中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

不動産業界崩壊の中で、28.2%の増収を達成した不動産販売「貝殻」。貝殻はなぜ増収増益を達成できたのか

中国の不動産業界は惨憺たるありさまだ。住宅価格も下落が続いている。その中で、不動産販売「貝殻」は増収増益を達成した。なぜ、この苦境の中で、貝殻は成長できたのか。それは市場を見て、早めに方針転換をしたからだと野馬財経が報じた。

 

バブルが終わり、苦境に立つ不動産業界

中国の不動産デベロッパーが軒並み経営状態を悪化させ、これまで右肩あがりだった不動産業界が苦境に陥っている。住宅は住むためのものだが、投資信託よりも利回りがよかったため、投資対象として購入されてきた。これが住宅需要を過剰に高めることになり、過剰に価格があがるという循環が生まれていた。典型的な住宅バブルだ。

このバブルを抑えるために、中央政府は「三道紅線」(3本のレッドライン)を設定した。不動産デベロッパーの経営状況を3つの観点で評価をし、その結果によって新たな資金調達に制限をかけるというものだ。つまり、自転車操業をしているようなデベロッパーは新たな資金調達ができなくなる。これでバブルを抑え込もうとした。

この政策により、不動産市場が落ち着き、住宅価格の高騰が止まった。すると、住宅を投資として見ている人たちは、住宅以外の商品に投資をするようになる。これで住宅需要が大きく落ち、住宅価格は下がり始めている。

 

それでも業績を伸ばす不動産販売「貝殻」

しかし、その苦境の中で、住宅販売を行っている「貝殻」(ベイカー、https://bj.ke.com/)は業績を伸ばしている。2023年の販売額は3.14兆元(約65.7兆円)となり、前年から28.2%の増収となった。純利益も58.9億元となり、前年の13.97億元の赤字から大きく成長した。

住宅市場が冷え込む中で、貝殻はなぜ躍進をすることができたのだろうか。

▲貝殻は、2020年のコロナ禍でオンライン内見のシステムを開発し、これが成長の源になっている。左は中古住宅の現在の様子だが、自分の好きな内装を入れた予想図(右)が生成できる仕組みを入れている。静止画ではなく、この中をウォークスルーできるようになっている。

 

新築販売から中古リフォーム販売へシフト

その答えは、財務報告書を見るとすぐにわかる。取引のうち、在庫住宅(新古、中古)の販売額が36%となり、新築の39%とほぼ同じになっているのだ。さらに、内装家具事業は133億元となり、前年比245.8%と急成長をしている。つまり、新築住宅の販売が奮わない中で、新古、中古の住宅をリノベーション、リフォームして販売をするという事業が好調になっている。

貝殻の顧客調査で、2022年6月と2023年12月のデータを比べてみると、中古住宅を優先して考えている顧客は23%から35%に上昇した。一方、新築住宅を優先して考えている顧客は31%から18%に減少をした。

そもそも、貝殻は、投機のための住宅販売よりも、住むための住宅販売に力を入れてきた。住むための住宅需要が急に消えてしまうわけではないため、業績を落とさずに済んでいる。

投機のための住宅を購入していた人は、これから先も住宅価格が下がることを予想して、損切りのために早めに処分をしたがっている。一方、住宅価格が下がることで、これまで手が出なかった人たちも住宅購入を考えるようになり、新たな需要が生まれている。貝殻は、このような市場の変化をうまく捉えることができた。

▲貝殻では、中古住宅の3Dモデルを生成し、ほぼどの物件でもウェブから3Dモデルが閲覧できるようになっている。もちろん、拡大縮小、回転ができる。現在の居住者の私物が置かれたままの映像だが、これがあるために生活をイメージしやすいと評判になっている。気に入った物件を見つけたら、24時間いつでも担当者とチャットで連絡を取ることができる。

 

需要と供給が都市部と周辺部で大きく違っている

しかし、2024年も貝殻が同様の成長を続けられるかどうかは微妙だ。なぜなら、在庫住宅の放出は一巡をしたのではないかという見方があるからだ。統計上は在庫住宅が増え、それを購入しようとする需要も強い。しかし、都心部では需要は強いものの供給が少ない、郊外部では供給は多いものの需要は強くないというミスマッチがある。都心部の住宅は値下がり率が小さい。そのため、所有者が様子見をして損切りの処分をなかなかしない。一方、郊外部では値下がり率が高いため、所有者が焦って損切り処分をしている。

このような事情で、2024年は在庫住宅の販売額もなかなか成長できないのではないかと見られている。貝殻は、2023年に路面店の数を削減し、顧客をオンラインに誘導をした。また、研究開発部門では新築物件に関する研究開発を中止した。業績が絶好調であった最中に2つのコストダウン策を実施し、2024年以降の次の市場状況に対応しようとしている。

 

 

空飛ぶクルマ、中国を飛ぶ。eVTOLのメッカになりつつある上海

上海市が空飛ぶ車のメッカになりつつある。eVTOLのトップ企業3社が上海に拠点を定めているからだ。すでに貨物輸送では営業運転が始まり、空飛ぶタクシーとしての営業運転も始まろうとしていると上観新聞が報じた。

 

次世代の交通手段として開発が進む「空飛ぶクルマ」

上海市が「空飛ぶクルマ」のメッカになろうとしている。通称「空飛ぶクルマ」は、正式には「電動垂直離陸飛行機」(eVTOL)と呼ばれている。このeVTOLは、電力で飛行をし、滑走路を必要とせず、パイロットのいない無人自律飛行も可能になることから近未来の交通手段になることが期待されている。2035年には市場規模が5000億元になると予測されている。

 

試験飛行に成功、貨物機は実用化直前の峰飛

そのeVTOLのトップ企業は上海市に集まっている。もっとも進んでいるのは、峰飛航空科技(フォンフェイ、AutoFlight、https://autoflight.com/zh/)で、2月27日、「盛世龍」が深圳市と珠海市の間の試験飛行に成功した。航空当局の認証の問題と安全を優先して、人を載せるのではなく、人を模したダミー人形5体(パイロット1+乗客4)を載せての飛行だが、深圳蛇口埠頭を離陸し、深圳湾を一周し、珠海九洲港埠頭に着陸をした。

