3時間アトラクション

人間ドックを受けてきた。

健康診断の類はフリーランスなので全部自費なのだけど、健保の補助もあるし、なにより何か見つかるなら早いほうがいい。それが家族のためでもあるのだ…と強い決意でバリウムを飲んだのだった。

いま勢いでバリウムの話をしたけど、胃のX線検査はラストに用意されていた。採血、身長体重、心電図、超音波検査などもろもろこなしたあと、バリウムを飲んで身体をぐるぐる回される。まさにフィナーレにふさわしいアトラクションである。

すっかり体力を消耗し、バリウムを出すための下剤を飲み、人間ドックはおしまい。結果を医師から聞くことになっているのだが、それは3時間後なので、それまで外に出てまた来てくださいと言われる。はーい、と素直に従うものの、施設を出てふと気がついた。

下剤を飲んだ状態で3時間街をぶらつく……

  こんなスリリングなことがあるだろうか。いつなんどき下剤が発動するかわからない。どこかのお店でお茶を飲んでるときに発動しても、その店のトイレが空いている保証はない。まして歩いている最中とかどうなってしまうのか。

いつタイムリミットがくるのかわからない街ブラ。膨らみ続ける風船をパスしていって割れた人が負け、みたいなゲームを一人でやってるみたいなスリル。

ハラハラしながら、なにかと店舗が多かろう横浜駅方面に向かい、結論から言うと駅ビルでことなきを得た。危なかった。ここまでがフィナーレのアトラクションに含まれていたのかもしれない。

「ガニメデで待機後、金星にお越しください」

日本科学未来館に行ってきた。お台場は曇り、午後から雨。

行く前に息子と、「科学館といえばガラスの球の中でピンクの電気がビリビリしてて手を近づけるとビリビリ!ってなるやつあるよね」と科学館あるあるで盛り上がっていたが、あのピンクのビリビリはなかった。

なんというか、いわゆる「科学館」のイメージとはまた違う、「科学が未来に何をすることができるのか」という可能性と、「このままでは未来はどうなってしまうのか」という警鐘と、「未来は君たちに託されている」という子どもたちへのメッセージを端々に感じる展示たちだった。未来を真剣に考えている人がいることを心強く思う。

未来はモヤがかかっていて、その姿ははっきりとわからない。でも「わからなかったことがわかる」とき、ほんの一部だけそのモヤが晴れる。

晴れた部分が何の役に立つのか、すぐには分からないかもしれない。でも少しずつ晴れの部分が増えていけば、今やれるべきことがわかるだろう。それが科学の役割のひとつなのだろう。

日本科学未来館の7階には展望ラウンジがあり、お台場の景色がよく見えた。同じフロアにはカンファレンスルームがあって、会議室には惑星、控室には衛星の名前がついているのがカッコよかった。

「ガニメデで待機後、金星にお越しください」って言われてみたい。

スプーンを延ばす

スプーン曲げをする人は、スプーンの細い部分をこすりながら「柔らかくなってきました」と言う。

自分はスプーンを曲げたことがないから分からないけど、そういうものなのだろうな、と思う。金属をこすりながら強く念じる。やがてその部分は熱を帯び、柔らかくなって、思うままに形を変える。

…ということは、そこをグッ!っと押したら平べったくなるんじゃないだろうか。

金属には叩くと薄く広がる「展性」、引っ張ると細く伸びる「延性」という性質がある。あの細い部分を柔らかくして、グッ、グッって延ばしていけば、一回りでっかい薄いスプーンができたっていい。

なんならフォークの先端を柔らかくして、グッって押して平べったくしたら、フォークをスプーンにできるはずだ。

スプーン曲げのネクストステージだ。最初は薄く延びるだけで歓声があがっていたが、やがて細かい細工をほどこす能力者も現れる。スプーンは曲げる時代から、加工する時代へ。

そのうち「制作時間30時間」みたいな大作ができて、もう超能力じゃなくて金属加工の人として評価されたりする。それでヒルナンデスとかでる。

陸上選手になったらスタート前に「ゲッツ!」ってやってしまいそう

テレビで世界陸上をやっている。

100mとか200mの選手が走る前に、カメラが選手ひとりひとりを映す時間がある。わざわざ選手の正面までカメラが行って、何秒か映して、次の選手に行く。映されているあいだ、選手はガッツポーズしたり、カメラを指差したり、映っているのはわかってるけど俺は集中してるからみたいな顔して、それぞれアピールしている。

こういうの、陸上以外であまり見ない気がする。これから本番だというのに、よくアピールする余裕があるなぁ……と思う。だって絶対緊張するでしょう。それまでめっちゃ練習してきて、あんな晴れ舞台に出て、テレビでよその国の知らん人が見てる。そんな状況でアピールできるのも一流選手の証なのだろうか。

逆に自分だったらと思うと怖い。無表情で立っているのも気まずいし、かといって緊張しているのを他の選手に知られたくない。とはいえ「いえ〜い」ってふざけるのも怒られそう。変顔もダメだろう。うっかり「ゲッツ!」とかやってネットニュースになるのも困る。

順番も怖い。自分が8コースにいて、1コースから順々にカメラが回ってくる。あのパターンも、このパターンもみんなやられ尽くしたあとに自分の番が来る。これから走ることに集中したいのに、頭の中は「ゲッツはもうやられちゃったから……」みたいな迷いでいっぱい。なんとかやり過ごしても「やっぱりさっきの違ったな……」って反省しているうちにスタートに出遅れそう。

走る前から勝負は既に始まっている。もうだめだ。あとラヴィット!が1週間お休みなので寂しい。

忍者村の人かと思ったらメルヘン村の人

「忍者村」を運営する会社が、「メルヘン村」を運営する会社を買収したというニュースを見た。

www.asahi.com

佐賀県嬉野市の「佐賀元祖忍者村 肥前夢街道」を運営する株式会社「マール」(光岡勝社長)は13日、武雄市の「森の遊園地 武雄・嬉野メルヘン村」を運営する新肥前観光(竹内亮社長)の株式を7月1日までに100%取得して子会社にすると発表した。

もちろん中身は企業同士の経営のあれやこれやだけども、「忍者村がメルヘン村を買収」という文字だけ見ると、メルヘン村でキャッキャうふふしていたところに、ひっそりと忍びの者が手を回していた、みたいな絵がどうしても浮かんでしまう。ピンク色の世界に墨汁を一滴垂らしたような不穏さがある。

さらに記事にはこうある。

今回の買収後も営業は続ける。メルヘン村の竹内社長は退任し、忍者村の光岡社長が兼務する。メルヘン村の従業員が忍者村で働くなど行き来をして、コスト削減や人材確保につなげるという。

メルヘン村の従業員が忍者村で働くのだ。忍者村の人かと思ったら、その正体はメルヘン村の人なのである。これではどっちが忍者かわからない。

メルヘン村の村民たちの中には、今回の買収に忸怩たるものを感じている人もいるだろう。いずれ忍者村からメルヘン村を取り返そうと、ツインテールを揺らしながら拳を握っているかもしれない。

まずは忍者村の従業員として働き、リサーチを徹底する。人脈を作り、中枢部に食い込むなどして、弱みを探るフェーズがしばらく続くだろう。そこにはメルヘンなど欠片も無い。現実あるのみ。

なおメルヘン村には観覧車やコースターなどがあり、「リスやウサギなど動物と触れ合えるコーナーが人気」だそう。忍者村の資本が入ったら「観覧車から脱出できるようにしろ」「リスに文書を持たせ仲間に届けるコーナーはどうだ」とか提案されるのだろうか。

なんかそれはそれで興味はあるけれども。