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2003/09/16 23:58:00 更新 |
RFIDに“世界標準”は必要ない?
RFIDをテーマに講演を行った東京大学の坂村健教授は、「物を認識できるRFIDは、業界を超えたバリューチェーンを可能にする技術」と有用性を説いた。と同時に、現在の電波行政に疑問を投げかけた。
「RFIDは、業界を超えたバリューチェーンを可能にする技術だ。その影響は全ての産業におよぶ」〜総務省と情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)が主催した「ワイヤレスIT産業シンポジウム」で、YRPユビキタスネットワーキング研究所長を務める東京大学の坂村健教授が講演を行った。坂村氏は、RFIDの有用性を説いたが、同時に現在の電波行政に対する疑問も投げかけている。
YRPユビキタスネットワーキング研究所長を務める東京大学の坂村健教授
RFID(Radio Frequency IDentification:電波方式認識)は、非接触ICチップを使った記憶媒体とアンテナを埋め込んだタグが読み取り器と電波で交信する仕組みだ。衣類や電化製品など、あらゆるジャンルの商品に製品情報を書き込んだタグを取り付けておくことで、商品の流通経路チェックや店舗での万引き防止、あるいはスーパーのレジで商品をカゴから取り出さずに一括精算したり、冷蔵庫内で食品の賞味期限情報を管理するなど、実にさまざまな応用が可能になる。同時に、RFID対応の冷蔵庫といったIT家電の浸透も見込めるため、全世界的に注目を集めている。
既にRFIDのチップを製造できるメーカーが複数あり、実証実験も実施している日本は、“進んでいる”国の一つだ。しかし坂村氏は「民間まかせで(RFIDを)推進してもダメだ」と指摘する。
「RFIDを社会の基盤システムとするには、インフラを研究しなければならない。チップはあっても、運用にはバックで動くサーバをはじめ、トータルなシステム構築が欠かせない」(同氏)。
一度商品に添付されたRFIDは、商品のメーカーはもちろん、流通業者、小売り業者、そして家の中の情報家電にも利用される。しかし、彼らが共通の基盤を持っていなければ、それは不可能だ。たとえば、RFIDにIDを割り振るのは誰か? インターネットのDNSにあたる仕組みが必要になる。
「まずインフラ面を研究し、業種を跨いで同じRFIDを利用できる環境を整えること。法律も変える必要もあるだろう。それには、国が深くコミットしていかなければならない」。
しかし実際には、RFIDを推進すべき立場の人たちが“勘違い”しているケースも多いという。たとえば、総務省ではRFIDに米国と同じ950MHz帯を割り当てることを検討しているが、坂村氏は「ここでグローバルスタンダードにこだわる意味はない。インターネットが広がった1990年代の“幻想”だ」と、かなり手厳しい。
たとえ日本で製造したチップを輸出することになっても、現在のアンテナ技術なら複数の周波数帯をカバーできるため、問題にはならない。一方、現在950MHz帯は3G携帯電話が利用しており、コストと時間をかけて無理に移行させる必要はないという。
消費者のプライバシー
もう一つの大きな課題が、消費者のプライバシー保護と、そのためのセキュリティ確立だ。
米国では、大手流通業者のWal-Mart StoresとGilletteが共同で実施するはずだった「スマートシェルフ」実験がプライバシー保護団体の抗議によって中止された。彼らは、小売業者が必要以上に消費者の行動を把握し、顧客データベースに載せることを懸念しているのだが、スマートシェルフ実験が中止された理由はそれだけではない。プライバシー擁護派がWal-Martのセキュリティをついて内部文書を入手し、その内容から“顧客のプライバシーは二の次”という姿勢が露呈したためだという。
日本でRFIDが普及したとき、その追跡システムが際限なく利用されたら……、消費者の家には毎日大量のダイレクトメールが届くようになるかもしれない。RFIDの利用を制限し、消費者の信用を得ることも重要だろう。
「必要なのは、消費者が安心して利用できる“保証”だ。政府が中心になって今から環境整備を進めないと、10年後、20年後に後悔することになるだろう」(坂村氏)。
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総務省
[芹澤隆徳,ITmedia]