1911年のソルヴェイ会議出席者の集合写真(121頁、図5.4)では、紅一点のキュリー夫人を除いて、男性のほぼ全員が立派な口髭や顎鬚を蓄えており、威風堂々とした古風な学者像を今に伝えている。
これが22年後(1933年)のソルヴェイ会議の参加者写真(257頁、図9.13)ともなると、女性がキュリー母娘とリーゼ・マイトナーの三名に増え、男性陣には髭のない顔も少なくない。
アインシュタインとニールス・ボーアとの論争で有名な1927年のソルヴェイ会議の集合写真(表紙カバーおよび225頁、図8.9)を含めて、本書には貴重な写真と実験装置などの図解が豊富だ。これらを眺めるだけでも本書を手にする価値がある。
著者エミリオ・セグレ自身が20世紀科学の発展を共に歩んできた物理学者だけに、関わりの深いエンリコ・フェルミらと一緒に収まったスナップ写真や学会風景の一コマなどが惜しげもなく披露されている。
キュリー夫妻の質素な実験室の写真(50~51頁)を見ながら本文を読めば、劣悪な研究環境と放射能の有害さが夫妻の健康に如何に深刻な影響を与えたかが容易に想像できる。
更に読み進めてゆくと、ラザフォードやボーアら先達が後進研究者への援助を惜しまなかった姿勢の高邁さに感銘を覚え、ナチスによる迫害を避けたシュレーディンガーやボーアらの海外逃避行談にドキドキさせられる。まさに名調子。
千載一遇の発見を逸した研究者たちの記述には、運命の女神の気まぐれに切歯扼腕することになる。著者は、「すぐれた実験物理学者のしるし」として、「準備ができていたこと」と「間髪を入れず明白にかつ充分納得のいくやり方でそれを確認したこと」を挙げて、それこそが大発見という「成功」を摑み得た理由だと説く。
最終章(394頁)の約半世紀を隔てた二つの論文に掲げられた公式と謝辞の長短の対比が意味深長で面白い。そして更に半世紀を経た(プロジェクトチームの共同研究が当たり前の)今日では、深甚なる感謝を捧げる関係各位の列挙だけで紙数が不足しそうだ。

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X線からクォークまで―20世紀の物理学者たち 単行本 – 1982/12/24
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購入オプションとあわせ買い
未知の放射線(X線)の発見により
第1回ノーベル物理学賞に輝いたレントゲンから、
ゲルマンらによる「クォータ」説の導入に至る20世紀物理学の発展を、
湯川・朝永両博士をも含む
主だった物理学者たちの人物伝で綴った現代物理学入門である。
ベクレル、キュリー夫妻、ラザフォード、プランク、アインシュタイン、ボーア、
量子力学の創始者たち(ド・ブロイ、ハイゼンベルク、パウリ、デイラック、
シュレーデインガー)、フェルミ、ローレンスなど、
今世紀の物理学の世界にきら星のごとく登場した巨人の名を
章(または節)の標題として揚げ、
その人物と業績、相互の交流と論争が紹介されている。
著者自身の見聞によるエピソードも随所に散りばめられ、
「物理学者列伝」として親しみやすい読み物となっている。
著者セグレ(Emilio Gino Segre、1905-1989)は、
1928年にローマ大学で学位を取り、ローマ大学助教授、パレルモ大学教授を経て、
1938年渡米以後はカリフォルニア大学にあった。
1934年ごろにはフェルミとともに中性子反応の先駆的研究を行ない、
渡米後には原子核および素粒子物理学にすぐれた業績をあげた。
数々の超ウラン元素の発見、反陽子の発見などは特に著名である。
後者に関し、1959年チェンバレンとともにノーベル物理学賞を受けている。
この間、1943-46年にはロス・アラモスで原爆製造計画に参画した。
著書に『エンリコ・フェルミ伝』(久保亮五・久保千鶴子訳、みすず書房)があり、
自らの師であり友人でもあったフェルミの全生涯を克明に描き出している。
第1回ノーベル物理学賞に輝いたレントゲンから、
ゲルマンらによる「クォータ」説の導入に至る20世紀物理学の発展を、
湯川・朝永両博士をも含む
主だった物理学者たちの人物伝で綴った現代物理学入門である。
ベクレル、キュリー夫妻、ラザフォード、プランク、アインシュタイン、ボーア、
量子力学の創始者たち(ド・ブロイ、ハイゼンベルク、パウリ、デイラック、
シュレーデインガー)、フェルミ、ローレンスなど、
今世紀の物理学の世界にきら星のごとく登場した巨人の名を
章(または節)の標題として揚げ、
その人物と業績、相互の交流と論争が紹介されている。
著者自身の見聞によるエピソードも随所に散りばめられ、
「物理学者列伝」として親しみやすい読み物となっている。
著者セグレ(Emilio Gino Segre、1905-1989)は、
1928年にローマ大学で学位を取り、ローマ大学助教授、パレルモ大学教授を経て、
1938年渡米以後はカリフォルニア大学にあった。
1934年ごろにはフェルミとともに中性子反応の先駆的研究を行ない、
渡米後には原子核および素粒子物理学にすぐれた業績をあげた。
数々の超ウラン元素の発見、反陽子の発見などは特に著名である。
後者に関し、1959年チェンバレンとともにノーベル物理学賞を受けている。
この間、1943-46年にはロス・アラモスで原爆製造計画に参画した。
著書に『エンリコ・フェルミ伝』(久保亮五・久保千鶴子訳、みすず書房)があり、
自らの師であり友人でもあったフェルミの全生涯を克明に描き出している。
- 本の長さ472ページ
- 出版社みすず書房
- 発売日1982/12/24
- ISBN-104622024667
- ISBN-13978-4622024668
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商品の説明
著者について
1905-1989。イタリアに生れる。
1928年ローマ大学で物理学の学位を得、1932年ローマ大学助教授。
この頃フェルミと協力して中性子反応の先駆的研究を行なう。
1936-38年パレルモ大学物理学部長。
1938年渡米、この前後数年の間にテクネチウム、アスタチン、プルトニウム等を発見。
