても送金をすることができる。

一方、アリペイは商店での決済を基本に考えた決済アプリで、SNS機能は存在していない。そのため、目の前にいる人に送金をしたい場合はQRコードなどを介して送ることができるが、遠隔地にいる人に送りたい場合は、相手のアリペイアカウントがわかっていないと送ることができない。

この違いがあるために、お金を送る時はWeChatペイが使われ、楽しく送金ができる紅包がよく使われる。

▲紅包には無料、有料の袋がさまざまあり、好きな袋を使ってお金をオンライン送金することができる。

 

子どもたちがお年玉が欲しくてWeChatを使う

お年玉に紅包が利用されるようになると、子どもたちはそれをきっかけとしてスマートフォンを持つようになり、WeChatを使うようになる。遠い親戚からもお年玉をもらえるようになるからだ。親としても、子どもと連絡がつきやすくなり、位置情報までわかるため、早い時期からスマートフォンを持たせ、WeChatを入れることを歓迎する。

つまり、子どもたちにとって、初めてのスマホ決済がWeChatペイになることが多い。このような子どもたちが成人をすると、自然にWeChatペイを使うようになる。これがWeChatペイのシェアがじわじわとあがってきている要因になっているのではないかと見られている。

 

 

亡くなった人を生成AIで復活させます。お代は200円から。中には9000万円以上稼いだ人も

故人を生成AIで復活させるビジネスが始まっている。その多くは写真に動きをつけるという単純なものだが、音声や会話内容、動画から精巧な復活を可能にするものもある。故人を復活させることには賛否両論があると新浪財経が報じた。

 

亡くなった人がAIで復活する

生成AIにより、亡くなった肉親を復活させるというビジネスが始まっている。生成AIを使って故人を復活させ、もう一度会いたい、語り合いたいという人は少なくない。

著名なAI開発企業「商湯科技」(SenseTime、https://www.sensetime.com/cn)では、2024年の総会で、故人を登壇させた。2023年12月、創業者の湯暁鴎氏が病いで亡くなった。2024年の総会に出席が予定されていたが、それが不可能となった。そこで商湯科技は、生成AIを使って、スピーチをする湯暁鴎氏を再現し、その映像を会場に流した。その出来は素晴らしく、リアルな本人がいるとしか思えないもので、この映像がSNSで拡散し、大きな話題になった。

また、台湾出身の音楽家、包小柏さんは、自分で生成AI技術を学んで、亡くなった娘をPCとスマホ上で復活させ、一緒に音楽を楽しんだり、会話をしているという。その一部の写真を自らSNSに発表したことで大きな話題となった。

▲商湯科技が年次総会で放映した、亡くなった創業者のスピーチ映像。出席予定だった創業者が急逝をしたため、生成AIを使って、予定原稿を元に映像を生成した。

https://www.bilibili.com/video/BV1i2421K7aK/?spm_id_from=888.80997.embed_other.whitelist&t=488



▲生成AIにより復活した包小柏さんの娘さん。今でも娘と会話をしたり、自分が作曲した歌を娘に歌ってもらったりしている。しかし、包小柏さんは「復活」ではなく、「復元」と呼んでほしいと言っている。

 

故人の復活には賛否両論ある

このようなAIによる復活に対しては賛否両論ある。当初は、静止画から簡単な動画を生成する程度が精一杯であり、多くの人が「大切な人を失った人の慰めになる」と感じていたが、現在では、写真からダンスをさせたり、声色を再現したり、さらには対話型AIに個人の文章や会話記録を学習させて、あたかも個人と対面して会話をしているかのように思えるところまできている。

非常に精巧なものになると、故人がまだ生きていて、ビデオ通話を介して話をしていると錯覚をするほどになっている。ここまでくると、「生理的な拒否感がある」「遺族が没入をしてしまい、前向きに生きることが難しくなるのではないか」という否定的な意見も多くなっている。

 

