Saturday, April 13, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (12)

前回のポスティングではKiller B規則の2014年Noticeをカバーした。去年の10月に公表されたKiller B新規則案にトリガーされて書き始めたKiller Bシリーズ。2006年Notice、2007年Notice、2008年暫定規則、2011年最終規則、2014年Noticeまでカバーしてついに今日は新規則案の前座としては最後になる2016年Notice。トリ寸前だ。Killer BシリーズもますますFinal Phaseになってて寂しいよね。この感じって読み始めたら止められないタイプの面白い物語読んでる間、完全にその世界に入りこんでて物語が終わると今まで登場人物と一緒に暮らしてたのに誰も居なくなっちゃったみたいなのと同じ。世界広しといえども、Killer Bの話しが終わって寂しくなる人は中々いないって?そうだよね。まあ、次の物語読み始めると次の世界が展開されるように、ポスティングも次のテーマに移ったら直ぐ今度はそっちにハマるからいいね。Killer Bの次はどんなテーマになるでしょうか。

2016年Notice

難攻不落でSection 367(b)の西を守ってたはずのKiller B最終規則城は米国MNCの城攻めに合って屈してしまい、2014年Noticeで補強されて今度こそって感じだったんだけど、相手は何といっても上杉謙信の上を行く米国MNC。またしても2014年Noticeの裏を書くストラクチャリングで圧倒され更なる改修工事が必要になった。そこで登場するのが2016年Noticeだ。2014年Notice後に散見されるようになった取引は単なる2014年Notice準拠のKiller Bってだけではなく、Killer Bの後にもうワンステップ追加された「Killer B+」とでも言うべきRepat戦略。

「Killer B+」

2014年Notice後に蔓延し始めたストラクチャリングの代表的なものは次の通り。米国企業USPが米国外100%子会社FPを所有し、FPはさらに100%子会社FSを所有しててFPにはE&PはないけどFSには潤沢なE&Pがあるとする。早速Killer Bチックな設定だね。米国外の埋蔵金E&Pを米国で課税されることなく還流させるための手法として進化してきたストラクチャリングがKiller Bだからね。2017年のTCJAで全ては変わってしまったけど、2016年Noticeなんでこの時点ではまさかクロスボーダー課税がGILTIとか245Aとか今の姿になるなど露知らずっていう時代だ。

ちなみに外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引を監視するっていうのがKiller B規則を含むsection 367(b)全体の立法趣旨・テーマっていう点は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3)」等で触れてるけど、その一環でCFCの事業資産が非課税組織再編や非課税清算を介して米国親会社に非課税で還流されてくる取引も当然section 367(b)の監視下にある取引。この手の取引では、CFCを非課税組織再編や非課税清算で米国株主に統合すると、CFCのE&Pは一度も課税されないにもかかわらず、そのE&PでファイナンスされたCFCの資産簿価がそのまま米国親会社にフローアップしてくる。そこで米国へのInbound資産移管に網を掛けるため、section 367(b)の規則の一つにInbound取引時には米国親会社がCFCを所有していた期間に生じた自己持分相当のE&Pを全額課税するっていうのがある。ここでは「Inbound資産移管E&P課税」って呼んでおく。

でも非課税清算等で受け取る資産はステップアップしないんだからいいじゃん、って思うかもしれないけどピュアな国内取引と異なり、CFCの資産簿価がCFCのE&Pにサポートされている限りにおいてその部分の簿価は米国で課税されていない所得を原資とした簿価。チョッと分かり難いかもしれないけど、B/S的に資産簿価は米国親会社による出資、CFCの負債、またはCFCが稼得した所得(イコールE&Pと仮定)のいずれかでサポートされているんでE&Pに課税できてれば全ての簿価はそのまま使ってOKってことになる。資産の簿価っていう属性は将来のNOLと同じっていう点は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (10)」で触れた。NOLは資産簿価の化石って考えると双方の価値が理解し易い。NOLとの比較において簿価の有無や大小に比較的無頓着なケースを見ることがあるけど、これらの属性の価値は基本的に同じだ。結晶化(?)してるかどうかの違いだけ。米国MNCは資産簿価の大小、また株式、有形資産、無形資産その他、どんなタイプの資産に簿価が付くかに細心の注意を払う。結果ここで話しているKiller B+みたいな発想に至ることになる。

で、ポスト2014年NoticeのKiller B+の例を続けるけど、Killer B規則の考え方を適用するとFSによるFP株式取得はFSによるFPへの分配になって、FSのE&Pの範囲で配当になる。FPにはE&PはないけどFSには潤沢なE&Pがあるっていう設定だから覚えといてね。でもFSは外国法人なんで配当に対する米国源泉税は通常関係ない。また配当を受け取るFPは米国外法人なんでそれが間違ってECIなんてケースは100年に1回あるかないかくらい珍しいだろうから、FPには直接米国法人税が課されることはない。FPはCFCなんでFPが受け取る配当が元祖CFC合算課税のSub F所得になるとUSPはその時点で自己所得に合算しないといけない。Sub Fには複数の例外があってこの手のケースで一番適用可能性が高いのは配当原資がFS側でSub FでもECIでもない事業所得の場合、グループ全体で考えると配当の性格はPassiveなポートフォリオ投資のリターンではないんでSub Fの趣旨的にSub Fで網を掛ける必要はない。Look-through規定だ。CFC課税の「Look-through」って複数あってConfusingだけど、ここでいうLook-throughは関連者から受け取る配当の原資が阿漕な所得でなければOKっていうsection 954(c)(6)に基づくSub F免除だ。まだTriangular Reorganizationにも至ってないけど既に複雑になってきてるね。Killer B+だからね。

Triangular Reorganization

で、USPの米国外100%子会社USSがFPやFSとは別の持分チェーンで米国外100%子会社FTを所有してるとする。FTをFP/FSと同じ持分チェーンに取り込んでインティグレーションするっていう事業目的でTriangular Reorganizationを通じてFSはFT株式をUSSから取得する。取引ステップはKiller Bそのもので、FSは最初のステップでFPから現金対価(Noteかもしれないけどここでは現金で統一しておく)で取得したFP株式を対価にFTの100%株主であるUSSからFT株式を取得する。B型再編になり絵に描いたようなKiller Bだ。Killer BのBはB型再編って覚えてるね?でもKiller BはB型再編で実行される必要はなくて、AやCのTriangular Reorganizationバージョンでも全く同じことができる点はKiller Bシリーズをフォローしてくれてる読者の皆さんなら既にご存じの通り。

Inbound資産移管

で、Triangular Reorganizationの後、Killer B取引とは別プランでUSPはFPを吸収する。手法は大概においてUpstream Mergerなんだろうけど100%子会社のUpstream Mergerは税務上はLiquidationになる。80%以上の議決権・価値を所有する子会社のLiquidationは原則適格Liquidationで非課税だ。このInbound資産移管によりFPが所有する資産はUSPに移管されるけど、移管されるFPの資産にはKiller B取引下でFSがFP株式の取得対価としてFPに移管した現金が含まれる。ということは蓋を開けてみるとE&Pを潤沢に持つFSの現金がFP株式取得、FPの適格清算でUSPに還流している。

でも、Inbound資産移管は上で触れたsection 367(b)のInbound資産移管E&P課税でFPが課税されるんじゃないの~って思うよね。適格清算でも未だに米国で課税されていないE&PはInbound資産移管時に課税対象っていうのがルールだからね。さてどうなるでしょうか。

2014年Notice下のKiller B規則適用

上の取引例に2014年Notice時点で存在するKiller B規則を適用してみると次のような取り扱いになる。まずTriangular Reorganization部分だけど、これは今までのKiller Bのポスティングで触れてきた通りの取り扱い。USSがFT株式の対価としてFP株式を受け取る取引は2014年のPriority規定で触れた「Indirect stock transfer」に当たる。すなわちUSSはsection 367(a)目的でFT株式をFPに移管したと取り扱われる。移管対象となる株式がFT株式って言う米国外法人の株式なんで、通常はGain Recognition Agreement(GRA)をIRSと締結することで株式移管時点の課税を避けることができる。GRA自体ディープな話しだけどここでは敢えて超乱暴にまとめとくと、本来section 367(a)で課税される株式移管時に一旦IRSとGRAを締結し、移管から5年以内に移管された株式の移管先からの更なる譲渡、または移管対価で受け取った株式の譲渡等のトリガー取引がなければsection 367(a)課税から免除されるっていう有難い制度。トリガー取引で過去遡及して課税される場合、元々の株式移管の課税年度の申告書を修正して追加払いの法人税には金利も課せられる。

Section 367(a)に抵触する外国法人株式の移管でGRA締結可能なケースは通常であればGRAを締結する。じゃないと即、課税所得になっちゃうからね。したがってアドバイザーとしてはGRA締結に落ち度はないか、全ての移管株式をカバーしているよねとか、その後5年に不要に譲渡益をトリガーさせないための内部管理とかがフォーカスとなる。ところがKiller B+取引ではUSSもGRAを締結するにはするんだけど、その際にFT株式の全株式に関してGRAを締結しないで敢えて超少数のFT株式をGRA対象外とする。この部分は当プランニングのキーとなる部分。FT株式の僅かな部分にGRAを選択しないっていうことは当たり前だけど、その部分のFT株式含み益はsection 367(a)で課税所得になる。少額の課税所得を敢えて認識っていうエキセントリックな怪しい行動でPriority規定を巧みに使うための技なんじゃないの~って予感させてくれる。で、本当にその通りなんです。Killer B+では、この超少額のsection 367(a)所得をKiller B規則の所得と比較してFP株式取得にKiller B規則を適用するかどうか判断する。

Killer B+とPriority規定

じゃあ、section 367(a)下の僅かな所得の比較対象になるKiller B規則下の所得が何かっていうとここも面白い。ここで登場するのが2014年Noticeだ。Killer B規則ではFSによるFP株式取得対価の支払いをみなし分配と取り扱って課税関係を決める。その際、section 367(a) にも抵触する取引ステップがあると、Priority規定に基づきKiller B規則とsection 367(a)でどちらがより高い所得を生み出すかに基づきどちらの規則で課税関係が決まる。この比較算式に使用される所得額に関してはさんざん紆余曲折があり、Priority規定のIRSの視点からの悪用を封じ込めるため、2014年NoticeではPriority規定適用検討時にsection 367(a)所得と比較するべきKiller B規則下の所得は「源泉税対象となる配当」および「実際にPに課税される範囲のみなしキャピタルゲイン」、そして「PがCFCの場合でPが認識する配当やみなしキャピタルゲインがSub FとしてPの米国株主に合算される額」に限定した。

