2016年8月17日水曜日

一冊で、いまの世界を大掴みに知ることができる『兵頭二十八の防衛白書2016』

◆タイトル:『兵頭二十八の防衛白書2016』

◆目次
●Ⅰ――ロシア編
●Ⅱ――中東編
●Ⅲ――アフリカ編
●Ⅳ――オセアニア・南シナ海・南西太平洋編
●Ⅴ――インド・パキスタン編
●Ⅵ――中共・台湾編
●Ⅶ――米国編
●Ⅷ――朝鮮半島編
●Ⅸ――日本編

兵頭二十八師の新刊『兵頭二十八の防衛白書2016』(草思社刊)を読みました。2014年から毎夏発刊されている同シリーズも今年で3冊目。どんな内容かといえば……って、同じようなことを3回書いても仕方ないですからね。シリーズの紹介については、以下のリンクを参考にしてください。

アメリカや中共のプロパーでも工作員でもない人の説く「2014年の東アジア情勢」を知ろう
第一章だけで一冊分以上の価値がある『兵頭二十八の防衛白書 2015』

さて、新刊の特徴は、目次を見ればわかる通り、「いま、最もホットな地域から順に紹介していること」にあります。普通、こういう類の本であれば、「初手は中国、次に米国と強く当たって、あとは流れでお願いします」みたいな感じのものが多いもの。実際、軍師もベストセラーである『こんなに弱い中国人民解放軍』を上梓してますしね。

が、今回は初手からロシア、次に中東、アフリカと、中国、朝鮮半島、米国と比べれば日本とは縁遠く感じる――ロシアは隣国ですが、少なくともこの半年くらいは、尖閣問題のように喫緊に感じる脅威を与えていないように見えます。他の先進国首脳がブッチしているなかで、首脳会談を開こうとしているくらいの関係ではありますし――地域から筆が進められています。

でもですねぇ、この順番って決して奇をてらっているわけではありません。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、読めば一発で「確かに、この順番しかねぇわ」と納得できるものになっています。というか、クリミア侵攻→シリア派兵で、いまのロシアがなんとなくアレな感じであるってことはわかってはいましたよ。でも、新刊を読むまでは、いまのロシアを巡る状況がここまで凄いことになっていたのか! ということは理解していませんでしたからね。

あと、11月に決まるアメリカの新大統領を巡る動きについて。といっても選挙の行方ではなくて、両候補のいずれかが大統領になった場合でも、日米関係が決定的に変わってしまう可能性について、仔細に論証している点も見逃せません。

軍師曰く、「トランプ氏は筋金入りの『反日』である。(中略)彼の反日感情は決して一時的な思いつきや集票戦術ではない。コアな信条になっているのだと端的に理解した方がよい」(274~275頁)というドナルド・トランプが大統領になったらどうなるのか? 

手前は、「いや、神輿は軽くてパーが良いっていうように、周りのスタッフにはイヤでも優秀なのがつくし、スターリンみたいな独裁者でもないんだから、対外政策は案外穏当に進むんじゃないの?」って思っていました。しかし、オバマ大統領の政策決定が、文字通り“君側の奸”によって歪められていたこと――新刊の中見出しでは、「イカれた大統領の側近たち――氷山の一角?」「有能アドバイザーと無能側近」「『スターリン』と呼ばれる、有力な大統領側近の情報操作」「NSCに素人大学院生ばかり集まるとどうなるか?」(261~265頁)――を知ると、軍師の警告には大いに耳を傾ける必要があると思ってしまうところです。

3冊目でもはや伝統になりつつある『兵頭二十八の防衛白書2016』。この手の本としては、客観的に見て内容&コストパフォーマンスが最高レベルに高いので、外交とか安全保障なんかが気になる人は、まずは手に取ってみるのが吉ですよ。

2016年7月31日日曜日

しばらく更新を休止します

5月に起こった件の影響です。何をやっても砂を噛むような気がしてしまい、仕事も通常運転となっていないのが現状です。気が滅入ることを書いてもしょうがないので、しばらく更新を休止します。

それにしても、ここまで尾を引くとは思いもしなかった。何事も経験してみなければわからないものだなぁ。

2016年6月4日土曜日

6月6日より通常営業の予定

本日、連絡がとれる状態へと復帰しました。
山積したメールを全て読み、返信を書いているところです。
ご依頼いただいていた仕事については、改めてメールでお送りいたします。
また、新たな仕事については、しばらくお引き受け出来ませんので、ご承知おきください。

都築有 拝

2016年5月21日土曜日

やんごとなき事情により、しばらく家を留守にします

6月までは電話、メールとも連絡がとれません。新たな仕事もお引き受け出来ません。
現在お引受けしている仕事については、メールにてご説明した通りです。
取り急ぎご連絡まで。

都築有 拝

2016年4月27日水曜日

タイトルに騙された!

