[Analysis]

企業ITの工業化とサービス化

2007/10/09

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 ITサービス管理のベストプラクティス集であるITILには、2007年になって最近の事情に合わせたリフレッシュ版が登場した(ITIL Version 3と呼ばれたり、ITIL Refreshと呼ばれたりしている)。新版におけるポイントの1つは、製造業モデルから脱却し、ITサービスをサービス業の考え方で把握し直すことだ。ITサービスは均質的な品質の確保や向上を目指すのではなく、顧客の個別的なビジネス目標や優先順位に対応することを目的とすべきだというのである。

 こうした動きの背景には、アウトソーシング/オフショアリングやSaaSなど、近年ITプロセスの一部を外部に委ねる動きが活発化し、併せてITサービスの構成要素が多様化してきている点があると考えられる。システムの開発や利用における選択肢が増えてくると、利用者側に立ったITサービス管理では、これらをどう使い分けるか、どう取りまとめるか(統合するか)、という点が問われるようになってくる。サービス品質の基準にしても、サービス品質確保の手法にしても、画一的な物差しや手順を適用することがますます困難になってくる。

 一方、日本では製造業やサービス業以前の問題として、いまでも「ITの工業化」が叫ばれ続けている。ベンダやシステム開発手法の工業化論はひとまずおくとして、ユーザー企業のITプロセスに関する工業化論が共通して指摘するのは、IT業務における属人性の高さと代替性の低さである。

 情報システム部門内で担当者がばらばらに、自分のつきあいのある業者にシステムを発注し、相互の調整もなされていないユーザー企業では、システム開発手順においても、運用管理においても標準化や戦略的マネジメントの発想が生まれにくい。コスト効率も当然、低くなる。

 この状況を改善するきっかけの1つと想像できるのはオフショアリングだ。開発作業の一部を海外に出すとしても、外部リソースを戦略的に活用することを通じ、開発プロセスの標準化が進む期待が持てる。しかしその普及には言語や習慣の壁がまだ大きい。

 とすると、ユーザー企業のITが工業化するための刺激となるのは包括的なシステムアウトソーシング、あるいはSaaSなのではないか。従来の製造業的な考え方でこのままじり貧に陥っていくのであれば、こうしたサービスの利用という選択肢を認識することも重要なのではないだろうか。

(@IT 三木泉)

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