直線距離で約50kmの行程を約20分で飛行したが、船を使うと70分、車や鉄道を使うと2時間以上かかる。直線で結ぶことにより、大きく時間が短縮できることを印象づけた。2026年に営業許可を取得することを目指している。

一方、峰飛の貨物専用eVTOL「凱瑞鴎」は、営業許可の取得が見えており、すでに国内外から200台以上の受注をしている。商業物流に使われる他、緊急物資の輸送、離島物流、消防活動などに使われる予定だ。

▲峰飛のeVTOL「盛世龍」は、深圳と珠海を20分で飛行した。船では70分、車や鉄道では迂回が必要なため2時間かかる場所だ。

▲峰飛のeVTOL「盛世龍」は、ダミー人形を乗せた海上飛行に成功をした。

 

昨年から貨物輸送を始めている御風未来

峰飛は元々ドローンのメーカーで、その延長線上で、有人ドローン→eVTOLと事業を拡大してきた。一方、同じ上海市にある「御風未来」(ユーフォン、VERTAXI、https://vertaxi.com/)は、小型の工業用無人eVTOLの開発から入り、有人eVTOLに進出をしてきた。すでに昨年から、物資輸送を実際に行なっている。

上海市の長江の河口には、東西約80km、南北約15kmの崇明島という島がある。その東に水も電気もない無人島があり、そこにeVTOLで物資を輸送する営業運転を始めている。今までに累計で10トンの物資を輸送したという。この業務からデータを収集し、自律飛行、無人操縦の技術の開発を始めている。

また、有人機では、昨年、上海市金山区で試験飛行を成功させている。

▲御風未来はすでに物資輸送の営業運転を行なっている。

 

空飛ぶタクシーを目指す時的科技

もうひとつが2021年に創業されたばかりのスタートアップ「時的科技」(シーディー、TCab Tech、https://www.tcabtech.com/)だ。すでにeVTOL「E20」は航空当局に正式に受理をされ、順調にいけば2026年後半には飛行許可が降りる見込みだ。

時的では、eVTOLによる貨物輸送は採算性が低いと考え、有人飛行=空飛ぶタクシーにフォーカスをして開発を進めている。eVTOLが規模化して運営できれば、1人あたりの輸送コストはハイヤー並みに下がるという。具体的には、上海市浦東から蘇州市東方之門の100kmの行程を25分で結び、一人300元程度の料金設定が可能になるという。

▲空飛ぶタクシーを目指す時的科技。上海から蘇州までの100kmを25分で結び、料金は300元程度にすることが可能だという。

 

エアバスフォルクスワーゲンも参入するeVTOL

中国の国産飛行機はC919があるが、中国国内の航空会社には採用されているものの、海外展開はこれからであり、セールスには苦労をしている。やはり、長年航空機を開発してきた欧米メーカーにさまざまな優位性があるからだ。

しかし、三電(バッテリー、モーター、電気制御システム)の技術とサプライチェーンが確立した中国では、電気で飛行するeVTOLの分野では、欧米メーカーを追い越せるのではないかと、投資が集まるようになっている。

このeVTOLの世界もすでに競争が激化をしている。eVTOLに進出する企業は3つのコースがある。ひとつはドローンからの転身組で峰飛など。航空機から転身組が御風未来、時的など。また、大型飛行機や自動車などの転身組もあり、エアバスフォルクスワーゲン、小鵬、吉利などがeVTOLの開発を始めている。それぞれの企業が背景にしている技術が異なるため、eVTOLの多様性も広がっている。

上海市も、eVTOLを中心にした低空経済を、上海市の5大未来産業のひとつとして位置付け、積極的な支援策を行なっている。上海は空飛ぶクルマのメッカになろうとしている。

 

 

無店舗営業のフードデリバリー。店舗もキッチンもないゴーストキッチンが増加中

フードデリバリーの配達元に無店舗営業のものが増えてきている。店舗営業をせずにキッチンしかないダークキッチンだ。ダークキッチンも営業許可や衛生検査は必要であるため問題は大きくないが、さらにはキッチンすらないゴーストキッチンが増え始めていると中央電子台中国之声が報じた。

 

デリバリー元が無店舗キッチンのことも

利用が広がるフードデリバリー。アプリを開けばたくさんの飲食店が見つかり、30分ほどで暖かい料理を自宅に届けてくれる。アプリに表示される店舗には3種類ある。

1)通常の飲食店:店に行って食べることもできる、通常の飲食店がデリバリーにも対応している。最も多いパターンで、安心をして注文をすることができる。

2)ダークキッチン:来店客を受け入れていないキッチンだけのデリバリー専門店。質はさまざま。大手チェーンがデリバリーのカバー率を高めるために、ダークキッチンを出店することがある。一方、個人がマンションの一室で料理をつくりデリバリー専門に販売することもある。いずれの場合でも、飲食店としての営業許可証が必要であるため、最低限の衛生状態は確保されている。

3)シェアリングキッチン:大手チェーンが効率を高めるため、別チェーンと提携してキッチンをシェアリングすることがある。こちらは特に問題はない。一方、個人がマンションの一室で、飲食店名を複数掲げ、さまざまな料理をデリバリー販売していることもある。営業許可証は取得しているものの、虚偽の内容が含まれている可能性が高く、一般的に衛生状態などはレベルが低い。

 

さらに悪質なゴーストキッチン

このようなダークキッチンやシェアリングキッチンの中には、品質や衛生状態に問題があり、しばしば消費者からの苦情の対象となる店舗もあった。しかし、さらに悪質なゴーストキッチンと呼ばれるデリバリー店も存在することが判明した。

きっかけは、ラジオ番組「中国之声」の聴取者ホットラインへの1本の通報だった。張さん(仮名)は、複数のゴーストキッチンを経営し、大きな損をすることになり、そのことを告発したいと電話をしてきた。早速、中国之声の記者が張さんと会い、詳しい事情を聞いた。

▲告発をした張さんは、デリバリー専用のキッチンを開店したが、名義はまったく知らない別人のものを使っていた。

▲デリバリー登録をするには、身分証を持った自分の写真を送信する必要がある。しかし、裏のサプライチェーンが用意した別人の身分証と写真で登録をされる。

 

