Friday, March 22, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (10)

前回は遂に今日現在でもKiller Bに対する公式な規則としてSurviveしてる2011年最終規則に触れた。この時点でKiller Bサガの4分の3くらいはカバーした感じかも。今回のポスティングでKiller B特集はPokerに例えると「No more buy-in」で「Big blind is $1 million」みたいなFinal Phaseに突入する。Texas Hold’emを4人でプレーしてて、最初のプレーヤーがフラッシュ、次がフルハウス、その次がHigher Handのフルハウス、そして最後はストレートフラッシュ、とかハリウッドにしかあり得ない展開に近い迫力でKiller Bをフィニッシュさせたい。Killer Bは取引自体も対抗規則も共に高度に複雑な部類に属するんでなんだかんだ言って長編になってるけど、「We hope you have enjoyed the show」。ようやく「We're sorry but it's time to go」で「It’s getting very near the end…」だね。。

2014年Notice

Killer B規則最終化の2011年5月19日から僅か3年弱の2014年4月25日、IRSはNotice(「2014年Notice」)を公表し、またしても「子会社「S」が適格組織再編の一環で、P株式をS株式以外の資産を使って取得し、P株式をT株式またはTの資産取得対価とする取引で、PまたはSの少なくとも一社が外国法人のケース」に関して規則を策定するって宣言した。「え~、その取引って2006年Notice、2007年Notice、2008年規則案・暫定規則、2011年最終規則で取り締まるって言ってた取引そのもので規則は既に最終化されてるじゃん」って思ったかもしれないけど本当にその通り。最終規則まで出てんのにまた~?そうなんです。規則は2011年に最終化しては見たものの、納税者に出し抜かれて(?)規則を強化する必要が出てきたっていう展開。ここからKiller B物語のFinal Phaseが幕開ける。

難攻不落と思われた2011年最終規則だったけど…

2006年から5年の歳月を費やして最終化されたKiller B規則は大阪城級の難攻不落なものになってたはずだった。ちなみに難攻不落と言えば、一般には地味なイメージがあるかもしれないけど実は凄いのが小田原城。全国最長規模のお堀を駆使した城郭で他のお城に負けずに難攻不落。小田原って江戸の直ぐ西っていう戦略的ポジションに位置してるんで、もちろん江戸を西の敵から守るっていう重要機能を担ってたんだろうね。今日でも小田原散歩すると随所に当時の城郭の面影を見ることができる。復元だけど銅門とか迫力満点。お天気のいい日はわさび漬けとかまぼこだけ買って素通りしないように。

で、section 367(b)の西(?)を守ってたはずのKiller B城は米国MNCの城攻めに合って屈してしまった。ということは米国MNCって上杉謙信より強いってこと?

SがPからP株式を取得する際の現金みなし出資

またこの話し~?って思うよね。みなし分配された後に当現金がみなし出資で一旦Sに戻るのか戻らないのかは紆余曲折を経て2011年最終規則に至った点は以前のポスティングで触れた。この辺りのサガに関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9)」等を見て欲しい。簡単に変遷を復習しておくと、2006年の元祖NoticeではKiller B規則の神髄と言えるアプローチ、すなわち「外国法人が関与するTriangular Reorganizationの一環で、SがPからP株式を現金対価で取得する場合、現金対価の支払いは分配同様と取り扱います」っていうフレームワークが導入された。この2006年Notice段階ではみなし出資への言及はなかった。

2006年NoticeとS株式簿価

SからPへの現金移管が分配になるってことはSのE&Pの範囲でPは配当所得を認識する。E&Pを超えると最初にPのS株式簿価減額、次にS株式みなし譲渡益となる。2006年Notice時点では「みなし分配として取り扱われる場合、P株式はSにどうやって移管されたって取り扱われるんだろう?」って疑問は何となく残ってた。2006年NoticeのConstructとしては、みなし分配扱いは「PによるP株式のSへの移管」とは別取引って位置づけられてたんで、その場合、仮に会社法的にはPがT株主に合併等の買収対価として直接P株式を交付したとしても、少なくとも税務上はP株式はSの手にわたらないとTriangular Reorganizationにならないんで、PによるP株式のみなし現物出資になるのかな~程度に考えていた。これらの検討は単にP株式がどう移管されたってRecastするかっていう学術的な議論に留まらず、Recastの結果、取引にかかわる各資産の簿価がどのように変動するかっていう点も加味する必要がある。資産の簿価って将来のNOLだし、NOLは資産簿価の化石、って考えると双方の価値が理解し易い。NOLとの比較において簿価の有無や大小に比較的無頓着なケースを見ることがあるけど、これらの属性の価値は基本的に同じだ。結晶化(?)してるかどうかだけの違い。

2006年Notice風のアプローチに基づき、PのS株式に対する税務簿価を考えてみると、Sに潤沢なE&Pがある前提で、みなし分配をもってPのS株式簿価は減額されない。配当だからね。もしかしたら一部Sub Fに基づくPTEPがあり、簿価減額ポーションはあるかもしれないけど、Killer BはSのE&Pをsection 367(b)その他の障害物を潜り抜けて非課税で米国にRepatするのが主たる目的なんでSに潤沢なE&Pが存在してるって言う前提で考えておくべき。じゃなければわざわざこんなIntricateな取引に従事しないだろうからね。

じゃあ、Killer B規則のみなし分配後、PがP株式をSにみなし出資したってみなすとすると、Pの持つS株式簿価は例のゼロ簿価をどう考えるか次第なんで確固たるルールはないんだろうけど、おそらくゼロになるって考えられる。Section 1032とゼロ簿価の恐ろしい話は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (6)」でまあまあ深堀りしたつもりなんで興味があったらそちらも読んでみて欲しい。ゼロ簿価だとすると、みなし分配とS株式みなし株式出資の時点でPのS株式簿価は取引前後で変動が見られないことになる。

Triangular Reorganizationと株式簿価

Triangular Reorganizationの世界では、次にSがP株式を対価にT株式やT資産を取得し、要件を満たせば各々Triangular B型再編/(a)(2)(E)のReverse Triangular MergerでA型再編、(a)(2)(D)のForward Triangular MergerのA再編になるけど、その際にPが持つS株式簿価調整はKiller Bの規則ではなくて通常のTriangular Reorganizationに適用される一般的な簿価算定ルールが以前から存在する。

まず、Forward triangular mergerの場合、実際にはT資産は合併でSに移管されるけど、Pが持つS株式の簿価調整目的では、あたかも一旦Pが直接ReorganizationでT資産を受け取り、T負債を継承したとみなされる。その場合、Pが受け取るT資産の簿価はTの簿価をそのまま継承する。で、もちろん実際にはPはT資産なんか受け取ってないんで次にT資産および継承負債をSに移管したとみなす。となるとPが持つS株式簿価はT資産の簿価マイナスT負債のネット額になる。このネット額が従来からのS株式簿価に加算される。

Reverse Triangular Mergerのケースも再編後にPが持つT株式の簿価調整に関しては、Forward Triangular Mergerと同様にアプローチする。すなわち本当はSがTに合併するんだけど、T株式簿価算定目的ではあたかもTがSに合併したかのようにみなして上のForward Triangular Mergerのステップを踏襲して計算する。もともとPが所有していたS株式の簿価はT株式の一部となる。米国でM&Aかじったことあるみなさんはご存じの通り、Reverse Triangular Mergerを活用して株式買収する取引は結構多くのケースでsection 351の適格現物出資、または後述のB型再編にも同時適格になる。その場合は上述のReverse Triangular Mergerに適用されるS株式簿価調整、またはsection 351やB型再編だったら行われるであろう簿価調整のどちらか好きな方で簿価を算定してOKとされてる。Reverse Triangular Mergerが条件を満たせばSection 351になるっていうのは多くの読者の皆さんが感じるであろう印象よりずっとパワフルかつInnovativeな取引を可能にする。Horizontal Double Dummyとか。Section 351にも支配要件はあるけど、組織再編と異なりContinuity of Interestはないんで英語でいうところの「nifty」なプラニングが可能になる。

次にTriangular B型再編時のS株式簿価調整。Killer Bの「B」はB型再編のBなんでB型再編時の簿価調整を語ることなくKiller Bの話しを継続する訳にはいかない。Forward Triangular MergerとかのRecastと似てるけど、まずTriangular BではPがT株主から直接B型再編でT株式を取得したとみなす。で、もちろん実際にはT株式はTriangularでSが取得してるんで、次にPがみなし取得したT株式をSに移管したと取り扱われる。これを簿価調整の視点から見てみると、最初のPによるみなしT株式取得時にはPが持つT株式簿価は原則、T株主の簿価を引き継ぐ。次に来るPによるT株式のSへの移管時には、SはPが一瞬認識したT株式を引き継ぎ、PはSに移管するT株式簿価と同額S株式簿価を増額させる。

2007年NoticeとS株式簿価

続く2007年のNoticeで初めてみなし出資に言及がある。2007年NoticeはP株式をPからではなく第三者やPの株主から取得するパターンにもKiller B規則を適用するって強調し始めたんで、それをきっかけにみなし出資の考え方が導入される。この時点ではSがP株式をPそのものから取得する取引にはみなし出資は適用されず、P以外の者からP株式を取得する際に適用があるって規定されていた。これは、でないとどうやってP株式がSの手元に移管され、また譲渡人にどのように対価が渡ったかの整理が難しかったからだろうか。すなわち、一旦Killer B規則に基づきSがPに現金をみなし分配する。でもP以外からP株式を取得してる場合、SはPには1ドルも支払ってないんで、PはKiller B規則のみなし分配で受け取った金額をSに即みなし出資して、Sはそれを原資にP株式を取得したっていう姿を演出することができるってことなのかな~って無理やり納得したもんだ。このポジションは翌年の2008年暫定規則でもそのままだったと思う。