上述の通り、Killer B規則で分配と取り扱われるFP株式取得対価の支払いは、FSのE&Pの範囲で配当扱いになる。でもFSは米国外法人なんで配当に対する米国源泉税は通常関係ない。配当を受け取るFPも米国外法人なんでFPが受け取る配当や分配がみなしキャピタルゲインとなっても直接FPに米国法人税の適用はない。FPが受け取る配当やみなしキャピタルゲインが元祖CFC合算課税のSub F所得になるとUSPはその時点で自己所得に合算しないといけないけど、section 954(c)(6)のLook-throughでSub Fからも免除される。となると2014年Noticeが規定するPriority規定適用時のKiller B規則所得はゼロになる。一方のsection 367(a)を見ると僅かな所得があるんでこちらが勝つことになってKiller B規則の適用はナシとなる。USSは僅かな所得に法人税を支払う。

そして最後のステップ、すなわちKiller B+をKiller B+たらしめる最終ステップのUSPによるFP吸収合併(または類似取引)だ。このステップは上述の「Inbound資産移管E&P課税」で課税されるんで結局苦労してsection 367(a)で僅かな所得認識を演出してPriority規定でKiller B規則から逃れてもこれで万事休すじゃんって思った読者は上杉謙信。米国MNCは上杉謙信よりも強力な攻略でKiller Bを落城させる。

城攻めのカラクリは次の通り。まずFPにはそもそもE&Pはない。これはKiller B+実行時にFPを新設したりしてそのようなストラクチャーにしてるからでこのポスティングでもKiller B+取引の説明冒頭に前提条件としている。そしてPriority規定でKiller B規定が適用されないんでFSによるFP株式の取得対価は分配にも配当にもなってない。したがってFSにE&PがあってもFP株式取得を通じてFPのE&Pが増えることはない。となるとストラクチャー的にはInbound資産移管E&P課税の適用対象取引でも、肝心のE&PがないんでUSPに課税される金額は存在しないってことになる。

う~ん米国MNCっていうかMNCにアドバイスしてるBig 4の国際税務チームやメジャーなLaw Firmは凄いね。僕もEYの国際税務Nationalチームだっからこの辺の変遷は生で見てきたけどIRSの解釈は異なる部分はあるとしても当たり前だけど全て法的なApplicationは正しいからね。ということはBig 4とかは虎千代の教育係の天室光育だったってことか~(?)。2014年Noticeで網を掛けようとした取引は、Priority規定を適用してsection 367(a)をTurn-offするケースだったけど、Killer B+では少額のsection 367(a)でKiller B規則をTurn-offしてる。

他にも似たようなバリエーションとして、USPがFPとUSSを所有してて、USSがFTを所有してるっていう同じストラクチャーでFPにはE&Pはなく今度は上の例のFSではなくFTが潤沢なE&Pを持ってるとする。FPはプレーンバニラの優先株式(section 351(g)非適格優先株式)を対価としてUSP株式を取得、USP株式を対価にUSSからFT株式をTriangularのB型再編で取得する。で、後日FPは自社優先株式のUSSから償還する。このバリエーションのキーはFPの自社株式は2011年最終規則で「Property」にはならないんで(Sub CのPart I、すなわちsection 301~318の目的でも、特に304で自社株式はPropertyにならないのと同じ)、Killer B規則の適用範囲外となる。さらにUSPによるFPへのUSP株式移管の対価は非適格優先株式となることから、適格現物出資にはならずsection 1001の課税交換となり、USPが所有するFP株式の簿価は時価になる。Section 351の適格現物出資になってしまうと「例の」ゼロ簿価っていう不思議の国のアリスに出てくるウサギの穴に入り込んじゃうもんね。ゼロ簿価に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (6)」を参照のこと。FPによる自社株式の償還はFPにE&Pがないんで配当にならず、またUSPが持つ簿価が時価になってるんでみなしキャピタルゲインもないっていうポジション。経済的にはFTのE&Pを拠り所に償還してるって考えるとE&PのRepatになる。こちらもお見事。

壮絶な知恵比べで2000年台前半から2016年まで進化し続けたKiller Bと財務省規則。2016年Noticeが出た翌年2017年12月22日にクロスボーダー課税を根本的に変えたTCJAが可決される。TCJAでKiller Bを含むsection 367(b)の存在意義が大きく低下した点、およびそれでもsection 367(b)の一連の規則は引き続き必要という財務省見解に関しては特集前半の「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (3)」で触れた。次回はKiller Bシリーズ最終回として2016年Noticeの対抗策、それに準じて2023年に公表された規則案に触れてみたい。

Sunday, March 31, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (11)

前回はEddie Van Halenのハーモニクスを多用した斬新なギターテクニックがどれだけショッキングだったか、じゃなくてKiller B規則が2011年に一旦最終化されてから僅か3年弱の2014年に公表された2014年Noticeの話しを始めた。中でもSがPからP株式を取得する際に支払う現金のみなし分配後のみなし現金出資に軽く触れるつもりが深みにはまり、2011年最終規則を適用するとPが所有するS株式の簿価にチョッと不思議なことが起こるねってところで終わっていた。

みなし現金出資とS株式簿価

みなし分配とその後のTriangular ReorganizationでPが持つS株式(Reverse Triangularの場合はT株式)の簿価がどんな風に動くかっていうところまでは前回のポスティングで詳細に触れた。Killer BのBに当たるB型再編を例に取ると、SにE&Pが十分にある範囲でみなし分配では簿価は動かず、その後のTriangular BでT株主がT株式に認識していた簿価がPの手のS株式の簿価に増額される。ちなみにこのルールはPが組織再編で調整するS株式簿価はsection 358じゃなくてsection 362の世界の話しなんで当然旧T株主の簿価がTranserされるのはそうなんだけど、旧T株主が認識してたT株式簿価とか実際には把握できないこともあるよね。Tに多くの株主が居たケースは特に。そこで80年代初頭からIRSは簡便法の使用をSafe Harbor的に容認している。旧株主にサーベイを送るのがベストだけど、ターゲットが上場企業だったりするとRetail投資家全員にサーベイ送る訳にはいかないし、仮に送付したとしても開封されない、または開封しても「何ですか、これは?」ってなってそのままゴミ箱、ってケースも少なくないだろう。そこでサンプル、概算計算その他の簡便法が認められている。Transfer Basisのサガだよね。

で、これにSがPからP株式を取得する取引に関して、Killer B規則でみなし分配された金額同額をみなし出資があると考えると、すなわち2011年最終規則を適用すると、Killer BでPがP株式移管対価として受け取っている金額分まるまるS株式の簿価が増額されることになる。Pは自社株をSに移管して、その対価として現金を受け取るとその額に関してS株式の簿価が増えるっていう不思議な現象だ。たかが簿価されど、っていう点は前回のポスティングでも触れた通り。すなわち資産の簿価っていうのは将来のNOLでNOLは資産簿価の化石だから簿価はNOLと同様に重要な属性だ。

そんな重要な属性が意味不明に増額するのはKiller B規則の趣旨に反するということで2014年Noticeは現金みなし出資の取り扱いは全面的に撤廃するって宣言している。この撤廃は単に2011年最終規則で追加されたPからP株式を直接取得するケースばかりでなく、2007年NoticeでデビューしたP以外からP株式を取得するケースにも適用される。みなし分配の後、どうやってP株式がSに移管したことになるんだろうね、っていうオリジナルの疑問が再発してせっかくUnchainedのリフ聴いて快適になったのにまたしてもスタートに逆戻り?って思ったんだけど、実は2014年Noticeはこの点に関して、形式的にはP株式をSが現金対価で取得してるけど、S株式簿価算定目的では単純にTriangular Reorganizationに適用されるルールを適用すると整理している。つまりP株式はPからみなし出資でSに移管されて、Sがそれを対価にT株式やT資産を取得するってことなんだね。ウ~んなるほど。となると結局、2006年の初回Killer B Noticeを読んだ際に第一印象的に考えた簿価算定法に落ち着いたってことなんで、だったらこれでまたチョッとスッキリ。でもUnchainedの域には達してないんで超トリッキーなテクニックでコピー不可領域のMean Streetのイントロでも聴いて「天才とはこういうことか…」って何回も繰り返し聞いたあの日を感慨深く思っておきます。

Priority規定

2014年Noticeが次に問題視しているのが2011年最終規則のPriority規定の濫用。Priority規定に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9) 」で触れてるんで復習しておいて欲しい。Priority規定はsection 367(a)とKiller B規則の双方に抵触する取引に関して、どちらの規定を優先するか、すなわち双方では課税されないっていうルール。Killer B規則はsection 367(b)領域なんで、もう少し広範な(a)と(b)のオーバーラップ規定のサブセットみたいなもの。Killer B規則とsection 367(a)のどちらを適用するかは、各々の規則で「認識される所得」を比較して、金額が高い方の規定のみを適用して、他方はTurn-offするっていうもの。その際、Pが米国外法人でSが米国法人で、配当に対する源泉税が条約で免除されててS株式がUSRPIでない場合、すなわち苦労してKiller B規則でみなし分配を認定してもPに米国税負担がないケース、はKiller B規則の適用はなく、結果としてもし取引がsection 367(a) にも抵触するストラクチャーの場合、自動的にsection 367(a)のみを考えることになっていた。ここでは「No-US-Tax例外規定」って呼んでおく。

No-US-Tax例外規定とKiller B規則下の所得

で、IRSが問題視し、2014年Noticeで網を掛けようとした取引は、Priority規定を適用(悪用?)してsection 367(a)をTurn-offするケース。例えば、外国法人FPがFP株式を対価に米国株主に所有される米国USTの株式を買収するとする。その際、FPは米国子会社USSを新設し、USSに少額のE&Pを認識させる。で、ここからはKiller B取引で、USSがNote(Killer B分析上は現金と同じ。USSには十分な現金が存在しないという想定)を使ってFPからFP株式を取得。USSはFP株式を対価にUST株式を米国株主から取得する。Triangular B型再編だ。USTの米国株主がUST株式譲渡対価として受け取るFP株式は、FP株式の75%に当たるとする。

