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2008.7.12開設。 ショートショートを中心として、たそがれイリーが創作した文芸作品をご覧いただけるサイトです。 できれば毎日作品を掲載したいと思ってます。これからも創作意欲を刺激しながら書き綴って参ります。今後ともぜひご愛顧ください。

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     管理人、たそがれイリーです。
     日ごろより本ブログをご愛顧賜り、まことにありがとうございます。

     このたび、本ブログのリニューアルを兼ねて、アメーバブログへの引越しを行うことにいたしました。
     引越し先では、

     たそがれイリーのショートショート・パラダイス
     
    http://ameblo.jp/tasogareiri/

     として今後もさまざまな作品をご提供してまいります。
     今後とも私の作品と、新ブログをよろしくお願いいたします。

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    「今度は何の願いかのう・・・まあ、人間のことだ。たわいのないことじゃて」
     顎鬚を右手で無造作にいじりながら、神様は眼前の青年につぶやいた。
    「神様からご覧になれば、たわいのないことかもしれませんが、私にとっては一大事です」
     青い野球帽をかぶった青年は、緑色のビニール傘を開きながら、神に願った。
    「私はヤクルトのファンなのです。しかし、今年の成績は・・・」
    「ああ、なんだ。今まで阪神とやらのファンが、願ってくるばかりしておったわ」
    「お察しいただけますか」
    「要するに、今度はヤクルトとやらを、強くすればいいのじゃろ」
    「よくぞお察しくださいました。私はそれをお願いにあがったのです」
    「わかったわかった。じゃあ、チョチョイとかなえてしんぜよう」
    「チョチョイと・・・なんとまあ、あっけない」
    「わしもこう見えて、忙しいのでな・・・では早速、ヤクルトが強くなりますように!」

     翌日の朝、開けようとしても開かず、砕こうとしても砕けない、鋼のような容器に入ったヤクルトが宅配されて問題になるとは、誰も想像しなかった。

    「博士、ついに出来ましたね。クローン人間が」
    「そうとも、このまま速成培養すれば、1ヶ月すればもう一人の私が現れる。するとこの研究も加速すると言うものだ」
    「本当にすごいですよ。後は機密と違法な行為を少しでも隠蔽して、機が熟するのを待つだけですね」
    「そうだな・・・機密を守らねばならんなぁ。そうなると・・・」
    「は、博士! 何で私を見るんですか・・・ああっ!」
    「悪く思わないでくれたまえ。君がいなくとも、もう一人の私がいる限り、この秘密は私と私のクローンで一生守って・・・うっ!」

    「悪く思わないでくださいよ、博士。こういうこともあろうかと、助手は助手なりにクローンを作っておいたわけです。さっき葬ろうとしたのは私のクローンですよ。まあ、後はこの研究データをすべて私のものにさせていただきます・・・あしからず」

     夢がかなわないのはどうしてか考えてみると。
     そこで、いろいろ問題が出てくる。

     周りは自分の能力を買ってくれない。
     組織が悪い。世間が悪い。
     何より、肝心なところで責任逃れをする人間ばかりで、そんな人間ばかりじゃやってられない。
     そもそも、オレみたいな能力の持ち主を、今の状況に置いてしまってる、今の会社が問題なんだよ。
     お前はどう思う? お前は!

     友人はそこまで一気に叫びたてると、渇いた喉を潤すかのように、ビアジョッキのビールを一気に喉に注ぎ込んだ。
     そして、僕の顔をにらみつけ、さあ答えろとばかりに目で訴えるのだった。
     僕は、ただ一言だけ、友人に語った。

    「それだけ考えてる時間がもったいない」

     評判のいいラーメン屋がある。家から歩いて3分ほどの場所だ。
     夜10時にもなると、行列ができるくらいのラーメン屋だ。
     もちろん、昼間も言うまでもないのだが。
     
     そんなラーメン屋のバイトをすることになった。
     深夜営業の時給1,200円に惹かれたせいもあるが、何よりそのラーメンの極意を目にしたいと思ったのもある。
     そんなことを考えながら、僕は幾度となく積み重なるラーメンどんぶりを洗いつづける。

