YAMADA
カンバセイション・ピース。
保坂和志さんの、小説を書くという冒険。
「7月末にわたしの新刊
 『カンバセイション・ピース』が発売されます。
 これは数年ぶりに本当に気合の入った小説で、
 自分でも、出来に、大変満足しています」

作家・保坂和志さんからいただいたメールに、
ただごとではない雰囲気を感じたものですから、
まだゲラ刷りしかあがっていない時点で、お会いして、
この自信作のことを、本人から語ってもらいました。

小説を書くことって、ひとつの冒険の話なんだよなぁ。
ゆっくりつきあってくださったら、
きっと、ぐぐっと入り込む連載になることでしょう。
ほんとにぼくは興奮しました。

好評の対談の後に、「小説家でいること」を、
追加で、保坂さんにじっくりうかがってみたんです。
そちらのほうも、短期集中連載で、おとどけしますね。
インタビュアーは「ほぼ日」スタッフの木村俊介です。

保坂和志さん追加インタビュー
第6回 職業としての小説家。

ほぼ日 小説家になってからの13年が、
社会人としての12年半よりも、
ずいぶん短く感じた、ということについて、
もうすこし、うかがいたいんですけど。
「職業としての小説家」について、
保坂さんがいま思っていることは何ですか。
保坂 よく言われているように、
ぼくも、いまの文学の世界には
有能な人材が来ないと感じているし
才能の多様性にも欠けている
と思っています。

いまはわからないけど、
一時期のゲーム業界とか音楽業界とか、
その時々のいいところに流れるじゃない。
若い人は当然そうで、まだ自分の嗜好だとか、
これで一生いくんだなんて
わからない状態で決めるのが
人生ってものだから、10代とか20代で
おもしろそうな世界に見えたら、
そこに行きますよ。

文学って、マイナスの宣伝が
強すぎるじゃない。
でもそれは、ウソですよ。
お金で言えば、小説って、ちゃんと書けば、
原稿料で入って単行本で入って、
それから、文庫本で入るんですね。
1年に2回とか3回とか、
文庫が増刷されたりすると、
収入も、オッケーなんですよ。

最初の数年間は、文庫もないし、
行くべきところに名前が知られていないし、
時間もかかったりして、
そこはツライことはツライけど、
そこで一応、ある程度のところまでやると、
お金の方でも、大丈夫なんですよね。

ふつうの40代サラリーマンの平均年収とか、
それくらいはちゃんとありますから。
こんなに働いていないのに、だよ?

収入も、ちゃんとやればちゃんと入るわけだし、
ましてや、40歳を過ぎて、
あと30年は続けていたいなぁ、
と思える職業って、めったにないですよ。

たとえば数学の世界なんかは、
発見の世界で、もう若いうちに終わっちゃう。
大学の先生とかも、ラクそうに見えるけど、
実は忙しいし、大学生にものを教えることを
仕事にするって、つまらないことなんですよ。

もの書きは、お金に困っていなければ
人にも教えないで済むし、会いたい人にだけ
会っていると、済んじゃうんだよね。
それはほんとに、サラリーマンではありえない。
会いたい人だけに会っていれば済むと、
世界が狭くなると言う人もいるだろうけど、
おもしろい人のひとりに対して、
サラリーマン何人いても
かなわなかったりするわけだからね。
小説家って、いいこと、いっぱいあるんです。

こないだ、糸井さんとも話しあったんだけど、
「私は社会適応能力ゼロの作家ですから」
とか言う人は、わざと社会から自分を隔離して、
自分が攻撃されないように
しているだけなんです。
でもそれだと、小説家側からの
フィードバックも社会に行かないというか。

でも、日本の会社勤めをしている人たちが、
こんなに本を読まなくて、こんなに
人生のこととか世界のこととかを考えないで、
ただ、会社のことだけをやっていれば
生きていけるかのように思っていることって、
おかしいじゃない。
なんか、それに対しては、小説家側も、
はたらきかけないといけないと思う。

