●かんべえの不規則発言



2024年4月 






<4月14日>(日)

〇本日は競馬仲間6人にて福島競馬場を訪れて、その後は福島駅近くの天ぷら屋さんを訪れ、飯坂温泉の野天風呂に浸かってきたところです。いや、皐月賞は取れなかったし、馬券的には沈んだ一日であったけれども、友人たちと共にワイワイ過ごせた結構な一日であります。

〇水原一平氏もギャンブル友達が居れば、おそらくは深みにはまらなくて済んだのではないでしょうか。依存症はすばらしきかな。競馬仲間と共に過ごす時間は値千金。競馬の話をしていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。そして野天風呂には月が出て、桜の花びらが浮いている。

〇きっと山崎氏とぐっちーさんの霊も来てたんじゃないかなあ。ということで夜は更けてまいります。


<4月15日>(月)

〇昨晩は福島に泊まっていたので、今朝のNHK第一「マイあさ!」、月曜6時台後半のマイBiz「経済のイマ、物価と賃金の好循環 何が必要か」の電話インタビューは、飯坂温泉の伊勢屋さんの誰も居ないロビーからお送りしたのであります。終わった後は、もちろんゆっくりと朝風呂に浸かるのである。わはは。

〇こう言っては失礼ながら、伊勢屋さんは飯坂温泉の「ピンキリ」で言えば、キリに近い方ではないかと思う。ただしこちらはメシは他で食った後であるし、いまどき野郎ばかり6人が和室で雑魚寝という昭和なスタイルであるから、別に気にしないのである。そしてお値段は破格に安く、一同の満足度はまことに高かったのである。

〇というか、大人の遠足というか、競馬の「旅打ち」ができる仲間がいるというのは、こういうご時勢にはなんとも贅沢なことである。2012年の七夕賞に、たった一人で「福島競馬通い」を始めたときには、まさかこんな風に発展するとは思ってもいませんでした。コロナによる中断もあったしね。

〇まあ、しかし福島競馬は難解で、なかなか勝たせてはくれません。昨日の福島民報杯(高橋さん言うところの「社杯」)なんて、あらかじめ答えを教えてもらっていても当てられそうな気がしない。今週末には福島牝馬ステークス(G3)なんかもあるのですが、ううむ、これも難解だ。

〇それでも桜の季節の福島市はまことに良いところでした。さて、次の旅打ちはどこに参ろうか。円安のせいで海外旅行は贅沢になりましたが、国内旅行はいいですぞ。どこへ行っても旨いもの安いもの、人情に触れることができまする。

→後記:あらためて数えてみたら、ワシの福島競馬場通いは2012年7月の第1回から通算で今回が10回目でありました。これはちょっと自慢していいんじゃないだろうか。関東在住の競馬ファンで、「福島競馬場に10回行ったことがある人」はそんなに居ないと思うぞ。ここまでくると、当初の「震災からの復興を見届ける・・・」などという動機はどこかへ行ってしまって、単に楽しいから通っているだけである。最初は一人だけの旅でありましたが、今では一緒に行く仲間もいれば、案内をしてくれる友人がいて、現地には馴染みの店も何軒かある。まことにありがたいことであります)


<4月16日>(火)

〇本日は中部経済倶楽部の講師で名古屋市へ。「米大統領選挙の行方を読む」という演題ではあるのだが、そこはまあ自然と、先週の「岸田首相訪米の収支決算」みたいな話になるのである。

〇長い日米関係の歴史においても、今回は画期的な訪米であったと思います。なにしろ日本国首相が米連邦議会合同演説において、「日本はShoulder to Shoulderでアメリカと共に立ち上がっている」と言ってしまうのだから。「9/11」のときには「ショー・ザ・フラッグ」と言われ、「イラク戦争」のときには「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」と催促されて、しぶしぶ自衛隊が中東に出て行ったあの日本が、今やアメリカの背中を押すまでになっている。

〇それはいわば当然のことであって、だって台湾有事の時にアメリカが来てくれなかったら困るから。「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」という岸田首相お得意のフレーズは、一定のアメリカ人にはちゃんと「刺さる」のである。だからそのためには日本も少し前のめり気味に貢献しなければならない。実際に22年末の防衛3文書では長年の防衛政策を大転換したし、防衛予算も2027年にはGDP比2%になるのだから。