2011年最終規則とS株式簿価

2011年最終規則ではみなし出資はP株式をPから取得した場合にも適用があるって規定した。このケースも要は現金分配だけではP株式はSの手元に渡らないんで、Sに一旦現金を出資したかのように取り扱い、その後に別取引としてSがP株式を時価取得したかのように取り扱うんだね、ってストラクチャー的に納得感十分でスッキリした感じで終わっていた。その時点の気持ちよさは超カッコいいロックのリフを大きなボリュームでブラストする、みたいな快感。カッコいいリフってPurpleのBurnとかZeppelinのWhole Lotta Love、古くはThe BeatlesのI Feel Fineとかたくさんあるけど、Top 20リストを個人的に作成する際に複数(結構たくさん)リスト入りするのはVan Halenだろう。Van Halenは「Somebody Get Me a Doctor」とかカッコいいリフやソロが多すぎてどれも甲乙つけ難いけど、敢えてここで一曲取り上げるとすると「Unchained」かな。Sus 4を多用したクラシックなリフだけど、今聴いても凄すぎ。開放弦E低音のフランジャー効果とかカッコよすぎ。Eddie Van HalenはギターTuningする際に全ての弦を半音下げてるんで絶対音感を持っているとEフラットに聞こえるのはそのため。Jimi Hendrixも同じことしてたよね。Bendingが派手かつ容易ってメリットはあるけど個人的には弦がベロベロするんで一長一短だな~って感じてて、Van HalenやHendrixコピーするときだけ半音下げてた。それにしてもEddie Van Halenってテクニカリティー的にも凄まじいVirtuosoだけどプラス抜群なセンスの良さが加わって向かうところ未だに敵なし。

Van Halenってデビューアルバムが出た直後に厚生年金会館、セカンドアルバムが出た後に武道館にライブ見に行ったけどEddie Van Halenのギターソロ的には一回目はEruption時代、2回目はSpanish Fly時代だった。ちなみに和文タイトルの件は前回のポスティングでも話題にしたけど、Van Halenのケースも当時のご多分に漏れずデビューアルバムは米国ではシンプルに「Van Halen」なんだけど日本ではなぜか「炎の導火線」(笑)。Eruptionに至っては歌詞もないのに「暗躍の爆撃」。他にも「お前は最高」とかムードぶち壊しな和文タイトルが炸裂してて懐かしい。セカンドアルバムでもこのTraditionは継続してて米国ではまたしてもシンプルに「Van Halen II」なんだけど日本でのパワーアップは止まるところを知らず「伝説の爆撃機」(大笑)。爆撃機ってなに~?って感じだけどね。セカンドアルバムに収録されているD.O.A(Dead or Alive)の和文タイトルが「生か死か」ってなってたけど、これチョッと感じ出てなくてフ~ンて思うよね。D.O.Aは19世紀の米国西部でならず者を指名手配する際にDeadになってもいいから捕まえて下さいっていう意味で、間接的におたずね者を殺しても罪には問われないっていうニュアンスだからね。歌詞も「Wanted~」(指名手配)ってDave Lee Rothが叫んでるしね。

あんなにアメリカンでギターカッコいいロックバンドはVan Halenが最初で最後だろうね。その後しばらく日本には来なかったけど、ロサンゼルスって言っても正確にはIrvineだったけど、ボーカルがSammy Hagerになってから見に行ったことがある。Sammy Hagerも凄いけどやっぱりDave Lee Rothの下品さが恋しかった。Eddie Van Halenのギターは相変わらず良かったから個人的にはそれが全てだったけどね。

で、2011年最終規則でみなし出資が常に適用ってことになってストラクチャー的にはスッキリしたんだけど、S株式の簿価を考えるとチョッと不思議な結果になる。Van Halenで興奮してチョッと長くなってきたんでここからは次回。

Saturday, March 9, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9)

前回は2006年および2007年のNoticeを受けて、2008年に遂に初のオフィシャルKiller B対抗規定が暫定規則および規則案(内容は双方同一)として公表されたところまで漕ぎつけたんだけど、深夜0時を回ってMozartの誕生日となったところで打ち止めになった。0時を回る前はEddie Van Halenの誕生日だったね。

2011年最終規則

2008年の暫定規則は2011年に最終化され、暫定規則そのものは撤回されている。暫定規則はsection 1.367(b)-14Tだったんで最終規則はTemporaryの「T」が外れてただの「-14」になると思いきや番号が代わりSection 1.367(b)-10に生まれ変わった。Killer B特集をトリガーすることになった2023年の規則案は未だ案なんで、この2011年最終規則は今日時点でもKiller B対抗策のオフィシャルバージョンだ。

Section 367(a) v Killer B規則の優先順位

2011年最終規則は原則2008年暫定規則の内容を踏襲しながら、いくつか注目に値する微調整が施されていた。

2008年の暫定規則にはKiller B規則の対象となる取引がSection 367(a)にも同時に抵触する場合の優先順位にかかわる規則が盛り込まれていた。いわゆる「Priority規定」だ。Section 367(a)に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (2)」で比較的詳細に触れてるんで興味があったらぜひ読んでみて欲しい。CFC課税が導入される30年も前の1932年に導入された米国人がSub Cの非課税規定を利用して資産を外国法人にアウトバウンド移管すると、含み益を課税するっていう趣旨の規定。課税は資産移管先の外国法人を非課税規定適用目的で法人とはみなさないっていう一見まわりくどい方法で譲渡益をトリガーする規則で、その基本的なアプローチは90年以上経った現在も変わらない。

どんなケースでKiller B規則とSection 367(a)が共存し得るかっていうと、例えばSがP株式を現金対価で取得して当P株式を対価にターゲット法人Tの株式を取得するとTriangularのB Reorganizationになる。その際、P、S、Tが全て外国法人でTの旧来株主が米国法人だとすると、取引全体はReorganizationだけどSection 367(a)でT株主はT株式の含み益に課税が生じる。正確に言うと課税は生じるけどTが外国法人なのでGain Recognition Agreement(「GRA」)をIRSと締結して、譲渡から5年以内にトリガーイベントがなければ実際に税金を支払うことにはならないはず。これはT株式を「Indirect transfer」したっていう特別な扱いになるんだけど、367(a)のIndirect transfer規定を語りだすとポスティング2~3回は費やすことになるんで含み益が課税対象になるっていうsection 367(a)下の結論だけ触れておく。一般的に米国人株主が外国法人株式を譲渡する際にsection 367(a)に抵触すると、外国法人のE&Pに対する合算課税は大丈夫~?っていう観点が付きまとうんで常に(a)と(b)のオーバーラップ懸念にかかわる検証が必要で、そのためにコーディネート的な規則がある。Killer B課税はsection 367(b)の一派だけど、2008年暫定規則のPriority規則では、section 367(a)で米国株主が認識する譲渡益が2008年暫定規則に基づきKiller B課税でみなし配当となる金額より低い場合、section 367(a)の課税はなく、Killer Bのみなし配当課税のみ適用があるとしていた。

実はこのPriority規定は呪われた夜と言え、2008年暫定規則から2011年最終規則で手が加えられたけど、2011年以降もKiller Bが絶えなかった理由の一つとなる。ちなみにイーグルスの「呪われた夜」って英語の原題は「One of These Nights」で、歌詞の内容的にこんな邦題を命名したっていうのは十分に理解できるんだけど、呪われた夜がリリースされた頃は僕たちまだ子供だったんで、友達と「One of these…」って英語で「呪われた」って意味だったんだね、とか話し合ってたInnocentな時代だった。最近はわかんないけど昔は結構なケースで英語の曲名に邦題が命名されてたよね。結構面白いのが多い。ビートルズのディラン風John Lennonの曲「You've Got to Hide Your Love Away」が「悲しみはぶっとばせ」(笑)だったり、Jimi Hendrixの名盤Bold As Loveに収録されてた「Ain’t No Telling」が完全に誤訳で「みんなおしゃべり」とか(正しくは「そんなことは分からない」的な意味のThere is no tellingの口語なんでさすがに後年この邦題は消滅)。

Priority規定は何と何を比較?

で、2008年暫定規則下のPriority規定はsection 367(a)にかかわる例外規定の適用は無視して米国株主がsection 367(a)下で認識するであろう譲渡益とKiller B規則に基づきみなし配当となる金額を単純に比較するものだった。すなわち、所得そのものを比較するんで、その結果生じる米国法人税の大小が比較される訳ではない。例えば、米国外法人Pの米国子会社Sが米国法人TをP株式を対価に買収する際、SがP株式をPから現金対価で取得するとKiller B規則で取得対価は分配となる。分配はE&Pの範囲で配当になって米国内法では30%源泉税対象だけど条約の適用が可能だと5%とか0%に減免される。したがって所得額ではなく最終的な税額で比較すると結果が逆転するケースもあるけど大丈夫?っていう問題が2008年から2011年の間に浮き彫りになりつつあった。

とは言え、最終的な米国税負担額を使うことになると、条約だけの影響に留まらず、P、S、Tという全ての登場人物の税務属性、例えばE&Pはいくらあるの~?とかを総合的に加味して考える必要が生じて実務面での運用が難しいという現実に直面する。そこで2011年最終規則では、原則、2008年暫定規則通りに所得額で比較するアプローチは温存しつつ、2つのタイプの取引はKiller B規則適用除外とする、という対応策を盛り込んだ。除外取引の一つ目はPとSが双方ともに外国法人でCFCではないケース。2つ目はPが外国法人でSが米国法人のケースだけど、PがSから受け取る配当はECIでなく源泉税が条約で免税になり、S株式がUSRPIでないケース。要は双方ともにSがPからP株式を取得する際の現金対価をKiller B規則で配当にしたところで米国で課税はない取引だ。これらのケースでTriangular Reorganizationに関してsection 367(a)の適用がある場合にはKiller B課税ではなくsection 367(a)に軍配が上がるということになる。

まあ、Killer Bって主に米国企業がCFCから米国側の課税なしでE&PをRepatする際のプラニングとして検討されてたと思うんで、2011年最終規則に設けられた2つの例外の適用対象となるKiller Bが実際にどれだけ存在したかは興味深いところ。

PのSecurities

2008年暫定規則やその前身のNoticeでは、Killer B規則はSが現金等の対価で「P株式」を取得する取引が適用対象だったけど、2011年最終規則ではこれを「P債券(Securities)」の取得にも適用を拡大してる。T株式、Securities、資産をTriangular Reorganizationで取得する際、対価にP株式に加えてSecuritiesを使用するケースがある。対価がSecuritiesだけだと通常は持分継続に問題があるって考えられるんでSecuritiesは株式に加えて使用される。株式適格組織再編やスピンオフ時に使用されるSecuritiesは7年等の長期債券で、T債権者と交換されないといけない。債権者は株式またはSecuritiesを適格対価として受け取ることが認められる一方、T株主はSecuritiesと株式を交換しても適格対価にはならない。適格ではない対価を組織再編を語る際には「Other property」って呼ぶんだけど、これは俗に言うBootのこと。また買収時にOutstandingだったT債券の元本を超える額のSecuritiesはBootと取り扱われる。OIDの場合、ここで言う元本が組織再編時の「Adjusted Issue Price」なのか、単純に「額面」なのかっていう結構ベーシックな適用に関して未だに明確なルールがなかったりして不思議。