    「おい、あがっていいぞ」
     僕以外のバイト…高校生と、28歳のフリーター。それにレジ係のヤンママが仕事終了。
     僕は? 僕はどうなるんだ?
    「おまえ、うちのラーメンの極意を教えてやるぞ」
     なんと、いきなり僕の好奇心をくすぐるかのような親父の台詞。もちろん了解した。
    「さてと、今日はどこから行くかな」
     親父は、そういいながら俺の体を舐めるように見回した。
    「親父さん、なにしてるんです?」
    「今にわかるよ、今にな!」
    「!!!」

     次の日、僕は昨日と同じようにバイトに来ていた。
     親父は、いつものようにチャーシューを切り、そしてそれを器の中に惜しげもなく並べた。
    「親父、今日のチャーシューは特にうまいねぇ」
    「は、ありがとうごぜえやす」
     親父は、いつもと同じようにほめ言葉に丁重な言葉を返した。

     そりゃ、あのチャーシューは一品だ。世界に1つしかない。
     そのチャーシューが生まれる時を、昨日僕はこの目でしっかりと見たからな。
     ただし、ちょっと痛い目にもあったけど。

     昨日斬られた腹の贅肉をさすりながら、僕は痛みに耐えつつ、またラーメンどんぶりを洗うのだった。

    「参りました」
    「だから、参るなと言ってるだろうが」
    「でも、参りました」
    「だから、参りましたと言う言葉を出すなと言っている!」
    「いえ、さっきの”参りました”は”降参しました”の参りましたですから。誤解しないでください」
    「あのな、俺たちが言ってる”参りました”は”参拝しました”の方だから。お前も誤解するなよ」
    「いやいや、相変わらずお二人とも雄弁で・・・私のような若輩者には返す言葉もございません・・・参りました」

     感動の最終回を迎えたドラマ。
     病と闘い克服した人々の生き様を伝えるドキュメンタリー。
     何を見ても、泣けない。
     通院から1週間後に「泣けない症候群」と医師から診断を受けた。
    「感情表現が未成熟なまま、大人になったのです。やがて涙を流せるようになるでしょうけど、特効薬はありません」
     
     医師はそう言った。
     自分だって、最初は「なんでこの前のドラマじゃ涙ボロボロだったのに・・・」と思って、ドラマの脚本家のせいにしてみたりもしたけど、実際泣けない症候群になったからと言って、普段の生活に困ることはなかった。
     結婚式や葬式にも出たが、涙を流す人々に混じって淡々と頷いて見せたり、静かに目を閉じてさえいれば、場の雰囲気を乱すことはなかった。

     しかし、自身の親が亡くなったときに泣けなかったのは辛かった。
     さすがに親族でも「あの息子はおかしい」とか「保険金が入るから嬉しいんじゃないか」とか、いわれのないことを言われたが、それに対する悔し涙すら出なかった。
     それでも医師は「時が薬です」とか言わず、次第に私は焦燥に駆られていったのだ。

     私は決心した。
     妻や幼子に遺書をしたため、自宅のマンションの屋上に上がった。
     丁寧に靴をそろえて、手すりに手をかける。
    「泣けない自分に、これ以上生きている意味はないので」
     そう書き残した遺書の一文が、頭の中をよぎった。

    「待って!」
     屋上のドアをバタンと開け、妻が駆け寄ってくる。
     その横を、幼子がつたない走り方で付いてくる。
    「泣けなくても、私が代わりに泣いてあげるから、死ななくたっていいじゃない!」
    「おとうちゃん・・・エーン、エーン」
     妻も泣き、子も泣いた。

     その時だ。
     私の頬に、流れる熱い液体を感じたのは。
     その液体を手に取り、舐めてみると、しょっぱい。
     すぐに液体の源流を探る。
     私の両目からだった。
    「泣けた・・・泣けたよ!」
    「あなた!」
    「おとうちゃん・・・おとうちゃん・・・」

     私は感じた。
     人を泣かせる人間にならないと、涙は出ない。
     私は、自分のことばかり考えて、みんなに違う涙ばかりを流させていたのかもしれない。
     自分のことを思って、流してくれる涙。
     そのありがたさに、私は今まで気づかなかったのだ。
     