文学っていうのが、
若い人にマイナスで見られているのは、
ずるい小説家たちが
社会から自分を切り離して
守ってきた結果なんです。


小説を書いている人が
実際にしゃべらないから、
若い人たちは当然それを聞かないでしょ。

でも、ほんとは、たとえば、
日常生活から芸術が生まれるんじゃなくて、
芸術が日常生活を支えているんですよね。
だから、みんながふだん使っている
美意識とか価値観っていうのは、
ぜんぶ、もとは文学が作りだしているもので。

それがあまりにも定着しちゃっているから、
普通の人はそこに気づくこともできなくて、
文学なんか要らないと思っているんだけど、
もとをたどれば、ぜんぶ文学なんです。

このあいだ、「ほぼ日」でも、
数学者の藤原正彦さんの話が出てましたよね。
あの人が教養っていうのは、
要らないもののことなんだけど、
「いいものを裏で支えている
 役に立たない部分っていうのが教養なんだ」
というのは、ほんとにそのままのことで。
ほぼ日 役に立たないもののよさは、
保坂さんから見て、どういうことですか?
保坂 役に立つというだけでは
なんでいけないかを、
学校の先生も、教えられないんだよね。
学校の先生だって、
いまは、ぼくよりも年下でしょう。
「役に立つこと=いいこと」だとしか
教えられてこなかった人たちが、先生だから。
役に立たないものを、
いいものとして、説明できない。

のろまよりも、速いことがいいだとか、
機械は大きいよりも小さい方がいいとか、
そういうことが、絶えず日常のモードに
なっているわけじゃない。
日常で接することについても、
いいこととわるいことって、
かなり、腑分けされていますよね。

「なんで、ゆっくりがいけないんだ」
「なんで、いいことばかりとりたがるの?」
そういうことを、
ちゃんと言える人って、少ない。

たとえば、
おじいちゃんおばあちゃんを大事にしよう、
っていう時、おばあちゃんの智恵に頼るとか
そういうのも、ほんとは、
役に立つという価値で決めているんです。
だけど、ほんとは、なんか、若い人が
説明をできないところで、大事なんです。
80歳生きたおじいさんのよさを、
若い人がわかるはずがないというか。

結局、役に立つものが大事というのは、
理解できるものが大事という考えなんです。
だけど、言えないものも含めて
言おうとしない限り、
言葉としての力をもたないように、
わからないことも含めて
わかろうとしないと、
わかることにならないと思うんですよね。


今の時代に支配的なコードと
ズレつづけるのが文学なので、
だから例えば、戦争が起きた時に、
反対とか賛成の理論を言うんじゃなくて、
ほんとはわからないんだから、
「わからない」
って、言わなくちゃいけないと思うんですよ。
ふつうの人が「わからない」って言うと、
バカと言われがちなんだけど、一応、
バカではないとされている文学者なんだから、
そういう時に、ヘンに発言を
新聞モードに切り替えずに
きちんと「わからない」と言うことが、
いちばん大事だと思うんですよね。
小説家は、どこの世界に入っても
自分のモードに切り替えない頑固さというか、
平気でしゃあしゃあと
言いたいことを言うというか。

社会の通念も、変わっていきますよね、
一時期は、医学らしい医学では、患部は
患部のみを直すのがいちばんとされてきた。
今は、体全体の調子を整えれば、患部も
治っていくという風潮になってきてるでしょう?

一方、もっと前にさかのぼると、
「ガンになってしまったのは、
 3代前のご先祖さまが悪いことをしてたから」
と言って納得していた時代もあったわけですから。

医者が最新の医療で病気を治すことは
教養とは言わないんです。
いろいろな人間観があったことを
知っていることが教養で、
役に立つ立たないで言ったら
最新の医療を知っていることだけが
役に立つんだけど、じゃあ、
それが行き詰まったときにはどうするの?って。

でもこういう言い方もやっぱり間接的に
「役に立つ」ということで、
ほんとはぼくは、そんなことも
どうでもいいと思ってるんですけどね。

毎日ひとりで坂道を自転車こいで
うんうん言ってる人がいる。
それだけでじゅうぶんだと思う。

 
(おわりです!)

