朝陽の中へ

おもに海や歴史に関する文章掲載、架空(火葬)戦記や二次創作小説の掲載を行います。since2008.06/22

火葬戦記「レッドサン・ゼロ・メイジ」各章へのリンク集

2010年01月04日 18時39分40秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
※本作は、筆がおもむくままに書き上げられたものです。
そのためにごった煮のつぎはぎのようなものであり、大規模な修正、または改作か削除を想定しております。

※本作はフィクションです。実在の人物団体とは一切関係ありません。





1、「日本転移の部―――(本作は「ゼロの使い魔」の二次創作で、日本最強・科学万歳系のイロモノ戦記です。原作キャラのオリキャラ化や戦記ものが苦手な方、原作イメージを大切にしたい方、ツンデレ好きの方にはご利用をおすすめいたしません。ご鑑賞は自己責任でお願いします。
また「ゼロの使い魔」はヤマグチノボル先生の著作です。)
―――――――――――――
本編のページへ
資料集のページ冒頭へ
世界地図へ
戦艦「津軽」図へ

        ―――――――――――――

1、日本編(合衆国転移編)へ
2、接触編(迫撃の白百合旗編)へ
3、鷲は舞い降りた編(反撃の赤竜旗編)へ
4、逆撃のダイナモ編(アルビオン・ストライク編)
5、富国強兵編(バーニング・シティ編)
6、旭の逆襲編(東京の優しくない掟編)
7、日はまた昇る編(可能行動編)
8、派遣艦隊出撃編(祖国統一工作基本準備案・『甲』、編)
9、タルブの陥葬編  (進撃目標、東京!編)
10、アルビオンPKF編(暁のアルビオン編)
11、ウィンチェスターは燃えているか?編(かくて我らがアルビオンは死にゆく編)
12、愚行の葬列編(三島法務官は権力を愛する編)



「統一戦争の部」―――本編は、前作「日本転移の部」の8年後を舞台にした自己満足的な火葬戦記です。
戦記ものとしての品質は保証できません。
また原作との著しい乖離や独自設定、独自解釈満載です。そういったものが苦手な方はご観賞を自己責任でお願いします。
                
―――――――――――――
1、「胎動編(戦争計画)」
2、「地には平和を編(ハルケギニア 2043年)」
3、「神は永遠に幾何学する編(核:奔流)」
4、「宣戦布告編(日本の征けぬ海はなし1)」
5、「星1号作戦編(黙示の時)」
6、「史上最大の海戦編(勇者のごとく倒れよ)」
6.5「幕間編(彼/彼女が生きる理由)」
7、「反撃の双日編(少し遠い場所)」
8、「J弾薬投射量編(ある国家の戦死)」
9、 「天の火編(日本のゆけぬ海はなし2)」
10、「聖地編(塔は無慈悲な世界の女王)」
              ―――――――――――――

各話リンク集へ


「終章」――本篇は、「レッドサン・ゼロ・メイジ」の、「日本転移の部」と「統一戦争の部」の共通の「種明かし」として製作されています。
いきなりSFも入っています。
ネタばれや、本編をよんでいないとわからないことが満載につき双方を読まれてから鑑賞されることをお勧めします。
              
―――――――――――――
終章1、(天の光は――編)へ
終章2、 災厄のはじまり編へ

              ―――――――――――――
「そして、光」編へ
エピローグ(予定)へ

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余白

2009年08月14日 18時23分38秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
【蛇足のようなものですので、あまり気にしないでくださいw】




私が今見ている現実に対して疑念を持ったのはいつだったろう。
確か13か4の時。
それは意外に早くも濃密な時間の中で増大し――今では恥ずかしい限りだが自分の身体に対する興味の増大から翌年には頂点に達した。

父の言葉を借りるのなら――そう。中二病というやつだ(こんな言い方をしたら、「お父さまと言い方がそっくりでいらっしゃる」といわれてももう気にならなくなってずいぶん経つ)。

まずあったのが、科学やら哲学、あるいは宗教でこの世を説明しつくそうとする試み。
単に自分に分からないことがあることが我慢できず、またそれを勉学の果てに極めようとする覚悟もなく、それでいて「私はこれをこれだけ知っているんだぞ!」とドアから飛び出して道行く人すべてに言って聞かせたいという自己顕示欲と、常識や社会性といったものとの葛藤の結果だった。


何のことはない。

甘酸っぱい青春の一ページというやつだろう。



私は今思い出せば何だが、親の愛というものは十分すぎるほど味わって育った。
別に、恵まれない人のために作られた今で言う「子育てAI人格」ではない。

告白すればあの優しくも厳しく最適化された「ねえや」のように自然と愛を浴びて育てるという幸運を成人するまで実感はできなかった。

その点で私はずいぶん親に甘えていたのだろう。




その甘えは、私をやんちゃにさせたが非行には走らせなかった。
ことに父が歴史の教科書に一行でも名前が載っており、名前を聞くだけで自衛軍の衛視たちが敬礼で迎える人物であること(姿かたちこそアレだったが)。

そして母たちがいずれも重要な地位を占めるだけの能力があり、功罪を学者たちが論じ合う程度の価値があるということは幼い砂場に覚えた幼稚な責任感を強化するには十分だった。



さて。
そんな私が、当時は非常に珍しかった完全義体の特種型に再現された二次性徴期に何を思っていたのかというと、「この世界は醜い」というものすごくイタイ考えだった。
そして幸か不幸か――私の量子カオス型統合電脳の記憶中枢には、ジャンク化していたとはいえ27万回ほどの情報の再構成を行えばわかるだけのデータが格納されていた。

本編でも語ったが、現実世界の私の周囲の人々の名前にそっくりのキャラクターたちが登場してくる作品のデータに当時の私はずいぶん驚いたものだ。

そして――それが現実世界がコンピューター上に再現された仮想現実か何かだと勝手に確信する根拠になった。



懺悔を続けるのもまた見苦しいのでそろそろまとめに入ろう。


この文章は私が言わずと知れた古典仮想歴史ゲームの草分け的存在「レッドサン・ホワイトサレナ」上で行ったプレイの記録である。
当時の私はいざ真実を確かめてやろうとばかりに、模範プレイからは完全に離れたものを行っていた。
そのために、第2部の統一戦争以降は史実や模範プレイ以上に悲劇的な国家総力戦と化し、おまけに様々な矛盾(具体的にはキャラクターの口調がかわったり同一人物のはずの人間が同時に複数存在している)が噴出している。

さらには、最終的には物語途中での退場という形になってしまい、結局は私は「絶対的な真実」を見つけることができなかった。




その後は私の生活や受験と就職といった筋道を通り、このプレイのこともほとんど忘れてしまっていた。

だが――去る4月に航宙自衛軍を退官し、自宅で次の就職先が決まるまでの間をぼーっと過ごす中で、ふとこの思い出をたどることになった私は、よく言われるように唐突に記録を残そうと思い立った。


理由?


それはこれを呼んでいるあなたがよく知っているのではないだろうか。

この、少なくとも1000年が経過するまでは厳重に政府や管理電脳の奥底へと格納されている古風なデータに辿り着いたような人間なら。


どういった理由でこれを探しだしたのかは知らないが、おそらくあなたは絶対的な真実とか、政府が隠した陰謀などというものに少なからぬ労力を傾けたことだろう。


だが、あえていわせてもらう。

残念でした。



今の世界は別に陰謀やら隠された秘密によって運営されてはいないし、奇妙な秘密結社や宗教団体に動かされるほど簡単にできてはいませんよ。

今の世界に不満があるのなら――まぁ世界といってもあなたの身の回りだけのことでしょうけれど――自分でそれを変えてみなさい。

ここまでこれたのならあなたにはその力があるはずですよ?


ゴホン。失礼しました。



ともかく、今まで見てきたことで何を思うのもそれはあなたの自由です。
でも、物語の中の登場人物にとって物語世界が世界であるように、今生きている私たちにはこれが世界です。

胡蝶の夢を現実で証明しようとしても無理なようにね?



今のあなたは、統一戦争が2058年に開戦したことは覚えていますか?
聖エイジス32世が信仰の中興者として全ブリミル教徒の尊敬を集めていることは?
魔法の管理のために設立された国際魔法管理機構がイエルサレムで発した魔法解放宣言は?


正史を疑う、結構。

この世界は物語、結構。


別に否定はしませんよ。


でもね。
あなたの頭の中身がすべての人と同じであるという保証なんて、太陽は東から昇るって常識と同様にないのですよ。



ええ。

今あわてて頭の記憶を総点検しているでしょうあなた。
もう遅いわよ?

絶対な真実なんてばからしい考えは捨てなさいな。


つまるところ、私がやったのは物語。
歴史も様々な人によって語られる物語。



うん。

QEDなんて言うつもりはないわよ?





――――主人公2人の娘より。


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???