     大都会の片隅の、古ぼけたマンション。
     そのはるか先には、煌々と明かりのついた、東京タワー。
     今日の東京タワーは、なんだか2つあるように見えるな・・・そんな独り言をつぶやきながら、私は下をなめずり、久々に感じる塩味を、大切にいとおしく味わった。

     UFOの中は興奮のるつぼと化していた。
    「これが地球人のDNAか、14号」
    「それも貴重に守られていたそうだな、14号」
    「14号、これでお前も出世間違い無しだな」
    「なぁに、俺は発見しただけだ。体を張ってこれを採取したのは、27号の手柄よ」

     自動ドアが開き、一同のいる部屋に1人の宇宙人がやってくる。
    「おお、27号!」
    「せっかくだ、お前の自慢話を聞きたいものよ」
     そんな声が聞こえると、27号は中央のイスにえらそうに腰掛け、一同に向かって話し始めた。

    「これは地球人の頭髪だ。それもすごい生命力を持っている。ただの1本の髪の毛と思うな。こいつは、周りの髪の毛を寄せ付けないほどの力を持っていたのだ。この写真が証拠だ」
    「これはすごい、1本だけ立ち上がっているぞ」
    「この頭髪から採取したDNAで・・・かなりの強化人間ができそうだな」
    「それはそうと27号、この写真の男、地球人ではエリートなのか、それとも、戦士か何かか?」

     27号はあまり詳しく知らない、とだけ伝える。
    「俺が知ってるのは、この男が”イソノナミヘイ”と呼ばれていたこと、それだけだ」

     もう、およしになったほうがいいですよ。
     夜も遅くなりましたし、明日もお仕事でしょう。



     なんですって?
     俺がそんなに酒をあおっちゃ悪いのか、ですって?



     悪くは無いですよ。
     もちろん、いいお客さんですよ。
     ですがね、お体とお仕事に差しさわりがあったら困りますよ。
     それをご心配差し上げてるんです。



     ええ、ええ。
     お酒で失敗しちゃったこと、最近ありましたもんね。
     だから私も申し上げてるんですよ。そろそろ控えめになさってはと。
     でも、どうも今日は虫の居所が悪いようですね・・・なにかあったのですか?



    「SMAPの草なぎは泥酔しても同情されて、財務大臣は泥酔したら更迭されるってのが、正直気に入らないんだよ!」

     もうすぐクリスマスイブ。
     私は今年こそシングル脱却を狙っている。
     そのためには、今まで受身だった自分を捨てて、攻めの姿勢に転じなければならないとも思う。
     
     その為に、先ほど銀座の文具店に行ってきた。
     明らかに存在感を放つ、それでいて派手派手しくないレターケース。
     その中にしたためる便箋は、雪だるまのマークが左隅に入った、まさに「シンプル・イズ・ベスト」なもの。
     職場の目を盗んで、私は便箋をコピー機の手差しトレイに挿し、ほんの1行だけの手紙を印刷した。
     
    『イブの日、空いています』

     周りの目を気にしながら、私は便箋をコピー機から取り出す。
     すぐに折りたたみ、席に戻ると、早速レターケースに封入。
     クリスマスツリーのシールで封をすると、胸元のポケットにそれをしのばせ、何気なくせきを龍不利をして、向こうの係の彼の席にそっと置いた。

     それから2週間。
     彼はノーリアクションだった。結局イブの日はいつものように1人きりだった。
     理由ぐらい教えて欲しい。次の日の昼休み、昼食に行こうとする彼を捕まえる。

     彼は悲しそうな目をして言った。
    「これみよがしに『イブの日、相手います』だなんて。僕の片思いはもう終わったんだ」

    「俺はこの峠を縦横無尽に乗り切るのさ」
     男はそう言いながら、缶コーヒーを心地よい音をさせて開けた。
    「いいや、俺はこの峠を走った」
     もう一人の男は、白髪交じりの側頭部をかきむしりながら、さりげなく自慢した。
    「2人とも小物だな。俺なんか見ろ、この峠じゃお前にかなうものはいないって呼ばれてるんだ」
     少し小柄の男は、今までの自慢話を一掃するかのごとく、煙草の煙を吐いた。
    「いいや、でも勝負するなら、俺は勝てる」
    「お前みたいなひよっこが何を言う。俺が一番だ」
    「口では何とでも言えるさ。結果が出た時は、お前らが俺にひれ伏す時さ」
    「…けっ」

