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April 23, 2024

辻井伸行がドイツ・グラモフォンとグローバル契約

辻井伸行がドイツ・グラモフォンとグローバル契約
●22日はサントリーホールのブルーローズ(小ホール)で辻井伸行とドイツ・グラモフォン(DG)のグローバル契約発表記者会見。登壇者は写真左より藤倉尚ユニバーサルミュージック社長兼CEO、ピアニストの辻井伸行、クレメンス・トラウトマン ドイツ・グラモフォン社長の各氏。辻井伸行はDGとグローバル専属契約を結び、2025年初頭にDGデビュー作となるベートーヴェンのピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」をリリースする。また、これまでエイベックスに録音された多数のアルバムもDGより再リリースされるのだとか(配信では旧譜が全世界でDGより再リリース、国内の旧譜CDは引き続きエイベックスで流通)。また、今回の契約を記念して、5月18日にDGの配信サービスであるステージプラスでコンサート映像「辻井伸行プレイズ・バッハ、ショパン&ラフマニノフ」が配信される。
●辻井「子供の頃からDGの録音をたくさん聴いて育ったので、こうしてDGと契約できてとてもうれしく、同時に責任感も感じている。デビューとなる『ハンマークラヴィーア』は大変難しい曲だが、歴史に残るアルバムにしたいと思っている。世界に向けてのスタートラインに立ったと思っており、これからも精進したい」。ブルーローズで会見を行っただけあって、辻井さんの演奏も。リストの「愛の夢」と「ラ・カンパネッラ」。力強くスケールの大きな演奏。
●合わせて、トラウトマン社長よりカラヤンの映像&録音をステージプラスで一挙公開するプロジェクトについても発表された。テレモンディアルの全映像作品とユニテルで制作された大部分のカラヤンの映像がステージプラスで公開されること、またその際に日本語のメタデータも整理されるという。カラヤンの映像がこれだけ長く観られることに感嘆せずにはいられない。

April 22, 2024

Jリーグ、冴えないマリノスと躍進する町田

●マリノスが冴えない。予想通りではあるが、選手層が薄くなったうえに、けが人が多い。試合内容から言っても、ハリー・キューウェル新監督にはよい印象がない。4月10日のガンバ大阪戦が象徴的だったと思うが、この試合は2対0で完勝したように見えて、内容的にはガンバに押されまくって山のようにシュートを浴びた。ボール保持率も五分五分に近かった。耐えて耐えて、決定力の差で勝ったのだが、いつからそんなチームになったのか。ポステコグルー監督時代の狂信的で原理主義的なアタッキングフットボールが懐かしい。ケヴィン・マスカット監督はもう少しバランスを重視したが、それでも1点リードしたら2点リードを狙うという哲学は受け継がれていた。たとえ期待値として損だとしても攻撃的に戦う、なぜならそれがフットボールの本質だから、という哲学。ロマン主義のフットボールだ。4月13日の湘南戦は、控え選手中心ながらも先行逃げ切りに成功するかと思いきや、退場者でひとり減った湘南にゴールを奪われてドロー。そして17日、アジア・チャンピオンズ・リーグ準決勝では、蔚山 0-1 マリノス。キーパーのポープ・ウィリアムのビッグセーブのおかげで1失点で済んだというイメージ。ロマンは機能していない。
●一方、今季のJリーグの最大の驚きは、首位に立つ昇格組の町田! 最初の数試合で首位に立った時点では「まだ始まったばかりだし」と思っていたが、9節まで来て首位なのだから、強さは疑いようがない。黒田剛監督は一昨年まで教師として青森山田高校のサッカー部を率いていた(当然プロ選手の経験はない。欧州や南米では珍しくないが、Jリーグではまだ珍しい)。プロ監督デビューの最初の年でJ2優勝と昇格を果たし、今J1で首位を走っている。どう考えても伝説だ。にもかかわらず、そのサッカースタイルがしばしば非難の対象になる。失点をしないために徹底的にリスクを管理し、無用にボールをつながず、やや荒っぽいファウルが多く、インプレイの時間が短く、ロングスローを多用し、あらゆる局面で勝つための最適化を図る。リアリズムのフットボールだ。黒田監督はヒーローのはずなのに、ヒールめいた雰囲気が漂ってきているのがおもしろいところ。しかし、競技である以上、勝てばそれが正解。非難されるいわれはない。われわれは嫉妬しているのだ。
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●Microsoft Edgeを最新バージョンにアップデイトすると、このサイトにアクセスできなくなるようだ(Cloudflare Forbidden HTTP Response Code:403が出る)。このサイトに限らず、httpのサイトはブロックされる模様。原因は、Edgeの設定>プライバシー、検索、サービス>セキュリティの項目にある「Microsoft Edge セキュア ネットワーク」のようだ。ここが「最適化(推奨)」になっているとhttpのサイトをはじく。この項目を「サイトの選択」にするか、「Microsoft Edge セキュア ネットワーク」をオフにすると、アクセスできるようになる。これはどう対応したらいいものか、困ったもの。いや、サイト自体をhttpsにすればいいのだろうが、簡単ではなさそう……。