おばあちゃんを自力で復活させたビリビリ投稿主

2023年4月、ビリビリの投稿主、呉伍六さんが「AIツールを使って、おばあちゃんのデジタルヒューマンをつくった」という映像を投稿し、これがSNSに転載され、拡散した。呉伍六さんは、その中で、どのようなツールを使って祖母を復活させたかを詳しく解説し、映像、音声、話す内容を再現し、音声で祖母とおしゃべりをしているところを披露した。この祖母は、湖北省の方言で、まるでビデオ通話をしているのではないかと思えるほど、リアルな反応をする。会話に対する反応には微妙なタイムラグがあるが、これが余計に高齢者のリアルさの表現になっている。

▲おばあちゃんを生成AIで復活させた呉伍六さんは、具体的にどのような生成AIツールを使ったのかを詳しく解説した映像を投稿した。これにより、生成AIによって個人を復活させる人が増えた。

https://www.bilibili.com/video/BV1QM411H7xC/?spm_id_from=333.337.search-card.all.click



故人の復活ビジネス、一人10元から

このビデオが投稿されて以来、EC「淘宝網」(タオバオ)には、故人を生成AIで甦らせるサービスが続々と登場している。その内容はさまざまだ。写真から動画を生成するだけの簡単なものから、動画や音声記録、日記などの提供を受けて、会話ができる状態にしてくれるものまである。価格は最も安いものでは10元(約200円)からで、価格が安いこともあって、すでに数百人が利用しているサービスもある。

タオバオでは、故人を復活させるビジネスが大量に登場している。価格の安いものでは10元からある。ただし、多くは、写真に動きをつけるという単純なもの。

 

復活ビジネスで9400万円を稼いだ張沢偉さん

江蘇省出身の90后(90年代生まれ、30代)の張沢偉さんもその一人で、1年間に653件の注文をこなした。張沢偉さんのサービスは精巧なもので、価格は数千元から1万元ほどになるが、平均で7000元としても、これまでに450万元(約9400万円)を稼いだことになる。

多くは、祖母、祖父を復活させてほしいという要望だが、病気で亡くなった子どもを復活させてほしいという依頼や、特定のアイドルを自分のスマホの中に復活させてほしいという依頼もあったそうだ。

故人を生成AIで復活させることには、さまざまな議論、見方があるが、サービスとしては確実に市場を確保しつつあることは間違いないようだ。

 

 

 

人気は高くても、近くにお店がない!中国市場に翻弄されるバーガーキング

中国でもバーガーキングの人気は高い。しかし、消費者の不満の第一は「うちの近所にバーガーキングがない!」ということだ。KFC、マクドナルに比べて店舗数が圧倒的に少ない。店舗数が拡大できない理由は、中国市場の速い変化についていけていないことが原因だと新週刊が報じた。

 

食べたいのにお店がないバーガーキング

中国のハンバーガーも、他国と同じようにマクドナルドとケンタッキーフライドチキン(KFC)が人気になっている。マクドナルドのファンは「麦門信徒」(麦はマクドナルドのこと)、KFCのファンは「瘋四楽子人」(瘋四はKFCが行っている毎週木曜日のクレージーサースデーのセールのこと)などと呼ばれる。

一方、バーガーキングは中国にも展開をしているが、マクドナルドやKFCに比べると店舗数が少なく、「美味しいとは聞いているが、お店がどこにあるか知らない」「そもそもバーガーキングを知らない」という人が圧倒的だ。

バーガーキングの運営会社であるレストラン・ブランズ・インターナショナル(RBI)のジョシュ・コブザCEOも2023年決算発表会の席上で、「中国市場の消費可能性と成長見通しを考えると、バーガーキングの拡大は遅すぎる」と認めた。

バーガーキングのファンは多くても店舗が少ないため、ファンからは「うちの近所にもお店を出して!」という悲痛な叫びがSNSに投稿されている。

 