〇いやいや、そこまでの覚悟は日本国民の大多数がまだ持っていないぞ。総理大臣にそういう危ういことを言わせちゃいかんのではないか・・・。そういう意見も確かにあるだろう。特に過去に日本外交を背負ったOBたちの間には、「そこまで言って委員会」的な感覚があるように感じます。

〇とはいうものの、それはアメリカが自信満々であった昔(自国肯定感がフルであった頃)のことであって、当時は日本がもたもたしていると、全部アメリカが押し切ってくれた。日本政府もいちいち理詰めで国民の了解を得るよりは、「アメリカさまがそう言っているから仕方がないんですぅ・・・」という説明をすることを好んでいた。実際に昔はこの「ガイアツ」がよく効いたのです。めんどくさいことは、「アメリカのご意向」で済ませてきた。

〇ところが今のアメリカはそんなに強気ではない。とくにオバマ大統領以降は、「そもそも日本はどうしたいのだ?」と素で聞かれたりする。仕方がないから、今では日本側である程度お膳立てを考えて、「ここまではわれわれがやりますから、この先はやってくださいねっ!」みたいに動かねばならない。この辺は日本外交における「断層」があるのではないかと思う。

〇とまあ、そこまで詳しい話はできないのですが、明日の「モーサテ」では「岸田総理訪米の収支決算」をテーマにお話しする予定です。


<4月17日>(水)

〇新スタジオでの「モーサテ」に登場。池谷さん、片渕さん、中垣さんと3人のキャスターがいて、もう一人のゲストは尾河真樹さん。以前はゲストの登場は6時40分までだったが、新年度からは番組終了の7時5分まで残ることになる。池谷さんはどこでツッコミを入れてくるかわからない。いいっすねえ、この雰囲気。

〇尾河さんも私も、昔のテレ東の神谷町時代を覚えている世代なので、なんだか昔の自由奔放な「モーサテ」が戻ってきたようでいいよね、てなことで意見が一致する。そういえばワシはこの番組は、今月で勤続15年目となる。

〇夜は田原総一朗さんの90歳お誕生日会に駆けつける。「小泉純一郎と菅直人、反原発派の元首相が仲良く登場」みたいな面白い構図があっちにもこっちにも。昔、よくお世話になったテレ朝の方々とも久しぶりにご挨拶する。

〇そうか、ワシはいつの間にかテレ朝系からテレ東系に移行していたのか。やってる本人は意外と気づいていないものなのである。そのあともう一軒、会合をハシゴ。

〇ということで、一日がとっても長いです。こういう日は、移動中はとにかく寝ている。こういうことができる東京都内はまことにありがたい。


<4月18日>(木)

〇今宵の阪神タイガースは佐藤輝明のサヨナラヒットで巨人相手に連勝!さすがは阪神打線のゴールドシップ。たとえ3三振でも、守護神・大勢を打ち崩したのは殊勲大であります。

〇これでタイガースは5割復帰。先発の西勇が頑張って、森下がいいところで打ってくれて、桐敷もいいところで押さえてくれました。後は大山の打棒に火が付くのを待つだけです。

〇これで明日からは首位・中日と甲子園で3連戦。ドラゴンズファンの上海馬券王先生やTAROさんには悪いですが、そうそういい思いはさせませぬぞ。待っておれ、わはははは。


<4月21日>(日)

〇柏シアターにて「ノスタルジア 4kリマスター版」を観る。いやあ、タルコフスキー監督作品ですよ。懐かしいねえ。

〇この映画を見たのはちょうど40年前。ワシは日商岩井の入社1年目で、初任給手取り10万円の身の上であった。同期の連中は早くも忙しく残業させられているのに、広報室に配属されたワシはあんまり仕事はなく、「もう帰っていいよ」と言われ、かといって金曜日の独身寮には晩飯の用意もなかったので、仕方がないから一人で六本木に行って、封切りになったばかりのこの映画を観た。

〇まだロシアがソ連だった時代である。『惑星ソラリス』や『ストーカー』を作って、既に「巨匠」と呼ばれていたタルちゃんは、「表現の自由」を求めてイタリアにわたってこの映画を作った。タルちゃんはその後、実際に亡命を宣言するのだが、じきにゴルバチョフが登場するので、彼の亡命は不問に付されることになる。結局、帰国することはなく、1986年にパリで亡くなった。享年54歳。