April 19, 2024

東京・春・音楽祭2024 ヴァイグレ指揮読響のリヒャルト・シュトラウス「エレクトラ」演奏会形式

東京・春・音楽祭 2024 ヴァイグレ 読響 「エレクトラ」
●18日は東京文化会館で東京・春・音楽祭。セバスティアン・ヴァイグレ指揮読響のリヒャルト・シュトラウス「エレクトラ」演奏会形式。本来であれば2022年に読響定期で上演されるはずだった「エレクトラ」だが、コロナ禍の入国制限により実現しなかった。それが今回、東京・春・音楽祭の公演として復活! こんな形で機会が巡ってくるとは。演奏会形式の「エレクトラ」といえば、昨年、ジョナサン・ノット指揮東響で鮮烈な演奏を聴いたばかりだが、今年もまたとてつもない「エレクトラ」を体験することになった。
●歌手陣はエレクトラにエレーナ・パンクラトヴァ、クリソテミスにアリソン・オークス、クリテムネストラに藤村実穂子、オレストにルネ・パーペ、エギストにシュテファン・リューガマー。題名役に人間離れした歌唱が求められるオペラだが、パンクラトヴァは堂々たるエレクトラ。強靭さという点ではノット&東響のクリスティーン・ガーキーに一歩譲るかもしれないが、それでも強烈。ガーキーの怪女ぶりに比べれば、声の温もりもあって、復讐心以前の父への愛を感じさせる。最後の場面、控えめながらも踊ってくれた。あの場面は客席でいっしょに踊りたくなる(ウソ)。アリソン・オークスのクリソテミスもエレクトラに負けていない。ふつうのお母さんになりたいとか言っているけど、実は第二のエレクトラ的な存在なのかも、と思わせる。ルネ・パーペのオレストは格調高い。深い声で空気を一変させる。
●ヴァイグレ指揮読響は凄絶。大編成のオーケストラの咆哮が文化会館の空間に響き渡り、演奏会形式ならではのダイナミズムを堪能。はなはだ苛烈な音楽ではあるのだが、一方で柔らかく官能的な響きも印象的で、表現の幅は広い。このコンビの記念碑的な公演になったのでは(まだもう一公演あるけど)。なんというか、ごうごうと燃えていた。

April 18, 2024

東京・春・音楽祭2024 配信 ネット席でムーティの「アイーダ」

●16日は東京・春・音楽祭でリッカルド・ムーティ指揮東京春祭オーケストラによるヴェルディ「アイーダ」演奏会形式……なのだが、この日は都合がつかない。20日も予定が合わないので、今年のムーティ祭はあきらめるしか。と思っていたのだが、配信でなら半分くらいは聴けそうだったので、「ネット席」から可能な範囲で観ることに。こういうときに配信があるのはありがたい。なお、東京・春・音楽祭の配信はライブのみで、聴き逃し配信はない。
東京・春・音楽祭 LIVE Streaming 2024のサイトにアクセスすると、選択肢がふたつあって、通常の映像とスイッチング映像を選べるようになっていた。最初、意味がよくわからなくて通常の映像を選んだら、固定カメラからの映像で、自分で拡大・縮小するタイプだった。途中からスイッチング映像に変更したところ、一般的な演奏会中継のカメラワークになった。こちらのほうがだんぜんよい。ムーティの表情も見えるし。PCからUSB-DAC経由でヘッドフォン視聴。始まってすぐは字幕が出なかったり、強奏時に音が割れてしまったりとなんらかのトラブルがあった模様。途中から改善された。
●で、何度か席を外さなければならなかったので、演奏についてあれこれ語るわけにもいかないのだが、オーケストラから出てくるひりひりするような音はさすが。N響コンサートマスターの郷古廉が率いる東京春祭オーケストラは、若手の在京オーケストラ楽員とソリストたちを中心とした精鋭ぞろい。ムーティは82歳のはずだが、姿勢がよく、腕もしっかり振られ、統率力に衰えはない。歌手陣はアイーダにマリア・ホセ・シーリ、ラダメスにルチアーノ・ガンチ、アムネリスにユリア・マトーチュキナ、アモナズロにセルバン・ヴァシレ。主役ふたりよりもアムネリスがだんぜん光っていた。
●毎回思うんだけど、終幕で地下牢にアイーダが先回りして入っていたという展開におののく。ど、どこから入ったんすか! 勝手に入れたのなら、ひょっとして出れたりするの? あるいは、これはラダメスの見た幻影で、実体はそこにないのかも。