2009年08月08日 01時10分05秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
エピローグ(予定)9へ



――いつか、どこか分からない場所で――




「それ」はゆっくりと広がっているようで、その実広大なアインシュタイン時空から比べればあまりに狭苦しい場所にあった。

そこでは電磁パルスが交わされ、量子共有状態によって並列して多くの情報がやりとりされていたはずだったが、今では弱々しい発火信号がやりとりされてるに過ぎない。



さらにいえば「それ」は憎悪をたぎらせていた。


逆恨みといってもいいかもしれない。

「それ」は万能に――少なくとも「それ」自体はそう認識していた――近い能力を持っていた。


しかし、「それ」は目的を果たすことができなかった。


目的が何であったのか、その意義が何であったのかは、一次元方向に流れゆき、今また「それ」を俯瞰風景の突端に押しとどめようとする圧力の彼方に散逸されている。


もう少し簡単にいってしまえば、「それ」は、それ自体を構成する情報をフラットに変えつつ、熱湯に落とされた氷のように急速にそれは存在を消しつつあった。




「それ」は憎悪をつのらせた。
憎悪という理性の揺らぎが存在すること自体驚異的だったが、純粋な情報の中に生じた裂け目は、「それ」自体の崩壊を加速させていく。




こうしてはいられない。



思考することでさらに崩壊を加速させてはいたが、「それ」にとり時間は十分だった。
必要なものはすでに見つけてある。


うまい具合に必要なものがある場所は大規模なエネルギー擾乱(『戦争』というと「それ」を構成する情報は連結を行い、認識させた)を起こしており、必要なものがなくなっても何の不思議もない。


超重力崩壊を起こす寸前を狙えば物理の網の目を逃れられるだろうし、特異点の寸前は「それ」にとって経験則としての得意分野だ。
更に、擾乱を起こしている一方は「それ」にとってひどくなじみ深い情報を共通項として含んでいた。



座標を指定し、つなぐ。


成功。



何事かを成し遂げたことに対する安堵と達成感を覚えつつ、消滅の数秒前に「それ」は思い出した。

そして、思考する。


現在の状況に至る要因を。



思い至った。
憎悪を復活させそうになるが、それは自重する。


それよりもいささか不謹慎な感情が「それ」を包む。



あいつだ。

そうだ。
あいつが、あいつのまわりのやつらがいなければ。


「それ」は数ピコ秒で考えをまとめた。


いけるかもしれない。

別の宇宙に情報の圧縮種子を送り込む。
そのエネルギーは隣接時空のものをワームホールで送り込もう。

そうだ。
あいつを苦しめよう。

見知らぬ世界で朽ち果てろ。




「それ」は自身の計画に悦に入った。

だから忘れていた。


自分がどうして失敗したのか。



歴史の流れは人の意思が主体であるという単純な事実を。




そして、二つの世界は繋げられる。
ある人間たちのために。




「あんた・・・誰?」



だが、それはまた別の歴史(ものがたり)。





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エピローグ(仮)9  【完結】

2009年08月08日 00時32分02秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
エピローグ(予定)8へ



「さて。それだけやって得られた事実の価値はどれだけだったのやら?」

「さて、ね。俺が事実だと思っているものでさえ、お前さんのような頭の中身にまで手を出せるのは――電脳にハッキングをできたり、普通の脳みそに現実と変わらない幻を見せられたりする能力があるのにとっては夢幻か虚構だろうし、たとえばこのよのすべての観測者に夢を見せられればそれは現実にとってかわる。」

ああ、やっぱり疑っているのか。

と、私は少しげんなりした。
有名な胡蝶の夢の故事のように、見る側にとってみれば夢も現実も、区別はつかない。

人間が自分を認識するには、過去から現在までの自分の行動記録である「記憶」と、現在の自分への「観測」とを照らし合わせることが必要だ。
では――記憶が書き換えられて、さらには現実もそれらしく形作られてしまえば?


ナノマシンやピコマシンは、文字通り万能機械として相転移機関から得られる莫大なエネルギーで物質を何もない部分から作り出すことさえ可能だ。
しかし、それよりもはるかに小さなエネルギーとはるかに小さな模擬演算容量で大陸の形は変わるし、ましてや建築物も同様だ。

よくよく物語で見られる「仮想現実のほころび」というものもさして問題にはならない。

認識する側の情報自体を書き換えるか、すべて――つまりは生物の分子も含めたすべてをコントロールするのではなく、自然に任せてしまえばほころびを見せる可能性はぐんと減る。

明らかな人工物は万里の長城のようなものでない限り簡単に作り上げられるし、だいいち小さい。
手間暇を考えなければ、核爆発で町が吹き飛ぶならばそれと同じくらいの純粋な力をもって街を作り上げることはできる。
あとはそのベクトル(力の向き)を制御できれば問題は簡単に解決するのだ。



また――こちらの方がはるかに簡単だが―― 一方通行の時間軸に従って流れる三次元空間プラスアルファを現実と定義するのなら、これを操作するのはさらに簡単だ。
影絵を考えてみてほしい。

最新の超大統一理論(GUT)では物理単位の根源は10のマイナス36乗メートルという「プランク長さ」ほどの「36次元上で振動する『チューブ』」と定義されている。
つまり、人間が現在見ている宇宙は、いってしまえばこの36次元やら12次元やら、ともかく多くの軸が存在する空間に浮かぶ巨大な「平面」――「Dブレーン」の影絵ともいえる。

なら現実世界たる宇宙を変えるには、この影の映り方を変えてしまえばいい。
そんな干渉を許さないのなら、質量のあるニュートリノなどというものが光速で宇宙を飛び回ることはあり得ないし、常温超電導などという質量保存の法則に反した事象など起きようがない。

完全な対称性に満たされた宇宙なら、我々は存在せず、ただ広く均一に広がるナニカがあるのみだろう。
第一無から宇宙がビッグバンによって生まれるなんて、あり得ないはずだろう。



操作するのは、ちょっとした部分だ。
広大な宇宙という影絵の隅に、もうひとつの影の『もと』を作る。
影は干渉し、新たな形になる。
別に永久に影が存在する必要はない。

影が光源や「もと」から遠ざかるにしたがって薄くなるように、時間という距離で遠ざけられた未来ではあらゆるものが意味をなさなくなる。

魔法のおおもとにしたって、超能力といわれるものにしたって、そして幽霊や妖怪変化といわれるものにしたってあの影と日向の間にある「はざま」に存在するのだ。
のっけから裾が止められいてない着物みたいに網目の粗い、それでいて次第に解けていくほどの「正確でない」しかし「美しい法則」の裂け目から何かをくみ出すのは、なにもカシミール効果や相転移の専売特許ではないのだ。

縮退機関によって生み出されたエネルギーを極限にまで集中し、物理法則の裂け目を作り出す相転移炉でくみ出した「純粋数学的物理エネルギー」は、GUT推進のような超光速航法時の動力源となるように強大だ。



私――いや、中央炉心というものは、この世を見るという「観測行為」によって世界を定義する人間に麦わら帽子をかぶせて視界を淡くさせ、太陽で熱せられた道の向こうに水を打ち、張りぼてを作って蜃気楼を見せるようなものだ。

さらに横からもっともらしいことを言えば、脳の中にいる意識という名の幽霊はもっともらしい物語を作り上げ、現実をそう認識してしまうだろう。




私はあの娘に嘘をいった。
中央炉心には全世界を欺く――すべての人間に虚構を見せ、そして現実を書き換える能力はあるか?

ない――わけがない。


ならば、現実は何度書き換えられた?

わからない。

これが正直なところだ。


今私がこう思考していることだって、そして思い出していることだって後付けされたものかもしれないし、私が見ていることだって培養層の中の脳みそが電極から受ける刺激に反応しているだけかもしれない。



「疑い出すときりがありませんよ。」

「俺は前々から気になっているんだが――」

平賀氏は、一般的な常識にのっとり、女性用義体が着用するだろう海上自衛軍の女性用第2種軍装のポケットから手を出し、首筋を掻いた。

白い手袋は、娘が行方不明になっても変わらずピシリとした白色に染まっており、白に金色のラインが入った制服とほぼ同じ色をしていた。

コバルトというよりはラピスラズリ色に近いネクタイには、ブローチのような飾紐留めが光っており、その中心には錨のマークがある。


「この、俺の生きていた道は、歴史の上でどんな意味があったのだろうな。
まぁ、どこかでこれを見ている神様でもいいんだが。」


「さあ?」

そうとしか言えない。


「生きている意味を見つけるのが難しくても、それでも人間は生きているでしょう?」

「人間がいなくても歴史は続く、か? その歴史が書き換えられていては世話はないが。」

「昨今だって変わりはないでしょう? 歴史は物語ですよ。書き手は勝者だったりすることが多いですが。」


もっともらしいことを言ってみたが、これは私の不安でもある。
人間の頭の中を疑い始めてからは、瞳を閉じるのが怖い。

過去を思い出すのが怖い。

それがいつのまにか別のものに変わっていて、それに気が付いてしまいそうで。


・・・いや。
私は変わっていてほしいのだ。

だのに、過去の思い出はそれを拒否し、あるいは肯定する。
どちらかを認めてしまうと、際限がなくなりそうで恐ろしい。

絶対的な真実はあり得ない。
観測するものによって事象の捉え方が違うという事実を拒否して自分の殻に再び閉じこもってしまいそうで。


「そう・・・か。」

平賀氏は、安心したような、呆れたような息をひとつついた。


どこからか、平賀氏を呼ぶ声がする。


「特に意味はなく歴史は続き、それでいてすべてに意味があるか。
なぁ。もうひとつ聞いていいか?」

「何でしょう?」

声はひとつではない。
あれは――ああ、あの人たちだ。
黒髪に金髪に――


「今夜、うちに来ないか? こう見えても料理には自信がある。」

いたずらっぽそうに平賀氏は微笑した。

私は、数瞬だけ鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まった。


「正気ですか?」

「ん?」

「なんというか――私は記憶にないだけで世界を作っては滅ぼしを繰り返していた暴君かもしれないんですよ?」

「さて、どれが本当なのやら分からないから意味がなかろ?」

「いや、だからといって。」


「それに!」

若干語気を強めて平賀氏は言った。

「時間だけならたっぷりある。ま、これも人生さ。」

今度こそ私は固まった。





「後悔は引きずるものじゃない。反省は憔悴することじゃない。
謝罪されたかといって相手のすべてより自分が上だと騒ぎたてるのは、自分に自信がない証拠だよ。」

平賀氏がかつて言った言葉を思い出す。


ああ、あれはいつのことだったのか。



「さて、どうしましょうか?」

私の口からは、言葉が滑り落ちた。
ドアの向こうからは、平賀氏の名前を呼びながら、桃色の髪の女性を先頭に人が小走りで駆け寄ってくる。


「ネットは広大ですし。」

そして、私は、この数千年閉じたことがなかった瞼を閉じ、再び開く。



時計は動き出した。






"Red sun Zero Mage" ―Nomal END1―「His & Hers stories」






――――The END




Very thanks for all readers!!