で、2011年最終規則ではPのSecuritiesがT株主またはT債権者にとってBootになる範囲で、SによるPのSecurities取得をKiller B規則の対象にするって規定している。P株式はBootになるかならないかにかかわらずKiller B規則の対象だ。

PのSecuritiesがKiller B規則の対象になったんで、Priority規定にもその点が反映され、T株主およびT債権者がsection 367(a)下でsection 367(a)例外規定の適用を無視したら認識したであろう譲渡益が、Pが認識するKiller B規則下のみなし配当に加えてE&Pの金額および簿価を超えて認識されるみなし譲渡益の合計、より低い場合にはsection 367(a)の適用は停止される。逆に前者の金額をsection 367(a)の例外規定込みで算定し、そっちの金額が後者より高い場合には、Killer B規則の適用が停止され、section 367(a)のみ適用されることになる。Section 367(a)例外規定の適用有無が双方のテストで異なったりしてPriority規定も複雑。

SがPからP株式を取得する際のみなし出資

2008年暫定規則では、Killer B規則に基づくみなし分配後のみなし出資はSが「P以外」の者からP株式を取得するケースのみに認定されると規定されてた。これは個人的にはチョッと釈然としてなくて、もともと2007年のNoticeで初めてみなし出資に言及があった際には、P株式は実際にはSに移管されてるんで、SのPに対する現金分配っていうKiller B規則のRecastだけではP株式はSに移管された取り扱いにならないんで、SがPからP株式を取得した場合も、第三者からの取得同様、みなし出資が認定され、その後形式通りにP株式取得があったって取り扱うのが当然だろうって考えてたんだけど(「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (7)」)、2008年暫定規則ではそうなってなかったんで「う~ん、ということは普通にPからP株式を取得するKiller Bの場合は分配があったきり?」って不思議だった。つまり、じゃあP株式はどうやってSの手に移管されるんだろうね?っていう単純な疑問だ。2008年暫定規則は第三者からの取得のケースのみにみなし出資が認定されるって明言されてたんで、SがPからP株式を取得する場合、P株式譲渡にしても分配にしてもSから受け取る現金等の対価は実際にPの手元に残ってるんで、P株式の取得は実際に起こるとした上で対価の現金受け取り部分だけに分配同様の効果を持たせるってことなんでしょうか?とか「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (8)」で触れた通りモヤモヤした気持ちで3年間を過ごした。

2011年最終規則ではこの点に修正があり、SがPから直接P株式やSecuritiesを取得する際もみなし分配後にみなし出資があったって取り扱うって規定された。これで超スッキリ。

2011年最終規則その後のKiller Bサガ

ここまで完璧にKiller Bを封じこめたかに見えた2011年最終規則。それでストーリーが終わってたら、今回のKiller Bシリーズのポスティングはなかっただろう。2011年後、予想に反してKiller Bはさらに進化し、2014年のNotice、それを受けて変身を続けたKiller Bに対して2016年には更新Notice、そして遂に2023年10月には新規則案公表に至っている。2016年から7年間待ち焦がれてた規則案の思わぬタイミングでの公表に興奮して、まるでローマ帝国の歴史を紐解くかのように長編に着手っていう展開になってるのでした。ポスティングを読んでもらえればテクニカル面で魅せられざる得ないであろう点、IRSと納税者間の息を呑む知恵比べ、の両面から興奮せざるを得ない点は十分に分かってもらえるだろう。

ということで次回からKiller B物語はいよいよFinal Phase。Pokerだったら「No more buy-in」で「Big blind is $1 million」みたいなPhaseに突入だ。

Friday, January 26, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (8)

前回は新年早々、Killer Bに網を掛ける目的で公表された2006年と2007年のIRS Noticeに触れた。2006年NoticeでIRSが策定予定の規則内容が明らかにされたけど、それはKiller B最初のステップとなるSによるP株式取得対価としてSが支払う現金を、取得対価ではなくDistribution(SのE&Pの範囲で配当所得)とするというもの。当時はまだ2017年のTCJA以前の世界だから多くのE&Pは米国では未だに課税されてない「Pure」なE&Pだったし、増してや外国源泉配当にかかわる100%DRD制度なんてなかったから、Distribution扱いされるとPは配当所得を認識することになる。「SにE&Pがなかったらラッキーだね」って思うかもしれないけど、そんなんだったらKiller BみたいなIntricateというか入り組んだストラクチャーを使わないでも、単純にSがPにDistributionしてもPが持つS株式の簿価の範囲で課税はない。また、当時、CFCからの受け取る配当所得には間接税額控除が認められてたけど、FTCで配当課税をオフセットできるんだったら単純に配当すればいい訳でKiller BはLow-Tax PoolのCFCの留保所得を米国に還流するのが狙いっていう基本を忘れてはいけない。Killer Bの「こころ」はSに多額のLow-Tax PoolのE&Pがあり、この埋蔵金をProhibitiveな米国課税を生じさせることなく合法的にPに持ち帰る点にあった。

で、2006年Noticeで「こんな規則にしますよ」って告知があり、2007年には前回触れた通り、2006年Noticeの補強Noticeが公表された。2006年NoticeでみなしDistribution案が披露されてたけど、それだけではP株式がSの手に渡らないんではって思われたんで、2007年NoticeではみなしDistributionの直後に同額をPがSに今度はみなし出資したって取り扱うっていう移転価格の二次調整みたいな取り扱いに言及されていた。みなし取引ってフィクションだから多くのフィクションが登場すると課税関係の検討が大変だよね。2006年NoticeでもみなしDistributionはSによるP株式取得とは「別取引」として認定するって言ってたんで一般には直後のみなし出資になるんだろうって解されてたけど、2007年Noticeでは実際にその点に触れてくれたように見えてて、「それはそうだよね」ってなったんだけど、結局その後の規則ではチョッと異なる表現だったんで、この点は後述する。

二次調整フィクション

移転価格の二次調整の話しがでたけど、99‐32とか、APAのRepatメカニズム、MAPのCompetent Authority Repatとか、実際の取引形態と異なる課税を強制する際にどうしても登場せざるを得ない必要悪というか複雑なメカニズム。

移転価格でPrimary Adjustmentがある場合、その相手方の米国税務上の取り扱いもPrimaryと整合性を持たせないといけない。Corelative Adjustmentだ。ただ、整合性を持たせてCorelative Adjustmentを強制したたところで取引の相手方が対象取引に関して米国で法人税申告義務のない外国法人、例えば日本親会社、の場合、二重課税救済策としては意味がない。米国側の税務調査でトリガーされるPrimaryとCorelative AdjustmentsはBilateralのAPAがない限り原則、米国税法の話しなんで、米国でPrimary Adjustmentがあったからと言って外国の税法上、もちろんだけどCorelative Adjustmentは認められない。それどころか米国とは関係なく税務調査が行われてたりすると逆方向のPrimary Adjustmentで課税されるリスクすらある。

そんな訳で米国税務調査でPrimary Adjustmentが生じると二重課税だから、MAPに助けを求める局面だ。いずれにしても米国の視点からはPrimaryとCorelative Adjustmentsを反映させる必要があり、それらは実際の取引価格に基づく課税所得とは異なる取引価格に基づくことになる。米国で課税所得増額のPrimary Adjustmentを受けたとすると、その額に関して相手方はマイナスのCorelative Adjustmentが入り、結果としてPrimary Adjustmentを受けた米国法人は本来認識するべき資産・留保所得と比較して、Primary Adjustmentの金額に関して実際の取引ベースに基づく低い額の資産・留保所得しか認識してないことになる。相手方の日本親会社は逆に米国税務上、本来認識するべき資産・留保所得と比較して、少なくとも米国の視点からはCorelative Adjustmentの金額に関して実際の取引ベースの過多な資産・留保所得を認識してしまっている。

ここの辻褄を合わせるため、米国子会社は日本親会社にみなしDistributionをしたと取り扱われる。Primary Adjustmentの方向が逆ならみなし出資だけど、米国の調査でPrimary Adjustmentがマイナスってケースは少ない。このみなしDistribution等をSecondary Adjustment(またはConforming Adjustmentと呼ばれることもある)って言う。米国移転価格税制上、このSecondary Adjustmentは強制。日米間のようにDistributionがE&Pに基づき配当になっても源泉税が免除されてれば実務的なダメージはないけど、いろんな国の租税条約を見ると配当源泉税はゼロ%とは限らないし、そもそも米国と租税条約がない国も少なくない。

例えば米国と租税条約がないシンガポール法人が米国子会社との取引に関して同様のPrimary Adjustmentが行われる場合、調整額は30%の源泉税対象になる。面白いことにSecondary Adjustmentは強制だけど、Secondary Adjustmentを帳消しにしようとして本当に資金を動かすっていう取引は原則認知されてない。え~、じゃあSecondary Adjustmentに30%源泉税払うのが嫌だからってPrimary Adjustmentと同額をシンガポール親会社から米国子会社に現金移管するとどうなっちゃうの?原則的な答えは単にそんなことしてもそれはSecondary Adjustmentとは別の取引として課税関係を考える必要が生じ、Secondary Adjustmentのみなし配当とは別に出資が行われたかのように取り扱われる。みなし出資を受けるっていうRecastの場合、Killer Bでさんざん触れたsection 1032や場合によってはsection 118で米国側にダウンサイドはないからフ~ンって感じだけど、みなし配当っていうSecondary Adjustmentを帳消しにできないのは痛い。

それはチョッと気の毒…ってことで、特別な選択が認められててPrimary Adjustmentが確定した時点で、Secondary Adjustment同額に関して米国子会社がA/R、方向によってはA/Pを設定し、90日以内に精算したり云々とメカニカルな条件を満たすとPrimary とCorelative Adjustmentsに準じた資金移管が調整の一環で認められる。で、この方法を使うとストレートなSecondary Adjustment後の資金移管と異なり、資金移管そのものに源泉税その他の課税関係は生じない。他にもOffsetとか手法が認められることもある。米国子会社に対する米国の移転価格調整そのもの、すなわちPrimary AdjustmentでトリガーされるCorelative、Secondary、Conforming等を総称して「Collateral Adjustments」とか表現するんで移転価格の調整を考える際にはどのAdjustmentの話ししてるのか、またその方向を良く考えないとね。特にCorelativeとCollateralは字面が似てるんで注意。