休眠している名義を利用して飲食店を開業する

張さんが開いた店は、「龍門蝦局」という名前で、住所は河北省石家庄市橋西区翰観天下にある店舗ビル。メニューはザリガニと串焼きだ。

しかし、飲食店としての営業許可証は王という人物が取得をしていた。さらに、デリバリープラットフォーム「美団」(メイトワン)に登録をする時は、店舗のオーナーが身分証を手にした自分の写真をアップロードする必要があるが、それは郭翔という人物の顔写真と身分証がアップロードをされている。しかし、店を経営するお金を出したのも、実際に経営しているのも張さんなのだ。

張さんによると、このような営業許可証や身分証を用意してくれる裏のサプライチェーンが存在するのだという。どこから入手をしてくるのかは聞かされていないので知らないが、休眠をしている飲食店オーナーや倒産をしてしまったオーナーにわずかな対価で身分貸しを依頼するのだと思われる。

営業許可証を取得するには衛生当局の検査などを受けなければならない。その手間と費用を省くため、便宜を図ってくれる裏ビジネスが存在している。

▲裏サプライチェーンの人間とはSNSで連絡を取り合い、必要な手順を教えてもらう。

 

大手ファストフードの商品を右から左に

このようなゴーストキッチンでも、真面目に料理をつくってデリバリー提供をしているのであれば消費者にとっては大きな問題はない。しかし、今、このゴーストキッチンで増えているのが、大手ファストフードチェーンの代理購入ビジネスだ。

例えば「ピザハット宅配専用店」のような名前をつけた店舗を開き、ピザハットの商品をデリバリー販売するのだという。もちろん、ピザハットの許可など得ていない。

店舗経営者は、ネットでクーポンを取得したり、購入したりして、購入コストを下げる。そして、正規の店舗にデリバリー注文を入れ、届け先を注文者の住所に指定するだけだ。注文者は、よく考えれば、正規の店舗にデリバリー注文をすればいいのだが、店名に「ピザハット」という名前もあり、ピザハットのロゴまで使っているために気がつかない。クーポン割引と定価の価格差が利益になる。

キッチンすら必要がなく、パソコンの前に座って、注文が入ったら、それを正規のファストフードのデリバリー注文ページにコピペをすればいいだけなので、利益は薄くてもじゅうぶんに儲かるという。

ファストフード側で不審な注文であることに気がつくことはあっても、売上があがってトラブルも起きないため黙認をしてしまう。美団側でも調査をすれば正規のファストフード店でないことはわかるはずだが、審査や調査の手がまわらないようだ。

▲デリバリーアプリの中のピザハットの店舗。誰もがピザハットの店舗だと思うが、実は関係のないゴーストキッチンがピザハットの食品を届けている。

 

摘発が難しいゴーストキッチン

EC「淘宝網」(タオバオ)には、「代理開店」サービスが無数に存在する。これは違法のものではない。実店舗あるいはEC店舗を開く時に、さまざまな許可証や申請が必要になり、素人にはなかなか難しい。これを一式代行してくれるもので一種のコンサルティングサービスだ。このような業者の中に、営業許可証やプラットフォーム登録の偽装までやってくれるところがある。

飲食店を開店するのに、このような裏サービスを使うと、費用は1000元から1600元程度で済むという。つまり、ワンルームマンションを借りて、お小遣い程度の費用で、アルバイトを2人程度雇えば、ファストフードの代理購入店が開けることになる。代理購入をするだけなので、厨房用品もいらない。

最近では、美団も現地調査を行い、申請内容と異なる実態の店舗には契約解除をするようになっているが、全体の規模に対して調査はまったく追いついていない状態だ。また、ファストフード側でもブランドを守るために、このようなゴーストキッチンに対して損害賠償請求や告発を行なっているが、書類上のオーナーは「勝手に書類を使われた。なぜ使われたのかわからない。自分も被害者だ」と訴え、代理開店サービス側では記録を破棄して「無関係」を主張するため、ほんとうのオーナーにまでたどり着くことは簡単ではない。

▲裏サプライチェーンの人間は、すぐに開店できる店舗も紹介してくれる。

 

実害が小さいために放置をされている

ゴーストキッチンは、消費者の損害がわずかなものにすぎない。大手ファストフードチェーンの食品を届けているので、衛生や品質上の問題はまず起こらない。消費者は、自分でクーポンを探せば、安く購入がすることができ、そこで損をしていると言えるが、クーポンを探したり使ったりするのが煩わしいので、定価でもかまわないという人も一定数いる。そういう人にとっては、これといった被害は受けていないのだ。

そのため、保健局、公安、デリバリープラットフォーム、ファストフード側も、対策に本腰をいれづらい。ちょっとしたお小遣い稼ぎとして、ゴーストキッチンは増え続けている。しかし、不法状態で運営をされているため、さらに利益をあげるために時間が経った食品を届けたり、大手ブランドの名前で安物の食品を届けるなどエスカレートすることも考えられ、近い将来大きな問題になりかねないと指摘をする専門家もいる。

 

 

自動運転はどこまで進んでいるのか。公道テストで99.56%をマークする実力

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 226が発行になります。

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、乗用車の自動運転についてご紹介します。

 

「vol.223:電気自動車EVはオワコンなのか?中国で克服されるEVの弱点」を読んでいただいたある方から、ある相談を受けました。「BYDのEVが日本で売れる勝ち筋というのはあるでしょうか?」というものです。

いろいろ考えましたが、私は「日本では難しいのではないか」と答えるしかありませんでした。日本では、中国製品は「安かろう悪かろう」「日本の技術を盗んだ劣化版」という認識が今でもまだまだあります。また、それより大きいのは、EVの普及はほぼ絶望的という日本の状況です。

中国製品に対するネガティブなイメージは変わりつつありますし、何かをきっかけに大きく変わることもあるかと思います。しかし、EVの普及が絶望的なのは、消費者の意識の問題ではなく、政策の問題なので変わる可能性はほぼありません。

私自身もEVの方がいいと思っていますが、私が住んでいるマンションの駐車場には充電設備がありません。自治会に相談をして設置をすることは可能でしょうが、住民総会の決議を取り、誰が費用を支出するのかを決めなければなりません(EVに興味がない人は負担が増えるのですから反対に回るでしょう)。かといって、近くの充電スポットで充電をしてから駐車場に入れるというのは面倒すぎます。