・だってタイトルに「立志伝」って入っているんだもの。そりゃどうしたって『太閤立志伝』を思い浮かべるわけでね……って、何のことかといえば『信長の野望・創造 戦国立志伝』のことですよ。オープンワールドゲームのはしりとでもいうべき大傑作『太閤立志伝5』を期待して、9000円払ってみたら、遊べるのがブラウザゲーム――フルプライスで1200円くらいのやつ――レベルのRTSでしかないというね。まぁ、値段分遊ばなきゃ損だからと思って、里見家の宿老として天下統一しましたよ。ええ。でも、もう一回プレイしたいとは思わないなぁ。

・と、愚痴っているのは、今年に入ってから『Winingpost8 2016』(フルプライス)、『ブレイドストーム』(半額)とコーエーテクモのゲームを購入して後悔したにも関わらず、「ま、今月は還付金が振り込まれて懐がホカホカだし」と、発売日に購入してしまったからです。あわせて3本、2万1000円弱。これだけのお金を支払ったのに、得られた満足度は『デアデビル』(Daredevil)シーズン2を通し見したときより低かったんだから。文句の一つくらい言ってもいいでしょうよ。個々のゲームのダメな点については、敢えて言いませんよ。100%悪口にしかならないからね。それに言ったところで直るとも思えないし、よしんば直っても『Crusader Kings2』みたいに面白くなるとも思えないし。

・タイトルに騙されたといえば、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(Batman v Superman: Dawn of Justice)。いえね、手前は値段分くらい楽しんだんですよ。冒頭10分時点では、「ザック・スナイダーやるじゃんか。『マン・オブ・スティール』(Man of Steel)より遥かにイイじゃん!」と思ってたし。バットマン&バットモービルのアクションは、ティム・バートン以降のバットマン映画と比べても段違いに素晴らしいし。ベン・アフレックはベン・アフレック史上最も渋いし。ワンダーウーマンも心底良かったし。でも、お話しの進め方が……ね。残念ながら「アメコミ界二大巨頭の決斗」に対する尋常じゃない期待値の高さに、十分応えられるような作品じゃなかった。

・ヤングスーパーマンを通しで2回見て、昨今のDCコミック原作ドラマを全部フォローして、かつ、『キングダム・カム』と『バットマン:ダークナイト・リターンズ』を読み、『インジャスティス:神々の激突』をプレイしているような人(=手前)であれば、「いろいろダメなところはあるけど、面白かったよ!」というポジティブな感想を残せます。でも、↑以外の圧倒的大多数の観客は、鑑賞中「何このキャラ?」「どーしてこーなるの?」というノイズにまみれるのだろうなぁ。

・映画といえば、今年ここまで見たなかでは『キャロル』(Carol)が最高だった。30歳なのに20歳にしか見えないルーニー・マーラもさることながら、ケイト・ブランシェットがハンパない。レディ・ゴダイバじゃないけど、あまりにも素晴らしすぎて目が潰れるかと思った。ホント、手前が思うにケイト・ブランシェットは、多分、演技のために悪魔に魂を売ってますよ。『ブルージャスミン』(Blue Jasmine)も凄かったけど、本作はそれを一周り上回る感じだもの(ギターのために悪魔に魂を売った例)。

・次点は鼻差で『クリード チャンプを継ぐ男』(Creed)。そこから3馬身差で『ボーダーライン』(Sicario)、『ルーム』(Room)かなぁ。

・最後に恐らくこの夏にDVDレンタルが解禁されるであろう『SUPERGIRL / スーパーガール』(Supergirl)について。1話が無料で見られるDVDってのがTSUTAYAでレンタルされていたので、早速借りて視聴しました。感想は「メリッサ・ブノワかわええ!」 続きが気になったので違法動画サイトで見てみたのだけど……。何とも物足りない。そんな感想を抱いてしまうのも、あまりにも出来が良くて面白かった『THE FLASH / フラッシュ』(The Flash)を見て以降、ヒーローモノの連続ドラマに対するハードルがグンと上がってしまったからなのだろうね。