店舗数が圧倒的に少ないバーガーキング

2023年にKFCは1万店舗の大台を超えた。12月15日には、杭州市に1万店舗目の開店セレモニーを行った。マクドナルドも7000店舗を超え、KFCとマクドナルドはショッピングモールに行けば必ず入っているファストフードであり、都市部では歩いていれば必ずどちらかの店を見かけることになる。

ところが、バーガーキングは1500店舗であり、大都市であっても、歩いている最中に見かけるのではなく、地図で調べてわざわざ行かなければ見つけることができない。地方都市ではそもそも店舗自体がない。なぜ、人気はあるのに店舗が拡大しないのだろうか。

杭州市のKFCの1万店目の店舗。KFCもチキンハンバーガーが人気であり、すっかり中国人の日常となった。

 

かつてはKFC、マクドナルドともに三国志と呼ばれた

バーガーキングが中国市場に参入したのは2005年のことだった。中国1号店は、上海市の静安寺近くにあるレトロな洋館を利用した。この地区は、上海市の中でも静かで落ち着いた場所であり、高級な地域とされる。

バーガーキングの進出は、各メディアから「ファストフードの三国志」と例えられた。当時、マクドナルドは666店舗、KFCは1758店舗であり、バーガーキングが追いつくことは不可能ではない。当時のアジア太平洋地区責任者のスティーブ・デサッター氏は、友人から教わった中国の古事成語を使ってメディアに応えた。「早くくることは適切な時期にくることに及ばず」。メディアは、この3つの国際的なブランドが中国で競い合い、中国に西洋ファストフードの文化を根づかせることになると期待した。

▲ネットでは、近所にバーガーキングの店を出店してくれという投稿が続く。南寧市に4店舗が出店したが、市の中心部には店舗がなく、なぜ避けるのかと訴えている。

 

高級から日常へ。バーガーキングの戦略ミス

しかし、バーガーキングは店舗展開だけでなく、戦略面でも遅れをとってしまった。マクドナルドとKFCはその時点で15年以上、中国でビジネスをし、戦略を変え始めていたのだ。

KFCが中国に進出した当時、通貨の価値が異なることもあって、KFCは高価格帯のレストランと認識された。当時、子どもだった人は、学校で優秀な成績を収めるか、誕生日でもなければKFCに連れていってもらうことはできなかったという。若者たちは、豪華なデートといえば、まずはKFCで食事をすることだった。

しかし、中国が次第に経済力をつけるようになると、マクドナルドとKFCの特別感は薄れていく。そこで価格調整を行い、フランチャイズを募集し、地方都市への展開を始めていった。高級から日常へとシフトをしていったのだ。

ところが、バーガーキングは、高級感を打ち出していった。静安寺の1号店の来店客の半分は外国人だった。その品質を維持するために、バーガーキングフランチャイズ加盟店を募集せず、直営店にこだわった。当時のバーガーキングは、現在のシェイクシャックのようなポジションだったのだ。

 

高級店であったため、拡大スピードが遅かった

KFCとマクドナルドはフランチャイズを利用して店舗を拡大していく中で、KFCは2012年に3500店舗を超えた。しかし、バーガーキングは52店舗にしか拡大をしなかった。

2012年になって、バーガーキングは戦略を変え、フランチャイズ加盟店を募集して地方都市への拡大を図っていったが、すでに地方都市の立地のいい場所はKFCとマクドナルドによって占有されていた。

2018年に1000店舗を突破し、2021年末までに2000店舗を目指すと発表したが、その拡大はなかなか進まず、2023年末にようやく1500店舗に達した。

バーガーキングは、ハンバーガーの中のハンバーガーで中国でも人気が高い。しかし、戦略がうまく中国市場に合わず、2023年末にようやく1500店目の店舗を開業した。

 