A.D 2009 8 08 HYUUGA





??? へ
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エピローグ(予定)8  端的にまとめたいくつかの事実

2009年07月28日 01時09分07秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
エピローグ(予定)7へ



まぁ私の経歴はさっきまでの統一戦争みたいにすべて吹き飛んだのとは違って、かなり不明瞭ですからね。
と言うと、平賀氏は私をジト目で睨んだ。

実際のところ、そこまでして過去をつくろう必要も感じなかったし、少しマズイかなと思った時には戸籍などの住民データはすべて電子化されると共にそれぞれ別系統で保管されていた。

そこまで無理をして変えても、長く生きていた証である各種データと整合性が取れなくなるために私はそのままにしていたのだ。
まさかすぐ平賀氏たちにバレるような方法で情報の確保にかかるとは――若さというのは恐ろしいものだ。


そうして突き止めた私に、平賀氏の娘は「情報を吐き出せ」とばかりに挑戦した。
なるほど。
とばっちりのようでとばっちりではない。

すべては、「始祖ブリミル」があの大崩壊の引き金を引かされた上に中央炉心システムに増設されたことからはじまっている。

ついでに、それに対抗しようとしてどこから来たのかすら分からないナノマシンやピコマシンのコントロールに奔走した旧国連日本財団や新大日本帝国の科学者たちが人間意識の電子化に加えて、プランク紐チューブの振動を大統一理論(GUT)に基づいてコントロールし、それをアンドロイドのような義体に負わせようとしたこともだが。


私があの娘に明かしたように、新大日本帝国がアメリカ外地軍と同じく科学技術に信仰にも似たものを持っていたことは確かだ。
ことに大崩壊の開始直前には科学技術関連予算に国富の4割近くが投入されていた。
そして、混乱した時代にはありがちなことだが、ナショナリズムも大きく昂揚している。

その中心となったのが世界最古の王家であり、一部の人々は、地球脱出後に多くの民族が不均等ながら混血した当時の「日本人」――現在のハルケギニアの人々とほぼ同じ遺伝的な特質を持っていたのは歴史の皮肉なのだろう――の中心に、いささか怪しいながらも世界中の「伝統的な」血筋を取り込んだ彼らを文字通り「国の中心」として位置付けていた。

転移に際してとられた「王家の血」の世界各国への分散が似たような思想に基づいていたことに対して、この当時のその思想はいささか一方向に突き抜けていた。

古き良き騎士道物語では「主が生きていれば○○は滅びません!」という台詞が散見される。
彼らはそれを地で言っていた。
つまり、「王室が生き残っていれば、国の中枢が生き残っているなら日本は滅びない」という考えを敷衍して、「絶対に滅びない肉体」と「一体で敵を滅ぼせる兵器」を実現しようとしたのだ。


もっとも、前者を考えていたのは開発にあたった科学者の中でもごく一部で、大半はナノマシンを介した直接攻撃にも耐えられる義体の開発を軍事兵器のそれとともに進めていただけなのだが。


新大日本帝国がその中枢と共に消滅した後、現在の旭日帝国の基となる「和の国」が成立していたことを知るすべもない中央大陸の狂った科学者たちは、「祖国を滅ぼした米帝や中央炉心への復讐」のためにどこの並行世界とも、実際の過去とも、それとも別の宇宙とも知れない「過去」へその精華を送り込み、最終的に完成していたその義体を王家に連なり、それでいて直接位の継承とは関係がないながらも「正当な」人物に無理やり送りつけた。

彼らは、それが日本列島の「転移」のキー、時空間の一座標に打ちこまれた目標点だったことに気づいていたのだろうか?

いや、気付いていたのだろう。
でなければ、ほとんど劣化しないという義体の機能の一部以外を1600年以上も凍結するなどということはするまい。

かくてフラグは立った。
・・・何か言い方が違うかもしれないが、私、いや私たちは組み込まれたシステムの中で文明レベルを一定に制限するかたわらでエネルギーをため続けた。

死に絶えた国粋的な研究者たちは死に際して万能といってもいい義体を封印していたし、月面裏の相転移機関群との量子チャンネルは滅ぼされた科学文明の呪いのようにほとんど閉じられていた。
だから、6000年以上もの間重力フライホイールにエネルギーを蓄積し続けるという方法をとらざるを得ず、アナトリア地方や旧エルフ合衆国領に重力異常と放射能をまき散らすことになってしまったが。

中央炉心の機能を相対過去、破局的大噴火直前のアメリカ大陸の転移に絞っていた中で、転送機能のみは掌握に成功したかつての義体研究所に残った相転移機関を利用する案が浮上。

日本列島を転移させ、かつての研究者が送り込んだ義体と共に大崩壊に際し私が大部分が機能を停止させた中央炉心の修理や代役を負わせる。

大崩壊前の恐ろしく限られた技術体系とは違い、転移のためにほとんどすべてといっていい科学技術や産業基盤を集めていた日本列島ならば、義体に同封されているであろう研究成果を再構築することも可能だろうという目算があったからこその考えだが――はっきりいって他力本願以外の何物でもない。


私が現在のハルケギニア地域の連合軍や残存国連軍と共に総攻撃をかけたために超長距離攻撃兵装を使用不能にされ、裏切られたことを知った旧アメリカや科学者の暴走に付き合わされた人々――のちのエルフ合衆国の涙ぐましい努力でエルサレム地区に封じ込められた中央炉心がとれる数少ない手のひとつだったのかもしれないが。




その過程で、文明を中世レベルに保ったりするために何が使われたのか、そしてあの秋葉原炎上の際に「平賀才人」氏の前に鏡が現れるに至ったのが偶然だったのか、正直なところ私には分からない。

国譲りの際にその点を問いただされた私の答えは変わっていない。

実のところシステムの一部として、「外付けシステムの更に外側につけられている外部機器」のような扱いであった私には、システムの中枢である「アメリカ合衆国の国体」やら、それをけしかけるマッドサイエンティストたちの集団意識が何を考えていたのかは分からない。

ただ、これ見よがしに「ゼロの使い魔」という本のデータが旧日本のサブカルチャーの筆頭として保存されていたことには、なにがしかの悪意や稚気が感じられる、そういうことだ。


ただ確かなことは、すべての事象がまるで円環を描くかのように過去と現在に収束していったこと。
まるで何かの運命のように(「ゼロの使い魔」という本の内容自体が作られたのかもしれないが)世界が動くような下準備ができていたことだろう。

私はそれに乗って、動いた。
外付けのシステムに月面裏から過剰エネルギーを流すことで過去の妄執を焼き切る。
ただそれだけ。


そして平賀氏たちは可能な限りの備えをして(軍事演習の名目で)世界中の軍勢とともに聖地へと上がりこんだ狂信者を殲滅。
その後、神によって支配された大地を人間に返還するという一方的な宣言・・・というか儀式を経て今に至る。


ブリミル教の聖地奪還の教えも、エルフたちの聖地を明け渡してはいけないという国是も、人類がまだその段階に達していなかったというお題目によって肯定され、利己的な打算の基に狂信者を束ねていた少壮の宗教者たちを悪者に、世界はまとまる。
めでたしめでたし。



――こんな面白くも何ともない真相、知ったとしてもどうでいいし、第一信じる者などいるのだろうか。
あのお嬢さんは、真実という錦の御旗を過大評価しすぎだ。



エピローグ(予定)9へ
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エピローグ(予定)7 (未成)

2009年07月26日 19時08分26秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
エピローグ(予定)6へ


「最初は、面白い人がきた、といったレベルでしたね。
知っての通りこのサービスは、プレイヤー自身がしゃべった言葉や行動で歴史を動かせるのが魅力ということになっています。

ときどき詳しい人がよく来るんですが、そういう人は昔でいう歴女や大学の先生方ですね。
それで、ルーチンから外れた人には何回かチェックをかけるわけです。
クオリティの維持には文字通り『クオリア』が多重干渉することが必要なので。」

「人間意識の『魂』か。
とか何とか言って、本当は暇つぶしだろう?
俺らのようなものには退屈こそが敵だからな。」

「それと、金銭面の充足も必要ですよ。長く生きていても路地裏で襤褸を纏う生活よりは、それなりのところで食事ができて屋根のある生活ができればいい。
最低生活保障だけでも生きてはいけますが、味覚的なものも生きている感覚には非常に大切でしょう?」

義体技術の黎明期に発生した諸問題にひっかけて私が言うと、平賀氏にも覚えがあるのか苦笑いしていた。
そういえば、軍用義体の味覚についていろいろゴタゴタがあったのだっけ。


「とまぁ、起業して、私は自分の記憶をいかして歴史ゲームを作りはじめたんですが、この『サポートで自分だけの歴史を作れる』ということで人気が出始めまして。」

「それで――ああなるほど。夢中になった大学教授や専門家が3ちゃんに噂を広めた、ということか。
お前さんのことだ。調子に乗って資料が残っていないところの歴史まで細かく描写したんだろ?」