2016年3月26日土曜日

現時点で世界一おもしろいドラマ『ハウス・オブ・カード』

2月半ば3月半ばにかけて、海外ドラマを中心に大幅なコンテンツのテコ入れを行ったHuluとNetflix。『ゲーム・オブ・スローンズ』(S1~S3)を筆頭に、『ソプラノズ』(Full)『シックスフィート・アンダー』(S1~S3)『スキャンダル』(S1~S2)『キャッスル』(S1~S4)ときて、しまいには『トゥルー・ディテクティブ』(S1)と『ドクター・フー』(S8)というキラーコンテンツをぶち込んできたHulu。一方、1月に『ジ・アメリカンズ』(S1~S2)、2月に『ベター・コール・ソウル』(S2)、そして3月4日に最強のキラーコンテンツ『ハウス・オブ・カード』(S1~S4)を投入し、『デアデビル』(S2)で追撃せんとするNetflix。

この1~2月までは、仕事以外のほとんどの時間を、この2つの動画配信サイトの視聴にあてていました。いやホント、見るドラマのどれもこれもが大当たりクラスの面白さなんで、一度見始めたら止められないのよ。3月になってからは、他に色々することがあったので、『ハウス・オブ・カード』を徹夜で見たこと以外、がっつりハマってはいませんが、これもまぁ、『トゥルー・ディテクティブ』と『ドクター・フー』の視聴を始めるまでのことでしょう。いや、手をつけたら、他のことに一切手がつかなくなることは目に見えているのでね。自主規制ですよ。自主規制。

というわけで、以下、この3カ月で見たドラマの短評。

・ハウス・オブ・カード 野望の階段(House of Cards。S3~S4):◎。現在、世界で最もおもしろいドラマシリーズ。S1も素晴らしかったけど、S2はその1.5倍素晴らしかった。S3はさらに1.5倍、S4はそれに加えて1.5倍素晴らしい。画作り、脚本、演出すべてが一流であることに加え、主演2人が超一流なので、そのクオリティは並みのハリウッド大作を軽く超える。実際、本作よりハッキリ上といえるのは、『ソーシャル・ネットワーク』とか『ウルフ・オブ・ウォールストリート』とかのレベルだからね。

ケヴィン・スペイシー、ロビン・ライトの2人の演技は、恐らくキャリア最高レベル。周りがテレビ俳優ということもあって、相対的に2人の存在感がとてつもなくデカいものになっている。で、この存在感のデカさが、ドラマ世界での怪物っぷりに繋がっていて、その行動の説得力を大いに高めている。つまるところ脚本の“飛躍”につきものの疑問――視聴者の予想を裏切るため、登場人物に突飛な行動をとらせるor風呂敷を畳ませる際、その理由をロジカルに説明できないケース――を、一切合財主演2人の演技と存在感で帳消しにしてしまえるので、常にハナシを「予想を裏切り、期待を裏切らない」という最高の展開にできるということ。だからこそ、特にクリフハンガーを使っていないにも関わらず、徹夜してまでシーズンを一気見させるだけのパワーがある。

・ジ・アメリカンズ(The Americans。S1~S2):◎。手前的には過去最高のスパイドラマ。冷戦、KGB、レトロなスパイグッズ、リアルな変装etcと、手前のツボをつくポイントが実に多く、個人的には『ブレイキング・バッド』よりも面白かった。

本作の良さは何よりもリアリティラインが異様に高いところ。その理由は、「冷戦下、アメリカに潜伏したソ連スパイのホームドラマ」であることにある。すなわち、スパイ活動という超現実的なドラマに、現実そのものである家庭を織り込み、かつ、80年代の“時代劇”としたことが勝因。現実的なドラマであるため、本作ではCoDのイージーモードみたいな銃撃やカーアクション、格闘はほとんどなくて、やっていることといえば、「ハニートラップと盗聴、そしてハニートラップ」という具合。でも、それを仮面とはいえ夫婦がそれぞれ徹底的にやる――S1Ep1では、奥さんがよがっている声を録音したテープを無言で聞く夫のシーンあり。つまり、夫婦それぞれが別の相手と寝て、情報を引き出し、共有しているということ――ものだから、おしどり夫婦を演じているうちに、イイ関係になってきたものの、明日は別の男と寝て、おお、もう……というヤキモキ感がね、実にイイ感じで表現されている。現時点で最も続きを見たいドラマ。