シェイクシャック、タスティンという新たなライバル登場

バーガーキングはいまだに公式価格は昔の高級店のままになっている。ハンバーガー+ポテト+ドリンクの基本セットは、100元(約2000円)前後が正価になっている。しかし、それでは購入する人がいないため、実際はほぼ毎日セールが行われ半額程度で購入できる。それでも、KFCやマクドナルから比べると高い。

バーガーキングは再び危ういポジションに追い込まれている。高級バーガーとしては大都市でシェイクシャックが店舗数を伸ばし、ユニークな味のハンバーガーとしては「塔斯汀」(タスティン)があり、価格はバーガーキングよりもはるかに安い。シェイクシャックは大都市の一等地に数店舗の展開だが、高級ハンバーガー店として人気を得ている。タスティンは地方都市を中心に7000店舗を展開している。

バーガーキングは、ハンバーガーの中のハンバーガーであり、最もハンバーガーらしいチェーンであるのに、そのスタンダードぶりが、常に上と下から挟まれ、難しいポジションに追い込まれることになっている。

ネットでは常に「うちの近所にバーガーキングの店を出店して」という声が上がっている。

▲上海などに出店したシェイクシャック。価格は高いが本格的なハンバーガーが料理として人気になっている。高級路線だったバーガーキングの強敵が登場している。

▲中華バーガーで人気となっているタスティン。もともと中国にあった肉夾饝(ロウジャーモー)というおやつをハンバーガーにアレンジをしている。安くて美味しいことから店舗数が急拡大している。

 

 

百度の復活の兆し。ロボタクシーと対話型AI。完全復活に超えなければならない3つの壁とは

百度の2023年度の決済が好調だ。純利益は前年から39%も増加をした。ロボタクシーと対話型AI「文心一言」が収入をあげ始めているからだ。しかし、本格的な成長には3つの壁を乗り越える必要があると虎嗅が報じた。

 

百度の決算が好調。ロボタクシーと対話型AI

百度バイドゥ)の2023年の決算が発表され、その好調ぶりが明らかとなり、百度の復活を印象づけた。営業収入は1345.98億元となり、純利益は287億元、成長率は39%となった。

好調の要因のひとつはロボタクシーの営業開始だ。2023年、乗車件数は500万回を突破、第四四半期には前年同期比49%もの増加を示した。

百度の復活に大きく貢献したのが、対話型AI「文心一言」だ。創業者の李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)CEOはこう述べている。「私たちは文心一言からの収益を増やし始めました。2024年は、AIクラウドとその広告から数十億元にのぼると予想しています」。

決算説明会では、李彦宏CEOは、2023年第四四半期のクラウド事業の営業収入が84億元であり、文心一言が6.5億元の増収をもたらしたと述べた。文心一言による収入はクラウド事業の8%にあたる。

百度の2023年の決算は、純利益が前年比39%増加した。ロボタクシーと対話型AIからの収入が増え始めている。

 

対話型AIをサムスンやオナーなどにも提供

文心一言のマネタイズでは、課金の他に広告モデルを考えている。どのような形になるかは社内で議論が進んでいるが、文心一言アプリにバナー広告を出すという基本的なスタイルから始まるようだ。一部の報道によると、すでに百度はさまざまな企業に広告出稿の営業活動を始めているという。

百度によると、文心一言の1日あたりの利用件数は第四四半期には5000万件を超え、前期から190%の増加となった。企業利用も2023年末で2万6000社に達している。

さらに、百度が進めているのが文心一言のスマートフォンへの搭載で、すでにサムスン、栄耀(オナー)などが搭載をしている。サムスンフラグシップ機であるGalaxy S24に搭載をし、カスタマイズをした上でGalaxy AIという名称で、AIスマートフォンをウリにしている。アップルも中国向けiPhoneに文心一言の搭載に向けて協議を始めている。

 

百度が乗り越えなければならない3つの壁

百度は対話型AI「文心一言」を中心に、企業利用への課金、他社への提供、消費者に向けた広告という3つのマネタイズ方法を模索しているが、大きな収益になるのが百度クラウドだ。文心一言を利用するには自動的に百度クラウドを利用することになる。このクラウド利用料も大きな収益源となる。