    「前川さん、目黒さん、あと…」
    「宮元ですが」
    「お三方とも、心電図の再検査でしたね…今度は、お手元の心電図みたいに、不整脈が出なかったらいいですね」

    「平次、いや、銭形くん」
    「何でしょうか、親分」
    「その言い方はやめたまえ」
    「もうしわけございやせん」
    「…まあいい。今日は、3日前と同じ説教と言うか…上司として、君に指示をしたい」
    「はぁ…なんでやんしょ」
    「だから、前から言っているように、なんだ…その…小銭を投げて犯人を捕まえようとするな、と言いたいんだよ」
    「それが…あっしには、あれが命でやんす」
    「ならば、今日は言い方を変えよう…投げるのは、まあ目をつぶるとして…その…投げる小銭を必要経費で署の予算から負担させようとするのはやめて欲しいんだが」
    「ですが親分、銭はあっしの武器でやんす。その武器をお上で面倒見ていただけねぇのはどうかと思うんでやんす」
    「だがね、1ヶ月に20,000円近くも投げて無くされて、それを必要経費にされてもね」
    「そうですか。では考えます」
    「ようやくその気になってくれたか。それでは、よろしく頼むよ」
    「わかったでやんす」

    「平次、いや、銭形くん」
    「親分、今度は何ですか」
    「いや、たいしたことは無いんだが」
    「あれから2週間。ちゃんと言いつけを守っておりやすが」
    「違うんだ。となりの銀行から連絡があったぞ」
    「なにがでやんすか」
    「1万円を1円1万枚に両替するのはやめて欲しいそうだ」

     いきなりフラれてしまった男の気持ちが、あなたにはわかるだろうか。
     俺は、今そんな心境です。
     会いに行っても、本人や両親、兄弟にいいたるまで果敢なブロックに遭い。
     携帯電話にいたっては、フラれた翌日にはとっくに番号まで変わっていた。
     そんな俺にとって俺の気持ちを伝える唯一の手段、それは郵便だった。
     こうして、俺の愛の手紙は始まったのだ。

    「今日はいい天気だね。君がいないと俺の心は雨模様だ」
    「今日は少し寒いね。君と言う暖房の無い俺の心は氷点下だ」
    「昨日、車の掃除をしていたら以前君が無くしたイヤリングの片方が見つかったので、一緒に送ります」
    「写真を燃やそうとしましたが、箱根にドライブに行ったあの時の写真だけは捨てられない」
    「新しい恋をすればいいのでしょうが、まだまだそのときじゃないです。そんなことできません」
    「君は新しい恋をしているのでしょうか。だとしたら、俺に教えてください。俺も困るから」
    「俺の恋は君へしか向けていません。君がやめろと言っても、きっと変わることは無いでしょう」

     とまあ、こんな感じで毎日手紙を出し続けていた。
     そんな日々が、もう2ヶ月ほどたっただろうか。
     相変わらずリアクションの無い彼女。
     痺れを切らした俺は、彼女の家を訪ねた。

     彼女の家に行くと、彼女の父親が俺を見るなり殴りかかってくる。
    「貴様、うちの娘を!」
    「な、なんですか!いきなり!」
    「2日前から娘がいないんだ!きっと貴様が…」
    「知りませんよ!」
     そんなやり取りの中、俺の手紙を届けに郵便局員がやってくる。
    「すみません、郵便です」
    「それどころじゃないんだ!娘が行方不明なんだ!」
     郵便局員は笑いながら話した。

    「いやあ、いつもこの地区の担当していた男、そいつも2日前から行方不明でね。なんだか奇遇ですよね、ハハハハ」

    「なんで我々の言うことを理解しないのだ!」
    「だって、言い分がおかしいですよ。道徳的にも人間的にも疑いますよ」
    「何を言う。私たちはボランティアです!世の中のために自分の力を役立てようとしていることの、何が悪いのですか」
    「でも、そのために手段も選ばないんでしょ。それに、ボランティアなのに、お金の話をなんでするんです。ボランティアってのは善意の行動でしょう?」
    「何を言う。私たちの活動はボランティアですよ。この世が良くなるために、手段とかお金とか、そんなちっぽけなことは議論に値しないのですよ。あなたは偽善者です」
    「・・・ちなみに、あなたたちがお互いに似たようなサングラスをかけて、私を取り囲んでいる、それってなんのボランティアなんですか?」
    「お金に困ってる組長、いやご老人の生活費を何とかしてあげるボランティアですね。死にたくなかったら、さっさと財布出しなさい」

