金融翻訳者の日記/A Translator's Ledger

自営業者として独立して十数年の翻訳者が綴る日々の活動記録と雑感。

『通訳翻訳ジャーナル2024年SUMMER』に寄稿しました。

『通訳翻訳ジャーナル』2024年夏号の特集「金融&IT分野の通訳・翻訳」で、「金融翻訳者になるための方法&ステップアップ法」という記事を掲載していただきました。日頃のブログやツイッターで書いたものをまとめたものです。

『通訳翻訳ジャーナル』編集部の皆様には、先月のウェビナーに引き続き大変お世話になりました。

関心のある方は是非!

tsuhon.jp

生成AI(ChatGPT-4oなど)は、書籍編集者にとってかなりの戦力になるかも(想定問答の相手として)?(2024年5月14日)

ChatGPT-4oが出て、これは翻訳書や参考書の編集者の皆さんには強力な武器になるのではないかと思った。

翻訳書の編集者の重要な仕事の一つが校閲であろうが、「翻訳チェック」の義務はない。翻訳は翻訳者の仕事だからだ。とはいえどうしても翻訳を確認する必要が出てくる可能性は高い。そうした時に「明らかに誤訳を思われる箇所」をピックアップさせることで編集者の負荷がかなり減る可能性がある。

同じことは学習参考書や研究書(あるいは、場合によったら研究論文)の編集者にも言えるかもしれない。これは私の推測だが、少なくとも数年前までは、参考書の編集者が、そこで論じられている知識や理論の妥当性をいちいちチェックすることはなかったのではないか?英文解釈本であればすべて訳したり、数学の問題集をすべて解く編集者などいたのだろうか?

ChatGPT-4oの登場で、それがかなりの程度できるようになったのかもしれない。

あるいは、普通の書籍でも、「著者の主張に穴がないか?」などの「想定問答」を設定して内容を精査できるような気がする。

参考書の解説に関する生成AIとのやり取り例

中原道義著『新英文読解法』(金子書房)p249の原文と訳文についてChatGPT4oに次のような質問を行った。

プロンプト1:
It could well be that the relative emphasis placed on trying and on suceeding in hildhood has fa-eaching consequences for the inclination, in latr lie, to engage in activities without prospect of eimmediate pay-off. の語彙と文法構造をわかりやすく説明し、高校生にもわかる程度の日本語で翻訳せよ。

Chat-GPT-4o(1)

語彙と文法構造の説明
1. It could well be that:
「それは~かもしれない」という意味で、可能性を示す表現。
例: "It could well be that he is right."(彼が正しいかもしれない)

2. the relative emphasis:
relative: 相対的な
emphasis: 強調
「相対的な強調」という意味。

3. placed on trying and on succeeding:
placed on: 「~に置かれる」
trying: 試みること
succeeding: 成功すること
「試みることと成功することに置かれた」という意味。

4. in childhood:
「子供の頃に」

5. has far-reaching consequences:
has: 「持つ」
far-reaching: 遠くまで影響を及ぼす
consequences: 結果
「遠くまで影響を及ぼす結果を持つ」

6.for the inclination:
for: 「~に対して」
inclination: 傾向、意向
「~の傾向に対して」

7. in later life:
「後の人生で」

8. to engage in activities:
engage in: 「~に従事する」
activities: 活動
「活動に従事する」

9. without prospect of immediate pay-off:
without: 「~なしで」
prospect: 見込み、期待
immediate: 即時の
pay-off: 見返り
「即時の見返りの見込みなしで」

高校生にもわかる日本語訳
「子供の頃に試みることや成功することに相対的な強調が置かれることが、後の人生で即時の見返りがない活動に従事する傾向に遠くまで影響を及ぼすことになるかもしれない。」

もう少し簡単な日本語訳
「子供の頃に挑戦や成功が強調されることは、大人になってからすぐに結果が出ない活動に取り組む傾向に大きな影響を与えるかもしれない。」

 

プロンプト2:
「相対的な強調が置かれる」「遠くまで影響を及ぼす」わかりにくい。

Chat-GPT-4o(2)

わかりました。より分かりやすい表現に修正します。

(1~2までは同じ)

3.the relative emphasis:
relative: 比較的、相対的
emphasis: 強調
「比較的強調」という意味。

(4は同じ)

5.has far-reaching consequences:
has: 「持つ」
far-reaching: 広範囲にわたる
consequences: 結果
「広範囲にわたる影響を持つ」

高校生にもわかる日本語訳
「子供の頃に試みることや成功することが比較的強調されると、大人になってからすぐに結果が出ない活動に取り組む傾向に広い影響を与えるかもしれない。」

もう少し簡単な日本語訳
「子供の頃に挑戦や成功が重視されると、大人になってからすぐに結果が出ない活動にも取り組むようになるかもしれない。

 

プロンプト3:「子供の頃に試みることと成功することのどちらがどの程度重視されるかということは」ではないのか?
(この英文の引用元である『新英文読解法』p249)

Chat-GPT-4o(3)

確かに、「試みることと成功することがどの程度重視されるか」という点を明確にするのは重要です。以下は修正した説明と翻訳です。

2.the relative emphasis:
relative: 比較的、相対的
emphasis: 強調
「どちらがどの程度強調されるか」という意味。
(これ以外はすべて同じ)

高校生にもわかる日本語訳
「子供の頃に試みることと成功することのどちらがどの程度重視されるかということが、大人になってからすぐに結果が出ない活動に取り組む傾向に広範囲な影響を与えるかもしれない。」

もう少し簡単な日本語訳
「子供の頃に挑戦や成功がどれだけ重視されるかが、大人になってからすぐに結果が出ない活動にも取り組むようになるかもしれない。」

 

プロンプト4:君はなぜ「どちらがどの程度重視されるかということ」の方がよいのではないかという僕の提案に説得されたのか?