一方、郊外に戸建て住宅で暮らしている方は、わずかな初期投資で充電設備をつけることができます。夜の間に充電すればいいのですから急速充電は必要なく、10万円以下の費用で設置することが可能です。しかし、郊外に住まわれている方は、1日の走行距離がどうしても長くなります。走行中に、充電スポットの位置を把握し続けなければいけないというのは、やはりストレスになります。

 

世界の多くの国は、自動車を低エミッションのものに限定をしようとしています。EUでは、2035年に燃料車、ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)の販売を禁止します。二酸化炭素を排出する自動車はすべて販売禁止になるのです。

米国でもカリフォルニア州など先進的な13州では、2035年に燃料車とハイブリッドを販売禁止にします。その他の州では、禁止はしませんが、PHEVとEV、燃料電池車などの低エミッション車を50%以上にする目標を立てています。燃料車とハイブリッドは半分以下になります。

日本は、2035年に燃料車を販売禁止にしますが、ハイブリッドは禁止をしません。割合の制限もありません。世界でも珍しいハイブッド完全OKの国なのです。となれば、誰でもハイブリッドを買いますよね。今と比べて変える必要のあることは何もないわけですから。このような目標設定であるために、EVを買う人は少なく、EVを買う人が少ないために、充電スポットの数も増えません。ハイブリッドOKにしてしまったために、あらゆるEV促進策が弱いのです。

2035年以降の日本は、ハイブリッド車が7割か8割になって、その他は、EVやPHEVでも間に合う人だけがEV/PHEVを買うということになると思います。自動車メーカーはマイナーなEVはつくりたがりませんから、大量の国産ハイブリッドと少量の中国・韓国EVが走る国になるのではないでしょうか。自動車でも、どこかで聞いたことがあるガラパゴスな国になってしまうかもしれません。

 

ハイブリッド車は、日本の宝のようなテクノロジーであり、日本がハイブリッドの国になることはいいことなのかもしれません。しかし、その代償に、パリ協定で国際的な約束をした温室効果ガスの排出削減は絶望的になります。

目標年度は2030年とまだ少し時間があるため、例によって数字のマジックで、あたかも達成可能であるかのように政府は言っています。しかし、「達成可能だ」と言っている専門家はほぼいません。発送電完全分離や思い切った再エネ発電投資など、大きな構造改革をしなければ、目標達成のための体制もつくれないと警告する人が大半です。

 

日本の排出削減目標は「2030年までに26.0%削減」です。米国は2025年までに26-28%であり、EUは2030年までに40%となっています。

▲パリ協定で各国が提出した目標。日本は2013年比で26%削減になっている。資源エネルギー庁「今さら聞けないパリ協定」より引用。

 

この後、日本政府は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(https://www.env.go.jp/content/900440767.pdf)を閣議決定し、削減目標を46%に引き上げました。26%から46%ですから、大幅引き上げです。しかし、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」をよく読むと、「我が国は、2050年目標と整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と書いてあり、46%は「目指す」目標であって、国際的な約束ではありません。達成できなくても、国民に気づかれなければなかったことになります。

 

問題だと思えるのは、GDP1000ドルあたりの二酸化炭素排出量の推移です。

▲GDP1000ドルあたりの二酸化炭素排出量の推移。米国やインドですら減少傾向にあるのに、日本は緩やかにしか減っていない。国際エネルギー機関(IEA)、「CO2 emissions intensity of GDP」より引用。

 

世界各国とも大きくまたは緩やかに減少をしています。これから経済成長が始まるインドですら減らし始めています。ところが日本は減少が緩やかです。緑のEUと黄色の日本は1980年代はほぼ同じでしたが、2000年以降乖離が起き始めています。

つまり、日本経済が復活をして、GDPが再び増え始めると、排出量もそれに比例をして増加をしてしまうということです。

1980年と2021年のGDPあたりの排出量を比較してみました。

GDPあたりの排出量を1980年と2021年で比較をすると、日本は他国に比べて非常に小さい。「CO2 emissions intensity of GDP」(IEA)より作成。

 

中国、米国、EUは、60%以上減少させていますが、日本は40%弱です。明らかに減少率が小さいのです。これは各国が、エネルギー転換など大胆な変革で排出量を削減しているのに対し、日本は省エネ技術と節約を積み上げる方式で減らしているからです。

私のような素人にも、このようなやり方でパリ協定の国際公約、2050年にカーボンニュートラル(排出量実質ゼロ)など達成できるのか心配になります。パリ協定には、排出権取引が定められていて、達成国から余剰分の排出枠を買うことができます。そこに頼ることになるのかもしれません。

 

中国のパリ協定での削減目標は、「GDPあたりの排出量を、2030年までに2005年比で60-65%削減」です。2005年の排出量は0.79tで、2021年は0.45tです。つまり、すでに43.0%の削減を達成しています。太陽光発電とEVが普及の過程にあるため、ほぼ間違いなく目標達成をすることができるでしょう。

中国では「燃料車かEVか」という議論はとっくに終わっていて、郊外などで充電施設の整備がまだ始まっていないない地域や北方の冬が長い地域はPHEVに人気がありますが、整備が進んでいる大都市ではEVにするのが当然のことと考えられています。その理由の最大のものは、EVという製品自体の魅力ですが、ある方から、それ以外にもEVにする理由があるという話を教えてもらいましたので、ここでみなさんと共有しておきたいと思います。

 

ひとつの理由は、中国は電気代が安いということです。一般的なEVで100kmを走るのに15kWhの電力が必要になります。電気代は地域によって異なりますが、平均的な0.4元/kWh(家庭用。充電スポットでは1元台前半)とすると、100kmを走るのに6元で済みます。一方、ガソリンは100kmを走るのに8リットルほどのガソリンが必要になります。ガソリンがリッターあたり8元とすると、100km走るのに64元かかることになります。つまり、EVは燃料費が1/10で済むのです。すべて1.2元/kWhの充電スポットで充電したとしても21.6元で、ガソリンの1/3程度です。

