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ジャーナリスト向けの惨事ストレスマニュアル

報道人ストレス研究会

惨事ストレスマニュアル

震災で取材や報道に関わったジャーナリストの皆様へ(災害発生1か月以内)

 被災地で取材・報道活動をされたジャーナリストの皆様には、市民の一人としてこころより感謝申し上げます。

 多くの皆様は、様々な取材報道活動をされ、おそらく十分な睡眠時間もとらずに、勤務されたかと思います。また、今回の震災では、むごい現場映像を繰り返し見ることによってストレスを感じた方も多かったと伺っております。
 私どもは、阪神・淡路大震災や雲仙普賢岳災害でのジャーナリストの方のご体験に関する調査をふまえて、ジャーナリストの方が災害現場での活動中や活動後に体験するストレスについて研究しております。
 その立場から、被災地での活動後にご留意いただきたい点がありますので、述べさせていただきます。

 悲惨な現場で活動をされたジャーナリストや悲惨な映像を繰り返し見た方に現れる心理反応について、少しご説明をさせていただきます。悲惨な現場で活動されたジャーナリストは誰でも、活動中や活動後に以下のような心身の変化を経験することがあります。

 なお、この内容は災害発生1か月以内の状態です。2か月以降の状態については、こちらをご覧ください。



a)興奮状態が続く:

 興奮状態が続き、寝付けず気持ちが落ち着かなかったという症状がよく見られます。特に「もっとこうすれば良かったのではないか」などの自分を責める気持ち、「もっと取材をしなければならないのでは」という焦燥感などが起こりやすくなります。

b)体験を思い出す:

 折に触れ、現場のことを思い出し、フラッシュバックが起こることがあります。写真や記事を見たときだけでなく、においなどでも急に思い出すことがあります。

c)思い出すことを避けようとする:

 現場で起こったことについて、人に聞かれることも、思い出すことも煩わしくなることがあります。記憶が曖昧になったり、現場に関する資料を見たくなくなることもあります。

d)周囲との摩擦:

 周囲の人に対して、普段なら感じないような不満や怒りが急に出てきたり、人間に対する信頼感が急に高まったり、逆に極度の人間不信に陥る人もいます。

e)話せなくなる:

 現場のことを話せる人が周囲にいないし、話しても分かってもらえないと思って、無理に胸にしまい込んでしまう人もいます。一人きりだという孤立感に囚われる方もいます。



 これらはいずれも「惨事ストレス」と呼ばれるストレス反応の一部です。厳しい現場で活動した方には、誰にでも普通に起こりうる状態です。ただ、こうした反応、特に上記のa~cの反応が長引いたり、重くて苦しさがとれない場合には、専門家に相談する必要があります。

 惨事ストレスを予防し、少しでも軽くするために、皆さんに心がけていただきたい点をまとめました。

1)少しでも休養をとって下さい。

 皆さんは使命感や伝えたいという強い気持ちから、睡眠も十分にとれていないのではないでしょうか。この災害報道は長期化します。現場を知る皆様が倒れたら、今後の活動に大きく影響します。長期の活動に耐えられるように、少しでも休憩や休養をとって下さい。

2)ちょっと落ち着いたら、仲間や上司と話し合ってください。

 飲み会でも結構です。お茶の会でも結構です。1週間後でも2週間後でも、現場に行った仲間や理解ある上司と話し合う機会を作って下さい。取材時や報道後に感じたストレスを、胸にしまい込まず、率直に話し合ってください。

3)親しい方とともにすごして下さい。

 家族がいらっしゃる方はご家族と、恋人やご友人がいらっしゃる方は恋人やご友人と、ともに過ごす時間をとってください。ご家族やご友人は、皆さんのことを気遣い、心配しています。その方たちと一緒に過ごし、少しでも愚痴をこぼせれば、気が休まります。また、不安を感じているご家族や恋人やご友人にとっても、安心できる場になります。


 関連する情報が下記サイトにあります。ジャーナリストを支援する国際的な組織であるダートセンター(Dart Center for Journalism and Trauma: http://dartcenter.org/ )のHPの一部です。日本語で読めるコンテンツがあります。よろしければご参照ください。

http://dartcenter.org/content/japans-triple-disaster-resources-for-journalists
http://dartcenter.org/content/トラウマとジャーナリズム


 私たちで提供できることがあれば、お申し越し下さい。できることは限られているかもしれませんが、できる限りお手伝いいたします。
 ジャーナリストの皆様が無事で、こころおききなくご活躍できることを祈っております。