Killer B規則の適用でUSSのFP株式取得がみなし分配になるけど、USSのE&Pは少額なんで、配当も少額。源泉税対象になるのはこの少ない配当部分だ。USSが過去5年間、またはおそらくUSSは組成されて5年経ってないだろうから組成後一度もUSRPHCでなければUSS株式はUSRPIにならない。となるとE&Pを超える額がFPの持つUSS株式簿価を超えてみなしキャピタルゲインになってもFPには課税はない。USSに対するFPの株式簿価も低いって想定されるんで、Killer B規則のみなし分配はほぼまるまるみなし株式譲渡のキャピタルゲインとなる。しつこいけどこのキャピタルゲインはUSRPIではない株式の譲渡にかかわるもので、ECIでもないだろうからFPは米国で税金は支払わない。

これをPriority規定の視点からどう考えるかだけど、まず上で触れた2011年最終規則の「No-US-Tax例外規定」の適用があるかどうかを検討する。No-US-Tax例外規定の対象になるとKiller B規則の適用はなく、仮に取引がsection 367(a)対象でもKiller B規則とオーバーラップがなくなるんで、普通にsection 367(a)に抵触すればそのルールで課税されたりGRAを締結したりする。インバウンドのNo-US-Tax例外規定はPがSから受け取る配当が条約で源泉税から免除され、かつS株式がUSRPIでないケースに適用があるけど、上の例では少額のE&Pに対して30%源泉税が課せられるようなストラクチャーを敢えて演出してるんで、源泉税の大小にかかわらずNo-US-Tax例外規定対象取引にはならず、結果としてPriority規定で双方の所得を比較、Killer B規則かsection 367(a)で課税かを判断することになる。

分配がE&Pを超過すると、まず株式簿価を減額し、簿価がなくなると超過額はみなし株式譲渡キャピタルゲインが認識される。このキャピタルゲイン部分に関してUSS株式がUSRPIでなければ外国人であるFPに対する課税はない。一定のFIRPTAペーパーワークは付きまとうけどね。でもPriority規定は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9)」で触れた通り、税額ではなく所得額に基づく比較。これは2011年最終規則でPriority規定を最終化した際に敢えてそんな設計を選んでいた。さらに2011年最終規則では、比較時にKiller B規則側の所得として加味する金額にみなしキャピタルゲインも含むと明言している。

となると源泉税対象の配当所得は少額だけど、配当所得に加えてみなしキャピタルゲインもKiller B規則の所得額に加算され、これをsection 367(a)でトリガーされる所得額と比較して大きい方の規則を優先することになる。Priority規定の比較時にFPに課税がないにもかかわらずみなしキャピタルゲインも加味しちゃうっていう点は直観的に大丈夫?って思うかもしれないけど、2011年最終規則では敢えてそのような設計チョイスをしてしまってるんで規則解釈的には不合理ではない。

Section 367(a)下の所得

で、比較対象のもう一方の数字となるSection 367(a)下の所得だけど、Killer B特集の初版Early Beatles時代にKiller Bの予備知識としてSection 367全体を軽くおさらいした際に(a)に触れてるんで詳細はその時の「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (2)」を見て欲しい。簡単にsection 367(a)をおさらいしておくと、米国人が組織再編その他のSub Cの非課税規定を利用して外国法人に含み益を持つ資産を移管すると、移管先の外国法人はSub C非課税規定適用目的では法人格を否定され、結果、多くの非課税規定の適用が停止されてしまうっていう規定。その際、移管される資産は事業資産ばかりでなく含み益を持つ株式のケースもSub Cの非課税規定適用対象であればsection367(a)の対象となる。

株式移管に関してはInversion取り締まりの観点から特別なルールが規定されてて複雑。2004年にSection 7874が制定されてInversionの対象となる法人を罰するアプローチが導入されるまで、section 367(a)が米国におけるInversion対抗策だった。Section 7874とは異なり、Inversion的な取引に従事したと取り扱われる法人の米国株主が持つ株式の含み益に課税するアプローチ。このSection 367(a)下のInversion対策規則は財務省規則のsection 1.367(a)-3に規定されてて、1993年のHelen of Troy取引を基に規定されたことから我々の間では「Helen of Troy」規則って呼ばれている。ただ、このHelen of Troy規則はInversion対策としては余り効果がなかった、すなわちInversionは構わずに増えていった点は2016年に5か月23回大特集ボックスセットの「Inversion/インバージョン(プラスSpin-Off)(1)」で開始したシリーズで触れてるんで興味あったら読んでみて欲しい。Section 1.367(a)-3は移管対象となる株式が米国法人のものでも外国法人のものでも双方共に適用があり歴史的に異なる規則が規定されてるけど、当然、米国法人株式に対する規定の方が厳しい。

Section 367(a)とIndirect stock transfer

で、上の例に戻るとUSTの旧米国株主はUST株式をTriangular B型再編でUSSに移管してFP株式を対価として受け取っている。「だったら外国法人に資産移管してないからsection 367(a)は関係ないじゃん」って思った人はストラクチャーをフォローしてるんで座布団2枚。でも、ここで登場してくるのがsection 1.367(a)-3に規定される「Indirect stock transfer」だ。Indirect stock transferは前々回のポスティングでその存在には触れたものの、説明すると長くなるからって規定内容そのものには触れなかったんだけど、今回の例に関係する範囲に限定してここでチラッと触れておく。すなわち、外国法人FPに支配される法人S(米国内外を問わない)がTriangular B型再編でT株式を買収する場合、FP株式を(Sから)受け取るTの米国人株主はsection 367(a)目的でT株式をFPに移管したと取り扱われる。となると米国人株主はT株式を外国法人(FP)に移管してることになるんでSection 367(a)対象取引になる。

上の例だとUSTの米国人株主はUST株式を形式的にはUSSに移管してるけど、Section 367(a)目的ではFPに移管したことになる。しかも例ではFP株式の75%を受け取ってるんでUSTがInversionされたかのようになり(50%ルールに抵触するんで)UST株主を法人一社とするとHelen of Troy規則で課税される。場合によっては大きな課税となりかねない。

Priority規定の効能

そこで救世主として登場するのがPriority規定。Indirect stock transferでトリガーされるSection 367(a)対象所得額がKiller B規則の配当およびみなしキャピタルゲインの合計額より小さい場合、Section 367(a)はTurn-offされる。だけど、Killer B規則で確かに形式的に所得は認識はされるけど、少額の配当源泉税以外はFPには実際の課税はないから、Killer B規則下の見た目の所得額が大きい場合、Section 367(a)の潜在的に大きな課税負担を少額の配当に対する30%源泉税と交換することができる。

上の例ではUSSに少額のE&Pを認識させた上でのKiller Bなんで2011年最終規則のルールには表面的に合致しているけど、さらにもう一歩先を行く主張としてUSSにE&Pがないにもかかわらず、もしあったら条約で免除されずに課税されただろうからNo-US-Tax例外規定は当てはまらないっていうものもあった。概念的にはアグレッシブだけど、条文的には「P would not be subject…」という文言で「would」を本当は分配じゃないけどKiller B規則で分配とみなしてるっていう意味に加え「もし配当があれば」っていうニュアンスも含むんであれば可能な解釈のようにも見える。

2014年Notice新規則案

これは大変ということで2014年Noticeでは、これら不適切にも程がある(?)2011年最終規則の解釈・使用法に網を掛けようとした。上で既に触れたみなし現金出資全面撤廃に加えて、Priority規定を次のような改訂するとしている。まず、Priority規定適用検討時にsection 367(a)所得と比較するべきKiller B規則下の所得は「源泉税対象となる配当」および「実際にPに課税される範囲のみなしキャピタルゲイン」、そして「PがCFCの場合でPが認識する配当やみなしキャピタルゲインがSub FとしてPの米国株主の課税所得に合算される額」に限定するとしている。この改訂は2011年最終規則の税額ではなく所得で比較っていう概念は踏襲しつつも、所得が認識されても課税ない場合には比較時の所得に加味しないっていう税効果も考えるハイブリッド的なアプローチを取っている。

No-US-Tax例外規定に関してはKiller B規則のみなし分配に源泉税対象となる配当がなければNo-US-Tax例外規定が適用され、section 367(a)があればそちらで課税されることにするとしている。さらにPがCFCの場合にはNo-US-Tax例外規定の適用はない点を確認するとも提案している。すなわちTriangular ReorganizationでPがCFCの場合、Priority規定を含むKiller B規則の適用があるっていうことになる。2011年最終規則ではPとSが両社とも外国法人でどちらもCFCでなければNo-US-Tax例外規定が適用されるってなってたはずで、その内容とは合致してるけどダメ押し的な確認なんだろうか。

新規則適用開始日

2014年Noticeで提案されている新規則は原則、Notice公表日に当たる2014年4月25日以降にClosingするTriangular Reorganizationに適用があるとしている。とは言え、Noticeって法的な効果は持たないんで概念的にはNoticeの内容を反映した正式な財務省規則が最終化されて初めて過去遡及効果を通じて2014年から法的拘束力を持つことになる。何の前触れもない過去遡及はアンフェアなんで原則認められないと考えられるけど、Noticeが公表されている場合はその日に遡るのは珍しくない。最近、CAMT、自社株買い、IRA拡張再エネクレジット、R&D支出の資産計上とか多くの緊急課題に関して、正式な規則案を出して最終化っていう時間的な余裕がないためスピードの関係からNoticeが乱発されてるけど、納税者にとって有益なSafe Harbor的な規定を含むNoticeは、法的効果はないけど納税者による準拠が許される「Reliance」規定が含まれてることが多い。

2014年4月って文字通り10年前。規則公表をどれだけ待ってて、2023年末に案とは言え規則が公表されたときのExcitingな驚きはここまで読んでくれた読者には分かってもらえるね?現時点では規則案なんでNotice同様に法的な効果はない。ただ、2014年Noticeでは、Noticeで問題視している取引は既存の2011年最終規則に基づいてもIRSによるチャレンジの可能性ありと釘を刺している。

以上が2014年Noticeだったけど、Killer B物語はNever Ending Storyのようにまだ続いていく。2016年Noticeだ。次回は2023年の規則案が出る前の最後のNoticeとなるこの2016年Noticeに関して。

Friday, March 22, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (10)