日本の電気代は平均すると31円/kWh程度だそうです。同じ計算をして見ると、EVは100km走るのに465円。ガソリンはリッター170円として、100kmを走るのに1360円と、EVの方がかなり安くなります。ガソリンが以前のような100円台だったとしても、EVは半分近いコストで走ることができます。

これなら日本でもセカンドカーにはうってつけだと思うのですが、セカンドカーに適した軽自動車は、日本の技術が凄すぎて燃費が非常によく、実燃費で20km以上あるのがあたりまえになっています。リッター20kmで計算すると、EVは465円、軽自動車は850円と差は大きく縮まり、ガソリンが100円に戻れば500円と、EVと差がなくなってしまいます。日本の軽自動車はEVに対して強い競争力があり、このカテゴリーでもEVが普及する見込みはあまりありません。

 

もうひとつ教えていただいた、EVを選ぶ理由が、購入手続きが明朗であるということです。EVの多くは、ウェブやアプリから試乗の申し込みをして、試乗後、購入するなら車両代金+諸費用を支払うというものです。当たり前の話ですが、あらかじめいくら支払うのかがわかります。

しかし、伝統的なガソリン車は、4S店と呼ばれる販売店で販売されています。4Sとは「Sale、Spare Parts、Service、Survey」の略で、メーカーとは独立した販売店チェーンです。メーカーから自動車を仕入れて、販売店で顧客に販売をします。日本の正規販売店とほぼ同じ仕組みです。

ところが、若い世代を中心にこの4S店が避けられるようになっています。その最大の理由が、見積りを取らないと、車がいくらになるのか、よくわからないということです。メーカーの希望小売価格はありますが、これは実売価格より高く設定されていて、それをいくら値引きをするかが販売店の腕の見せ所になっているのです。そのため、複数の販売店で見積りを取る必要がありますし、販売員と値引き交渉もしなければなりません。それをしない人は高値づかみをしてしまうことになります。自動車メディアをよく読み、実勢価格を頭に入れて、4S店と交渉しなければなりません。

若い世代はこういうことに時間や労力を使うことがバカバカしいと思うようになっています。中国でも4S店では納車式という習慣があります。車に大きなリボンをかけて、大きな鍵の模型を持って、スタッフと購入者が記念撮影をするというものです。ある人は「あんなこと強要されたら、恥ずかしすぎて、その場で逃げ出す」と言っていました。

つまり、ガソリン車とEVということだけでなく、すべてにおいてガソリン車は古いのです。一方、EVはもはやECでスマートフォンを買うのと同じ感覚で、どこの店舗でも公式サイトに表示されている価格で販売されていますし、割引キャンペーンなどもどこの店舗でも同じです。せいぜい、おみやげにもらえるポケットティッシュの数が違うくらいです。故障をしてもウェブやアプリからサポートを受け、先方が指定する店舗/工場に行けば、どの店舗でも同じサービスが受けられるという安心感があります。

 

そのような中国で、EVを購入する際、多くの人が検討する要素が自動運転です。性能に関してはメーカーによりさまざまですが、ファーウェイのADS2.0(Advanced intelligent Driving System)が問界シリーズなどに搭載され、販売が始まったことが大きな転換点となりました。

後ほど詳しく紹介しますが、都市部であればほぼ運転操作をする必要はありません。特に高速道路は料金所近辺を除けば、運転を任せるというのがあたりまえになりつつあります。北米でもテスラがFSD(Full Self Driving)のβ版販売を行なっていて、同じく人間は運転操作から解放され始めています。

と言っても、大半の方がにわかには信じ難い思いだと思います。そこで、メーカーの公式発表ではなく、自動車評論メディアの実車走行テストの結果に基づいて、どこまで自動運転が進んでいるのかをご紹介します。

また、当然のことですが、自動運転には批判的な意見もあり、事故も起きています。このような事故の事例から、自動運転の問題点についてもご紹介をします。また、このテクノロジーはまだ成熟をしてなく、どのようなアプローチを取るのかについてもメーカーによりさまざまな考え方があります。この点でも、どこまで進んでどのようなトレンドになっているのかについてご紹介します。

今回は、中国で始まった自動運転の時代についてご紹介します。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月、発行したのは、以下のメルマガです。

vol.222:儲かるUI/UX。実例で見る、優れたUI/UXの中国アプリ

vol.223:電気自動車EVはオワコンなのか?中国で克服されるEVの弱点

vol.224:TikTokは米国で配信禁止になってしまうのか?米国公聴会で問題にされた3つのこと

vol.225:成長してきたWeChatのライブコマース。新興ブランド、中年男性ターゲットに強い特徴

 

 

中国人がインドを侮っていない3つの理由。ジェネリック医薬品、映画、IT産業

インドの人口が中国を抜き世界一となった。今後、経済的にも成長することが予測され、中国にとっても大きなライバルとなることは確実だ。中国人は、インドの3つの強みを警戒している。それは、ジェネリック医薬品、映画、IT産業だと林軽吟が報じた。

 

インドが人口で中国を抜く

2023年4月、インドの人口が中国を上回り、インドは世界で最も人口の多い国となった。すでに人口ボーナス期に入り、経済も成長していくことが明らかで、中国でもインド経済に注目をする人が多くなっている。中国はすでに安定成長に入っているため、経済で中国がインドに抜かされることもあるのではないかと見られるようになっているからだ。

PwCが2050年の経済規模を予測したレポート「The World in 2050」(https://www.pwc.com/gx/en/research-insights/economy/the-world-in-2050.html)でも、2050年の経済大国は、中国、インド、米国、インドネシア、ブラジルという順位になっている(購買力平価ベースのGDP)。

PwCの予測によると、2050年の購買力平価ベースのGDPは、中国、インド、米国、インドネシア、ブラジルの順位になる。

 

一人っ子政策により人口ボーナス期が早く終わった中国

しかし、中国人にはひとつの懸念がある。それはインドの現在の状況は、中国の改革開放が始まった1978年の状況によく似ているが、異なる点がいくつかある。当時の中国はひとりっ子政策に代表される人口抑制策をとっていたことだ。そのため、人口ボーナス期が早く終わってしまった。

