WOZNIAK - 密林

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Silver City - Projections

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Fernando PulichinoとJulian Sanzaによるブエノスアイレスのユニット、Silver Cityが、2014年末の12インチ『Loading』に続き、制作期間に2年を費やした待望のフル・アルバム『Projections』をcatuneからリリースする。ラテン・パーカッションを散りばめた南米版ディスコ・ダブとも言うべきトーンが絶妙なスパイスだった『Loading』収録の4曲を含む本作のセッションは、大部分がブエノスアイレスにあるFernandoのスタジオで行われた。ローランド・Juno 106やコルグ・MS-2000を筆頭に、ファットな鳴りを担うヤマハ・CS-10やDSI・Mopho/Tetraといった新旧のモノフォニック・シンセ類、E-mu・モーフェウスなどのPCMシンセ、リズム・マシンのボス・DR-55、そしてアコーステック/エレクトリック・ギター&ベースにホーナー製メロディカ、もちろんSilver Cityのプロダクションを特徴付けるパーカッション類も駆使して展開されたレコーディングは、自由度の高い即興的なセッションの中から〈興味深いサウンド〉を発展させる形で進みながら、着地点への判断ラインについては〈妥協がない〉ものだったという。

『Projections』の収録曲は、大きく2つの方向性に分けられる。ひとつは、前述の12インチ『Loading』の4トラックから浮かび上がったSilver Cityのスタイル――ドラマティックでパーカッシヴかつダビーな「Country Boots」「Ride Away」、サウダージなメロディー・センスが映えるビートダウン「Sun Wash」や「Loading」に代表され、『Projections』に初出の楽曲でも、それらの方法論を延長線上に深化させたパーフェクトなフロア・ダンサー「Curiosity」や、テッキーなエレクトロニクスのアレンジとディスコ・ダブ的エッセンスの邂逅が新鮮なオープニングからコズミック・トリップへと迷い込んでいく、オリジナル・トラックとしてはアルバム中最長の「Shadow」あたりが、これまでのSilver City像に近いタイプのナンバーと言えるだろう。

しかし『Projections』ならではの新たな風景はその先にこそ潜んでいる。Julianは近年愛聴している作品としてポルトガルのエレクトロポップ・プロデューサー、Moullinexのアルバム『Elsewere』や、UKのDJ/プロデューサーであるBen Davisのプロジェクト=Flash Atkinsの『The Life And Times Of Flash Atkins』を挙げており、例えばカッティング・ギターとエレクトリック・ベースにパーカッションのコンビネーションで生み出すクラシック・ディスコのマナーを流用しながら、タイトルを連呼するヴォイス・サンプルのリフレインでズブズブと深みに引きずり込んでいくキラー・ブギー「Do you want」や、Ashra「Sunrain」をビートダウン一歩手前のスロウなテンポで煮詰めてネガを反転させたような「Projections」に見られるバランス感覚――先の12インチよりもDJツール寄りのディープで強靭なグルーヴ(とポップ・センス)には、確かにJulianが挙げた2作品からの影響が読み取れるだろう。そしてアルバム中でも一際異彩を放つ「I see you」の背後に見える、アンダーグラウンド・ディスコのオブスキュアでカルトな守秘主義の伝統。ここ最近はMoon Duo『Shadow Of The Sun』やPrinzhorn Dance School『Economics』といったロック色の濃いアルバムを聴いているというFernando自身のヴォーカルが入った瞬間のディープなフィーリングは、まるでDJ Harvey「サーカスティック・ディスコ」でのワンシーンを切り取ったかのようだ。最後に、Is It Balearic?のCoyoteの手による永遠に続くかと思われる「Loading」のバレアリック・ジャーニー・リミックスまで耳を通せば、誰もがSilver Cityの世界に内在する様々な可能性の萌芽に気付くはずだ。

nine days wonder - early days discography 1998 - 2000

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Silver City - Shadow

Ichisan - Mambo

catuneからの『Extra Ball』で日本国内でも広く知られることとなったスロヴェニアのニュー・ディスコ・スター、Ichisanは、同作の発表後も精力的なリリースペースをキープしている。LuminodiscoやDJ ROCCAの作品で知られるイタロ・ニュー・ディスコ基地のDWDK Rec.よりデジタルEP『BARBAROSSA』、カルト・リミキサー・ユニットのYum Who?が主宰するISM Recordsからも配信で『Bela Ljubljana』を発表、UKの名門ディスコ・レーベルであるTirk傘下のNangのVA『We Are Five(The Remixes)』には、ロシア産ユニットDPulse「More」のブギーなリミックスを提供するなど、この1年で着々と仕事こなしながら、オーバーハイム・OB8、ローランド・JP-4、SH-9、Jupiter-4、Juno 106といったヴィンテージ・ハードウェアを主体としたプロダクションの精度を高めてきた(SoundCloudに定期的にアップしているフリー・ダウンロードのコンセプチュアルなDJミックスでは、彼の独特な音楽的キャパシティーも確認できる。)

catuneからのセカンド・リリースとなる本作『Mambo』でもIchisanのディスコ・マテリアリズムにはさらなる磨きが掛かっており、子細なリスニングにも耐えうるリッチなトーンが隅々まで堪能できる逸品に仕上がっている。はち切れんばかりの張りを持ったスネア・ショットとヘヴィーなシンセ・ベースがフロアを滑走していくA1は、天から降り注ぐようなアルペジオの煌びやかさが耳を惹くキラー・トラック。同様にヘヴィーデューティーなリズム・セクションが頼もしいタイトル・トラックB1も、マンボのラテン・グルーヴをニュー・ディスコ・マナーで換骨奪胎したユニークな解釈が光るダンサブルな一曲だ。スロヴェニア語の〈新世界〉を意味するB2は、思慮深いオープニングに浮遊するフェン ダーのシルヴァーフェイス+ストラトキャスターのコンビネーションが、ギタリストでもあるIchisanの出自を思い出させる。どことなくディスコを経由したマカロニ・ウェスタンといった風情もあり、比較的ダンス・オリエンテッドな前2曲との対比が鮮やかだ。なおIchisanは現在アルバムの制作を進行している模様で、『Mambo』で披露されたヒントからフル作の世界観を想像するのも一興かもしれない。