「ええ。だから目をつけられたのかもしれませんね。最悪、私の義体電脳をハックすれば200年前の国譲りの由来が分かってしまいますから。」


「あいつめ――少しばかりお灸をすえる必要がありそうだ。」


電脳倫理法第2条に違反する行為に平賀氏は頭を抱えていた。
もともとこの人は人間性や知性というものに重きを置いている。

自分のそれが侵害された反動だろうが、それを否定する者へはあの虚無的な瞳で射抜き、あらゆる手段を駆使して社会的に抹殺することをいとわない。

平賀氏の周辺がどうしようもなく親バカかつ彼に最大の重点を置いているのに対し、彼は自身をはじめ、人間の、ことに自分が所属する共同体の深層にその重きを置いていた。
だからこそ、はた目から見れば権力グループの独裁にしか見えない日本合衆国の指導体制下において、口さがない者には「良心的な独裁体制」といわれる改革を断行できたのだろう。
いや、これも日本という共同体が持っていた集団意識のなせる業か。


「まあまあ。――それで、やってきたお嬢さんははたからゲームの流れの死角をつきにかかった。
すべては私に事実を語らせるために。」


「転移から10年以上をかけてトリステインと接触するはずが、2年という微妙な期間でハルケギニアに接触。
それも、防衛本能が全開である時期だから当初から軍事行動を伴って、ハルケギニアの政変を誘発するなんて荒業を使って、か。」

「そう!それにしばらくは独自路線を歩んで緊張を見せるガリアの宮廷に配下を送り込むって技を使って緊張緩和するなんてね。
そのうえでアルビオン内戦への介入を早める代償に無茶な航空空挺作戦を行ってそれを実現してみせるなんて、お嬢さんは大したプロジェクトリーダーですよ。
おかげでサーバーの処理容量がどれだけ大変だったか!」



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エピローグ(予定)6

2009年07月21日 18時40分38秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
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「あとはお決まりだ。古風にプリントアウトした電子紙を叩きつけて『これはどういうこと』『私をどうでもいいと思っているんでしょう』『もういい自分で調べる』と、ね。」


「子育てに成功されているようで。」

「皮肉か?」

「とんでもない! そうやって直言できるってことはその程度は自分が愛されているという自覚があるからですよ。
そうでなければ限界まで我慢してから壊れるだけです。」

なるほど。
と平賀氏はお茶受けに出したダックワースを口に運ぶ。
ミコガミ女史の趣味があらわれているだろう――どこか妹じみた義体がもふもふいっている様は、私の嗜好のど真ん中を打ち抜いてくれた。

・・・よし。
今度お茶会に誘ってみよう。

ミコガミ女史も話の分かる人だ。
この妹に何を着せようか――


「つくづく年はとりたくないものだよ。あの頃ルイズを見たときにも思ったが、若さゆえの過ちには断然エネルギーがこもっている。
自分を中心に世界がまわっていると信じられる人間は、強いよ。」


「たまに癇癪起こして全部ひっくり返しにかかりますけどね。ま、そういうわけですか。で、私を見つけ出したのは?」


「ああ。お前さんが出してる『レッドサン・ホワイトサレナ』シリーズのキャッチコピーを見てハッキングかけたらしい。何よりも資料を求めていたようだし。」

「知ってどうするつもりだったんでしょうね?」

ダイレクト電脳通信でシステム担当に確認を命じつつ私は少しだけささくれたった思考を数秒で鎮静化させた。
電脳空間は私がすべて管理するわけにはいかない。
だから基本設定資料や、私のデータや何やらはそれなりに厳重に管理したオフラインのサーバーに移行させてある。

空中の定義済みナノマシンを無視して自分のピコマシンを移動させられると、バイパスを通じて情報を抜き取られるのもしょうがないだろうが。
一応法律という体裁もあるし、まっとうな手段でお金を稼がないといろいろ問題が起こるものだ。

これでも人並みに欲は持っているし。


「さあ? 新聞社にぶちまけるとか全世界にバラしてやるとか威勢のいいことは言っていたが、本当のところ親離れがしたかっただけだろうなぁ。」

鬼の首をとったようにまくしたてている彼女の姿が想像でき、二人して笑う。


「うちのは、そろいもそろって親バカでなぁ。確かに居心地が悪いだろうと思うよ。」

「それも家族会議で?」

「家出が発覚してからみんなお通夜みたいになっていた。」

ひとしきり落ち込んだ後に家出娘を探し、ここを突き止めた。
そしていろいろとシステムの裏技をつき、干渉をした。

要約すればそういうことだという。



「今頃、顔がくしゃくしゃになったあれ達にもみくちゃにされているだろうよ。」

「その割にはあなたはこんなところで呑気に紅茶を飲んでいていいんですか?」

「いいのさ。トリは最後にくるものだ。・・・ゴホン! それはそうとだが、『御社のシステムを騒がせてしまったことを謹んでお詫び申し上げます。』」


「いえいえ。『こちらとしてもシステム改修ができましたので、トントンといったところ。お気になさらず。』」


社交辞令を交わした後は、今度はこちらが話す番だ。

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エピローグ(予定)5

2009年07月18日 21時21分54秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
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「いつのまにやら、施しておいたリミッターを解除していろいろと調べていたらしい。」

いろいろと、というところにアクセントがおかれているということは――どこぞの官公庁に古典的なクラッキングで有り余る電脳計算容量を使って障壁を突破したのだろうか。

乱暴なことだ。

私は、先ほどの彼女の言動から、だいたいのあの娘さんの性格を把握した。


あれは、頭のいい意地っ張りだ。


おおかた・・・

「しかも――」

「万年新婚状態なお家ではいささか肩身が狭かった?」

「そうだな。」

平賀氏は一瞬だけ視線を上げると、孫に王手をとられた老人のようにすがすがしい苦みを噛みしめているようだった。



「世間的には反抗期といわれる時期でね。知っての通り人工知性でもなんでも、祖体のバイオリズムにあわせるように電脳はなっている。
まぁそれが人格としての人間だし、人間をモデルにした場合は人工知性もそれとまったく同じということだ。
最初から完成された知性ってのはどこかしら穴があるもんだから。」

「いつからここは電脳技師免許A級の塾になったんです?」


「つまり、だ。」

物事の根本を思考しないと気が済まない癖は変わらないらしい。
平賀氏は少し反省した時の癖で右手の小指と薬指だけを握りつつ、強引に話を進めた。


「二次性徴期にしろ、反抗期にしろ、この時の人間は真理や真っ白な正義にあこがれる。
昔の学校のモラトリアム期と重なっていたからそれは『中二病』とも呼ばれるわけだが、うちの娘にはそれを検証するに足るだけの謎と、謎解きのためのスペックと、何かテスト前のような焦りがあった、ということだよ。ワトソン君。」

「私はあなたの手足になって牛みたいな犬と格闘したり、サディストの屋敷に中国磁器片手に出かけて行ったというわけですか。」

私は一つ息をついた。


「これでも少しは友情というものを感じているんだよ?」

「よく言いますね。確かにこちらには負債がごまんとありますが。」

「負債は一つだけだよ。あんな死亡フラグをおっ立てといて生きていることを隠していたことだな。
人に世界システムの管理なんて押しつけときながら。」

平賀氏の鋭い眼が私を射抜いた。



「・・・一応、人格的な摩耗が激しかったとか、本当に死を覚悟していたとかいろいろあるんですがね。」

「分かっているともさ。だからくびり殺したかったところを少しばかり仕事をしてもらうことにした。」

「少しって・・・あなたね・・・」

「ん?何か問題あるか? 人を義姉の存在だけで勝手に陰謀の核にしといてそのうえすべてが終わったら面倒任せてトンズラこいた神様の片割れ?」


「ナマいってすんませんでした。」


確かにいろいろ苦労したことは知っている。
実体験で。

かつて始祖ブリミルだったころの、システムのコアにして主の右腕だったころの記憶がそれを物語っている。



「ま、俺としてはよかったとは思っているが。これはおもに凛姉ぇと翔子からの意趣返しらしいよ。大統領や統幕長ってのはかなり疲れるから。」

「あとは、エレオノール女史やルイズ嬢、ですか。いやはや。」

「それにカトレアさんやらお義父さんやお義母さん、両陛下も。転移開始からお前――いや貴女が『政権を投げ出す』までの40年は本当に大変だったんですから。」


確かに。
あの頃は思考容量を「あいつ」を抑えるために割いていたがためにかなり以前の浅慮に近づいていた。

平たく言って黒歴史だ。


日本人たちが段階的に東方帝国やエルフ合衆国を勢力圏に取り込みつつ、ルイズを起点に急速にハルケギニアと関わり、可能な限り戦争を控えてロマリアやガリアをなだめていた頃、私は終わりなきまどろみの中にあったのだから。


技術を移入し、転移から12年後に起こった「あのアルビオン戦役」、そして、38年後のロマリア原理主義派とガリア反改革派の反乱では強力な海上戦闘部隊をもって勝敗を決する。

その間、絶え間なき暗闘や政治的な工作が繰り返され、東方帝国とエルフ合衆国を巻き込んだ内乱でも可能な限り迅速にことを決し、介入主義と非介入主義に揺れる国内をまとめ上げ、テロリズムを封じ込める。

言葉にすればこれだけだが、その間に繰り広げられた努力は筆舌に尽くしがたい。


数十年にわたって政治的な努力を行い、不断の努力でこれを維持するのは並大抵のことではできないのだ。



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エピローグ(予定)4

2009年07月15日 11時40分56秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
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「それで?何がどうなっていたんです?」