「カンバセイション・ピース。」追加インタビュー
   第1回 小説家になる方法は?
   第2回 芥川賞よりも大切なこと。
   第3回 死ぬことは消えることじゃない。
   第4回 言えないからこそ言葉が生きる。
   第5回 会社員に比べた、小説家の人生。

保坂和志さん×糸井重里「カンバセイション・ピース。」
              (2003.06.06〜07.17)

販売は終了いたしました。
たくさんのご注文、
どうもありがとうございました!


小説に入りこむ数時間を過ごしてみませんか?
『カンバセイション・ピース』の、特別販売。


「心って、本当はもっとすごく大きなものでしょ。
 すぐにわかったと思うのは
 心の小さい使い方で、全部を使って知ろうとすると、
 たいていのものがわからなくなるんだろうなって、
 あたしも思うのね」

(保坂和志『カンバセイション・ピース』[新潮社]より)

谷崎賞・芥川賞作家の保坂和志さんが、
これまで13年の作家生活の中で
最も充実した仕事と自負する小説が完成し、
新潮社からの、7月31日の発売を待つばかりになりました。

個人のクリエイティブの力を応援する「ほぼ日」は、
2年半をかけて熟成されたこの長編小説の成り立ちを
保坂さんから直接聞き、ぜひ、応援したいと思ったのです。

そこで、300冊のみの限定販売で、
国内発送のみ、銀行振込のみの販売ではありますが、
「ほぼ日」独自の特別付録をおつけして、
この小説『カンバセイション・ピース』の注文を、
受けつけたいと思っています。

小説なんて、もう何年も読んだことがないや、
という人にこそ、
「いつもと違う時間の流れに入りこむこと」
が、求められているのかもしれません。
はじめはおずおずと、次にゆっくりと、
そして、しだいに、息をのみながら入りこむ・・・
そんな、長編小説のたのしみを、味わってみませんか?


保坂さんの、現時点での最高傑作を、
「ほぼ日」は、静かに、推薦いたしますね。
原稿用紙のコピー・保坂和志さんの手紙の付録と共に、
送料無料・1890円(税込)で、7月31日ごろに発送します。


保坂和志さんは、34歳で小説家になって以来、
「社会からちょっとはずれた存在」という小説家の
スタイルではないものを、一歩ずつ書き続けてきた人です。

「社会の落後者という立場でもなく、
 文化講演会みたいな所で守られる存在でもなくて、
 ふだんふつうに仕事している人が、一見、
 避けて生きてしまいがちなものを、正面から見る」
そういう存在で、ありたいと思っているそうです。

今回の『カンバセイション・ピース』という小説には、
いろいろなジャンルのことが書かれていますが、
敢えて、大きな軸を伝えるとするならば、
「生きものの死、親しい者の死を、どう受け入れるのか」
という、大きな大きなテーマを扱っているように思えます。
あくまで、「ほぼ日」スタッフの読み方によりますけれど。

最近の「ほぼ日」対談で語られているように、
読んで別の世界に没入する時間と、錯綜する思いに、
読んだ後、しばらくぼうっとするような小説なんですよ。

保坂さんのこの小説に賭ける思いは、数日後の
このページでも、さらにじっくり、ご紹介してゆきますね。
実は先週金曜に、特別追加インタビューもおこないました。
こちらも、どうぞたのしみに、待っていてください!

このページへの激励や感想などは、
メールの表題に「保坂和志さん」と書いて、
postman@1101.comに送ってくださいね!

2003-07-26-SAT

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