前回は遂に今日現在でもKiller Bに対する公式な規則としてSurviveしてる2011年最終規則に触れた。この時点でKiller Bサガの4分の3くらいはカバーした感じかも。今回のポスティングでKiller B特集はPokerに例えると「No more buy-in」で「Big blind is $1 million」みたいなFinal Phaseに突入する。Texas Hold’emを4人でプレーしてて、最初のプレーヤーがフラッシュ、次がフルハウス、その次がHigher Handのフルハウス、そして最後はストレートフラッシュ、とかハリウッドにしかあり得ない展開に近い迫力でKiller Bをフィニッシュさせたい。Killer Bは取引自体も対抗規則も共に高度に複雑な部類に属するんでなんだかんだ言って長編になってるけど、「We hope you have enjoyed the show」。ようやく「We're sorry but it's time to go」で「It’s getting very near the end…」だね。。

2014年Notice

Killer B規則最終化の2011年5月19日から僅か3年弱の2014年4月25日、IRSはNotice(「2014年Notice」)を公表し、またしても「子会社「S」が適格組織再編の一環で、P株式をS株式以外の資産を使って取得し、P株式をT株式またはTの資産取得対価とする取引で、PまたはSの少なくとも一社が外国法人のケース」に関して規則を策定するって宣言した。「え~、その取引って2006年Notice、2007年Notice、2008年規則案・暫定規則、2011年最終規則で取り締まるって言ってた取引そのもので規則は既に最終化されてるじゃん」って思ったかもしれないけど本当にその通り。最終規則まで出てんのにまた~?そうなんです。規則は2011年に最終化しては見たものの、納税者に出し抜かれて(?)規則を強化する必要が出てきたっていう展開。ここからKiller B物語のFinal Phaseが幕開ける。

難攻不落と思われた2011年最終規則だったけど…

2006年から5年の歳月を費やして最終化されたKiller B規則は大阪城級の難攻不落なものになってたはずだった。ちなみに難攻不落と言えば、一般には地味なイメージがあるかもしれないけど実は凄いのが小田原城。全国最長規模のお堀を駆使した城郭で他のお城に負けずに難攻不落。小田原って江戸の直ぐ西っていう戦略的ポジションに位置してるんで、もちろん江戸を西の敵から守るっていう重要機能を担ってたんだろうね。今日でも小田原散歩すると随所に当時の城郭の面影を見ることができる。復元だけど銅門とか迫力満点。お天気のいい日はわさび漬けとかまぼこだけ買って素通りしないように。

で、section 367(b)の西(?)を守ってたはずのKiller B城は米国MNCの城攻めに合って屈してしまった。ということは米国MNCって上杉謙信より強いってこと?

SがPからP株式を取得する際の現金みなし出資

またこの話し~?って思うよね。みなし分配された後に当現金がみなし出資で一旦Sに戻るのか戻らないのかは紆余曲折を経て2011年最終規則に至った点は以前のポスティングで触れた。この辺りのサガに関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9)」等を見て欲しい。簡単に変遷を復習しておくと、2006年の元祖NoticeではKiller B規則の神髄と言えるアプローチ、すなわち「外国法人が関与するTriangular Reorganizationの一環で、SがPからP株式を現金対価で取得する場合、現金対価の支払いは分配同様と取り扱います」っていうフレームワークが導入された。この2006年Notice段階ではみなし出資への言及はなかった。

2006年NoticeとS株式簿価

SからPへの現金移管が分配になるってことはSのE&Pの範囲でPは配当所得を認識する。E&Pを超えると最初にPのS株式簿価減額、次にS株式みなし譲渡益となる。2006年Notice時点では「みなし分配として取り扱われる場合、P株式はSにどうやって移管されたって取り扱われるんだろう?」って疑問は何となく残ってた。2006年NoticeのConstructとしては、みなし分配扱いは「PによるP株式のSへの移管」とは別取引って位置づけられてたんで、その場合、仮に会社法的にはPがT株主に合併等の買収対価として直接P株式を交付したとしても、少なくとも税務上はP株式はSの手にわたらないとTriangular Reorganizationにならないんで、PによるP株式のみなし現物出資になるのかな~程度に考えていた。これらの検討は単にP株式がどう移管されたってRecastするかっていう学術的な議論に留まらず、Recastの結果、取引にかかわる各資産の簿価がどのように変動するかっていう点も加味する必要がある。資産の簿価って将来のNOLだし、NOLは資産簿価の化石、って考えると双方の価値が理解し易い。NOLとの比較において簿価の有無や大小に比較的無頓着なケースを見ることがあるけど、これらの属性の価値は基本的に同じだ。結晶化(?)してるかどうかだけの違い。

2006年Notice風のアプローチに基づき、PのS株式に対する税務簿価を考えてみると、Sに潤沢なE&Pがある前提で、みなし分配をもってPのS株式簿価は減額されない。配当だからね。もしかしたら一部Sub Fに基づくPTEPがあり、簿価減額ポーションはあるかもしれないけど、Killer BはSのE&Pをsection 367(b)その他の障害物を潜り抜けて非課税で米国にRepatするのが主たる目的なんでSに潤沢なE&Pが存在してるって言う前提で考えておくべき。じゃなければわざわざこんなIntricateな取引に従事しないだろうからね。

じゃあ、Killer B規則のみなし分配後、PがP株式をSにみなし出資したってみなすとすると、Pの持つS株式簿価は例のゼロ簿価をどう考えるか次第なんで確固たるルールはないんだろうけど、おそらくゼロになるって考えられる。Section 1032とゼロ簿価の恐ろしい話は「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (6)」でまあまあ深堀りしたつもりなんで興味があったらそちらも読んでみて欲しい。ゼロ簿価だとすると、みなし分配とS株式みなし株式出資の時点でPのS株式簿価は取引前後で変動が見られないことになる。

Triangular Reorganizationと株式簿価

Triangular Reorganizationの世界では、次にSがP株式を対価にT株式やT資産を取得し、要件を満たせば各々Triangular B型再編/(a)(2)(E)のReverse Triangular MergerでA型再編、(a)(2)(D)のForward Triangular MergerのA再編になるけど、その際にPが持つS株式簿価調整はKiller Bの規則ではなくて通常のTriangular Reorganizationに適用される一般的な簿価算定ルールが以前から存在する。

まず、Forward triangular mergerの場合、実際にはT資産は合併でSに移管されるけど、Pが持つS株式の簿価調整目的では、あたかも一旦Pが直接ReorganizationでT資産を受け取り、T負債を継承したとみなされる。その場合、Pが受け取るT資産の簿価はTの簿価をそのまま継承する。で、もちろん実際にはPはT資産なんか受け取ってないんで次にT資産および継承負債をSに移管したとみなす。となるとPが持つS株式簿価はT資産の簿価マイナスT負債のネット額になる。このネット額が従来からのS株式簿価に加算される。

Reverse Triangular Mergerのケースも再編後にPが持つT株式の簿価調整に関しては、Forward Triangular Mergerと同様にアプローチする。すなわち本当はSがTに合併するんだけど、T株式簿価算定目的ではあたかもTがSに合併したかのようにみなして上のForward Triangular Mergerのステップを踏襲して計算する。もともとPが所有していたS株式の簿価はT株式の一部となる。米国でM&Aかじったことあるみなさんはご存じの通り、Reverse Triangular Mergerを活用して株式買収する取引は結構多くのケースでsection 351の適格現物出資、または後述のB型再編にも同時適格になる。その場合は上述のReverse Triangular Mergerに適用されるS株式簿価調整、またはsection 351やB型再編だったら行われるであろう簿価調整のどちらか好きな方で簿価を算定してOKとされてる。Reverse Triangular Mergerが条件を満たせばSection 351になるっていうのは多くの読者の皆さんが感じるであろう印象よりずっとパワフルかつInnovativeな取引を可能にする。Horizontal Double Dummyとか。Section 351にも支配要件はあるけど、組織再編と異なりContinuity of Interestはないんで英語でいうところの「nifty」なプラニングが可能になる。

次にTriangular B型再編時のS株式簿価調整。Killer Bの「B」はB型再編のBなんでB型再編時の簿価調整を語ることなくKiller Bの話しを継続する訳にはいかない。Forward Triangular MergerとかのRecastと似てるけど、まずTriangular BではPがT株主から直接B型再編でT株式を取得したとみなす。で、もちろん実際にはT株式はTriangularでSが取得してるんで、次にPがみなし取得したT株式をSに移管したと取り扱われる。これを簿価調整の視点から見てみると、最初のPによるみなしT株式取得時にはPが持つT株式簿価は原則、T株主の簿価を引き継ぐ。次に来るPによるT株式のSへの移管時には、SはPが一瞬認識したT株式を引き継ぎ、PはSに移管するT株式簿価と同額S株式簿価を増額させる。

2007年NoticeとS株式簿価

続く2007年のNoticeで初めてみなし出資に言及がある。2007年NoticeはP株式をPからではなく第三者やPの株主から取得するパターンにもKiller B規則を適用するって強調し始めたんで、それをきっかけにみなし出資の考え方が導入される。この時点ではSがP株式をPそのものから取得する取引にはみなし出資は適用されず、P以外の者からP株式を取得する際に適用があるって規定されていた。これは、でないとどうやってP株式がSの手元に移管され、また譲渡人にどのように対価が渡ったかの整理が難しかったからだろうか。すなわち、一旦Killer B規則に基づきSがPに現金をみなし分配する。でもP以外からP株式を取得してる場合、SはPには1ドルも支払ってないんで、PはKiller B規則のみなし分配で受け取った金額をSに即みなし出資して、Sはそれを原資にP株式を取得したっていう姿を演出することができるってことなのかな~って無理やり納得したもんだ。このポジションは翌年の2008年暫定規則でもそのままだったと思う。

2011年最終規則とS株式簿価

2011年最終規則ではみなし出資はP株式をPから取得した場合にも適用があるって規定した。このケースも要は現金分配だけではP株式はSの手元に渡らないんで、Sに一旦現金を出資したかのように取り扱い、その後に別取引としてSがP株式を時価取得したかのように取り扱うんだね、ってストラクチャー的に納得感十分でスッキリした感じで終わっていた。その時点の気持ちよさは超カッコいいロックのリフを大きなボリュームでブラストする、みたいな快感。カッコいいリフってPurpleのBurnとかZeppelinのWhole Lotta Love、古くはThe BeatlesのI Feel Fineとかたくさんあるけど、Top 20リストを個人的に作成する際に複数(結構たくさん)リスト入りするのはVan Halenだろう。Van Halenは「Somebody Get Me a Doctor」とかカッコいいリフやソロが多すぎてどれも甲乙つけ難いけど、敢えてここで一曲取り上げるとすると「Unchained」かな。Sus 4を多用したクラシックなリフだけど、今聴いても凄すぎ。開放弦E低音のフランジャー効果とかカッコよすぎ。Eddie Van HalenはギターTuningする際に全ての弦を半音下げてるんで絶対音感を持っているとEフラットに聞こえるのはそのため。Jimi Hendrixも同じことしてたよね。Bendingが派手かつ容易ってメリットはあるけど個人的には弦がベロベロするんで一長一短だな~って感じてて、Van HalenやHendrixコピーするときだけ半音下げてた。それにしてもEddie Van Halenってテクニカリティー的にも凄まじいVirtuosoだけどプラス抜群なセンスの良さが加わって向かうところ未だに敵なし。