しかし、百度はまだ乗り越えなければならない壁が3つある。

ひとつは、文心一言の性能そのものだ。中国では非常に評価が高く、李彦宏CEOも「中国語利用では、ChatGPT-4の性能を上回っている」と述べているが、国際的な評価は決して高くない。カリフォルニア大学バークレー校による対話型AIランキング「LMSYS Chatbot Arena Leaderboard」(https://huggingface.co/spaces/lmsys/chatbot-arena-leaderboard)では、アリババの「通義」(トンイー)はランキングされているものの、文心一言はランキングすらされていない。つまり、中国語では非常に高い性能を示すものの、英語など外国語では性能があまりよくないようなのだ。中国の一般消費者向けには中国語だけでもじゅうぶんかもしれないが、企業では翻訳や外国語利用もある。さらには海外企業に提供をする必要もある。この点で、文心一言は弱みを持っている。

アリババの「通義」はオープンソースにしているため、海外の研究者が研究をしたり、追加開発を行うことがあり、国際的な大規模言語モデルに育ってきている。しかし、文心一言はソースコードを公開していないため、海外の研究者が触れることができない。これにより、中国語だけで高い性能を示すということになっているようだ。

▲カリフォルニア大学による対話型AIの性能ランキング。百度の文心一言はランキングされていない。中国語での性能は高いという評価を得ているが、英語ベースだと性能が発揮できないようだ。

 

GPUの調達に対する懸念

2つ目の問題がGPU不足だ。百度ソースコードを公開せず、社内での開発を中心にするのであれば、百度は大量のGPU保有していなければならない。百度は以前から「じゅうぶんな量を保有している」としているが、NVIDIAのA100以降の高性能GPUの販売が中国に対して禁止されるなど、供給の道が絶たれている。国内生産のGPUもあるが、性能面ではNVIDIAを追いかけている状態だ。

いずれ、百度GPU不足に悩まされることになる。

 

百度クラウドの業務利用の開拓

3つ目の問題が、クラウド事業はAIだけではないということだ。百度クラウドは文心一言が利用できることが大きなセールスポイントになっているとはいうものの、一般の企業がクラウドを使う主な目的は通常の業務システムをクラウドで動作させることだ。IDCの2023上半期の調査では、トップシェアを持っているのはアリババで、百度は「その他」に含まれてしまうほどシェアが小さい。AIだけでなく、業務システムの利用がしやすいクラウドサービスの基本品質を向上させる必要がある。

一方、百度がAIクラウドの構想を掲げると、アリババのアリクラウドは価格改定を行い値下げした。このような中で、百度クラウドが上位に食い込んでいけるかどうかはまだまだ不透明だ。

▲中国のクラウドの収入シェア。百度は上位に食い込むことができていない。業務系利用を開拓していく必要がある。

 

百度のAIはマネタイズのステージに入った

百度の創業者、李彦宏CEOは百度の創業時から、AIへの強い関心を示しており、ネットでは「AI先生」と呼ばれるようになっている。それはからかいの意味もあるが、同時に尊敬の念も入っている。百度は、検索広告で大きく成長した企業だが、自動運転ロボタクシー、大規模言語モデルと、大型のAIプロダクトを開発し、それが実り始めようとしている。

しかし、実際にビジネス化をして、お金を稼ぐことは簡単ではない。中国の大規模言語モデルは、開発の段階から商用化の段階に入ろうとしている。

 

 

発売後27分で完売をした小米初のEV「SU7」。創業者、雷軍のしたたかなプレゼン術

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今回は、小米(シャオミ)の雷軍CEOのプレゼン術についてご紹介します。

 

3月30日から予約受付が開始された小米のEV「SU7」の売れ行きが絶好調です。予約開始後わずか27分で予定台数の5万台が完売となりました。まるでスマートフォンのような売れ方です。

