首都圏はいま、大規模マンションブームといってもいいだろう。大規模マンションの一番の特徴は、そのスケールメリットを生かしての充実した共用施設を持つところにある。その共用施設を舞台にして、21世紀にふさわしい新しいタイプのコミュニティー誕生の可能性を、僕はいま強く感じている。
昨年の夏、千葉県の我孫子駅前に約850戸の大規模マンションが竣工した。車で15分も行けば、のどかな田園風景が広がる典型的な郊外型の大規模マンションだ。このマンション内にマーケットプラザと呼ばれる小さな広場があり、毎月一回第4日曜日に野菜の朝市が開かれていて、とても賑わっているという。
この朝市を企画、運営しているのは、マンション住民のマーケットグループ、地元市民の有志が運営するNPO、そして近隣農家の皆さんたちだ。マーケットグループは、マンション内での商行為を企画管理する、マンション管理組合の下部組織と考えていい。「食」の安全と健康をテーマに、「畑」と「台所」を直結する。それが、この朝市のコンセプトになっている。
近隣農家の皆さんのプロフィールや旬の野菜、レシピ、有機野菜の基礎知識等の情報を提供するホームページを、NPOがつくり運営管理している。そこに紹介された農家の皆さんや野菜が、実際にこの朝市に登場するという仕組みだ。
生産者であるの近隣農家を消費者となるマンション新住民に、インターネット上のバーチャルスペースで紹介しているのが、NPOを運営する地元住民ということになろう。このNPOは、地域コミュニティーの活性化をテーマに活動していて、その一環として「産直」で頑張っている農家の皆さんを応援している。
マンション住民は、インターネットで最新情報を入手し、マーケットプラザの朝市で実際に生産者の顔と野菜を見て、食材を購入する。いわゆる「産直」だから、値段ももちろんリーズナブルだし、新鮮でおいしい。ときには近隣農家で作られた漬物や団子なども売られ、ローカルな食文化を楽しむこともできる。
消費者であるマンション住人にとって、生産者の顔が見えて、生産場所もわかっていることは、とても安心だ。「食」の安心と安全は、健康に直結する。わからないことがあれば、インターネットで確認できるし、すぐ近くある畑に直接確認しにいってもいい。
農家の皆さんも、丹精こめて作った野菜を食べてくれる人の顔が実際に見えることは、喜びだし作り甲斐があるという。それに、地元で採れたものは地元で食べるという「地産地消」が推奨される昨今、大規模マンションの登場を数千人の巨大マーッケットの出現と考えれば、農家の皆さんにとっては喜ばしいことだ。
いま、この大規模マンションでは、マーケットプラザを舞台にして、新住民(消費者)、地元住民(紹介者)、そして近隣農家の皆さん(生産者)の素敵な交流が育まれつつある。それは、バーチャルスペースも介在させた新しいタイプのコミュニティーを予感させる。そこから、21世紀の心身ともに健康なマンションライフが登場してくるに違いない。
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