Chat-GPT-4o(4)
あなたの提案に説得された理由は、原文の意図をより正確に反映していると感じたからです。原文の "the relative emphasis placed on trying and on succeeding" は、試みることと成功することのどちらがどの程度重視されるかという相対的な強調を示しています。以下に、具体的な理由を示します。

原文の意図:
原文は「試みること(trying)」と「成功すること(succeeding)」の両方に対して相対的な強調を示している。
「相対的な強調(relative emphasis)」という表現は、二つの要素(ここでは試みることと成功すること)間の比較を意味している。
より明確な翻訳:

「どちらがどの程度重視されるかということ」という表現は、試みることと成功することの両方に対する重視の度合いを比較するというニュアンスを含んでいる。
これにより、読者に対して原文の意図がより明確に伝わる。(ここまで)

参考書では、そして生成AIの解答ではなぜこのような解説・解答になるのだ?という点を忘れずに、「自分なりに決着がつく(ほぼほぼな特できる)まで問い続けることが重要だと思う(生成AIが間違っていることもあるので、最終的には自己責任による判断ですが)。

以上ご参考まで。

 

同じレッスンを繰り返しつつ進む。

先月から、オンライン英会話で取り上げられる記事(500~600ワードぐらい)を2度ずつ取り組むようにしている。

現在は、たしか10ぐらいあるテーマ別に、数カ月に1度更新されるレッスン(20レッスンで一区切り)を毎回パラグラフごとに読み、先生からそのパラグラフの内容に関する質問を受け、その後テーマに沿ったディスカッションというのが基本パターンなんですが、わざわざ予習が要求されるほどの難しさではなく初見でわかる文章であることに加え、1つのトピックもそれほど長くないので、ずっと早ければ1回、長くても2回のレッスンで次のトピックに進んでいた。そうすると、何しろ毎日受けているので「進み過ぎちゃう」という問題(?)が生じたわけ。

そこで、1,2回先生とディスカッションしたものをもう一度(別の先生と)繰り返すことにしたら、これがなかなかいい。そうは言ってもなじみのない語句も出てくるので復習になるし、言い回しの勉強にもなる。なんといっても2度目には、同じ内容のパッセージに関するディスカッションなので自分の言い方も広がる感じがする。これは結構効くなと思っています。

テキストなんて進めばよいというものではないんだな、と実感しています。

記事検索の決め手は「著者」:紙の記事をウェブ版から検索する最速の方法(タイム誌での経験から)

著者名で検索して記事を追うのが最も速い。

他の雑誌や新聞がどうかは未確認だが、おそらくこの仮説は間違いない。ウェブ版のタイトルや記事本文は結構頻繁に変更されるが、著者名はよほどのことがない限り変わらないからだ。

ちなみに僕が定期購読している英語の紙メディアは『タイム』誌のみ。英『エコノミスト』誌は図書館で予約して3週間遅れぐらいのものを読んでいるが、こちらも(タイムほどではないが)ウェブ版の英語は紙版と違うと思う。傾向としてウェブ版の方が長い。紙版はスペースの制限があるので、それだけ表現が締まっているのかもしれない。随時変更・更新可能というウェブ版の特徴を考えれば他の新聞、雑誌も同じことが言えるのではないか。

意外と知られていないかもしれないので、念のためここに記す。

なお、いったん印刷された「紙」は変わらないので、新聞の場合は版さえ確認しておけば、その前後で報道内容が変わってきたかを追っていくのは一つの研究対象になるのかもしれない。

モーサテの「今朝の経済視点」が番組終了直前に移動していた件

テレビ東京のモーサテ(モーニングサテライト)で毎朝最も注目していた「今朝の経済視点」。ゲストがフリップに重要な言葉を手書きで書いて解説してくれる。台本があるのかないのかわからないけれども、その手作り感とライブ感、そして短いけれども深い洞察が勉強になるので、時間がない時でも見ていた枠だったのだが、4月以降なくなっちゃった(その代わり、「日経朝特急」の後にゲストの解説が入った)のは残念・・・とずっと思っていたら、今朝息子から「お父さん、あれ、なくなったんじゃなくて番組終了直前に移ったんだよ」と言われた。さっき録画で確認。

「こんなギリギリまで見てねぇだろう」と言ったら
「だれも録画で見てないと思うよ」。

「ビジネステレ東」(サブスクリプション)で分類された枠を見ているそうです。

ちなみに僕も息子のコバンザメ(家族枠)でみられるのですが、お昼休みに録画を見るという習慣が抜けなくて・・・

ご存知なくて録画だけの方がいらしたら、是非最後の3分にご注目。

「機械(あるいはAI)翻訳をめぐる前提条件のずれ(2024年5月11日現在)

4月14日のウェビナーの資料に次のように書いた(若干手直ししました)。

「考慮したい三つの区別(前提条件)
① AI(機械)が翻訳した出力と、機械の出力した翻訳を利用して人間が完成させた作品とを区別する。

② 外国語→母語の翻訳と母語→外国語の翻訳は分けて考える。

③ AI(機械)翻訳の利用にあたっては、「対話型」と「非対話型」を分けて考える」(ここまで:発表時間が短すぎて口頭では触れませんでした)

どうもSNS上では、この3つがごっちゃになって対話がかみ合わないなあと思うことが(他人の書き込みを見ていても)多いような気がする。昨日、翻訳仲間での少人数のチャットで、「いまだに機械翻訳が使えない、役に立たない」という発言を見かける、という話が出ました。あと1年もするとこういう誤解、というか議論の混乱は収束すると思うのですが現段階ではこんな感じ。

tbest.hatenablog.com