で、Killer Bに戻るけど、2007年NoticeではさらにSがP株式を既にP株式を所有しているP以外の者、例えばPublic Shareholderから取得する取引にも同様の取り扱いを適用する可能性がある点、さらに2006年Noticeに基づく取り扱いを迂回するため、E&Pが少額の主体を形式的にSとしてKiller Bを敢行する場合には、S以外の主体のE&Pを加味してみなしDistributionが配当がどうか判断、という乱用防止規定も設ける点にも言及していた。う~ん、だんだん納税者側のオプションが少なくなってきたね。

2008年暫定規則

2006年と2007年のNoticeで告知されてた内容に沿って、2008年には暫定規則(Temporary Regulations)が公表されている。Section 1.387(b)-14Tだ。最後のTは暫定って意味のTemporaryの頭文字。暫定規則と同時に、同一の規則が規則案としても公表されてる。なんでそんなややこしいことをするかって言うと、規則案だけでは規則に法的な効果がないんで、法的効果は最終規則と同じ暫定規則も同時に公表して暫定的に法的な効果を持つ規則とするため。暫定規則なんで法的効果を持つ一方で規則案としても公表されてるんでパブコメとかインプットを受け付けてさらなるTweakをした後に規則を本当に最終化することができる。その暁には当然、暫定規則は撤回となる。

で、暫定規則の内容は2006年および2007年Notice内容に準じてるんだけど、数点、より踏み込んでる部分がある。

PによるS支配有無

まずSがP株式を取得する時点で必ずしもSはPに支配されてなくても暫定規則のルールを適用するとしている点。これは面白い発想で、Triangular ReorganizationっていうのはT株式やT資産を取得するSが、Sを支配している「Controlling Corporation」のPの株式を使う取引だからだ。Controlling Corporationじゃない他法人の株式をランダムに使って資産や株式買収しても当たり前だけどTriangular Reorganizationにはならない。え~、でもKiller BってTriangular Reorganizationを利用した非課税Repatのはずじゃんって思うよね。暫定規則が敢えてPがSを支配してないタイミングでSがP株式を取得する状況に触れてるのは、SがP株式を取得した後に支配関係を構築してTriangular Reorganizationにするようなステップを踏んで巧みに最初のP株式取得自体はTriangular Reorganizationとは関係ないんでKiller Bじゃないですよ、っていうような議論を封じるためなんだろう。納税者もいろいろ考えるよね。この点を明確にするため、暫定規則は「Plan of reorganization」に基づきSがP株式を取得する取引を対象にしているとは規定されていなくて、代わりに「In connection with the reorganization」でSがP株式を取得という表現を使用している。

Section 368(c) Control

ちなみにここでいう支配「Control」は組織再編や適格現物出資に適用されるファンキーなsection 368(c)のControlのこと。すなわち、クラスに限らず議決権をトータル80%以上、そして議決権のないクラスがあれば、その「株数」の80%以上を所有している場合にControlが認められる。価値と関係ない点が特徴で適格清算や連結納税グループの判断時の価値および議決権の80% Controlとは異なる。Section 368(c) Controlは定義的に比較的容易に議決権を付与するしないで好きな時に達成できる。スピンオフのHigh Vote Low Value株式の使用もこの点に着眼したストラクチャーだ。

Bear Stearns

非課税取引が好ましくない場合には敢えて議決権のない優先株式を取得せずにControlをBustしたりする。この手法の適用例としては2008年金融危機の際に、J.P. Morgan ChaseがFRBのバックアップでBear Stearnsを救済した際の買収法が有名。Bear Stearnsの救済は翌日には倒産という状況で行われたんで当時の株主が所有していた株式はもちろん含み損の状態。そんな状況でJ.P. Morgan Chase株式との交換が非課税再編になってしまうとSection 354 Exchangeになってしまい含み損が実現しない。J.P. Morgan Chaseが交換してくれる株式はBear Stearns株式当たり0.21株だったって開示されてたから経済的には大損してもだからBear Stearns株主にとっては泣きっ面に蜂(これこそKiller B?)だ。まあ、その後J.P. Morgan Chaseの株式を市場で売却すればBear Stearns株式の高い簿価に基づくExchanged Basisになってるから損は認識できるけどね。で、J.P. Morgan ChaseによるBear Stearns買収はReverse Triangular Merger(この買収法に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (4)」で詳細触れてるんで忘れちゃった読者、またはそもそも読んでない方は読んでみて欲しい)で行われ、Bear Stearnsの普通株式はMerger LawのマジックでJ.P. Morgan Chaseの普通株式に転換された。それが話しの全てだったらB Reorganizationまたは(a)(2)(E)のA ReorganizationでBear Stearnsの株主にはSection 354で非課税交換となってしまう。そこで、Bear Stearnsには議決権なしの優先株式が存在している点に着眼し、優先株式はJ.P. Morgan Chaseによる買収の対象外としている。ということは買収直後にJ.P. Morgan ChaseはBear Stearnsに対して税務上のsection 368(c) Controlを持ってないんでB Reorganizationにならない。またBear Stearns株主はJ.P. Morgan Chase株式とControlに至るBear Stearns株式を交換していないんで(a)(2)(E)に基づくA Reorganizationにもならない。Bear Stearns株主がControlを持たないんでもちろんSection 351にもならない。結果としてBear Stearns普通株式をJ.P. Morgan Chase株式と交換した株主にはSection 354の非課税規定が適用されず、通常の株式譲渡同様に損失が認識される。J.P. Morgan ChaseのBear Stearns買収は他にもオプションが盛り込まれていたりCorporate Tax的に関心度の高い取引だ。Prime-SubのHigh-Grade Structured Credit FundとかHigh-Grade Structured Credit Enhanced Leveraged Fundとかが原因で80年以上の歴史が瞬間的に終わってしまったSurrealな出来事だった。

Killer Bに用いられる「Property」

Section 301扱いされるみなし分配額はP株式取得対価としてSがPに支払う現金およびそれ以外の資産(Property)の時価。ここでいうPropertyは前々回Hook Stockやゼロ簿価の話しでチラッと触れたSection 317で定義されるProperty。すなわち原則S株式は含まれないはずなんだけど、SがP以外の者からP株式を取得する際にはS株式を含むとしている。また暫定規則ではSection 317の定義に加え、PropertyにはSが継承するPの負債も含むとしている。

みなし出資

で、例のみなし分配後のみなし出資だけど、暫定規則ではSがP以外の者からP株式を取得するケースのみ、みなし分配の直後にみなし出資があると規定している。う~ん、ということは普通にPからP株式を取得するKiller Bの場合は分配があったきりってことになる。じゃあP株式はどうやってSの手に移管されるんだろうね。ここは難しくて、おそらくだけど、現金等はP株式譲渡にしても分配にしても実際にPの手元に残るんで、P株式の取得は実際に起こるとした上で対価の現金受け取り部分だけに分配同様の効果を持たせるってことなんだろう。一方、P株式をSがP以外の者から取得する場合、実際には現金はPの手に渡らないんで、一旦みなしでPに現金を分配してPに課税した直後に、PがSにみなし出資で現金を戻し、Sはその現金を使ってP株式を取得したっていうフィクションになる。

Anti-Abuse規定

そして暫定規則には約束通り(苦笑)Anti-Abuse規定があり、暫定規則のKiller B対抗規定を迂回する目的で従事される取引に関しては、形式的にみなし分配で課税が起こらないような状況でも「無理やり(?)」適切な処理をするとのこと。暫定規則の例では、Pが通常のKiller Bのように潤沢なE&Pを持つSにP株式を譲渡する代わりに、新規に組成されるNew S(新設なんでE&Pゼロ)を見た目の取得者とし、従来から存在してるSがNew SによるP株式取得を実質ファイナンスしてるみたいなストラクチャーの場合、New SのE&Pは従来から存在するSのE&Pも含んで考えるということ。

2008年暫定規則その後

まあ、こんな感じで2008年暫定規則は2006年および2007年Noticeの流れそのものなんで大きな驚きはなかったって言える。Pから株式取得する元祖Killer Bのみなし出資がない部分は一瞬考えたけどね。で、暫定規則はその後最終化され、Killer Bも懲りずに進化していく。この進化がなければ2023年の規則案も不要だったことになるからね。深夜を回ってMozartの誕生日となったんでここからは次回。

Wednesday, January 17, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (7)

(チョッと遅くなったけど)明けましておめでとうございます!2024年もよろしく。皆様、新年はリラックスできまたでしょうか。新年早々の地震や羽田空港の衝突炎上にはビックリしたけど、被害を受けられた方には心からお見舞い申し上げると共に皆様のご無事をお祈りします。

1月の地震っていうと日本だと1995年1月17日の阪神淡路大震災を思い出す。またちょうどその1年前に当たる1994年1月17日には南カリフォルニアをNorthridge Earthquakeが襲っている。Northridgeの時はWest Los Angelesに居たけど、揺れるっていうよりも洗濯機や乾燥機の中で回ってるみたいだった。Santa Monica Fwy(Fwy 10)のLa Cienegaオーバーブリッジが落ちたり相当な被害だった。直後は周りのみんな非常食貯えたりしてたけど、天災は忘れた頃にやってくるんでその後の備えはどうなってしまったのでしょうか。当時は携帯とかSocial Mediaがなかったんで情報収集は不便だったかもしれないけど、逆にパニックやデマが少なかったように感じる。

で、新年早々Killer Bに戻るけど、前回のポスティングで特別なルールが規定される前のKiller Bの税務上の取り扱い、少なくとも納税者が税法を律儀に適用してそうだろうと信じてた取り扱い、に関してステップバイステップで触れた。

IRSによる新ルール

前回のポスティングでお分かり頂けた通り、Killer Bは決して脱法的な取引ではなく、当時のSection 367(b)傘下の規則やSection 1032等のルールを律儀にTriangular Reorganizationに適用して課税関係を決めていた取引だ。そんな適用に基づき「外国子会社でCFCのSの留保所得を現金でPに非課税で移管する」っていう結果となり、これは「外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引を取り締まる」っていうSection 367(b)の1975年当初からの立法趣旨に真っ向から対立し、当然ポリシー的に財務省やIRSは何とか手当てしないと不味いっていうまあある意味分かり易い展開となった。