April 17, 2024

「街と犬たち」(バルガス・ジョサ/寺尾隆吉訳/光文社古典新訳文庫) その3

●(承前 その1 / その2)しつこくもう一回だけ、バルガス・ジョサの「街と犬たち」について。「街と犬たち」(旧訳は「都会と犬ども」)は軍人学校の生徒たちを描いた物語なので、若いうちは当然のごとく生徒たちの視点で読む。生徒たちは子どもで、士官たちは大人。そんなふうに見える。でも、年を重ねて読むと、違った景色が見えてくる。士官だって若いのだ。とくに士官たちで唯一、内面が描かれているガンボア中尉は、夫人が初産だというのだからおそらくかなり若い。まだ自分の職業人生が将来どうなるかまったくわからない段階の若者なのだ。
●生徒たちから見ればガンボア中尉はもっとも厳格な教官であり、この学校で唯一、畏れられている。どんな悪ガキも彼の前では背筋を伸ばす。軍規を丸暗記するほど規律を重んじる人物で、生まれながらの軍人だ。だから、生徒たちはガンボア中尉のことだけは信頼しており、アルベルトは彼にジャガーの殺人を告発する。学校全体としては、あれは偶発的な事故だったと穏便に済ませようとしているのに、ガンボア中尉は規律にのっとって殺人の疑いがあると報告書を提出する。この展開が巧妙だと思うのは、ここで多くの読者はガンボア中尉に共感してしまうと思うんすよね。生徒目線で読んでいるので、こいつだけは一本筋が通っているから、腐敗した軍人たちの世界で正義を貫いてくれるだろう、と。でも、一方で大人目線だとこんな見方もできる。ガンボア中尉みたいな杓子定規な人物は、たいてい他人を幸福にしない。現実と折り合いをつけなければならないのに、状況を無視してルールを振りかざす人物になにが達成できるだろうか。こういう部下を持ったら苦労は多い。上司のガリド大尉はガンボア中尉を諭す。

軍人たるもの、何よりもまず、状況に応じて現実的な選択をせねばならない。無理に現実を法に合わせるのではなく、逆に、法を現実に合わせるべきなんだ。

 それでもガンボア中尉は自分の考えを曲げない。そして、妻からの手紙を手にして思う。「男の子だったら軍人にはするまい」。実家にいる妻は体調不良と出産への不安、夫が不在であることの寂しさを手紙で訴えている。
●ガンボア中尉は上官からの忠告に従わずに筋を通した結果、とんでもない僻地に左遷されることになる。これで軍人としての未来は閉ざされた。それと同時に女児が誕生したという電報を受け取る。まるで正義を貫いたことに対する祝福であるかのように。母子ともに健康だ。おそらくガンボア中尉が首都リマに戻ることはないだろうが、その先に希望が待っていることを予感させる。バルガス・ジョサはこれを27歳で書いた。

April 16, 2024

「交響曲 名盤鑑定百科」(吉井亜彦著/亜紀書房)

●実物を手に取って一瞬、虚を突かれたが、よく考えてみるとこういったディスクガイドは今だから意味があるのかもしれないと思ったのが、「交響曲 名盤鑑定百科」(吉井亜彦著/亜紀書房)。先月発売ばかりの本だが、これは1997年に春秋社から刊行された「名盤鑑定百科 交響曲篇」を出発点に、その後なんどか改訂された後、版元を変えて復刊されたもの。交響曲100曲について著者が計6000枚もの膨大な数のディスクを聴き、それぞれに短い一言レビューを寄せている。さらにディスクには推薦や準推薦といった評価が添えられる。著者の名前を「レコード芸術」誌の音楽評論で目にしていた人は多いと思うが、いろんな点でかつての「レコ芸」文化を受け継いだ一冊。同曲異演のなかから推薦盤を選ぶという発想そのものが「レコ芸」の文化だろう。
●世の中からCDショップが次々と減り、従来名盤とされたディスクも品切になり、中古でしか手に入らない音源ばかりになって、どうなるのかなと思っていたら、SpotifyやApple Musicが勢力を増し、本格的なストリーム配信時代が訪れた。すると、過去から現在までの膨大な数の音源が廉価ですべて聴けるようになり(聴けない音源もあるけど、それはともかく)、今のリスナーはサービス契約初月から一生かけても聴ききれないコレクションを等しく手にすることになった。となると、あまりに音源が膨大すぎるがゆえに、なにを選ぶか、ガイドが必要になる。それがプレイリストだったりするわけだけど、交響曲みたいな大曲だとまだまだ本のガイドは有用だろう。以前は限られたお金をうまく使うためにガイドに頼ったけど、今は時間をうまく使うためのガイドが必要なんだろうなと感じる。