「その口調やめろ。お前も男だったろ?」

「いや、混ざり合っちゃってもうどっちがどっちやら分からなくなってるんで、このままで。それより、貴方もその義体で男口調はないでしょう?」

「俺はこれでいいんだ。元が男なんで大和撫子運動とは関係ない。」

「まぁ同性生殖する場合片方が精神的に疑似男性化することがありますからね。電脳AIでも子供を作れる時代ですし、同性に見えて実は原型異性ということもざらですから。」

日本の文化庁が進める江戸や明治の再評価運動を皮肉った彼――いや彼女に私は思わず吹き出してしまった。


「まずそっちから種明かしをお願いできませんか? 私は現実時間で2日ほど電脳世界にかかりきりだったんで。」

「そりゃ・・・正直すまん。」

ポリポリと頭を掻くたびに艶やかな黒髪が陽光に映える。
なるほど、さすがに義姉が過保護――というかヤンデレぶりを発揮して勝手に作った特注外観プログラムだけある。

やろうと思えばどこぞの大酒のみの鬼みたく静止ニュートリノレベルに細かい自分を星系内に拡散させたり、宇宙の基本Dブレーンに情報を広げたり圧縮したりできるチートボディは、統一場の振動を読み取っていわゆるアカシックレコードなるものにまで干渉できるが、それをやろうとはしていないらしい。

同じような理由で私も、可能な限りヒトとして仕事をしている。
だから、現実時間で2日、電脳加速時間では数年の時間を高速情報処理――それも不眠不休での――に費やすとさすがに疲れる。


「うちの家庭環境は知っているだろう?」

「愛すべきバカップルとヤンデレの巣窟でしょう?端的にいえば。」

この人類の敵が!
というと、彼は照れ混じりの苦笑を返した。
おのれリア充。

「付き合う方は控えめにいって少しばかり疲れるが、まぁそういった感じだ。
だが、まぁこういった世間とはまだまだ乖離した性能の義体で子供を作るってことになると真剣に考えざるを得ないんだよ。」

平賀氏は侍女が差し出したアールグレイに少し長めにレモンをいれると、ゆっくりと喉を潤す。

「ま、いくら電脳化や意識の電子化が進んだといっても物質的劣化はありますし、メンテナンスフリー義体への移行も今が盛りですしね。このご時世に完全メンテナンスフリーに義体の物理的損耗なしってのはまだまだ特殊かなと。」

「詳しいな。」

「6000年ほど引きこもっていましたが、社会人になればいやでも敬語や時事問題には詳しくなります。その分情報入手をマスコミに頼らなければいけませんが。」

大学の夜間ネット部では一般基礎教養に苦労した。
しかし単位をもらうのは伊達ではない。


「――それで、何度か家族会議・・・おい笑うなよ・・・家族会議をやって決めたんだ。
育てるにしても可能な限り一般社会と乖離しないように、『普通に』育てることにした。」

「一般常識から『外れた』貴方がたがそれをやるのはかなり無理が――いえ、私の言えた義理じゃないですが。それはそうと、どうして作っちゃったんで?」

「・・ああ、凛姉ぇが面白がって挑発して、焦ったヤンデレ二人組が暴走した。」

「あ〜・・・把握しました。でも同情はしませんよ?」

「分かっているともさ。手に入れたものへの対価――いや幸福を維持するにはそれなりの努力がいることも理解している。」

「ならいいんです。それにしてもしばらく会わないうちにずいぶん重い口調になりましたね。」


「そうだな。年を経るとそれなりに貫録のある口調でないと組織の鼎の軽重が問われるんだ。これでもフランクであろうと思っているんだが。」

「老いました?」

「まだまだ。たかが250年くらいで老いていてはこれから身が持たないさ。」


ウインクして力こぶを作って見せる様は、真面目すぎるほど真面目な平賀氏が時たま見せる愛嬌を凝縮したような輝きを持っていた。

そういえば・・・と私は思った。
以前誰かが言っていたが、彼が最後の一線で嫌われないのはこの一瞬があるからだとか。


「それで・・・だな。我が家の秘密はそれが理解できる年になるまで秘密にしておこうとしたんだが。」


親バカらしく心なしか眉が下がっているのを見てとり、私は理解した。

「子供は想像以上に敏いものですよ。小学生なんて自分が子供であることを計算に入れて悪さをする。」

「ちょうど反抗期の終わりごろでね。自分でいろいろと調べていたらしい。まぁ普通信じないと思ったが、中二病を甘く見すぎていたみたいだ。自分の親がどことも知れないた他世界からやってきたピコマシンを使って先史文明が作った戦闘兵器の肉体を持っているなんて信じるとは思わなかったよ。」

「私に言わせればそんな肉体持っときながらのんびり日常生活送ってたり、一度たりともその戦闘力を解放しないのが異常だと思うんですが。」

「そっちが中央炉心システムに乗っかった神気取りを排除するためにこっちに押しつけただけだよ。使う必要なんて最終段階以外ないだろう?
おまけに――女性義体だぞ? ジャパニメーションの影響を受けたあの恥ずかしい姿を衆目にさらせるほど羞恥心は捨てていない。」

結局はその女性型になってしまったが。と平賀氏は迷惑そうにはき捨てた。


「一介のヲタとしては日本の研究者GJと言いたいところですが、ご愁傷さま。」

「そっちも、電子の牢獄からやっとのことで逃げ出したら男女混ざったりで大変だっただろう。」

「まぁ貴方と同じく自己否定が強かったのでそんなに困りはしませんでしたが。むしろ現代の常識を覚える方が大変でしたね。」

痛いところを突かれたとばかりに平賀氏――彼女は一瞬だけ目を細め、聞かなかったことにしたように続けた。


「それに、あまりに異質なものは排除される。人間の恐怖はばかにならないから。」

古今東西の争いは、大なり小なりこの恐怖が関わっている。
軍拡競争などいい例だ。
疑心暗鬼の果てに人間はとことん残酷になれる。

集団心理の暴走の果てにリンチされ、あるいは存在自体を無視される恐怖は一度それを体験している平賀氏には何よりも恐ろしいのだろう。

確かに、メディアによって一度敵のレッテルをはられると大衆のタガは外れる。
秋葉原の炎上で生き残った、私が生き残らせてしまった彼は、周囲から総スカンを食らい、混乱する世情に鬱憤をためていた国民によって精神的にも肉体的にもリンチを受けた。

「だから俺らは生きやすいように、それでいて日本が滅びないように最善を尽くした。神北さんと直談判して――とまぁそういったことは言わずもがなか。」

いつのまにかアイスティが用意されていることに一瞬驚いた様子の平賀氏は、律儀に礼を述べるとガムシロップを4、5滴たらして一気にあおる。


「話を戻そう。俺は娘を甘く見すぎていた。自分で調査し、推理し、結論する。そしてそれが独りよがりの妄想になっていない。
その意味ではあの娘はヴァリエールの系譜だった。」


なんたってうちの自慢の――といいかけて慌てて口を閉じた平賀氏はいつになく饒舌だった。



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エピローグ3(予定)

2009年07月08日 21時26分04秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
「オリジナルキャラクター追加はいいでしょう。このゲームの根本はそういうものですし。しかしトリステインとの接触年を繰り上げたり主人公格の年齢を操作した上で各キャラに別データをダウンロードするなんて、そりゃ動作が重くなりますって。」


だんだん私は口調が悪くなるのを感じていた。
ますます桃色の髪の少女はむすっとしている。

この「歴史学者の部屋」はゲームオーバーしてしまった者へ「なぜバッドエンドを迎えてしまったのか」という説明や、プレイの際に参考になるヒントを出したりしているが、ハードモードでプレイしていた少女には最後の最後に少し話すことしかできない。

それだけに、今までのプレイを見守ってきた私は少しばかり彼女に言いたいことがあった。

「エピソード1からエピソード2へのデータ移行、ええ。アップデートの際のメンテナンス寸前にもぐりこんだお手並みは見事だったけど、そのために管理官の私とサーバーまるまる一つを占有したのはいただけないわね。何度もおかしくなりかけた物語(ルート)にもかかわらずあなたは押し通した。なぜ?」

「決まっているじゃない。」

桃色――いや、少し金色がかった桃色の髪をした少女は気の強そうな瞳をキッと引き締め、「私」を睨む。

「ムカつくから。」


「はい?」

「ムカムカするの。何もかも。」

「思春期はもう過ぎて――ああいえ、思春期まっさかりでしたね失礼。」

あの娘の血縁にしてはずいぶん胸囲に恵まれているが、ああ――そういえば彼女はあの娘の――
心の声が聞かれたのならギッタギタにされそうな台詞をつぶやきながら私は微笑んだ。
彼女からはかなりイヤミに見えるのだろうが。


「そうじゃないの。私が何も知らないのがムカムカするの!」

彼女は感情を爆発させた。

「では、私がなんでも知っていると?」

「知っている人が教えてくれないんだから自分で聞きに来るしかないじゃない!」

「ああ、なるほど。だからですか。」


この仮想世界展開オンライン「ヒストリエ」は、基本的には歴史の流れを体感するための教材でありゲーム以上の存在だ。
したがってその行動には一定の枷がはめられている。

未来技術を用いてチート国家を作り、それで敵をせん滅なんてことをしては困るからだ。
職を退いた私は戯れにこのゲームを作ってみたのだが、思いのほかこれが楽しく、今では経営者兼この「歴史学者の部屋」、プレイヤーたちの間では「ヴァルトリア道場」と呼ばれている場所も仕事場にしていた。

「だからルート選択をかいくぐる裏ワザを使いまくったわけですかぁ。」

彼女はツン!とそっぽを向いた。
うむ。

こういうときはナイスツンデレというべきなのだろうか?

「おかげで大変でしたよ、台詞の差し替えにルートの新造。いきなりエピソード2へ飛んだ上に兵器設定まで改変されたんで不具合続出、見れないエピソードも続出、うちの電脳士が顔をぐしゃぐしゃにしながら作業してたんですから――」

もうどうしてくれましょうかね?