・キャッスル 〜ミステリー作家は事件がお好き(Castle。S1~S5):○(3カ月前なら◎)。思っていた以上にハマった。こういう男×女のバディモノの最近のオリジンは、『ボーンズ』だろうと思うけど、『ボーンズ』にはハマらなかったものの、コンセプトをパクった『メンタリスト』とコレにはズブズブにハマってしまった。やっぱり男が軽薄で、女が堅物というところが琴線に触れるのだろうか。正直、各話の構成はほとんど同じ(=必ず4回以上のどんでん返しがある)だったり、娘がどんどんかわいくなくなっていくといった難点はあるけど、それ以上にメインの2人が魅力的だからね。吹き替えでながら見をするには最適の作品。

・タイラント -独裁国家-(Tyrant。S1):○(3カ月前なら◎)。アラブ版ゴッドファーザー。という評価をよく聞くけど、正確には「アラブ版、ソニーが生き残っていたゴッドファーザー」というべき。つまりドン(国王)の亡き後、武闘派バカのソニー(長男。皇太子)が無事に生き残っていたら、コルレオーネファミリーの栄華は続いていたのか? そして、インテリながらも実は豪胆なマイケル(次男。亡命先のアメリカで小児科医に就く)はどう立ち回っていたのか? をドラマ化したような作品。現在の中東情勢とアメリカの願望――全ての国家を民主化したいという叶わぬ夢――をベースに、裏切りと策謀、殺人が渦巻くドロドロの群像劇で、見ごたえは十分。とりわけドラマで実際に仕掛けられる“二虎競食の計”の仕掛け方は、セリフから演技から本当に見事。このシーンだけでも一見の価値はある。

・スキャンダル 託された秘密(Scandal。S1~S3):△。シーズン2前半までなら、限りなく◎に近い○だったけど、以降の展開がなぁ。大統領が女々しすぎる! ってことを手始めにいいたいことはヤマほどあるけど、そういう突っ込みを前提としたとしか思えないようなドラマと思うので、これ以上書くのはヤメにする。ともあれ、Huluで上がっているシーズン1~2までは、「DVDレンタルの金を出すには惜しいけど、動画配信サイトで見る分にはオトク」な内容であるとは思う。

・マッドメン(Mad Men。S6):△。S5までの幾何級数的に面白くなる感じはゼロ。ストーリー展開自体は起伏に富んでいるものの、見終わった印象としては「S1以来の単調な展開」だった。今回のテーマは喪失。メインキャストの多くは、シーズン最終話までに何かを失う。ペギーは恋人を失い、ピートは妻と子供と取引先を失い、ロジャーは母と娘を失い、ドンは妻、愛人、子供、仕事と全てを失った。

こうやって失い、転落するハナシばかりなので、成り上がっていく展開が少なく、盛り上がりに欠ける。だから、S3最終話みたいに超盛り上がる神回はゼロ。加えて「プレゼンで凄いコピーを披露して取引先をKO」するシーンもゼロ。このプレゼンシーンは、「特撮番組の必殺技」くらいに必須かつ盛り上がるシーンなので、シーズンに一つは入れてもらいたかった。ホントね、レーザーブレードのテーマが鳴らない宇宙刑事ギャバンの何が面白いのかと。

・参考:【ニコニコ動画】宇宙刑事・レーザーブレードのテーマ3連発!!!