〇この映画、とにかく「雨漏りする家の中のシーン」――こんな風に言ってしまうとぶち壊しなんだが――が強烈な印象に残る。当時、小林麻美の『雨音はショパンの調べ』という曲がヒットし、そのビデオクリップ(当時はそれ自体がめずらしかった)も高い評価を受けたのであるが、今見ると『ノスタルジア』の「まんまパクリ」である。映像の詩人と呼ばれたタルちゃんは、世界中で幾多の模倣を生んだのである。

〇この映画を作っている時点で、タルちゃんは既に亡命を決意している。そうなると二度とソ連の土は踏めなくなってしまうし、家族はおそらくひどい目に遭うだろう。でも、そこはタルちゃんは芸術家だし、ロシアの正統派インテリゲンちゃんなので、本当に亡命してしまう。その過程で生じる「望郷」の念を、映画作品に昇華させようとしたのであろう。そういう意味では「私小説」風な映画である。ゆえに主人公の振る舞いは、まるで太宰治のように身勝手に思えるところがある。

〇今見ると、「古臭い前衛映画じゃのう」という思いは禁じ得ない。それでもタルちゃん一流の映像美は、まさしく本作において頂点に達したのではないだろうか。タルちゃんはこの2年後に『サクリファイス』を作って、それが遺作になる。でも個人的な好みで言わせてもらえば、やっぱり『ソラリス』や『ストーカー』の方がいいですよ。

〇ともあれ40年前の作品である。自分が23歳だったときに観た映画に再会するというのは、それ自体が「ノスタルジア」である。柏シアター、まことにありがたし。それにしても今のウクライナ戦争を見たら、タルちゃんは何と言って嘆くのだろうか。ちなみに彼のお父さんはウクライナの詩人だったそうだから、そのこと自体がひとつの作品のモチーフになりそうである。

〇さて、そういう映画を撮るウクライナ、もしくはロシアの映画監督はこの後、果たして登場するのであろうか?


<4月22日>(月)

〇本日は内外情勢調査会葛飾支部の仕事で金町駅へ。

〇いつも通勤で使う常磐線(千代田線)沿線だが、ここで降りる用事は滅多にない。お隣の亀有駅は、まだしも降りたところに『こち亀』の両津巡査の銅像があったり、ラーメンの人気店があったりするので、まだしも接点があるのだが、そういう意味では地味な駅である。

〇そこで思い出すのは、何年か前にアベノミクスについての取材を受けたドイツ人記者のことである。一通りの取材が終わったところで、「ところでお前はどこに住んでいるのだ」と聞くのである。「柏だ」というと、「なぜそんなところにいるのだ。俺が住んでいる金町は素晴らしいところだぞ」と、しきりに力説するのである。

〇いやまあ、水元公園があるとか、京成線の駅があるとか、一通りのことは知っているし、いかにも下町らしい住みやすさがあることは認めるが、なぜそこまで金町に肩入れするかはよくわからない。ともあれ、彼はドイツの新聞社の記者として日本に赴任し、金町に惹かれてその住人となり、契約が切れた後もフリーのジャーナリストとして、日本から記事を発信し続けているとのことであった。

〇テレビ東京の「Youは何しにニッポンへ」で取り上げたら、さぞかし深い話が聞けるのではないかと思う。本日お会いした金町在住の地元経営者の皆様にそのドイツ人記者の話をしたら、「信じられない」「どこがそんなに気に入ったのか」といった素朴な反応が返ってきた。ううむ。

〇そういえばその後、FCCJ(外国人記者クラブ)の他の記者と話をした際に、「ドイツ人の面白い記者がいますよね」といったら、「ああ、あいつだな、金町に住んでいる」という反応があったことを考えると、そこそこ有名人であるらしい。今も日本に居るのだろうか。コロナを契機にドイツに帰っていたらちょっと残念な気がする。

〇この国には、なぜか奇妙に外国人を惹きつけるものがあるらしい、というお話しでした。


<4月24日>(水)

〇今年は日本がOECDに加盟して40周年であり、しかも議長国を務めるということもあって、5月2−3日に予定されている閣僚理事会には日本から岸田首相が参加して記念演説をするらしい。ゆえにパリに飛んで、その後は南米に外遊というのが、日本国首相のゴールデンウィークの過ごし方となりそうだ。