1943-46年ロス・アラモスで原爆製造計画に参画。
1946-72年カリフォルニア大学教授。
1955年チェンバレン等と反陽子を発見。
これによって1959年ノーベル物理学賞を受けた。
1928年ローマ大学で物理学の学位を得、1932年ローマ大学助教授。
この頃フェルミと協力して中性子反応の先駆的研究を行なう。
1936-38年パレルモ大学物理学部長。
1938年渡米、この前後数年の間にテクネチウム、アスタチン、プルトニウム等を発見。
1943-46年ロス・アラモスで原爆製造計画に参画。
1946-72年カリフォルニア大学教授。
1955年チェンバレン等と反陽子を発見。
これによって1959年ノーベル物理学賞を受けた。
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (1982/12/24)
- 発売日 : 1982/12/24
- 単行本 : 472ページ
- ISBN-10 : 4622024667
- ISBN-13 : 978-4622024668
- Amazon 売れ筋ランキング: - 855,401位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 45,278位科学・テクノロジー (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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カスタマーレビュー
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トップレビュー
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2020年7月3日に日本でレビュー済み
2006年1月4日に日本でレビュー済み
なんとか苦労して本書を手に入れました。それだけの価値がありました。(*)
物理学上における大発見を見出せた人、(証拠をつかんでいたハズなのに)大発見に気付かなかった人を分けていたものは一体なんなのか、その辺りの事情がよく分かります。一言で言えば「幸運は備えをした心を好む」(パスツール) その具体的な事例が満載です。超天才Pauliでさえ(思い込みで)見逃した重大事実があった、とか、そのPauliの言うことを信じたが故に大発見を逃した、とか。トークの際に引用してみたい話が沢山見つかります。個人的には、Planckが黒体輻射の式に如何に辿り着いたか、とか、Einsteinが熱力学をベースにして光量子のアイディアに気付いたという付録が面白かったです。量子論の教科書では天下り的にE=hνが出てきますからね。あと、湯川先生が中間子のアイディアに気づく時の議論の進め方が、あんなに単純明解だったとは浅学にして知りませんでした。このように「新概念を着想するに至る、発見的な議論」も与えられているところが素晴らしいです。答えが分かっていない処へどうアプローチするのか、勉強になりました。(一つ、「美的感覚」は必要条件ですね)
あと、物理学を形成するには、色んなタイプの人間が必要なのだ、ということが実感として分かります。そういう多種多様な人間関係が織り成す物理学の形態を生理学的観点でなぞらえた結語(ポンチ絵)は非常に示唆に富みます。西堀栄三郎氏が著書(西堀流新製品開発)で「研究開発(基礎研究、応用研究、開発、試験研究)の系統図」を紹介していましたが、これがセグレ氏のポンチ絵と非常に良く似ているところに興味を覚えました。どうやら「新発見へのアプローチ」は、物理学の世界に限ることなく、普遍的な議論が出来そうです。
(*)「基本図書限定復刊」として2009/11/10に復刊!(^o^)
物理学上における大発見を見出せた人、(証拠をつかんでいたハズなのに)大発見に気付かなかった人を分けていたものは一体なんなのか、その辺りの事情がよく分かります。一言で言えば「幸運は備えをした心を好む」(パスツール) その具体的な事例が満載です。超天才Pauliでさえ(思い込みで)見逃した重大事実があった、とか、そのPauliの言うことを信じたが故に大発見を逃した、とか。トークの際に引用してみたい話が沢山見つかります。個人的には、Planckが黒体輻射の式に如何に辿り着いたか、とか、Einsteinが熱力学をベースにして光量子のアイディアに気付いたという付録が面白かったです。量子論の教科書では天下り的にE=hνが出てきますからね。あと、湯川先生が中間子のアイディアに気づく時の議論の進め方が、あんなに単純明解だったとは浅学にして知りませんでした。このように「新概念を着想するに至る、発見的な議論」も与えられているところが素晴らしいです。答えが分かっていない処へどうアプローチするのか、勉強になりました。(一つ、「美的感覚」は必要条件ですね)
あと、物理学を形成するには、色んなタイプの人間が必要なのだ、ということが実感として分かります。そういう多種多様な人間関係が織り成す物理学の形態を生理学的観点でなぞらえた結語(ポンチ絵)は非常に示唆に富みます。西堀栄三郎氏が著書(西堀流新製品開発)で「研究開発(基礎研究、応用研究、開発、試験研究)の系統図」を紹介していましたが、これがセグレ氏のポンチ絵と非常に良く似ているところに興味を覚えました。どうやら「新発見へのアプローチ」は、物理学の世界に限ることなく、普遍的な議論が出来そうです。
(*)「基本図書限定復刊」として2009/11/10に復刊!(^o^)
2002年8月7日に日本でレビュー済み
フェルミの弟子,セグレによる物理学史の本です.題名どおり20世紀の物理学の進歩が臨場感溢れる語り口で述べられています.芸術ほどではないかもしれないが,物理学の発見もまた物理学者の個性が織り成すドラマであることを感じさせてくれます.現代?物理学の軽い入門にもなっています.物理学史という分野もまた魅力的であると感じさせてくれます.なるべく若い方が読むべき本だと思いますが,如何せん高価ですね.でも将来,物理の分野に関わっていこうと思っている人は持っていて損はないと思います.