Van Halenってデビューアルバムが出た直後に厚生年金会館、セカンドアルバムが出た後に武道館にライブ見に行ったけどEddie Van Halenのギターソロ的には一回目はEruption時代、2回目はSpanish Fly時代だった。ちなみに和文タイトルの件は前回のポスティングでも話題にしたけど、Van Halenのケースも当時のご多分に漏れずデビューアルバムは米国ではシンプルに「Van Halen」なんだけど日本ではなぜか「炎の導火線」(笑)。Eruptionに至っては歌詞もないのに「暗躍の爆撃」。他にも「お前は最高」とかムードぶち壊しな和文タイトルが炸裂してて懐かしい。セカンドアルバムでもこのTraditionは継続してて米国ではまたしてもシンプルに「Van Halen II」なんだけど日本でのパワーアップは止まるところを知らず「伝説の爆撃機」(大笑)。爆撃機ってなに~?って感じだけどね。セカンドアルバムに収録されているD.O.A(Dead or Alive)の和文タイトルが「生か死か」ってなってたけど、これチョッと感じ出てなくてフ~ンて思うよね。D.O.Aは19世紀の米国西部でならず者を指名手配する際にDeadになってもいいから捕まえて下さいっていう意味で、間接的におたずね者を殺しても罪には問われないっていうニュアンスだからね。歌詞も「Wanted~」(指名手配)ってDave Lee Rothが叫んでるしね。

あんなにアメリカンでギターカッコいいロックバンドはVan Halenが最初で最後だろうね。その後しばらく日本には来なかったけど、ロサンゼルスって言っても正確にはIrvineだったけど、ボーカルがSammy Hagerになってから見に行ったことがある。Sammy Hagerも凄いけどやっぱりDave Lee Rothの下品さが恋しかった。Eddie Van Halenのギターは相変わらず良かったから個人的にはそれが全てだったけどね。

で、2011年最終規則でみなし出資が常に適用ってことになってストラクチャー的にはスッキリしたんだけど、S株式の簿価を考えるとチョッと不思議な結果になる。Van Halenで興奮してチョッと長くなってきたんでここからは次回。

Saturday, March 9, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (9)

前回は2006年および2007年のNoticeを受けて、2008年に遂に初のオフィシャルKiller B対抗規定が暫定規則および規則案(内容は双方同一)として公表されたところまで漕ぎつけたんだけど、深夜0時を回ってMozartの誕生日となったところで打ち止めになった。0時を回る前はEddie Van Halenの誕生日だったね。

2011年最終規則

2008年の暫定規則は2011年に最終化され、暫定規則そのものは撤回されている。暫定規則はsection 1.367(b)-14Tだったんで最終規則はTemporaryの「T」が外れてただの「-14」になると思いきや番号が代わりSection 1.367(b)-10に生まれ変わった。Killer B特集をトリガーすることになった2023年の規則案は未だ案なんで、この2011年最終規則は今日時点でもKiller B対抗策のオフィシャルバージョンだ。

Section 367(a) v Killer B規則の優先順位

2011年最終規則は原則2008年暫定規則の内容を踏襲しながら、いくつか注目に値する微調整が施されていた。

2008年の暫定規則にはKiller B規則の対象となる取引がSection 367(a)にも同時に抵触する場合の優先順位にかかわる規則が盛り込まれていた。いわゆる「Priority規定」だ。Section 367(a)に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (2)」で比較的詳細に触れてるんで興味があったらぜひ読んでみて欲しい。CFC課税が導入される30年も前の1932年に導入された米国人がSub Cの非課税規定を利用して資産を外国法人にアウトバウンド移管すると、含み益を課税するっていう趣旨の規定。課税は資産移管先の外国法人を非課税規定適用目的で法人とはみなさないっていう一見まわりくどい方法で譲渡益をトリガーする規則で、その基本的なアプローチは90年以上経った現在も変わらない。

どんなケースでKiller B規則とSection 367(a)が共存し得るかっていうと、例えばSがP株式を現金対価で取得して当P株式を対価にターゲット法人Tの株式を取得するとTriangularのB Reorganizationになる。その際、P、S、Tが全て外国法人でTの旧来株主が米国法人だとすると、取引全体はReorganizationだけどSection 367(a)でT株主はT株式の含み益に課税が生じる。正確に言うと課税は生じるけどTが外国法人なのでGain Recognition Agreement(「GRA」)をIRSと締結して、譲渡から5年以内にトリガーイベントがなければ実際に税金を支払うことにはならないはず。これはT株式を「Indirect transfer」したっていう特別な扱いになるんだけど、367(a)のIndirect transfer規定を語りだすとポスティング2~3回は費やすことになるんで含み益が課税対象になるっていうsection 367(a)下の結論だけ触れておく。一般的に米国人株主が外国法人株式を譲渡する際にsection 367(a)に抵触すると、外国法人のE&Pに対する合算課税は大丈夫~?っていう観点が付きまとうんで常に(a)と(b)のオーバーラップ懸念にかかわる検証が必要で、そのためにコーディネート的な規則がある。Killer B課税はsection 367(b)の一派だけど、2008年暫定規則のPriority規則では、section 367(a)で米国株主が認識する譲渡益が2008年暫定規則に基づきKiller B課税でみなし配当となる金額より低い場合、section 367(a)の課税はなく、Killer Bのみなし配当課税のみ適用があるとしていた。

実はこのPriority規定は呪われた夜と言え、2008年暫定規則から2011年最終規則で手が加えられたけど、2011年以降もKiller Bが絶えなかった理由の一つとなる。ちなみにイーグルスの「呪われた夜」って英語の原題は「One of These Nights」で、歌詞の内容的にこんな邦題を命名したっていうのは十分に理解できるんだけど、呪われた夜がリリースされた頃は僕たちまだ子供だったんで、友達と「One of these…」って英語で「呪われた」って意味だったんだね、とか話し合ってたInnocentな時代だった。最近はわかんないけど昔は結構なケースで英語の曲名に邦題が命名されてたよね。結構面白いのが多い。ビートルズのディラン風John Lennonの曲「You've Got to Hide Your Love Away」が「悲しみはぶっとばせ」(笑)だったり、Jimi Hendrixの名盤Bold As Loveに収録されてた「Ain’t No Telling」が完全に誤訳で「みんなおしゃべり」とか(正しくは「そんなことは分からない」的な意味のThere is no tellingの口語なんでさすがに後年この邦題は消滅)。

Priority規定は何と何を比較?

で、2008年暫定規則下のPriority規定はsection 367(a)にかかわる例外規定の適用は無視して米国株主がsection 367(a)下で認識するであろう譲渡益とKiller B規則に基づきみなし配当となる金額を単純に比較するものだった。すなわち、所得そのものを比較するんで、その結果生じる米国法人税の大小が比較される訳ではない。例えば、米国外法人Pの米国子会社Sが米国法人TをP株式を対価に買収する際、SがP株式をPから現金対価で取得するとKiller B規則で取得対価は分配となる。分配はE&Pの範囲で配当になって米国内法では30%源泉税対象だけど条約の適用が可能だと5%とか0%に減免される。したがって所得額ではなく最終的な税額で比較すると結果が逆転するケースもあるけど大丈夫?っていう問題が2008年から2011年の間に浮き彫りになりつつあった。

とは言え、最終的な米国税負担額を使うことになると、条約だけの影響に留まらず、P、S、Tという全ての登場人物の税務属性、例えばE&Pはいくらあるの~?とかを総合的に加味して考える必要が生じて実務面での運用が難しいという現実に直面する。そこで2011年最終規則では、原則、2008年暫定規則通りに所得額で比較するアプローチは温存しつつ、2つのタイプの取引はKiller B規則適用除外とする、という対応策を盛り込んだ。除外取引の一つ目はPとSが双方ともに外国法人でCFCではないケース。2つ目はPが外国法人でSが米国法人のケースだけど、PがSから受け取る配当はECIでなく源泉税が条約で免税になり、S株式がUSRPIでないケース。要は双方ともにSがPからP株式を取得する際の現金対価をKiller B規則で配当にしたところで米国で課税はない取引だ。これらのケースでTriangular Reorganizationに関してsection 367(a)の適用がある場合にはKiller B課税ではなくsection 367(a)に軍配が上がるということになる。

まあ、Killer Bって主に米国企業がCFCから米国側の課税なしでE&PをRepatする際のプラニングとして検討されてたと思うんで、2011年最終規則に設けられた2つの例外の適用対象となるKiller Bが実際にどれだけ存在したかは興味深いところ。

PのSecurities

2008年暫定規則やその前身のNoticeでは、Killer B規則はSが現金等の対価で「P株式」を取得する取引が適用対象だったけど、2011年最終規則ではこれを「P債券(Securities)」の取得にも適用を拡大してる。T株式、Securities、資産をTriangular Reorganizationで取得する際、対価にP株式に加えてSecuritiesを使用するケースがある。対価がSecuritiesだけだと通常は持分継続に問題があるって考えられるんでSecuritiesは株式に加えて使用される。株式適格組織再編やスピンオフ時に使用されるSecuritiesは7年等の長期債券で、T債権者と交換されないといけない。債権者は株式またはSecuritiesを適格対価として受け取ることが認められる一方、T株主はSecuritiesと株式を交換しても適格対価にはならない。適格ではない対価を組織再編を語る際には「Other property」って呼ぶんだけど、これは俗に言うBootのこと。また買収時にOutstandingだったT債券の元本を超える額のSecuritiesはBootと取り扱われる。OIDの場合、ここで言う元本が組織再編時の「Adjusted Issue Price」なのか、単純に「額面」なのかっていう結構ベーシックな適用に関して未だに明確なルールがなかったりして不思議。