April 15, 2024

ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル

●13日は紀尾井ホールでピョートル・アンデルシェフスキのピアノ・リサイタル。プログラムは前半にベートーヴェンの6つのバガテルop126、ショパンの3つのマズルカop59、シマノフスキの20のマズルカop50より第3、7、8、5、4曲、後半にバルトークの14のバガテル、バッハのパルティータ第1番。得意のレパートリーがずらり。すべて小曲からなるミクロコスモス的なプログラムで、舞曲的な性格の曲、民謡由来の曲などを中心としつつ、全体がひとつのバガテル集のような趣。どれも楽しんだが、圧巻は後半のバルトーク。振幅の大きな表現で、こんな曲だったのかという発見あり。バッハは快活でウィットも十分。以前の印象に比べると、奔放とまでは言わないにせよ、自由度が高くなっている気がする。
●アンコールは3曲。バッハのパルティータ第6番のサラバンド、平均律クラヴィーア曲集第2巻の前奏曲ヘ短調、バルトークの「シク地方(チーク県)の3つの民謡」。最後はしみじみした気分で終わる。
●椅子が3段重ねだった。ピアノ椅子ではダメなのだろうか。
最近リリースされたアルバムでは、ヤナーチェクの「草陰の小径」第2集、シマノフスキのマズルカ、バルトークのバガテルが組み合されている。Spotifyで聴く人はこちら

April 12, 2024

豊田市美術館 「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」展とコレクション展

豊田市美術館
一昨日に書いたように、7日は日帰りで豊田スタジアムに遠征したのだが、試合の前に豊田市美術館に足を運んだ。これは2年前の遠征時とまったく同パターンで、豊田市美術館の展覧会スケジュールと名古屋グランパスのホームゲームが重なる日程を選んだのだ。豊田スタジアムの豪勢さにも圧倒されるが、同様に豊田市美術館もぜいたくな空間で、この街の充実した文化資本に驚嘆せずにはいられない。

豊田市美術館 「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」 ガブリエル・リコ 「頭のなかでもっとも甘美な」
●で、企画展は「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」展。70年代後半から80年代前半生まれの5人のアーティストたちの作品が集められている。5人の国籍はさまざま。上の写真はメキシコのガブリエル・リコによる「頭のなかでもっとも甘美な」。手彩色によるセラミック製。メキシコ的な色彩感と土の香りにポップさが一体となった作品がいくつか。ほかにリゥ・チュアン、タウス・マハチェヴァ、田村友一郎、ヤン・ヴォーの作品。全体に映像作品多め。

豊田市美術館 コレクション展
●企画展の規模はそれほど大きくはなく、コレクション展と新収蔵品展のほうがより時間をかけて見ることになる。コレクション展の一角には、上のように肖像画が一面に集められている場所があって、ここにクリムトやシーレ、藤田嗣治、奈良美智、イケムラレイコらの作品が集中展示されている。充実したコレクションを一定の「編集」センスにもとづいて並べる。なんというか「全部盛り」感が強烈。

豊田市美術館 エゴン・シーレ 「カール・グリュンヴァルトの肖像」(部分)
●上記のなかの一枚、エゴン・シーレの「カール・グリュンヴァルトの肖像」(部分)。

豊田市美術館 庭園
●あと、庭がすごいんすよ。広々としていて、たまたま桜も満開で、ベンチもあってのんびりできる。日曜日なのにぜんぜん混んでいない。これが都内にあったら、とてもこうはいかない。快適。
●最寄り駅は豊田市駅ないし新豊田駅。駅から見ると豊田市美術館は南西、豊田スタジアムは東で、方角がぜんぜん違う。美術館からスタジアムまでは徒歩で30分ほど。歩きたくない場合は、いったん駅に寄って路線バスを使う手もある。前回はタクシーを使ってワープしたのだが(この美術館にはタクシー乗り場がある)、今回は歩いた。やはりサポ集団に交じって歩いたほうが気分はあがる。

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飯尾洋一(Yoichi Iio)

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