よりよい取材のために

 このたびの災害で、いち早く現場に入り取材活動をおこなっているジャーナリストの皆様には、貴重な情報を広く社会に伝えていただいている事に心より感謝申し上げます。現場では、直接被災者にインタビューすることが多いと思われますが、以下に、被災者への取材をおこなう際の留意点(とくに、心理学的に重要だと思われるもの)をまとめてみました。よりよい取材を行うための参考にしていただければ幸いです。

(1)常に敬意と思いやりをもって被災者に接してください。

 自己紹介をし、時間をかけて、なぜその人に取材したいのかを説明してください。

(2)精神的に傷ついている被災者の反応はさまざまです。

 怒りをぶつけたり、混乱して話せなくなる人もいます。これは、その人の性格ではなく、異常な事態での「正常な反応」です。逆に、外からは平静に見える人でも、意識的、無意識に自分の感情を内に隠している場合があります。

(3)急かさずに相手のペースに合わせてください。

 途中で休憩を入れることも必要です。また、いつでもインタビューを中止してよいことを、前もって伝えてください。

(4)相手が泣き出しても、落ち着いて接してください。

 泣くことは自然な反応であり、その人が安心して話せることを示している場合があります。また、しばらく時間をおくと話を続けられることもあります。

(5)答えるのが難しそうな質問があれば、尋ねてよいか確認してください。

 そして、自分が多くをしゃべるのではなく、相手が十分に話をできるようにしてください。

(6)何を話すか、何を話さないかは、被災者自身が決められるようにしてください。

 提供してもらう写真を選ぶ場合も同じです。「自分で何かを決めること」は、被災者にとって、とても大切な行為です。

(7)上手な聞き手になってください。

 言葉による受け答えだけでなく、相手の話にうまく対応させて目を向けたり、うなずいたりすることが必要です。相手を受容し関心があることを示す上で、言語によらないコミュニケーションはとても大切です。

(8)「はい」や「いいえ」で答えることができる質問は避けましょう。

 単純で、しかも相手が自由に語れるような質問をしてください。ただし「いま、どのようなお気持ちですか?」は、避けたほうが賢明です。この質問は、「私はあなたの気持ちがわかっていません」ということを暗に伝えてしまいます。

(9)共感が過度にならないようにしましょう。

 話を聞く相手に共感することは人間として自然なことですが、ジャーナリストとしてのレベルを超えると、被災者のためにも、あなた自身のためにもなりません。

(10)取材をする自分自身が、神経質になったり怒りを感じたりすることがあります。

 それ自体は決して問題でも恥ずかしいことでもありませんが、こうした感情が相手の理解を妨げることのないようにしましょう。

(11)取材が特定の人に集中しないようにしてください。

 たとえ気丈に見えたとしても、精神的な負担が非常に大きいことがあります。

(12)インタビューの「終わり方」に配慮してください。

 突然または一方的に中断することは、相手を傷つけてしまいます。また、最後に自分の連絡先を伝えておきましょう。その場ではあまり話をしない人が、後日話そうとする気持ちになることがあります。取材について質問や問い合わせがあるかもしれません。


 以上の項目は、ダートセンター(ジャーナリストの取材活動をサポートする国際的な組織)が作成した「トラウマとジャーナリズム」の内容を参考にして作成されました。この他にも、私たちで提供できることがあれば、お申し越し下さい。できることは限られているかもしれませんが、できる限りお手伝いいたします。
 ジャーナリストの皆様が無事で、こころおきなくご活躍できることを祈っております。


マニュアルのダウンロード

 以上の内容を各組織にあわせて修正してお使い頂けるように、ダウンロード用のリンクを記載しております。惨事ストレスケアの1つのやり方を示していますが、配布にあたっては、元の作成者名をどこかに記載していただければ、各組織の現状にあわせて適宜修正してお使いください

ジャーナリスト向けリッチテキストファイル

よりよい取材のために(Word2007ファイル)


関連資料

トラウマとジャーナリズム:ジャーナリスト、編集者、管理職のためのガイド(Trauma & Journalism: A Guide for Journalists,Editors, & Managers.)
BBC 外傷後ストレス:訓練と支援のハンドブック抄訳(BBC Traumatic Stress A training and Support Handbook)

報道人ストレス研究会
松井豊・安藤清志・井上果子・福岡欣治・畑中美穂・高橋尚也・張綺

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