で、2011年最終規則ではPのSecuritiesがT株主またはT債権者にとってBootになる範囲で、SによるPのSecurities取得をKiller B規則の対象にするって規定している。P株式はBootになるかならないかにかかわらずKiller B規則の対象だ。

PのSecuritiesがKiller B規則の対象になったんで、Priority規定にもその点が反映され、T株主およびT債権者がsection 367(a)下でsection 367(a)例外規定の適用を無視したら認識したであろう譲渡益が、Pが認識するKiller B規則下のみなし配当に加えてE&Pの金額および簿価を超えて認識されるみなし譲渡益の合計、より低い場合にはsection 367(a)の適用は停止される。逆に前者の金額をsection 367(a)の例外規定込みで算定し、そっちの金額が後者より高い場合には、Killer B規則の適用が停止され、section 367(a)のみ適用されることになる。Section 367(a)例外規定の適用有無が双方のテストで異なったりしてPriority規定も複雑。

SがPからP株式を取得する際のみなし出資

2008年暫定規則では、Killer B規則に基づくみなし分配後のみなし出資はSが「P以外」の者からP株式を取得するケースのみに認定されると規定されてた。これは個人的にはチョッと釈然としてなくて、もともと2007年のNoticeで初めてみなし出資に言及があった際には、P株式は実際にはSに移管されてるんで、SのPに対する現金分配っていうKiller B規則のRecastだけではP株式はSに移管された取り扱いにならないんで、SがPからP株式を取得した場合も、第三者からの取得同様、みなし出資が認定され、その後形式通りにP株式取得があったって取り扱うのが当然だろうって考えてたんだけど(「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (7)」)、2008年暫定規則ではそうなってなかったんで「う~ん、ということは普通にPからP株式を取得するKiller Bの場合は分配があったきり?」って不思議だった。つまり、じゃあP株式はどうやってSの手に移管されるんだろうね?っていう単純な疑問だ。2008年暫定規則は第三者からの取得のケースのみにみなし出資が認定されるって明言されてたんで、SがPからP株式を取得する場合、P株式譲渡にしても分配にしてもSから受け取る現金等の対価は実際にPの手元に残ってるんで、P株式の取得は実際に起こるとした上で対価の現金受け取り部分だけに分配同様の効果を持たせるってことなんでしょうか?とか「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (8)」で触れた通りモヤモヤした気持ちで3年間を過ごした。

2011年最終規則ではこの点に修正があり、SがPから直接P株式やSecuritiesを取得する際もみなし分配後にみなし出資があったって取り扱うって規定された。これで超スッキリ。

2011年最終規則その後のKiller Bサガ

ここまで完璧にKiller Bを封じこめたかに見えた2011年最終規則。それでストーリーが終わってたら、今回のKiller Bシリーズのポスティングはなかっただろう。2011年後、予想に反してKiller Bはさらに進化し、2014年のNotice、それを受けて変身を続けたKiller Bに対して2016年には更新Notice、そして遂に2023年10月には新規則案公表に至っている。2016年から7年間待ち焦がれてた規則案の思わぬタイミングでの公表に興奮して、まるでローマ帝国の歴史を紐解くかのように長編に着手っていう展開になってるのでした。ポスティングを読んでもらえればテクニカル面で魅せられざる得ないであろう点、IRSと納税者間の息を呑む知恵比べ、の両面から興奮せざるを得ない点は十分に分かってもらえるだろう。

ということで次回からKiller B物語はいよいよFinal Phase。Pokerだったら「No more buy-in」で「Big blind is $1 million」みたいなPhaseに突入だ。

Friday, January 26, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (8)

前回は新年早々、Killer Bに網を掛ける目的で公表された2006年と2007年のIRS Noticeに触れた。2006年NoticeでIRSが策定予定の規則内容が明らかにされたけど、それはKiller B最初のステップとなるSによるP株式取得対価としてSが支払う現金を、取得対価ではなくDistribution(SのE&Pの範囲で配当所得)とするというもの。当時はまだ2017年のTCJA以前の世界だから多くのE&Pは米国では未だに課税されてない「Pure」なE&Pだったし、増してや外国源泉配当にかかわる100%DRD制度なんてなかったから、Distribution扱いされるとPは配当所得を認識することになる。「SにE&Pがなかったらラッキーだね」って思うかもしれないけど、そんなんだったらKiller BみたいなIntricateというか入り組んだストラクチャーを使わないでも、単純にSがPにDistributionしてもPが持つS株式の簿価の範囲で課税はない。また、当時、CFCからの受け取る配当所得には間接税額控除が認められてたけど、FTCで配当課税をオフセットできるんだったら単純に配当すればいい訳でKiller BはLow-Tax PoolのCFCの留保所得を米国に還流するのが狙いっていう基本を忘れてはいけない。Killer Bの「こころ」はSに多額のLow-Tax PoolのE&Pがあり、この埋蔵金をProhibitiveな米国課税を生じさせることなく合法的にPに持ち帰る点にあった。

で、2006年Noticeで「こんな規則にしますよ」って告知があり、2007年には前回触れた通り、2006年Noticeの補強Noticeが公表された。2006年NoticeでみなしDistribution案が披露されてたけど、それだけではP株式がSの手に渡らないんではって思われたんで、2007年NoticeではみなしDistributionの直後に同額をPがSに今度はみなし出資したって取り扱うっていう移転価格の二次調整みたいな取り扱いに言及されていた。みなし取引ってフィクションだから多くのフィクションが登場すると課税関係の検討が大変だよね。2006年NoticeでもみなしDistributionはSによるP株式取得とは「別取引」として認定するって言ってたんで一般には直後のみなし出資になるんだろうって解されてたけど、2007年Noticeでは実際にその点に触れてくれたように見えてて、「それはそうだよね」ってなったんだけど、結局その後の規則ではチョッと異なる表現だったんで、この点は後述する。

二次調整フィクション

移転価格の二次調整の話しがでたけど、99‐32とか、APAのRepatメカニズム、MAPのCompetent Authority Repatとか、実際の取引形態と異なる課税を強制する際にどうしても登場せざるを得ない必要悪というか複雑なメカニズム。

移転価格でPrimary Adjustmentがある場合、その相手方の米国税務上の取り扱いもPrimaryと整合性を持たせないといけない。Corelative Adjustmentだ。ただ、整合性を持たせてCorelative Adjustmentを強制したたところで取引の相手方が対象取引に関して米国で法人税申告義務のない外国法人、例えば日本親会社、の場合、二重課税救済策としては意味がない。米国側の税務調査でトリガーされるPrimaryとCorelative AdjustmentsはBilateralのAPAがない限り原則、米国税法の話しなんで、米国でPrimary Adjustmentがあったからと言って外国の税法上、もちろんだけどCorelative Adjustmentは認められない。それどころか米国とは関係なく税務調査が行われてたりすると逆方向のPrimary Adjustmentで課税されるリスクすらある。

そんな訳で米国税務調査でPrimary Adjustmentが生じると二重課税だから、MAPに助けを求める局面だ。いずれにしても米国の視点からはPrimaryとCorelative Adjustmentsを反映させる必要があり、それらは実際の取引価格に基づく課税所得とは異なる取引価格に基づくことになる。米国で課税所得増額のPrimary Adjustmentを受けたとすると、その額に関して相手方はマイナスのCorelative Adjustmentが入り、結果としてPrimary Adjustmentを受けた米国法人は本来認識するべき資産・留保所得と比較して、Primary Adjustmentの金額に関して実際の取引ベースに基づく低い額の資産・留保所得しか認識してないことになる。相手方の日本親会社は逆に米国税務上、本来認識するべき資産・留保所得と比較して、少なくとも米国の視点からはCorelative Adjustmentの金額に関して実際の取引ベースの過多な資産・留保所得を認識してしまっている。

ここの辻褄を合わせるため、米国子会社は日本親会社にみなしDistributionをしたと取り扱われる。Primary Adjustmentの方向が逆ならみなし出資だけど、米国の調査でPrimary Adjustmentがマイナスってケースは少ない。このみなしDistribution等をSecondary Adjustment(またはConforming Adjustmentと呼ばれることもある)って言う。米国移転価格税制上、このSecondary Adjustmentは強制。日米間のようにDistributionがE&Pに基づき配当になっても源泉税が免除されてれば実務的なダメージはないけど、いろんな国の租税条約を見ると配当源泉税はゼロ%とは限らないし、そもそも米国と租税条約がない国も少なくない。

例えば米国と租税条約がないシンガポール法人が米国子会社との取引に関して同様のPrimary Adjustmentが行われる場合、調整額は30%の源泉税対象になる。面白いことにSecondary Adjustmentは強制だけど、Secondary Adjustmentを帳消しにしようとして本当に資金を動かすっていう取引は原則認知されてない。え~、じゃあSecondary Adjustmentに30%源泉税払うのが嫌だからってPrimary Adjustmentと同額をシンガポール親会社から米国子会社に現金移管するとどうなっちゃうの?原則的な答えは単にそんなことしてもそれはSecondary Adjustmentとは別の取引として課税関係を考える必要が生じ、Secondary Adjustmentのみなし配当とは別に出資が行われたかのように取り扱われる。みなし出資を受けるっていうRecastの場合、Killer Bでさんざん触れたsection 1032や場合によってはsection 118で米国側にダウンサイドはないからフ~ンって感じだけど、みなし配当っていうSecondary Adjustmentを帳消しにできないのは痛い。

それはチョッと気の毒…ってことで、特別な選択が認められててPrimary Adjustmentが確定した時点で、Secondary Adjustment同額に関して米国子会社がA/R、方向によってはA/Pを設定し、90日以内に精算したり云々とメカニカルな条件を満たすとPrimary とCorelative Adjustmentsに準じた資金移管が調整の一環で認められる。で、この方法を使うとストレートなSecondary Adjustment後の資金移管と異なり、資金移管そのものに源泉税その他の課税関係は生じない。他にもOffsetとか手法が認められることもある。米国子会社に対する米国の移転価格調整そのもの、すなわちPrimary AdjustmentでトリガーされるCorelative、Secondary、Conforming等を総称して「Collateral Adjustments」とか表現するんで移転価格の調整を考える際にはどのAdjustmentの話ししてるのか、またその方向を良く考えないとね。特にCorelativeとCollateralは字面が似てるんで注意。