このほかに『ベター・コール・ソウル』、『シックスフィート・アンダー』、『デアデビル』は、それぞれep1のみ視聴。それぞれ最後まで見たいと思わせる素晴らしい内容だった。



2016年2月26日金曜日

四の五の言わず読むべし『「地政学」は殺傷力のある武器である』

◆タイトル:「地政学」は殺傷力のある武器である
◆目次
・第1章 栄えている者はなぜ栄えたかを知りたい!
・第2章 マハンとセオドア・ローズヴェルトという史上最強のタッグ
・第3章 マッキンダーの地政学は何を語ったか?
・第4章 戦争と石油の地政学
・第5章 シナ大陸の地政学――マッキンダーの空白を補完する
・第6章 ドイツの地政学徒たちは何を言ったか?
・第7章 スパイクマンは何と言ったか?
・第8章 日本防衛の地政学

兵頭二十八師の新刊『「地政学」は殺傷力のある武器である』(徳間書店)を読みました。結論からいえば、「兵頭ファンなら絶対読め」「(手前にとっては)『新訳 戦争論』以来の大傑作」です。いやぁ、本当に面白かった。実際、本を開いてからは、2回のトイレと『午後の紅茶(無糖)』と『バンホーテン・チョコレート』を口にする以外は、ほぼ身じろぎすらせず最後まで読みきりましたからね。

どれくらい面白かったのか? といえば……ここにきて超面白くなってきた『タイラント』(マジでクーデターはどうなるの?)の最新話とか、先週Huluで配信が始まって以来、ハマりにハマってシーズン5を全借りした『キャッスル』(ベケットのデレっぷりとキャッスルの太りっぷりがヤバイ)とか、Steamセールで買って以来、ちょくちょくやり続けている『Cities:Skyline』(どうしても格子状の都市しか作れない!)みたいな誘惑があるなかで、こうした誘惑に人一倍弱く、かつ小学校の通信簿に「集中力に欠ける面があります」と書かれた手前にして、脇目を振らず一心不乱に読んでしまうだけの面白さがあった……ってことです。

その内容は、地政学の学術的な解説というよりは、「地政学に事寄せた、兵頭二十八の世界史」といった体の“歴史読み物”に近いといえましょう。といっても、単純な“歴史読み物”でもないんですね。「一冊一テーマ」を厳密に守ってきた、ここ数年の軍師の著作とは違って、初期兵頭本のような「一冊に雑多な内容が混在する」タイプに近い本だったりします。実際、第2章、第3章、第6章、第7章は、「人物評伝から始まって、戦史を軸に地政学の成り立ちを解説する歴史読み物」。第4章は、「石油争奪戦としての第二次大戦読み物」。第5章は、「遊牧民と農耕民の対立と融合という視点から見たシナの歴史読み物」。第8章は、「『日本の海軍兵備再考』のハイパーグレードアップ版」――といった感じです。

で、それぞれが面白いことは言うまでもないことなんですが、それ以上に嬉しいのが、「かつて発表した全ての所論を、大幅にアップグレードしている」ことです。それこそ「地理が政治を規定する」という兵頭流軍学の基本原理から、『ヤーボー丼』で示された河川交通を巡る所論、石炭と石油を巡る世界戦略のハナシや、「大日本帝国はこうやっていればバッドエンドにならなかった」のifなど、デビュー以来提唱してきた様々な所論を、地政学及び気候変動というフィルターを通してアップグレードしています。

加えて、これらの論がこれ以上ないくらいわかりやすく書かれているわけですよ。以下、一つ例を挙げてみましょう。

――フィッシャーは海軍部内の古手の反対者を追放して、戦艦のエンジンを蒸気ピストンではなく蒸気タービンとし、熱源も逐次に煉炭から重油化することとし、また主砲の口径を12インチに揃えて、その多数の巨弾の雨が一斉に遠くの狭い海面に落下することで高確率に敵艦をヒットすることを狙うなど、斬新なコンセプト満載の『ドレッドノート』型を密かに設計させて、14か月の突貫工事で1906年に初号艦を進水させました。――(124頁)

手前は、これ以上見事に要約された弩級戦艦の説明を読んだことがありません。このほかにも、「暑いと帝国ができやすく、寒いと都市ができやすい」(94頁。中見出し)などは、コロンブスの卵の極みですからね。いやもちろん、この見方自体が斬新ってことはありませんよ。気候と歴史を巡る様々な本で論じられてきたテーマですし。でも、ここまでわかりやすくバシッとフレーズ化できるのは軍師だけなんですね。

他にも書きたいことはいっぱいあるんですが、正直、頭がフットーしそうだよおっって具合なので、まとまりのないハナシを延々と書くのは止めておくことにします。古参の兵頭ファンほど面白く読めること必定なので、ファンを自任するのであれば、四の五の言わずにポチってください。