「本当、いろいろ違和感が多すぎよ。翔子お母さまの口調はお母さまとかぶっているし、元に戻ったり戻らなかったり。」

それが一番気に障ったのか彼女は眉をひそめ、ため息をつく。

「それに何?教皇が多重人格ならまだしも二つ三つに分裂してるしロマリア軍は戦車もっときながらゴーレム戦術に固執するし、それに何でいきなり水爆攻撃なのよ!」


「いや、それは――」

なんだかヒートアップしている。

「やるならもっと徹底的にやってよね! 最初っから東京を水爆攻撃してたら勝てるでしょうが!あと何なのよ。ルイズおばさまがやった虚無の説明も、途中で出てきたエルフへの説明もまったくなしで終戦寸前?
 (中略)
やっと説明があると思ったらいきなりキムの館の台詞でこっちに転送?私はブル魔みたいな炉じゃないわよ!そりゃちょっと・・・いいかも・・・ってナニ言わせるの!」

うん。
ドジっ子だ。
真面目一徹に見えてこれだとギャップ萌えにもだえる紳士も相当な数になるだろうなぁ。
おもにアルビオン系あたり。


彼女は3分あまりの長口上を言えて少しうれしかったのか、火照った顔で肩で息をしている。
あ。眼鏡がずりおちてる。

「そりゃしょうがないっしょ?いきなり数十人単位で割り込みかけられた上に、よそ様の個人用超電導電脳とリンクさせたんだから。電脳信号系から一太郎にいたるまでバージョンが違うものをフォーマットさせずに取り込んで、それでいて辻褄あわせもやるんだもの。いくら高性能複合並列処理をやっても足りるわけないんだから。」

他のプレイヤーもいるしね。

と私は言った。

要するに、言葉も考え方も違うのと同じような数十人を巻き込んで麻雀をスムーズにやるようなものだ。
それに加えて、すべての参加者が何の滞りもなくことを行えるようにしなければならない。


「え?数十人?」

「あ、いってなかったっけ?」

私は、これぞ大人の汚さとばかりに意地悪げに口元を釣り上げてみせた。

「あなたのことを知ったお家の人が私に連絡を入れてきてね。ついでだから作中登場人物の主要キャラクターをやってもらったんだわ。本人役で。」

言葉の意味が頭に沁みわたるに従って、彼女の驚愕の顔が恐怖へと変わっていく。
そりゃ〜、あの元祖ヤンデレさんの娘さんだし、彼女の恐ろしさは十二分に分かっているでしょうね。

「お仕置きタイムよ家出ガール。母の愛の深さ、しっかりとその身に刻んできなさい?」

「ちょ・・おま・・・」

うんうん。
テンプレ通りにあわてながらログアウトする様子も新鮮でいいわ本当。
私もログアウトしますか。











ログアウトしても周囲の光景は変わらない。
というよりも、あの仮想空間自体、私の家を模したものだから当然だ。
私は、温めておいた茶器に紅茶を注ぐ。

現実時間にしておよそ2日ぶり。
長かった。

だが、私の体は予約しておいた動作通りに家政義体(ハウスキーパー)を働かせ、最適のタイミングで紅茶を出していた。
うん。
パーフェクトだ。


「さて。今回の騒動のお話、聞かせてくれますね?」

私は、この家――というより屋敷の分館と本宅をつなぐ渡り楼に立っているだろう人物を読んだ。
律儀な人だ。
それゆえ損ばかりしているが、その分幸せも押し売りされている。
それで嫉妬されるが決定的に嫌われないのは、彼自身が誠実たらんと心がけているからだろう。

「よくもまぁ。引っ張り込んだのはお前の方じゃないか。ブリミル。」


私は、控えていた家政義体に手で合図を送った。

オーク材の扉が見かけよりは軽やかな音を立てて開く。


その向こうからあらわれたのは、私の想像した通りの光景。

呆れたような表情でこちらを見ている第2種軍装の女性――いや、女性型義体の、
平賀才人 退役海帥。

彼は、無遠慮に、それでいて繊細な足取りで室内に足を踏み入れた。



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エピローグ(予定)2  「ヴァルトリァ道場」

2009年07月05日 00時03分13秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
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「おかしくないよ? あのヒラガ先生が自分で厨二病っていうくらいの身体が、それも2つと4つ・・・いや、基って言った方がいいかな?まぁどちらでもよろしい。それがあるのに、たかだかマイクロマシンと単層ナノマシンで作られた、それも非超電導素子の中枢コンピューターが計算速度で対抗できると思う?
相手は体内に正真正銘の遠未来のナノマシンと瞬間ごとに伝え続けられる11次元のソリトン信号に意識を乗せた化け物。計算容量はいざとなれば周囲の物質を共鳴させて無尽蔵に増強できる先生たちの方がいざとなれば上でしょうに。」

たっぷり3秒は彼女が思考に費やすのを見て私は少し意地の悪い表情を浮かべた。
こういうことをするからいじわる婆呼ばわりされるのかもしれないが、彼女にはそんな遠慮もいるまいて。


宇宙空間を理解するのには、縦横高さに加えてもうひとつの軸を加えた「4次元」がいると考えたあのチューリッヒ特許局員はもう古典物理学の領域だ。

今では宇宙の物質の根源は10のマイナス11乗メートルの振動するヒモにあるという考えから、36次元の上にしてようやく計算できる小さなヒモの間を駆け巡る振動――つまり、宇宙全体が「歌っている」大合唱こそが宇宙の根源だということが理解されている。

何のことはない。この歌に少しアレンジを加えるのが魔法で、その過程を一定に整えたのがあの「中央炉心」だったということだ。

3次元からかなり強引にエネルギーロスの多い方法で行おうとしたために莫大なエネルギーが必要になり、常時変動する宇宙の「歌」を観測するために中枢部に巨大な単次元リボンを仕込んだ「量子塔」、それに規模としては空前の大きさの古典ノイマン型電脳が必要になった、それだけだ。


そこにいたのはかつての大戦や延々と伝え続けられたアメリカや旧世界という「物語」を無邪気に信じた者たちの妄執、そして実験を行えて満足だったマッドサイエンティストに閉じ込められた哀れな犠牲者二人。


彼らは願った。

「解放を」

どんな形でもいい。
わざわざ自ら愚行を続け、わざと文明を停滞させ続けてアメリカ転移ができるまでエネルギーがたまる時間を過ごさせ、それでいて「属国日本に露払いと、システム改良を行わせようとした」のはまぁいい。
それを理由に囚われの始祖ブリミルは日本列島の転移を中枢の怨念に納得させ、実行できたのだから。



そのために厳重にプロテクトがかかっていた旧新大日本帝国が再生に成功した別世界の義体を利用したのもまぁいい。

大崩壊によって全滅した研究機関が将来の復仇をかけて「転移」の際に「日本人」に限定して復讐を託したのを利用して、「己に組み込む」という詭弁をいいたてたのも、それを用いて「すべての人々の目に映る世界」の改変を志すのも、無理ではない。



結局は、義体に封入された「主人公」に国譲りを行うことで獰猛な怨念に凝り固まった国津神は弑された。
理由?

何も残っていないし思い出せもしない。
ただ、私はその残った怨念と対立する怨念をもってことを行っただけだし、そんな搾りかすたる私も何の因果かこうしてそれなりに楽しく生きている。



私は立ち上がり、心の中でここ一カ月ほどついていたため息を現実にあらわすことにした。


「まったく何が不満なんですかお嬢さん? ようやく『ゼロの使い魔』ルートが実装されたとはいっても処理容量には限界がありますよ。さんざんルートをオリジナルで改変しといてもこれが結末に影響を与えるわけじゃありますまいに。」


桃色の髪の少女はむすっと口を曲げた。


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エピローグ(予定)1

2009年07月01日 00時04分04秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
歴史というものは一体何なのであろうか。
いわく、勝者によって作られるもの。
いわく、戦争と平和の終わりなき螺旋。

いわく、人間の愚行の葬列。


つまるところ、歴史というのは人間が作り出した物語である。
あらゆる意味で。


では、物語とは?


これも難しい。
日本語では「語る」と「騙る」は似通った音であるし、神話や民間伝承には少なからぬ歴史の事実が含まれているのはよく知られている通りだ。

かつて起こった事実を歴史というのなら、歴史は時とともに風化され、記憶は劣化していく。ならば、人の個人的な主観も混じり、時にはわずかに、時には大きく捻じ曲げられて後世へ伝わっていく。





――西暦2235年5月3日


壁のヴィジョンからここ最近のニュースが流れている。
音声のものは公定可聴周波数帯Aでは重要なもののみを抜き出し、第2種周波数帯では電脳の自動速聴機能使用を前提とした圧縮意味言語・高速再生が行われている。

しかし、公共放送機構の放送はアングラ放送のようにいきなりグロテスク情報を電脳に叩き込んでくるようなことはしないだろう。
彼女は念のためにフィルタリングソフトを展開させてから量子共鳴通信回線を開いた。


『旧太陽系の呼称変更問題に関して、連合政府は――』

『いて座A星に建造中のダイソン球殻3番の工事は、5月1日に発生したガンマ線バーストによって――』

『UNSB、連合宇宙技術研究機構は超光速航法の効率向上に関して経団連と――』

『ヴァリエール財団は各地に残る貴重な古代書籍の保存に関して3000億円を供出することを発表し――』

『超小型相転移炉の義体への搭載に関して、国際科学技術審議会は答申をまとめ、政府に提出しました。この中で――』



相変わらず世界は平和で、それなりに問題がありながらも解決して進んでいっている。
政治もそれなりに問題はあるがしっかり自浄作用が働いているようだ。
古き権威も健在であるし、先の大戦で戦犯となった教皇も日本カトリック教皇と和解宣言をすでに出している。
順調に増えた人口は平均死亡率が義体化と電脳化でこれまた順調に低下していったことでさらに増えており、晴れて人類は秒速数千万キロで星の海を駆け回るようになっていた。
まぁあれである。
なべてこの世はこともなし。
退廃の影ははるか彼方(某極東の覇権国家はいつもどこか変なので気にしない)。
少なくともこの平和は数百年単位で続くだろう。



