2014年9月17日水曜日

『セイレーンの政治学』書評2

『図書新聞』(2014年9月20日号)に後藤美和子さんが『マラルメ──セイレーンの政治学』の書評を書いてくださいました。ありがとうございました!

2014年7月25日金曜日

『セイレーンの政治学』書評

立花史さんが『週間読書人』(7月25日号)に『マラルメ セイレーンの政治学』の書評を書いてくださったようです。ありがとうございました!

ヌービュルジェ。

すこし前の盤ですがヌービュルジェのサントリー・ホール・ライブ(2007年)を久しぶりに聞きました。バッハのイギリス組曲第2番で始まり、ショパンのバラード第二番、ノクターン(op. 15-1)とつづき、ラ・ヴァルス、リストのロ短調ソナタを経て、古風なメヌエットまで。この人の演奏はとてもオーソドックスですが、言葉の本来の意味で、つまり奇をてらわずに正鵠をついた演奏になっているのですね。リストもとても巧い。驚かされることはほとんどないのだけど、聞いていると自然と力がこもり、音楽のうちに連れ去られていく、という感じです。日本でリサイタルがあれば実際に聞いてみたい若手のひとりです。

2014年7月12日土曜日

クロリスに

ある企画でふとレイナルド・アーンの歌曲「クロリスに」を思い出しました。スーザン・グラハムが歌う英語訛りのフランス語に独特の魅力があります。
https://www.youtube.com/watch?v=hblAmLvg55g
きわめて抒情的な作りなのに、抒情の凡庸さに陥っていないところが、とてもすごい。

S'il est vrai, Chloris, que tu m'aimes,
Mais j'entends, que tu m'aimes bien,
Je ne crois point que les rois mêmes
 Aient un bonheur pareil au mien.
Que la mort serait importune
De venir changer ma fortune
A la félicité des cieux!
Tout ce qu'on dit de l'ambroisie
Ne touche point ma fantaisie
Au prix des grâces de tes yeux.

もし、クロリスよ、ぼくを愛してくれているなら、
いや、とても愛してくれているのは分かっている、
王様だって、ぼくほどに
幸せだとは信じられない
死がやってきてぼくの運命を変え
天国の至福をくれるとしても
うんざりしてしまうにちがいない!
アンブロシアを求めて語られるどんな言葉も
ぼくの思いを動かすことはない、
君の優美な瞳に比べれば。

2014年7月11日金曜日

「ノアは、子らと、妻と、子らの妻たちと箱船に乗った。」

 ちょっと前ですが、妻に連れて行かれるままに『ノア 約束の舟』を見てきました。結果は... 微妙な映画でした。ノア(ラッセル・クロウ)は個人的に好きな俳優でしたので、比較的楽しく眺めていることができました。ノアの三人のむすこたちセム、ハム、ヤフェトのうち、妻がいるのはセムだけで、しかも彼女は襲われたときに受けた傷で子供が産めない体になっています。ノアは自分にも妻を、というハムの願いを頑なに拒み、彼が連れ帰ってきた娘を混乱のなかで見捨てて死なせてしまいます。ノアは人類の絶滅が神の意志だと確信しており、自分たちの家族も子孫を増やすことなく死に絶えていく運命にあるのだと考えていたのです。父を恨むハム。ハムはノアの宿敵トバル・カインにそそのかされ、父を殺そうと思うも、結局カインの方を殺します。ノアは奇跡的に生まれてきたセムの双子の娘を殺そうとしますが果たせず、こうして人類の当面の存続が保証されることになりました……。父子の対立、結婚問題、少子化?... と現代の諸問題が古代に投射された映画で、また、岩の番人が暴れ回ったり、箱船に鳥や蛇や動物たちが大挙してやってくるシーンなどではCGが大活躍ですが、映像としての喜びはほとんど感じられず、物語内容のたんなる記号という印象を強く持ちました。
 で、妻をもてぬことを父を恨んだハム君ですが、じつは『創世記』(VII-7)には「ノアは、子らと、妻と、子らの妻たちと箱船に乗った。」と書いてあります。あららら.... ハム君にもちゃんと妻がいて、仲良く箱船に乗れたわけです。だとすると、その後の壮絶なドラマも不要だったわけで... 結局あの映画はなんだったのだろう?という後味の悪い印象が残りました。
 驚くべきは、この聖書協会訳の「ノアは、子らと、妻と、子らの妻たちと箱船に乗った。」という訳文。ここには反復による独特のリズムがあります。いまの普通の翻訳者はこんな風には訳せないでしょう。いわゆるこなれた訳ではないけれど、力強く文体性を感じさせる姿をしています。

 でも、どうでもいいことですが、ジェニファー・コネリー(ノアの妻)はいしだあゆみに似ているなあ...