ただし、ネガティブな報道もあります。小米は予約方法を従来手法とは変えました。一般的なネット予約では予約をすると、原則キャンセルすることはできません。キャンセルをした場合は、予約手付金が戻ってこないのが一般的です。しかし、小米では7日間はキャンセルを受け付け、手付金の返金もするというスタイルにしました。このことから、とりあえず予約をして後で考えるという人、または予約の権利を転売することを考えている人も参加をして、予約が殺到したという見方もあります。

すでに一部で納車が始まっていて、SNSにはSU7のオーナーからさまざまな投稿がされるようになりました。中には、ハンドルについているロゴが剥がれ落ちてきたと訴えている人もいました。しかし、今のところ、大きな問題は報告されていないようです。自動車メディアも最も一般的な評価は「初めての車にしては驚くべき完成度」というもので、細かい問題はいろいろあるものの、まずは合格点+αは与えられるというところではないでしょうか。

 

なぜ、小米という非自動車メーカーがつくった自動車がここまで話題となったのでしょうか。それにはさまざまな理由がありますが、大きく貢献をしたのが、雷軍CEOのプレゼン術です。

雷軍氏と言えば、2011年の小米1の発売の時は、「中国のスティーブ・ジョブズのそっくりさん」として話題になりました。当時の日本では「中国は日本の技術をパクったニセモノしかつくれない」という感覚でしたから、雷軍氏もスティーブ・ジョブズのパチもんと見られたのです。

雷軍氏が、ジョブズ氏のプレゼン術を徹底研究したのは確かです。しかし、当時は、雷軍氏だけでなく、世界中の人がジョブズ氏のプレゼンスタイルを研究しました。ジョブズ氏が世界を変えたことはいくつもありますが、プレゼンのスタイルを変えたこともそのひとつです。ジョブズ氏以前は、ステージの端に演台があり、そこに原稿を置いて、それを読み上げるというのが一般的なプレゼンスタイルでした。しかし、ジョブズ氏は、ステージの中央に立って、原稿ではなく、自分の言葉で語りかけていきます。もちろん、原稿は用意されているのですが、それを読んでいるのではなく、語っていくように進めていきます。そのスタイルには誰もが雷に打たれたかのように模倣し始めました。現在では、このスタイルが標準になっています。

 

雷軍氏はジョブズのプレゼン術を真似ただけではありません。そこから出発をして、独特のプレゼンスタイルを確立しています。最大の特徴は、製品発表会の前から雷軍氏のプレゼン、プロモーションは始まっているということです。あるいは開発プロセスそのものをエンターテイメントにしていると言ってもかまいません。開発の最中から情報発信をし、そのプロセスを知ることになります。最終的に製品が発売されると、それまでの物語を知っている人は買いたくなってしまうのです。お金のやり取りはありませんが、クラウドファンディングに近い味わいがあります。

雷軍氏のプレゼン術には3つの特徴があります。

1)自分自身をIP化していく

2)ユーザーとのコミュニティをつくっていく

3)心理的アンカリングを設定する

それぞれについて、2011年の小米1、2024年のSU7それぞれについて、具体例をご紹介していきます。

 

1の自分自身のIP化は、自身のパブリックイメージを浸透させていくというものです。パブリックイメージといっても、装ったりせず、自分自身を包み隠さず出していくというやり方です。

「vol.192:小米創業者・雷軍の年度講演「成長」。認知の突破のみが人を成長させる」では、2023年8月14日に開催された雷軍氏の年度講演「成長」の抄訳をご紹介しました。この日は、年に一度の大規模な小米新製品発表会で、その前に雷軍氏は年度講演を行います。現在のところ、4回開催され、内容は次のようになっています。

第1回

2020年8月11日「自分を信じ、前に進み続ける」

第2回

2021年8月10日「私の夢、私の選択」

第3回

2022年8月11日「素晴らしいことが起きると信じ続ける」

第4回

2023年8月14日「成長」

 