で、Killer Bに戻るけど、2007年NoticeではさらにSがP株式を既にP株式を所有しているP以外の者、例えばPublic Shareholderから取得する取引にも同様の取り扱いを適用する可能性がある点、さらに2006年Noticeに基づく取り扱いを迂回するため、E&Pが少額の主体を形式的にSとしてKiller Bを敢行する場合には、S以外の主体のE&Pを加味してみなしDistributionが配当がどうか判断、という乱用防止規定も設ける点にも言及していた。う~ん、だんだん納税者側のオプションが少なくなってきたね。

2008年暫定規則

2006年と2007年のNoticeで告知されてた内容に沿って、2008年には暫定規則(Temporary Regulations)が公表されている。Section 1.387(b)-14Tだ。最後のTは暫定って意味のTemporaryの頭文字。暫定規則と同時に、同一の規則が規則案としても公表されてる。なんでそんなややこしいことをするかって言うと、規則案だけでは規則に法的な効果がないんで、法的効果は最終規則と同じ暫定規則も同時に公表して暫定的に法的な効果を持つ規則とするため。暫定規則なんで法的効果を持つ一方で規則案としても公表されてるんでパブコメとかインプットを受け付けてさらなるTweakをした後に規則を本当に最終化することができる。その暁には当然、暫定規則は撤回となる。

で、暫定規則の内容は2006年および2007年Notice内容に準じてるんだけど、数点、より踏み込んでる部分がある。

PによるS支配有無

まずSがP株式を取得する時点で必ずしもSはPに支配されてなくても暫定規則のルールを適用するとしている点。これは面白い発想で、Triangular ReorganizationっていうのはT株式やT資産を取得するSが、Sを支配している「Controlling Corporation」のPの株式を使う取引だからだ。Controlling Corporationじゃない他法人の株式をランダムに使って資産や株式買収しても当たり前だけどTriangular Reorganizationにはならない。え~、でもKiller BってTriangular Reorganizationを利用した非課税Repatのはずじゃんって思うよね。暫定規則が敢えてPがSを支配してないタイミングでSがP株式を取得する状況に触れてるのは、SがP株式を取得した後に支配関係を構築してTriangular Reorganizationにするようなステップを踏んで巧みに最初のP株式取得自体はTriangular Reorganizationとは関係ないんでKiller Bじゃないですよ、っていうような議論を封じるためなんだろう。納税者もいろいろ考えるよね。この点を明確にするため、暫定規則は「Plan of reorganization」に基づきSがP株式を取得する取引を対象にしているとは規定されていなくて、代わりに「In connection with the reorganization」でSがP株式を取得という表現を使用している。

Section 368(c) Control

ちなみにここでいう支配「Control」は組織再編や適格現物出資に適用されるファンキーなsection 368(c)のControlのこと。すなわち、クラスに限らず議決権をトータル80%以上、そして議決権のないクラスがあれば、その「株数」の80%以上を所有している場合にControlが認められる。価値と関係ない点が特徴で適格清算や連結納税グループの判断時の価値および議決権の80% Controlとは異なる。Section 368(c) Controlは定義的に比較的容易に議決権を付与するしないで好きな時に達成できる。スピンオフのHigh Vote Low Value株式の使用もこの点に着眼したストラクチャーだ。

Bear Stearns

非課税取引が好ましくない場合には敢えて議決権のない優先株式を取得せずにControlをBustしたりする。この手法の適用例としては2008年金融危機の際に、J.P. Morgan ChaseがFRBのバックアップでBear Stearnsを救済した際の買収法が有名。Bear Stearnsの救済は翌日には倒産という状況で行われたんで当時の株主が所有していた株式はもちろん含み損の状態。そんな状況でJ.P. Morgan Chase株式との交換が非課税再編になってしまうとSection 354 Exchangeになってしまい含み損が実現しない。J.P. Morgan Chaseが交換してくれる株式はBear Stearns株式当たり0.21株だったって開示されてたから経済的には大損してもだからBear Stearns株主にとっては泣きっ面に蜂(これこそKiller B?)だ。まあ、その後J.P. Morgan Chaseの株式を市場で売却すればBear Stearns株式の高い簿価に基づくExchanged Basisになってるから損は認識できるけどね。で、J.P. Morgan ChaseによるBear Stearns買収はReverse Triangular Merger(この買収法に関しては「Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (4)」で詳細触れてるんで忘れちゃった読者、またはそもそも読んでない方は読んでみて欲しい)で行われ、Bear Stearnsの普通株式はMerger LawのマジックでJ.P. Morgan Chaseの普通株式に転換された。それが話しの全てだったらB Reorganizationまたは(a)(2)(E)のA ReorganizationでBear Stearnsの株主にはSection 354で非課税交換となってしまう。そこで、Bear Stearnsには議決権なしの優先株式が存在している点に着眼し、優先株式はJ.P. Morgan Chaseによる買収の対象外としている。ということは買収直後にJ.P. Morgan ChaseはBear Stearnsに対して税務上のsection 368(c) Controlを持ってないんでB Reorganizationにならない。またBear Stearns株主はJ.P. Morgan Chase株式とControlに至るBear Stearns株式を交換していないんで(a)(2)(E)に基づくA Reorganizationにもならない。Bear Stearns株主がControlを持たないんでもちろんSection 351にもならない。結果としてBear Stearns普通株式をJ.P. Morgan Chase株式と交換した株主にはSection 354の非課税規定が適用されず、通常の株式譲渡同様に損失が認識される。J.P. Morgan ChaseのBear Stearns買収は他にもオプションが盛り込まれていたりCorporate Tax的に関心度の高い取引だ。Prime-SubのHigh-Grade Structured Credit FundとかHigh-Grade Structured Credit Enhanced Leveraged Fundとかが原因で80年以上の歴史が瞬間的に終わってしまったSurrealな出来事だった。

Killer Bに用いられる「Property」

Section 301扱いされるみなし分配額はP株式取得対価としてSがPに支払う現金およびそれ以外の資産(Property)の時価。ここでいうPropertyは前々回Hook Stockやゼロ簿価の話しでチラッと触れたSection 317で定義されるProperty。すなわち原則S株式は含まれないはずなんだけど、SがP以外の者からP株式を取得する際にはS株式を含むとしている。また暫定規則ではSection 317の定義に加え、PropertyにはSが継承するPの負債も含むとしている。

みなし出資

で、例のみなし分配後のみなし出資だけど、暫定規則ではSがP以外の者からP株式を取得するケースのみ、みなし分配の直後にみなし出資があると規定している。う~ん、ということは普通にPからP株式を取得するKiller Bの場合は分配があったきりってことになる。じゃあP株式はどうやってSの手に移管されるんだろうね。ここは難しくて、おそらくだけど、現金等はP株式譲渡にしても分配にしても実際にPの手元に残るんで、P株式の取得は実際に起こるとした上で対価の現金受け取り部分だけに分配同様の効果を持たせるってことなんだろう。一方、P株式をSがP以外の者から取得する場合、実際には現金はPの手に渡らないんで、一旦みなしでPに現金を分配してPに課税した直後に、PがSにみなし出資で現金を戻し、Sはその現金を使ってP株式を取得したっていうフィクションになる。

Anti-Abuse規定

そして暫定規則には約束通り(苦笑)Anti-Abuse規定があり、暫定規則のKiller B対抗規定を迂回する目的で従事される取引に関しては、形式的にみなし分配で課税が起こらないような状況でも「無理やり(?)」適切な処理をするとのこと。暫定規則の例では、Pが通常のKiller Bのように潤沢なE&Pを持つSにP株式を譲渡する代わりに、新規に組成されるNew S(新設なんでE&Pゼロ)を見た目の取得者とし、従来から存在してるSがNew SによるP株式取得を実質ファイナンスしてるみたいなストラクチャーの場合、New SのE&Pは従来から存在するSのE&Pも含んで考えるということ。

2008年暫定規則その後

まあ、こんな感じで2008年暫定規則は2006年および2007年Noticeの流れそのものなんで大きな驚きはなかったって言える。Pから株式取得する元祖Killer Bのみなし出資がない部分は一瞬考えたけどね。で、暫定規則はその後最終化され、Killer Bも懲りずに進化していく。この進化がなければ2023年の規則案も不要だったことになるからね。深夜を回ってMozartの誕生日となったんでここからは次回。

Wednesday, January 17, 2024

Killer B (Triangular Reorganizationを利用したRepatプラン) 財務省規則案 (7)

(チョッと遅くなったけど)明けましておめでとうございます!2024年もよろしく。皆様、新年はリラックスできまたでしょうか。新年早々の地震や羽田空港の衝突炎上にはビックリしたけど、被害を受けられた方には心からお見舞い申し上げると共に皆様のご無事をお祈りします。

1月の地震っていうと日本だと1995年1月17日の阪神淡路大震災を思い出す。またちょうどその1年前に当たる1994年1月17日には南カリフォルニアをNorthridge Earthquakeが襲っている。Northridgeの時はWest Los Angelesに居たけど、揺れるっていうよりも洗濯機や乾燥機の中で回ってるみたいだった。Santa Monica Fwy(Fwy 10)のLa Cienegaオーバーブリッジが落ちたり相当な被害だった。直後は周りのみんな非常食貯えたりしてたけど、天災は忘れた頃にやってくるんでその後の備えはどうなってしまったのでしょうか。当時は携帯とかSocial Mediaがなかったんで情報収集は不便だったかもしれないけど、逆にパニックやデマが少なかったように感じる。

で、新年早々Killer Bに戻るけど、前回のポスティングで特別なルールが規定される前のKiller Bの税務上の取り扱い、少なくとも納税者が税法を律儀に適用してそうだろうと信じてた取り扱い、に関してステップバイステップで触れた。

IRSによる新ルール

前回のポスティングでお分かり頂けた通り、Killer Bは決して脱法的な取引ではなく、当時のSection 367(b)傘下の規則やSection 1032等のルールを律儀にTriangular Reorganizationに適用して課税関係を決めていた取引だ。そんな適用に基づき「外国子会社でCFCのSの留保所得を現金でPに非課税で移管する」っていう結果となり、これは「外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引を取り締まる」っていうSection 367(b)の1975年当初からの立法趣旨に真っ向から対立し、当然ポリシー的に財務省やIRSは何とか手当てしないと不味いっていうまあある意味分かり易い展開となった。

