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 2024年03月23日(土)   philia 

「俺の夢、か? 俺は、この世界が平穏で安全な世界になることかな」

歌舞伎町タワーはLHIのお陰で既に2回足を運んでいますが、THEATER MILANO-Zaは初めて。
こじんまりとした劇場で、舞台が近く感じられて前方席なら良さそうですが、
傾斜が緩いのか、後方席だと前列に背の高い男性が座ると視野が欠けると
体感してしまって残念でした。刀ステ心伝で視野欠落は耐えられそうにない…。
PPVV3でも攻撃を受けて床に倒れ込んだ後に良い芝居があったらしいと
Xの感想ポストで見たのですが、全く視認できておらず悔しい限りです。

黒スーツにドミネーターというビジュアル嫌いな女子いないと思いますが、
グッズは一部出演者5名のランダムが多くて、購買意欲はあまり湧きませんでした。
その中でもキャストの手書き劇中台詞orキャラ宛メッセージがプリントされた
“非公認調査メモ”だけ2つ買いました。海堂の台詞と鹿取宛メッセージ。
後者は今回も執行官全滅か…と鑑賞前にネタバレ喰らった心地でテンション
下がってしまいましたけど、終わった後にはこの引きで良かったと心底思えました。

PPVV1のラストで和田琢磨さん演じる嘉納火炉と相撃ちした拡樹さん演じる九泉晴人。
暗転で終わりましたが、結果は嘉納が“処分”され、九泉は鬱病となり、
シビュラが派遣した端末カウンセラーのカウンセリングを受けたのでした。
開演時刻の数分前から、ぼんやりと煙草を吸う鬱病患者として板の上を
ウロウロする拡樹さん。あまりに解像度が高くて、流石だといきなり唸ったのでした。
(あの運動量を誇りながら拡樹さんリアルで喫煙者らしくビックリする)

人工監視官計画を諦めないシビュラは記憶を再調整して九泉を3係へ送り込みます。
3係は嘉納の指導を受けた後任監査官・海堂自我(和田雅成さんas)が
4人の執行官を明るく厳しくまとめていて、なかなかいい雰囲気です。

色相スキャナーをかいくぐる犯罪者激増の要因はシビュラ公認芸術家・イリュージオの
歌声にあると推測した結果、3係はライブ会場に突入。しかしそれは囮でした。
イリュージオ本人は別会場から配信。ある企業のチューニングによって
心の奥底を暴く力を得たイリュージオの声は、九泉と海堂の捏造記憶を剝がすのでした。

過去作の3係監視官同様、廃棄区画から実験体にピックされた海堂。
犠牲者を重ねて記憶操作が進歩したのか、エリート家庭に育った記憶は順調に根付き、
ヤンキー時代の相棒・鹿取が執行官として近くに在る『ストレッサー』として
配置されても問題なく業務をこなしていました。その振る舞いを、廃棄区画から
這い上がるために海堂が演技していると鹿取は信じていたのですが、
監視官としてではなく個人としての夢を問われても答えられない海堂に、
鹿取は過去をなかったことにしないで欲しいと嘆きます。海堂は本当に覚えがなく…。
(3係の執行官は鹿取以外、割と明確に望む未来があって、そこを目指して生きている)

一方、九泉はイリュージオの内偵時から録音音声を聴いては嘉納の幻影に苛まれ、
幾度もカウンセリング名目の記憶再調整を受けます。何度上書きしても消えない原風景。
PPVV1で母親をドミネーターで処分した記憶が植え付けられたのは判明してましたが、
まさかそれが実際の出来事をマイルドにしたものとは思わないでしょ…(苦笑)
(実は九泉はPPVV1から監理官らしからぬ粗野な振る舞いが多いという伏線)

九泉も廃棄区画育ち、病弱な母親を含め世界を守る正義の味方を夢見た少年でした。
しかしある日、仲間が臓器の材料としてピックされ、下手人だった仲間を殺した際、
仲介人は当の母親である事実をバラされました。ただ息子を無事に育てたい一心で
犯罪に手を染めていた母も、九泉は躊躇なく殺害してしまいました。情愛や本能に
ブレーキを掛けられることなく己の正義を貫いた九泉の執行力がシビュラの目を惹いたのでした。

あまりにも綺麗に捏造記憶が定着していたがため、イリュージオによって
本当の過去を明かされた海堂の壊れる勢いは凄まじいものでした。
ここでの演技が、和田さん得意の無垢なる者が狂う/壊れる有り様で、
だからキャスティングされたんだと納得でした。廃棄区画出身という矛盾に
耐えられなくなった海堂は、その事実を突きつける無二の証・鹿取に
ドミネーターをつきつけ、撃ってしまいます。鹿取もまた海堂の真実を知り、
責め立てたりはせず、攻撃を受けます。鹿取がいて本当に良かったですよ海堂は…。
演じる田村心さんは前夜、父の形見の指輪を落として夜中まで捜索していて
間違いなく寝不足だっただろうに、見事な演技でした。指輪も見つかって良かったです。

廃棄区画で過ごした真の過去と、シビュラによって与えられた偽の記憶。
二人の監査官の現在は、むしろ後者がドライバーとして動かしています。
再調整を試みるカウンセラーを撃退した二人。矛盾する2つの軸を認知しながら
監視官であり続けると“自分の夢”を語った海堂に、九泉はかつての嘉納は
正しかったと言いつつ、シビュラのジャッジに委ねると己の頭にドミネーターを当てます。
シビュラは九泉の犯罪係数をover300に更新、エリミネーターで彼は四散したのでした。
その返り血を浴びながら海堂は己が決めた夢に向かって走り出します。
本作でPPVVは完結ですが、やはり主人公は九泉であって彼の死と共に終わり、
彼に最も影響を与えた人物は壮絶な過去を持つ嘉納だった…というわけです。

ラストシーンだけ(不完全に?)作動したご自慢のギミックことドミネーターですが、
この日も大半は作動しなかったようで…観客が持つスマホやポケットwi-fiなどが
干渉するらしく、作動しない公演がかなり多いようです。開演前から係員が
何度も何度も電源を切るようアナウンスするのですが、観客の少なからずは
前述の鬱病九泉が板の上に現れてからもLINE送ったりしてましたし、
私のfitbit inspireはbluetooth対応なのに電源オフ機能が搭載されてないという…。

倒れている間に着けた血糊で顔を赤くしながら通路を駆け抜けるラストの海堂。
和田さんは観客が白い服を着ていたら汚しそうで心配になるそうです(笑)
板の上ではシビュラの脳と九泉が。九泉の脳がシビュラに格納されたかは
考察によって分かれてますが、免罪体質とまではいかないにしても、
九泉の価値判断が常軌を逸しているのは確かなので、可能性はありそうです。

アクションも板の上で回転する役者さんがいたりとハイレベルで、
入場料13kも納得の素晴らしい演目でした。色相は著しく濁りますけれども(苦笑)
和田さんの次の舞台は11月のカミシモらしいので、リピチケ買う人多いのも分かります。

残念だったのは最初に書いた視野欠けと、私が1日のどこかで届いたばかりの
ペンダントのパーツを落としてしまってリペアを依頼する羽目になったことです。


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