2023年4月文部科学省大規模学術フロンティア促進事業、ヒューマングライコームプロジェクト(HGA)が始動した。このプロジェクトでは科学目標として「拡張セントラルドグマの実像を明確にする」ことが掲げられ、その実現のために4つの施策が計画されている。その最初の一つ、セグメント1のミッションは、「ヒト糖鎖構造情報を、グライコプロテオームレベルで取得」することである。糖鎖は多様で不均一、産生する細胞、タンパク質、さらにはその部位ごとに異なり、細胞状態の変化に応じて変化する、と言われている。このセグメントでは、断片的、個別的に集積された情報からではなく、規格化された手法で系統的に収集された網羅的情報から、その実態に迫る。まずは血清・血漿糖タンパク質の全容解明に挑む。 ...and more
--2011年5月にコペンハーゲンで開催されたGlycom A/S社(現在はDSM社)主催の第1回human milk oligosaccharide, glycobiology symposiumにおいて、浦島は“The predominance of type I oligosaccharides is a feature specific to human breast milk”と題する講演を行なった。この仮説は、浦島らが解析してきた霊長目、食肉目、鯨偶蹄目、長鼻目、有袋類、単孔類のミルクオリゴ糖構造とヒトミルクオリゴ糖(HMOs)構造のプロファイルを比較・観察した結果提案されたが、当時はHMOsにおいてタイプ2型のラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)が最優先であるといくつかの論文や総説論文に記載されていて、それへの認知は十分に広がらなかった。 ...and more
糖オキサゾリンは糖質科学における重要かつ有用な化合物である。本稿では、糖オキサゾリンがどのように糖質科学の舞台に登場し、糖鎖リモデリングに用いられるようになったのか、その歴史的背景と反応のロジックを解説する。前半では、ヒドロキシ基が保護された糖オキサゾリン誘導体の合成と応用について述べる。後半では、無保護の糖オキサゾリンの化学に焦点を当てる。“水中におけるアノマー位直接活性化”という新しい考え方に基づく調製法、ならびに糖オキサゾリンを用いた酵素的グリコシル化について、キトオリゴ糖や糖タンパク質の合成を例に挙げながら紹介する。 ...and more
セルロース由来の第二世代バイオエタノールの実用化は困難である。それは、セルロースは結晶性が高く、化学反応に対して耐性が高いことが理由である。そのため、セルロースの結晶化度を下げる「前処理」と組み合わせる必要がある。しかし常温・常圧・短時間でセルロースを前処理できる溶媒がなく、セルロースの前処理に大きなエネルギーコストが掛かってしまっていた。その結果として、バイオエタノール生産と消費におけるエネルギー収支が負になっていた。 ...and more