いずれも自分の人生を振り返り、成功も失敗も赤裸々に語り、そこから教訓を引き出して、学生や起業を目指す若者に伝えるというものです。最新回の「成長」では、「認知の突破だけが成長をもたらす」がテーマになりました。自分の限界は自分で定めてしまっている。その認知の壁を突破することだけが成長をもたらすという意味です。小米ファンだけでなく、多くの人がこの年度講演を楽しみにしています。

 

若者はなぜ雷軍氏の講演に惹かれるのでしょうか。中国には他にもたくさん成功した起業家がいて、特にアリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は教訓や金言の宝庫と言ってもいいぐらいです。もちろん、ジャック・マーを尊敬する人もたくさんいます。しかし、ジャック・マーやファーウェイの創業者、任正非(レン・ジャンフェイ)は、企業家として人間の器が大きすぎて、仰ぎ見るような遠い存在なのです。誰もがジャック・マーになれるわけではありません。

一方、百度バイドゥ)の創業者、李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)のように海外留学をし、米国テック企業で活躍し、帰国をして創業、短期間にIPOを果たすというスーパーエリートもいます。これも簡単に真似ができることではありません。

もちろん、雷軍氏も高考(共通入試)では710点満点で700点を取り、湖北省でトップの成績をとったエリートです。しかし、清華大学でも北京大学でもどこでも好きな大学を選べるのに、地元の武漢大学を選びます。小米を創業する前は、個人投資家として大成功をしていて、胡潤百富によると、中国第34位の富豪で、その資産は940億元(約2.0兆円)になっています。しかし、お金持ちの嫌な雰囲気はまったくありません。着ている服は、自分が出資をしているカジュアルブランド「凡客誠品」の商品です。

さらに、年度講演では自分は「社恐」(シャーコン)であったことを告白しています。社恐とは社交恐怖症のことで、人とうまくコミュニケーションをとることができず、数々の失敗をして、落ち込んでしまう人のことです。現在の大学生は、ほとんどの人が自分は社恐であることを自認し、それに悩んでもいます。

つまり、雷軍氏は、能力としては高いものを持っているものの、どこか身近な存在なのです。周りの友人にもいそうな人が、夢を実現しようとして努力をし、成果を出しているということから、尊敬されると同時に愛される人でもあるのです。ここが、若者が雷軍氏に惹かれてしまう大きな要因になっています。

今回は、雷軍氏のプレゼン術の3つのキモをご紹介します。

 

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vol.222:儲かるUI/UX。実例で見る、優れたUI/UXの中国アプリ

vol.223:電気自動車EVはオワコンなのか?中国で克服されるEVの弱点

vol.224:TikTokは米国で配信禁止になってしまうのか?米国公聴会で問題にされた3つのこと

vol.225:成長してきたWeChatのライブコマース。新興ブランド、中年男性ターゲットに強い特徴

vol.225:自動運転はどこまで進んでいるのか。公道テストで99.56%をマークする実力

 

 

不動産業界崩壊の中で、28.2%の増収を達成した不動産販売「貝殻」。貝殻はなぜ増収増益を達成できたのか

中国の不動産業界は惨憺たるありさまだ。住宅価格も下落が続いている。その中で、不動産販売「貝殻」は増収増益を達成した。なぜ、この苦境の中で、貝殻は成長できたのか。それは市場を見て、早めに方針転換をしたからだと野馬財経が報じた。

 

バブルが終わり、苦境に立つ不動産業界

中国の不動産デベロッパーが軒並み経営状態を悪化させ、これまで右肩あがりだった不動産業界が苦境に陥っている。住宅は住むためのものだが、投資信託よりも利回りがよかったため、投資対象として購入されてきた。これが住宅需要を過剰に高めることになり、過剰に価格があがるという循環が生まれていた。典型的な住宅バブルだ。