で、どんな風に手当てしたかって言うと、Killer Bの第1ステップとなる「PがP株式を現金対価でSに移管」の現金移管をP株式移管とは別取引として「SによるPへのDistribution」とみなすというのが骨子。このルールが規定される前のKiller Bは、このステップを形式通りPが自社株式を対価に現金を受け取る取引、って整理してSection 1032でPに所得認識はない、としていた。もう一方の当事者となるSは単純に現金でP株式を取得したことになり、Sの手に入るP株式の簿価はSection 1012のコストベース。

Distributionとして取り扱われるってことは普通にSection 301でSのE&Pの範囲でPは配当所得を認識(2017年以前はDRDはない代わりにFTCはあり)、E&Pを超える額はまずPが所有するS株式の簿価を減額し、減額し尽くしたら超過額はS株式のみなし譲渡キャピタルゲインとなる。配当と取り扱われる金額に関してSのE&Pは減少。TCJA以降のGILTIの世界と異なり、SのE&PがKiller B以前にSub FとしてPで合算課税されるケースはかなり例外的だったと言えるけど、もしそんな所得があればE&Pは課税済み(Previously Taxed)になってるんで、その分は再度Pで課税されることはない。Section 367(b)の「外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引を取り締まる」っていう立法趣旨的にも既にSub Fで合算済みであればそんなE&Pがそれ以上の課税なく米国に還流されることは問題視されない。

更にIRSはSがP株式をPそのものから取得する代わりに、関連者が一旦PからP株式を取得し、Sがその関連者からP株式を取得するようなステップ取引にも同様のルールを規定するとしている。SがP株式を上場マーケットで取得とか、非関連者から取得する取引に関して特別なルールが必要か否かはパブリックコメントをリクエストしているに留まっていた。

「え~でもPからSへの現金移管がDistributionだったらP株式はSの手に渡んないじゃん」って不思議に思った読者が居たらちゃんと考えて読んでてくれてるんで偉い。本当にその通りで、この点をどうRecastして考えるかに関して2006年のNoticeでは特に触れられてなくて、2007年に慌てて(?)公表された補足Noticeでその部分の取り扱い意図が明確にされている。というか明確になっているように見えた。上述の通り、みなしDistributionをKiller Bの第1ステップとなる「PがP株式を現金対価でSに移管」する取引とは別取引と位置付けてる点をもってIRSがどんなRecastを念頭に置いていたかある程度図り知れてたけど。この点は実際の規則状の取り扱いに関して後述する。

2007年Notice

2006年のNoticeのインクが未だ乾き切っていない2007年5月、補足Noticeが公表されて、PからSへの現金移管をみなしDistributionと取り扱った直後に、同額がPからSにみなし出資されたって取り扱われる旨が確認されている。この段階でみなしDistributionにかかわる課税関係、主にPによるSのE&P額の配当所得認識だけど、を達成しながら形式はKiller B直前の大本の状態に戻る。さらにみなし出資されて元通りになった直後に、Killer Bの第1ステップとなる「PがP株式を現金対価でSに移管」って取引が生じた取り扱いとなり、このステップおよびその先のステップの取り扱いは従来のKiller Bにかかわるものと同じだと規定されている。

また、2006年Noticeで言及されていた関連者を介したP株式取得に加えて、2007年NoticeではPの株主からSがP株式を取得する取引にも網を掛けるとしている。P株主は持分次第で必ずしもSection 267とかでPやSの関連者には当たらないケースがある点に気が付いたのかもね。

2008年暫定規則と2011年最終規則

これら2つのKiller B Notice後、ついに満を持して2008年に暫定規則、続いて2011年に最終規則が公表される。ここからは次回。

Sunday, December 31, 2023

2023年大晦日「ゆく年くる年」

今年は結局ほとんどのポスティングをFIRPITA系とKiller Bの話しに費やしたけど、あっという間に大晦日。Times Squareのボールが落ちるまで後数時間ってタイミングであちこちから打ち上げ花火の音とか聞こえ始めたりして2023年も大詰め。FIRPTAとKiller B以外にもいろいろとトピックはあったよね。そんなトピックのいくつかをランダムに振り返ってみたい。

R&D支出の資産計上

2017年の税制改正で規定され2022年から施行されてるR&D支出(正確には「specified research or experimental (SRE) expenditures」)の資産計上および5年(または15年)償却規定。そのうち議会が廃案にしてくれるでしょうっていう期待は叶わぬまま大晦日になってしまった。2024年1月には何か起こるんじゃないかって淡い夢を抱きながらも暦年の法人は既に資産計上して申告書を提出済みだし、3月決算の日本企業も1月15日には申告期限が訪れる。

一点助け舟的だったのが9月に公表されたNoticeで研究開発を受託者として請け負っている者(「Research Provider」)は、研究開発に関して経済的リスクを負わず、かつ開発したIP(正確には「SRE Product」)の所有権を持たないケースはSREの支出をしているとは取り扱われない、って規定された点。多くの日本企業の米国子会社が従事する「研究開発」は親会社からの受託なんで条件を満たせば資産計上の対象にならない。研究開発を委託している者(「Research Recipient」)のSRE支出になるってことで一安心した日本企業米国子会社も多いのでは。ただ、独立企業の米国法人がResearch Recipientの場合は、そっちで資産計上すればいいんだけど、Research RecipientとResearch Providerが関連者だったり、更にResearch Recipientが外国法人の場合は特別なルールを検討するべきかどうかコメントを求めてるんで、もしかしたらNoticeに基づく規則案が公表される際には条件が厳格化される可能性はある。とは言え、このNoticeは納税者に「Reliance許可」を与えてるんで現時点ではNoticeのポジションで申告OKってことになる。

ヘッジファンド・Buyoutファンド

BuyoutファンドがLBOする際に調達するDebtのコストが上がり、また金融機関がシンジケートできる自信がなかったりでそもそもDebtがAvailableじゃなかったりして、BuyoutファンドによるM&Aは2023年激減。DealチームがDebtの調達に苦労しているんで、ファンドレベルの借り入れがよりクリエーティブに。Sub-Lineはここ何年も当たり前の存在になってるけど、NAVローンがBuyoutファンドにも浸透。またDebt供給サイドにDirect Lendingファンドがますます活用されるようになってる。

新規のDealへの影響ばかりでなく、既存ポートフォリオに希望するようなValuationがつかないんで、アセットの売却も思うようにいかない。ということはLPになかなか現金を分配できない。ファンドの既存LP、特にペンションファンドとかはシリアル投資家が多いから、ファンドスポンサー的には次号のファンドを立ち上げる際の資金調達時に頼りにするもんだけど、従来LPはファンドからWaterfallで現金分配を受け取って、それを次号ファンドの投資に充ててたんで、この歯車が狂ってしまって資金調達にも悪影響が多い。

Buyoutファンドは10年+の有限Termなんで、いつまでもポートフォリオを所有し続けるわけにいかない一方で、ファンドをCloseするタイミングが必ずしもポートフォリオ譲渡のベストなタイミングに当たるとか限らない。これは2008年の金融危機(「GFC」)の時も大きな問題となったけど、その際に編み出されたテクノロジーがその後、進化を続け、今日ではGP-LedのSecondaryのContinuation Fundがすっかり定着。しかも2009年とかには二束三文で仕方なくポートフォリオを移管して始まったGP-Ledだけど、今ではパフォーマンスの高いポートフォリオをGP-Ledで移管し、LPにはLiquidityオプションを提供し、GPはCarryをCrystalize(実際にはRolloverすることも多いけど)、さらなるValue UpにGPとして貢献でき、またSecondaryファンドで新規に調達される資金で移管対象ポートフォリオにAdd-On投資したりして、End of Fund Life時の解決策とするケースが目立っている。Cross-Fund Trade同様GPが売り手であり買い手でもあるんでConflictの解消法には最新の注意が払われているみたいだけどね。ファンドスポンサーは既存ファンドのLPAを隅々まで読んでRecycle条項を最大限利用しようとしたり、新規ファンドにLPを刺激し過ぎない範囲で今回の経験を活かした条項を導入したり、いつもながらその進化度合いには目を見張る。2024年は選挙の年なんで一定の利下げも規定され、Deal復活の年になるでしょうか。

ファンド周りのタックス関係のトピックとしてはケイマンヘッジファンドのYA Globalが裁判で負けて巨額のECIにかかわる源泉徴収義務違反に問われている。またファンドのUpper Tier系の話しでは、LPSとして組成されるManagement CompanyのLPがSelf-Employment Tax(通常の従業員のFICAに相当)対象となるかどうかも争われてこちらもファンドが裁判で負けてる。

IRSファンディング

$80Bという巨額のファンディングが付いたと思ったら、Appropriationその他のプロセスで実際にはいくら減額とか、紆余曲折あるけど、ファンディングでIRS税務調査や規則策定に勢いが出てるのは間違いない。パートナーシップに対する税務調査強化、移転価格文書内容の精査、国外関連者に対する支出がBase Erosion Tax Benefitになり得るかどうかの検討と関係する棚卸資産への支出の資産計上の濫用対抗、と戦々恐々としている納税者も多いのでは。

大谷選手

Angelsの近所球団、ロサンゼルスDodgersに高給で迎え入れられた大谷選手。巨額の契約金に関しては大きく報道されているけど、報酬のストラクチャーは複雑。本当のタックスじゃないけど、裕福な球団が優秀な選手を買い占めないようにMajor LeagueにはCompetitive Balance Tax(別名Luxury Tax)っていう制度がある。チョッと簡素化して言うと球団が選手(40人のRoasterベース)に支払う年間報酬合計が特定の金額(2024年の金額は$237M)を超えると超過額に1年目は20%、2年連続だと2年目は30%、3年連続だと3年目は50%の懲罰金が課せられる制度。超過額が多額になるとSurchargeも発生する。徴収された金額はMLBのBenefit契約等に基づいて再配賦されるそうだ。大谷選手の給与ストラクチャーはLuxury Taxに抵触しないよう後年に繰延報酬として支給されるってメディアで報道されてるけど、もしかしてLuxury Taxだけでなく、カリフォルニア州みたいな高税率州からテキサスとかフロリダに引っ越した後に受け取るようなことまで考えてるのかな、って直ぐにタックスの視点から考えちゃうのは夢がないかもね。