で、どんな風に手当てしたかって言うと、Killer Bの第1ステップとなる「PがP株式を現金対価でSに移管」の現金移管をP株式移管とは別取引として「SによるPへのDistribution」とみなすというのが骨子。このルールが規定される前のKiller Bは、このステップを形式通りPが自社株式を対価に現金を受け取る取引、って整理してSection 1032でPに所得認識はない、としていた。もう一方の当事者となるSは単純に現金でP株式を取得したことになり、Sの手に入るP株式の簿価はSection 1012のコストベース。

Distributionとして取り扱われるってことは普通にSection 301でSのE&Pの範囲でPは配当所得を認識(2017年以前はDRDはない代わりにFTCはあり)、E&Pを超える額はまずPが所有するS株式の簿価を減額し、減額し尽くしたら超過額はS株式のみなし譲渡キャピタルゲインとなる。配当と取り扱われる金額に関してSのE&Pは減少。TCJA以降のGILTIの世界と異なり、SのE&PがKiller B以前にSub FとしてPで合算課税されるケースはかなり例外的だったと言えるけど、もしそんな所得があればE&Pは課税済み(Previously Taxed)になってるんで、その分は再度Pで課税されることはない。Section 367(b)の「外国法人の(当時はSub Fで)課税されていない留保所得が課税されることなく米国に還流される取引を取り締まる」っていう立法趣旨的にも既にSub Fで合算済みであればそんなE&Pがそれ以上の課税なく米国に還流されることは問題視されない。

更にIRSはSがP株式をPそのものから取得する代わりに、関連者が一旦PからP株式を取得し、Sがその関連者からP株式を取得するようなステップ取引にも同様のルールを規定するとしている。SがP株式を上場マーケットで取得とか、非関連者から取得する取引に関して特別なルールが必要か否かはパブリックコメントをリクエストしているに留まっていた。

「え~でもPからSへの現金移管がDistributionだったらP株式はSの手に渡んないじゃん」って不思議に思った読者が居たらちゃんと考えて読んでてくれてるんで偉い。本当にその通りで、この点をどうRecastして考えるかに関して2006年のNoticeでは特に触れられてなくて、2007年に慌てて(?)公表された補足Noticeでその部分の取り扱い意図が明確にされている。というか明確になっているように見えた。上述の通り、みなしDistributionをKiller Bの第1ステップとなる「PがP株式を現金対価でSに移管」する取引とは別取引と位置付けてる点をもってIRSがどんなRecastを念頭に置いていたかある程度図り知れてたけど。この点は実際の規則状の取り扱いに関して後述する。

2007年Notice

2006年のNoticeのインクが未だ乾き切っていない2007年5月、補足Noticeが公表されて、PからSへの現金移管をみなしDistributionと取り扱った直後に、同額がPからSにみなし出資されたって取り扱われる旨が確認されている。この段階でみなしDistributionにかかわる課税関係、主にPによるSのE&P額の配当所得認識だけど、を達成しながら形式はKiller B直前の大本の状態に戻る。さらにみなし出資されて元通りになった直後に、Killer Bの第1ステップとなる「PがP株式を現金対価でSに移管」って取引が生じた取り扱いとなり、このステップおよびその先のステップの取り扱いは従来のKiller Bにかかわるものと同じだと規定されている。

また、2006年Noticeで言及されていた関連者を介したP株式取得に加えて、2007年NoticeではPの株主からSがP株式を取得する取引にも網を掛けるとしている。P株主は持分次第で必ずしもSection 267とかでPやSの関連者には当たらないケースがある点に気が付いたのかもね。

2008年暫定規則と2011年最終規則

これら2つのKiller B Notice後、ついに満を持して2008年に暫定規則、続いて2011年に最終規則が公表される。ここからは次回。

Sunday, December 31, 2023

2023年大晦日「ゆく年くる年」

今年は結局ほとんどのポスティングをFIRPITA系とKiller Bの話しに費やしたけど、あっという間に大晦日。Times Squareのボールが落ちるまで後数時間ってタイミングであちこちから打ち上げ花火の音とか聞こえ始めたりして2023年も大詰め。FIRPTAとKiller B以外にもいろいろとトピックはあったよね。そんなトピックのいくつかをランダムに振り返ってみたい。

R&D支出の資産計上

2017年の税制改正で規定され2022年から施行されてるR&D支出(正確には「specified research or experimental (SRE) expenditures」)の資産計上および5年(または15年)償却規定。そのうち議会が廃案にしてくれるでしょうっていう期待は叶わぬまま大晦日になってしまった。2024年1月には何か起こるんじゃないかって淡い夢を抱きながらも暦年の法人は既に資産計上して申告書を提出済みだし、3月決算の日本企業も1月15日には申告期限が訪れる。

一点助け舟的だったのが9月に公表されたNoticeで研究開発を受託者として請け負っている者(「Research Provider」)は、研究開発に関して経済的リスクを負わず、かつ開発したIP(正確には「SRE Product」)の所有権を持たないケースはSREの支出をしているとは取り扱われない、って規定された点。多くの日本企業の米国子会社が従事する「研究開発」は親会社からの受託なんで条件を満たせば資産計上の対象にならない。研究開発を委託している者(「Research Recipient」)のSRE支出になるってことで一安心した日本企業米国子会社も多いのでは。ただ、独立企業の米国法人がResearch Recipientの場合は、そっちで資産計上すればいいんだけど、Research RecipientとResearch Providerが関連者だったり、更にResearch Recipientが外国法人の場合は特別なルールを検討するべきかどうかコメントを求めてるんで、もしかしたらNoticeに基づく規則案が公表される際には条件が厳格化される可能性はある。とは言え、このNoticeは納税者に「Reliance許可」を与えてるんで現時点ではNoticeのポジションで申告OKってことになる。

ヘッジファンド・Buyoutファンド

BuyoutファンドがLBOする際に調達するDebtのコストが上がり、また金融機関がシンジケートできる自信がなかったりでそもそもDebtがAvailableじゃなかったりして、BuyoutファンドによるM&Aは2023年激減。DealチームがDebtの調達に苦労しているんで、ファンドレベルの借り入れがよりクリエーティブに。Sub-Lineはここ何年も当たり前の存在になってるけど、NAVローンがBuyoutファンドにも浸透。またDebt供給サイドにDirect Lendingファンドがますます活用されるようになってる。

新規のDealへの影響ばかりでなく、既存ポートフォリオに希望するようなValuationがつかないんで、アセットの売却も思うようにいかない。ということはLPになかなか現金を分配できない。ファンドの既存LP、特にペンションファンドとかはシリアル投資家が多いから、ファンドスポンサー的には次号のファンドを立ち上げる際の資金調達時に頼りにするもんだけど、従来LPはファンドからWaterfallで現金分配を受け取って、それを次号ファンドの投資に充ててたんで、この歯車が狂ってしまって資金調達にも悪影響が多い。

Buyoutファンドは10年+の有限Termなんで、いつまでもポートフォリオを所有し続けるわけにいかない一方で、ファンドをCloseするタイミングが必ずしもポートフォリオ譲渡のベストなタイミングに当たるとか限らない。これは2008年の金融危機(「GFC」)の時も大きな問題となったけど、その際に編み出されたテクノロジーがその後、進化を続け、今日ではGP-LedのSecondaryのContinuation Fundがすっかり定着。しかも2009年とかには二束三文で仕方なくポートフォリオを移管して始まったGP-Ledだけど、今ではパフォーマンスの高いポートフォリオをGP-Ledで移管し、LPにはLiquidityオプションを提供し、GPはCarryをCrystalize(実際にはRolloverすることも多いけど)、さらなるValue UpにGPとして貢献でき、またSecondaryファンドで新規に調達される資金で移管対象ポートフォリオにAdd-On投資したりして、End of Fund Life時の解決策とするケースが目立っている。Cross-Fund Trade同様GPが売り手であり買い手でもあるんでConflictの解消法には最新の注意が払われているみたいだけどね。ファンドスポンサーは既存ファンドのLPAを隅々まで読んでRecycle条項を最大限利用しようとしたり、新規ファンドにLPを刺激し過ぎない範囲で今回の経験を活かした条項を導入したり、いつもながらその進化度合いには目を見張る。2024年は選挙の年なんで一定の利下げも規定され、Deal復活の年になるでしょうか。

ファンド周りのタックス関係のトピックとしてはケイマンヘッジファンドのYA Globalが裁判で負けて巨額のECIにかかわる源泉徴収義務違反に問われている。またファンドのUpper Tier系の話しでは、LPSとして組成されるManagement CompanyのLPがSelf-Employment Tax(通常の従業員のFICAに相当)対象となるかどうかも争われてこちらもファンドが裁判で負けてる。

IRSファンディング

$80Bという巨額のファンディングが付いたと思ったら、Appropriationその他のプロセスで実際にはいくら減額とか、紆余曲折あるけど、ファンディングでIRS税務調査や規則策定に勢いが出てるのは間違いない。パートナーシップに対する税務調査強化、移転価格文書内容の精査、国外関連者に対する支出がBase Erosion Tax Benefitになり得るかどうかの検討と関係する棚卸資産への支出の資産計上の濫用対抗、と戦々恐々としている納税者も多いのでは。

大谷選手

Angelsの近所球団、ロサンゼルスDodgersに高給で迎え入れられた大谷選手。巨額の契約金に関しては大きく報道されているけど、報酬のストラクチャーは複雑。本当のタックスじゃないけど、裕福な球団が優秀な選手を買い占めないようにMajor LeagueにはCompetitive Balance Tax(別名Luxury Tax)っていう制度がある。チョッと簡素化して言うと球団が選手(40人のRoasterベース)に支払う年間報酬合計が特定の金額(2024年の金額は$237M)を超えると超過額に1年目は20%、2年連続だと2年目は30%、3年連続だと3年目は50%の懲罰金が課せられる制度。超過額が多額になるとSurchargeも発生する。徴収された金額はMLBのBenefit契約等に基づいて再配賦されるそうだ。大谷選手の給与ストラクチャーはLuxury Taxに抵触しないよう後年に繰延報酬として支給されるってメディアで報道されてるけど、もしかしてLuxury Taxだけでなく、カリフォルニア州みたいな高税率州からテキサスとかフロリダに引っ越した後に受け取るようなことまで考えてるのかな、って直ぐにタックスの視点から考えちゃうのは夢がないかもね。

2024年

2024年11月は選挙。大統領府、両院の構成がどうなるかでタックスにかかわらずアメリカの近未来が大きく変わる。すべてがToss-upなんで一体全体どんな結果となりますでしょうか。

ということで皆様も良いお年をお迎え下さい。1月は引き続きKiller Bだね。