主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

身近なところに、科学はいっぱいころがっているという。
育児とか、料理とか、掃除とか、洗濯とか、美容とか、
そういうところにもゴロゴロころがっているという。
それに気づいた「科学的ココロをこよなく愛する」
主婦(研究員A)が、ネット上に小さな研究所を立ち上げました。
その名も「家庭科学総合研究所」。
といっても研究員は夫・妻・男児2名一家総出でわずか4名の
家内工業的な弱小研究所。
文献をひもとき、ネットをめぐり、ときには体を張って
まわりの人々を巻き込みながら調べた科学レポートを
「ほぼ日」にもおすそわけしてもらうことにしました。
主婦として生活しながら気がついた科学を
最新の科学ニュースとともに、とりあげていきますよ!


研究レポート84 女グセが悪い暴言家
その5 アインシュタインはひどい男?



kasoken 有名になったら‥‥歯止めがきかない!

さて、アインシュタインと
前妻ミレヴァの読み通り
彼はノーベル物理学賞を受賞します。
まあ、当然といえば当然です。
受賞が遅れたのはユダヤ人に対する偏見が
当時まだ強かったこと
「相対性理論」が実証されにくい理論であったこと
などが挙げられます。
実際、受賞対象となったのは
「光電効果」の研究に対してでした。

さて、科学界の新しいスターに会おうと
メディアの記者たちが殺到してみると
そこにいたのは、お茶目でカリスマ性を備えた
今までのイメージを覆すような科学者でした。
彼は一躍「時の人」になり
どこに行っても大歓迎されるようになります。
みんな、彼の相対性理論はわからないまでも
彼のキャラクターに夢中になってしまったのです。

彼を見ただけで卒倒する令嬢もいたくらいの
人気者アインシュタインです。
当然のことながら女性からのアプローチも
猛烈なものとなりました。
もともと好色なアインシュタイン
もう「来るもの拒まず」状態で
好き勝手し放題。
浮気相手の女性を身近に置くために
自分の秘書になるように手配する、なんてことも!
女性問題は絶えることなく繰り返されました。
相変わらず下手な詩を交えた
熱烈なラブレターを送りながら。
情事の数々を、妻エルザに隠そうともしないので
エルザは身体を壊すほど悩みます。
「彼ほどの人になると
 何をしても許されるのね」
と言ったとか。

それでも、今度の二人の結婚は
エルザが亡くなるまで続きます。
もちろん、そう幸せな結婚といえるわけもなく
アインシュタインは
「家でシャツが準備されている便利さ」のため
虚栄心の強いエルザは
「偉大な人の妻であること」のために
離婚しなかったのでは、といわれています。

kasoken 息子たちに見放されるアインシュタイン。

物理学の世界を変えた発見をした
世紀の大天才で、時代の寵児になり
死後も愛され続けている科学者。
しかも、女性にモテモテで
好き勝手に遊び放題。
「最高の人生?」と思う人もいるかも。
でも人生、それなりに帳尻が合うものです。
アインシュタインにとっての
「悩みの種」のひとつは
前妻ミレヴァとの息子たちとの関係でした。

長男のハンス・アルベルト
(のちに水力工学の権威に)
は父母が別居したとき
まだたったの12歳でした。
母親ミレヴァの苦しみを
身近で感じ続けていただけに
父親には苦々しい思いを抱くように。
それがアインシュタインを
ひどく苦しめました。
父子の関係は生涯
しっくりいかないままでした。

そして、次男のエデュアルド。
彼は子供のころから早熟で
周りを驚かせるほどの
天才的な才能を示していました。
大学では医学部に入り
精神科医を目指します。
でも、彼は治療する側ではなく
される側になってしまったのです。
彼はある失恋が原因で
統合失調症と診断されました。
彼の病は一生治ることがなく
精神病院で一生を終えることに‥‥。
エデュアルドは
「自分を見捨てて人生に影を落とした」
「お父さんなど大嫌いだ」
とアインシュタインを非難。
二人目の妻、エルザも
こう手紙で書いています。
「アインシュタインは自身の身に
 どんなことが起きても
 弱音は吐きませんでしたが
 今回の次男の病気のことは
 彼にとても辛い打撃になっている」と。

kasoken 聖と俗を併せ持った、普通の人なのかも。

「結婚は偶然の出来事から長続きするものを
 作り出そうとする成功できない企てである」
という、自らの経験による
名言を残しているアインシュタイン。
でも、本当は幸せな結婚生活に
憧れを抱いていたようです。
大学時代からの親友
ミケーレ・ベッソが亡くなったとき
彼の墓碑銘として次の言葉を選びました。
「彼をひとりの人間として
 いちばん尊敬している点は
 長年にわたって心安らかに
 暮らしてきただけでなく
 ひとりの女性と仲よく
 暮らしてきたことです。
 この事業には、わたし自身は
 かなり不名誉なことに、二度にわたって
 失敗してしまいました」