2024年

2024年11月は選挙。大統領府、両院の構成がどうなるかでタックスにかかわらずアメリカの近未来が大きく変わる。すべてがToss-upなんで一体全体どんな結果となりますでしょうか。

ということで皆様も良いお年をお迎え下さい。1月は引き続きKiller Bだね。

Saturday, December 30, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (6)

前回のポスティングでは、バッハのイタリアンコンチェルトで脱線しながら、何とか2011年最終規則に辿りついた、かのように感じたけど、実際には2011年最終規則に至る歴史、特にKiller B対抗策の幕開けともいえる2006年のNoticeの頃からの沿革に触れなきゃ、ってところで終わってた。何とか後1回くらいはKiller Bのポスティングを年内にアップさせなきゃってことで予定通り風の強いBeachはあきらめて屋内でCubaコーヒー飲んで、ついでにCubano SandwichつまんでUS Tax三昧することに。

2006年Notice

この2006年のKiller B第一弾Notice、今改めて読むとDan McCallがInternational側のメインの著者だったんね。IRS Chief Counsel OfficeのInternational部門の方で、今でも法曹界のイベントに来てクロスボーダー課税系のプレゼンしたりしてるけど、当時から367(b)とか詳しかったんだ~って感動というか納得。また題材がSection 367なんで、同じChief Counsel OfficeでもSub C部門の方と共著という形になってる。Killer Bのシリーズで何回か触れたけど、Section 367っていうのはシルクロードが東西の経済・文化交流の橋渡しだったように(?)、Sub Cとクロスボーダー課税の間を取り持つSection。Sub Cっていうのは歴史的に米国内の再編・買収、株主は米国人っていう前提で規定されててそれ自体超複雑で、ここに同じく複雑なクロスボーダー課税を共存させて、双方のポリシーゴールを達成させようとするんでSection 367の規定は複雑極まりない。

で、2006年Noticeは、冒頭にIRSが問題視している取引、すなわちNoticeおよびその後の規則で取り締まろうとしている対象取引、の概略説明がある。「子会社「S」が適格組織再編の一環で、P株式をS株式以外の資産を使って取得し、P株式をT株式またはTの資産取得対価とする取引で、PまたはSの少なくとも一社が外国法人のケース」ってものだけど、「え~、この取引2011年最終規則や2023年の規則案が問題視してますって言ってる取引そのものじゃん」って思った読者は偉い。本当にその通り。つまり2006年には既にこの手の取引をIRSはポリシー的に問題視していて、規則で取り締まる必要性を認識してたってことなんだね。で、それを未だにやっているということ。さらに2006年Noticeでは、この手の取引が問題なのは少し前から分かってたんだけど、それ以前の規則で触れてないのは、別途総合的に取り締まるため規則策定を画策してて、そのため今まで黙ってた、みたいなコメントもある。DC REITの規則案と同様、詳細、規則を策定するということをもって現時点の納税者側のポジションにIRSが合意しているみたいな消極的保証はなく、規則策定前の状況でも、すなわち2006年にタイムマシーンで戻ったとしてもその時点の既存条文、規則、判例に基づく更正も辞さない、としている。

もともとこの時代のKiller Bは規則開戦前夜だったんで、Killer B系の取引に特化した規定はなく、Killer Bの取引ステップにも通常の一般規定を適用して課税関係を決定していた。少なくとも我々納税者側はそんな分析に基づいてTax-FreeでSが所有する資産をRepatriationできるというポジションを取っていた。じゃあそのポジションってどんなだったかっていうと大概において次の通り。

Killer Bのテクニカルステップ

まずPがP株式を現金等の対価(S株式以外だったらNoteでもトラックでも何でもOKだけどここから先は簡便的にまとめて「現金」って言うからね)でSに移管する取引は「自社株式を対価に資産を受け取る取引は株式を交付する法人にとって非課税」って規定しているSection 1032を適用しPに所得認識はない。Section 1032って300番台のSub Cじゃないけど、適格組織再編を含むSub C取引とは深い関係にある重要な条文。Title 26としてCodifyされているInternal Revenue Code上のSection 1032は「Sub OのPart III」に属し、このPart IIIは「Common Nontaxable Exchanges」という取引を規定しているPart。Section 1032のご近所お隣さんは不動産やっている人なら詳しい「1031 Exchange」のSection 1031だし、反対のお隣さんはSection 1033で「Involuntary Conversion(強制収用)」だからこのPartの主題が確かにNontaxable Exchangesっていうのは分かるね。Involuntary conversionっていうとSection 338選択の生みの親「Kimbell-Diamondケース」を思い出すね!Kimbell-Diamond判例とその後のMess、というか不均等とも言えるOversizeなその解釈・進展に関していつか話したい(いつ?)。Kimbell-Diamond後にSection 338ができたころはまだGU Repeal前だから清算やM&A時に法人の資産含み益に課税がなかった、とか実に刺激的な世界だ。え~、じゃあ今の世界で338(g)ができないっていう悪条件がないじゃん、って思うよね。Section 338の誕生時はそれを取り巻く世界は全く異なるものだったんだね。 判例とその後のOutsizeなMessと言えば「Meaningless gesture」が独り歩きした「Lessinger」もKimbell-Diamond級だよね。Lessingerもそのうちね。結構根気と時間要りそうだから、2週間くらい人気の少ないところ、Fort Lauderdale程度じゃまだDistractionが多いから、もうチョッと北上してPompano Beachくらいまで行って籠城して「KDとLとその後のMess」とか書こうか?Cuban Coffeeが100杯要るね。

Section 1032に戻るけど、条文そのものはシンプルで、自社株式を対価に資産を受け取っても株式を交付する法人は譲渡損益を認識しないって規定しているに過ぎない。例えば株式のStated ValueやPar Valueを超える出資を受けても譲渡益の認識はない。Section 1032傘下の規則のひとつによると従業員に報酬として支給する株式も雇用者・法人側の取り扱いはSection 1032でカバーされるんで法人側に譲渡損益の認識はない。Section 1032条文そのものは資産を対価に受け取る株式交付が対象だけど、従業員による役務を対価に交付する株式にも法人側で譲渡損益なしってSection 1032の適用を拡大していることになる。ちなみにSection 1032はあくまでも株式を発行する法人側の取り扱いを規定している条文で、株式を受け取る相方の課税関係には言及してない点要注意。

Section 1032は株式を新規に交付するケースばかりでなくTreasury Stock(金庫株)と交換で資産を受け取るケースにも適用がある。Section 1032は1954年に制定されているけど、それ以前、1918年当時の規則では新規に交付される株式の取り扱いとは別に、Treasury Stockに関しては取得簿価とその後の資産交換時の時価の差異が譲渡損益になるとされてたり、1919年にはTreasury Stockの譲渡は非課税となったり、1034年にはTreasury Stockも他の資産同様、とか財務省のTreasury Stockにかかわる心変わりの歴史は面白い。複数の判例も必ずしも結果に整合性があるとは言えず、またTreasury Stockを投資資産として所有しているのか、Corporate Finance戦略の一環で所有しているのか、という事実認定を個々のケースで行うのは難しく、最終的に1954年のSection 1032条文化に至る。Section 1032は自社株式を対価として法人が資産を受け取る取引に適用があり、自社株式を株式以外の資産で取得してTreasury Stock化する取引には言及していない。その手の取引は、対価として使用する資産に含み益があれば、Section 311で含み益に課税があると考えられる。Section 1032ではさらに自社株式にかかわるCallやPutオプションが権利行使なく満期日を迎えても、また自社株式のオプションを取得しても法人は譲渡損益を認識しないとも規定されている。

次に、Section 1032には(b)があって、法人が株式を交付して資産を取得する特定の取引(「certain exchanges for its stock」)に関して、法人側が受け取る資産の簿価はSection 362を参照のこと、って短文でサラッと触れている。う~ん、ここで言うCertain exchangesとはどんな取引だろう、って興味深いけど、Section 362が言及されているってことは理論的に適格組織再編またはSection 351の適格出資を意味してることになる。さらにSection 351に関して言えば、Section 362は出資を受ける側の話し。ということはTriangularとかじゃなくて、株主が法人に資産を普通に現物出資して法人が株式を交付して(またはLessinger(出た~)のMeaningless gestureで株式をみなし交付したと取り扱われて)受け取る資産に関して法人が認識する簿価の話しを言っているんだろう。適格組織再編に関しては、例えばForward MergerのA再編で、法人が株式を交付してTの資産をSection 361で受け取るケースで、法人が受け取る資産の簿価はTの簿価を継承する、っていう極普通の取り扱いを再確認してるってことなんだろう。そう考えるとこの部分に余り驚きはない。ただ、Section 1032を取り巻く簿価の考え方はとても悩ましく、Killer Bにも直接的な関係がある。

Killer Bでは、PがS株式以外の資産のみを対価にP株式をSに移管するんで、移管されるP株式時価イコールSから移管される現金(または現金以外の資産時価)となり、LessingerのみなしS株式交付が登場する余地はない。となるとSection 351にはならないだろうから、Section 1001の普通の資産交換になり、簿価はSection 1012のコストベースになる。現金だったら簿価がいくらかっていう議論はないけど、仮にSが現金以外の資産、例えば価値のあるIPを移管する場合、その資産の簿価はSが認識していた簿価のTransferred Basisではなく時価になると考えられる。でも、もし仮にそうじゃなくてS株式を対価にP株式が交付される場合、Pが受け取るS株式の簿価、またSが受け取るP株式の簿価をは何かっていう問題が生じる。

PがS株式を受け取るとP株式の移管はSection 351に見える。え~、でも自社株式は「Property」の定義から除外されてるはずだから、Propertyを移管しないといけないSection 351には当たらないじゃん、って思った読者が居たら偉い。Bで座布団2枚。実は「自社株式はPropertyではありません」っていうSection 317の規定はSub CのPart Iのみに適用があるんで、Section 301から318までの世界の話し。例えばSection 304を考える際にはとても重要な定義になる。同じSub CでもSection 351はPart IIIの「Corporate Organizations and Reorganizations」に属するんでSection 317の定義の拘束を受けない。となるとPが自社株式を「出資」してS株式を受け取る取引は立派なSection 351になるように見える(100%断言している訳じゃないんで、こんな取引して好んでHook Stockという魔法の世界に入りこみたい勇気がある奇特な方がいたら複数の専門家の意見を聞くようにね)。