〇OECD加盟は1964年のことである。この年に日本はアジアで初となる東京五輪を開催し、東海道新幹線が開通して首都高が完成し、IMF8条国に移行し、堂々、世界のお金持ち国の一角を占めたのである。まことに晴れがましい年であった。

〇ところが当時の日本国は、世界のGDPの4%を占めるに過ぎなかった。西ドイツを抜いて、自由主義圏第2位の経済大国となったのはそれから4年後のことである。高度成長期にあったとは言え、まだまだの存在であったのだ。

〇その後、日本経済は世界経済の17%台(1993年〜95年)を占めるに至るのだが、元の木阿弥というか、その他大勢の国々が急成長を遂げたことの論理的帰結というか、今では再び「世界の4%」に回帰している。はて、このことをいかに受け止めるべきなのか。

〇アンガス・マディソン教授の研究によれば、世界経済の超長期GDPを推計すると、もともと日本経済は1000年頃からずっと「3〜4%」が相場であったらしい。そういう意味では、今はもともとの人口サイズに見合った規模に戻ってきたのかもしれない。

〇ただし「世界の17%」を占めていた時期に比べると、「今の4%」の方が幸せなのではないかという気もする。もともとそんなに自国肯定感が強い柄でもないし。もちろん経済には「規模がモノを言う」面がある。しかるに今となっては、「たかだか4%だが、しかしそれがどうした」という国家像を描くことが、この国の未来像を考える際の王道ではないかと思う。

〇ところで読者諸兄はご存じのとおり、日本経済にとって重要な年は得てして阪神タイガースが優勝する。1964年もそうであった。次の転機はプラザ合意の1985年に到来する。そしておそらく、2023年が日本経済「底打ちの年」として記憶されるのではないだろうか。

〇その阪神タイガースについて、『挫折と覚醒の阪神ドラフト20年史』(小関順二/草思社)という本が出た。惹句は以下の通り。


「ドラフトでチームが変わる」をみごとに証明してみせた阪神タイガース。
低迷を続けていたチームはいつ、どのようにして変貌を遂げたのか?
ドラフト研究の第一人者が、2000年以降の苦難のチーム編成と各年度のドラフトにおける
指名傾向を振り返りながら、球団の進化のプロセスを解き明かす。
阪神の歩みとともに、チームを「強くする指名」「弱体化を招く指名」の傾向も浮き彫りになる
プロ野球ファン必読の一冊!


〇なぜ「失敗ドラフト」を繰り返してきたタイガースが、ここへきて急に上手になったのか。本書は金本知憲監督の誕生が契機であったとする。そういえば現在の4番打者、大山を1位で指名したのは2016年、金本監督就任の年であった。あまりにもあっけない謎解きであるが、言われてみればまことにごもっとも。

〇「ドラフトをちゃんとやれば、チームはかならず強くなる」というのは、「企業を強くするのは人事次第」と同じ真理であろう。そんなことはもちろん知っているけど、問題はどうやってやるのかなんだ、と言いたくなるところである。不思議なもので人事はめぐりあわせであって、好循環も悪循環も長く続くのである。タイガースはたまたまここへ来て好循環が続いている。日本経済も、できればそういう風であってもらいたいものである。


<4月25日>(木)

〇今週末の統一補欠選挙まであと3日。今日になって、こんな噂が聞こえてきた。


(1)島根1区:2009年の政権交代選挙でさえ、民主党が勝てなかった選挙区。そもそも自民党以外が勝ったことがない。そんな選挙区に地殻変動が起きつつある。この結果が出た瞬間に、他県では衝撃が走るのではないか。立憲民主党の泉代表は今日も島根県入り。

(2)東京15区:典型的な都市型選挙区で、2代続けて現職が不祥事で、9人も候補者が立ってしまったからもうわけわかんない。風次第でどういう結果になっても不思議はない。だから応援に行くのもあほらしい。ほっとけ、ほっとけ。

(3)長崎3区:立民が勝っても維新が勝っても大勢に影響なく、しかも次の総選挙では消えてしまう選挙区。ここも応援に行ってもあんまり意味がない。


〇週明けになると、永田町の景色が文字通り変わっているのかも。やはりコロナの3年間を経て、「次の総選挙はリセットスイッチが入る」のかもしれない。はてさて、どういうことになるのやら。


<4月27日>(土)