「それで、どうなったの?」

目の前でなかなか進まない話に少しだけ眉を上げた女性がふてくされ気味の声を上げた。
私はクスリと笑ってから姿勢を正す。

軌道島でも古参の部類に入る町にあるわが家は、近世風の赤レンガの町並みと中欧風に調整された気候が快適な初夏を演出している。
ここから20万キロ以上離れた地球の北半球、あり体に言えば世界標準時(東京標準時)にあわせて展開している気候は、第5惑星が長い冬の半ばに閉ざされていたり、遠い旧太陽系のオールドアースの首府が暑い夏の真っただ中にあるのとは違って、こういった軌道島は基本的に現地惑星の暦にあわせて気候が展開されるのだ。


朝露が木の葉に光るのを横目で見ながら、私は揺り椅子をソファーの彼女に向ける。


「それからあとは特に何も。」

少し言葉を切る。

放送はいつの間にか新日本古典クラシック音楽に変わっていた。
NHKフィルで指揮をしていた新進の指揮者が伊福部昭の交響曲「SF交響ファンタジー」を演奏している。
小太鼓の激しい連打と共にトランペットが高らかに「地球防衛軍のテーマ」といわれる終盤の主題を歌い上げる。


副情報欄だとこれが終わるとヴィンドボナフィルの「わが祖国」があるらしい。
ゲルマニア帝国の旧首府にして音楽の都は、今でこそ復興なっているがそれでもメガトン級の核攻撃を受けた場所だ。その後は放射能に対する知識もないまま一万数千人の旧ロマリア兵たちが進駐。
戦略メーザーや大型ニュートリノ加速器「トリスタン」によって強制的に分解されていたとはいえそれでもまだ放射線を放つ核物質を体内に取り込み「この世の地獄」が現出していた。
ブーイングでも起こるかと思ったが、聴衆は、きれいに終音を揃えたN響に続いて、入ってきたV響や指揮者に大きな拍手を送っている。

もう、戦後なんて時代じゃないのか…


私は長く話していたために気持ちまであの頃に戻っていたのかと内心嘆息しつつも、言葉を連ねた。


「あとは、まぁ『国譲り』の儀式があっただけ。」

「国津神は天津神に豊葦原を明け渡した、ってことなの?」

日本文化について少なからぬ理解がある目の前の女性は、大国主命の故事にすぐさま答えて見せる。
外部記憶装置にため込んでいた記憶というわけではない。
この女性は何かと「詩編」やら「花伝書」から引用をもってくる程度に外部記憶装置が偏向しているのだ。

日本神話なんて「まっとうな」ものはきちんと中枢に記憶しているのだろう。




「簡単にいえば、いいかげん『物語』を続けるのがいやになった始祖ブリミルがアメリカ連れてこいってごねる中枢に反旗を翻したってことかしらね?」

「いや、そのりくつはおかしい。」


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終章89 最後の一鍵

2009年06月24日 07時01分27秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
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私にはいったい何があるのだろう。
いまや私の家族と呼べる人々は結晶化した記憶の奥でマネキンのように微笑みかけるのみ。


「別にこの世がニセモノだろうが誰かの意図で捻じ曲げられていてもいいじゃない。」


確かにいいように操られていた――先ほどまでの話が真実と仮定して――のは腹が立つ。
だが、それと、今までとの何が違う?
人間の行動に打算や自分の思い通りに周囲を動かそうとする意志が込められていないなどとは言い切れまい?

むしろむき出しの善意や無償の愛を向けてくる人間はよほどの聖人かおろかものか・・・どこかおかしなもののみだろう。

だが、それに甘えて何が悪い?
少なくとも当人同士は幸せになれるだろう。
それがニセモノだとかいう理由で拒否をするのは、私にとっては餓死寸前の人間の前で食事が無農薬でないからとひっくり返すように思える。

もちろんやっかみ半分だということもわかっている。
・・・?

私は今まで何を考えていた?

この流れはどこかの小説みたい?
これをもって主人公は覚醒してラスボスを倒す?

何をバカな。

いや。

「私は今まで何を考えていた?」

小声で口に出すと、それまでの疑問が一気に霧消したように「感じた」。
慌てて私は言葉を継ぐ。

「既定路線? 今までがニセモノ? それでも十分貪ったでしょう? 歓喜したでしょう? あの歓喜を偽物としてあなたは何を望むのよ。本当の、さらなる歓喜?ずいぶん我儘なのね?」


「偽ブランドに歓喜するようなやっすい人間じゃないわ。」

ぴしゃりと言うルイズに、私の視線も自然と厳しくなる。

「偽物? 少なくともその現実やあなたに向けられていたものの中に含まれていた親愛の情は全部演技?」

やれやれ。
彼女の強情さもたいがいだが、私も陳腐なことをいっている。


心なしかルイズの眉間が動いたような気がした。

「自分の不幸自慢みたいで癪に障るけど、その台詞をぶつける相手がいない人間にしたら殺したくなるほどの贅沢よ、それ。
あなた、本当にあのすべてを利用しつくして国の発展に貢献した大宰相なの?」

いけない。
感情が爆発しかけている。

こういうときは、電脳の特徴でもある一定の冷静さがいやになる。


「『あなたに何が』なんて言わないでね。
私は愛と恋を勘違いするほど子供じゃないし。」







「・・・『それは愛ですか、恋ですか?』と問うつもり? 先生?」

「『残念ながら恋です』と返してほしいわね。」


ニヤリと笑ってやる。
シェイクスピアでオタクの会話をするような「お行儀のいい」上流階級のつき合いはとんと縁がない少女時代だったが、今ではそれなりにこなせる。


ただし性格が悪い私は、その中に夏目漱石を混ぜている。
なぜって?

あれ、読んでて鬱にならない?
内容も不倫人妻なんてなんでもござれだし。

あれを名文として読みふけるお貴族様の顔の引きつる姿を想像すると、あの顔の裏に欲望や打算がうずまく晩餐会にも楽しみが増えるというもの。


ルイズは、うつむいていた顔をさらに下にうつむかせた。


肩は首をすくめるように上がっていたものの、やがて落とされ、そしてもとに戻る。
これを何回か繰り返している彼女の心中を察することはできない。
それこそ、自分の鬱憤混じりでハートをハンマーでぶったたいた私の関知するところじゃない。


たっぷり30秒は待つ。






「・・・そうね。私がしているのは恋ね。それも道ならぬ。」

お?
少しまともになったか?


「だったら誠実に、かつ冷酷に相手を奪ってみせなさいよ。平均寿命200に近づいている上に義体の寿命もどんどん伸びている中で時間はあるでしょう?」

「あの〜。後ろにさっちゃん囲ってる人がいる中でその発言?」

凛さんが面白おかしそうな中に少しばかり険をにじませて言った。

「ちょ、囲ってるってナニいってるんだ!?」

「あら?さっちゃんは私たちのヨメよ? こんな無自覚フラグ立て体質放っておいたら遅かれ早かれ誰かに捕食されるから私が囲っといたの。」

おいおい・・・。

最初にもってかれたのは私の方だけどね。とか惚気るな。目に悪い。





「横恋慕が成就するのは誠実さによってのみ。あなたにそれができるかしらね ふふっ?
幼少のころから好みの男子に育成していったアドバンテージのある私に勝てるとでも?」

「・・・ホントにやったんですか?」

「ええ。私は目的のためには手段を選ばないの♪」

いや、音符が飛びそうなくらいかわいいこぶっても。
それに容赦ないのはあなたが主導して立案したアズラエル作戦(アルビオンPKF)や統一戦争の戦略指揮でよく知っていますし。

「で? どうするの我が義妹?」

凛さんが初対面の人間の7割以上に何らかの不快感を抱かせる原因である、一見すれば世間すべてを嘲笑しているような――実際は本当に面白がっているあの微笑をたたえてルイズを注視する。


「当然――」

ルイズはさっきまでごねていたのが嘘のようにふてぶてしい表情を作っている。

「一発文句いってやる。 それで、あなたはどうするの義兄さん?」

「俺もそのつもりだったが、主役がやる気出したようだしなぁ。ここは譲るさ。」

「あら?ワーカーホリックのヒラガ役務海帥どのの名がすたるんじゃない?」

「無理いわないでほしいな。 ここのところ駐ユニオン自衛軍の編成にかかりきりだったんだ。そしてこれからもね。いくら『100人単位でしか偽装現実に捕えられない』とはいっても、この大量殺戮はあんまりにも寝覚めが悪い。」

「寝覚め?ずいぶん他人事なのね?」

「世界を救うなんてのは俺の柄じゃない。少しばかり背負うものが増えすぎたし、その結果を甘受できるほど図太くない。」

俺は臆病なヘタレで十分さ。
と嘯く彩香さんは、先ほどまでとは全く別の、「平賀才人」の口調でそんなことを述べた。


「単に俺は気に入らないんだ。わざわざ『こんなのどうですか?』ってEDまで明かされているエロゲをやる馬鹿はいないし、その選り好みをして最初からルート選択をすることもない。『手前のくだらない冗談に付き合っている暇はないといっただろう!!』」



いつ気がついた?