一方、インドはそのような人口抑制策をとっていないため、人口ボーナス期が長く続くと見られている。インドの成長期に中国は安定成長期、あるいは衰退期に入る可能性もあり、中国とインドの関係にも大きな変化が生まれることが懸念されている。

▲インドの人口は世界一となった。中国のような人口抑制政策はとっていないため、人口ボーナス期が中国よりも長くなる可能性がある。

 

インドの強みその1:ジェネリック医薬品

しかも、人口以外に、インドには評価すべきことが3つあるという。

ひとつはジェネリック医薬品だ。インドでは海外の医薬品を模倣して、ジェネリック医薬品を製造する産業が盛んだ。その中には、当然ながら、知的財産権を無視したようなものもある。

しかし、インドのジェネリック医薬品は、低価格であり、しかも近年は品質も向上してきている。インドの地方の生活環境は劣悪な地域もあり、多くの人が病気に苦しんでいるが、貧困のため、病院に行くこともできず、医薬品すら手に入れることができない人々がいる。ジェネリック医薬品は、このような人たちに福音となった。各国も人道的な見地から、知的財産権の問題を強く言えない状況があった。

現在は、インド政府がジェネリック医薬品に関する協定を各国と結ぶようになり、インドの医薬品製造産業は急速に整頓され、規模を拡大している。すでにアジア圏では、医薬品を買いにインドに行く人が珍しくなくなっている。

この分野では、すでに中国と同等か超えている部分もあり、中国のジェネリック医薬品業界でも無視できないという見方が広がっている。

▲インドはジェネリック医薬品の先進国となり、アジア圏の人はインドに薬を買いに行く。

▲インドにはまだ貧困に喘ぐスラム街がある。ジェネリック医薬品はそのような人たちに福音となった。

▲中国の映画「薬の神じゃない!」。お金儲けのために、白血病ジェネリック薬をインドから輸入した主人公が次第に患者を助けることに目覚めていく、実話に基づいたストーリー。

 

インドの強みその2:映画産業

2つ目は、映画、テレビドラマ産業だ。いわゆる「ボリウッド映画」で、国も後押しをし、国内に娯楽を提供するだけでなく、海外に輸出をして外貨を稼ぐ戦略産業として位置づけている。

中国も「流浪する地球」「三体」などのSF映画の分野で、海外輸出を始めているが、世界の娯楽産業に対する影響力という点ではインドに劣っており、中国も映画、ドラマの海外展開を加速する必要があるという。

▲インドの映画=ボリウッドは、独特の歌とダンスが入る陽気なもので、インド文化に親しみがない人でも楽しめるようになっている。

 

インドの強みその3:IT産業

3つ目はIT産業だ。科学技術分野ではインドはまだ中国に追いついていないが、産業応用が中心となるIT分野では、中国と同等か、部分的には中国を凌駕していると考えるべきだという。

中国の場合は、国際関係の問題から、IT産業の市場は国内か東南アジアに限られてしまうが、インドの場合はグローバルに展開ができている。幼い時から、准公用語とも言える英語に慣れているという点も大きい。

すでに優れた人材を生み出していて、米国の主要テック企業のCEOはインド人が多くなっている。シリコンバレーで働くエンジニアも、米国人、中国人に次いでインド人が多くなっている。インドのIT産業はまだ体制に問題があるため、海外に留学をした優れた人材が海外に留まり、そのままテック企業に就職をする傾向があるが、インドのIT産業が成長するとともに、このような人材がインドに帰国をする例が増えていくことになる。その時、インドのIT産業は大きく発展をすることになる。中国にとっては、強力なライバルになることは確定的だ。

中国はこれまで巨大な国内市場と、東南アジアに影響力を持つことで発展をしてきた。しかし、インドがもうひとつの極に成長をすると、中国は非常に難しい立場に追い込まれることになる。インドとは国境紛争など政治面ではさまざまな課題があるが、産業面では友好的な関係を築き、フェアな競争をして、互いに高め合う環境をつくっておくことが何よりも重要だとしている。

▲IT産業も今後飛躍的に成長することが期待されている。現在は優秀な人材が海外にとどまってしまうが、帰国する流れが始まるとインドのITレベルが急速にあがる。

 

 

第4のミルクティーチェーン「アンティー・ジェニー」が上場申請するも、急激な規模拡大に混乱も

第4のミルクティーチェーン「滬上阿姨」が香港に上場申請をしたが、急激な規模拡大でさまざまな内部混乱が起きている。この混乱を乗り越えて上場に漕ぎ着けられるかどうか注目されていると首席商業智慧が報じた。

 

穀物ミルクティーで上場申請をしたアンティー・ジェニー

すっかりブームが沈静化をしてしまったタピオカミルクティー中国茶にミルクなどを入れたアレンジ中国茶の世界では「喜茶」(HEY TEA)、「奈雪之茶」(ナイシュエ)、「蜜雪氷城」(ミーシュエ)などが上場申請をするところまできている。

その中で、ダークホースとして、香港に上場申請をしたのが「滬上阿姨」(フーシャンアーイー、Antea Jenny)だ。滬とは上海を表す言葉で、阿姨はおばさんの意味。つまり上海のおばさんと言う意味になる。英語のAnteaも「Aunt」と「Tea」を掛け合わせた造語だ。

ここの元々の売りは、穀物を使ったミルクティーだった。血糯米(赤もち米)を使った血糯米ミルクティーや紅米、燕麦、紅豆などが入った五穀ミルクティーなど、他にはない健康的なミルクティーで評判となり拡大をした。

しかし、まだ飲んだことがない中国人も多いかもしれない。なぜなら、滬上阿姨は特定の地域に集中的に展開するという戦略をとっているため、店舗が近くにない地域も多いからだ。

▲濾上阿姨のラインナップ。ホットで飲むのが適している穀物ミルクティーと、アイスで飲むのが適しているフルーツミルクティーの2つのラインからなっている。

 

八宝粥と中国茶ブレンド食品が起業のヒントに

この滬上阿姨を起業したのは、山東省出身の単衛釣と周蓉蓉の夫婦。二人は山東省の米国系外資企業で知り合い結婚をした。子どもが産まれると、子どもの進学のために上海に引っ越した。しかし、上海での生活はお金がかかる。このままではだめだと起業することを考えた。