〇昨晩は経済同友会の会員懇親会へ。

〇この日が定時総会で、長年にわたって事務局長を務められた岡野さんが退任。お疲れさまでした。筆者が同友会の職員だった30年前には、お互いにこき使われる身の上で、「よっちゃん、何とかしてよ〜」と何度も言われたことを思い出す。

〇そうかと思えば、あの頃、よく速水代表幹事に取材していた日経の菅野記者が、今春には論説委員長にご就任。昔からよく知っている人たちが、偉くなったり「お疲れさま」であったり。自分自身はどうかといえば、この20年くらいまったく同じ立場で、同じ仕事を飽きずにやっている。

〇ちなみに今週の仕事はこれ。


●34年ぶりの円安をなんとか止める方法はないのか


〇30年前の日本経済では、円安ではなくて円高が問題とされていて、「円高論者」の代表幹事がしばしば非難の矢面に立たされていたものである。まあ、なんというかベクトルが逆になっただけで、こういう時の反応はまったく変わりませんな、この国は。

〇「アメリカ人は株価、ドイツ人は物価、日本人は為替」になると、ヒステリックになるのだそうです。昨日の日銀記者会見では、植田総裁に向かって「円安でハワイに行った人たちが可哀そう・・・」などというお馬鹿な質問をした記者がいたけれども、ANAのゴールデンウィークのハワイ便予約は過去最高だそうです。

〇とりあえずこの問題で日銀を苛めてもまったく意味がない。その一方で、昔の日銀には福井さんとか雨宮さんといった政治感覚がゆたかな人が居て、絶妙なバランスを保っていたのだけれども、今の体制ではそういう古だぬきが存在しませんから、植田総裁の答弁が「木鼻」に聞こえたりするのでありましょう。どっちがいいのかはよくわかりませぬ。


<4月28日>(日)

〇案の定というか、やっぱりねというか、本日の統一補欠選挙は3選挙区ともに午後8時「ゼロ打ち」で、全部立憲民主党の勝ちとなりました。

〇現職の議員さんたちは、ご自身の身体で「世間の風」を敏感に受け止めるものなので、立会演説会をしている時の聴衆の反応とか、政策パンフを受け取ってくれる人の数とかで、最近の変化をビビッドに感じていたようです。先日お会いした立憲民主党の政治家さんは、「このまま政権交代まで行ったらどうしましょ?」という心配をする人までいたくらいです。

〇逆に自民党にとっては逆風です。そもそも衆院島根1区という選挙区は、2009年の政権交代選挙のときも細田さんが20p差で勝った選挙区です。ここで自民党が負けたということは、それこそ「次の総選挙はどの県なら勝てるんだ?」ということになる。たぶん山口県とか富山県とか、限られた保守王国だけでしょうなあ。

〇しかもこの先の展開は極めて悪い。既に永田町はGWモードに入っていて、岸田首相は5月1−2日にはパリで行われるOECD閣僚会議に出席する。それが終わったらブラジルとパラグアイに向かう。これに対してどんな反応が出るかは想像に難くない。他の閣僚たちも同様ですからね。


「自民党の政治家は外遊三昧」→「円安もあの人たちには関係ない」→「庶民は外国旅行など高根の花」→「許すまじ自民党!」


〇普通だったら首相が留守の間に、自民党内でクーデターが発生するパターンです。ところがですな、ここでクーデターを起こして、「自民党初の女性党首」などを担ぎ上げるのはいいけれども、その場合はすぐに選挙に打って出なければならない。それはやっぱり怖いので、今の自民党にはそういう活力はないのだと思います。せいぜい敗戦の責任を取って、茂木幹事長が辞表を提出するくらいでしょう。地殻変動は起きないし、岸田政権はまだ続くのだと思います。

〇野党の側も出方が難しい。仮に立憲民主党が日本維新の会と組めば、1年半以内に訪れる次の総選挙において、ほぼ確実に政権が取れるでしょう。ところがそうはいかない。維新の会は「野党第一党を目指す」という変な政党ですし、立民の中には「維新だけは嫌!」という人が少なくない。みんなの党とか、いろいろ経験している人がいるからね。

〇強いて言えば野田佳彦さんを首相候補にして、その下で立民と維新と国民と都ファの4党が結集するという手がなくはない。ただし誰がそういう裏方仕事ができるかというと、はなはだ心もとないですな。ともあれ、「ああ、やっぱりな、そうなるよねえ」という思いを禁じえません。6月解散はかな〜り難しくなりました。