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終章88

2009年06月22日 21時53分15秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
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「この多重重層(フラクタル)構造の『物語』でも通底するテーマは存在するわ。親愛と友愛、それに恋。始祖ブリミルが手にしようとして手に入れられなかった結末への渇望は、無節操に物語のハッピーエンドを望む意思とともに現実を『物語』に変えてしまった。」

バッと手を広げた凛さんはとてもイイ表情で歌い上げる。
話を途中でさえぎられると困るが、ここは私は空気を読むべきだろうか?


「薔薇のように花弁が折り重なってひとつの結末へ誘導されんとする歴史。3つの主題(メインストーリー)とそれを彩る物語はすべてがハッピーエンド。権藤さんは怪獣を生きたまま倒せたし、ジョセフ王は不器用ながらに家族とすごせた。こっちへ突撃してくる教皇は真の信仰者として聖戦を主導してすべてを賭けられ、今は真の平和主義者として死ぬことができている。」

ああ、ダメだ。
なんだか眩暈がしてくる。
というか理解できないわけでもないが――

「内部崩壊や他国による容赦ない殲滅戦にさらされて滅んだ――かもしれない日本は防衛本能全開なわりには格段にマシな世界を作ろうとしているし、ローマはパンとサーカスの怠惰に流されずに平和を謳歌。トリステインことブルゴーニュ公国は念願の王政への移行を果たして存在している上に、アルビオンことイギリスはドーヴァーの白い岸を侵すと引き換えにに黒歴史の共和政を葬り去っている。ま、これは高くついたけど。

――ね? 誰も史実の不幸や相応の苦労とともにある程度幸せになっているでしょう?
ルイ14世に捨てられた――」

「凛姉ぇ!」

おっと黒くなりすぎたわ。

と凛さんはひどくどす黒い表情で低く笑った。

「私なんかも伊勢で怨霊になるはずが11次元方向の異世界の兵器に意識だけうつされて――いえ、怨霊が憑依しているのかしら?――ねえ?」

「そりゃ私の方ね。誰かの死を乗り越えて――ってストーリーだったみたいだけれど、親しい人たちの死を我慢できずに永の地獄に引きずりこんだ。」

「でも、幸せでしょう?」

「結果的にはね。遺憾ながら。」

彩香さんはとてもうれしそうに笑った。

「家族ってのはそういうものよ。」

「わけがわからない!」



「そう?あなたも其処にいるじゃない?」

するり、と私の口から言葉が滑り出た。

「え?」

じゃれあっている――そう、じゃれあっているのが私はとても羨ましかった。




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終章87(清算編) 急?

2009年06月15日 22時15分43秒 | (火葬戦記)レッドサン・ゼロ・メイジ
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「はぁ!?どこでそんなところに飛ぶんですか?」

私は思わず右顔面のみをひきつらせてしまった。
思わず某おじさんみたいに片足立ちのポーズになりそうになったのは内緒だ。

「いや、この「お話」で第3者ではなくてルイズを知っていて、なおかつ原作に拘束されていない上に適度な距離をもって物語を俯瞰しているってのってあなた以外いないし。」

いきなり後ろからやる気のなさげな表情でこっちに話しかけているのは凛さん。
なぜか妙に豪奢な衣装を着ている。
・・・というか、黄櫨染の衣を巫女装束の上に羽織って、金冠をかぶっているのって神道的に素でまずいんじゃ。

「あーいいのいいの。一応私ってばカミっぽい地位だしご先祖の直系だし。」

あっぱれと書かれた扇をひらひらさせているのがなんとも憎らしい。

「ここだけの話うちの15代目と26代目のフィクサーって私だったり。」

「ストーップ!凛姉ぇ それまずいから!素でとってもまずいから!」

ちぇーっと頬を掻く凛さん。
っというか、伊勢で禁色でって――いや、何も考えないようにしよう。
1945年8月14日にどこぞの城でレコード盤持って近衛と追っかけっこやったとかいってるのも知らんです。


「いやさ、まじめな話だけど、『すべてを計算しつくすのが無理』って理由で魔法発動の処理を精霊さんたちに移管したり威力制限したほどなのに、『全人類を住まわせるに足る電脳空間』作れると思う?」

どれくらいのものがいるんだか。
と凛さんは相変わらず扇をパタパタとさせている。
文字が「バカなの?死ぬの?」と変わっているのが地味にウザい。

「統一された物理法則のもとで常春の楽園みたいな世界を再現するならいいんだけど、台風や噴火なんかがないと満足できない人間多すぎでしょう? おまけに局所的にも世界をゆがめる魔法なんかも計算に入れると計算容量はさらに拡大するでしょうね。
どこまでいってもノイマン型コンピューターはその限界に突き当たるんだし。」

量子コンピューターといっても、素子の容量が増すだけ。
脳みそのような超がつくほどの並行処理をやるのは無理だ。
(ちなみにコンピューター業界の大手I社やM社は第4次大戦において北米大陸もろとも消滅している。)
ただし計算速度が劇的に向上するから分からないだけで。


「戦後復興の過程でコア分割の並列処理は――ってこれはいいか。」

ま、大戦後の遺伝子技術への傾倒から脳科学へのアプローチが逆に禁忌になりはじめていたことも手伝っているけど。
そこまで説明した凛さんは、頭を掻くのを唐突にやめた。

「何で私が説明役になっているのかしら?」

「自分から割り込んどいてよく言うなあ。」

「はい。パス。」

「う〜わ〜。おーぼー。」

「弟でも妹でも、私はあなたの姉よ?永遠に。」

「はいはい。ツンデレ乙。」

何やらぎゃーすか言っているのを無視して彩香さんは再びこっちを向いた。

「お待たせしました。」

「ああ、いえ。お構いなく。」

「ぶっちゃけるとさ、人間の感覚器官が認識している世界ってものすごく限られた場所の瞬間ごとの風景なの。これを脳みそで合成して足りない部分は想像力で補っているわけ。工学的には脳みそって生かしたままの方が仮想空間は構築しやすいわけね。脳の処理速度の遅れは一体化したナノマシン(まぁこっちの方がオーバーテクノロジーだけど)やマイクロマシンで補うとして。」

「はぁ。」

なんだか沈黙○艦隊の最終回を思い出した。
どうでもいいけど海江田さんって意外と家庭人っぽいように思う。


「でもそうなると、わざわざ仮想空間作るよりも現実の世界を操作する方が早くない?」

「え?」

「一応魔法=ナノマシン制御用に作られたシステムの冗長部分に根本的に別のシステム組み込んだせいで大きな意味での世論を緩やかに操作する、もしくは1ケタ単位の人間を意のままに動かすのが精いっぱいだけど。」

ま。
それでもある程度何とかなったのが今までかな。

と、彼女はそう言った。

「そこに組み込まれたのが『ローマ人とガリア・ゲルマニア人間の魔法共同管理会議(現ロマリア)』との連絡要員になっていた某初代ガンダールヴだったり、決断をしそこなった始祖ブリミルが最後の引き金を引いちゃったりしたのは置いておいて。」

「ちょっと待て、今さらりととんでもないこと言わなかったか!?」


「まぁ置いといて!」

スルーしやがった。




「50前のおっさんが――ああまだ30代だけど――ライトノベルの主人公を張れるほどしがらみってのはうまくできてないんだわ、これが。」

「いや、おもっくそ美少女な姿で言われても困るんですが。」

「要するにさ、主人公やれるくらい若く『生きて』いる人らにこの役は譲ろうと思ってね。いいかげん疲れたんだわ。」

彩香さんは――いや、「平賀才人」氏はずいぶん疲れた風にため息をひとつ。


「人間が未来を知る、自分が物語の登場人物だと知ることがどんなに残酷だか分かる?己が希望も絶望もすべてが予定調和に向かい始めて、それから逃れたと思ったら周囲のすべてが激流のように押し流し始める。
そこに『人間』はいない。
いるのは登場人物という名前の『偶像』だけ。
いったん祭り上げられてしまった神様はその座からおりることは許されず、妖怪に澪落していくのみ。」

最後の方で凛さんが一瞬だけ眉を動かしたが、それに気付いてか彩香さんは内心のものを吐露するように背筋を少し伸ばす。

「私は、俺はいい。もうそれを『しょうがない』と言わなければいけないほどいろいろ経験したし、それでも十分に幸せだから。
この『物語』を現実にした世界をいじりまわせるだけいじりまわした後だから。
だけどそこのいじけた義妹は違う。」

今度は義妹という言葉にルイズがピクリと肩をふるわせた。


「いつまでも物語にうつつを抜かしていたり現実が物語のように自分にやさしくないと認めたがらないんでは、『背負い込まされた』責務でも大勢を巻き込んで自滅するだけ。
私っからはそう言いたいだけ。――あ〜。自分でも何言ってんのかわけわからんわ。ともかくその態度ムカつく。」

そう言うと、彩香さんは口を閉じた。
というか、単なる八つ当たりに聞こえるのは気のせいか?


「なら、何でもっと早くそう言わなかったのよ!」

「家族・・・だから?」

しまった。
私は、口をついて出た言葉を後悔した。
彩香さんはそれ以上の言を継ぐ気はないとばかりに眉間にしわを寄せ、軽くルイズと私を睨む。


「何よ。」

露骨にお前に何が分かるという表情を受け、私はもう何かのスイッチを入れた。
話を聞いているとなぜかむしゃくしゃする。
それが、私にとっての家族が結晶化した過去にあるからなのか、もうお前ら結婚しちまえと思える言い合いの内容にあるからなのかは今は分からない。

ええい。
凛さんはいつも通り見物モードだ。
どうも彼女は事態を「最良の結末へ向けて悪化させる」傾向がある。


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