確かに、アインシュタインは
世紀の大天才と言っても
大げさではないでしょう。
それだけに聖人化されることも多いのですが
聖と俗を併せ持った普通の人でした。
女性関係でだらしないかもしれない。
せこいかもしれない。
でも、アインシュタインは頭が良いだけに
自分の弱さ、狡さなども
自覚していたのではないでしょうか。
そして、一番欲しかったであろう
息子たちからの愛情が得られなかったのは
彼にとって苦痛そのものだったでしょう。
そう考えると、彼の名言も
「聖人の名言」ではなく
「悩みぬいたひとりの
 俗人から絞りだされた言葉」
と私には思えるのです。

 アインシュタインの実像を知るにつれ
「なんなの、この女の敵は!」
と思った私ではありますが
栄光と同じくらいの苦しみを
味わったかもしれない彼。
そう考えて、彼の名言集を
読み直してみることにしましょう。

einstain
(c)西谷直子

(このテーマおわり)


book
参考文献
  『裸のアインシュタイン』
 R.ハイフィールドら著 徳間書店

『アインシュタインの恋』
 D.オーヴァーバイ著 青土社

『アインシュタイン150の言葉』
 J.メイヤーら編 ディスカバートウェンティーワン



研究員Aさんこと内田麻理香さんの新刊です。

 

『恋する天才科学者』
 内田麻理香著 講談社
 ISBN 4062144395
 発売日 2007/12/20
 イラスト 西谷直子
 Amazonはこちら。

book

今回のテーマのアインシュタイン他
研究員Aこと内田が惚れ込んだ
16人の科学者を取り上げています。
私は科学も好きですが
研究者という人種も大好き!
天才科学者たちの知られざる一面
(ダークサイド?)を取り上げて
「いい男度」を独断と偏見で斬った
無謀な本です〜。

でも、「欠点」があるからこそ
その人に惚れ込んでしまうんですよねえ。
読み終わったあと
「人間って、愛すべき存在かも」という
気になっていただけたら嬉しいです。
そして、この本がきっかけで
科学を身近に感じる読者の方がいたら
著者冥利に尽きます!

(内田麻理香)

このページへの激励や感想などは、
メールの表題に「カソウケン」と書いて
postman@1101.comに送ってください。
みなさまからの「家庭の科学」に関する
疑問や質問も歓迎ですよ〜!

2007-12-21-FRI

book
単行本情報はこちら!