2013年頃、上海ではミルクティーがブームになる兆しが現れていた。二人はミルクティーが大きなビジネスになると感じたが、すでに人気のチェーンも登場しており、今から参入するにはよほど特徴がないと難しいとも感じた。

そんなある日、子どもを連れて上海市内を散歩していると、個人が経営しているミルクティーのお店に行列ができているのを発見した。古い店舗で、50歳をすぎた女性が経営していて、とても若者向きには思えないのに、若者が行列をしていたのだ。気になって行列に並んでみると、その店ではタピオカミルクティーを半分、八宝粥を半分を混ぜて売っていたのだ。味は優しく、お腹にも溜まる。男性にとっては間食としてもってこいであり、女性にとってはダイエット食としてもってこいだった。ただし、見た目がきれいでない。この見た目をSNS映えするものにできれば人気となり、さらに一過性のブームでは終わらない商品になるのではないか。

▲創業者の単衛釣、周蓉蓉の夫婦。子どもの進学のために上海に引っ越し、そこで八宝粥と中国茶を混ぜるという不思議な習慣に出会い、これがヒントとなり濾上阿姨を創業した。

▲滬上阿姨の赤もち米ミルクティー。健康的で、軽食代わりにもなり、香りがよく美味しいと人気になった。

 

温かい飲み物が受ける北部でチェーン展開

2013年7月、二人は上海市の人民広場の施設内に最初の店舗をオープンした。穀物ミルクティーを販売し、わずか25平米の小さな店舗ながら大人気となった。

次は、チェーン展開をすることだが、夫婦はここで考えた。そのまま上海で店舗数を増やしていくことは得策とは思えなかったからだ。ひとつは、大都市の家賃は高く、ドリンク店では利益のほとんどが家賃に消えてしまうこと。もうひとつは、穀物ミルクティーはホットで飲んだ方が香りが立って美味しく、北部の人に受けるはずだと考えられたこと。上海でも人気となったが、それは1店舗しかないからであって、多店舗展開をしたら珍しさがなくなって売れなくなるのではないかと考えた。

そこで、二人は北部の山東省に戻って、地方都市を中心にチェーン展開をすることにした。

北部でチェーン展開を進めながら、冷たい飲み物が好まれる南部の攻略をどうするかを二人は考えた。そこで、フルーツミルクティーが生まれた。これにより、2019年、広東省に進出をした。ホットの穀物ミルクティー、アイスのフルーツミルクティーともに天然の食材を使った優しい味で、「上海のおばさん」というブランドにも合っていた。

▲濾上阿姨の出店分布。ホットで飲むのが適していることから山東省に集中出店をしている。また、アイスで飲むフルーツティーを開発してからは広東省にも集中出店した。

▲初期の滬上阿姨店舗。ロゴも現在のものではなく、起業のヒントになった飲食店の女性店主のイメージをそのまま図案化したものだった。

 

上場申請まで漕ぎ着けたが投資家の評価は厳しい

2020年10月、嘉御資本から7500万元の投資を受け、そこから投資が続くようになり、店舗数も3000店を超え、企業価値は15億6000万元に達した。その後も投資が続き、現在の評価額は51億元に達し、香港証券取引所に上場申請をするところまできている。

しかし、投資家の評価は厳しいようだ。目論見書によると、2021年、2022年、2023年の営業収入は、それぞれ16.4億元、22.0億元、25.4億元となっている。しかし、2022年の蜜雪氷城の営業収入は135.8億元であり、古茗(Guming)は56.0億元、茶百道の42.3億元と比べるとかなり小さい。店舗数の点でも、濾上阿姨は7297店舗であり、蜜雪氷城は1万店舗以上、古茗は9000店舗以上、茶百道は7900店舗以上と、遅れをとっている。

店舗数の点でも遅れをとっているが、投資家が気にしているのは営業収入が他のチェーンと比べて極端に低いことで、つまりは利益率が低いということだ。売上が下がれば、すぐに利益は固定費に飲み込まれてしまって赤字になってしまう可能性がある。

▲滬上阿姨の現在のロゴ。「アントおばさん」をモチーフにしていることは同じだが、洗練されたものになった。店舗デザインも洗練され、海外のチェーンであると勘違いしている人も多い。

▲現在の標準店舗の設計。初期の頃と比べ大きく洗練され、アンティー・ジェニーという名前を前面に出しているため、海外のチェーンだと思っている人もいる。

 

急速な規模拡大に内部で混乱も

滬上阿姨では、営業収入を増やすために、店舗拡大を急いでいる。現在、滬上阿姨のフランチャイズに加盟するには4.98万元(約100万円)の加盟費を支払い、原材料を本部から購入するだけでロイヤルティーは不要と、ハードルを低くして加盟店を増やそうとしている。

しかし、急速な拡大に内部で混乱も起きていることが窺われる。2022年には、テンセントの女性用ゲーム「光と夜の恋」とのコラボキャンペーンを行った。しかし、SNSの濾上阿姨公式アカウントで、担当スタッフがこのゲームのことを「バツイチ女性を騙すようなゲーム」だとコメントしてしまい、ゲームファンの間で炎上をした。コラボ初日には合同イベントが開催されていたが、3時間後に中断をし、コラボキャンペーンは取り止めになるという事態になった。

また、カップの図案が問題にもなった。チャイナドレスを着ている女性が描かれているが、横のスリットが深く、脚の大部分が見えている。これは、外国人にとってはよく見かける表現だが、中国人にとっては複雑な思いを抱かせる表現になる。チャイナドレスの原型は旗袍(チーパオ)であり、本来は乗馬をすることが多い満州族の民族衣装だった。下にはパンツを履き、馬に乗るときには鞍にまたがりやすくなるようにスリットが入っている。

しかし、上海などの酒場で外国人の接待をする女性たちが、素足の上に旗袍を着るようになり、これがセクシーだと評判となってチャイナドレスが生まれた。つまり、チャイナドレスでスリットから足が見えているというのは、中国人にとっては屈辱的なものも感じさせてしまう。中国企業は中国文化に見識を持ち、尊重すべきだという苦情が寄せられた。