Section 351の場合、Pが受け取る資産、すなわちS株式、の簿価は出資する資産の簿価にすり替わる。普通にExchanged Basisの考え方じゃん、って思うかもしれないけど、Pが今まで交付してなかった自社株式の簿価は「ゼロ」っていうのが少なくとも現時点の理解。となるとPの手にあるS株式はゼロ簿価だ。さらにSの視点からはSection 351で資産、すなわちP株式、を受け取ったとなると上述のSection 362の世界だからPが認識していたP株式の簿価を引き継ぐことになる。こちらはTransferred Basisだ。でもPは自分の新規発行株式に簿価を認識してないからSが所有するP株式もゼロ簿価になる。え~急に2つもゼロ簿価の資産が誕生するの~って驚きだけどそんな風に見える。価値がある財産にゼロ簿価が付くとこれは将来の譲渡益課税のPrelude。

財務省もこの点は古くから研究中で、2006年に1970年代のRulingを見直した際にも、今後も引き続き検討としていた。う~ん、2006年から既に17年。長期に亘る研究だ。もしかしてFort LauderdaleとかでCuban Coffee飲みながらじゃなくて、South BeachのVibeでやってて長時間かかっちゃてるのかもね。そんな訳ないか。それだけ悩ましい問題ってことだね。

これは、所謂Hook Stockとゼロ簿価株式の問題だ。読者の皆さんが想像するであろう以上に深淵な問題で、Section 1032傘下で何となく規則が策定されてはいるけど、パートナーシップ経由で自社株式を持つケース(May Companyだね!)、ゼロ簿価株式のその後のファントムゲイン、等々話は尽きない。Section 362の後半に規定されるLoss Importation対抗規定は2004年に導入されてるけど、その頃から徐々に簿価を取り巻く議論が忙しくなり、上述の通り2006年にはSection 1032にかかわる70年代から脈々と継承されていた古くからのIRSのポジションが改訂されてる。2006年と言えば、もちろん今話してるKiller Bの2006年Noticeの年だ。これらのタイミングはもちろん偶然ではなく財務省、IRSのChief Counsel Office内でより包括的に子会社への株式移管、簿価の検討がフォーカスされてきた結果と考えるべきだろう。う~ん、Section 1032に特化した話しを続けたい衝動に駆られるけど、そんなことしていると2023年どころか2024年まで終わっちゃいそうな勢いなんで、これもそのうちいつかね~。そんなことするんだったらPompano Beachよりもっと北上しないといけないんじゃない、って?そしたらBoca Ratonに着いちゃうじゃん。それはNG。Boca RatonはDTに居たその昔、パートナー選考キャンプみたいなイベントで一週間缶詰にされた思い出があって、敢えて立寄らないようにしてる禁断の場所。そんな変な思い出がなければいいところなんだけどね。まあさらに北上するんだったらBoca Ratonを横目に一気にA1A(ステーキソースではなく道の名前)飛ばしてWest Palm Beachくらいまで北上かな。でもWest Palm Beachとかまで行ってしまうとまた人が増えてくるから、DistractionされてSection 1032特集どころか「KDとLとその後もMess」企画にまで支障が出るかもね。

ってことでKiller Bの話しに戻るけど、Section 1032がらみの簿価の問題はKiller Bの次のステップと結構深い関係があるんでKiller Bに関係する範囲で後述する。

Killer Bに関して次に検討されるのは、P株式を受け取るS側の取り扱い。SがS株式ではなく現金を対価にP株式を取得するんで、簡単に言うとSはP株式を買ったことになってSection 1012に基づきSはP株式簿価をコストベースで認識する。ちなみにPが現金を受け取る場合は現金の簿価がいくらかっていう検討は不要だけど、仮に現金以外の資産の場合にはP側の資産簿価がいくらなのか、って考える必要があるのは上述の通り。

次にSによるP株式譲渡、すなわちTriangular適格再編で、T買収対価としてSがT株主(T株式取得の場合)またはTそのもの(Forward Triangular Merger等で資産取得する場合)に移管するP株式だけど、ここの取り扱いも実はSection 1032の規則に関係してる。すなわちKiller Bで最も頻繁に用いられるTriangular B(もちろんこれにちなんでKiller Bって命名されてる)でT株式取得、Forward triangular mergerまたはTriangular C reorganizationでTの資産取得、いずれの場合も組織再編のプランに基づきSがP株式を取得していればSはP株式のT株主またはTへの移管に関して譲渡損益の認識はない、ってSection 1032傘下の規則に規定されている取り扱いをフォローできるはず。Reverse Triangular Mergerの場合は、P株式そのものが合併でTに移管されることになって、その場合もSection 361でS(Reverseで消滅する側の法人)に譲渡損益の認識はないはず。IRSの2006年Noticeもこの取り扱いに警鐘は鳴らしているものの、Section 1032の規則はReferしながら、SはP株式の時価で簿価を認識していることから、経済的に譲渡損益はないと整理している。答えは一緒だけど、この説明はSection 1032で整理していた納税者側のポジションとの比較において、普通にSection 1001の世界の話しなんで個人的にはチョッと不思議。

ここまでのステップでKiller Bの「外国子会社でCFCのSの留保所得を現金でPに非課税で移管する」っていう目的が達成される。ちなみにKiller Bで買収対象となるTがPグループ外の独立法人でないといけないってことはなく、関連者間でも同様の課税関係を得ることができると考えられていた。この点もIRSの視点からはKiller Bを手当てしないといけない動機に拍車をかけていたと言えるだろう。「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3) 」で触れた通り、Section 367(b)が1957年に制定された際の立法趣旨は「外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引」を取り締まるってものだから、当然Section 367(b)のポリシーに真っ向から対立する取引となる。

Killer Bはその他の課税関係に関しても熟考されたテクニカルな取引で、通常、CFCが親会社株式を含む米国資産を取得すると、「Section 956のみなし配当(正確に言うとSection 956をみなし配当って表現するのは若干不適切かもしれないけど、敢えて簡素化してそう言っておく)」規定に抵触してSのE&Pの範囲でPは配当同様の所得を認識することになり、Killer Bは無意味になり兼ねないんだけど、Section 956は四半期末毎の計算なんで、SによるP株式の取得とSによるT株式または資産取得に伴うP株式移管を同一の四半期内に完了させるのがKiller Bなんで、Section 956に基づくみなし配当課税の適用もない。

さらにTの株主が米国法人で、Tが米国法人をUS ShareholderとするCFCの場合、本来、T株主は通常のSection 367(b)のAll Inclusion規定に基づきSection 1248みなし配当所得を認識することになることが多い。ところがこの点もTriangular組織再編に適用される特別ルールでSection 1248の認識もないというポジションが可能。良く考えてあるよね~。

これらの取り扱いを組み合わせて蓋を開けてみると、Sの現金はSにE&Pがあったとしても、Pに非課税で還流されていることになる。T株主にもSection 1248配当はない。Section 367(b)のポリシー的には「あるまじき行為」ってことになる。

2006年当時は、当然2017年以前なんでSが普通にPに現金を分配するとフルに課税されていた時代。FTCは取れたけど、米国MNCのCFCは多くのケースで超Low-tax poolだからFTCの効能はなかった。そんな時代だったからこそ、Killer Bは魅力に溢れる取引だった。では、2006年NoticeはKiller Bをどのように処理するような規則を策定すると宣言したのでしょうか。ここからは次回、来年だね。

Thursday, December 28, 2023

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (5)

前回のポスティングでは、Killer Bの舞台を整えるために、Triangular取引、主にT株式100%取得を達成するための会社法メカニズム、Reverse Triangular Mergerのステップに触れた。BuyoutファンドによるLeverage導入とかチョッと脇道に逸れたけど、Black DogやLocomotionじゃなくて安心だったね。

で、今回はReverse Triangular Mergerに関連するM&A系の話しの後、2011年最終規則に至ってKiller BにZoom In予定。あくまでも予定だからね。途中でまたPurpleがどうのこうのとか脱線して興奮しないよう戒めて臨みます。何と言ってもシャレじゃなくて本当に2023年も後わずか。財務省も相当気合い入れて次々と年末滑り込みガイダンス乱発し始めてるんでそれらのCatch-upが大変だけど、そんな中2年以上も「Coming to a theater near you」っていうTrailerを見せながら未だTheater near meに来てないPTEP規則案は限定的なガイダンスを除き結局来年までお預けっていうことで、ガッカリというかチョッとひと安心。あんなの出たらそれ読んで大枠理解するだけで1週間とか掛かりそうだもんね。前文込みで果たして何ページになるでしょうか。200ページは軽いだろうから500ページ行くかどうかが予想の分かれ道かもね。ただ、PTEP規則案は以前のポスティングで触れた通り、テクニカルなチャレンジが多すぎて一気に出せず、2部作になるとのこと。コンチェルトみたいに3部作じゃなくてよかったね。一部でも少ない方が読んで理解するの楽だもんね。

コンチェルトと言えば独断で言うとバッハのイタリアンコンチェルトの右に出る作品はない。コンチェルトなんで3部作だけど、F Majorの第1部アレグロ、同じくF Majorの第3部プレストは快活感に満ち溢れていて最高。第2部はマイナー、1と3がF Majorなんで、こちらはD Minorだけど、いかにもルネッサンスの短調バロックで、教会とかでシンミリと聴く感じ。昔しレコードで聴いてた頃から第1部が終わると「針を手で上げて(笑)」いきなり第3部に飛ばしたりしてたもんだ。不躾っていうかエチケット違反だったかもね。本当にクラシックやっている方が「両端楽章より美しいマイナー調の第2部がベスト」っていう発言をされていたのを聞いて「そんなもんなんだね~。プロに言わせると」って思ったことがある。コンチェルトだけど、鍵盤単楽器。バッハの頃はクラヴィーア、英語風に言うとハープシコードだったんだろうけど、今ではハープシコードとピアノの対抗バージョンがあったり、どのバージョン聴いても美しく華やか。まあどちらか一方を選べって言われたら迷うけど、元祖ハープシコードバージョンで2段の鍵盤で、弦を弾くまでのコンマのタメみたいなあの感じに一日の長がある気はするけど。ピアノの鍵盤の白黒が逆だったり17世紀っぽくてカッコいい。実はその昔ピアノ弾けた頃、第1部のアレグロは何とか最後まで弾くことができた。F MajorだけどバッハなんでLennonの曲みたいに(全然違う?)知らない間に変調して最後の最後にまた冒頭のF Majorに戻るみたいな難解な構成。第3部もいつか弾いてみたいと思いつつ、人生の大半をUS Taxに費やすことになってしまい、鍵盤に触れる機会もなくなり現時点までその夢は叶ってない。まあ、当面Martha My Dearや、In My Lifeのバロック風間奏の回転を上げる前のA Majorバージョンをポロポロと合わせて5分くらい弾いて気晴らしとします。