<4月29日>(月)

〇今回の統一補欠選挙では、日本維新の会も敗者と言っていいでしょう。あの政党には根源的な矛盾があって、それは「大阪で人気を得るためにはアンチ東京でなければならない」が、「アンチ東京では大阪以外では勝てない」(せいぜい兵庫や奈良まで。京都になるともう難しい)ということ。過去にも何度か、「オールジャパン進出」を目指しては失敗している。

〇ワシ自身が「関西系商社」で長らく過ごしてきたので、ずっと気がつかなかったのだけれども、実はこの国には「関西人(弁)が嫌い」という人がかなりの比率で存在する。そしてそういうことに対して、関西人は無自覚である。維新の会が関東で浸透できないのは、そういう文化的な障壁が大きいと思うのだが、これはもう致し方のないことであろう。

〇だったら大阪維新の会として、ローカル政党として生きていくのもひとつの道筋であろうが、彼らは「反リベラル」「反知性主義」でもあるので、野党結集には後ろ向きなのである。何かの時に自民党の片棒を担ぐのはいいけれども、今みたいに民意が全面的に自民党を拒否しているときには出方が難しい。

〇ついでに言うと、彼らは「自分たちはちゃんとした政党ではない」ということに意義を見出しているので、政党間の協議のちゃぶ台返しなどを何とも思っていない。あまりにトラックレコードが悪いので、「維新との政策協議など考えたくもない」という声が少なくない。とにかく困った人たちなのである。

〇となると、統一補選で「3連勝」した立憲民主党が頑張るしかないのだが、彼らに政権を取る準備があるようには思われない。個々の議員さんたちとしては、今のまま野党第一党の立場でいる方が居心地が良くて、そのためには日本共産党との共闘が欠かせない。しかるに共産党と連立したままで政権奪取というわけにもいかないだろう。

〇もうひとつ、彼らが政権に就いていた2012年までと今では、安全保障の枠組みがかなり変わっている。旧民主党の方々はNSCの使い方とかがわかってないはずなので、政権交代が起きた場合はそのことも大きなリスクとなる。というか、考えたくないよなあ、そういう事態。

〇何より外資の対日認識がすっかり変わり、「日本は買いだ!」となって約半年、こんなことでせっかくのモメンタムが失われるのはまことに惜しい。ただし今の有権者の間には、「3年間のコロナ禍を経たリセット願望」と、「物価上昇に対する怒り」があまりにも根深いので、自民党はかなり深く罰せられなければならない様子。

〇こうなると例によって、9月の自民党総裁選挙で何か上手い出口戦略が見つかるか、ということに懸かってくる。この後の数か月はまことに悩ましいことになりそうです。


<4月30日>(火)

〇以下は「4月の月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」に出ていた興味深い数字である。


●昨年の賃上げは、「高卒で高め、大卒で安め」だった。ホワイトカラーよりもブルーカラーの賃上げが優先された様子で、その判断はたぶん正しいのであろう。産業別にみると、建設業など「ガテン系」の仕事で賃上げ率が高い。逆に言えば、30代40代の大卒社員はあまり賃上げの恩恵に浴しておらず、賃上げでは「後回し」にされている。

●日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳だが、最頻値では男性が88歳、女性が93歳となる。驚くべき長寿国である。なおかつ、日本の高齢者は労働参加率が高い。65歳から74歳の年代でも、「男性の2人に1人、女性の3人に1人」が仕事を持っている。これは世界的に見ても希な数値である。

●個人消費は全般に低調。それでも百貨店の高額品消費は伸びている。これはインバウンドが多いから当たり前だが、家計調査でも身の回り品消費が伸びている。つまり日本人もちゃんと高額消費を始めつつある。


〇いかにも「日本人的だなあ」と思うのは、皆さん、「円安で海外旅行など高根の花になった」などと言いつつ、GWの海外旅行は結構な水準となっているのである(2018年を100とすると、今年は84)。

〇要するにコロナ下の「強制貯蓄」が1年遅れで個人消費に向かい、株高の追い風も受けているということなのだろう。まったく素直じゃない人たちなのである。まあ、下手なことを口にして周囲のやっかみを買いたくない、と考えれば、それはまことに合理的な行動と言えるのですが。









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編集者敬白





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by Kanbei (Tatsuhiko Yoshizaki)