さらに、2023年11月にはミニプログラムを通じて、9.9元でミルクティーの引き換えクーポンを10万枚販売した。9.9元で購入すれば、ミルクティーに引き換えられるというものだ。しかし、販売が終わってみると、このクーポンは「9.9元の割引券」に勝手に変更された。先に9.9元でクーポンを買っているのだから、9.9元の割引をしてもらっても、結局は定価でミルクティーを買っているのと同じことになる。

▲問題になったカップの絵柄。右の女性のチャイナドレスのスリットが深く、素足が見えている。これは中国人にとって屈辱を感じる。

 

上場前の苦しみを乗り越えることができるか

滬上阿姨は、ミルクティーブームに遅れて参入し、差別化を図っていくことで成功した事例だ。しかし、香港上場を目前としたところで、急成長の歪みがさまざま現れてきているようだ。ここを乗り越えて、上場することができるかどうか、多方面から注目されている。

 

ブームになるマイクロドラマ。ヒットの鍵は脚本。脚本の売買市場ができあがりつつある

ブームになっているマイクロドラマ。低予算で制作をするが、ヒットをすれば収益は莫大ということから、プロたちが続々と参入をしている。マイクロドラマのヒットの鍵はストーリーの面白さで、そのため、脚本の売買が熾烈になってきていると新榜が報じた。

 

プロが続々参入するマイクロドラマ

今、中国でブームとなっているのが「微短劇」=マイクロドラマだ。1話は1分から2分程度で、それが50話、100話ある。1話から10話までは無料で見られるが、次の20話から30話までを見るには課金をしなければならない。さらに、次の30話から40話までも課金が必要と、最後まで見るにはそれなりの料金がかかる仕組みになっている。しかし、映画に行くよりは安く、ストーリーに惹きつけられて見てしまう人が多く、利益が出ることから多くのプロたちが参入を始めている。

元々は、コロナ禍で、仕事を失った映画やテレビドラマ関係のクリエイターたちが集まって、仕事もないのでつくってみたところ、小遣い稼ぎになるどころか、映画やドラマの仕事よりも儲かるというケースも出てきたことから盛り上がりを見せている。

▲マイクロドラマの典型例。動画プラットフォームで、1話1分か2分のドラマを10話ほどは無料で見ることができる。続きを見るには課金が必要になる。

 

低予算でつくり、あたれば大きい

100話まであると言っても1話1分程度なので、映画1本、単発ドラマをつくる程度の労力ですむ。さらに、視聴者の目当ては、クオリティの高い映像ではなく、ストーリーの面白さ。次から次へと「続きはどうなるだろう」と思わせてくれることが重要で、セットなどにお金をかける必要はない。スマートフォンに合わせて、縦型動画となるため、たくさんの人物を登場させたり、自然の風景は合わないため、室内での映像が多くなる。つまり、低予算で10日ほどでつくってしまい、あたれば大きい。そんなところから、多くの人が参入を始め、競争が激化をしている。

 

脚本の質がヒットを決める

しかし、脚本はきわめて重要だ。面白い脚本かどうかでヒットするかどうかが決まる。このため、制作チームはチーム内の脚本家だけでなく、外部からも面白い脚本を購入するようになり、フリーランスの脚本家がにわかに増えている。

脚本家はまずサンプルを自分で書き、それをさまざまな制作チームに売り込む。この時は、300字から500字程度の概要と、1話1000字程度の脚本10話分を書いて提案をする。

採用された場合、報酬に関しては買取りということが多くなるが、報酬の支払い方には「334」と「37」の2つの方式があるという。334は、採用時に30%、50話まで完成した時に30%、脚本が完成した時に40%支払われるというものだ。37は採用時に30%、完成時に70%が支払われるというもの。

このため、脚本家は最初の10話を面白くすることに力を入れる。最初の10話が魅力的であれば、その後のストーリーが多少凡庸であっても、見続ける人は多いため、脚本家も制作チームも最初の10話のできを重要視している。

▲マイクロドラマの脚本売買市場が形成され始めている。ヒットの重要な要素である優れた脚本の価格が上昇をし始めている。

 

舞台設定を工夫することでヒット

この脚本の競争は激しくなってきて、制作チームに提案された脚本の中で、実際に採用されるのは10本に1本以下になってきているという。というのは、人気のある設定というのはほぼ固まっていて、人間の欲望に直結するお金、恋愛、社会的地位をめぐる愛憎劇だからだ。その中で、そうそう斬新なプロットを考えるというのは簡単ではない。

現在、ヒットとなっている「私は80年代の世界で継母になった」は、女子大生が80年代にタイムスリップした後、養豚場のオーナーと結婚して家庭を築くという物語だ。ストーリー的には、富裕層の家に嫁ぎ、家族との軋轢があるという典型的なホームドラマだが、80年代という舞台設定が受けた。今、中国では、昔を懐かしむという点で80年代の文化が注目されている。80年代は養豚場経営で成功したオーナーが富裕層の典型で、今の富裕層とはまた違った描写をすることができる。ストーリーとしては平凡かもしれないが、設定を変えることで成功をした。

▲ヒットになったマイクロドラマ「私は80年代の世界で継母になった」。内容は典型的な家庭内愛憎劇だが、舞台設定が80年代という点が変わっており、それがヒットの大きな要因になった。

 

一過性のブームで終わってしまうか、産業として定着するか

iiMediaが公開した「2023-2024中国マイクロドラマ市場研究報告」によると、2023年のマイクロドラマ市場は373.9億元(約7700億円)となり、2022年からは267.65%も増加をした。報告書によると、2027年には市場規模が1000億元の大台を突破するという。

しかし、マイクロドラマは7年ほど前にも話題となったが、あまり人気を得ることができず消えていった過去がある。当時は、課金モデルではなく、広告モデルであったために、うまく収益化することができなかった。今回のブームも一過性のものとして消えていくのではないかという不安は関係者の多くが感じている。そうならないためには、やはり脚本の質が重要になる。プロの脚本家がマイクロドラマに参入をしているだけでなく、まったく実績のない素人が脚本を書いて制作チームに提案をすることも増えている。そこで、どれだけ新しい才能、新しい着想が生まれてくるかが、マイクロドラマ市場が成長するか、消えてしまうかにかかっている。