このバブルを抑えるために、中央政府は「三道紅線」(3本のレッドライン)を設定した。不動産デベロッパーの経営状況を3つの観点で評価をし、その結果によって新たな資金調達に制限をかけるというものだ。つまり、自転車操業をしているようなデベロッパーは新たな資金調達ができなくなる。これでバブルを抑え込もうとした。

この政策により、不動産市場が落ち着き、住宅価格の高騰が止まった。すると、住宅を投資として見ている人たちは、住宅以外の商品に投資をするようになる。これで住宅需要が大きく落ち、住宅価格は下がり始めている。

 

それでも業績を伸ばす不動産販売「貝殻」

しかし、その苦境の中で、住宅販売を行っている「貝殻」(ベイカー、https://bj.ke.com/)は業績を伸ばしている。2023年の販売額は3.14兆元(約65.7兆円)となり、前年から28.2%の増収となった。純利益も58.9億元となり、前年の13.97億元の赤字から大きく成長した。

住宅市場が冷え込む中で、貝殻はなぜ躍進をすることができたのだろうか。

▲貝殻は、2020年のコロナ禍でオンライン内見のシステムを開発し、これが成長の源になっている。左は中古住宅の現在の様子だが、自分の好きな内装を入れた予想図(右)が生成できる仕組みを入れている。静止画ではなく、この中をウォークスルーできるようになっている。

 

新築販売から中古リフォーム販売へシフト

その答えは、財務報告書を見るとすぐにわかる。取引のうち、在庫住宅(新古、中古)の販売額が36%となり、新築の39%とほぼ同じになっているのだ。さらに、内装家具事業は133億元となり、前年比245.8%と急成長をしている。つまり、新築住宅の販売が奮わない中で、新古、中古の住宅をリノベーション、リフォームして販売をするという事業が好調になっている。

貝殻の顧客調査で、2022年6月と2023年12月のデータを比べてみると、中古住宅を優先して考えている顧客は23%から35%に上昇した。一方、新築住宅を優先して考えている顧客は31%から18%に減少をした。

そもそも、貝殻は、投機のための住宅販売よりも、住むための住宅販売に力を入れてきた。住むための住宅需要が急に消えてしまうわけではないため、業績を落とさずに済んでいる。

投機のための住宅を購入していた人は、これから先も住宅価格が下がることを予想して、損切りのために早めに処分をしたがっている。一方、住宅価格が下がることで、これまで手が出なかった人たちも住宅購入を考えるようになり、新たな需要が生まれている。貝殻は、このような市場の変化をうまく捉えることができた。

▲貝殻では、中古住宅の3Dモデルを生成し、ほぼどの物件でもウェブから3Dモデルが閲覧できるようになっている。もちろん、拡大縮小、回転ができる。現在の居住者の私物が置かれたままの映像だが、これがあるために生活をイメージしやすいと評判になっている。気に入った物件を見つけたら、24時間いつでも担当者とチャットで連絡を取ることができる。

 

需要と供給が都市部と周辺部で大きく違っている

しかし、2024年も貝殻が同様の成長を続けられるかどうかは微妙だ。なぜなら、在庫住宅の放出は一巡をしたのではないかという見方があるからだ。統計上は在庫住宅が増え、それを購入しようとする需要も強い。しかし、都心部では需要は強いものの供給が少ない、郊外部では供給は多いものの需要は強くないというミスマッチがある。都心部の住宅は値下がり率が小さい。そのため、所有者が様子見をして損切りの処分をなかなかしない。一方、郊外部では値下がり率が高いため、所有者が焦って損切り処分をしている。

このような事情で、2024年は在庫住宅の販売額もなかなか成長できないのではないかと見られている。貝殻は、2023年に路面店の数を削減し、顧客をオンラインに誘導をした。また、研究開発部門では新築物件に関する研究開発を中止した。業績が絶好調であった最中に2つのコストダウン策を実施し、2024年以降の次の市場状況に対応しようとしている。