    「こいつ!こいつ!」
     俺は懸命に前田を呪った。
     数え上げたらきりがないのだが、前田が俺にしてきたこと・・・ねたみ、告げ口、顧客のぶんどり・・・とにかく、俺の仕事、いや人生のすべてに対して、アイツは俺にとって恨むべき、そして呪うべき存在なのだ。
     直接、前田に文句の1つでも言えばいいじゃないかと言うかもしれない。だけど文句を言えば問題が解決するわけではない。問題が解決しても、俺の恨みは消えることはない。
    「死ね!死ね!」
     俺は頭の中にもやもやした恨みを吹きはらすように、金槌を強く握りしめ、そしてわら人形に向かって何度も振り下ろした。

     それにしても、なかなか効果がないな。
     昔からの言われどおり、前田の頭髪を織り込んだわら人形を、毎日決まった時間に、家の裏山にある小さな神社に置いて、精一杯の恨みを込めて痛打しているのに。
     まあいい。今日はこれくらいにしておこう・・・最近帰りが遅いなと、妻が気にしていたからな。

     俺は神社の参道を足早に降りた。
     降りきって住宅街の道路に降りたとき、妻に出くわした。
    「おい、お前」
    「あ、あなた、お帰りなさい。どうしたの、神社から?」
    「ああ、なんでもないよ、なんでも・・・それにしても、おまえこそ、そんなサンダル履きで、どうしたの?」
    「ううん、なんでもないの・・・あなたが帰ってきそうだったっから・・・迎えに来ただけ、そう、迎えに来ただけ」
    「そうなの・・・ありがとう」
    「どういたしまして」
     俺たちは何気ない夫婦の会話をとりあえず済ませ、家路に向かって歩き始めた。

     だけど、俺は想像もしなかった。
     妻の手から下げられた袋の中に、小さなわら人形が隠れていることなど。

     保健の教師は言った。
    「これは義務でもあり、マナーなのです」
     銀色の包装紙に包まれたコンドームは、教室内の女子生徒に配布され、付ける勇気を持つように叱咤された。
    「今さらこんな事言わなくてもねぇ」
    「そうそう。このクラスの中で、何人済ませてることか」
     そんな小声が聞こえる中、窓際で済ませた経験をなんのはずかしさもなく語っている女子高生の姿を、私は半ば呆然と見つめていた。

     守るべき物って、あると思う。
     捧げたい人に、捧げられるときって、来ると思う。
     それを待ちわびて、暮らしていくのもいいと思う。
     焦ってさ、大人になろうとしなくていいじゃん。
     
     セックスしたから、大人じゃないんだ。
     変なプライドが身に付くだけだよ。
     そんなプライド、さっさと捨てなよ。
     大人になるってのは、そんなたやすい事じゃないんだ。

     あんたたちの根拠はなんだい。
     セックスしたら、大人になるって言う根拠は。
     それが事実なら、私はもう大人だよ。
     だけど、あんたたちに大人ぶって説教なんて出来ないよ。

     なんでかって?
     10年前、先輩とセックスして身ごもって。
     子供を産みたいと思ったけど、それが出来なかったの。
     それでも私は先輩の子供を産み育てたかったの。

     それが出来るのは、天国しかないってわかったから。
     だから私はこの世にいないの。
     そこまで出来るなら、プライド持ってるねって言いたい。
     だけど、私の声は、あんたたちには、聞こえないんだ。
     残念だけど。