上場企業買収とReverse Triangular Mergerワンステップ

で、本題に戻ってReverse Triangular Merger。前回触れた通りReverse Triangular Mergerはその1ステップだけでT株式100%取得可能なデラウェア会社法のマジックの一つ。1ステップでの100%株式取得は、上場企業のM&AにもPrivate Dealにも同様に適用できる。Private Dealで株主が複数存在するケースで、株式買収というストラクチャーを選択する場合、大概において会社法上の形式はReverse Triangular Mergerで一気に終了させる。ターゲットがPrivateでも上場企業でもReverse Triangular Mergerは会社法上の合併なんで、T側のBoardの合意がMust。敵対買収、HostileなSituationには使えない。実際にはHostileで始まるDealも多くのケースで途中から「渋々」Friendlyになったりするけどね。

上場企業のM&A時には追加の検討がある。すなわちReverse Triangular Mergerを利用する際のひとつの難点として、株主による合併承認に関してProxy Statementの送付が必要になる点。ProxyはSECのレビューが必要で、コメントレターの有無やその対応に要する時間にもよるけど、株主承認を得るまでに平均3~4か月とかの時間が掛かる。特に合併対価が現金ではなくP株式の場合には審査により時間を見ておく必要がある。P株式が上場している場合、買収に費やすP発行株式数次第でP側の株主承認とか、P側のStock Exchangeのルールも気にしないといけない。

現政権下の過剰気味なRegulatory環境下では、株主承認に要する時間とは別にHSRやCFIUSその他のRegulatory承認に要する時間も加味してタイムラインを熟考する必要がある。ただ、仮にRegulatory審査が長引く場合も、一旦株主承認を得れば、その時点でT社Boardのレブロンその他の受託者義務は終わるはずで、その後に第三者が登場してくるリスク、所謂「Interloper」リスク、は株主承認さえ得ることができればその時点で終了するはず。

Regulatory承認に要するタイミングは業種や各Dealの規模、Pの所在地その他の状況で千差万別だけど、それとは別に確実に要する時間として株主承認のための3~4か月がある。SECのコメント内容によってはさらに数か月長引くリスクもあり、この時間はPにとって結構長く感じられるだろう。Closingが遅れれば遅れるほど、不確実性が増すからね。2020年3月…とか。

Tenderと組み合わせの2ステップ

そこで検討される変形ストラクチャーが、最初にTender Offerで一定%の持分を取得し、Back-EndでReverse Triangular Mergerを実行して100%持分取得する2ステップストラクチャー。Tender Offerは株主に直接譲渡判断を訴えるんで、Reverse Triangular Mergerワンステップと異なり、その時点ではターゲットBoardの合意は不要。すなわちHostileな状況でも適用可能なストラクチャーだ。ただ、上述の通り、PureなHostile Takeoverっていうのは実際には近年は少なく、Hostileで始まっても途中から「Friendly(苦笑)」Dealに生まれ変わるケースが多い。2023年にはHostile Offerがいくつか登場しHostile・Defense時代の再来かって話題になり、局面次第ではHostile Offerも健在ってことを思い出させてくれた。ポイントは、Hostile Dealの場合、BoardがOnboardじゃないんで(洒落です)、いきなりReverse Triangular Mergerを適用するオプションがない、ってこと。

もちろん、Boardの合意はあるに越したことはない。Schedule TOがファイルされてTenderをLaunchした後、10日以内にBoardはTenderに対するBoardとしてのオピニオンを表明する。Tenderなんでもちろん最終判断は個々の株主だ。その際にBoardは「反対」ってなると株主がTenderに応じるかどうかの判断にネガティブな影響を与える可能性がある。こんなことからTenderを利用した2ステップのストラクチャーもタイミング的な魅力からBoardが賛同を得て実行されるケースが大半と言えるだろう。

で、買収を2ステップでストラクチャーする目的は、最初のステップで十分な持分を取得できれば、2つ目のステップのReverse Triangular Mergerは既成事実なんで形式的なもの、っていう点。Tender Offerは形式的に超Ruleバウンドなんで面倒ではあるけど、テクニカルには21日で終わるんで早い。「でもMergerはProxyとかで時間掛かるって言ってたじゃん」って思うかもしれないけど、そこが2ステップのキーと言える部分で、Tender Offerで十分な持分を取得してれば、2つ目のステップは通常の合併(Long-Form)に求められる諸々のステップはスキップして即実行できる。所謂Short-Form、またはMedium Form Mergerだ。一般的には90%の持分を最初のTenderで取得する必要がある。でも90%って結構なハードルで、この点に対処するため従来は2回目のTenderをしてみたり、Top-Upって言って無理やりTが追加株式をPに発行して90%を目指したりしたけど、どちらもベストな解決にはならない。そこでデラウェア会社法マジックが登場。デラウェア会社法ではTenderで50%超(またはTのCharterで合併承認に求められる%が高い場合にはその%)を取得してれば追加の株主承認なしで、すなわちProxyに時間を費やすことなく、速攻で2番目ステップのReverse Triangular Mergerを完了させることができる。デラウェア会社法マターなんで専門のLegal Advisorに聞いてもらう必要があるけど、担当したDealを見る限り、Tender終了と同時に第2ステップのReverse Triangular Mergerを完了している。エ~早。ってことはTenderをLaunchしてから21日に買収完了も夢ではないってことになる。

承認に要する%を取得したんだから株主総会による承認は形式に過ぎず、その意味でShort-Form Merger規定は合理的だ。泣く子も黙るDGCL Section 251(h)。税法以外のSection番号とかほぼ知らないけど、これだけは良い子のみんなが知ってるSectionだ。ただ、251にしても実際には詳細な要件があるんで必ずデラウェア会社法のLegal AdviceがMustだからね。

2ステップはうまくいけば早いけど、Regulatory承認に手間取ったりすると時間的なメリットは失われる。その間Interloperリスクは付きまとうし。また特にPが自分の株式でT株式を取得する場合(その場合は用語的にTender Offerとは言わずExchange Offerって言ったりするけど趣旨は同じ)、Tenderのルール自体が複雑でLegal面での検討はむしろ増えるかも。友人のCorporate Lawyerが「正直、DealがTenderやExchange Offerじゃないと内心ホッとする」って言ってたけどそんなもんかもね。

Dealストラクチャーは他にもHorizontal Double DummyとかLLCの活用とかVariationはきりがなくて楽し過ぎるんだけど、Killer Bの話しだったのを思い出したんで我慢の子でこの辺にして2011年最終規則に移るね。

2011年最終規則

Killer Bのポスティングを開始した際のイントロで触れたけど、2011年最終規則(section 1.367(b)-10)は上の例だとMerger Subに当たる子会社「S」がM&Aの一環で、P株式をS株式以外の資産を使って取得し、P株式をTの取得対価とする取引にかかわるもので、PまたはSの少なくとも一社が外国法人のケースに適用がある。厳密に言うと適格組織再編で使用が認められるPのLong-Term Securitiesにも適用があるけど、ここでは簡便的に「P株式」、またSによるS株式以外の資産を用いたP株式・Securitiesの取得を「P株式取得」っていう表現で統一しておく。上述の「普通の(?)」のデラウェア会社法に基づくM&A時にPがTをP株式で取得するケースでは第一ステップでPはS株式と交換で自社株式をSに移管するけど、Killer B規則が歴代共通して問題視している取引は、S株式「以外」の資産でP株式をSが取得しているもの。最重要条件なんで常にこの点をListen to the music playing in your headみたいに念頭に置きながらKiller Bを考えるように。でもあんまりこれしているとTuesday afternoon is never endingで、ず~っと火曜日の午後のままになるんで注意が必要。Lady Madonnaだね!

今回の規則案に至るKiller Bの沿革をおさらいしておくと、最初は2006年のIRS Noticeで警鐘が鳴らされたのが僕が記憶する限り最初のメジャーイベント。2007年には2006年のNoticeを補強する追加Notice公表。これらのNoticeを踏襲する形で、2008年に暫定規則が公表されている。その後、2011年に最終規則が公表され、当最終規則に準拠する形でマーケットで進化(?)してきたストラクチャリングに網を掛けるため2014年に新たなNotice公表。2014年のNoticeを加味したストラクチャリングの進展にさらに網を掛けるために2016年に補強Noticeが出て、今回の2023年の規則案、となる。凄い紆余曲折でまるでSection 304とSection 367(a)の関係みたいだ。この沿革を見て頂くと、2016年から2023年までのタイムラグが比較的長く、なぜ僕の首がどんどん長くなっていったか理解してもらえるだろう。しかもCAMTだのIRAのクレジットだので財務省は東奔西走なんで、眠れる森の美女みたいに100年後かな~って半分あきらめてたんだけど、近くの国の王子様が急に現れたのでしょうか、急に眼を覚まして公表されて興奮してしまったっていう経緯。

かなり遡るけど、2006年のNotice等の沿革は今回の規則案を知る上で貴重な文献なんで軽く触れておきたい。とは言え、例によって長くなってきたんでここからは次回かな。まずいね。2023年も後4日。大晦日は「US Taxゆく年くる年」にならないといけないんで、今年中にKiller B終わんないね。2023年中に後一回はKiller Bのポスティングを捻じ込みたいところ。幸いにも(?)South Beachはとても涼しく天気いまいち。North BeachとかFort Lauderdaleとかに至ってはまるでハリケーンでも来てるかのような強風が吹いててBeachで仕事するVibeではない。屋内でCubaコーヒー飲んでイタリアンコンチェルト聴きながらUS Tax三昧しなさい、っていう神様の思し召しなのでしょう。どうせもうすぐNYCに戻るしね。