いままでの研究レポート
 
   
2003-04-19 その1 花粉症対策にはお腹の中に寄生虫を飼うとよい?
2003-04-25 その2 「寝かせる」とおいしくなるのは、なぜ?
2003-05-02 その3 花粉症続報。〜ほぼ日読者研究員の報告より〜
2003-05-09 その4 男の脳・女の脳(1)「男の子は成長が遅い?」
2003-05-16 その5 重曹の法則。
2003-05-23 その6 男の脳・女の脳(2)
「音楽家のほがらかな脳。」
2003-05-30 その7 お子さまは酢がお好き?
2003-06-06 その8 物理学者ファインマンとそのお父さん。
2003-06-13 その9 「つわり」の科学。胎児がママをコントロール?
2003-06-27 その10 とろみの科学。
2003-07-04 その11 授乳中は甘党になるか?
2003-07-11 その12 授乳中は甘党になるか? PART 2
2003-07-18 その13 暗記はフォトコピー!?
2003-08-01 その14 マヨネーズはコロイドだった!
2003-08-15 その15 酸化型漂白剤の科学。
2003-08-29 その16 ドライアイス「もくもく」の科学。
2003-09-12 その17 ハーブティ七変化、色の変わる液体の科学。
2003-09-26 その18 赤ちゃんの顔はなぜかわいい?
2003-10-17 その19 夜店のリングはなぜ光る?
2003-10-31 その20 共感覚、そのミステリー。
2003-11-14 その21 アナタが触るとマシンが壊れる!?
 パウリ効果のお話。
2003-11-28 その22 人見知りの科学。 赤ちゃんは美人がお好き?
2003-12-12 その23 あらためて「ファインマンさん」の魅力。
2003-12-25 その24 科学者ファラデー、クリスマスの一夜。
2004-01-09 その25 餅の科学。
2004-01-23 その26 キッチンの熱まわりの科学。
2004-02-06 その27 鍋の科学。
2004-02-20 その28 バイリンガル教育の科学。前編
2004-02-27 その29 バイリンガル教育の科学。後編
2004-03-05 その30 肉の赤身はなぜ「赤い」?
2004-03-19 その31 カガク語の謎。
2004-04-09 その32 鉄のフライパンとサビの科学。
2004-04-23 その33 焦げの科学。
2004-05-07 その34 わが家のポリマー(高分子)の科学。
2004-05-21 その35 脳が重いほど頭がよい? の科学。
2004-06-04 その36 家電でよく見る『マイナスイオン」の科学。前編
2004-06-11 その37 家電でよく見る『マイナスイオン」の科学。後編
2004-06-25 その38 脂肪の科学。
2004-07-09 その39 血液型の科学。その1
2004-07-23 その40 血液型の科学。その2
2004-08-13 その41 「学習障害」のはなし。前編
2004-08-20 その42 「学習障害」のはなし。中編
2004-08-27 その43 「学習障害」のはなし。後編
2004-09-10 その44 すっごいなあ、南方熊楠!
2004-09-24 その45 おやじギャグの科学。
2004-10-08 その46 モテモテになる?! 匂いの科学。
2004-10-22 その47 人類進化のカギ?! おばあちゃんの科学。
2004-11-26 その48 圧力鍋の科学。
2004-12-17 その49 みそ汁が爆発? 突沸の科学。
2004-12-24 おしらせ カソウケンが本になります!
2005-01-07 その50 塩と氷とお湯の科学。
2005-01-20 おしらせ カソウケンが本になりました!
2005-02-11 その51 周期表は永遠に未完成?!
2005-02-25 その52 出産と寿命の科学。
2005-03-11 その53 呼び塩・迎え塩の科学。
2005-03-25 その54 調理におけるすばらしき塩の科学。
2005-04-08 その55 「絶対音感」のはなし。その1
2005-04-15 その56 「絶対音感」のはなし。その2
2005-04-22 その57 「絶対音感」のはなし。その3
2005-04-29 その58 なぜアナタは理系科目が苦手になったんですか?
2005-05-06 その59 好き・キライと、得意・苦手は違うのかも?!
2005-05-13 その60 教える人がキライだとその科目もキライになる?
2005-05-20 その61 科学者はモテるために研究しているのか?
2005-06-03 その62 理系が苦手なみなさんの、熱いメール!
2005-06-24 その63 空間能力の科学。
2005-07-15 その64 方向オンチの科学。
2005-07-29 その65 どうぶつたちの婚姻の科学。
2005-09-30 その66 男の子、女の子、産み分けの科学。
2005-10-21 その67 電磁波って、そもそも、なーに?!
2005-10-28 その68 電磁波の特徴は?
2005-11-25 その69 電磁波って、危険なの?!
2005-12-09 その70 電子レンジの科学。
2005-12-23 その71 赤外線(炭火焼き)の科学。
2006-01-20 その72 イケメン科学者を探せ!
2006-03-24 その73 理系ウンチクくんの、恋のゆくえ
2006-04-21 その74 一夫一婦制の科学
2006-05-19 その75 顔の左右対称の科学
2006-06-09 その76 クーラーはなぜ冷える? の科学
2006-07-14 その77 愛と科学に生きた「シャトレ夫人」の話。
2006-09-08 その78 ふきこぼれ・差し水の科学。
2006-11-03 その79 音と元素と香りの科学。
2006-12-01 その80 恋する化学物質。
2007-01-26 その81 レーザー脱毛の科学。
2007-03-16 その82 ラヴォアジエ夫人。
2007-05-18 その83 IH調理器の科学。
2007-12-17 その84 女グセが悪い暴言家。その1
2007-12-18   女グセが悪い暴言家。その2
2007-12-19   女グセが悪い暴言家。その3
2007-12-20   女グセが悪い暴言家。その4

HOME
ホーム