     警官は、いつもより気だるそうに事故調書を書き始めようとしていた。
     あくびをしながら、事故の当事者である男に問いかける。

    「あの女子高生、無事だってさ」
    「そうですか」
    「で、君がさっき言ってたこと・・・あの子が車に向かって飛び込んできた、これ間違いないよね?」
    「間違いないと断言はできませんよ」
    「そこで間違いないって言っておけば済むんだよ、まったく・・・自殺しようとして、通りかかった車に飛び込んだ、その車の運転手が偶然君だったわけだよ。それで君は罪に問われることもない、それで大団円じゃないか」
    「それがね・・・自殺なのかどうか、その部分が引っかかるんですよ」
    「何、それ」
    「いやね警察さん、本当にあの子は、自殺したくてこの車に飛び込んだのかなってことですよ。そこが腑に落ちないだけです」

     警官は生返事で答えた。
    「そりゃそうでしょう。誰が好きこのんで、道路を走ってくる車に飛び込むかね」

     男は反論した。
    「ですけどね、本当に彼女が死ぬ気だったなら、救急車に飛び込んだりはしないでしょう!」
     白衣を脱ぎさりながら、救急隊員は自虐的に笑った。

     閻魔大王は目の前の男を凝視した。
    「大王様、ヤツはセイジカです」
    「セイジカ? 人間界で悪名高い、あの”政治家”か」
    「左様にございます。この男は、日本という国で総理大臣という、政治家のトップにいたのですが、あらゆる嘘をついて保身を図った結果、暗殺されてしまったのです」
    「ほう・・・そりゃあ、地獄行き決定だわな」

     政治家は懇願した。
     既に報いを受けているではないか、地獄行きはご容赦を、と。
     土下座を続ける政治家に、閻魔大王は言い放った。

    「だが、罪は罪だ。舌を抜いて、地獄に貶めてやろう」

     ご勘弁を!
     政治家の悲痛な叫び声がこだまする。
     子分に抱えられ、身動きの取れない政治家の口に手を突っ込んだ閻魔大王は、もう片方の手で政治家の舌を引っこ抜いた。
    「もうこれで言い訳はできまい」
     閻魔大王は、引っこ抜いた舌を眺めながら、政治家を見下した。



     地獄行きだけは、ご勘弁を!
     これ以上、苦しい思いはしたくありません!



     目の前の政治家は、閻魔大王に聞こえるように、先ほどよりさらに悲痛な表情で懇願した。
     閻魔大王は何が起こったのかわからなかった。舌を抜いたはずなのに、と自問自答していた。



    「大王様、政治家という生きものは、二枚舌なのです」
     子分が閻魔大王の耳元で、そっとささやいた。

    ご相談に乗りましょう。
    ええ、ここは悩み事相談所。みなさんの悩みを解決して差し上げる、それが私どもの仕事ですから…





    え?
    そうですね…
    解決して差し上げたいけど…無理かもしれないですね。
    努力はしますが、完璧なお答えになりません…多分。





    それでは、まず考えましょうか。
    「あなたの悩み事相談所にお客がこない」悩みについて。





    もう、ある程度お察しになられていますよね…

     部長。なんですか。
     いきなり呼びつけておいて。
     てっきり怒られるかと思いましたよ。

    「いやぁ、君のことは私なりに気にかけているつもりでね・・・これをあげよう」

     なんですか、このワカメ。
     明日からしばらくみそ汁はワカメ限定にしろと?

    「取引先が福井県にあってね。わざわざ送ってもらったんだ」

     はい・・・ありがとうございます。
     そうだ部長、話は変わるんですけど、今年の冬の親睦旅行、僕が幹事なんですよ。
     もし行きたい場所とかあれば、教えて欲しいんですけど。

    「そうだなぁ・・・三方五湖、原発見学、カニづくし・・・」

     あのぉ、部長。
     どうして福井県ばっかりに、こだわってるんですか?

    「何を言うんだ。君のためにこだわってるんだ」

     はぁ・・・
     僕が何か、福井県から得るものでもあるんでしょうか。

    「そうなんだ。君には若狭が足りないんだよ・・・」

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    ▼ プロフィール
    HN:
    たそがれイリー
    年齢:
    48
    性別:
    男性
    誕生日:
    1975/07/16
    ▼ 最新TB
    ▼ 最新CM
    [04/29 hikaku]
    [03/13 ごま]
    [10/16 melodies]
    [09/18 sirube]
    [09/16 よう子]
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